●リプレイ本文
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「しかし、61人か‥‥多いな」
うっかりすれば何人かに逃げられる可能性は捨て切れなかったが、その問題点をクリアできれば任務自体はそれ程難しくはない。
「戦車は張り付いてしまえば攻撃できませんしね」というレールズ(
ga5293)に、
「そうですね。大型重火器も接近してしまえば無力化します」
戦車を始めとする車両の早期無力化が必要だろう、とセレスタ・レネンティア(
gb1731)が同意する。
「敵の主力は、元軍人らです。残りは同調した一般人と考えれば、リーダーのチョウを確保、若しくは排除する事により抵抗はなくなると思います」
攻撃対象に優先順位を付ける事で効率化を図る計画である。
「しかし『抵抗したら殺してしまっても良い』って、確かにその通りなんですけど‥‥ねぇ?」と苦笑いをするヴァイオン(
ga4174)。
「生け捕りにするには、急所を外す、スキルを発動させない‥‥未改造武器を使用する」
その位でしょうか? とセレスタ。
「‥‥まあ手足殴ってる分には、命に別状はないだろう、うん」とM2(
ga8024)。
「ですが、こちらが効率化を図ってもまだまだ数の絶対的劣勢は変わりません。余裕が無ければ逃がしてしまう前に完全排除も必要でしょう」
未来への禍根は残さぬようにしたいが、無理な場合は殺すしかないのは仕方がない選択だろう。だからといって敵を殺さずに済ませられるのであれば済ましたいところである。
「それならば私が行こう」とUNKNOWN(
ga4276)が言う。
隠密潜行を持つUNKNOWNならば敵に気がつかれる事になく接近できる。
「じゃあ、俺が時限爆弾を作るよ」
弾頭矢とキッチンタイマーを利用した簡単な時限装置である。
あっという間に十数個の爆弾の出来上がりである。
「設置後何分で爆発させるかは、タイマーで好きな時間に設定してね☆」
直接練力を流し込むのではないので、それで破壊に必要な火力が得られる保証はなかったが、発火装置として陽動に使うのには十分だろう。
***
「しかし『親バグア派』ねぇ‥‥バグアがどんなものか、本当に判っててやっているのかなぁ?」とM2が言う。
「親バグアって言ってれば、何しても良いと思ってるのか連中は」
ジャック・ジェリア(
gc0672)にとってキメラでもワームでもない対人戦闘は初であった。それもどうやら敵の多くは強化人間やヨリシロではなく一般人のようである。
だが、親バグアと名乗っている集団がやっている行為は、思想もへったくれもない犯罪者集団(バグア)にしか見えなかった。
バグアといえば子供でも知っている人類の敵である。
何を好んで名乗っているのか、不思議でしょうがない。
首謀者を捕まえればきっと何か判るだろうと、セレスタは、肩をすくめた。
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敵のアジトである学校跡地から直接見えないよう高速艇が山一つ向こうにあるダムの側に降下した。
「初依頼、陽明頑張るのじゃ♪」
高速艇を飛び降りた朧・陽明(
gb7292)が、楽しそうに言う。
「さて、散歩してくる、か」
散歩、と言われ回りを見回せば山一面がピンク色に染まっている。
「いー景色だねぇ、なんとも、あの花なんだっけ?」
まぁなんでもいいか、とアローン(
gc0432)。
「花見にいい季節かな?」
「花を楽しみつつ、楽しく仕事しようじゃねーの」
「目標の建造物を発見しました‥」
セレスタの言葉にトラップに注意しながら進む一同に更なる緊張が走る。
学校は山の中腹に、崖を背にあった。
「さて、どこからお邪魔する、かな?」
地図と双眼鏡を片手に学校へのルートを探すUNKNOWN。
「では出掛けてこよう。30分後に、な」
煙草をもみ消し、ふらりと目の前にいたUNKNOWNの気配が隠密潜行で薄れていく。
物陰から校庭に忍び込んだUNKNOWNが、戦車の前に立つ歩兵の目を盗み、時限爆弾をトラックと戦車に仕掛けていく。
***
「そろそろですね‥‥」とセレスタが時計を見る。
無線で互いの位置を確認しながらソロソロと校舎へと進む。
キッチンタイマーが00分00秒を示す──‥‥‥ピッ(パチッ)! ドォオオォーン!
校庭に置かれた車両が、轟音と共に次々と火に包まれた。
「まあ、さっくりと行きましょうか」
ヴァイオンの言葉に座禅をしていた陽明が静かに目を開く。
先程までの「ドキドキするのじゃ」と高揚していた陽明だったが、今は静かな殺気を纏い別人のようである。
「爆破成功を確認‥こちらも突入します」
セレスタの言葉にレールズが頷く。
「俺は後ろ目に立つんで、前はヨロシク」
「はいよ」
ゴォゴォと大きな音を立て火柱が上がるのを確認すると待機していた突入班が攻撃を開始する。
***
「て、敵襲?!」
予想外の爆発に敵のアジトは蜂の巣を突っついたような騒ぎである。
そこにジャックがガトリングガンで制圧射撃を加えた為に敵歩哨は何処から弾が飛んでくるのか判らずパニックに陥っていた。
「派手だねぇ」と呑気に言っているアローンに「おい、いくぞ」とジャックが言う。
「はい、はい、戦車ってね♪」
元々、烏合の衆である。
銃を持ち飛び出したものもいれば、無事なバイクに飛び乗り逃げようとするものもいた。
UNKNOWNがエネルギーガンでタイヤを狙い、セレスタがクルメタルP−38で援護する。バイクから投げ出された男を捕まえ素早く縄で縛り上げた。
まず1人確保である。
物陰を利用し、近づくレールズ。
心配した(戦車に備えられている)機関銃は、UNKNOWNが仕掛けたズブロフが功を奏し、炎に包まれている為に敵兵も容易に近づけないでいた。
「水をもってこい! いや、消火器だ!」
ジャックの援護射撃で一気に接近を試みるレールズ。
狙いは戦車の破壊である。
「敵は能力者とは言えども少数だ! ひるむなっ!!」
騒ぎを聞きつけたリーダーのチョウが指揮を取る為に駐車場にやってきた事により、敵の動きが一気に纏まっていく。
敵兵達がレールズに向かって一斉射撃を始めた。
一般兵向けのピストルと言えども当たれば、それなりに痛い。自動小銃となれば更に痛いし、まともに食らえば怪我をする。集中砲火を食らえば、流石のレールズも動きが鈍る。
「私が、指揮官を直接狙います」
セレスタがチョウを狙って迂回する。
「俺達も戦車に向かおう」
レールズが敵を引き付けている間に駐車場を大きく回り込んだジャックとアローンが戦車に張り付いた。
丁度、戦車の消火が終わり、操縦士らが乗り込もうとしているところであった。
アローンが投げた閃光手榴弾が至近で炸裂し、ひるんだ所を殴りつけた。
「これいーよねぇ? どうやって動かすか聞かせてくれよ?」
バロックを押し付け、にっこりと笑う。
「誰が、お前らに!」
「あ、そう」
太腿に向かって一発放つ。
「あーあ、こえー顔でくるから手元が狂っちまったよ」と悪びれた様子もない。
「全く‥‥」
軽MATが持ち出してきた敵兵が、奪われるぐらいなら、と戦車にポイントするのが見えた。
ジャックのガトリングが大地を切り裂く。
アローンが尽かさず兵士に一撃を食らわす。
ハッチから中を覗き込んだアローンが顔をしかめる。
最新式で3人乗りなのはいいが、動かす為のボタンがやたらと多い。
「走らせるのは出来そうだけど、撃つのは難しいかなぁ?」
「戦車は諦めよう。軽MATや機関砲が出てきたら鉄の棺桶代わりにしかならないからな」
貫通弾を装填し、戦車を蜂の巣にする。
「‥‥やっちったー、まぁなんとかなっだろ、うん」
***
GoodLuckを発動したM2が、隙を突いて敵の腕をブレイクロッドで打つ。
くるりと手首を返し、そのまま脇を叩く。
ボキリ──骨の折れるイヤな音がした。
(「あちゃ‥‥一般人だよ」)
悲鳴を上げる男に当身を食らわせ昏倒させる。
「これでも力を抜いたんだよ‥‥ごめんね」
なるべく丁寧に男の体を地面に横たえる。
(「誰が強化人間か判るといいのに‥‥」)
オペレーターからは強化人間がいるかもしれない可能性を指摘されている以上、少なくとも最初の一打は多少手加減を加えても、そこそこの力を入れる必要がある。
(「ペイント弾の方がよかったかなぁ」)
ペイント弾であれば一般人に多少当たったところで打撲になる程度である。
『私は強化人間です』と判りやすい札を貼って欲しいと思うM2だった。
校内に裏から侵入したヴァイオンを見つけ、男が小銃を乱射する。
「ちっ!」
ヴァイオンが投げた苦無が銃を構えた男の腕に突き刺さる。
悲鳴を上げる男。
ゲイルナイフの柄で銃を叩き落し、そのまま肋骨に一撃を食らわす。
肋骨を折られ、痛みにのたうち回る男には、すでに戦意はないが仲間を呼ばれては困る為、先程倉庫で見つけた縄で縛り上げ、猿轡を噛ませておく。
「さて──次の敵は何処かな?」
自動小銃を持った女が気配を感じ振り返ると見慣れぬ小さな少女(陽明)がいた。
「あんた、何処から入ったの?」
無防備に近づく少女に危ないから逃げろ、と言う。
「馬鹿やろう、そいつは敵(能力者)だ!」
女の仲間が叫び、銃を乱射する。
「味方に当たるとか考えんのか?」
懐に隠していた鉄扇を盾に、一気に男に詰め寄る。
腕を弾き、一瞬体勢が崩れたところに足払いをする。
倒れた所に盾扇を叩き込む。
かなり手加減をし、盾扇を振るったつもりでいたが潰れた脛を見て思わず顔をしかめる陽明。
「むむっ‥‥盾扇でこれか」
これならば素手で戦ったほうが重量がない分、怪我も軽く済むだろう。
(「電光・雷神は出る幕がないかもしれんの‥‥」)
改めて能力者の使う武器、防具が対キメラ・バグア用のものなのだと心に留め、陽明は女を振り返る。
「さて、そなたはどうする?」
***
2階に上がったM2は、ヴァイオンと遭遇する。
「強化人間と遭遇しましたか?」
「今の所、まだです」
向かってくる敵は一般人だけです、と答える。
人の気配を感じ、二人は顔を見合わせる。
タイミングを合わせて、ドアを蹴破った。
──バタン!
「「動くな!」」
教室に飛び込んできたヴァイオンとM2に、中にいた男は呑気な声で、
「やあ、貴方は軍の人ですか?」と言った。
隙を見せぬよう気をつけながら言葉を捜すヴァイオン。
「僕らはULTの傭兵です」
ああ、成る程。ポンと手を打つ男。
「噂に聞く傭兵さんですか、成る程。道理で軍人にしては若いなぁと」
(「服装から言えば捕虜、或いは変装した敵兵‥‥?」)
「大変な事になったなぁ。と、思っていた所に貴方がいらしたので私はラッキーですね♪」
味方が来たと言う開放感から饒舌になっているのであろうか?
人懐っこい笑顔を浮かべ、放って置けば永遠に喋り続けていそうな勢いである。
リストの元軍人らと目の前の男に共通点はない。
だからといって親バグアの仲間というには、何か違和感があった。
(「花見にでも来て捕まったのかな、気の毒に‥‥」)
そう思うM2に対し、警戒するヴァイオン。
敵の一味だとしても敵対の意思はないようであるが──。
「貴方が捕虜、親バグアに関わらず『保護』を希望されるのであれば同行願います」
「あんたの事は俺達が守るよ」
二人の言葉に頷く男の正体がいずれにしても保護を希望している以上、一度ベースに連れて帰るしかない。
民間人を保護したと無線連絡をいれ、ヴァイオンが先頭を歩き、保護した男、M2が続く。
──ゾクリ‥‥
(「‥‥‥‥‥何だろう、今の悪寒」)
***
「投降しなさい! これ以上の抵抗は無意味です」
セレスタがチョウに向かって叫ぶ。
「ここいらが潮時か‥‥」
チョウが残骸と化した戦車を見ながらニヤリと笑う。
普通であれば我が子に匹敵する戦車の無残な姿に半狂乱になっても良いのだろうがチョウが部下達に命じたのは一言だけだった。
「攻撃終了! 総員、整列っ!」
「投降するんですか?」
「勿論だ。貴様らも十分楽しんだろう?」
「チョウ少尉、あんたが言った軍上層部に対す──」
「バカか、お前は? そんな方便を信じたのか?」
チョウは、掴みかかろうとした兵を平然と撃ち殺すと、弾倉を抜く。
「確かに軍に対する意見は色々あるさ。人手・兵力不足とはいえ、民間人(傭兵)にバグア退治を頼らなくっちゃいけないんだからな」
軍人・従軍経験者が46人。戦車があってもエミタがないというだけで僅か8名の傭兵にやられる。と鼻でせせら笑った。
チョウらの投降を見て、一般人らも抵抗を止め、投降を申し出る。
「作戦終了、発見した民間人を保護しましょう」
***
連行されていくチョウら元中国軍兵士達を見ながら、レールズが言った。
「捕まえても、脱走及び反抗なんですから銃殺刑でしょうがね‥‥」
「親バグアと名乗っても、よほどの才能でもなきゃ得られる物どころか制圧対象だろうに、何を勘違いしたんだか」
通りかかったチョウに尋ねる。
「貴方は何の為にこの事件を起こしたのですか」
「話したところで『守られている』お前らには永遠に理解できないだろうよ」
チョウは傭兵達をあざ笑うように見つめるとトラックに乗り込んでいった。
一方、ヴァイオンとM2が保護したと言う民間人も校庭に連れてこられていた。
「何でこんな所に。近くの村から引っ張ってこられたのか? それとも重要人物か?」
重要人物であればチョウらを護送する為にやってきた警察から説明があるはずだが、簡単な取調べを受けただけのようである。それによれば、どうやら30kmほど離れた鉱山で働いている男だと言う。
「必要なら家まで送るよう手配するが?」というジャックに「こんなにいい天気です。お花見をし乍ら帰ります」と答えた。
「なんだか大層呑気な人じゃの」
手を振って見送る陽明とM2に対してヴァイオンだけが浮かない顔をしていた。
長年の勘が、危険だとアラートを発しているヴァイオンの掌、冷たい汗が滲んでいた──
こうして親バグア派を名乗る犯罪者集団は、この地方から無事掃討された。
尚、簡易時限爆弾作成に使用した弾頭矢については中国より両氏に功労を認め、現物返還されたのであった。