タイトル:【PV撮影】TAKE1マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/16 01:02

●オープニング本文


 ──インド共和国、ムンバイにあるとある撮影所。
 共同スタジオ撮影所の一角にダルダ資本のフィルム会社が他社と同様小さい事務所(出張所)を構えていた。
 エアコンの効いた部屋は4畳半ほどの広さに机と電話機、パソコン、ファクス兼コピー機等が並べられている。

「MSI(マクルート・スタン・インディア)のプロモーションビデオ(PV)‥‥ですか?」
 パナ・パストゥージャ(gz0072)がS・シャルベーシャ(gz0003)が持ってきた書類に目を通す。
「これ‥‥社全体のではなくKV(ナイトフォーゲル)のですよね? パイロットも私が探すんですか?」
「そうだが、なんだ?」
「普通で行けばMSI内部‥‥というかシャルベーシャさんのMaha・Kara(マハー・カーラ)とかでパイロット足りるんじゃないかと」
「本来ならそうかもしれんが、うちも中々忙しくてな」とにやりと笑う。
 フィルム屋であるパナには普段見せない傭兵としての顔が見える。

 昨年インド北部を中心としたバグア軍侵攻によりデリーを中心に半径200km圏内が激戦地域なり(ムンバイから一番短いバグア占領地域、カチャワル半島ディウは300kmと離れていない)、インド軍とも協力関係にあるMaha・Karaは単なる傭兵組織団体という形ではなくインド軍の一端としてインド各地の占領地域への偵察や輸送部隊の警護だけではなく強襲部隊として積極的に参戦しているとパナもおよび聞いていた。

 そんな忙しいシャルベーシャが理由を付けてはここ(ムンバイ)に顔を出すのは、ユリア・ブライアント(gz0180)がいるからだろう。
「彼女、呼びましょうか?」
「‥‥いや、さっきヤカンを抱えて転んでいるの見たからいい」
 ふぅ──と紫煙を吐き出す。
「ストーリィ仕立てにするのもよし、性能だけを見せるのもよし‥‥どんなPVにするかはお前に任せる」

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
水無月 神楽(gb4304
22歳・♀・FC
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
日野 竜彦(gb6596
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

●波乱万丈雨霰
「プロモーションビデオの撮影か。アーちゃんにとって初体験になる依頼だね。まあ、いつもどおりがんばろうか」
「君も今回の企画に参加する人?」
 ドアの前で気合いを入れていたアーク・ウイング(gb4432)に声をかける日野 竜彦(gb6596)。
「そうだよ。アーちゃんは MSIの撮影に協力しにきたんだよ」
「そうか。こういう現場は、一番最初の挨拶が肝心なんだよ」
「そうなんだ」
 じゃあ、一緒に入ろうか? という事になった二人。
 元気よくドアを開けて挨拶をする。
「今回、企画に参加させてもらいました日野 竜彦です! よろしくお願いします!!」
「はじめましてアーク・ウイングです。よろしくおねがい‥‥」
 全部言えぬウチに1人2役の独り芝居を披露する古河 甚五郎(ga6412)を見てフリーズする2人。

「パナ  『鬱陶しいワーム襲来の季節ですね!』
 サルヴァ『そんな時にはこれ!』
(「大活躍のKV映像」と係れたカンペを出す甚五郎)
 パナ  『でもお高いんでしょう?』
 サルヴァ『ご安心ください!』
 
 ──これをパナさんとシャルベーシャさんでやる‥‥って企画は没ですね?」
 そう言って甚五郎が、 パナ・パストゥージャ(gz0072)を見る。
「まあ、没でしょうねぇ。シャルベーシャさんは通販番組のようにしても気にしないでしょうけど、 MSIの人が怒るでしょうね」

「ディアブロ改は女性型‥‥そんな夢物語を信じた俺の純真な心は、淡く砕け散りました。ギギギ‥!」と言い女の子KVが欲しいと言う森里・氷雨(ga8490)に絡まれている真っ最中のS・シャルベーシャ(gz0003)を見るパナ。
「気にしないんですか?」と言う甚五郎の言葉に頷く。

「言うのを忘れそうだったが、練剣「羅真人」の使用は今回不許可だ」
 サルヴァに言われて怪訝そうな顔をする氷雨。

 先に使うグングニルの消費錬力30、
 パニッシュメント・フォースは、消費練力50。
 羅真人は消費錬力100。
 未改造ディアブロの練力が170である。

「現地に向かう燃料分の錬力を考慮しなくてもサブタンクのないお前は剣を抜いた途端KVが止まるぜ」
 敵地で錬力が0になればKVは鉄の棺桶と同じである。
「使えない赤鬼野郎、ギギ‥‥」
 格納庫にいる己の見えないディアブロの首を締め上げる氷雨。
「外見ばかり見ているからだ。余りギリギリな使い方をするとその内『死ぬ』かULTに『没収』されるぞ」
「KVが? それともアイテムが?」
「どっちもだ」
「KVの没収は、嫌ぁああーーーーっ!」
「今の所、没収じゃなく『罰金』対象がいるな」
 俺が知っているだけでも3人はいると言うサルヴァ。
「それも嫌ですねぇ‥‥‥そうだ、没収で思い出しました。今回、鹵獲ビーストソウルはパスですよ」と2人のやり取りを見ていた甚五郎が言う。
「当たり前だ。自社製品同士で戦わせてどうする。踏むぞ」

 そんな怪しげな雰囲気が漂う企画室に凛とした声が響く。
「水無月神楽、アヌビスで参加します。よろしく」
「パナとは昨夏の映画撮影以来ね」
 水無月 神楽(gb4304)と藤田あやこ(ga0204)、そして里見・さやか(ga0153)である。
 3人を加えて更に打ち合せである。

 モブでも敵でもシュミレータやキャプチャーを用意してくれればどんな機体も手伝うし、重いものや大きいものを運んだりという雑用も手伝うと言うアークと竜彦。
「俺は能力者になる前は役者志望だったんで一般兵士の役とかもOKです」
「アーちゃんからは提案。何回か同じ場面を撮影して、一番映える映像を使用してもらったり、他の敵機体も撮影しておいた方がいいと思うんです。あ、勿論、予算や時間的に無理ならあきらめますけど」
「予算は、今回は常識範疇内ならば上限がないですから大丈夫ですよ。ただ、日程は伸びないですから、敵役やモブ、頼りにしています」と言うパナ。
「自分との態度が違い過ぎません?」
「ピアな心根じゃない古河さんは業界の人で大人の男ですから」と堂々と言うパナ。

 一方、神楽にフレキシブル・モーションを使った離陸を見せたいと言われて溜息を吐くサルヴァ。
「お前もちゃんと説明書は読め‥‥」
 ガサガサと広報から預かって来たパンフレットを開いてみせるサルヴァ。
『通常着陸同様に減速したうえで変形着陸を行うことで「着陸に必要な距離」を直線3スクエアに短縮できる』
 離着陸の距離が他のKVと異なる場合は、きちんとロジーナのように『離着陸』と書かれるのだ。
「つまりフレキシブル・モーションは『着陸』距離には作用するが、『離陸距離』は普通のKVと同じ距離だ」

「藤田さん、揚陸編のキャッチコピー『水際の憂いは、根こそぎ伐採』はやっぱり採用出来ませんでした」と残念そうに言うパナ。
「どこら辺がマズかったの?」
「『伐採』ですねぇ‥‥。『金曜日の悪魔』を振う姿があまりにもインパクトがあるので、ちょっと『金曜日の悪魔』のプロモっぽくも見えなくないので」
  MSIの製品だったら良かったんですけど。とパナが言う。
「あと、『海は生命の母。その眷属として奪還を誓う!』って台詞ですけど、3機合同プロモの方に採用するとビーストソウルばかり目立つので両方とも変更しましょう」

 どうやら何人かは嵐を呼ぶ体質らしい。
 波瀾を含んだプロモーションビデオ撮影がこうして始まった──。

 ***

「大丈夫、イける、失敗しないで飛べる」
 弁当を食うのも忘れ、ブツブツと台本を片手に役作りをする竜彦にアークがお茶を差し入れる。
「大丈夫だよ。きっと日野さんなら上手く演じられるよ」
「そうは言ってもな──俺は皆の中で経験が一番低いしな」
 ドラグーンはAU−KVなくては、KVが飛ばせぬ。
 竜彦が実際、本物のKVを飛ばすシーンは殆どないが、逆を言えば殆ど全てが撮影、編集されたフィルム相手である勘や感覚でKVを動かすのではなくきちんと他とタイミングを併せる必要がある仕事である。
「だから逆な言い方をすれば役者の勉強をしていた俺向きって事さ」
「そうか、頑張ってね。アーちゃんも応援しているよ」
 にっこりとアークが笑った。


●ビーストソウル・揚陸編
 青い空に金色に太陽が光る。
 海岸に大人達が網を直している側で子供らが遊んでいる。
 それらに混ざってUPC軍兵士がちらほら見える。
 何処迄も静かな波間。

(カメラはそのまま海に沈む)
 地上の戦いを忘れてしまうような青い海の中を映し出す。

 泳いでいたをさっと逃げて行く。
 水中を無気味に進むゴーレムの編隊──
(水中からの空を写すカット。黒い影が映る)
 ゴーレム編隊に沿うように超低空迫る鹵獲ロジーナ。

(海を見つめる子供のアップ)
 現れたゴーレムにクモの子を散らすように逃げる村人達。
 UPC軍兵士らが応戦する。
 それを無視して上陸するゴーレムの足元を水中からビーストソウルのライフルが襲う。
「海は生命の母。その眷属としてお前達の好きにさせない事を誓う!」

 ビーストソウルを止めようと対潜ミサイルを放つロジーナ。
 それを縫うように避けるビーストソウル。
 ミサイルの作る水柱が、だんだんとロジーナに近付いてくる。
 一際大きな水柱が立つ。
 そこの中にライフルを構えたビーストソウルがロジーナを撃つ。
 カートリッジが熱で水蒸気を上げ、海水を滴らせるビーストソウル。

 頭を打ち抜かれたロジーナの姿にゴーレムが動揺して弾を乱射する。
 水柱が上がるばかりでビーストソウルの姿はない。

 死角から白波を蹴り立てて割り込んだビーストソウルがゴーレムを薙ぎ払っていく。
(スローモーションを用いた殺陣シーン)
 金曜の悪魔の刃先に陽光が煌めいた瞬間、側にいたゴーレムが連続で爆発する。

「水際の憂いは、丸ごと解決」
 太陽をバックにポーズを決めるビーストソウル。
(<Marut stan India>のロゴが入る)


●ビーストソウル・水中編
 UPCの潜水艦を守るように進む水中KVたち。
 後方レーダーに「敵多数」の反応あり。
 単機で残ると言うビーストソウルに驚く友軍機。
「ハン! 動揺する必要は無い。あたし一人たくさんだから」

 友軍機と潜水艦を先に行かせ、残るビーストソウル。
(ビーストソウルのアップとマンターワーム、メガロワームが交互に割り込む。
 だんだんと映像は引き)

 エース機を正面に単機のビーストソウルを囲むワーム。
(嘲るように目を細める蜥蜴のようなバグア人が映る。
『随分値踏みされたもんだな、姐ちゃん。舐めた真似をした分すぐにさせてやるぜ』の字幕)

 敵のいない下方に舳先を向け急潜行するビーストソウル。
 ワームのミサイルが追い掛けて来る。
 くるくると深度計の数値が跳ね上がる。
(<耐水圧装甲>のテロップ)
 追従するワーム達。
 臨海200m迄沈んだビーストソウルが反転し、舳先を上げて上昇を始める。

 急浮上をするビーストソウルにエース機から打ち出されるガウスガンをすり抜けて行くビーストソウル。
(<強装アクチュエータ『サーベイジ』>のテロップ)
(サーベイジの瞬間、機体のシルエットに計器が被って映し出される)
 ビーストソウルの一撃が薙刀を振うエース機を貫く。

 怒りを滾らせ群がる敵機をライフルで撃ち、レーザークローで引き裂いて行くビーストソウル。
 共倒れ覚悟で発射された敵弾が八方から迫る。
 激しい着弾による爆発と熱で沸騰し、発生した気泡が画面を被う。

(一転)
 静かな青い海に戦闘の残り香を感じさせるわずかな気泡が水面に向かって上がる中、ビーストソウルだけが無事に残る。海底に沈んで行くワームの残骸。

「滾らなくても、余裕だもの」
(カメラ目線であやこが余裕の笑顔を見せる)

 白をバックに人型でポーズを決めるビーストソウルの脇でポンポンを振うチア姿のあやこ。
(<Marut stan India>のロゴが入る)


●アヌビス・飛翔編
 激しく照りつける滑走路に黒光りするアヌビスが駐機している。
 周りを嘗めるように丁寧に映し出した所でエンジンに火が入る。
 激しくエンジン音を轟かせ離陸する2機のアヌビス。
 空中でアクロバット飛行を見せつける。
 そして2機同時に超低空低速侵入した片方がフレキシブル・モーションを使用して、航空形状から一気に獣人形状に変形して強制着陸をする。
 画面が上下に別れ、その違いを映し出す。
(<Marut stan India>のロゴが入る)


●3タイプ・強襲編
 硝煙と土煙が舞い上がる港湾。
 横転した装甲車や建物を盾に攻撃をするUPC軍にゴーレムらと鹵獲KVにより攻撃が加えられる。
 上空を翔幻やサイレントキラーが必死に守るが多勢に無勢である。
(不安そうな兵士の顔のショット)
 ゴーレムがトマホークを振り上げた瞬間、
(恐怖におびえる顔)

 横から激しい攻撃が加えられる。
 機体の半分以上が水面に飛び出し、大きくアップトリムしたビーストソウル、
(操縦者を映し出した後、透過で引き。機体全体を映す)
 素早く人型に変形する。
 暗く淀んだ雲を背にアヌビスとディアブロの編隊が飛んで行く姿が割り込む。

 ゴーレムを支援しようとするロジーナとシュルテンに向かってアヌビスの激しい弾幕が飛んで行く。
 ディアブロがそのアヌビスの背を守り、2機に攻撃を加えて行く。

(アヌビス、<フレキシブル・モーション>のテロップ)
 動けぬ敵の隙を尽き超低空で侵入したアヌビスがエアブレーキを開き、一気に減速する。
 そのまま獣人型へと変形し強制着陸をする。

 着地スピードを殺さぬ様タイヤを出す。
 そのまま加速をし、ロジーナに迫るアヌビス。
 垂直離着陸を試みるロジーナとシュルテンを攻撃するディアブロ。

(再び<フレキシブル・モーション>のテロップ)
 後ずさるゴーレムに激しいアヌビスの攻撃によろけるゴーレム。
 KV刀がゴーレムの装甲を引き裂いた。
(ゴーレム内部からのショット。暗い画面が袈裟掛けに引き裂かれ、アヌビスの頭部が一瞬、映り込む)

 瓦礫を背に攪坐するゴーレムを踏み付けるアヌビスの後ろで、エースゴーレム相手に槍を振うディブロ。
 足元では志気を取り戻した兵士らが、攻撃に参加する。
(<パニッシュメント・フォース>のテロップ)
 ディアブロの槍が貫き、激しく爆発した。

 淀んだ厚い雲の合間から薄日が差す。
 硝煙に霞んだ町をバックに築かれた橋頭堡に立つディアブロ。
 足元で兵士らが吶喊が上げた。
(<Marut stan India>のロゴが入る)


●ラッシュ上映
「映像がどんなふうに評価されるかは分らないけど、撮影に携わったからには、いろんな所で使われてほしいかな」
 デジタル撮影され、編集された映像が出演者らに見せられた。
 特殊高性能カメラで撮影され、スパコンで処理された美しい映像である。
「この映像にキャッチコピーと効果音と音楽を入れてプロモーションビデオが出来上がりです」とパナが言う。

「やっぱり海っていいなぁ♪」
 通信士とは言え元三等海尉のさやかが撮影現場を思い出し、うっとりとして言う。
 今回の撮影の殆どは MSIの持つ試験場で行なわれていたが、ビーストソウルに対する撮影は実際の海岸迄行っての撮影を実施した。
「日本の海もいいけど、やっぱり透明度がねぇ(ハート)」

(「これって普通のTVには流れないんだよな、きっと‥‥」)
 一方、別な感動をしているのは竜彦である。
 ちっちゃく一瞬でも己の顔(兵士役)が映った始めてのプロの作ったプロモーションビデオである。
 能力者としての適性が見つかって以来、なし崩しで能力者(ドラグーン)になってしまった竜彦。
 能力者になる前の夢は役者だった。
 どんな形でも夢は追えるのだ。と家族や友達に見せたいと思うのが、心情である。
(「後でコピーして貰えないか聞いてみよう‥‥」)

「でも、こっちの人って結構呑気だよね‥‥」
 バグア占領地で戦地であるカチャワルと目と鼻の先の距離にあるムンバイが映画を作り続ける呑気さも信じ難い部分があったが、撮影に訪れた土地も戦争中である事を忘れてしまう程に呑気であった。
「まあ‥悲痛なのも辛いけど」
「この辺の人は打たれ強いんですよ。大昔から占領とか戦争とかが『連続百年間ない』とかありませんから」と苦笑いするパナ。
「この辺の人の一番好きな言葉は『なんとかなるさ』なんですよ」
「凄い前向きなのね」
「ええ、そうなんです」と笑う。

 キャッチコピーがないフィルム分についても後日募集しなくてはイケナイのだが──
「ビーストソウル以外の2機種は判り易いですが、あっさりし過ぎていますよねぇ‥‥撮り直し‥納期迄になんとかなるかなぁ」
 暫く考えた後、ディアブロとアヌビス部分の撮り直しを決めるパナだった──。