●リプレイ本文
10個の機雷を引いて移動する船の護衛としてLHからモルディブにやって来た16名──。
「幾ら直衛機が居るとは言え、敵HWの射程内まで輸送船への接近を許しでもしたら、こちらの負けだけから、石にかじりついても敵を拘束しないとな」
と言うのは、自ら乗る雷電に「忠勝」と名付けた榊兵衛(
ga0388)。
「綺麗な空と海なのに機雷運びの護衛なんて少し勿体無いですね」
早めに切り上げたらビーチとかで少しはゆっくりできるんでしょうか?
そういうのは、兵衛と同じくHW退治を担当する霞澄 セラフィエル(
ga0495)。
兵衛の忠勝がミサイルを中心に固めているのとは反対に霞澄のアンジェリカはG放電装置でがっちり固めている。
「本当にそうね」
クールに答えるケイ・リヒャルト(
ga0598)。
だが、言葉と反対にかける思いは熱い。
イザとなったらHWに体当りを辞さない位の心つもりである。
一方、CWを担当するのは、ヒューイ・焔(
ga8434)、神無月 るな(
ga9580)、烏谷・小町(
gb0765)の3人である。
機動力を持ってCWを一気に叩く算段である。
「でも早めに仕事を終わらせて椰子の木に結んだハンモックでの〜んびり読書とかできたら楽しいだろうね」と本好きのヒューイが言う。
キラキラと太陽を反射する波間や上空からは、水面下の危険は知る由もない。
「この綺麗な海を汚そうとは、お仕置き位じゃ済みませんね‥」
思わず握りこぶしを握る、るな。
「機雷は‥確かに大層な置き土産ですよねぇ」
「敵は少数か‥だが、油断はできないな」
そう話すのは、直接船を守るヨネモトタケシ(
gb0843)とカララク(
gb1394)である。
2人はBAR『GULP』 の常連同士でもある。
他にも顔見知った連中が集まった事もあり、ロッテに安心感がある。
海域封鎖の為にバグアによって撒かれた機雷は2000個、その内回収されている100個の機雷の内10個を運ぶ船を守るのが彼等の仕事である。(未回収分や回収済90個については、Mara・Karaと軍、他の傭兵らが任務に当っている)
その楽しくない置き土産に対してこの海域で確認されている敵は小型HW3、CW4とメガロワーム2、マンタワーム1。航空担当はHWとCWを担当する。
空、海それぞれから船を守るべく集まったメンバーの実力面、コンビネーション面から言えば決して恐れるに足りない兵力ではあるので、問題はどちらかと言えば機雷と船の航行スピード、そして敵が隠れる事ができる無人島が眼下に多数ある事だろう。
船は島陰からの水平射撃を恐れて海原を行く分、敵に発見され易いのが難点である。
また機雷はエンジンにSESを使用しているKVが下手に接近しようものなら爆発する代物で、全長125m25ノットで進む船は上空から見ればキラキラと輝く鏡の上に墜ちた針である。うっかりすると守る相手を見失ってしまうという──敵が少ないからと言って守り易い訳ではなく、どちらかと言えば中々面倒な代物である。
「だけど敵を近付けず、船が決められたルートで航行すれば問題なしやねん」
「HWのスピードや船の航行スピードを考えると、迎撃距離は最低でも1km。できればそれ以上欲しいですね」と霞澄が言う。
「そして、ウーフーのジャミング中和装置の効果範囲内で叩くか‥‥以外と狭い範囲ね。うっかりドックファイトに熱中するとあっという間に通り過ぎそうだわ」
やれやれ‥‥という所だろう。
***
「ッ‥‥相変わらず忌々しい奴らだ‥」
カララクがCW出現の印、突然起った激しい頭痛に舌打ちする。
「【黄水仙】、【シバシクル】、ヨネモト、ジャミングは作動しているのか?」
「【シバシクル】、【黄水仙】、すみません、もう少しで有効範囲内に入りますのでそれ迄我慢して下さい」
そう答えるヨネモト本人も痛いはずだが、いつもと変わらぬ調子で言われれば我慢するしかない。
「‥‥‥判った。ヨネモト、アテにしている」
頭痛が治まった=ジャミングの効果とばかりにレンジ巾を調整してレーダーの調子を見るカララク。
レーダー回復と同時に敵影が写る。
「ロックオンキャンセラー、作動する」
レーダーで探知された敵影は2時方向に3、10時の2である。
「敵が少ないですね‥構成は判ります?」
るなに問われレーダーを調整するタケシ。
「出力から言って2時がCW2、HW1。10時がCW1、HW1です」
「不明はCW1とHW1か‥‥どっかの島陰に隠れているのかしら?」
HWに対し1対1で対応を予定していた霞澄らは計画が狂ってしまったと美眉を潜める。
「霞澄、もし皆の隙を突いて敵が現れても自分やヨネモトがいる」
自分らが食い止めている間に敵を倒しても戻ってくれば良い。とカララク。
「一撃二撃位なら‥自分の『黄水仙』は受け切れますよぉ!」
2時と10時、二つの距離は凡そ直線にして18km。
ブーストを使わなくてもアンジェリカの最高速度であれば30秒掛からない距離である。
「そうですね。【黄水仙】、全体管制とジャミング、お願いしますね」
全員のレーダーに敵影が近付いてくるのが確認出来る。
「あまりもたもたしている暇はねえな‥‥。一気に畳むぜ!!」
「必ず無事は護ってみせる‥!」
2時の方向に兵衛とケイ、ヒューイ、るな。
10時の方向に霞澄、小町が向かう。
「小町さん、CWはお任せです」
「まかせてや♪ ますます強化に磨きのかかったこの試作型スラスターライフル‥‥CWに対して何処まで有効やろーかねー♪」
うふっ♪ と楽しそうに答える小町。
直衛の2機が6人を見送る形となる。
──キラリ!
機外を写し出す正面モニタ、機雷を引く船の右舷に一瞬不自然な反射を見たタケシ。
カチカチとモニタの画像倍数をあげていく──。
高度0の水面ギリギリを船に向かって一直線に飛ぶHWとCWを確認する。
タケシの見たのはHWらが推進する風圧で巻き上がった水飛沫に陽の光が乱反射したものだった。
「CWとHW発見!」
タケシの言葉に船からの狼狽が伝わる。
船のレーダーに恐らくCWとHWの機影は捕らえられていないだろう。
「榊さん、私も戻った方が良いかしら?」
タケシからの連絡に兵衛とロッテを組むるなが問う。
「いや、直衛のヨネモトやカララクがいる。先にそっちを片付けてもまだ残っているようなら頼む」
「了解ですわ。榊さん、お仕置きし過ぎないで下さいね♪」
「約束は出来ないがな」
苦笑をする兵衛、忠勝が急旋回して船へとコースを変える。
「さて‥‥ここを抜けさせる訳にはいかないものでな」
長い射程を誇るランチャーを放つ兵衛。
鼻から当てるつもりはない牽制攻撃である。
目の前に着弾し、上がる高い水飛沫にCWとHWがコースを変える。
「そう、それでいい。今しばらくこの俺と下手なダンスを踊っていて貰おうか」
ブーストでヒューイとるながHWとCWの間に機体を割り込ませ3機を分断する。
HWを牽制するようにガトリングを放つケイ。
「うふふ‥‥間抜けですわね。後ろが、がら空きですわよ♪」
回避行動を取るCWにランチャーを叩き込む。
「ヒューイ‥行ったわ!」
【夜蝶】のTACを持つケイが優雅にKVを操り編隊を組み直そうとするCWを引き離す。
「サンキュー、【夜蝶】!」
ヒューイも負けていられないとばかりにCWにランチャーを叩き込む。
「よっしゃ、HITっ!」
「残念だけど‥‥貴方のお相手は私じゃなくってよ♪」
CWが墜ちた事を確認したるなは、タケシとカララク、兵衛に加勢すべく反転する。
ヒューイがケイと合流し、ロッテを組み直す。
「【夜蝶】、待たせたな。さぁて‥‥大掃除と行こうか」
バルカンで追い込み、
「これだけの数、当たらないとは言わせないっ!」
それに向かってトドメとばかりにAAMをHWに向かって放つケイ。
「‥‥意外と丈夫ね? エース機じゃない普通のHWに見えるけど強化してあるって事かしら?」
白煙をあげ乍らも墜ちないHWを忌々しそうに見るケイ。
「どうせ爆発に巻き込まれた時、簡単に墜ちないようにしているんだろう?」
もう一度アタックだ。とばかりにハヤブサのソードウィングがHWを裂く。
「いい加減‥大人しく散りなさい‥」
ケイのレーザー砲がHWを貫いた。
小町もまたブーストを使い、CWとHWの間に割り込んでいく。
霞澄が更にHWを遠くへと追い立てる。
「どうや、スライスターライフルの味は♪」
1発2発と着弾しFFが弾けてCWの機体に直接弾が当って行く。
うりゃうりゃ♪ と楽しそうにありったけの弾を叩き込んでいた小町。
爆発炎上して墜ちて行くCWを見て、何かを思い出したらしく名残惜しそうに海面から上がるCWの名残りの水蒸気を見つめる。
「うっかりや。うち、強化したソードウィングの切れ味も試したかったんよなー」
よくばったらあかんよねー、きっと♪ と言い乍ら霞澄のアンジェリカを探す小町。
霞澄はG放電装置でHWの足止めをしているのが見える。
「霞澄! 今そっちに向かうからなー!!」
G放電を連続して当てる事によりFFは吹き飛び、放電の影響でHWの表面には電撃が走っている。
機体が怪しく震えているのが見える。
(「効果はあるようですが‥‥まどろっこしいですね」)
敵の増援の可能性を考えればG放電を全部使い切るのは余り良い方法だと思えない。
「遊びは‥終わりです」
レーザー砲に切り替える霞澄。
「小町さんの手を煩わせる間でもありませんよ?」
霞澄は静かにトリガーを引いた。
兵衛に攻撃を抜けてCWが水飛沫をあげて船に迫っていく。
馬鹿の一つ覚えと言いたい所だが、飛沫と波・水面の反射が天然のチャフである。
「一応、頭があるってことか‥」
回避行動をするCWの脇に着弾、破裂するロケット弾を静かに睨むカララク。
対空兵器では弾は水面に着弾と同時に衝撃の殆どが吸収される為に爆発で生じる爆風や衝撃波といった余波の効果でCWを止める事はできない。
CWの狙いはあくまでも船らしく、回避を終えるとすぐにコースを修正してひたすら船を目指す。
「自爆か‥体当りが‥‥狙いか?」
「本命ってヤツですね。ですが、自分の狙撃から‥逃しはしません」
「同感だ‥‥」
それを遮るように前に進むカララクと船を背にしたタケシのスナイパーライフルが同時に火を噴く。
「墜ちたか‥?」
白煙をあげるCWだが船に機体をぶつけるつもりなのか、しぶとくそのまま一気に加速していく。
「これ以上の接近は許しません!」
タケシがデルタレイのセーフティを外し、トリガーを引く。
着弾の衝撃でコースがずれたのだろう。
船の脇を掠め飛び、400m程離れたところで水面に墜落するCW。
「次だ‥」
タケシとカララクがCWを撃墜したのを確認した兵衛。
CWが片付く迄と大人しくしていたが、ようやく本領発揮である。
「その顔は見飽きたからな。速やかにご退場いただこうか」
トリガーを引く兵衛であった。
「あら、残念。私の分はもう残っていないようね?」
兵衛がHWを撃墜するのを見て残念そうに言うるな。
「敵の増援に期待するしかないわね」
各機はロッテを組み直し、船の守りに再びつく。
「意外とあっさり‥‥コレで終わりか?」
「周辺に敵影無し‥ん、終わりだな」
前方には船の到着を今や遅しとモルディブ艦隊が待ち受けているのが見える。
「空港でシャワーとか借りれるんですかねぇ?」
強めにエアコンを掛けているとはいえ、何となくじっとりとしたウーフーの中でタケシが言った。
●閑話
軍側の予想よりすんなり敵を片付けた傭兵達は迎えのカーゴが来る迄、空港近くの店やホテルに仲間同士で飯を食べに行ったり、土産物を見て回る。
「こんな事なら水着でも持ってくるんでしたね」
「そうね‥‥」
綺麗なビーチで何も知らない観光客がはしゃいでいたのを思い出し、ちょっと残念に思ったりする。
「あ、近くで海を見乍ら全身エステ受けられる所があるみたいよ」
「エステか‥‥暫く行っていないな」
空港で配っている観光ガイドを見ている女性陣。
「エステは兎も角、お茶位は奢ってくれるんやない?」
「‥‥いいんですか、それ?」
「こんな別嬪揃いのお願いに『NO』と言う程小さい男やないと思うし、それにウチ聞いてみたい事があるんよ♪」
にこーっと笑う小町。
とりあえずお財布代りになりそうなS・シャルベーシャ(gz0003)を捕まえようと言う事になる。
ビーチサンダルにアロハシャツという姿でドリンクバーにいたサルヴァを捕まえた。
取り敢えず探り半分、小町が以前から気になっていた質問する。
「新型KVの販売ってどうなってるねん?」
「‥‥ストレートだな」
「オブラートに包んで質問しても、ストレートに質問しても答えてくれん時は、くれんやろ?」
「まあな」
暫く小町の顔を眺めた後、サルヴァは言った。
「MSIに関して言えば3機種が凍結状態だな。何時販売になるか全く販売見込みが立たないのが現状だ。まだ、販売先が変わるとかスペックが変わっても販売出来るだけマシというモノが多い。‥‥まあ、理由は明白なんだが」
「なんやねん、理由って?」
おい。とトリプランタカがそれ以上話す必要がないだろうとサルヴァを睨む。
「いや、知っておいた方がいいだろう。アジア大戦で人類側が負けた事により多くの鉱山がバグアに押さえられたのが、かなりキツイ」
メガコーポレーション同士で資材争奪戦が起っているのだと言う。
『販売見込みが立たない』と言う言葉より、
「人間が負けた‥‥?」
天気の話をするようにあっさりと出た『負けた』と言う言葉にびっくりする小町。
「そうだ。デリーは民間人が立ち入れない軍事都市化したが、日々バグア側の攻撃を受けない日はない。
単にランジット・ダルダ(gz0194)が死ななかっただけだ」
デリー、アグラ間はまだ人の領域だが、道路を民間人が往来出来る状況ではなく、実質インドの4分の1がバグアの手に墜ちたのだと言う。
「軍の奴らはソレを認めたがらんのでコイツ(トリプランタカ)やお前らが苦労をする」
「シャルベーシャは?」
「俺にはないな」
遠い昔に捨てたモノだ──煙草を灰皿で揉み消すサルヴァ。
「まあ‥‥CEO(ダニエル・オールドマン(gz0195))に会ったら『新機種販売を心待ちにしているファンがいる』と言っておこう」
そういって立ち去ろうとするサルヴァに小町が声をかける。
「最後にもう一つ!」
「なんだ?」
「お茶奢ってぇな」
にっこりと笑う小町。
「ウチら、皆、お仕事やからってお財布も持って来てないねん。カーゴが来る迄、ぽや〜っとロビーで待っててもええねんけど‥‥」
キラキラ目で訴える小町の後ろに 霞澄、ケイ、るながいた。
LHへと帰るカーゴに珍しい南国フルーツを抱えた4人の姿が確認された──かどうかは定かではない。