●リプレイ本文
北熊本本部に置いてあった資料に東峰村は、夏には蛍が飛び交う自然豊かな山村とのみ記載されている。
「ふむ。‥‥この辺鄙な場所へ、このような仕掛けで来るとは‥近くに軍事基地でもあるのか?」
ヴィンセント・ライザス(
gb2625) が地図で見る限り、山ばかりで戦略的に意味のある拠点には到底見えなかった。
福岡県と佐賀県にあるUPC軍(旧自衛隊)駐屯地の内、唯一稼動しているのが築城基地のみ。駐屯地から避難して来た一部燃料や車輌(戦車や自走砲を含んだ特殊車輌)が日出生台演習場に集まっているが、それとて東峰村から30kmという近距離である。と担当官から教えられる。
「臨時補給基地として機能する演習場を攻めるのならば‥‥」
東峰村を攻撃する理由が増々理由が判らない。と首を捻る。
「‥‥意図を理解しかねます。何故、こんな‥‥」
耀(
gb2990)は、何か見落としが無いかと軍の資料を捲る。
「ところで問い合わされたKVの補給に関しての離発着できそうな場所ですが‥‥」
「まさか『ない』の? 弾薬補給とか燃料補給とか、日出生台まで戻らないと不可能なの?」と焦るのは狐月 銀子(
gb2552)である。
落下のタイミングが不明である以上、日出生台までの往復4分+(プラス)補給時間は長い。
現場での補給が出来なければHW落下を100%止める事は難しいかもしれない。
「いえ、全く不可能と言う訳では無いですが‥‥」
廃校のグランドに日出生台演習場から燃料と弾薬を運び、利用することが可能だと言う。
「ビビらせないでよ」と安堵する。
サイレントキラーや旋龍が哨戒する中、すでに補給部隊は出発していた。
「じゃあ、後は俺達が大村に向かえばOKなんですね」
「ええ‥‥」
傭兵らに説明する担当官の表情は優れない。
「出発前にこんな事を言うと不安にさせるかも知れませんが──」
本件は元々北熊本本部に掛かって来た匿名の電話で発覚したが、余りにも軍事的な信憑性が薄かった為に上層部もギリギリまで判断が着かず、傭兵らに回って来たのだと担当官がこっそり教えてくれた。
「こんな変な一件は、そうありません。罠の可能性も有ります。充分、注意して下さい」
──これが3時間前の事である。
敵の妨害らしい妨害を受けずに東峰村に到達した傭兵ら。
「まさか、私がマネージャーするとは意外ですにゃ☆」
ウーフーで上空を警戒する「やぴ☆やぴ☆」こと常夜ケイ(
ga4803)が、芸能界の厳しいスケジュール管理で鍛えた能力を発揮して各機の管理を行う。
A班 雫、耀
B班 伊織、ケイ、刑部、ヴィンセント
C班 サヴィーネ、長郎、小町、銀子
作戦の流れてとしては、リロード武器で固めたAを中心にBC各班が組み、東峰村上空を絶えなく守る形になる。ファーストアタックはB班を主軸においたAB班でのコンビネーション攻撃である。この時C班は周辺空域を警戒し乍ら待機する。HWへの攻撃により弾残や燃料残が厳しくなったBが補給で離脱をしている間は、C班が中心となり、攻撃に隙を与えないという戦法である。
「バクアという物は、よほど資源が有り余っていると見える。機体を爆弾として連投するとはな」
「‥‥こんな‥綺麗な所に‥‥HWを‥爆弾代わりに、空から、村に落す‥‥なんて‥‥!」
美しい山々を見る程にバグアの手の上で弄ばれる感覚に襲われ、菱美 雫(
ga7479)の心を乱す。
「‥‥この前、芦屋基地で接触した‥‥あの、ウォンという男‥‥これも‥‥彼の、仕業でしょうか‥‥」
東峰村は春日バグア基地から凡そ45km、芦屋基地から僅か56km程しか離れていない。
人の心を弄ぶ──あの、バグアのアジア・オセアニア地域の統治官と名乗った男ジャッキー・ウォンが絡んでいる可能性が充分ある。
「だとしたら‥‥尚のこと、許せない‥‥ッ!」
この作戦にも参加している錦織・長郎(
ga8268)共々、芦屋基地偵察に参加した雫らは1万の市民を人質に取られた芦屋基地残存兵と銃をまみえていた。
対バグア用に改良しているとはいえ既存の兵器とKVで戦いにならないが、芦屋基地の兵士が傭兵らにより全滅しなかったのは、ウォンが意図してKVが離脱するのを止めなかったに他ならない。
(「──忘れることなんてできない‥‥芦屋の基地で、兵士の方を巻き込んで攻撃した‥‥あの感覚を‥‥‥!」)
ゾディアックとは明らかに違うウォンの絡み付くような不快感がいつまでも残る。
(「だから、今度は‥‥‥‥絶対に、守るの‥‥‥!」)
──指定された時刻丁度に10機のHWが現れた。
能力者達のKVに攻撃を加える事なく綺麗に一列に並んでいる。
落下開始を待つ間でもなく破壊しようと照準を合わしたり、一定の距離以上KVが近付けば、HWは攻撃もせずにワラワラと散開し、別の場所で隊列を整え直す。
「攻撃しないで逃げる?」
「武器の代りに爆発物でも積んであるんでしょうかね?」
「ふざけた事してくれるわね‥‥その余裕が腹立たしいわ」
その余裕、すぐに剥がしてあげる。と銀子。
「爆弾なら好都合です。山の自然を壊さないようにHWは細かく全部粉々にしてやりましょう」と榊 刑部(
ga7524)が言う。
「焦る事はない。奴らが何を考えていようが私達は敵を潰すだけだ」とサヴィーネ=シュルツ(
ga7445)が言う。
隊列の中から1機が前に進み出る。
「さあ、狩りの時間だ」
10m程進んだHWが突然カクンと電池の切れた玩具のように自由落下を始める。
まず仕掛けたのは、ケイのウーフーである。
物理、非物理どちらの攻撃が効果が高いか調べる為にヘビーガトリングと3.2cm高分子レーザー砲を交互に放つ。
張りつくようにモニタを睨んでいたケイ。
「むぅう‥‥‥レーザーの方が効果ありにゃ!」
刑部のロジーナはミサイル等の物理兵器中心である。
「折角、調べて頂いたのですが‥‥」と苦笑いをするのは刑部。
続けざまの127mm2連装ロケット弾ランチャーがHWに穴を開け、鳴神 伊織(
ga0421)のシュテルンが更にAAMを撃ち込むとHWは飛散する。
普段であればこれでお終いだが、破片の落下地点をずらす為に大きな破片に向かって攻撃を加える伊織。
1機目が爆発したのを確認したように2機目のHWが落下を始める。
地上で待ち受ける3人の中で一番レンジの長いヴィンセントのロングボウが、まず仕掛ける。HWの角度に注意し、220mm6連装ロケットランチャーを放つヴィンセント。
新型複合式ミサイル誘導システムに誘導された重い一撃を腹に食らってHWが火を吹く。
「‥‥さすが大型ワーム用と言う所か」
バラバラになったHWをさらに粉々にするべく追加攻撃を与えるのは、雫のウーフーと耀の岩龍である。H−112長距離バルカンと3.2cm高分子レーザー砲で畳み掛けるように撃ち込んでいく。
すぐ落ちて来ない3機目に警戒し乍ら感じていた疑問に傭兵達は回線をオープンにする。
「むぅ‥‥強度、爆発規模は一般的な小型HWを変わらない様に見えるのにゃ?」
「反撃が一切ないなんて‥‥何か意図があるんでしょうか?」
ケイが仕掛けた時、他のHWのプロトン砲の射程内であったのだが、ただ見ているだけであった。
「推察するに、この無意味に見える『HWの流星逆落とし』をバグア側が行うのは例の統治官が絡んでいるのかも知れませんね」とボイスレコーダーのスイッチを止め、長郎が答える。
長郎から出た『統治官』という言葉に雫がビクリと反応する。
「やはりあの男が‥‥!」
確信はないが確率は高いだろう。と長郎が言う。
「‥‥ジャッキーという統治官は、悪趣味な処がある意味僕と似ているかもしれない」
そう前置きをして長郎が続ける。
「まあ、僕も彼の立場なら面白がってやるかもしれない」
「つまり向うにしてみれば『ゲーム』って事?」
多分。という長郎の返答に、
「随分とふざけた真似をしますね‥‥」
「弄るのは好きだけど、玩ばれるのは嫌なのよね。むかつく‥‥」
「ほんまや。バグアは元々いけすかん奴やけど余計腹立つわ」と烏谷・小町(
gb0765)。
ここにこうしている事すらウォンの思惑の一部である可能性は捨て切れないが、見捨てるには今は貴重になった自然溢れる山々である。
「ふん、今のうちに舐めていろ‥‥マスター気取りもそこまでだよ」
一泡吹かせてやる。とサヴィーネが鼻を鳴らす。
サヴィーネを「おねえちゃん」と慕う耀がサヴィーネのコックピットを覗いたならばいつもより髪が一層赤く燃え上がったように見えたかもしれない。
「全部墜として必ず阻止してみせますよ。これ以上バグアの好き勝手にさせる訳にはいきませんから」
「絶対、バグアの‥‥‥‥思い通りになんか、させないっ!」
きつく唇を噛み締める雫。
傭兵らの話が終わるのを待っていたかのように3機目が落下した。
3、4、5機と続けて叩き落とした所でB班のリロードが効かない一部装備が弾切れである。
「くっ‥‥これで全部か‥‥補給に戻らなければならんな」
悔しそうに言うヴィンセント。
「後は任された。安心して補給に戻ってくれ」
「B班の皆が戻って来る間も1機たりとも落させないから安心してください」
「そうそう。全部落とされたらうちらの面目が立たんよ」
「判った。なるべく急いで戻る!」
空域を離脱していくB班4機。
「さぁて選手交代、頑張ろう!」
「皆さん、距離に注意して下さいね」
耀がC班メンバーに呼び掛ける。
スゥ──と6機目のHWが進み出る。
「バグアにしては『律儀』なんかもしれへんけど、こう足元を見られると腹立つわぁ」
「遊びが過ぎると火傷するって教えてあげなきゃいけないね!」
C班も射程の面から先に空戦担当の長郎と小町、銀子がアタックを掛け、その後地上担当者のサヴィーネがロングレンジで攻撃を加える手筈である。
ソードウィングの効果を見たい長郎のバイパーが一番手である。
高改造をしたソードウィングであればFFごとHWを切り裂く事もできるだろうが、今回手に入れたばかりである。
AAMとスラスターライフルでしっかりFFを弾き、ソードウィングの効果を見たいのだという。
「錦織さん、ちゃっかりしとるねぇ」
「僕も色々試してみたい事も有るし、向うがそのつもりなら好きに迎撃して彼の思惑は断たせて貰うだけです」
では、お先に。と落下するHWに向かって行く。
「なら2番手は、うちやで」
小町のディアブロが進み出る。
Lv10に改造したスラスターライフルの一撃は重くHWを簡単に貫いた。
「ふん、物理攻撃に特化したディアブロの攻撃を舐めんなー!!」
スラスターライフルは命中率が悪いが高い火力を誇る為に愛用者が多い。
銀子もしっかりスラスターライフルを鍛えている。
「シュテルン君、あたしらも負けないようにしなきゃだわね」
頑張るぞ。と勇んでいく銀子。
「‥‥上で頑張られると下は暇だな」
人型になったイビルアイズが空を見上げる。
「まあ、私が忙しすぎるのも問題なのだろうが」
スナイパーライフルRを構えるサヴィーネ。
リロードの隙をつき落下を続けるHWにポイントする。
「吼えろ、フラガラッハ。喰らい尽くせ、アンサラー!」
スナイパーライフルRが火を噴き、リロードする間も惜しいとシールドガンに持ち変え撃つ。
破壊されたHWの破片を雫と耀が丁寧にバラバラにする。
今迄とは違い最後の1機。
10機目のHWは能力者達が9機目を完全に粉々にするのを待たずに落下を始める。
今迄のHWが自由落下だとしたら完全に加速をしている。
それに気が着いた小町が、AAMとG放電で攻撃する。
「こん、のぉ〜っ‥うちらを舐めてんの?」
縦方向に加速し乍ら落ちるHWの尻に食らい付いて行く小町のディアブロ。
高度計の数値がグングンと減り、地面が迫って来る。
スラスターライフルでは火力が強すぎると判断した小町は、アグレッシブ・フォースを発動し、ソードウィングで真後からHWを真っ二つにする。
そのまま峰をかすめ上昇をする。
片方の破片は追付いた長郎のスラスターライフルが粉砕したが、もう一方の塊が公民館目掛けて落ちて行く。
「しまった!!」
短い叫びが上がる。
「ちっ!」
サヴィーネの位置からは障害物が邪魔をしてスラスターライフルの照準出来ない。
「駄目っ‥‥間に合わない!」
粉砕するのならスラスターライフルだが、命中率と射程で銀子が選んだのはスナイパーライフルRだった。
「角度を間違えなければ弾き飛ばせるはずだわ。よく狙って‥‥」
銀子のシュテルンが木のすれすれを掠め飛ぶ。
「根性見せろっ! シュテルン君!!」
銀子の放ったスナイパーライフルの一撃が破片を弾き飛ばした。
噴射ノズルの向きを操作をして公民館を掠め飛ぶシュテルン。
全機完全撃墜である。
「資源を掛ければいいと言うことでもない、な」
そうヴィンセントがにやりと笑う。
「終わりましたか‥‥成功した様で何よりです」と安堵の息を吐く伊織。
「あちゃぁ‥‥不可抗力だから弁償しなくてもいいよね?」
シュテルンが通り過ぎた時の衝撃で公民館のガラスが全滅、屋根瓦の一部が落下したのを見て、がっくりと言う銀子。
「どうせ疎開して誰もおらんし、報告書に書かんかったらバレんとちゃう?」
守り切った喜びに小町がおどけてみせる。
「ああ、それいい手だわ。こうして平和は守られましたとさ♪」
うん、これで行こう。と開き直る銀子。
本当の意味での成功は、この東峰村を人の手に奪還する事であるが眼下に広がる豊かな自然はとりあえず守られた。
「この場所を‥‥ホタルの季節までには‥‥取り戻したいものですね」
だが──
観測班から送られて来る映像がリアルタイムで指令室のモニターに映し出されている。
全機破壊という事実にダム・ダル(gz0119)の副官が獣のような唸り声を上げた。
「1、2機なら兎も角‥‥至急増援部隊を送るよう指示します」
楽しげにモニタを見つめていたウォンが何を言い出すのだろう。と副官を見る。
「ふふ‥‥君は可愛らしいですねぇ。君は私があんな場所に本気で基地を作ると思ったのですか?」
ウォンの言葉に目を見張る副官。
「──違うのですか?」
「当たり前じゃないですか」
基地を作るのであればもし日出生台の方が、戦略的にずっと価値がある。と言う。
「私が見たかったのは、私の城で見ることが出来ない新型KVですね。ふふ‥‥彼らには褒美をやらねばならないでしょうが‥‥」
さて‥‥次は何を仕掛けてあげましょうかね? と楽しげに笑った──。