タイトル:【G3P】警護訓練A’マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/26 21:44

●オープニング本文


「大量兵員移動のできる輸送ヘリもしくは航空機の開発ですか?」
 アジア3大メガコーポレーションの定期懇親会席からの帰り、椿・治三郎(gz0196)中将に呼び止められたダニエル・オールドマン(gz0195)。
「左様。現在の航空輸送手段は従来機からの降下や非武装の高速艇だが、激戦エリアへの直接投入は非常にリスクが高いのでな」
 陸兵輸送には装甲車に混じってリッジウェイがすでに導入されているが、空輸手段はない。
「奉天から提案中の西王母が『補給機』だったと思いますが?」
 西王母は弾薬と燃料用補給機をKVだが、輸送コンテナを改造して兵員が輸送できるようにすれば15、6人は輸送できるだろう。
「北米の大規模作戦での投入を考えているんでな。ゆっくり量産テストという訳にはいかんのだよ」
「そうですねぇ‥‥そうなると既存のフレームに装甲を足し、エンジンを載せかえる方法となりますが‥‥」
 ここでピンと来たダニエル。
「垂直上昇機をお考えですか?」
 でなければ西王母の販売を前倒しにし、オプション開発指示ですむはずである。わざわざMSIに話を持ってくる必要はない。
(「隠密性が高く、素早く大量な兵士の動きか‥‥」)
 昨年MSIが軍に納品したサイレントキラーは純粋な攻撃ヘリから多目的汎用ヘリに仕様変更しているが、それでも定員4名である。
「そうなりますとCH−47かV22がベースになりますね」
「CH−47は兎も角、『オスプレイ』か‥‥」
 バクア到来前に米国航空大手2社共同が開発を進めていた垂直離陸が出来るティルトローター機(乗員5名、積載人数24名)である。だが、試作段階においては事故が続いたいわくつきの機体である。
「ですが、それは過去の事。量産化実験に成功して配備されています。KVという事ではないのであれば多少の改良で済みますでしょう」とダニエルが苦笑いをした。

 ***

「‥‥で、MSIにお鉢が回ってきたんですか?」
 チャレンジャーですね。とS・シャルベーシャ(gz0003)。
「駄目かね?」
 サイレントキラーを提案した男が何を言う。とダニエルが返す。

「いや、面白いと思います。俺がいた時は『味方殺し』と悪評が高かった機体ですが、『オスプレイ』の評判は聞いています。あれにサイレントキラーのテクノロジーを積めば、そこそこ『いい線』いくでしょう」
 武装はどうするのか? とサルヴァが尋ねる。
「今回は急ぎ軍からのオーダーだ。搭載設備はつけないで行こうと思うんだが?」
「兵員移送という点から言えば戦地を単体で飛びませんからね、よろしいかと。それに装備がない分、医療用に転用も簡単に出来るかと」
「先のロシア戦でも傭兵らの被害は多大だったな」
 大規模作戦ともなればMRIやCTスキャンを備え、心臓外科と言う高度医療が出来る車輌も後方配備されているが、そこ迄の移送が大変である。
「まあ、作戦中は傭兵から貸出して欲しいと言われるかも知れませんが、それはイレギュラーでしょう」
 貸出権が売り出されるのならば、取扱いのし易いコンパクト化と武装が条件になるだろうが、サイレントキラーに手を加えた方が簡単である。

「名前はどうするかね?」
「『エピメーテウス』ってのは、どうです?」
「ギリシャ神話のプロメーテウスの弟だな。パンドーラの夫で‥たしか『後で考える』とか『後悔する』という意味だったと思うが」
「そうとも言えるでしょうが、『事態に応じて臨機応変に考える』って事です」
 それにプロメテーウスはヘラークレースに開放されるまで肝臓をハゲタカに啄ばまれましたが、エピメーテウスは、パンドーラが全てが詰まっていた箱を開けた後に起こった厄災を免れ、更にその後起きた大洪水をも生き延びパンドーラと仲睦まじく暮らしたって話ですから逆に縁起がいいですよ。と、サルヴァはにやりと笑った。

 ──だが、全くのノーテストで軍に納品するわけにも行かない。
「軍の方から対人訓練だけでなく『より実戦に近い【対ワーム・特殊工兵】』訓練をいましたので、それに使ってみようかと」
 適当に2、3機回してもらえれば使ってみるというサルヴァ。
「だが警備に当たる予定のスカイスクレイパーやリッジウェイについては、まだ1機づつしか届いていないぞ?」
 それにそれほどの大規模の訓練を行うスペースがないというダニエル。
「いえ、ありますよ。轟竜號を途中まで組み立てていた奉天のドックです」

 提供される場所の敷地面積は、
 約162万平方メートル(東京ドームの35個分相当)。
 建物面積は約42万平方メートル。
 ドックは、長さ990m×幅100m×高さ100m。

 轟竜號の最大乗員数は1万人。
 万が一、沈んだ場合の被害概算は周辺の護衛艦、潜水艦、空母を巻き込んだ2万人が推測される。
 軍とて慎重にならざる負えないのかもしれない。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
鏡音・月海(gb3956
17歳・♀・ST
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文


 人対KVもしくは──人・KV混合戦という軍の陸戦でよく見かけられる戦闘が、ULTに寄せられることは少ない。

「‥なあ、こいつ等を警備につけりゃいいんじゃねーか」
 傭兵の出る幕ではないだろう。
 窓の外にいるMaha・Karaを見乍ら伊佐美 希明(ga0214)が言う。
 轟竜號がユニバースナイトである以上、特別な色がつくのは望ましくない。と軍が考える部分と、依頼に隠れた本当の意味も希明も理解しているつもりだが、ついグチが出る。
「ま、報酬分は仕事をするけどな」
 希明がサプレッサーをスナイパーライフルに装着し、ドックの図面を再度見る。

 尚、S・シャルベーシャ(gz0003)が訓練に参加する気まぐれを起こしたのは鳥谷・小町(gb0765)の一言、『サルヴァはどっちかなー。地上で指揮下、KVでこちらを蹴散らかしに来るか‥‥』である。

 ***

「奴らは、どんな手を使うつもりだろうな」と大神 直人(gb1865)が言う。
 手を抜く方法を考えていた直人に対して鳴神 伊織(ga0421)が、手を抜く必要がないだろう。と答える。
「まあ‥訓練といっても、物凄く実践的ですから‥‥」
「今回も厳しくなりそうだな」と気合を入れるのはヒューイ・焔(ga8434)と、
「負けません!」
 ぐっと握りこぶしをするのは、フィルト=リンク(gb5706)。
 カップを片付けている鈴音・月海(gb3956)を含め、4人とも前回の対白兵模擬戦参加者である。
 フィルトはAU−KVで敵に突っ込んだ際に返り討ちに遭い、伊織はLv70のファイターを二人掛りで相打ちの末、倒したが、残った敵に愛刀を利用された苦い経験があった。
 善戦を見せた彼等への評価は高かったが、褒められても、ちっともすっきりしない。
「今度は、白黒ハッキリさせたいですね」

 今回KVが撃墜された場合、パイロットはそのまま即リタイアと聞き、兵から思わず安堵の声が上がる。
「サルヴァさんとの手合わせは、個人的に興味ありますが‥今回は遠慮したいですね」

「腕はおそらくあちらが上。機体性能は多分こっちが上。その差でどれだけ戦闘が変わるんかな‥‥後は装備の差?」
 人同士の戦いと異なり、KV同士の戦いは操縦者のレベルが影響するのは操縦レベルぐらいである。
 策が良くても機械故に最終的にはKVの持つ能力が勝敗を決める。
 だが、機動力(回避ではない)でいけば敵機についてこられるのは、小町のディアブロとゲック・W・カーン(ga0078)のスカイクレイパー(車両形状)である。
「となると人数の不利を何処までカバーできるかね? ‥‥只でさえあの曲者が率いてる連中なだけに、骨が折れそうだ」

 骨の折れる理由は、単にMaha・Karaが相手であるだけではない。
 奉天の超大型タンカー用ドックは、四方を足場を含め高さ100mの壁に取り囲まれており、最上部から落ちれば死亡しかねない。
 挙句、作業用足場やクレーンは、不用意に壊せば弁償だとも脅されるは、底面で身を隠せる場所は、KVとコンテナ以外ない。
「‥ま、装甲だけは厚いみたいなんでな。盾代わりにでも使ってくれ」
 リッジウェイを操縦するブレイズ・S・イーグル(ga7498)が言う。


 傭兵側のKVは、
 :対人
  エピメーテウス牽制:スカイクレイパー ゲック
  兵員移送:リッジウェイ ブレイズ

 :対KV
  ディアブロ 小町
  ビーストソウル 月海

 歩兵
  リッジウェイ:伊織、ヒューイ、バハムート:直人
  希明(狙撃)、リンドヴルム:フィルト(指揮)
  警備兵

 スタート位置に立つ傭兵と警備兵ら──
「さて、Maha・Karaの陸強襲部隊の実力ってやつを見せて貰おうとするか」と不敵に笑う直人。
 ──戦闘開始のサイレンが短く鳴った。


 模擬戦開始の合図と共に海側から敵ディアブロ2機が侵入を開始した。
 地上数メートル、編隊を組んだまま航空形態から白兵に変形を見せる。
 先に仕掛けたのは、小町と月海である。ブーストを吹かせ、一気に迫っていく。
 激しい咆哮を上げ、ガトリングが敵機に襲い掛かる。
 数が少ない以上、分散させればエピメーテウスの援護が出来ない。
「うりゃうりゃ、どうや?」
 敵機の攻撃をルプス・ジカンティクスで受け、反対の手に握ったナイフを振るう小町と、
「流石に簡単には壊させていただけませんね」
 外部カメラを狙う月海が、ランスを振るう。

 一方、エピメーテウスを担当する2機は──
 ブレイズは、バルカンでエピメーテウスを牽制しながらリッジウェイを前に出し、歩兵の展開予定位置に向かっていく。
「‥やれやれ、あんまり動きたくないんだが‥そうも言ってられんな」
 ゲックもまた、スカイクレイパーを走らせ乍らエピーメテウスにバルカンを掃射し、降下を妨害をする。

 ゲックが特に警戒しているのは、ロープを使ったラペリング(またはファストロープ)であった。
 ファストロープならカラビナを使わない分、巣早くエピメーテウスから降りれるが、ラペリングだった場合はぶら下がったままの状態で自動小銃や無反動砲を撃つ事もできるのだ。

 歩兵を降すのは、エピメーテウスから敵歩兵が降りるのを確認してからで十分である。
 スカイクレイパーとリッジウェイは、降下阻止を第一目的にガトリングの弾を撒き散らす。

 警備兵側優勢である──。

「なんだか、このまま歩兵はリッジウェイから降りずに終わりそう?」
 俺達の練った計画って完璧?
 直人からそんな言葉が出始めていた頃──回避・防戦一方だった両鬼の動きが変わった。

 小町を相手にしてたサルヴァ機が、いきなりタイヤを軋ませバックした。
 後ろ向きに進むライン上にいたビーストソウルに、振り向き様にウィンドナイフで斬りつける。
 幾らサルヴァ相手でもバックで進んでくる相手に背中にやすやすと一撃を受ける程、月海とて甘くはない。
「背中に目があるって言うんですか?」
「違う、エピメーテウスから指示が出ているんよ!」
 見れば後部ハッチが開いており、敵歩兵がこちらを監視している。

 小町のバルカンが当たるのを気に留めず敵機が進む先は──リッジウェイとスカイクレイパーがいた。
 このままバルカンを撃ち続ければ、味方に当たる。
 リッジウェイは歩兵を抱えたままである。

「‥オイオイ、対KVは想定していないんだ。勘弁してくれよ‥なっ!」
 敵機にバルカンを食らわせるが、避けようとしない敵機は一向にスピードが落ちない。
 一気に肉薄して攻撃するつもりなのだろうか?
 万が一、横転してもシートベルトで中の歩兵は守られている。
「‥貰った」
 プルス・ジガンティクスを突き出すリッジウェイの目の前でパッと左右に展開し、リッジウェイを追い越していく。
「‥本命はスカイクレイパーか!」
 ブレイズが対KVは想定外といったが、ゲックもまたそれは同じである
 人型では逃げ切れない。そう判断したゲックはスカイクレイパーを慌てて変形させ、猛スピードでバックさせる。

 一機がスカイクレイパーを追い立て退ける間、残る一機がガトリングで月海らの追撃牽制する。
 降下ポイントを定めたエピメーテウスが降下を始めた──。

「やられたな」
 エピメーテウスを降下させるのは意にそぐわないが、暇をもて余している歩兵にも仕事をさせるべきだ。と頭を切り替える。
 ブレイズがリッジウェイから伊織やヒューイら含めた兵を降ろしているのが見える。
 多少手順が変わったが大したことではない──。
「第2ラウンド開始だな」


 周囲を警戒しながら狙撃ポイントを求め、足場を移動する希明。
 眼下ではフィルトの指導で移動されたコンテナが見えた。
 警備兵とハンドサインで状況を確認しながら進む。
 こちらには隠れる場所があるが、敵歩兵らには敵機とエピメーテウス以外、盾になりそうなものはない。
 恐らくは後部ハッチから一気に飛び出してくるだろう。
 下の連中が足止めをしている所を良く狙って撃てば良い。
 そして見つからないように場所を常に移動し、また狙撃を繰り返す。
「スナイパーに華はいらねぇ。‥‥外敵なんてない、戦う相手は常に自分自身のイメージ」と希明は豪語する。
 彼女にとってスナイパーは、確実に敵を倒す狩人である。

 エピメーテウスを囲むようにしていた敵機が、まず動いた。
 飛び降りた敵歩兵らが足元を進む中、ガトリングを撒き散らす──。
 リッジウェイがシールドを上げ、歩兵を守る為に前に出る。
 続いてエピメーテウスがプロペラを回転させコンテナへと突進してきた──。
 コンテナは床に固定されている訳ではない。
 警備兵が逃げていく側をエピメーテウスの機首に押されてズルズルと動いていく。
 後部から残りの敵歩兵らが飛び出してきた──。

 積極的に前に出て番天印と鬼蛍を握る伊織、鬼気迫る気を放ち、敵歩兵に刀を振るう。
(「違う‥あの男じゃない」)
 鬼蛍を普通の刀で受け流している以上、相当なレベルなのであろうが、あのファイターは桁が違う。
「伏せろ、鳴神っ!」
 ヒューイのペイント弾が敵の顔に当たった所を袈裟に斬り捨てる。
「‥助かりました、ヒューイ」
 礼を述べる伊織。
「いや〜、なんの。ペイント弾が余っていてよかったって言うか、風防に当たっても連中、動きが殆ど変わらないから止めた」
 エピメーテウスってどんなレーダー積んでいるか知ってるか? と問う。
 知らない。と答える伊織に真顔を見せて、ヒューイが言う。
「ところで鳴神は気がついたか? 底にいる連中の中にスナイパーが1人もいない」
「‥それは‥」
 前回、ヒューイが遭遇した敵スナイパーは、狙撃手であるスナイパーと回復を行えるサイエンティストを一番最初に倒している。
「伊佐美達が見つからなければこっちを狙ってくるだろう。お互い気をつけようぜ」

 一方、行方の判らなくなっている敵歩兵の内、ステップに向かう男2人と対峙したのは直人である。
 ガトリングを撃ち尽くし、ナイフに切り替えた所を捕縛された。
 ハバムートの腕関節に突き立てられたナイフが駆動部に絡み、身動きが取れなくなっていた。
「適当にしなよ。僕らは隠れた連中を探さないといけないし」
 後ろを見ずにハンドガンを撃つ優男、警備兵が腹を撃ち抜かれる。
「バハムート君はリタイアって事で。勿論、無線機は頂いてね♪」
 直人の無線から隠れている連中の位置を割り出すつもりらしい。
 装甲の一番薄いところに銃口をねじ込みSMGを連射する優男。
「君らは他人の事も大事にするけど自分の事ももっと大事にしないとね」と優男は笑った。

 動かない直人を発見したのは、フィルトである──。

 敵機を撃破し、現在、警備側KVも対人への攻撃に移行している。
 当たればミンチだが、精密射撃が向かないバルカンやガトリングである。
「‥悪いが、大雨警報発令中だ」
 当たった場合は、運がなかったのだ。と景気良く弾を撒き散らしている。

 フィルトは最終防衛ラインの攻防が安定しているのを確認すると、サイエンティストに指揮を預け、もう一人のサイエンティスト共に飛んできた。
 そのまま手当てするのは危険だとサイエンティストが治療を程した後、リンドヴルムの指先に力を入れ、絡まっている配線を引き千切り、バハムートを脱がせる。
「出来るようなら覚醒したままでいてください。その方が早く直りますから」
 救急セットで手当てを受ける直人は、フィルトに顔を見て苦笑いする。
「‥無線を‥取られた‥」
「喋らないで下さい。傷は浅いですが、喋ればその分、体力が消耗します」
「鳴神が‥言っていたのは‥コレか‥‥‥彼らは、まるで‥」
「まるで、バグア?」
 前回の訓練を思い出し、ブルっと身を振るわせるフィルト。
「‥‥ある意味そうなのかもしれませんね」

 無線を聞いていた希明が移動する為、腰を上げる。
(「敵は、スナイパーとグラップラーもしくはビーストマン‥何れにしろ、高レベルだな‥」)
 バハムートの動きに先回り出来るのは、機動力のあるその辺りだろう。と読む。
 エキスパートであれば探査の眼を使い、こちらを探し出すことも可能であろうが、作業用足場は吹きさらしの鉄骨であるが、かなり広い上にこちらは隠密潜行を使っている。
 それ以外が特定の要因無しにこちらの場所を割り出す可能性は低い。
(「ま、警戒するには越した事がねぇか‥」)
 実際、どれ位の確率で敵に遭遇するか等、希明には関係なかった──やれるべき事は今やる。それだけである。
 発見された場合を見越して懐に入れてあるイリアスの動きを確認する。
 勿論、同行しているスナイパーらにも閃光手榴弾を確認させた後、全員のスナイパーライフル用の弾を等分にして攻撃手順を再確認する。
 こちらより敵の方が行動力に優れている分、接触直後にやられる可能性は否定できないが、
(「後は成る様にしか成らねぇだろうなぁ‥ま、当たって砕けろだな」)
 覚悟を決める希明であった。






 ──広いドックに訓練終了のサイレンが鳴り響く。
 タイムオーバー。
 多大な被害を出しながらも防衛ラインを突破されず、訓練は警備側勝利と終わった。


 訓練終了後、その場の手当てで動けるものは、小町の提案で一服することになった。
 いそいそと月海が訓練の疲れも見せず、お茶の用意をしている。

 言いたい事は山盛りであるが、口火を切ったのは小町である。
「あんな危ない方法、なんでするんよ!」
 エピメーテウスに轢かれた笑い事ではない。と噛み付く。
「まあ‥一言で言えばお前らが優秀だった。って事だな」

 元々Maha・Karaは、ドック最深部への到達を目的としており、
 ディアブロは、警備側KVの排除を目的として投入されていたのだが、能力を比較した結果、確実にエピメーテウスを降下させる事に優先順位がスライドしたのだという。
 轟竜號は、とても扱いが難しい艦である。
 サルヴァがバグアの立場で歩兵を投入した場合、鹵獲や占領目的ではなく内部からの破壊──沈没が目的になるだろう。と言う。
「バグア人に深海魚の親戚がいれば別なのかもしれんが、投入されるのは使い捨ての連中だ」
 生きて帰る必要でない以上、エピメーテウスは不要である。
 つまり敵(Adversary)として振舞った結果、
 いくつか候補があったが、どうせなら珍しい経験が良かろう。と選択したのが、アレだという。

「良いじゃないか。エピメーテウスに追い掛け回されたのは、お前らが世界で一番最初なんだからな」
 楽しかっただろう? というサルヴァの言葉にMaha・Karaからゲラゲラと笑い声が起こる。
「‥‥この親父、殴っていい?」
 ──更に大きな笑いが起こった。

「まあ‥一部の閃光手榴弾の使い方が『不味い』が、それ以外は本当に『まあまあ』だったぜ?」
 褒める相手に面と向かって褒め言葉を言わないサルヴァなのは判っているが、それでも「ちっとも褒めていない」と思う一同だった──。