●リプレイ本文
──時間は少し遡る。
今回球場内に爆弾が仕掛けられているのもあり、作戦会議場と提供されたのはユリア・ブライアント(gz0180)が安全確認した喫茶店である。
「クリスマスや年末はゆっくり過ごしたいものですが‥‥そうもいかない様ですね」
いつの時代もこの時期は物騒な事が多過ぎる。と鳴神 伊織(
ga0421)が言う。
「ユリアさん、久しぶりですね?」とクラーク・エアハルト(
ga4961)が声を掛ける。
「お久しぶりです‥‥クラークさん‥‥」
ぺこりとユリアが頭を下げる。
「これまでのユリアとは、違う一面を見た気ぃするです」
そうシーヴ・フェルセン(
ga5638)に言われて苦笑するユリア。
「一体何の為にこんなことを‥‥許せませんわ」
ロジー・ビィ(
ga1031)が腹立だしげに言う。
「まさか犯人の狂言‥‥って事はないか?」と言うのはファルロス(
ga3559)。
「狂言なら狂言の方がいいのさ」
軍曹が爆弾の見本を投げてよこす。
「これ? ‥‥随分小せぇモンですね」
「だが人の手足を吹き飛ばすには充分だ」と軍曹が言う。
一般人が思うより小型時限爆弾は小型である。
携帯電話の時計を使用する事で一気に小型化が進んでいるのだ。
「‥‥こういう手口は本当に腹立たしいです」
「爆弾魔は、愉快犯って事か?」とアルヴァイム(
ga5051)。
「愉快犯か親バグアか知らねぇですが、こういうイベントに爆弾仕掛けやがるとは許せねぇです」
「本当にこんな素敵な趣旨のコンサート‥‥邪魔はさせませんくてよ!」
「そうですね。何としても、爆弾を見つけないといけませんね?」
誰にも犠牲を出さず、解決したい。という思いは、誰もが同じである。
「大きさはまちまちでもデジタル時計式なのは一緒なのですわよね?」
凍結すればタイマーが一時的にストップする。
だが今回の問題は、犯罪歴が少ない爆弾魔の為事例が少なく、どんな起爆トラップを仕掛けているか不明であるが故に不審物は動かさず片っ端から凍結しろと言うのだ。
「軍曹、このサイズなら凍結する迄何秒です?」
「爆弾が何に被われているかにもよるな」
「サイズも形状も判らない、か‥‥どうせなら非破壊検査機とか貸してくれたら効率がいいのに」
「そういう機材は、ウチでもそう多くはないんだよ」
爆弾の発見作業は結局、人や犬の嗅覚が一番効率が良いと苦笑いする。
「日程を確認したいんですが、爆発予定日には何かイベントがあるんですか?」と古河 甚五郎(
ga6412)が質問する。
予定時刻にいる予定なのは、事務員と警備、清掃員だけだと言う。
「現在、球場内にいるのは何名になりますか?」とアンジェラ・ディック(
gb3967)が質問する。
爆弾に不用意に触れば危険である。
突き飛ばす等多少手荒に扱っても守らねばならない。
「管理事務所に事務員が5名、守衛が詰め所に1名だ」
予告状が届いた時から退避させるにさせられず詰めている者達だけである。
軍曹が再確認の為に作業手順を繰り返す。
各自が担当する場所を捜索し、発見後すぐに液体窒素を噴射し、凍結を確認後、ユリアに連絡。
ユリアと軍曹が、爆弾を手分けして防御箱に放り込むか、防御材で周囲を囲むのだと言う。
「それだとユリアが大変じゃねぇですか?」
「‥多少の‥無理は‥‥覚悟の上‥です」
「焦るのは判りますが‥‥落ち着かないと見える物も見えなくなりますよ?」
伊織の言うことはもっともである。
「‥‥ですが、チャリティコンサートを楽しみにしている方もいる事ですし、早く終わらせてしまいたい物ですね」と微笑む。
「傷ついた人達を助けようとしやがるモン、傷つけねぇよう守らねぇと、です」
「コンサートを無事に開催させる為に頑張りましょう」
クラークがユリアの肩を叩いた。
●先攻:爆弾魔、後攻:能力者
クラークは、探し場所に向かう前に不審車輌と人の出入りを確認するべく守衛室を訪ねた。
全ての業務車輌は事前に車輌ナンバーを申告し、確認の取れない車輌は搬入口を通る事が出来ないと言う。
「では、人はどうです? 入館バッチで無くなったものはありますか?」
「無くなったバッチはないですが‥‥」
コンサートのスタッフジャンパーを着ている者はフリーに出入りしていた。と言う。
(「スタッフのフリをして入り込んだ可能性が高いですね‥‥」)
礼を言い、奥へと向かう。
搬入口と駐車場には爆弾が隠せそうな物陰は多い。
排気口やパイプの裏、ダクト──死角になっている場所を丁寧に調べていくクラーク。
「見つけた。しかし‥‥これはまた、怪しすぎるでしょう?」
パイプの裏に隠されていた熊のヌイグルミを見て、苦笑いをする。
囮の可能性も高いが、囮に見せ掛けた本物の可能性もある。
「さっさと凍結してしまいましょう」
ヌイグルミに液体窒素を掛けるクラークであった。
***
No.1ゲートを見るアンジェラ。
回転扉2機と退出時に使用される幅3m引違い戸である。
敵の狙いが対人である以上、一番人が溜まっているタイミングが狙われると考えたアンジェラは、回転扉から調査を始めた。
扉を支える軸の部分を回転扉内から接触出来ないのを見て、天井部分を静かに触れる。
天井に仕掛けられた爆弾のエネルギーは下へと向かい、回転扉は瞬時に棺桶と化す。
「ここには、ない。か‥‥」
扉を調べ終えたアンジェラは、消火栓が入っている扉を開けた。
***
ゲート脇に置かれた消火器を調べていたファルロス。
「くそ‥‥、本当に置いてやがる」
消火器の底に張り付けられたマッチ箱を見つけ、短い舌打ちが思わず出る。
馬鹿にするかのように「火気厳禁」と書いてある。
「犯人め‥‥厄介な所に張り付けたな」
爆発すれば消火器も一緒に破裂する可能性がある。
側に誰かいたら破片が身体にめり込み大怪我をするだろう。
「破裂した場合は、俺の運がなかったって事だな」
急速にモノを凍結させた場合、モノの強度は弱くなる。
消火器ごと固めた場合、フレーム(金属部分)は持つのだろうか?
フレームは凍結しても破損しないよう強度はかなり硬いはずである。
ヤレヤレと溜息を吐き、消火器ごと爆弾を凍結するファルロスだった。
***
管理事務所のおばちゃんが入れてくれた茶を啜っているのは甚五郎である。
事務所に届く郵送物は、テロ対策処置済でスリル満天の盾越し開封の楽しみが無くなってしまったが、甚五郎のリクエストは、軟禁状態の彼女らにとって良い暇つぶしの材料と判断され、棚から様々な部外秘資料を見せて貰えている状況である。
「コピー機を借りていいですか?」
「‥‥裏方時代を思い出しますねぇ」
コピー機の脇にコピーミスをした用紙が経費節減の為に裏紙として出番を待っている。
ストックの紙にトナー、シュレッダーやゴミ箱がある。
ありふれたコピー室だろう。
──だが、そこ違和感があった。
「コピー室って掃除の人は入らないんですか?」
昨日の夕方に入った。と言うおばちゃんらの声を聞き乍ら甚五郎の目は、紙ゴミがたっぷり入ったゴミ箱に注がれていた。
●タイム(昼食)
昼食を取る為、喫茶店に戻って来た傭兵達。
「キメラを相手するよりは楽な仕事‥‥、だと思ったが‥‥まだ半日なのになんだか疲れたな」
溜息を吐くファルロス。
「そういう時は美味しいご飯を一杯食べて元気を取り戻すべきですわね♪」
どうせ営業出来ないからと店長がありったけの食材を提供してくれた為にフルーツの盛り合わせ迄がテーブルの上を狭しと並んでいる。
「温かいご飯に味噌汁ですか、嬉しいですね〜」
冷たい弁当だと思っていた甚五郎、うっかり拝んでしまう。
「ご飯、美味しいですわね〜(ハート)」
ほんわか嬉しそう肉汁たっぷりのハンバーグを頬張りロジーが言う。
「ユリアさんは、あれから銃の練習はしてますか?」
クラークの言葉に頷くユリア。
「‥‥ですが‥‥あまり‥上達しません‥」
「そうですか。また機会があれば教えますよ?」
「はい、ありがとう‥ございます‥‥」
ユリアの持つ皿にケーキがちょこんと乗っているのを見てシーヴが質問する。
「ユリアは、ちゃんとお昼ご飯を食べたですか?」
「ご飯‥‥です」
堂々とない胸を張る。
「好き嫌いは‥‥‥‥この短期間じゃ治ってないですね?」
苦笑するクラーク。
「ユリアは他の日も手伝うんですから『ちゃんと食べる』です」と、にじり寄るシーヴ。
「う‥で、でも‥‥」
「‥‥それに野菜食わねぇと、胸」
ボソっと呟くシーヴ。
「あははっ、シーヴはお姉さんみたいですね〜☆」
「さて、コーヒーでも淹れましょうかね?」
クラークが店長にサーブの場所を訪ねる。
「ユリアさんも飲みますか? 他の人もいりませんか?」
「あ、私はコーヒーを御願いします」とアルヴァイム。
「ワタシはウバのブレンドを♪」
そうアンジェラがリクエストする。
ロジーが飲み物を配って歩く。
一服を済ませ、皆で午前中の成果を確認する。
午前中に見つかった爆弾は5個。
「素晴らしいですわ。あたしなんかまだ1個も見つけていませんのに!」
空振りだったロジーが少し羨ましそうに言う。
「それを言ったらシーヴもまだ1個も見つけていないでぇす」
シーヴの探す非常階段は、尤も探し甲斐のない場所かも知れない。
ドアにはロックが掛けられていないが、出入り口全てにカメラが設置され、ドアが開けば守衛室と事務室の管理パネルにランプが灯る。
尤もセキュリティの厳しい場所であった。
甚五郎が区切られた地図に捜索が終わった場所を丁寧に塗りつぶして行く。
「皆が見つけた爆弾はどんな形だったでやがるです?」
「ワタシも捜索の参考にしたいです。どんな形状でした?」
5個とも形状が全く異なる。
「‥‥形状を‥特定‥‥しない事で‥‥発見を‥遅れさせるのは‥常套手段ですから‥‥」
●あと10個
鼻歌まじりでトイレに向かったのは、甚五郎である。
ポンプを止めて貰っている為、分解しても周りが水浸しになる事はないので工具持参である。
男子トイレと障害者用トイレを探した後、ワキワキと女性トイレに入って行く。
「女性用トイレは、広くて明るくてやっぱり良い臭いがしますねぇ〜」
楽しそう奥に入った甚五郎だが、洗面台にぽつんとブランド口紅が置いてるのを見つけてしまう。
爆弾魔は律儀に1箇所に1個の爆弾である。
「くっ‥女子用、遠慮せずに漁っ‥‥探す手間がなくなってしまいました」
実に残念そうに言った。
***
午後も店鋪を担当する伊織。
外から見れば狭く見える店舗だが縦に広がる収納の1つ1つを見ていくのは中々大変な作業である。
だが1つでも爆弾が残れば、被害が出る。
「こんな所には入っていないでしょうけど‥‥」
封の切れている瓶にスプーンを突っ込み中身を確認する。
フライヤーの脇に置かれた小さな時計の置き物を見る伊織。
あからさまなデジタル時計という盲点を着いた爆弾であった。
「随分と巧妙に隠していますね‥‥まあ、そういう物なのでしょうが」
ぱっと見、店の備品に見えるが少しも油で汚れていない時計に違和感を覚えたのだった。
渡されていた液体窒素で噴射し、連絡を入れる。
「これで処理完了‥‥と、他の皆さんは大丈夫でしょうか」
***
午前中に調べた選手用ロッカーで見つけたモノは硬式ボール1個。
このまま1個も発見出来ずに終われるものかとロジーは、隅々まで見落としが無いように五感をフル活用して業務用トイレを捜索していた。
「むぅ‥‥ここでしょうか‥‥」
勢いよくドアを開き、
「ん! こっちが怪しいですわッ☆」
タンクの中を覗き込む。
3個目のトイレ、便器の脇に置かれた余りにも不自然な紙袋を覗き込むロジー。
グラブにボール‥‥一見普通の忘れ物に見えるが、ここは業務用トイレである。
「爆弾さん、見ーッけ☆ ですわ!」
液体窒素を掛け凍結させる。
「楽勝ですわね♪」
***
クラークは放送席の机や機材を調べた後、椅子の裏を丁寧に覗いていく。
「‥‥‥ガムですか?」
椅子の裏に噛み終わったチューインガムが着いているようにも見える──だが、行儀悪くガムを張り付ける癖を持つ者がいたとしても椅子の裏側一面に着ける者がいるだろうか?
良く見ればガムとガムを繋ぐ間に細い銀線が見える。
「ガムに見立てたプラスチック爆弾ですか‥‥これは確かに解かりにくい」
爆発時椅子に座った者いれば下半身が丸ごと吹き飛ぶ仕組みである。
信管とタイマーは火薬の下に埋め込まれているらしく表からは見えない。
凍結を急ぐクラークであった。
***
アルヴァイムは3万座席近くあるスタンド席を見上げて溜息を吐く。
歩くだけでもかなり大変そうである。
一般客が入る場所は愉快犯のターゲットになり易い。
スタンド席で爆発が起りパニックになって将棋倒しになる可能性もある。
「やるしかないですね‥‥」
椅子の裏や支柱を丁寧に調べて行く。
5階の席でドリンクホルダーに接着された紙コップを発見したアルヴァイム。
「二重になっているな‥‥」
見える範疇にトラップらしい姿はないが刺激しないようにそっと触った所、底に何か液体っぽいものが入っている感触がある。
「無理矢理剥がすと‥‥ドカンですか?」
液体窒素で紙コップごと凍結させるアルヴァイムであった。
●ゲームセット
発見された爆弾は、
ファルロス 6個
甚五郎 2個
クラーク 2個
伊織 1個
ロジー 1個
アルヴァイム 1個
シーヴ 0個
アンジェラ 0個
合計13個であった。
「あと2個‥‥これだけ探して見つからねぇなんて‥‥もっ1回、調べに行きてぇです」
そう残念そうに言うシーヴ。
捜索が早く終わったアンジェラも反復して調べたが新たな爆弾は発見出来なかった。
「出来れば、処理班の方々の手を煩わせずに済ましたかったものですね‥‥」
「んん‥‥あとはプロの方に任せるしかないですわね‥あたし達だけで処理しきってしまいたかったですけれど」
「建築面積6万平方メートルの球場を8人で探したんです、上出来ですよ。‥‥あとは後続の処理班に任せるしかありませんね」
タイム・オーバーだとクラークが言う。
「でもこれで、調べていない箇所に限られましたわ、よね?」
爆弾処理本隊が到着し、捜索した所、残り2個はNo.30の男女トイレのソープタンクとNo.65の売店のヤカンの中から発見された。
尚、捜索に協力した8人全員にコンサート事務局から粗品として「ハートフルリボン」が贈られ、1人で6個の爆弾を発見したファルロスには管理事務所から粗品が別途贈られたという。