●リプレイ本文
●戦場は何処?
「ヴァルたん‥‥ユリアのピンチです‥‥」
のんびりと年末を過ごしていたヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)を強襲した憐(
gb0172)。
「‥キメラとか暴漢とか‥‥不穏な輩が‥一杯です。今、すぐ準備を‥‥」
憐に言われるままヴェロニクは手近な武器を掻き集める。
急かされターミナルにやって来たのだが、憐が向かうのは一般用であった。
「憐ちゃん、そっちは一般用です」
「‥ヴァルたんは‥‥何処に‥行くつもり‥だったんですか‥?」
「えっと、ゆりあちゃんの救援?」
「‥‥違います。‥コンサートの‥お手伝い‥です‥‥」
1日ぐらいなら大丈夫だろうと駐車場にミカエルと荷物を預け、2人はLHを離れて行った。
●戦場が一杯
「何と言いますか、忙しいですね‥‥」
「ああ、全く‥‥だが、見覚えがある風景だね」
鳴神 伊織(
ga0421)とアンジェラ・ディック(
gb3967)は、呆れたように大騒ぎの現場を見る。
「これがコンサートの舞台裏か‥‥準備するのも大変そうだな」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、組まれた足場を見上げて呟いた。
「‥‥これが‥ユリアの見ている世界‥‥ここが‥ユリアのいる場所、なんです‥ね‥‥」
パナ・パストゥージャ(gz0072)を始めとするスタッフがバタバタと走り回る姿は、前線の仮設司令部設営に等しい部分がある。
が、大きく違うのはBGMが音楽の差だろう。
「お待たせ‥しました。皆さん‥今日は‥よろしく‥御願いします」
ぺこりと頭を下げるユリア・ブライアント(gz0180)。
「手伝いに来たよ」
「‥ユリア‥憐が来たからには‥一人力です‥‥小船に乗ったつもりで‥安心してください‥」
「ユリアちゃん元気そうだね。ホアキンさんもこんにちは。のもじちゃんは‥‥お仕事?」
「モチの、ろんよ☆ だって私は皆のアイドルなんですもの!」
アイドルらしいポーズを決める阿野次 のもじ(
ga5480)に、
「それをいったら、あれぢゃな。わしもこれでアイドルでびゅーという奴ぢゃな?」
リーゼントに櫛を通していたDr.Q(
ga4475)も負けじとポーズをする。
「若い娘にきゃーきゃーと‥‥うひゃひゃひゃひゃ。──ばーさん、わしはやるぞ。こんな世の中ぢゃ、明るくしてやるわい!」
ホアキンの視線は、ユリアの後ろを歩く春露に吸い寄せられる。
(「‥‥似ているな」)
ホアキンは春露の姉、雛林こと夜来香が関わった依頼に参加した事があった。
(「夜来花が月下美人なら、彼女は孔雀仙人掌(オーキッド・カクタス)か」)
「忙しい所、ありがとう」
傭兵らと挨拶している間も様々な者が春露に質問をして行く。
「見た通り猫の手も借りたい状態なの」
「おっと、それなら私はアイドル本番も任せてくだせぇ」
ぺちりと太鼓持ちのように額を叩くのもじ。
詳しい事はスタッフに聞いて欲しい。と言うと慌ただしく去って行く春露。
「割と体力勝負な芸能界の現場とは聞いていたけど、それを支える裏方は大変なんだなぁ‥‥」
●哀愁の羊
「出迎えは‥‥案内も行うのでしょう?」と伊織が尋ねる。
「はい、お願い‥します‥‥」
「やったぁ♪ イケメン俳優やタレントとお知り合いに慣れるチャンス到来ね♪」
楽しげに言うヴェロニク。
「時に‥合い言葉は‥『羊』です」
「羊ですか?」
見た目が可愛いので「にっこり」できるが、
言葉が通じないので言う事を聞かない、
人の足を踏んでも気がつかない。
「踏まれると‥時々‥張り倒したく‥なります‥」
「流石にユリアちゃん、本職だけあって違うなぁ‥‥」
「判りました‥‥気持ちには余裕、表情は柔らかくしておきます」と顔の表情筋をもみゅもみゅとマッサージをする伊織。
TVや映画で良く見かける者から、何処から見ても普通のオジサンに見える芸能関係者らが次々とやって来る。中にはTVで見せる姿と違い必要異常に腰の低い者から我が儘だったり態度が大きかったりと伊織やヴェロニクに難癖をつける者もいる。
(「羊が1匹、羊が2匹‥‥」)
ひたすら羊を数える2人だった。
●Time’s タイム
ホアキンの仕事は事前に集音(録画)されたデモテープを聞き乍ら実タイムを測り、突発事故の為に遊びを作り乍らロスを削るという山と積まれたテープをひたすら見る地味な作業の手伝いである。
だが年末と言う時節柄、開場に来れないがVTRする出演者や他所とTV中継して生出演する者もいるので結構重要なポジションである。
「今ん所の一番の心配は、妨害電波とかで中継が上手く行かない時だね」とパナがデッキを操作し乍ら言う。
「照明を変えて場を繋いでみたらどうでしょうか?」
コンサートでは、コンピュータ制御された絵がバックスクリーンに写し出されたり、レーザーによる演出が用意されている。
「まあ、そういう事方法もあるね」
大体の場合、運行上、重要なコーナーの前後に長めのトーク枠が調整しやすいように用意されている。と、どこにでもいそうなインド人のおっさん(パナ)が答える。
パナの仕事がプロデューサだったと思い出し、苦笑いをするホアキンだった。
それぞれが手伝いを始めた頃、Dr.Qはあちらこちらのスタッフらに「何をやっとるんぢゃ?」と興味深げに質問しては、メモを取って歩いていた。
そんな中「ああでもない、こうでもない」と基盤の配線を弄繰り回しているスタッフを見つけて近寄っていく。
「なんぢゃ? 少し見してみんしゃい」
ひょい。とスタッフが手に持っていた基盤を取り上げるDr.Q。
「抵抗が焼けただけぢゃわい」
そう言うと側に落ちていた新聞紙をくるくるっと固い紙縒りにして配線の間に挟みこむ。
「昔は新聞紙や木片も優秀な抵抗として使われていたからのぉ」
得意げにひ孫のようなスタッフに言う。
「世の中、便利便利、とは言うが。何がどう動いているかも判らんものばかりぢゃ、便利とは言えんもんぢゃよ?」
えっしゃえっしゃと、人生の大ベテランとして色々な裏技を披露していくのであった。
●心知らずのステージ
アンジェラと憐は首から芸能人の名札を下げ、照明係が輝度とライトの位置や色、カメラ写りを確認して行く。
照明の指示に従って右に行ったり、左に来たり──ライトの光はライト自身から離れているが、長い間当たっていると結構熱い。
(「何気なく見ていましたが‥‥色々面白いですね」)
ステージでチェックを受ける間、逆光だがグラウンドから1段高い位置にいる為に動くスタッフの姿が良く見える。
スポットライトの光がアンジェラの目を射抜く。
「これだと眩しすぎないか?」
照明スタッフに声をかけるアンジェラ。
「まだ天井に灯がついてますから今は良いんですがコンサート中は真っ暗ですから、これ位ないとカメラに写らないんですよ」
「そうか、大変だね」
バックスクリーンから見るとはステージの出演者は豆粒である。
それをフォローする為にステージの後(ホーム)側は高さ20mスクリーンが設けられているが、カメラは高感度であってもそれにあった光量がなければ写らない事を思い出し、アンジェラは口を噤む。
カメリハも大事な仕事と演出家の指示に従っていたが、ちっともさりげなくないレンズの先に入り込んでいくのはのもじ。
「お嬢ちゃん、おじさん達の邪魔をしないでね」
「ちょっと、おじさん。私の事を知らないの?」
誰だっけ? とスタッフは顔を見合わせる。
「ぬぬ、ならば聞くがよい」
ステージに飛び乗り、仁王立ちするのもじ。
「遠からんものは音に聞け! 近き者はシャッターチャンス☆ 我が名は晴天大聖アイドル・阿野次のもじ! ハイプリティMAGICプリティMAGIC」
普通の少女が、可憐な花に変わった瞬間である。
●WE ARE スタア!
先に組まれた足場に使いまわされる大型楽器が乗り、楽器の調整の為にユリアを含めたアーティストたちが各々の席にスタンバイする。
「少し‥見ていて‥‥いいですか?」
名札を返し乍らスタッフに聞く憐。
楽器がチューニングされていく中マスコミが案内され、取材機材がグラウンドにセッティングされていく。
憐の視線の先に蝙蝠の片翼、覚醒したユリアの姿がある。
囲み取材を受けている春露をじっと見ているユリアを見る憐。
憐にとって春露よりユリアが大事であったが、ユリアを監視するものは特にいないようである。ユリアに対する有効狙撃ポイントには、偶然だがホアキンが音の返りを聞く為に立っている。
音というのは、年齢が上がるにしたがって耳で拾える周波数が狭くなる。
今回、更に普通のコンサートホールと異なり球場なのだ。
音の返りはかなり悪いので音の管理は一際神経を配る必要なのだ。
音併せの間中、きっといるだろうと憐は他の作業を手伝う為にグラウンドを後にした。
ちゃららら〜♪
のもじの持ち歌「恋の積尸気冥界覇〜僕はうお座に恋をした」のイントロが流れる。
♪〜
<台詞>
A少年:えーダッセーコイツ かに座だってよ
B少年:そのどこがわるいんだ かに座を差別するな
??:マテイ貴様ら(ピアノ:ばーん!)
A少年:チッ女子は口出すなよ お前ナンなんだよ
魚:私か私は‥‥うお座だ!!
ばばーん、ちゃちゃ♪
〜♪
「はいOKです」
スタッフの声にのもじが右手を上げる。
「なんじゃい、折角ノリノリじゃったのに」
「だってテストだし、まだまだチェックすることは一杯或るのよ☆」とDr.Qにウィンクをするのもじ。
「うーん。まだちょっと、この辺りだと聞き取りづらいかも」
プレミアシートが設置されるグラウンドからスタンド席迄を歩いて回るホアキンが、スピーカーから流れる様々な音を聞き、それを無線で音響らスタッフに伝える。
効果音のテストの為、再びのもじがスタンバイする。
♪〜
一つ積んではぎゃらのため〜 HA!
二つ積んでは愛のため HA!
放つ 恋の積尸気冥界覇♪(破壊音)
そんな貴方は足首掴んでうごめくの
嗚呼〜 恋の積尸気冥界覇♪(破壊音)
〜♪
「ちょっとッズレテルネ。もう一度いきますかー」
音が割れてズレていると自ら駄目出しをするのもじ。
(「中々どうして‥‥癖というのは抜けないな」)
合成音とはいえば爆発音に反応し、思わず近くにいたスタッフを床に押し倒してしまったアンジェラ。
このままだと練習の邪魔をしそうだとアンジェラは終わっていない搬入の手伝いをする為1Fに向う。
♪〜
黄泉比良坂におちるがいいっ!
黄泉比良坂におちるがいいっ!
〜♪
激しいシンバルに合わせてシャウトするのもじ。
しっかり1曲歌いきったのであった。
「いえ〜いぢゃ!」
次にステージ上がったのはDr.Qである。
ノリノリで70年代のディスコナンバーに併せて華麗にステップを披露する。
スタンバイを待つ間、
『あの頃は若かったからのう‥‥年金暮らしで暇でのぉ、ばーさんに黙ってよくデェスコに行ったものぢゃよ』と若いスタッフに昔話を熱く語っていたが、どうやら実は手伝い内容がよく判っておらず、年甲斐もなくハシャいでいるようである。
──グキッ。
鈍い音と共に「うっ」と言うとDr.Qがフリーズする。
どうやら腰を痛めたようである。
若者らに担がれ、強制的にステージから下ろされていった。
●ぐっど・らっく!
「20個、お弁当が‥‥足らない?」
受取時に確かに300個あったはず弁当が、今、何度数え直しても足らないのだと言う女性スタッフの言葉に顔を見合わせる伊織とヴェロニク。
「誰か既に配りに行った‥‥というのはないのでしょうか?」
特に記憶がないと言う。
「では、皆で探してみましょう」
ゴソゴソ、ガサガサ‥‥手分けをして探して歩く──と、
「あ、ありました!」
包み紙が廊下に丸めて箱に捨てられていた。
「どうしよう?」と困るボランティアら。
「皆さんは‥他のお弁当を配り始めて下さい。私は犯人を見つけましたら‥‥すぐにお手伝いに戻りますので」
「私も行く! ニコニコしているの疲れちゃったもの」
慣れない営業スマイル全開でストレスのピークである。
犯人探しは気分転換になるだろうとヴェロニクも手伝いを申し出た。
「これも悪くはないが、これはさっきの弁当と違って合成調味料の味が濃いのお」
Dr.Qはグラウンドに繋がる廊下で何処から調達したか不明な座布団を敷き、弁当を広げていた。
「そのお弁当は‥‥」
「ダンスは腹が空いてのお。先に頂いておる」
皆の分もこの通り確保ぢゃ。と言うDr.Qの足元には未開封の弁当が置かれていた。
「ほれ、二人もこっちに来て食べてみんしゃい」
悪びれた様子もなくヴェロニクと伊織に弁当を押し付ける。
ぺろりと弁当を1個平らげ、もう1つ弁当を開けるDr.Q。
「‥‥‥むむ? これは野菜が多いのお‥‥嬢ちゃん、わしの野菜と肉を変えてくれんかね? 野菜ばかりぢゃと、爺ちゃん力でなくてくたばっちまうわい!」
カカっ──と笑うDr.Q。
ぶちっ。
何かが切れる音がした。
──暫くして弁当配りを手伝っていた憐は、倒れ込むDr.Qを発見した。
「‥どうしたんですか?」
「耳が、くわぁんくわぁんして動けんのぢゃ‥‥」
どうやらステレオで説教を食らったようである。
「では‥憐のフォーチュンクッキー‥を‥どうぞ‥‥‥‥中に入っているのは‥‥‥‥大吉から大凶までです‥‥ぐっどらっく‥‥」
ゴソゴソと憐の差し出す袋に手を入れクッキーを1つ取り出すDr.Q。
中から出て来た紙に書かれていたのは──『大凶』であった。
●開演日
「お手伝い、終了っ!」
うーん、とヴェロニクが伸びをする。
「ねえ、折角集まったのだし、何か美味しい物でも食べに行きたいなぁ‥‥皆で行きません?」
「歩いて15分位の所にレストランがあるわ」
アンジェラが手帳を見乍ら言う。
「凄い、近所のお店を全部チェックしてあるの?」
「まだ全部じゃないけど、ね」
アンジェラは空き時間を利用して最寄駅から球場までの人の流れを細かく実測していた。
「ワタシは残念だけど‥」
北西周辺をチェックが、まだ残っていると残念そうに言う。
ちらりと時計を見る伊織。
「出来れば、最後まで付き合いたい所ですが‥‥」
他に受けている依頼の出発時間が迫っているのだと言う。
「ユリアさんはまだコレからが本番だし‥‥残念だけど、ね」
ユリアの体の負担を考えて、今日はお開きとなった。
「‥今回は‥何事も無くてよかったです‥‥また、こんな風に‥気にかかる事が有ったら‥‥いつでも呼んでください‥‥ね」
憐に笑顔を返すユリア。
「残念ですが‥‥お疲れ様でした、それでは‥‥これで失礼させて頂きますね」
ぺこりと頭を下げる伊織。
──コンサートの開始時間まで後10時間である。