タイトル:死者の書 青い海Aマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/22 20:01

●オープニング本文


 ──インド洋、モルディブ。
 美しいマリンブルーの海に突き抜ける青い空をバックに豪華な白いクルーザーが停泊している。
 周りにも小型のクルーザーが停泊しており、デッキには大きな竿がセッティングされている。

 ダイビングを終えた男達がクルーザーに上がって来る。
 ボンベやシュノーケルといった装備を外す背の高い金髪の男にタオルを渡し乍ら軍の士官服を着た男 トリプランタカが声をかける。
「どうだ?」
「駄目だな。予想より悪い」
 机に置かれた煙草を銜え、火をつける。
 先程見て来た機雷の数を思い出し、口をへの字に曲げるS・シャルベーシャ(gz0003)。
「バグアの奴らめ、たいした置き土産をしてくれたものだ」

 クルーザーの中を動き回る者達はラフなシャツや短パン姿をして観光客を装っているが、武装した軍人か能力者達である。

 ──だが、
「機雷除去の技術を持っている奴は軍やMaha・Karaでもほんの一握りだ。人間が手で触ったくらいでは爆発せんが、機雷の癖にFFがある。現場での解体は難しいな」
 水中で動き回るキメラと思しき影も気になるという。
「たしか近海でワームも確認されていたはずだろう?」
 普通の潜水工兵には荷が重いだろうというサルヴァ。
「ではKVを出し、現場で破壊だな。海を穢すか‥‥勿体無い事だ」
「それが一番早い所だろうが、海底に沈んでいるアンカーとチェーン部分はFFがない。面倒だがカッターやバーナーで切って護衛付きで運搬し、一ケ所に纏めて爆発する手もあるだろう」
「ふむ‥‥サルヴァ、お前ならどうする?」
「俺か? 俺なら──」

 そう言って置き土産(機雷)回収にULTの傭兵が狩り出されたのが2日前である。

 集められた撤去機雷10個。
 各々が接触しないようにフロートで固定し、船でゆっくり爆破予定地迄牽引である。


 だが──レーダーを見ていた兵から敵影確認の報が入る。
「やれやれ‥‥予想通りとは言え、そう簡単にはいかんか」

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
旭(ga6764
26歳・♂・AA
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
月影・白夜(gb1971
13歳・♂・HD

●リプレイ本文

 進んでも進んでも、先へと続く地平線が何時までも目の前にあるだけの青い海。
 そんな変わることのない、しかしながらも実に美しい風景の中を、その装甲に燦々と降り注ぐ太陽光を反射させる8機のKVが、1艘の船を囲むように航行していた。
『綺麗な海ですね‥‥。本当に、機雷なんて無粋なモノは全く似合いません』
『仕方ねぇさ。それに、んなことに気をとられてると、下手すりゃ俺たちが海を汚す藻屑になりかねないぜ』
 最高航行速度に近いスピードで進む運搬船を中心に、常に周囲へと気を配りながらも、テンタクルスに搭乗する月影・白夜(gb1971)は静かに呟く。
 コクピットにはあまりに不釣合いな体格からして、まだ相当幼いと思われる彼。だからこそ、幼いなりに思い、辛いところがあったのだろう。赤い瞳に海の青を重ねながら、どこか悲しげに話す彼の口調は少し重い。
 そんな月影に、初めてのKV戦で苦い思いをしていた武藤 煉(gb1042)は、彼を元気付けるように明るく話しかける。
 ちなみに武藤からすれば、今回の任務は機雷の処理云々よりも、過去の悔いを報いる為にと云った部分もどこかあるのかもしれない。
『守るべき船と、厄介極まりない機雷の存在。確かに、失敗すれば助けの来ない海に放り出されて、そのまま沈むことになるかもね』
 すると、冗談っぽく言った武藤に続き、本依頼で唯一のKF−14に搭乗する鯨井昼寝(ga0488)がクスっと口元に笑みをこぼしながら囁く。
『おいおい、冗談だっての。そう簡単にくたばるわけにはいかねぇよ』
 返す武藤。その声にはどこか微かに震えが感じられる気もするが、それは緊張感や武者震いといったものの類だろうか。或いは、思い出される苦い記憶の為か。
『‥‥そうね、あたしだってまだまだ死ぬのはごめんよ』
 武藤の言葉の後、しばらく時間を置いて一言相づちを打つ鯨井。そうだ、自分達の置かれた状況が厳しいものであることは十二分に承知している。覚悟を決めた今は、ただ任務を無事に完了することに焦点を当てる事のみ。
 ――だが
『やれやれ‥‥予想通りとは言え、そう簡単にはいかんか』
 完成された陣形の最後尾を航行していたS・シャルベーシャ(gz0003)が、突如として全機へ向けて緊急連絡を告げる。
 レーダーに敵影が確認されたとの報。そして
『正に‥‥決死の覚悟ってやつね』
 荒巻 美琴(ga4863)が静かに息を呑む。いざ敵を目の前にすると、首筋に汗が伝わたり、心臓の鼓動音が速くなったのを確かに感じることができた8人。覚悟と言う言葉が、どこか儚げに聴こえてくる死が隣り合う瞬間‥‥
 こうして、いつ機雷が爆破するかも分からない危険を常に抱いたまま、海上での激戦が今、幕を開けた――

●絶対死守
『船には、ビタ1発触れさせないよ』
 どうやら確認された敵影は3体の様子。つまり、数としては明らかにこちらが有利だ。
 が、常に船を護りながら戦う必要がある傭兵達の状況を考えると、1秒たりとも油断をしている暇はない現状。
 そんな中、まず3方位から迫ってくる敵に対し、真っ先にスナイパーライフルD―06の砲口を向けたのは藤田あやこ(ga0204)だった。瞬間、前方から迫る敵影に向かい海上を奔る一筋の弾道が作られる!
『手応えあり! 近づいてきな、木端微塵にしてやるさあ』
 更に続けて追撃体勢へと移行する藤田は、銃兵器に加え氷雨を展開。遠近両方に対応する姿勢を一瞬で作り上げる。その速さ、実に見事――ではあったのだが、
「――え‥‥嘘!? 速っ」
 前方に舞う飛沫の影響による視界不良もあり、更に体感速度を増したのであろう敵の突進。確かに敵を射抜くはずであった弾丸は、何時の間にか水中へとその威力を吸い込まれると、
『くっ』
『藤田さん!』
 そのまま弾丸をかわした敵の、身を挺した突進!
 すかさず藤田は氷雨で衝撃を緩和するが、地に付ける足がない為踏ん張りが効かず、その体当たりは相当の重量を誇るであろうビーストソウルの機体を傾むかせるほど。
『気張れBS! 高い賃借料の分だけ仕事してもらうよ』
 叫ぶ藤田。そして何とか体勢を立て直した彼女が見たモノ、それは‥‥
「サメ‥‥か」
 サメ型の形をした珍しいタイプのワーム、メガロ・ワームであった。

『敵の散開からして‥‥かく乱を狙うつもりか』
 一方、船と少し距離をおいた最前部を航行していた終夜・無月(ga3084)らの方にも、同じくメガロワームが攻撃を仕掛けていた。
 常に体の半身は海面から姿を見せているものの、予想以上に素早い敵の動きに翻弄されてしまう終夜達。
『ミサイルの残弾0‥‥ライフルに切り替える』
 決して終夜の狙撃力が劣っているわけでもなければ、初撃に放った熱源感知型ホーミングミサイルの命中力が乏しかったわけでもない。通常の水中用キメラやワームであれば確実に当たっていたであろうその攻撃が虚しく敵の横を掠めていくその様は、紛れもなく今回送り込まれたワームの戦闘力が高いことを物語っている。
『ふと思ったんですけど、水中戦って常に背水の陣じゃありません!?』
『否定は‥‥できませんね』
 悲痛な叫びを言いつつも、終夜とペアの旭(ga6764)も次々と魚雷を繰り出していた。だが、やはり後一歩が届かない。
『僕が引きつけます。そこを一気に叩きましょう』
 絶妙な判断だった。遠距離から攻撃を繰り広げて時間をかけていては、いつ隙を生んでしまうか分からない。ならば、一気に接近に捉えて敵を絶つ、そう判断を下した旭。それに頷き、終夜も彼と一定の距離を置いたまま決定打を与えられるチャンスを待つ。
『早期撃墜‥‥そして、可能な限り向こうの援護に回りましょう』
 旭に無線越しだが話しかける終夜。彼の冷静な目は、前方の敵を見ると同時に後方で繰り広げられている激戦にも向いていた――

『――ったまきた! KF−14なめんじゃないわよ!』
 そこでは、どうやらメガロワームとは形状の異なったワームを相手にしているようである鯨井と古河 甚五郎(ga6412)の姿が。
『けもたまの機動力とブーストも忘れないでくださいね』
 古河は、鯨井と見事な連携で敵と付かず離れずの戦いを行っていた。‥‥しかし
『またこの攻撃かっ』
『これは‥‥厄介ですね‥‥』
 瞬間、確かに確実に当てられる射程範囲へと接近しニードルガンを放った鯨井の機体が、強い衝撃と供に腹部を突き上げられる。その謎の攻撃を繰り出すワームの正体とは‥‥
『まったく、クジラがエイに刺されるってのも嫌なもんだね』
 そう、エイ型の姿をしたマンタ・ワームだ。
『また来ます、鯨井さん』
『ちっ』
 しかも、このワーム動きが速いだけなく、緩急をつけると同時に本体から漂う長い尾でKVの装甲を削り取ってくるのだ。
『ふん、この程度じゃ負けないわよ、あたしも! KF−14も!』
 威勢良く咆え、再び迎撃体勢へと移る鯨井。一発、二発。射撃に続き‥‥ここで尾。
 舞い上がる水の粒がまるで光の粒子の用に眩い中、鯨井と古河は常にワームの動きから目を離さない。
 そして、気づけば徐々に2人は敵の動きに対応し始めていた。諦めない限り、活路は見出せる。そう信じる一撃が、確かに敵を捉え始めているのは明らかだった。
「ほらほら、どうした! これで終わりじゃないんでしょ!」
 更に言えば、鯨井に関しては元々が戦闘狂な正確も相まって、そのギリギリの攻防戦に対する意識の緊張が興奮へと変わり行くことで、どんどんその技のキレも加速していく。こうなった今、既にマンタワームとの勝負は決したようなものであった。


『くぅう! 背面さえとれれば』
 さて、場面は再び藤田達の左翼やや斜め後方へと戻る。船を軸に、終夜達とは正反対のゾーンで戦っていた彼女たちは、やはり敵の素早い動きに苦戦していた。その時
『藤田さん、ミサイルが来ます! ‥‥ダメだ、弾幕が間に合わない』
「ちっ!」
 先端の頭部に搭載されし、鋭利な刃を利用した突進に気をとられ、側部に搭載された遠距離用兵器からの誘導ミサイルに気づくのが一瞬遅れてしまった藤田。後方から弾幕でミサイルを被弾させようとした月影の援護が間に合わない。
 当たる――直撃は免れても、かなりの損傷を負うと藤田が唇をかんだ、刹那
『させねぇぜ!』
 爆破! ‥‥したはずだが、それは藤田の機体のすぐ前方であり、彼女の機体には傷一つ付いていない。
『お疲れさん。ったく、俺達の方には敵来ねぇんだもんなぁ。退屈だったから加勢に来てやったぜ』
 そう、何故なら藤田の後方では、敵の散開具合を見て冷静に援護の判断をした武藤が、しっかりと水中用ガトリング砲の弾幕により弾壁を作りミサイルを誘爆していたのだ。
『助かったわ、ありがとう』
『なぁに、礼なんていらねぇさ‥‥。さて、と。チョロチョロしやがって‥‥これで、カタぁつけようぜ? なぁッ!』
 そして、武藤の救援により3機となり戦力を補充した月影らの反撃が始まる――

 一方、こちらも武藤と同じくして別の班へと加勢に向かった荒巻は、終夜達と合流し重量魚雷での援護に回っていた。
 接近戦を織り交ぜながら戦う終夜と旭を相手に、横から介入してくる煩い魚雷。さすがに3機が相手だと得意の機動性を完全に生かしきれないのか、メガロワームの攻撃も以前ほど速く感じられない。
 ――ガガッ
『っ。止め‥‥ました』
『ナイス、旭さん! よーし、とにかく一斉に叩くよ!』
 どうやら、この状況下、先に隙を作ったのはメガロワームの方だったようだ。KVは後回しに、先に非武装の運搬船へと突っ込もうとしたワーム。その為に直線的で単調な突進をしてしまったソイツを、正面からKV全体で旭が止めたのだ。
 相当な衝撃であっただろうが、顔を歪めながらも旭はワームの口めがけレーザークローを突っ込む。そのまま側面へ回り込んで荒巻がワームを押さえ込むと
『サルヴァ‥‥1匹、討伐完了ですよ』
 終夜の無慈悲に振りかざされたレーザークローの煌きが、ワームの胴体を引き裂いた瞬間だった――

『ミサイルがそっちにいったぞ!』
『オーケーオーケー、大丈夫よ。慌てず騒がず』
 船に再接近して全体への指揮と最後の壁をサルヴァが努める中、傭兵達は彼の期待に応えるよう順調に敵勢力の攻撃を打破していた。終夜達の班がいち早くワームを1機葬ったと思えば、こちらは武藤の機体の上空をアーチ状に飛来したミサイルを藤田のライフルが射止めて爆破させる。
「此処は絶対に通しません」
 ぐっと前へ構えながら、テンタクルスを操る月影。それをかわす様にワームは水柱を立てるように回り込もうとするのだが
「生憎と、その動きは予想済みです。通さないと言ったでしょう!」
 すかさず敵の体そのものに加え、舞う水飛沫で同時に動きを先読みした月影は、可能な限りスナイパーライフルD―06による弾丸をぶち込む。
『船に接近する敵は片っ端から破壊してやる。ほら、これでジエンドだ!』
 月影の狙撃に乗じて3機でワームを包囲。円を描いて戸惑うワーム、回りには渦のようなものが発生。そして、それは同時に墓標を模すかのように‥‥
『いい加減仕舞にしようぜ!』
 3機からの一斉包囲射撃。そして、ワームは渦に飲み込まれるように沈んでいくのだった。


 時間にすれば短く、些細な出来事。だが、常に死という恐怖が纏わり付く時間ほど、長く感じるものはない。そんなこの戦いにも、いよいよ終わりを告げる瞬間がやってくる。
 サメ型のメガロワームが破壊された同時刻、運搬船の右翼部では
『ふー‥‥何とか、一件落着ですかね』
『これで、KF−14の強さってのも解ってもらえたかしらね』
 かなりの強化が施された鯨井のレーザークローが、ビビっと走る電気を覗かせながら、マンタワームの頭部に突き刺さっていた‥‥

●紺碧の底へ
 無事に機雷を処理する爆破海域へと到達した8人とサルヴァ達は、機雷を仕掛けて一定の距離をおいた後に爆破を開始する。
『海は生命の母‥‥何人も此れを侵す権利なんて無いのです』
『確かにそうかもね‥‥でも、母の抱擁は生命あるもの全てを包み得るものなのよ』
 爆破と同時に発生する非常に巨大な水柱――まるで、塔の様なソレを前に、月影の言葉に優しく返す鯨井。
「‥‥じゃあな。あの頃の、未熟な俺」
 そんな爆破と同時に、過去のKV戦における苦い記憶ごとフッとばした武藤の表情はどこか満足気だ。
(「ふふ。聴こえちゃった‥‥。男らしくて、格好良いじゃん」)
 そんな彼の喜びだが、実は切り損ねた無線を伝って荒巻の耳に届いていたり。

 こうして、無事に任務を終えた8人は、未だ沈まずに輝く太陽に見守られながら帰路に着く。
『‥‥ん? あら、綺麗じゃない』
『本当ですね。これは実に見事だ。奇しくも、あんなモノがこんな美しいモノを生み出せるとは』
 その背に、七色に光る祝福の橋を残しながら――


(代筆:羽月 渚)