タイトル:警備訓練01マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/24 17:02

●オープニング本文


 数あるUPCの戦略解析室の一室。ラジオから場違いなクラシックの音楽が流れる。
「ふーん‥‥最近の能力者は、やっぱり一般人が多いせいかな? キメラやバグアを倒すことに皆、夢中で連係プレイとかが下手な傾向があるなぁ」
 シナモンパウダーと胡椒などのスパイスを落としたミルクティ、チャイを片手にレポートを見つめるアジド・アヌバ研究員が言う。

 一般人を巻き込まない戦闘を目標とするのであれば、敵を誘い出す罠を仕掛けたり、戦闘担当者、一般人の避難誘導等、役割分担をした方が被害が出なくて済む。
 要人警護依頼であれば、事前に要人が通る場所の確認や公演であれば会場のレイアウト確認や細かいポジション確認等を決めておく必要がある。
 そしていざ戦闘が始まってしまった場合、警護の直接担当者は速やかに戦闘の邪魔になる非戦闘員を(機密保持を兼ね)現場から遠ざけるという配慮が必要である。
 だが、実際に戦闘が始まれば、戦う者は保護を放棄するだけではなく己の回避行動やフェイントを攻撃に組み込むような防衛をしない能力者が意外と多い。
 能力者とて所詮は人間なのである。
 ヘルメットを被っていても首の骨を折ったり、倒れてきた瓦礫に押しつぶされたりする可能性があるのだ。
「これだと移送の警護とか勤まらないんじゃないのか?」
 誰とも聞かせるでもなく辛口のコメントを放つアジド。

 戦闘に不慣れな者は、うっかり補給路の確保や情報収集を軽視しがちであるが、正しい状況把握がなければ何処から敵の攻撃が襲ってくるか予測がつかない。
 また、補給を立たれてしまえば動かしているのは人や機械である。
 燃料切れやメンテナンスと言ったものは、必要である。
 特にナイトフォーゲルは、エンジンとブースタがジェット燃料をかなり食う代物だ。
 アジド自身、日本本部から一々ナイトフォーゲルを発進させたり、高速輸送機で能力者を運ぶより中国のどこかに簡易的な中継基地を作るように上層部進言する計画がある。
 計画は現時点において、あくまでも予測される事態によるものであり、情報の裏づけが完了していないので「保留」としているが、少し大きく遠距離を行く作戦であれば補給はどこにでも必要である。
 補給が切れれば、人も機械も干上がるのである。

 アヌバ家は、元々戦士の家系である。
 国家の近代化に従い、父や祖父はインド軍に属し、自分も弟も現在UPCに貢献している事を誇りに思っている。
 戦って死ぬのなら兎も角、味方の不注意から仲間が死ぬような目に合うのは心苦しい事である。
「本来のボクの仕事じゃないけど‥‥訓練センターに連絡して擬似訓練を実施して貰うかな? それに‥‥」
 新しく配備されるナイトフォーゲルの資料を見ながら、少々の不安を抱えるアジド。

 1つは敵のスパイがどの位、各地に入り込んでいるか。
 職業軍人であっても善意悪意に問わず、時々自宅に情報を持ち帰り、情報が漏洩してしまうという事態が古来から残念乍ら、ある。
 民間人がUPCへと能力者として入ってきている以上、機密厳守がかなり厳しい部分である。
 そしてもう1つは、新しいナイトフォーゲルを傭兵等が旨く使いこなせるか‥‥。
「ただの訓練だと、面白くないといって参加する奴らが少ないかもしれないな。データ取りを兼ねて連携も取った実戦風にすれば上もOKするかな?」

●参加者一覧

風巻 美澄(ga0932
27歳・♀・ST
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL

●リプレイ本文

●棚からぼた餅
「今回はお忙しい中、当訓練に集まって下さいましてありがとうございます。この訓練の責任者のアジド・アヌバです」
 ミーティングルームで今回の参加者を出迎えるアジド。
「訓練と言っても、護衛って難しいですよね〜。頑張るですよ」
「訓練とはいえ、緊張しますね‥‥。」
 という気合いが入るアイリス(ga3942)や夏 炎西(ga4178)に対して、冷ややかな参加者もいる。
「それにしても訓練に実弾装備のKV護衛とは‥穏やかじゃないね‥‥」
 そう言ってアジドを見る終夜・無月(ga3084)。
「これってただの訓練? それとも兼実戦の輸送警護?」
 同様に質問するジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)。

「今回の移送は、あくまでも『実戦』風の訓練ですよ。まあ、途中で襲って来る敵が本物かどうか、というのは偏に言えないのですが‥‥」
「護衛対象が燃料も実弾も積んだ新型機と、恐ろしく本格的で、最初からちょっと疑わしいような気がしました」
 平坂 桃香(ga1831)が溜息を吐く。
「まあ、皆さんに守って頂く機体が特殊でして。H−114、通称『岩龍』という機体ですが、従来のレーダーがバグアのジャマーで目と耳を塞がれていましたが、それを解消した機体になります」
「H−114ですか? 私がこの前乗ったアレだったらどうしようと思ったんですが‥‥」
 F−104のGを思い出してブルリと桃香が身体を震わせる。
「先に言っておいた方が怒られないと思うので言ってしまいますが、実の所、少々皆さんには申し訳ないのですがスパイの炙り出し、『棚からぼた餅』は期待してしまいます」とアジドが続ける。
「最近どこででもスパイの噂があるな‥‥今回の訓練‥‥訓練以外の勢力の介入も考え‥‥気を引き締めていこう‥‥」と無月。
「当初は状況に応じH−114を緊急起動してみて、使用感は『どうだ?』と聞いてみたいなぁと思っただけなんですがね。まあ皆さんの気合いを見て、本物に襲われてもなんとかなるだろう。って安心しています」
 女性のように優しい顔に似合わぬ鬼のような発言である。
「‥‥だが、そうなると緊急事態に供えてこいつのことは知っておかんといけないと思うぞ。事前に動かして、シュミレーションできるだろうか?」と漸 王零(ga2930)が質問する。
 王零を眺めたアジドが申し訳なさそうに言う。
「夕方迄少しお時間を頂けますか?」
「ああ、それまでこちらも色々確認する事もあるだろうし構わんぞ」
「では、特にこれ以上質問がなければ手配もありますし、私がいるとやり難いでしょうから‥‥」
 そう言ってアジドは、ミーティングルームを後にした。


●作戦会議
 訓練地域は途中住宅密集地や一般道を含むが目的地も含めて、UPCの制圧圏、人類の領土である。
 バグアもキメラもで無い安全地域の筈だが、アジド言い分を信じればイレギュラーとして何か襲って来る可能性が出て来てしまった。
「仲間を信じねば、チームプレイはできない。アヌバの思惑は気にせず、今は任務に集中しよう。だが、本物の敵に襲われても大丈夫なように、敵の目的を『新型KV奪取』と規定し、実戦のつもりで警備にあたろう」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が仲間に声をかける。
「とりあえず移動の時間は、なるべく民間人を巻き込まない『深夜』だよね」
「そうなると午前1時か2時って事がベストか‥‥」
 ラストホープの繁華街ならば深夜でも人通りはあるが、地方ともなれば夜は比較的早い。
「万が一『本当の襲撃』が有った場合、訓練中止になのか、あくまでも続行なのかは、アジドさんの判断によると思いますが、アジドさんが『訓練予定に無い襲撃』の情報をキャッチした場合は直ちに何らかの連絡をこちらにしてくれるといいですよね」とアイリス。
 あの調子ならば、これ幸いと放置してそのままトレーラーを襲撃させる可能性があるだろうと心配するアイリス。
「逆に情報漏洩を逆手に取る。というのもあるな。既に依頼された襲撃者には輸送の件は漏れているのだし」
 何事もなく平和に警護を終わらせたいジュエルが言う。
「わざと偽情報を流すのか?」
「ああ、アジドや知り合いに、実際に移動する時間からずらした時間『出発は夜明け過ぎ』と『うっかり』洩らしておくんだ。上手く引っ掛かって引っ掛かって襲撃自体が空振ってくれるならそれに越したことはなし。せめて、慌てて足並みが崩れてくれれば御の字、だろう?」
「そうですね‥‥戦闘はなるべくは避けたいですしね」
 貴重なH−114を戦闘で破損させたり、万が一民間人を巻き込むのは意に反する。
 指定された目的地に併せ、本当にKVを移送する本ルートと迂回ルートを設定する事、一同。
 バイクやジープが貸出される事を思い出し、乗り物に分乗して警護に当ろうと言う事になる。
「KVも使用していいんだよね」と無月。
「たしか、そう聞いている」

 斯くして警備に当るメンバーは、斥候担当としてバイク2台『美澄と炎西』、運搬用トラック追従する形でジープ1台『ホアキンとアイリス』、司令と緊急時にH−114のジャマーを使用する担当者としてトラックに同乗する『ジュエルと王零』、そしてKVに乗り上空からトレーラーを警護する『桃香、無月』と別れる。

「襲撃はトレーラーの足を止めて行われると思うんだが‥‥」とホアキン。
「そうよね。待ち伏せは警戒しなくて駄目よ。偽の工事で進路を塞いだり、罠や待ち伏せのある道に誘導する可能性もあるわ」とアイリス。
「チェックポントは『何かが潜んでいそうな場所』や有事の際の『一般車両を誘導できそうな場所』でいいか?」と風巻 美澄(ga0932)。
 その他、道路工事や速度規制、様々な道路情報等も確認しようという事になる。
「調査は前日の昼でいいか?」
「あんまり前過ぎると状況も変わってしまうだろうし、いいんじゃないか?」
「その他、必要なのは身元照会か? もし運転手がグルだったら叩きのめして自分が運転すれば良いが、受け渡した相手が敵でした、なんてのは勘弁だしな」とジュエル。
 予想される様々な事に対応出来る様打ち合わせ、借りる物をリストアップした一同はアジドを呼びに行った。

 ***

 基地の正面玄関から美澄や炎西らが、ルート調査の為に先にそれぞれ出発する。
 一方、KV組は装備の積み替えの為に後からの出発である。
「これがナイトフォーゲル‥俺達の翼であり鎧か‥‥」
「無月さんは実戦で乗るのは初めて?」
 感慨深げに格納庫から出されたR−01を見つめる無月に桃月が声を駆ける。
「基礎訓練だけだから‥‥少し緊張する」
 それぞれの思い等知らぬように空は高く蒼かった。


●出発 午前2時
「さーて、そんじゃ深夜のツーリングと行こうかね」と美澄がエンジンをスタートさせる。
「斥候の役目は大事ですね。情報収集、状況確認、しっかりやらねばです」
 炎西が緊張した面持ちで言う。
「下見は皆でばっちり手分けしたんだ。バイク2台にジープ、KV2機もある。これで襲撃するのは至難の技さ」
 バイクに先導され、H−114を乗せたトレーラーとジープが後ろに続く。
 滑走路から飛び立って行くKVを迎賓室の窓から眺めるアジド。

「後ろは平気みたいです」
 アイリスがジープを運転するホアキンから借りた双眼鏡を覗いて無線で報告する。
 H−114は燃料を抜いた重量は4200kg。
 バラし運搬であればコンテナの重量を考えても10t車で足りるが、今回は完品輸送である。その為用意された車両は20t、全長14m横幅3mの巨大トレーラーは、必然的に法定速度より遅い速度で運行する。
 だが、それでも予定通りいけば午前5時には目的地に到着する予定である。
 ゆっくりと走るトラックのスピードに併せてKVを飛行させるのは、かなり難しい。
 バーナーの位置を調整し、墜落しないようにバランスを取る。
 AIは危険を感知し、極端に高度を下げるのを嫌い、地上の建物に接近し過ぎると警告音を鳴らし続ける。
「すみません、一度やり直します」
 無月がバーナーを吹かせ、一度トレーラーの上から外れ、オーバーターンをする。
「後方から大型トラックが接近します」
 銀色のコンテナを積んだ10tトラックがライトを点滅させ「追い越す」仕種をする。
 巨大トレーラーを嫌がり、追い越す一般車両は結構多い。
 スピードを上げ対向車車線にはみ出した大型トラックは、トレーラーと並んだ時コンテナの左側面がウィングのように上がる。トレーラーの運転席からはその様子は見えない。
 ジープのホアキンが叫ぶ。
「敵襲!」
 ずらりと並んだ自動小銃が一斉に火を吹く。
 激しい金属音を立てて弾が飛んで来る。
「スピードをあげろ!」
「ほ、本物?」
 アイリスは、ペイント弾から実弾に構える。
 大型トラックがブレーキを掛け、ジープに牽制をかける。
「チッ‥‥アイリス、しっかり捕まっていろ!」
 ホアキンがハンドルを切り、衝突を回避する。
 加速をして逃げる巨大トレーラーだが、加速で大型トラックに劣る。
 美澄と炎西はバイクを駆り、必死に一般車両を脇道に誘導する。

「桃香!」
「OK、索敵よろしくね!」
 無月機は更に高度を上げ、上空を警戒する。
 脇道に逃げる巨大トレーラーを塞ぐように真ん前に回り込む大型トラック。
 巨大トレーラーは急ブレーキを踏み、止まる。
 ジュエルが運転手を抱きかかえて、反対側のドアから飛び出して行く。
 桃香は高度を一気に下げ、地上スレスレで人型に可変し、トレーラーを守るように割り込む位置にKVを割り込ませる。
「無駄な抵抗は止めなさい! こっちは、20mmなんですからね。トレーラーなんて撃たれたら紙みたいにペラペラになっちゃいますよ!」
 運転席に向かって銃口を向ける桃香。
 その瞬間、凄まじいばかりの閃光と爆音、そして白煙が辺に立ち篭める。
「わ、わっ! 煙幕? それとも爆弾?」
 外部モニターが一気に真っ白に変わる。
「無闇に撃つな。味方に当る!」
「しかたがない。俺は『荷物』で出る。援護を頼む」
 王零がH−114のシートを剥ぐ──その手が止まる。
「チェックメイトだ。坊や達、ゲームはお終いだ」
 王零の顳かみに38口径の銃口が、押し付けられている。
「アジドに依頼された関係者だ。他の者も刀や銃を下ろせ。抵抗すればこいつを撃つ」
「敵ではない‥‥‥信じられるか」
 朱に染まった眼が、金と黒の瞳を見つめる。
「煙が消えたらトレーラーの自動小銃御を調べてみろ。派手な音がしていたが、BB弾と空砲だ。まあ1丁だけ、実弾が混じっているがそいつも弾頭をプラスチックに変えている。調べれば、火薬量も少ない事も判るだろう。それに敵だったら勝ち名乗りなんぞ上げずさっさと殺している」


●訓練終了、採点
「結果はどうあれ‥これで少しは‥成長できたのかな‥‥」
 無月がミーティングルームで溜息を吐く。
 そんな中「お待たせしました」とアジドが資料を片手にやって来た。
「さて早速ですが、皆さんのミーティングの様子は隠しマイクとカメラで聞かせて頂きましたが‥‥」
「盗聴していたのか?」
「勿論です。でなければ評価が出来ないでしょう?」
 いけしゃあしゃあと言うアジド。
「まず下見ですが、夜間移送する場合は昼間の他に夜間、同時刻に行う必要があります。何故かと言えば昼と夜では影の出来方、見え方がかなり違います。下見に関してはマイナス5点ですね」
「マイナス? 減算方式なのか?」
「そうです。100点満点から出来なかった部分を減らして行きます」
 アジドがきっぱりと言う。

「一般的な戦闘機同様、KVも訓練を含めた通常任務の場合、管制区域内は管制室に飛行プランを出します。あなた方からのプラン提出がなかったですが、その分は私が適当に管制室に出しておきました。が、そんな事より問題点は深夜だったので、近隣住民からかなり苦情がきました。マイナス20点」
 バーナーの排気音は元々響くものであるが、生活雑音の発生しない深夜は更に響くのである。
 ぐるぐる飛び回った分、非常に目立ってしまったと言うのだ。
「それに私に早朝に運搬するという『偽時間』を言うのは構いませんが、そのウソのお蔭で暗視スコープは貸し出せませんでしたよね。まあKVを守りたいという気持ちは判りますがね」
 個人感情を評価に入れていいならば、更にマイナス20点ですね。とアジドが続ける。
「休憩室等で偽情報を漏洩したのは、プラス2点。できれば、偽ルートも漏らせれば良かったですね。荷受け先の身元照会をしたのは、プラス5点。普通は運転手の身元照会しかしませんので評価します。ルートのチェックポイントを簡略化したコードで割り当てた。これもプラス3点。無線が使用出来なかった場合の連絡方法を考えたのは、プラス1点」
「惜しかったのは、最初っから王零さんをH−114に搭乗させておくべきでしたね」
「3時間、狭いコックピットでか?」
「暗くて狭い、挙げ句にトイレにもいけない『コックピット』でもです」
 ノートに訓練の反省点・注意点を書き留めるホアキン。
「何をメモしているんですか?」
「成否に依らず、得た教訓は次に生かそうと思う」

「ところで『ぼた餅』は、どうなった?」
「スパイですか? あなた方の動きを警戒して容疑者は動きませんでしたが、まあ、それは元々オマケですから」
 大した落胆も無い様子からみて、本当に『棚ぼた』だったのだろう。
「でも、あなた方は『いつ本物が?!』という緊張感があってよかったんじゃないんですか?」
「ありすぎだよ」
「まあ何にしても今回、荷は奪われてしまいましたが、護衛に対する考え方等の評価としては83点。合格ラインです。次回参加される方は100点、目指して頑張りましょう」
 そう言うとアジドはファイルと閉じた。