タイトル:桃源郷奇憚マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/29 08:38

●オープニング本文


 目を通していた書類の手を止め、窓の外を見やると目下に見える公園に桜の花が咲いていた。
「花が綺麗ですねぇ〜、お花見とか楽しそうだな」
「ウォン課長、そんな事を言っていないで溜まった決済書類の処理をお願いします」
「ハイ、ハイ。判っていますよ」

(「花見に行きたい?」)
 ふと浮かんだ言葉を頭の中で反芻する。
(「面白い‥‥私がこの体に入って20年になるというのに、まだ『彼』の感覚が残っているのですね」)



 男の名をジャッキー・ウォンと言った。
 自ら「統治官」と名乗るこのバグア人は、知る人ぞ知る冷酷無比なバグア軍アジア・オセアニア地域の最高責任者である。
 地球人達に混じって歩く際には、ウォンは台湾に実在する貿易会社の営業課長と名乗っていた。
 その会社は25年程前に体の持ち主『彼』が立ち上げたベンチャー企業で、今は『彼』の娘が社長に就任しているバグアが支配する会社であった。

 バグアが会社経営? と思ってはいけない。

 地球に降り立ち地球人に混じって生活しているバグア人は数多くいるのだ。
 地球人と戦うものもいれば、スパイとしてもいる。
 ウォンは、侵攻初期からアジア・オセアニア地域の管理者として地球上にいるのであった。

 その為にありふれた外見と一般的な運動能力、広い知識を持つ経済人。妻と娘が一人、富裕層としてはありふれている環境は、ウォンを人の波に隠れさせるのに十分であると判断し、その体を乗っ取った。
 そして地球人の世界では、30代ともなれば男女ともに名目だけでも伴侶を作った方が動きやすいと知り、娘が28歳になった時、ウォンは書類を偽造して会長職に退くと同時に娘と結婚した。

 こうしてウォンは、もう一人の『ジャッキー・ウォン』という地球人を作り上げた。

 洗脳された社員達は会長と同じ顔をし同姓同名であるウォンを疑いもせず、現社長の脛を齧っている夫、お飾り課長と思い込んでいた。
 虫(地球人)が何を言おうと関係ないと思っているためなのか、この環境をウォンは大いに満足していた。

 総司令官とは名ばかりで、戦局のみならず、地球という生産工場からワームを作り出し、本星の運営費必要な資源の採掘・運搬を行い、工場の働き手としての占領地域の地球人達を管理する──工場長のようだ、と思っていた。
 司令官席に座っている限り、一分一秒をムダに出来ない激務である。

 嫌いではなかったが、時々気分転換が必要なのは何の仕事でも必要である。

 一戦士として戦場に立ち地球人殺しをする事等、とうの昔に飽きていた。
 それ故、面がUPC軍側に知られていない『ジャッキー・ウォン』という地球人の姿はとても便利であった。
 実際、暇つぶしに出社してくる無能な課長に従業員らの態度はとても冷たいが、出社し、古くなった知識を修正するのはウォンにとって好きな作業である。

 副司令官にいつもの通り「出社してくる」と言って出てきたが、ウォンの行動が常に言葉どおり「だけ」ですまない事を知っているので副司令官も黙ってウォンを送り出した。



(「──ありました。これですね」)
 ウォンは溜まった書類に目を通すフリをして、探していた記事を見つけ、細く笑む──。

 数ヶ月前から中国地方のとある山間部にあるこの会社が持つレアメタル山の産出量が減っていた。
 毎月きちんとしたレアメタル産出量がキープできなければワームの生産に響くのである。
 鉱山の責任者である地球人に問うた所、原因は判らないが周辺の村々から大量に人がいなくなった為に従業員の補充が間に合わず、産出量が大幅に減ったのだという。
(「原因が判らんだと、無能な奴め‥」)
 ウォンは新しい責任者を決めると工場内に待機しているキメラに元責任者を処分するように指示を与えた。


 基地の執務室にあるデータベースに引っかからない小さな地方記事。
 そこには、当該地域に親バグアと名乗る一団が暴れまわっている為に近隣の村人達が逃げ出している、と書かれていた。

 一番近いバグア基地は無人HWのみのはずである。
 では、誰が村を襲っているのだろう?
 支配に必要な人の心を調査し始めて20年、犯人の予想は簡単についた。
(「地球人のならず者、中国軍残党辺りか‥‥判りやすい」)


「あ、課長! 何処に行くんですか?」
「お花見です♪」
 席を立つウォンに社員が声をかける。
「書類はどうしたんですか、書類!」
「全部サインしときましたよ〜、あとは課長代理でもOKなものばかりですから♪」
 そういって会社を後にした──。

 ***

 ──ほぼ同刻、ULTに一つの依頼が掲示された。
 とある中国の地方自治体から親バグアを名乗る男達の排除依頼が舞い込んでいた。
「本物の親バグアかどうかは現在のところ不明です。なにしろ中国ですので──」
 中国というお国柄は、少々普通の地域と「親バグア」の考え方が変わっている。
 政党を支持する感覚で「親バグア」と名乗る輩が結構いるのだ。
「はっきりしているのは、彼等が近隣住民を襲い。家屋の破壊、家畜や金品強奪のみならず婦女子に対する暴行。殺人が行われているという事実です。装備から中国軍の離反者達が中心と思われます」
 オペレーターは依頼者及び目撃情報から敵の大まかな装備と人数を能力者(あなた)達に提示していく。


 人数:20〜30代 男25人・女4人、10代 男18人・女7人、40代 男7人 内元中国軍兵士17人
 リーダー:チョウ・ヘサン(42歳)元中国陸軍戦車隊少尉
 武器:ナイフ・サバイバルナイフ 数不明、
    蛮刀7、ピストル35、自動小銃20、軽MAT2、軽機関砲1
    戦車1、トラック2、オートバイ14(内オフロード7)

 古い小学校跡地を利用したアジトはすでに判明している。

「軽MATと機関砲、戦車は厄介だな」
 幾ら能力者といえども直撃を食らえば無事ではすまない。
「戦車はナイフでぶった切れるかな?」
「未強化では、流石に難しいですね」
「KVは無理なの?」
「地盤が弱いのと直線道路がありませんので。AU−KVは使えますが、KVは無理です」
「連中は殺していいの?」
「『逮捕』がベストですが、人数が多いです。抵抗状況によっては『全員殺害の許可』が出ています。実際、能力者はいないようですが、強化人間やバグア人が混じっている可能性がありますので、くれぐれも注意してください」

 ***

 ならず者達のアジト近くにやってきたウォンは、まず背格好の似た地球人を一人殺して服を奪った。
 血がつかぬよう服を脱がせた後、地球人だったものをバスケットボールほどの大きさの塊に変えると力任せに峰に向かって投げた。

 ふと良い香りがして辺りを見回す。
「ここの辺りは、まだ桃ですか──しかし、山一面の桃の花というのは見事というか綺麗ですね」
 こういう山間の風景をきっと桃源郷というのだろう、とウォンは思った。

「さて、真の親バグアに相応しいか、見てさしあげましょう」
 そう言うとならず者達のアジトに向かって歩いて行った。

●参加者一覧

ヴァイオン(ga4174
13歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
M2(ga8024
20歳・♂・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
朧・陽明(gb7292
10歳・♀・FC
アローン(gc0432
16歳・♂・HG
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD

●リプレイ本文


「しかし、61人か‥‥多いな」
 うっかりすれば何人かに逃げられる可能性は捨て切れなかったが、その問題点をクリアできれば任務自体はそれ程難しくはない。
「戦車は張り付いてしまえば攻撃できませんしね」というレールズ(ga5293)に、
「そうですね。大型重火器も接近してしまえば無力化します」
 戦車を始めとする車両の早期無力化が必要だろう、とセレスタ・レネンティア(gb1731)が同意する。
「敵の主力は、元軍人らです。残りは同調した一般人と考えれば、リーダーのチョウを確保、若しくは排除する事により抵抗はなくなると思います」
 攻撃対象に優先順位を付ける事で効率化を図る計画である。

「しかし『抵抗したら殺してしまっても良い』って、確かにその通りなんですけど‥‥ねぇ?」と苦笑いをするヴァイオン(ga4174)。
「生け捕りにするには、急所を外す、スキルを発動させない‥‥未改造武器を使用する」
 その位でしょうか? とセレスタ。
「‥‥まあ手足殴ってる分には、命に別状はないだろう、うん」とM2(ga8024)。
「ですが、こちらが効率化を図ってもまだまだ数の絶対的劣勢は変わりません。余裕が無ければ逃がしてしまう前に完全排除も必要でしょう」
 未来への禍根は残さぬようにしたいが、無理な場合は殺すしかないのは仕方がない選択だろう。だからといって敵を殺さずに済ませられるのであれば済ましたいところである。

「それならば私が行こう」とUNKNOWN(ga4276)が言う。
 隠密潜行を持つUNKNOWNならば敵に気がつかれる事になく接近できる。
「じゃあ、俺が時限爆弾を作るよ」
 弾頭矢とキッチンタイマーを利用した簡単な時限装置である。
 あっという間に十数個の爆弾の出来上がりである。
「設置後何分で爆発させるかは、タイマーで好きな時間に設定してね☆」
 直接練力を流し込むのではないので、それで破壊に必要な火力が得られる保証はなかったが、発火装置として陽動に使うのには十分だろう。

 ***

「しかし『親バグア派』ねぇ‥‥バグアがどんなものか、本当に判っててやっているのかなぁ?」とM2が言う。
「親バグアって言ってれば、何しても良いと思ってるのか連中は」
 ジャック・ジェリア(gc0672)にとってキメラでもワームでもない対人戦闘は初であった。それもどうやら敵の多くは強化人間やヨリシロではなく一般人のようである。
 だが、親バグアと名乗っている集団がやっている行為は、思想もへったくれもない犯罪者集団(バグア)にしか見えなかった。
 バグアといえば子供でも知っている人類の敵である。
 何を好んで名乗っているのか、不思議でしょうがない。
 首謀者を捕まえればきっと何か判るだろうと、セレスタは、肩をすくめた。



 敵のアジトである学校跡地から直接見えないよう高速艇が山一つ向こうにあるダムの側に降下した。
「初依頼、陽明頑張るのじゃ♪」
 高速艇を飛び降りた朧・陽明(gb7292)が、楽しそうに言う。
「さて、散歩してくる、か」
 散歩、と言われ回りを見回せば山一面がピンク色に染まっている。
「いー景色だねぇ、なんとも、あの花なんだっけ?」
 まぁなんでもいいか、とアローン(gc0432)。
「花見にいい季節かな?」
「花を楽しみつつ、楽しく仕事しようじゃねーの」


「目標の建造物を発見しました‥」
 セレスタの言葉にトラップに注意しながら進む一同に更なる緊張が走る。
 学校は山の中腹に、崖を背にあった。
「さて、どこからお邪魔する、かな?」
 地図と双眼鏡を片手に学校へのルートを探すUNKNOWN。

「では出掛けてこよう。30分後に、な」
 煙草をもみ消し、ふらりと目の前にいたUNKNOWNの気配が隠密潜行で薄れていく。

 物陰から校庭に忍び込んだUNKNOWNが、戦車の前に立つ歩兵の目を盗み、時限爆弾をトラックと戦車に仕掛けていく。

 ***

「そろそろですね‥‥」とセレスタが時計を見る。
 無線で互いの位置を確認しながらソロソロと校舎へと進む。


 キッチンタイマーが00分00秒を示す──‥‥‥ピッ(パチッ)! ドォオオォーン!


 校庭に置かれた車両が、轟音と共に次々と火に包まれた。

「まあ、さっくりと行きましょうか」
 ヴァイオンの言葉に座禅をしていた陽明が静かに目を開く。
 先程までの「ドキドキするのじゃ」と高揚していた陽明だったが、今は静かな殺気を纏い別人のようである。

「爆破成功を確認‥こちらも突入します」
 セレスタの言葉にレールズが頷く。
「俺は後ろ目に立つんで、前はヨロシク」
「はいよ」
 ゴォゴォと大きな音を立て火柱が上がるのを確認すると待機していた突入班が攻撃を開始する。


 ***

「て、敵襲?!」
 予想外の爆発に敵のアジトは蜂の巣を突っついたような騒ぎである。
 そこにジャックがガトリングガンで制圧射撃を加えた為に敵歩哨は何処から弾が飛んでくるのか判らずパニックに陥っていた。
「派手だねぇ」と呑気に言っているアローンに「おい、いくぞ」とジャックが言う。
「はい、はい、戦車ってね♪」

 元々、烏合の衆である。
 銃を持ち飛び出したものもいれば、無事なバイクに飛び乗り逃げようとするものもいた。
 UNKNOWNがエネルギーガンでタイヤを狙い、セレスタがクルメタルP−38で援護する。バイクから投げ出された男を捕まえ素早く縄で縛り上げた。
 まず1人確保である。

 物陰を利用し、近づくレールズ。
 心配した(戦車に備えられている)機関銃は、UNKNOWNが仕掛けたズブロフが功を奏し、炎に包まれている為に敵兵も容易に近づけないでいた。
「水をもってこい! いや、消火器だ!」
 ジャックの援護射撃で一気に接近を試みるレールズ。
 狙いは戦車の破壊である。
「敵は能力者とは言えども少数だ! ひるむなっ!!」
 騒ぎを聞きつけたリーダーのチョウが指揮を取る為に駐車場にやってきた事により、敵の動きが一気に纏まっていく。
 敵兵達がレールズに向かって一斉射撃を始めた。
 一般兵向けのピストルと言えども当たれば、それなりに痛い。自動小銃となれば更に痛いし、まともに食らえば怪我をする。集中砲火を食らえば、流石のレールズも動きが鈍る。
「私が、指揮官を直接狙います」
 セレスタがチョウを狙って迂回する。

「俺達も戦車に向かおう」
 レールズが敵を引き付けている間に駐車場を大きく回り込んだジャックとアローンが戦車に張り付いた。
 丁度、戦車の消火が終わり、操縦士らが乗り込もうとしているところであった。
 アローンが投げた閃光手榴弾が至近で炸裂し、ひるんだ所を殴りつけた。
「これいーよねぇ? どうやって動かすか聞かせてくれよ?」
 バロックを押し付け、にっこりと笑う。
「誰が、お前らに!」
「あ、そう」
 太腿に向かって一発放つ。
「あーあ、こえー顔でくるから手元が狂っちまったよ」と悪びれた様子もない。
「全く‥‥」
 軽MATが持ち出してきた敵兵が、奪われるぐらいなら、と戦車にポイントするのが見えた。
 ジャックのガトリングが大地を切り裂く。
 アローンが尽かさず兵士に一撃を食らわす。

 ハッチから中を覗き込んだアローンが顔をしかめる。
 最新式で3人乗りなのはいいが、動かす為のボタンがやたらと多い。
「走らせるのは出来そうだけど、撃つのは難しいかなぁ?」
「戦車は諦めよう。軽MATや機関砲が出てきたら鉄の棺桶代わりにしかならないからな」
 貫通弾を装填し、戦車を蜂の巣にする。
「‥‥やっちったー、まぁなんとかなっだろ、うん」

 ***

 GoodLuckを発動したM2が、隙を突いて敵の腕をブレイクロッドで打つ。
 くるりと手首を返し、そのまま脇を叩く。
 ボキリ──骨の折れるイヤな音がした。
(「あちゃ‥‥一般人だよ」)
 悲鳴を上げる男に当身を食らわせ昏倒させる。
「これでも力を抜いたんだよ‥‥ごめんね」
 なるべく丁寧に男の体を地面に横たえる。
(「誰が強化人間か判るといいのに‥‥」)
 オペレーターからは強化人間がいるかもしれない可能性を指摘されている以上、少なくとも最初の一打は多少手加減を加えても、そこそこの力を入れる必要がある。
(「ペイント弾の方がよかったかなぁ」)
 ペイント弾であれば一般人に多少当たったところで打撲になる程度である。
『私は強化人間です』と判りやすい札を貼って欲しいと思うM2だった。

 校内に裏から侵入したヴァイオンを見つけ、男が小銃を乱射する。
「ちっ!」
 ヴァイオンが投げた苦無が銃を構えた男の腕に突き刺さる。 
 悲鳴を上げる男。
 ゲイルナイフの柄で銃を叩き落し、そのまま肋骨に一撃を食らわす。
 肋骨を折られ、痛みにのたうち回る男には、すでに戦意はないが仲間を呼ばれては困る為、先程倉庫で見つけた縄で縛り上げ、猿轡を噛ませておく。
「さて──次の敵は何処かな?」

 自動小銃を持った女が気配を感じ振り返ると見慣れぬ小さな少女(陽明)がいた。
「あんた、何処から入ったの?」
 無防備に近づく少女に危ないから逃げろ、と言う。
「馬鹿やろう、そいつは敵(能力者)だ!」
 女の仲間が叫び、銃を乱射する。
「味方に当たるとか考えんのか?」
 懐に隠していた鉄扇を盾に、一気に男に詰め寄る。
 腕を弾き、一瞬体勢が崩れたところに足払いをする。
 倒れた所に盾扇を叩き込む。
 かなり手加減をし、盾扇を振るったつもりでいたが潰れた脛を見て思わず顔をしかめる陽明。
「むむっ‥‥盾扇でこれか」
 これならば素手で戦ったほうが重量がない分、怪我も軽く済むだろう。
(「電光・雷神は出る幕がないかもしれんの‥‥」)
 改めて能力者の使う武器、防具が対キメラ・バグア用のものなのだと心に留め、陽明は女を振り返る。
「さて、そなたはどうする?」

 ***

 2階に上がったM2は、ヴァイオンと遭遇する。
「強化人間と遭遇しましたか?」
「今の所、まだです」
 向かってくる敵は一般人だけです、と答える。
 人の気配を感じ、二人は顔を見合わせる。

 タイミングを合わせて、ドアを蹴破った。

 ──バタン!
「「動くな!」」
 教室に飛び込んできたヴァイオンとM2に、中にいた男は呑気な声で、
「やあ、貴方は軍の人ですか?」と言った。

 隙を見せぬよう気をつけながら言葉を捜すヴァイオン。
「僕らはULTの傭兵です」
 ああ、成る程。ポンと手を打つ男。
「噂に聞く傭兵さんですか、成る程。道理で軍人にしては若いなぁと」

(「服装から言えば捕虜、或いは変装した敵兵‥‥?」)

「大変な事になったなぁ。と、思っていた所に貴方がいらしたので私はラッキーですね♪」
 味方が来たと言う開放感から饒舌になっているのであろうか?
 人懐っこい笑顔を浮かべ、放って置けば永遠に喋り続けていそうな勢いである。

 リストの元軍人らと目の前の男に共通点はない。
 だからといって親バグアの仲間というには、何か違和感があった。

(「花見にでも来て捕まったのかな、気の毒に‥‥」)
 そう思うM2に対し、警戒するヴァイオン。
 敵の一味だとしても敵対の意思はないようであるが──。
「貴方が捕虜、親バグアに関わらず『保護』を希望されるのであれば同行願います」
「あんたの事は俺達が守るよ」
 二人の言葉に頷く男の正体がいずれにしても保護を希望している以上、一度ベースに連れて帰るしかない。
 民間人を保護したと無線連絡をいれ、ヴァイオンが先頭を歩き、保護した男、M2が続く。
 ──ゾクリ‥‥
(「‥‥‥‥‥何だろう、今の悪寒」)

 ***

「投降しなさい! これ以上の抵抗は無意味です」
 セレスタがチョウに向かって叫ぶ。
「ここいらが潮時か‥‥」
 チョウが残骸と化した戦車を見ながらニヤリと笑う。
 普通であれば我が子に匹敵する戦車の無残な姿に半狂乱になっても良いのだろうがチョウが部下達に命じたのは一言だけだった。
「攻撃終了! 総員、整列っ!」
「投降するんですか?」
「勿論だ。貴様らも十分楽しんだろう?」
「チョウ少尉、あんたが言った軍上層部に対す──」
「バカか、お前は? そんな方便を信じたのか?」
 チョウは、掴みかかろうとした兵を平然と撃ち殺すと、弾倉を抜く。
「確かに軍に対する意見は色々あるさ。人手・兵力不足とはいえ、民間人(傭兵)にバグア退治を頼らなくっちゃいけないんだからな」
 軍人・従軍経験者が46人。戦車があってもエミタがないというだけで僅か8名の傭兵にやられる。と鼻でせせら笑った。

 チョウらの投降を見て、一般人らも抵抗を止め、投降を申し出る。
「作戦終了、発見した民間人を保護しましょう」

 ***

 連行されていくチョウら元中国軍兵士達を見ながら、レールズが言った。
「捕まえても、脱走及び反抗なんですから銃殺刑でしょうがね‥‥」
「親バグアと名乗っても、よほどの才能でもなきゃ得られる物どころか制圧対象だろうに、何を勘違いしたんだか」

 通りかかったチョウに尋ねる。
「貴方は何の為にこの事件を起こしたのですか」
「話したところで『守られている』お前らには永遠に理解できないだろうよ」
 チョウは傭兵達をあざ笑うように見つめるとトラックに乗り込んでいった。

 一方、ヴァイオンとM2が保護したと言う民間人も校庭に連れてこられていた。
「何でこんな所に。近くの村から引っ張ってこられたのか? それとも重要人物か?」
 重要人物であればチョウらを護送する為にやってきた警察から説明があるはずだが、簡単な取調べを受けただけのようである。それによれば、どうやら30kmほど離れた鉱山で働いている男だと言う。
「必要なら家まで送るよう手配するが?」というジャックに「こんなにいい天気です。お花見をし乍ら帰ります」と答えた。

「なんだか大層呑気な人じゃの」
 手を振って見送る陽明とM2に対してヴァイオンだけが浮かない顔をしていた。
 長年の勘が、危険だとアラートを発しているヴァイオンの掌、冷たい汗が滲んでいた──

 こうして親バグア派を名乗る犯罪者集団は、この地方から無事掃討された。

 尚、簡易時限爆弾作成に使用した弾頭矢については中国より両氏に功労を認め、現物返還されたのであった。