タイトル:【死者の書】Andhaka1マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/08 03:41

●オープニング本文


 ──死にたくない。
 そう最後に思ったのは何時の頃だろうか。

 道端に転がるクソ(死人)のように
 泥にまみれ
 ウジにまみれ
 腐臭を撒き散らしたクソのような存在──

 バグアとか名乗る訳の判らぬ奴らにいいようにされ
 虫ケラのように踏み潰されて
 殺されるあたし(人間)たち

 腐肉と化したソレを人間と限定するには
 人の服を着ているという
 あいまいなものでしかない──

 アレがあ・た・しの家族だったなんて信・じ・な・い──

 絶対、バグアを、無力なあたしを、許・さ・な・い──

 誰よりも強くなって、
 あたしは、バグアを殺す。

 その為に、あたしは、魂を売ったんだ──



「──だから、なんであたしが異動なのよ?! 全然納得いかないですけどっ!」
 身長160cmちょい、ガタイが良いMaha・karaの中では小さい部類に入る若い、まだ少女といっていい東洋人の女性がS・シャルベーシャ(gz0003)に食って掛かる。
「おい、隊長に向かって‥‥」
「五月蝿いわよ、シン! あたしはサルヴァと話してんだからねっ!」
「だからだ、カーリー(Kali)」
 カーリーと呼ばれた少女の名前は、中山 梓という。
 再編成されたMaha・Karaの陸強襲部隊Saurva隊の副長を若干18歳で務める。
 と、言っても副長に任命されたのは、つい3日前である。

 そもそも、梓はアジア全土を襲ったアジア対戦と呼ばれる大規模作戦に参加していたUTL所属の傭兵の一人に過ぎなかった。
 が、たまたま梓の戦っている姿を見たシンがMaha・Karaに誘ったのである。
 6ヶ月間に渡る厳しい訓練とその成果である1ヶ月間のサバイバル訓練を終え、Saurva隊に配属されて2ヶ月、殺した親バグアは200人を超える。
 敵と判断すれば老若男女、例え幼児でも殺す姿に誰ともなし『Kali』と呼ばれるようになった。

 そして3日前いきなりサルヴァから2人いる副長の加えて新たに副長に任命されたのだが、いきなり異動しろと言う。

 まさにKali神並みの激しい気性を持つ梓はサルヴァに食って掛かる。
「あんた、あたしで遊んで楽しいの?!」
 梓の苦情を何処吹くそよ風とばかりに耳クソを指でほじっていたサルヴァが「ふぅ〜っ」と吹き飛ばす。

 ブチッ──何かがキレた。
「こ、殺すっ!」
 アラスカ454を抜いた梓を後ろから羽交い絞めにするシン。
「止めろ、お前が殺されるって! ぐぇっ!」
 シンの顎に頭突きを食らわせ、腕が一瞬緩んだと思った途端に足先を強く踏みつける。
 更に体が離れた僅かな隙に覚醒し、シンに襲い掛かる。
 冷ややかに見ていたサルヴァが口を開く。
「梓。お前の敵はなんだ、俺やシンか?」
 サルヴァの金と黒の瞳が、梓を見据える。

 静かな威圧感が梓の動きを、振り上げた手を止めた。
「──あたしの敵は‥‥バグアだ」
「そうだ。敵を間違えるな」
 はぁーーーっ──大きな溜息を吐くと覚醒を解く梓。

 梓が普段よりイラついているのには訳があった。
 只でさえ色事の噂の絶えないサルヴァが入隊したての梓を副長に抜擢したのを快く思わない輩が『色仕掛けで副長の座を射止めた』と言う噂を流して歩いているからだ。
「副長のお前が下らん噂に耳を傾けてどうする」
「で、でもあんたはあたしを副長に任命してからロクな‥‥」
「『ロクな仕事を与えない』? 下らん。お前の短気が直らん内は兵を任せる訳にいかん」
「だったら‥‥」
 サルヴァに顎を掴まれる梓。
「『だったら何故任命した』か、か?」
 手を離す。
「お前にしかできん仕事をさせる為に対外的な肩書きが必要だったからだ」
「あたしにしか出来ない仕事?」
「そうだ。兼ねてからの懸案事項UTLとの協力体制の確立だ」
 現在、Maha・KaraとUTLは直接的な協力体制を確立している訳ではない。
 UPCやMSIの仕事を請けたMaha・Karaが、UTLと協力しているだけである。

 だが、先を見据えた場合、UTLと密な関係を保つ必要があると考えたサルヴァはMaha・Kara隊にUTLの傭兵専門の受け皿(アンダカ:Andhaka隊)を作る計画を立てていたのだが、サルヴァの予定外の事が立て続けに起こった為に現在もAndhaka隊は現実化に至っていない。(UPC軍人の枠はトリプランタカ隊:tripuraantakaという隊が存在する)

 Maha・Karaに登録するものは、能力者・非能力者に関わらず軍や傭兵経験者はいたが、UTL出身者は不思議と梓だけあった。

「あたしにUTLに戻れって事?」
「違うな。UTLは普通の傭兵部隊と違うのはお前も知っているだろう」
「それは古巣だからね」
 覚醒しなければただの普通人もいれば、職業軍人としての知識や体験を得たものもいる。
 もちろん知識として軍事を学び、新兵よりも兵法に詳しいただの普通人もいる。
「お前はAndhakaに相応しい飛び切りキレた奴を探せ。やり方はお前に任せる」
 編成が終わればお前は正式に副長だ。というサルヴァ。
「うっしゃっ!」
 力こぶしを握る梓。

「ひとつ、注意しておく。Kaliと煽てられたり、俺の『女』だと言われていい気になるな」
 特に俺の『女』というには、ここが失礼だろうが。と、梓の胸を指で突っつくサルヴァ。
 かぁあーーーっ。と梓の顔が赤くなる。
 サルヴァのGFは、皆、胸が大きい。
「あ、あたしは標準サイズだっ!」


 大笑いをするサルヴァに対して怒り乍ら部屋を出て行く梓を心配そうに見るシン。
「いいんですか?」
「さぁな。あいつのバグアを狩るセンスは間違いないく一流の類だろうが、少々短気すぎる。勝手に恨みを買うのはいいが、隊内部が乱れるのは困る」
 Maha・Karaとて誰彼構わず噛み付く狂犬も要らないのだ。
「だからと言って従順というのも困りものだがな」
「海賊には、海賊ですか?」
 シンの意味ありげな言葉ににやりと返すサルヴァだった。

●参加者一覧

鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF

●リプレイ本文

●鯨井昼寝(ga0488)の場合
「──なかなかやるじゃないッ!」
 普段は使えぬ素手による固め技に決め技に選んだ昼寝。
 銃の射程ギリギリをフェイントで移動し乍ら仕掛けるタイミングを測る。
 一方、梓は壁を壊して落とすという奇策を使い、応戦をしていた。
 予想外の梓にゾクゾクとした快感が昼寝の背を走っていく。

「だが、何時までもそれじゃ私には勝てないよ!」
 昼寝は被弾することを恐れず、一気に瞬天速と限界突破を発動して迫る。
 頭上を凪いで行くアーミーナイフを避け、躱した昼寝が梓の手首を掴み、そのまま捻り上げようとするが、同じ方向に梓が体を捻り、そのまま手を払う。

 昼寝を振り切るのは不可能と判断した梓が膝を落とし、構えを取り、短く息を吐くと仕掛けてくる。その梓の腕を巻き込み、腕ひしぎ十字固めをする昼寝。
「降参って言いなッ!」
 獣のような唸り声を上げる梓。
 その瞬間、昼寝の足に激しい痛みが走った。
 梓が昼寝の足にナイフを突き立てたのだった。

「ゴメン。あたし、エキサイトすると歯止めが利かないんだ」
 練成治療を受ける昼寝に恐縮したように梓が言う。
「危ない奴‥‥でも別にいいよ。私が素手でやるって言ったんだから」
 それに面白い戦いができたから許してあげる。と体を動かし、傷の塞がり具合を確認する昼寝。
「ま、次やる機会があった時は、ちゃんと寸止めしてよね」と苦笑いをした。


●黒川丈一朗(ga0776)の場合
 まず、丈一朗は窓のない壁を背に攻撃を仕掛けた。
 梓の投げたナイフを弾き、そのまま一気に接近をする丈一朗。
 足捌きとフォームからボクシング使いと判断した梓が足で石を蹴り上げ仕掛ける。
 飛んできた石を避ける丈一朗に瞬天速で迫った梓のボディブローが、丈一朗のガードの阻まれる。

 リーチの差が不利と思った梓が下がるのを追う丈一朗。
 丈一朗の右ストレートを避けた梓の体がそのまま沈む。
 足払いを警戒した丈一朗だったが、梓の狙いは丈一朗ではなく、一番最初に投げたナイフであった。

 繰り出されるナイフをナックルで弾けばそのまま肘が、肘をガードすれば、そのままナイフが襲ってくる。腕で止めれば反対側の手から銃が突き出されてくる。
 脇をすり抜け、サイドをとろうとする丈一朗を必死に行かせまいとする梓。
 右が駄目ならば左だと左脇を抜け左ジャブ、ボディーやストレートと丈一朗の激しいラッシュを梓も必死に受け止める。

 ──が、手が滑ったのか、突然梓の手から銃が落ちた。
 僅かな動きも見逃さない丈一朗の目が一瞬、追う。
 だが、それは梓の罠だった。
 足払いと同時に体重をかけた梓が丈一朗のベルトを掴んだまま体を倒す。
 柔道で言う大外刈りである。
 受身が取れず、激しく背中を打ち付けた丈一朗が激しく咳き込む。
「負けたな‥‥」
 丈一朗の喉にナイフが突きつけられていた。

「その技、軍隊流か。今度教えてくれ」
 苦笑いし乍ら立ち上がる丈一朗だったが、不機嫌そうなのは梓である。
 少なくとも3発はレバーに食らっていたはずだ。という梓。
「中山は女だし‥‥」
 ガッ──。
 梓の拳が、油断していた丈一朗のチンを襲った。


●セラ・インフィールド(ga1889)の場合
「よろしくお願いします。私はセラ・インフィールドと申します」
 向き合った梓にペコリと頭を下げるセラ。
 調子狂うなぁ。と梓がセラを見る。

 普段の戦闘では「受け」が多いセラであるが、セラは梓と丈一朗の戦いを見て、積極的に攻めるセラ。
 柄の端を持ち、突きをメインに斬りや薙ぎ払う。持ち替えては柄での打撃と、連続技で梓を追い詰めていく。
 梓が銃を構えればセラがそれを防がんと風車のように槍を回す。

 だが、それを見て怪訝そうな顔をする梓。
「あんた、まさかそれで銃弾弾き飛ばせるとか思っていないよね?」
「無理ですか?」
「秒速300m以上で飛んでくる弾がそんなもんで防げる訳ないじゃない」
「駄目ですか?」
「当たり前よ!」
 戦意を消失した梓が負けを告げる。

「‥‥まだまだ改良の余地はありそうですね。ありがとうございました」
 礼を言うセラを見て、
(「テクはあるのに‥」)
 梓は残念そうに溜息を吐いた。


●オルランド・イブラヒム(ga2438)の場合
「ゴーグル?」
「そうだ。俺と戦いたいならゴーグルをしろ」
 目を痛めれば後の訓練に差し支えても困る。と指摘され、渋々ゴーグルをつける梓が建物の中に入っていくのを確認するとオルランドは控えの弾倉にペイント弾を詰めていく。
(「さて‥‥脳筋娘は何を見せてくれるか‥‥」)

(「──何処へ行った?」)
 壁を背に移動をするオルランド。
 疾風脚を使い、襲ってきた梓の腕・足を狙い、牽制を繰り返したオルランドであったが、そのオルランドに対して先程からピタリと梓の攻撃が止まっている。
(「こちらの狙いが読まれたのか?」)
 障害物を利用しながら周囲を警戒する。
 隠密潜行を使用している以上、梓がオルランドを発見できる可能性は皆無に等しい。
 こちらに背を向け何かをしている梓を発見するオルランド。
 梓の背に銃口を向けた途端、ビクリと梓が反応する。
 スコーピオンが梓のいた場所に穴を開けていく。
(「瞬天速か!」)
 オルランドに微妙な焦りが生まれるのを感じていた。
 何故ならば梓は一度も銃を抜いていないのだ。

 カッ──
 背後に起こった音に振り返り銃口を向ける。
 が、何もない。

 カッ──
 今度は右である。

 小さい音がする度にオルランドは銃口を反射的に向けるが何もない。
 音を立てオルランドの反応を見るつもりなのだろう。
(「ただの脳筋じゃないって事か‥‥」)
 だが、音の位置から逆に梓の位置が割り出せる。
(「あそこか‥‥」)
 静かに部屋の外に出て回り込もうとした瞬間──ジャリ!
 砂利を踏み音を立ててしまったオルランド。
(「こっちが本命か!」)
 銃弾がガンガンと飛んでくる。
(「そっちが奇策ならこっちも手加減なしだ」)
 弾倉を入れ替えるオルランド。

 噂の通り梓がMaha・Karaメンバーならば、いざという時に備えて全弾撃ちつくすということはないだろう。
 梓を罠にかける為にワザと姿を晒す。
 梓が、疾風脚でジグザグに向かってくるのが見える。
 オルランドは今までの足とは違い梓の顔に向かって連射した。
 ペイント弾がゴーグルを染め上げ視界を奪う。
 足が止まった梓に容赦ない攻撃が加えられた。

「やられたぁ〜。ゴーグルは罠かぁ」
 座り込む梓。珍しく18歳らしい顔を覗かせる。
「‥‥すまん。スナイパーではこういう手しか無くてな‥‥」
「いーよー。ちゃんとした作戦だもん。引っ掛かったあたしがバカなんだから‥‥」

 がっくりと言う梓がオルランドに小さなコイン「アンダカの瞳」を投げてよこした。
 密教彩画風に色鮮やかな3つの目が描かれた銅貨である。
「なんだ?」
「今度、ウチの隊でULTと協力体制を張ることになってね。新設される隊の認識票」
「梓の隊‥‥」
「Kara・Karaってとこだよ。あたしはSaurva班で歩兵をやっている」
 気が向いたら顔を出してよ。と言う梓。

 オルランドは手のコインを見つめる。
「‥‥働く場所が変わるだけだな」


●緑川安則(ga4773)の場合
「ふーん、梓ちゃんねえ。いいぜ。こっちとら知り合いとのテストが終わったばかりだからな」
 と明るく答えた安則だったが、フロアで会ったわずかな時間で、
(「銃とナイフを使うグラップラー。銃と格闘を使うカンフー‥‥いやガンフー使いといえばいいかな?」)と梓を分析する。
 まあ、何とかなるだろう。と判断した安則は積極的に梓を攻める。

 一方、梓は防戦一方である。
(「梓ちゃんの狙いは、こっちが全弾撃ちつくした所か?」)
 そう安則が予想した通り、弾が途切れた途端、梓が疾風脚で突っ込んでくる。

「装甲がグラップラーより厚いのが自慢なんでな。当たれば痛いぞ。この一撃は」
 その顔面に向かってS−01を投げると同時に瞬速縮地で一気に間を詰める。
 そのまま流し斬りに持ち込み二段撃を仕掛ける安則。

 だが梓も警戒していたのだろう。
 S−01が顔面にたどり着くとほぼ同時に脇に回りこんだ安則に向かってS−01をはじき返すと真後ろに飛び去る梓。刃先は服の切り裂き、赤く血の筋が見える。
 安則は梓がそのまま逃げるのかと、一瞬、閃光手榴弾に手を掛けたが梓はその場に残った。

「ほう、やっぱりグラップラー。当たらなければどうということはないとかいいそうだな」
「あんたの特殊能力は全部見せて貰った。今度はあたしが攻める番だ」
「言うねぇ‥‥でも俺もプロだからね」と安則。
 梓の攻撃を受けではなく瞬速縮地を活用した突撃で対抗する安則。
「はは! 楽しいぜ! 高機動戦闘なんざキメラ相手には早々できないからな」
「じゃあ、こういうのはどう?」
 距離0から膝に向かって撃つ梓。剣では防げぬと一瞬動きが止まった安則の閃光手榴弾を狙う梓。梓の手を柄で打ち、慌てて後ろに飛びのく安則。
「おいおい、泥棒かよ」
「あたしの辞書には『使えるものは何でも使え』っていう文字しかないわよ」
 両手が塞がっているあんたよりあたしの方が有効に使える。と言う。

「でもタイムオーバー」
 そういってナイフを収める梓。
「なんだ、もう終わりなのか?」
「これでも結構忙しいのよ」
 ポーチから取り出したアンダカの瞳を投げる梓。

「暇潰し位にはなるわよ」
「ふーん‥‥」
 クルクルとコインを回す安則。
「いいぜ。梓ちゃん自身にも興味わいたからな。隊長のGF奪うっていうのも悪くねえ」
 ブチっ──地雷を踏んだ安則がこの後どうなったについては公式の記録はない。


●カルマ・シュタット(ga6302)の場合
(「さて、実力に自信があるのか、無謀者の類か‥‥どっちにしろ油断はしないでいこう」)
 カルマに勝負を挑んだのは、一見、どこにでもいそうな10代後半の少女に見える梓である。
 万が一顔や体に傷がつけたら大変だろうと穂先に布を巻くカルマをかなり不満そうに梓は見ていた。

 カルマは開始同時に先手必勝を仕掛けた。
 梓の弾が肩に当たる。
(「くそっ、この間の依頼設定のままだったから避けるしかないか」)と口の中で呟く。
 フェイントをしても躱しきれずに何発か当たる。
 だが、被弾を恐れず進むカルマ。
 矢次早に繰り出されるカルマの蹴りや足払い、鋭い突きを逸らし躱していく梓。
 ならばとフェイントと豪破斬撃を付加しての突きを織り交ぜ梓を攻撃する。
 じわじわと梓を押すカルマ。

 瞬速縮地を使い、距離をとる梓。
(「かかった‥!」)
 銃を構える梓にソニックブームを放つ。
 だが、次の瞬間梓がカルマの前にいた。
「‥‥奥の手を取っておくのもいいけど、使い方は考えたほうがいいよ」
 カルマの槍を構える手を握り、脇腹に銃を突きつける梓。
「なんで判った?」
「あんたがショットガン20を持っているのに槍を使ったから‥」
 カルマの装備は不自然であると言う梓。
「ショットガンを使っていたら奥の手には気がつかなかったと思うよ」


●古河 甚五郎(ga6412)の場合
 建物に仕掛けた鳴子が鳴った。
 物陰に隠れながら予定の場所に梓を誘い込むべく移動を繰り返す甚五郎。
 砂錐の爪は足に付け替え、エネルギーガンは手に結索すると【OR】軍用リバーシブル迷彩ポンチョ(払下げ品)を被り直して部屋の外に出た。

 カラカラと鳴子が甚五郎を追いかけてくるのを確認し部屋に滑り込み、梓を待つ甚五郎。
 障害物を利用して回り込もうとする甚五郎。
 時折、瞬速縮地で斬り込んで来る甚五郎の爪をナイフで受け流す梓。
 どうやら甚五郎の消耗を待つ作戦らしいが瞬速縮地は瞬天速に比べて練力の消費が少ない。
 受け一方の梓に焦りが見える。

「神経過敏気味のあなたには、コレをあげます!」
 携帯した閃光手榴弾を取るとピンを抜き、投げる甚五郎。
 激しい光が部屋を被うと同時にエネルギーガンで梓の腰下を、走りよって爪による獣突のコンボと徹底的に足止めを狙う。
 回避が間に合わず後ろに弾き飛ばされた梓の落下ポイントに瞬速縮地で移動した甚五郎だが、落下してくる梓は怪しい笑みを浮かべていた。
「今度はこっちの番」
 ドカドカと容赦ないアラスカの攻撃にポンチョに大穴が開く。
「た、高かったのに‥‥」

「その大事なポンチョ、裏表逆よ」
 その言葉に慌てて裏表を確認する甚五郎。
「‥‥なんて、作戦です♪」
 ポンチョを投げる甚五郎。
「残念。タイムオーバー」
 フッと梓の姿が消えた。

 慌てて甚五郎が窓の外を覗くと出口に向かう梓がいた。
「負けるの怖いんですか!」
「実戦で負ける以外はどこで負けても構わないんだけど、あんたの実力は判ったし、ね」
 しばらく考えた後、梓が言う。
「あんた、もし良かったらあたしと同じSaurva班に入らない?」
 その気になったらサルヴァに口を利いてあげる。と笑った。
「尤もウチの班は必要があれば『民間人』ごと町を焼くクズの集まりだけどね」


●錦織・長郎(ga8268
(「かなり分が悪そうだが‥‥まあ、頑張ってみるかね」)
 狩るべき目標が、あの悪鬼ならば得意不得意は言ってはいられない。
 昼行灯を返上し、毒蛇になるしかないだろう。と、覚悟を決めての手合わせである。

 梓は開始と同時に間合いを詰めるだろうと判断した長郎は、隠れたい地より移動し、背後を取られないように壁際まで後退する。
 フェイントを繰り返す梓の行動を予測し、デヴァイテスターを連射する。
 デヴァイテスターの良い所は、リロードが出来ることである。
 素早くリロードし、再び梓の足元を狙い、コンクリート片を跳ね上げる。

 梓の動きがゆっくりとなった──。
(「掛かりましたね」)
 デヴァステイターを打ちながら、梓が長郎の正面に来るように誘う。
 攻撃によるフェイントからタックルに、そのまま回り込もうとした長郎の背に向かって、容赦なくナイフのグリップが叩き込まれた。
 己の戦術と判断が足らない部分があったのだろうが、予測より早く襲ってきた激しい痛みに咳き込む長郎だった。

 手合わせの礼を言い帰ろうとする梓を引きとめ、茶を勧める長郎。
「君は、やはりアレかね。復讐が理由かな? その気迫は、執念有ってこそ成し遂げるものだろうしね」
 長郎の言葉を聞き、梓は声なく笑った。
「違うのかね?」
「復讐なんてウザいよ‥‥」
 誰かを殺して怨まれるのは、バグアだけじゃない。と笑う。

 茶の礼を言い、去る梓。
 手をつけずそのまま残った茶を見る長郎。
「殺人が過程ではなく目的としている者‥‥暗殺者の目か‥‥」




 Maha・KaraのLH事務所の机で突っ伏す梓。
「人集めって大変‥‥これじゃあ当分副長はお預けだよ」
 溜息を吐く梓だった。