●リプレイ本文
●An empty guard
「ファイターの仮染です。今回はよろしくお願いします」
MSIのCEOダニエル・オールドマン(gz0195)の緊急警護召集された傭兵ら15名が滑走路の上で簡単な挨拶を交わす。
台湾桃園国際空港(RCTP)からバンガロール国際空港(VOBL)までの長丁場をKVで飛ぶのはその内の10名。
初期ロッテ編成は次のようになる。
・美空(
gb1906)×抹竹(
gb1405)
・舞 冥華(
gb4521)×ケイ・リヒャルト(
ga0598)
・古賀 甚五郎(
ga6412)×仮染 勇輝(
gb1239)
・秋月 九蔵(
gb1711)×霞澄 セラフィエル(
ga0495)
・イスル・イェーガー(
gb0925)×レベッカ・マーエン(
gb4204)
これに直衛のディアブロ2機が加わり、専用機を取り囲むように擬似方円陣を編成し飛んでいる。状況に合わせてシュヴァルムに編成を組み効率化を図る。
「MSIのお偉方‥‥‥無事送り届けたいものです」と言うのは、白地に青のラインの入ったアヌビスを愛機とする抹竹。
「機内は‥‥狭いところまでは見ましたからね‥‥もっとも‥‥どこに何が潜んでるかわから無いですが‥‥中のメンバーを信じましょう‥」
そういうのは指揮を担当するイルス。
離陸までの僅かな時間であるが、全員で専用機の内外をチェックし、その際、ケイが操縦士の上着に張りついていたキメラを1匹、抹竹が車輪を這い上がっているキメラを2匹発見。駆除していたが、まだ何処かに紛れている可能性は捨てきれない。
「ロングボウは鈍重なので、抹竹さんにはご迷惑おかけしますがよろしくなのですよ」
「こちらこそ。このまま何事も無ければいいですが。そうは問屋がなんとやらでしょうかね」と返す抹竹。
「あんさつなんて悪いことで死んじゃうの可哀そうだから、冥華とふぇいるのーとでがんばってごえいする」と冥華。
「そうね。必ず無事に送り届けてみせましょう」とケイ。
「冥華のふぇいるのーと紙装甲だから守ってもらう。けいいいひと」
にこぱーっと笑う冥華。
一方、大規模作戦でUK護衛の経験がある九蔵であるが、通常の依頼では初のKV戦である。
さて、どうした物か‥‥と思っていたが、パートナーである霞澄から「やる事は大規模作戦と変わらない」とアドバイスを受ける。
「もっとも専用機は民間機である分ずっとUKより防御力は弱いはずです。UK以上に注意が必要ですね」
「霞澄さんの言うとおりね」
747型大型ジェット機の装甲は民間レベルでは高い水準だが、それでも未改造の岩龍装甲より遥かに薄い。
「HWもキメラも近づけないのが一番。駄目ならバラバラにしなくちゃ駄目ね」
心配は何処までもつきないでいた──。
●Strange Animal
一方、CEO専用機に乗り込んだ傭兵は5名。
「私はこういう依頼は初めてですが‥護衛対象がお偉いさんとなるとやはり緊張しちゃいますね、ちょっと」
つい喋る言葉も小声になるのは、護衛任務は傭兵向きの仕事だと参加したフィアナ・アナスタシア(
ga0047)である。
「でも暗殺なんて‥‥大企業のトップともなると大変ですよね」
「暗殺、ねぇ‥‥‥古典的なやり方だな」
「でも、黙っていても敵から狙われる立場にあるなんて羨ましい。私なんて戦いたければわざわざ依頼を請けなければならないのに」
キムム君(
gb0512)と鯨井昼寝(
ga0488)の一言は部屋の隅に立つSPに聞こえたのか、ジロリと睨まれる。
「メガコーポのお偉いさんを見るのは初めてなのであります、緊張するでありますよ」
後でサインが欲しいと言う美空。
ダニエルを珍獣扱いしたのは強ち間違っていないのだ。
楽しくディアブロの話を語ろうと思っていたキムム君は何から何迄予定外で踏んだり蹴ったりであるが、休憩位は取るだろうと持って来た文庫本『暗殺〜歴史の裏で〜』を読み乍らチラチラとダニエルを盗み見ていた。
「あー‥‥狭い場所で同じ格好は疲れるぜ」
そう言い乍らリビングに戻って来たのは、ハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)と交代で操縦室から戻ってきた須佐 武流(
ga1461)である。
「腹減ったぁ〜何かない?」と尋ねるのが聞こえたのだろうダニエルが顔を上げた。
「貴女はKF−14改を使っているそうですが、ビーストソウルは駄目ですか?」
「やっぱり機動力がね。プレゼントしてくれれば乗り換えてあげても良いけど」
「俺はディアブロを買おうかと検討しているんですけど‥‥」
ゼリーやチョコで腹を満たしているKV担当者にばれたら恨まれる事間違いない贅沢な専用シェフの料理に舌鼓を打ちながら会話が続く。
機内組は食後のデザート迄しっかり堪能した後、武流は体力温存とごろりとソファーに寝転び。
残り3名は、しばしのお楽しみの後、引き続き10分交代で覚醒し周囲を警戒を続けていた。
●An ominous bird invasion
バンガロールへの航程の凡そ半分、ビエンチャン上空に差し掛かると低配されたタンカー(II−78)2機とのランデブーである。
襲撃を恐れて給油は2ロッテずつ。
まずは一番最初に直衛機と九蔵、霞澄が給油に向かう。
次に美空と抹竹、甚五郎と勇輝。
最後に冥華とケイ、イルスとレベッカが向かう予定であった──。
だが、敵もそのタイミングを待っていたのであろう。
霞澄が懸念していた通り、最悪のタイミングで4時方向からHW、2時から鳥キメラが同時に襲って来た。
「‥‥敵機接近確認、迎撃に移ります‥‥各機、ロッテ、フォーメーション確認‥‥!」
イルスの指示に給油の済んでいる九蔵と霞澄、甚五郎と勇輝がロッテを岩龍2機、R−01とアンジェリカにすばやく組み直し、甚五郎の岩龍と効果が被らないようにと後方に下げる九蔵。
「敵機発見! おいでなすったか」
「まあ‥やるしかないという事で‥」
フルタンクのアンジェリカとR−01が前に進み出る。
冥華とケイ、イルスとレベッカの4機は、まだタンクにまだ半分しか給油が済んでいない状況であるが幸いなのは空域が人類圏である事だろう。燃料が尽きても最寄の空港には着陸が出来る。「ふぇいるのーとはまだおなかぺこりんですが、わるいひとちかづけないです」
「金欠でねぇ‥‥護衛機が落とされるのも自分が落ちるのも困るんだよ、だから悪いな、堕ちてくれ」
支援のみの予定が狂ったと九蔵が苦笑いをし乍ら戦闘準備に入る。
鳥キメラは頭部に人面が多数ついており、ジロリとその眼がすれ違いざまに睨んでいく。
「相変わらず気色悪いことを‥‥」
「特攻で強引にってこともある‥‥‥とっとと退場してもらうか!」
「このギガブラスターミサイルの威力をもってすれば、HWなんて、うふっうふっうふっ‥‥」と美空が嬉しそうに笑う。
「しっかり引き付けっからな。しっかり頼むぜっ」
「さぁってっと、トリガーハッピーに逝こうじゃないか」
専用機に向かおうとするHWをレベッカのAAMが襲う。
落とし易い専用機はキメラに任せ、邪魔なKVを排除せんとHWが向かってきた。
ここまでは傭兵らのペースであったが、戦闘は一気に乱戦の相を要する。
通常、フォーメーションを取らないはずのHWはケッテを崩さず、シュヴァルムを組むKVの隙間を接触ギリギリですり抜けていく。
「伊達と酔狂でお偉いさんを狙ってくる訳じゃないって事ですか」
長時間の戦闘は補給が中途半端なったバグア側が不利になるが、数と火力ではKVが優位である。
それでも慌てず1機ずつを丁寧に切り離し、焦らす様に振り回していく傭兵ら。
「さぁ鬼さん、あたしはこっちよ」
ケイがHWの照準を上手く外し乍ら冥華の前にHWを誘い出す。
「冥華、今よ‥ッ!」
「ついんぶーすと・みさいるあたっく」
ぱんておんはっしゃ。と冥華がボタンを押す。
HWから黒煙が上がり、止めとばかりにケイがレーザー砲を放つ。
一方、傭兵らの隙を突き、専用機に突っ込んでいこうとするのは鳥キメラである。
「こいつを落とさせるわけにはいかねえんだよ!」
行かせまいとその顔面に向かって勇輝が突撃仕様ガドリング砲を放つ。
丁寧にHWを攻撃する霞澄と、
「うひひ、怖い怖いっと」
キメラのスレスレを霞め飛ぶ九蔵。
煙幕弾を上手く使い、AAMで支援をする甚五郎。
岩龍2機と、R−01とアンジェリカはクルクルとロッテを組みなおし、HWと鳥キメラの間を駆け巡る。
イルスの指示に従い、効率よく攻撃の編成を変えていく傭兵達。
「‥‥流石に当たらないわね」
火力は強いが高速で細かく動くHWには向かないと早々に対戦車砲を諦め、レベッカは高初速滑腔砲に切り替え攻撃する。
「にゃんこみさいるはっしゃ!」
「大人しく散りなさい‥‥」
冥華とケイのミサイルがHWを徹底的に破壊する。
細かい破片になったHWが地上へと落下していく。
HWを先に片付けた傭兵らは、直衛機が食い止めていた鳥キメラの片付けに向かう。
「キメラ如きはミサイルでどかんどかーんなのです」
「あいよ。突っ込むぜっと」
美空のD−01ホーミングミサイルと抹竹のAAMが当たる。
ギャッ!──と叫んだ鳥キメラの体からバラバラと何かが落ちる。
「今の何んですか?」
確認しようとする二人にお返しとばかりに炎が吐き出されるが、さっと散開して避ける。
どうやら鳥キメラにくっついているのは対人キメラの束らしいと直衛機から報告が入る。
「専用機の起こす気流を利用して取り付かせようという魂胆なんでしょうか?」
ロクでもない事をよく次から次へと考え付く。と感心しつつも、エンジンや操縦席に当たればバードストライクならぬワームストライクを起こす可能性は0%ではない。
「ここは通さないであります。このロングボウ踏み越えられるものなら越えてみるがいいであります」
なるべく遠くでキメラを落とそうとする傭兵ら。
──眼下にインド洋が小さく見えた。
異変に気がついたのは、イルスである。
「全員、注意! 専用機が上昇する!」
巨大な専用機が機種を上げ上昇して行く。
「どうしたっていうの?」
●Attention Please
騒ぎ等意に介さないように目を瞑って座っていたS・シャルベーシャ(gz0003)が突然目を開く。
「どうかしたの?」
ほぼ同時に機体トラブル発生と言うアナウンスが突然流れた。
固定されていない皿が割れ、書類が舞い散る。
急上昇と急降下を繰り返す専用機。
インカムから操縦士らの慌てぶりが聞こえてくる。
「おいちゃんは何処に行くんだ?」
客室乗務員にスーツの上着を預けたサルヴァが何処かに行くのを見て武流が声を掛ける。
「フラップが片方降りん」と短く答える。
レバーを操作しても機体を振っても降りないフラップ。
倉庫の床を剥がして機械部に入り込み恐らく切断されただろう油圧ケーブルの接合を試みのだという。
「んじゃ、俺も着いて行く」
元々人が少ない場所に行くつもりだったのだという武流。
「それにパイロットに万が一があったら飛ばせるのはおいちゃんだけだからね」
守ってやるよ。と武流が言った。
リビングに残った3人の鼻に焦げた臭いが漂う。
「来たな‥‥‥相手をしてやろう」
「そこっ!」
ぼとりと天井から落ちて来たキメラに疾風脚で迫りシュナイザーで両断する昼寝。
それをきっかけに壁を食い破り出現するキメラ達。
「団体でお出ましね♪」
昼寝が得物を見つけた猫のようにニヤリと不適に笑う。
「ざっと20匹って所か。さて‥‥‥例の『アレ』を試すか」
最近研究をしているフェイントを交えた剣技『夢道剣(仮)』を試す事が出来ると研究熱心なキムム君が言う。
「直接触りたくない相手ですね‥ですがこれもお仕事です‥‥」
もぞもぞと動き、鎌首を上げて威嚇をするキメラは別の意味でゾッとするフィアナ。
SPと乗員らがダニエルと秘書を守っているので3人は攻撃に専念出来るので楽と言えば楽だが、それでも油断は禁物である。
「どんな手があるやもれません、距離を取って急所を突きましょう」
フィアナがイグニートを振り回し、迫るキメラを払う。
昼寝が投げたブランケットを酸を飛ばして解かすキメラをシュナイザーの爪が引き裂いていく。
「俺も負けてはいられないな」
相手を惑わすようなステップ『夢幻踏』からフェイントでキメラの攻撃のタイミングを外すキムム君。
「甘い、『霊夢斬』!」
ザクリとバスターソードを突き立てた。
***
HWとキメラを退け、無事ダニエルをバンガロールに送り届けた傭兵達。
専用機から降り立ったダニエルにここぞとばかり質問をする。
「三人目の世界の名を冠する騎士は海の中を行くのか?」
「あんまり勿体つけると、実際のお披露目の時に『な〜んだこんなもんか』ってなっちゃうわよ」
レベッカと昼寝の言葉に苦笑するダニエル。
「2大洋制海と海底資源。亜州と豪州の喉元‥‥都市鉱山奪還もしません?」
甚五郎が言うようにバグア占領域または競合地域は、燃料資源だけではなく鉱物資源生産地が多く含まれている。海底資源の採掘・開発にも各国が力を入れているが、それとてまだ微々たる生産量である。
「魅力的なお誘いですね。尤もそれは我々だけではなくメガコーポレーション全体に言える事でしょうがね」
そう言って車に乗り込むダニエル。
空港を去り行く黒塗りの専用車が見えなくなった所でキムム君が叫んだ。
「あ、しまった! 『戦闘データ』を貰い損ねました〜」
最後までついていないキムム君だった。
尚、甚五郎が提出したハート付き便箋に書かれた報告書は、後日サルヴァから添削がつけられ返却されたが、それによりあらぬ噂がたったかは誰も知らない。
●Joint press conference
突如開かれた緊急合同記者会見であったが、関係者の口は重く。杳として実態が掴めない【G3P】への関心は強く、集まった記者数はそこそこであった。
会場に奉天の趙 静蕾(ツァオ ジンレイ)女史らが姿を現し、フラッシュが花開く中、ダニエルの口から【G3P】は3社が共同で建設中である全長2600mのUK3番艦「巨大潜水空母『轟竜號』」の開発コードである事が語られる。
「今、このタイミングで水陸両用ではなく『水中専門』のUKを製造する意味はなんでしょうか?」
「既に空の要である1番艦。空と水中のアクティブに動く2番艦が存在します。軍の所有する強制上陸艦が優秀と言うのも有りますが、現実問題としてUKという巨大な兵器が上陸出来る浜辺というのは限られています。それよりは『海』限定とする事により運用の幅が広がると我々は考えています」
UK3番艦への質問は様々上がったがバグア側への情報漏洩を恐れ、公開された内容は少なかった。
──正式お披露目時のお楽しみ、と言う所である。