●リプレイ本文
●カラオケは心の友?
「ユリアさん久しぶり。元気無いみたいだけど、大丈夫?」
「忌咲さん‥‥お久し‥ぶりです。‥‥ユリアは‥大丈夫‥‥です」
忌咲(
ga3867) の言葉に頷くユリア・ブライアント(gz0180)。
(「おもいっきり暗い‥‥大丈夫じゃなさそうですね」)
たまには外国での花見を楽しかろうと参加した鳴神 伊織(
ga0421) は、今日の主賓(?)ユリアの判りやすい程の落ち込み具合を観察し「何があったのだろう?」と疑問に思った。
少なくとも「アジアン・エイド・チャリティ・カウントダウン・コンサート」という長ったらしい一昨年の年末に行われたチャリティコンサート会場に仕掛けられた爆弾を排除する際にあった時よりも幾分具合が悪いようにも見える。
「うーん? 暗いぞー。私がユリアさんに最後に会ったのは‥‥去年泳ぎに行った時だね。あの時は元気だったけど、今は元気じゃないよ」
もにゅ〜ぅ、とユリアの両頬を引っ張る。
年齢不詳の忌咲だが、ユリアよりお姉さんらしいので容赦がない。
「栗鼠とかは冬眠したまま、衰弱死したりするんだよ。だから、そろそろ起きよう?」
確かに冬は外に出たくないけど、もう春だ。と忌咲が言う。
──一方、ユリアが激しく落ち込んでいる理由を知っている冴城 アスカ(
gb4188)と天原大地(
gb5927)。
ユリアを助ける所か激しく傷つけてしまった。と、心中穏やかではない。
「ユリアちゃんひさしぶり〜♪ 私のこと憶えてる?」と元気にハグをするアスカだが、自分の怪我を押しての参加である。
それに対して、大地はどう声をかけたらいいのか悩んでいた。
親バグア派閥の逮捕騒動以降激しく寝込んでしまったらしいという噂を聞いてやってきたのだが、ユリアに謝るべきなのか? それとも「キースは、必ず連れ戻す」と力づけるべきなのか?
「アスカさん‥大地さん‥‥あの時は‥ありがとうございます‥‥ユリアの‥我が儘で‥‥アスカさんと‥大地さんに‥‥‥怪我を‥ユリアは‥‥」
そう言うユリアの目からポロリと大粒の涙が零れる。
「おいおい‥いきなり泣くなよ」
熱いハートの持ち主である大地にとって女の子に泣かれる事は只でさえ大の苦手である。
「アスカさんも俺も自分の意思で行動し、戦った。だからユリアのせいじゃない」
泣くな──と、小さい子供をあやすようにユリアの頭をワシャワシャと撫でる大地。
(「大事なコを苦しめ続けて──キースの奴は、何やってんだよ‥‥」)
「天原さん、それセクハラだよ」
忌咲が大地に突っ込む──。
「く‥‥女4に対して男1、な俺。立場が弱いぞっ」
場違い? と心配する大地。
「立場が弱いならば、強くなる為、存分に役に立つがいい」
ドサドサと大きな風呂敷包みを持たせる忌咲。
「なんだ、これ? ずいぶん重いな」
「お花見グッズだよ」と忌咲が言う。
「折角の花見だし、花見の菓子といえば桜餅」
好き嫌いの激しいユリアが食べてくれる判らなかったが、他の人もいるので沢山買って持ってきたのだと言う。
「私は、花より団子よりお酒だから」
当然、お酒だと言う。
「あと、場を盛り上がるにはカラオケが一番」
どうやらハンディカラオケも入っているらしい。
***
茣蓙が引かれ、菓子と酒瓶、アスカが持ってきた料理が並べられる。
酒の飲めぬ伊織の為に屋台で買ったお茶が置かれた。
「ハンディカラオケの欠点。それは曲の少なさ」
だからといって大きなカラオケセットは公園に持ち込む事は不可能である。
私は宴会の場を盛り上げるかくし芸とかできないからと言って、ポチっと再生ボタンを押す忌咲。
流れ出るメロディは──
「思いっきり昭和な演歌だぞ」
タリ‥‥っと怪しい汗を流す大地。
「有名な演歌ぐらいしか入っていないけど」
遠慮なく歌うと良いと言う忌咲。
「ユリアも歌うんだよ」
「ユリアは‥‥歌は‥余り得意じゃ‥‥」
カラオケとかあんまり好きじゃ無さそうなイメージがあるユリアである。
「無理をして歌う必要はないけど、知っている曲があったら歌えばいいよ。もしくは人が歌っているのを聞いて、手拍子をしたり」
兎も角、雰囲気を愉しむのが大事だと忌咲。
「よし、判った。俺は歌うぞ!」
ハンディカラオケを奪って、懐メロを歌い出す大地。
「そうですね‥‥この年代の曲ならばなんとかなりそうですね」
両親の歌っていたのをなんとなく覚えているという伊織。
「何があったか存じませんが、溜め込んでいるなら吐き出せれば楽なのだとは思いますよ‥‥」
一人でいれば悪い方向に色々考えがちになる。そういう気持ちを紛らわせる事は大事だと、経験から語る伊織。
「折角の花見です‥‥憂さを忘れて騒ぐのは大事ですよ」
流れるイントロにハンディカラオケを握る伊織。
「判りました‥‥。ユリアも‥歌います」
忌咲がハンディカラオケと一緒に持ってきた曲名リストをヒシっと見つめるユリア。
「これなら‥‥歌えそうです」
忌咲からハンディカラオケを受け取ると真剣な顔をしてボタンを登録していく──流れた曲は、国民的に有名なネコ型ロボットが出てくるアニメの主題歌であった。
熱唱するユリアに「いいぞ!」と大地の掛け声が飛ぶ。
歌い終わったユリアにアスカがお茶を薦める。
「ありがとう‥ございます‥‥」
こんなに大きな声を出したのは久しぶりだとユリアが笑う。
忌咲が女性演歌歌手の歌を熱唱しているのに併せて手拍子をする。
どうやら元気が出たようである──。
***
「そういえばユリアちゃんあれから泳げるようになった? 私? 私のほうは全ッ然」と苦笑をするアスカ。
ユリアも全然上達しないと答える。
アスカとユリアの初めての出会いは、忌咲も参加した水泳教室であった。
「ちょうどこの時期だったかなぁ‥‥去年依頼でパラオ行ってきたの。凄く海が綺麗でいいところだったわ♪ あ、写真あるけど見る?」
頷くユリアに写真を見せるアスカ。
「楽しそう‥ですね‥‥」
少し羨ましげに笑うユリアに思いついたようにアスカが言う。
「そうだ! ユリアちゃんも今度一緒に泳ぎに行きましょう♪」
「水泳‥?」
「そう、一緒にまた練習しましょう」
折角泳げるようになったのだ。もっと泳げるようになれれば、きっと楽しいだろうと言うアスカ。
「ユリアは──その‥‥」
「約束よ、約束」
ユリアの両手を取り、やや自分でも強引だと思いながらも約束を取り付けるアスカ。
ユリアは、この手の約束は必ず時間が掛かっても必ず守ると信じての約束である。
先程から桜餅にも食事にも手を付けないでいるユリアに食事をするようにすすめるアスカ。
「何をするにもマズは、体力からよ」
ちゃんとご飯は食べているの? とアスカが訊ねる。
「‥‥最近‥食欲が‥‥なくて‥」
どうやら食べていないようである。
「ユリアちゃん、辛いときこそ美味しいもの食べて心を癒すことも大事よ?」
「頭では‥判っているんですが‥‥」
グズグズというユリアに「ユリアちゃん‥‥食べなさい」と怖い笑顔で迫るアスカ。
元々細いユリアであるが手首などアスカがちょっと捻れば折れそうである。
「多少無理やりでも食べなきゃ体力がつかないわよ」
「ユリアは‥‥駄目な子ですね‥。皆に‥‥こんなに‥心配ばかりかけて‥‥」
ユリアは困ったような笑顔を浮かべるとアスカの差し出した野菜炒めに箸を付けた──。
●思い──そして、
この後、インドに行くと言う伊織を空港まで見送り──飛び立つ高速艇に手を振るユリアを見て、忌咲が言った。
「伊織さんも言っていたけど、一人で居ると、どんどん塞ぎ込んじゃうよ? 私たちで良いなら、いつでも遊びに誘ってくれて大丈夫だから。また一緒に何処か遊びに行こう?」
そういってユリアを抱きしめる忌咲。
「ありがとう‥‥忌咲さん‥」
何かあったら連絡すると忌咲に約束し、LHへ戻る忌咲を見送るユリア。
空港にユリア、大地、アスカが残った──これからどうするのか? という問いに、
「俺は、夜桜見物だな」
1億cの夜景をバックに桜を見ないのは勿体無いからと、ユリアとアスカに別れを告げる大地。
「アスカさんは‥‥?」
「LHには戻らないの。次の仕事先までの高速艇待ち(時間調整)なの」
良かったら、夜景でも見ないか? とユリアを誘う。
***
「何度見ても凄い夜景ね──でもここには始めて来たわ」
テレビ塔の展望室から外灘の夜景を見下ろし、綺麗だと言うアスカ。
「気に入って‥いただけて‥良かった‥です‥‥」
「なんだか1日中引っ張りまわしてしまってごめんなさい」
体は大丈夫なのか? とアスカの質問に大丈夫だ、とユリアが答える。
「そう──よかったわ」
「皆がいる所では言えなかったけど‥‥あの時は‥力になれなくてごめんなさい‥‥」
静かに首を振るユリア。
「ユリアが‥我が儘な‥お願いをしたから‥‥でも‥アスカさん‥達‥は‥‥頑張ってくれました‥」
感謝していると言いながらも先程まで近かったはずのユリアとの距離が急に遠くなったような気がするアスカ。
ユリア自身の諦めがそうさせているのだろうか──?
どう切り出したらいいか、悩んだアスカであるが、ここは思い切って聞いたほうがいいだろう。と徐にユリアに質問をぶつけた。
「‥‥キースのことは、どう思ってる?」
「どう‥‥?」
キースとの思い出やキース自身の事を聞いてみたいとアスカが言う。
「ユリアちゃんがまだ諦めてないなら‥‥‥力を貸すわ。いえ、一緒に戦わせて」
それが友としての、アスカ自身のケジメだと言った。
「──ありがとう‥アスカさん‥‥‥‥」
静かに微笑むユリアだった──
***
同じ頃、別な場所でアスカ同様に──美しい光のページェント(野外劇)に沈む男(キース)とユリアを、互いを大切に想いながらすれ違う二人を危惧する者がいた。
大地である──二人を思い出しながら一人杯を空ける大地。
「‥‥待ってやがれキース‥‥おめえは首に縄引っ掛けてでも連れ戻す‥‥!!」
そう誓う大地であった。
●一夜の淡い恋の夢
「浴衣とワンピースどっちで行こうかな‥‥」
星月 歩(
gb9056) はベットの上に並べたゴシック調のワンピースとミニスカ丈の浴衣を見比べ悩んでいた。
今日は兄と慕う麻宮 光(
ga9696)とのお花見デートである。
折角、勇気を振り絞って誘ったのだ。
「やっぱり褒めてもらえると嬉しいよなぁ‥‥」と思うのが女心である。
過去を失った歩にとって大好きな光とのお花見は貴重である。
「お花見は1年に1回しかできませんしね‥‥」
散々悩んで折角の季節事だからと、浴衣を選ぶ歩。
「‥‥ちょっと思い切りすぎたかな‥‥」
鏡に映る自分の姿は、思った以上にミニ&コスプレっぽい。
「とりあえず髪を結って羽のオブジェだけは外していこうかな?」
今日だけは、光に子供っぽいと思われたくない──と、髪をアップにし、背中のオブジェを外し、光との待ち合わせ場所に急ぐ歩であった。
一方の光と言えば──
友人にコーディネイトして貰った服を着て、鏡と睨めっこをしていた。
「可笑しくないか?」
今日、何度目かの自問である。
幾ら義理の家族とはいえ、仮にもデートである。
傭兵生活もそろそろ約2年が経過しようとしているのにお花見をするのは、この2年の間で初だったりする。
今更ながら2年間を振り返り、つくづく思う光。
「‥‥どんだけ色気のない生活をしてるんだ俺は」
それ故、義妹の歩が誘ってくれた夜桜見物は、何が何でも歩に「楽しかった」と思って欲しいと思う光。
あんまり気合が入りすぎていた為か、何故かあしゅらグッズと愛用の魔女っ子セット迄上海に持ってきてしまった。
没収されないだろうと思いつつ、発着場のロッカーに預けて行く。
「約束の時間は、まだあるな‥‥」
空港か、目星を付けていた公園の事務所のインフォメーションに行けば、きっと歩が喜ぶ花見をするのにいい場所や夜景がきれいな場所を教えてくれるだろう。
***
「お兄ちゃん!」
公園入り口に立つ光を見つけ、歩が走りよってきた。
「待たせた?」
「いや、全然‥‥それより寒くないのか?」
桜が咲くほど過ごしやすくなったとはいえ夜はまだ少し冷えるだろうというのに歩を見れば浴衣である。
「平気、それより可笑しくない?」
「よく似合っているよ」
光がそういうと嬉しそうに歩が笑った。
ライトアップされている歩道をゆっくりと歩く光と歩。
すれ違う人々の目には、自分たちはどう見えるのだろう?
(「‥‥きっとカップルに見えるよね?」)
歩は、ちらりと光を盗み見る。
光に付き合っている人がいることは百も承知であるのだが──
(「そうゆう風に見えたらって思う私は卑怯なのかもしれないけど‥‥」)
適わぬと思い乍ら抱いてしまった淡い恋心。
明日からは今まで通り兄妹に戻るから──今晩だけぐらいはいいよね?
「お兄ちゃん、あっちにボートがあるよ‥‥」
一緒に乗ろうと光の手を引っ張る歩。
「水面に映る桜は、普通に見るのと違って見えて綺麗だっていう話だったな」
同じ場所に目を付けるなんて気が合う、と笑う二人。
***
ボートは人気な場所らしく結構混んでいた。
順番が来るまで少し時間が掛かる様である。
くしゅん。とくしゃみをする歩にジャケットを貸す光。
「ほら、やっぱりそんな薄着で来るからだよ」
幾ら能力者と言えども油断すれば風邪を引く。
「お兄ちゃんが風邪を引いちゃうよ」
「ば〜かっ、お前と鍛え方が違うんだよ」
そう言う光が、くしゅんとくしゃみをする。
「こうやって腕を組んだら寒くないよ‥‥」
光の腕に腕を回し、「カップルに見えるかな‥‥」と嬉しそうに笑う歩がドキリとする光。
「ばぁ〜か、そんな訳ないだろう。お前は妹なんだから」
ツンと歩のおでこを突っつく光に「お兄ちゃんなんか知らない」と頬を膨らませ、そっぽを向く歩。
(「どうも上手くいかないな‥‥」)
ガリガリと照れ隠しに頭を掻く光。
ガイドブックを片手に夜桜見物後にお薦めの、女の子に人気のお店は何処其処にある。
歩を喜ばせる為、しっかり調べてきたというのにいつもより大人っぽく見える歩にドキドキしていた。
(「──歩も20歳の女性なんだよな」)
本当ならば自分とではなく恋人やBFとデートしていても可笑しくはない年齢である。
それを俺と一緒に歩いている。
いずれ歩の傍らに立つ誰かの代理だとしても20歳の春は、今晩だけなのだ。
ちゃんとエスコートしなければ──
くしゅん。と再びくしゃみをした歩を、
「こうやって俺が抱きしめたら寒くなくなるぞ」
と優しく抱きしめる光──。
思わぬ光の行動に頬が赤くなる歩。
「うん‥‥」
なるべく平気な声を出す歩。光が後ろにいてよかったと思う──
「春はお花見、夏になったら今度は海にでも行きたいね?」
ボートの順番を待ち乍ら、そう言う歩だった──。