●リプレイ本文
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鈍い飛行音が響く。
補給機の飛行音だ。巨大な翼を大陸の空へと浮かばせ、GDABへと向かうその補給機を守る──補給をダミーとして西安近郊の敵戦力を探索する為の一部隊が組織されていた。大巴山脈にて、補給を済ませた護衛機達は、網の目のように張り巡らされている大陸のバグアによる占領空域へと踊り込む。
その部隊へと、何時ものようにHWの集団が浮かび上がり、接近してくる。
別部隊が囮になるべく戦いを開始する。
その合間を縫い、偵察部隊が滑り出す。東ルートへ4機。西ルートへ4機。そして、別班と輸送機C−1改の護衛として残るのが7機である。
西安近郊のみで無く、大陸の空港は網の目のように展開されている。
ひとつの都市を制圧すれば、その周囲の空港をじわじわと侵食する事が出来る。
そして、一旦出来上がった自軍の陣地を落とされそうになれば、すぐに近隣の空港から援軍が呼べるのだ。これは、敵方に限らず、UPC軍としても大いに活用したいのではあるが、地形も絡んでくると中々思うようにはいかないのが現実だった。
東ルートとして選択するのは、安桃村空軍基地を抜けて、西安閻良空軍基地上空を通り、仲間達とのランデブーポイントへと移動するルート。
ぱたりと落ちる真っ赤な血涙。雷電、榊兵衛(
ga0388)は、偵察を行う仲間の盾となるべく、その機体を飛ばす。
「いよいよ北京奪還か? そろそろ北京も限界に来ていることだろうし、今回の西安への偵察作戦が転機となってくれると良いんだがな」
「次の大規模作戦は、やっぱり大陸東方が舞台になるんだろうかね? まあ、情報収集は戦争の第一歩だしな。集めれるだけの情報を集める事にしようか。俺の『鷹』なら、一撃二撃の被弾は何とか耐えられると思うしな。だから、肩から力抜いて行こうぜ」
軽く笑うかのように言葉を繋げると、骸龍、Anbar(
ga9009)は高度を下げる。『鷹』と名づけた骸龍の装甲は、通常の骸龍よりはその強度を増している。
「この力を殺す為でなく、守る為に使いたいですね」
手にした力は小さくは無い。KVを駆る能力者が戦いに投じる一石は、間違い無く重い。シュテルン、天宮(
gb4665)は、爆音と閃光が飛び交い始めた空域を見てぽつりと呟く。
「戦力の前に確保しなければいけないもの、固めなければいけない足場があります。危険と分かっていて、それでも、成功させましょ」
真っ白な機体に黒いエッジのロビン、フィルト=リンク(
gb5706)は、表情を硬質なものに変えていた。淡々として言葉を紡ぎつつ、計器を確認する。
4機はその機首を西安桃村空軍基地へと向けた。
西ルートとして着実に視野に入れておきたいのは、西安戸県空港を抜け、西安咸陽国際空港上空を通り、仲間達とのランデブーポイントへと移動するルートだ。
「危険な偵察になりそうですね。必ず、皆無事に帰ってきます」
真っ青なシュテルン、フレイアを駆るソード(
ga6675)は、始まった戦いの激しさに軽く息を呑みつつ、笑みを浮かべる。
「──西安か‥‥」
(「平和になれば、皆を案内してみる、か」)
ふっと笑うと、つやの消えた黒いK−111改UNKNOWNを駆る、UNKNOWN(
ga4276)は、僅かに目を細めた。
もともと備わる高感度偵察用カメラと、さらに空きスロット全てへ、高感度カメラを搭載する。多くの情報を入手する為、あえて武器の選択は選ばなかったのは、骸龍、オルランド・イブラヒム(
ga2438)だ。
「みんなの腕前を信頼してる」
急な任務であり、その危険性を叫ばれている依頼であったが、共に飛ぶ仲間達も、別班の仲間達も、音に聞こえた者達だ。
(「──必ず」)
この任務が万が一にも失敗する事など無いと、オルランドは固く信じていた。
「Gypsophilaより各機へ。敵機、警戒ラインを突破、迎撃体制に移行」
中央で派手に暴れている別班のおかげで、あらかたはそちらへと向かってはいたが左右に分かれて散った偵察班へもHWは飛んで来る。ウーフー、神撫(
gb0167)は、やって来るHWを確認し、声を上げた。
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東西に分かれて飛んで行った仲間達を見送るのは、別版とC−1改の護衛を引き受けた7機。
激しい戦いが始まっている。
ウーフー、M2(
ga8024)は、護衛機よりも先へと飛び、水先案内人を務める。
「西安‥‥三国志で有名になった所、だっけ? 交通の要所って事は、やっぱちゃんと調べなきゃだよな、うん」
鮮やかな戦いだ。よほど運の良いHWがこちらへと流れてきても、集団を成さないHWなどは、こちらの敵ではない。
「‥‥まずは布石‥‥ですかね。きっちり決め手、次につなげたい所です」
事前に読み込んできた地図を思い出しながら、S−01H、フェイス(
gb2501)は呟く。
「偵察任務、ですか‥‥大事なお仕事ですね‥‥頑張らないと‥‥」
ぐっと拳を握りこんでいるのは、S−01H、ハミル・ジャウザール(
gb4773)。
(「KVの戦闘ってちょっと苦手だなぁ‥‥でも、陽動だからこっち来てくれないと困るんですよねぇ‥‥」)
幸い、東西偵察班へのHWの動きは、ほぼ封殺されている。派手な戦いが、HWの目を引き、その背後に守られる、輸送機という大きな囮が、十分な効果を発揮しているようだ。
(「俺はまだ未熟だが、仲間の足を引っ張りたくは無いな‥‥」)
ディアブロ、ブロント・アルフォード(
gb5351)は、深く溜息を吐く。
「こんな大きな作戦に参加するのは初めてだけど、ま、よろしくって感じかな〜」
黒をベースにしたディアブロに、青いラインが引かれている。アトモス・ラインハルト(
gb7934)は、にこやかに笑う。
「偵察が主な任務とはいえ、輸送機の護衛に偽装するわけですから、そのつもりでしっかり気合入れていきますよ」
たとえ、輸送機が落ちても、偵察が上手くいけば、次に繋がる。だが、この依頼は偽装であって、偽装では無い。実際にC−1改には人が乗っている。落ちればただでは済まないのだから。
アンジェリカ、シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)は、無機質な声を響かせる。
「落とされし砂塵都市西安‥‥か。危険だが、先のことを考えると頑張るしかねえよな」
GDABへの補給はかろうじてその存続を許す程度には繋がっているが、それも何処まで持つか。そういう状況を思い返し、ワイバーン、Loland=Urga(
ga4688)は、軽く肩をゆする。別班との打ち合わせ通り、今の所は上々過ぎる流れで進んでいる。
(「さて、どうなるかだ」)
Lolandは、すっと目を細めた。戦いの成り行きを待つ事となるかと思った所に、戦いで引き付けてくれている別班の中から飛び出てくるHWが。
「来ます」
鮮やかなレーザーが襲い掛かってくるM2は仲間に声をかけ、ライフルを撃つ。
「来ましたか。さて、お仕事お仕事」
攻撃を浴びせながら、フェイスは派手な戦闘空域を眺めて目を細める。
「こっちに寄って来ては欲しいものの、流石に多いですね」
順調にC−1改へと引かれて集まってくるHW。別班の戦闘が上手く行っている為に、こちらにはその攻撃を潜り抜けて来るHWがまばらに見えるのみ。
「随分とくたびれてますね。迎撃します」
(「ミサイルは‥‥必要ないか」)
ハミルは、瞬時に判断を下すと、出来る限り補給機から離れると、ライフルの照準をつけ、HWを狙い撃つ。
「邪魔だ‥‥退けぇっ!!」
一声唸ると、ブロントは滑腔砲を撃ち込む。その弾丸は、飛来するHWへと空に軌跡を描いて行く。
たかが数機のHWではあるが、C−1改を射程内に収められては困るのだ。
その一撃で輸送機は致命傷を負い沈む。
機体を射線上に踊り込ませると、Loland機は、引き付けるかのようにブースト離脱するが、HWはついてこない。あちらの優先順位はあくまでも輸送機だ。軽く舌打ちすると、HWを迎撃する為に機首を返す。
「ふぃ〜、危ない、危ない♪」
HWからの攻撃を受けたのはアトモス機。派手な衝撃が襲うが、致命傷には至らない。
「誘い込んで各個撃破を狙いたいが‥‥どうなってる?」
HWが誘いに乗るのならば、Lolandと引き付け、個別撃破をするつもりだったが、接近してくるHWの様子をアトモスへと聞けば、う〜んと言う声が聞こえる。
別班が派手に戦闘を繰り広げて、主戦力を留めていてくれるが、やって来るHWは、この囮にひっかかっているのだ。だとすれば、HWの目的は輸送機撃墜。ある程度C−1改に接近出来れば、自軍の損害状況よりも、輸送機撃墜に向かうだろう。
「向こうさんは輸送機落とすのが目的だからさ、ここまで抜けてきたら、KV相手にするより輸送機へ直行したら勝ちじゃない?」
KVのような装甲はC−1改には無いのだから。
「了解だ。多少の無茶なら引き受ける」
シンはアトモスの言葉に頷くと、釣り出す事は止め、戦線を抜けたHWへと、Loland機と共に向かって行く。
「テーバイでダメージ受けてくれると良いんだがな」
Lolandが軽く肩を竦めた。
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東西偵察班は、その目的をほぼ終了しようとしていた。
「各機撮影を開始。ここは30秒程度で切り上げて、咸陽国際へ向かいましょう」
神撫は、戦いを横目で確認しつつ、対空砲を避け、鋼の翼を軽く捻る。
「思った通りか‥‥」
オルランドは、空港にずらりと並ぶHW、ゴーレム(巨人)、タートルワーム(亀)、キューブワーム(CW)、メイズリフレクター(MR)、無数の対KVキメラを目の当たりにして溜息を吐く。
「ふむ、有益な情報を手に入れられそうだ、ね」
自機に取り付けたカメラにも、多種多様の様が写り込んでいるだろう。UNKNOWNは薄く笑みを浮かべる。
「レギオンバスターは必要無さそうですね」
ソードの必殺技であるレギオンバスターは、ブースターとPRMを起動。練力を叩き込みミサイル1500初を全弾発射するという技だ。火力を上げるAモード、命中を上げるBモードとあり、今回はAモードを使用するつもりだった。だが、作戦が上手くいっている。こちらへと向かう敵はほとんど居ない。
黒い燐光を撒き零しながら、天宮が飛ぶ。
(「彼、大丈夫かしら」)
同兵舎のブロントはC−1改の護衛に回っている。偵察機の直衛でなければ、出来る限りの支援を行うつもりではあったが、空域が分かれる。大丈夫だろうと、戦いの情報を受けながら、偵察が順調に終わる事にひとつ頷く。
「これはまた‥‥」
Anbarは安桃村空軍基地、西安閻良空軍基地と飛ぶに当たって、敵機の数をざっと見て溜息を吐く。HW、巨人、亀、CW、MR、無数の対KVキメラ。様々なタイプが満遍なく揃えられている。
「戻ったら、何か飲み物を用意しましょう」
フィルトは、ひとつ頷く。敵機が迫るのならばレーザー、弾薬に不備は無い。共に飛ぶ仲間達と共に十分な迎撃は可能だが
「包囲という包囲も無かったようだな」
兵衛が呟く。いつでも大量の攻撃が出来る体制は整えてあった。弾数は十分だ。そして、万が一には、愛機『忠勝』を弾幕代わりに仲間の前に踊り出す準備は出来ていた。攻撃力にもそれなりの自負がある。
接近されれば、東西偵察班は、腕に覚えのある仲間達ではあったが、その必要は無さそうだ。何より、敵機に食らいつかれるような距離まで迫られれば、この大掛かりな囮作戦を引き連れた偵察任務は散々な目に会ったはずである。
別班の十二分な作戦と戦いが、この空白の時間を作り出してくれていた。
接近する敵機もほとんど無かった。各空港から空へと迎撃に飛び立つ前に、東西のKVに積まれたカメラは、西安の近郊空港、基地の状況を収め、離脱し、仲間達と合流する事になる。
輸送機C−1改全機を無事に護り通し、囮作戦はその役割をまっとうし、偵察任務は予想を上回る成果を得た。
西安近郊、西安戸県空港、西安咸陽国際空港、安桃村空軍基地、西安閻良空軍基地。そして、西安市外の状況がしっかりと高感度カメラに映し出されていた。これにより、UPC軍は西安への布陣を決定する事となり、大陸での大規模な戦いが進行する事となったのだった。
(代筆 : いずみ風花)