●リプレイ本文
「‥‥海なんて久しぶり‥‥」
何処迄も突き抜けるような青い空と照りつける赤道の暑い陽射しに目を細めるセレスタ・レネンティア(
gb1731)。
「作戦‥らしい‥作戦‥‥無いけど‥‥。やれるだけ‥‥やる」と言うのは、九頭龍・聖華(
gb4305)。
それに対し、
「戦場の風紀委員真帆参上!」
セーラー服のスカート(水着着用済)をはためかせ青森の漁師の子だと言う熊谷真帆(
ga3826)が偽装クルーザーのデッキに降り立つ。
「恵みの海を汚す機雷なんて卑怯な手段を使うバグアは塩漬けにしてやります!」
作戦なんて、なんのその。
出て来た敵等は、その都度、敵を千切っては投げてしまえばいい──という勢いである。
だが、逆に落ち込むのは青海 流真(
gb3715)である。
AU−KVの密閉度では海底作業が出来ないと聞き、がっかりしていた。
「スキルも全く使用出来ません‥‥」
溜息ばかりが出る。
「他人に背中を預けるのもたまには良い経験だぞ?」とS・シャルベーシャ(gz0003)は言うが、いつもの通り薄笑いを浮かべて言うので真実味が今一、薄い。
「私はダイビングの経験はあまりないのですけど‥‥大丈夫でしょうか?」とセレスタが言う。
撤去する機雷には位置が判るようにフロートがついており、そのワイヤーを伝って行けば簡単に目的地迄潜れるだろうと言うトリプランタカ。
「機雷って指示された場所に運べば良いのかな? 手で持てる重さなのかな?」
そう質問する流真に『縦2m、直径50cmの円筒で200kg』と答えるサルヴァ。
自分より大きい機雷のサイズに愕然とする流真だったが、海底に固定しているチェーンを切れば機雷自身の浮力とフロートで海面迄上がるので撤去は簡単だと聞き安堵する。
「厄介な場所での、厄介な相手か‥‥経験が活きればいいのだがな」
「機雷の撤去ですか‥‥。邪魔な物みたいですし、手早く済ましてしまいましょう」
海図を見乍ら南雲 莞爾(
ga4272)と鳴神 伊織(
ga0421)が言う。
問題はキメラとの戦いをどう優位に持って来るかだろう。
「魚などを探知する可能性もありそうですが‥‥。ソナーでキメラは探知出来るのでしょうか?」と伊織。
キメラとの不意打ちを避けたい所である。
「残念乍らソナーを使っても『キメラ』と特定する事は出来んな」
今の所、大型で推進力が早いモノというレベルであるのなら鮫やキメラなどを含めて、船上から視認やソナーで確認し、作業をしているメンバーに教える事は出来るだろうと言う。
「無いよりはマシって所ですけど、それで充分です」
水中での作業や戦闘は地上と異なり、水の抵抗が生じる為どうしても緩慢になる。
早目に敵を発見すればその分のリスクが減るのである。
話し合いの結果──、
機雷の撤去は神音、流真が選任し、真帆が護衛と撤去作業の兼務、
キメラの排除は、伊織が囮、莞爾と聖華が専任攻撃、セレスタが護衛と攻撃の兼務となった。
「ボク武器もないし、全く戦闘できる状態じゃないし‥‥護衛、よろしく御願いします」
ぺこりと流真がセレスタ達に頭を下げる。
「しかし‥タコのキメラか‥久しく食べていないからタコの酢物とか食べたいわね‥‥」
資料写真を見て緋室 神音(
ga3576)がポツリと言う。
水中獣の攻撃は触手か棘のケースが多いのだが、写真で見る限り只のタコである。
「見たままのタコなら‥‥光り物とタコツボで誘き寄せるけど、このキメラもそうなのかな?」
「普通の‥タコと‥性質が‥同じなら‥寄って‥‥来る‥はず」と聖華も頷く。
暗くて狭い所が好きなタコはタコツボ漁が有名だが、キラキラと反射する疑似餌を利用して釣る方法もある。だが、それを聞いた神音が微妙な顔をする。
神音は覚醒時背に虹色の光翼が生じるのだ。
「‥‥‥心配するな、どんな時でも力になってやるさ‥‥お前の仕事、しっかりな」
俺も俺の仕事を頑張る。と神音の肩に優しく手を置く莞爾。
出来れば事前に機雷からタコを引き離したいと聖華がクルーザー内を探した所、釣竿とルアーが5個が出て来た。サルヴァが暇つぶし用に持ち込んだ物であったが、サルヴァからあっさり貸出できないと言われてしまった。
「理由は幾つかあるが‥‥」
最大の理由はクルーザーに対する危険を増幅させる行為であると同時に守る者を決めていない点だと言う。
聖華が調べた辞典にタコは目立つモノに攻撃を仕掛けると書いてあったが、キメラは元々人に害する為に作られた合成生物である。
劣勢と思えば攻撃を仕掛けず逃げる事もあるが、タコがクルーザーを攻撃する事もありえるのだ。
特に今回の作業現場は、最寄りの島迄軽く20km離れている外洋である。
能力者とて100%確実に島にたどり着ける保証は無い。
故、サルヴァや乗船している兵士達もクルーザーが危険に晒されたと判断すれば勝手に戦うが、それは同時に彼等から『無能』というレッテルを張られる時である。
「他の理由も説明が必要か?」
依頼に参加する限りベテラン、新人の差をつけないサルヴァのキツイ一言である。
斯くして覚醒時に青白い淡い光が全身に溢れる伊織が囮を買って出る事になった。
「受け‥ではなく‥攻撃こそが‥‥防御にも‥繋がる」
普通のタコが泳ぐスピードは15ノットと言われており、競泳のオリンピック選手でも4ノットに至らない。
能力者がタコを追い掛ける事は不可能である。
用意されたドライウェアは機動性を重視したスーツで鋭い歯等、点の攻撃にはそこそこの防御力はあるが、面の攻撃、締め付けや体当りには弱い。
真帆が「タコは頭部(胴体)を前に、触手を伸縮させて前にのみ推進する」等、思いつく限りのタコの生態を参加者達に教えていく。
クルーザー上でタコを待つ能力者達にソナーが大型の生物を探知したと報告がされた。
ソナーが探知した物が鮫なのかキメラなのか判らないが、とりあえず潜ってみようと言う事になる。
ハンドサインを最後にもう一度確認し、
「そちらにキメラが行かないようにしますね」
「さて、わらわの初陣じゃ、手早く片付けようかの!」
そう言うとまずはキメラ排除班が、潜って行く。
少し遅れて護衛と作業班が潜って行った。
ソナーに反応した影は、タコキメラだった。
『不遜なタコじゃの‥‥そんなにわらわに食されたいか?』
優雅に泳ぎ近付いて来るキメラを見て聖華が思う。
覚醒した伊織を追い掛け迫るタコ。
タコは伊織の前に回り込むと同時に伊織を絡め取ろうと一斉に触手を伸ばす。
アロンダイトを振い、触手を1本断つ伊織。
だが、他の触手が絡み付いて来る。
それを豪力発現で引き剥がす。
追付いた莞爾がSPP−1Pを放ち、再び絡み付こうとするタコを伊織から遠ざける。
『───水底で不利を強いられようが、やらずに勝負に出るのも性に合わんのでな‥‥!』
武器をアロンダイトに持ち替えた莞爾が伊織、聖華へ合図を送る。
キメラを囲み急所を狙った3人同時に攻撃である。
避け着れずまともにアロンダイトと蛟がタコの身体を貫く。
作業班の方は、鬼の居ぬ間に作業したい所だが確認されているキメラは4体。
あと3体はキメラがいる事になる。
真帆がチェーンのアンカーが埋まっている周辺の土や大きな穴をアロンダイトで丁寧に刺していく。
タコは擬態が得意な海洋生物である。
余り知っている人が少ないタコの生態を詳しく知っている所は、さすが漁師の子と言えよう。
神音も真帆を真似て海底を刺して行く。
周囲にキメラが潜んでいない事を確認し、真音と流音が切断へと取りかかる。
SPP−1Pに切り替えた真帆が周囲に注意しながら機雷の周りから少し離れた所をゆっくりと泳ぐ。その更に外をレスタが泳いで行く。
機雷を海底と繋ぐチェーンを流真がカッターで挟む。
腕の力を込め、両腕でカッターの柄に力を入れるが、安定性の悪い海中である。
チェーンに浅い傷が出来るばかりである。
『バーナーにしましょう‥‥』
神音が流真に合図する。
水中バーナーの青い炎がチェーンを切っていく。
空気ボンベの残量が半分に切ったところでなんとかチェーンが切断できた。
重りを失った機雷は、繋がれたフロートの浮力でゆっくりと海上に向かって行く。
それに付き添う流真。
まず1個である──。
モルディブの温かい海でも1度に出来る作業は最長1時間であるが、排除班が、新しいボンベに変えるべく浮上するのに併せて作業班も一度海上に上がる。
「あのキメラ‥‥なかなか手強いですね」とセレスタが溜息を吐く。
排除班が最初に発見したタコを攻撃している隙をつき、後方から別の1体が近付いて来たのだった。
機雷は船舶との接触やSESの発するエネルギーに反応し爆発するため、常に機雷から距離を取り、流れ弾が機雷に当らぬ様、機雷を背にして戦う事を強いられた為に護衛の真帆やセレスタに、やや歩が悪かった。
神音は帯剣しているが流音は丸腰である。
回り込まれない様に注意し乍ら攻撃を繰り返す。
『なんとか近付いて‥‥』
そうすればアロンダイトによる急所突きや豪破斬撃を浴びせられるが、このままでは悪戯に弾を消費するだけである。
『流音さんは、ここにいて下さいね』
そう言って機雷から離れる神音。
『Aether‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥』
覚醒した神音の姿に気を取られたタコに一瞬の隙が出来た。
『くらえ! 粛清の乾坤一擲』
『夢幻の如く、血桜と散れ──剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】』
真帆と神音のアロンダイトがタコを引き裂き、セレスタのSP−1Pがタコを貫いた。
再びタコと接触した場合、機雷除去作業に支障を来さないようスムーズにタコを排除するには、どうやって動きを止めさせるかが問題である。
実際、不意を突かれ、触手に絡み付かれた足首に青く痣が出来ているのを見て聖華が忌々しく、
「もう1、2本触手を噛みついてやれば良かった」と言う。
──機雷はまだ1つ、タコは2体残っている。
暫くクルーザーの上で待ってみたが、新しい怪しい影は見当たらない。
余りゆっくりしていれば陽が暮れてしまう為、新しいボンベに換え再び海へ潜る。
作業に慣れて来た神音と流真をセレスタと真帆が守り、接近して来たキメラ1体を伊織が誘導し、莞爾と聖華が排除する。
機雷が海面へと浮かんでいくのを見上げる神音。
『海の中はこんな綺麗なのに‥‥』
魚が優雅に泳ぎ、見上げれば透明度の高い水は、クルーザーの船底だけでは無く青い空と陽の光を上に写し出ていた。
海面に浮かび上がった機雷はそれぞれが接触しないように丁寧に衝撃緩和材に包まれ、クリーザーの船尾から延びたロープに引かれて海面を漂っている。
「‥‥これで作業終了かな?」
「タコが1体行方不明ね‥‥」
「現れぬのならばそれに越した事が無いが、わらわは斬り足らぬ」
未だ水着姿の聖華の後ろに、にゅろ〜んと最早見なれた物体が生えた。
「ん、なんじゃ?!」
最後の1体、タコの触手が華奢な聖華の身体にウネウネと絡み付く。
「敵は本当にC級映画よろしく敵は終わった頃にやって来くるものなんですね」
早々に水着から着替えていたセレスタが感心したように言う。
「セレスタ、感心し取らんで‥‥やめい、切れるだろうが!」
引っ張られた水着の片紐を引っ張り返す為に聖華の手が疎かになった隙に触手が両手両太股に絡み付く。
「やぁ‥‥ど、何処を触っておる! この‥‥や、やめ‥‥」
聖華の身体が盾になり、アサルトライフルを構えたまま攻撃し倦ねているセレスタを横目にニヤけているサルヴァに「助けてやらんのか?」と声をかけるトリプランタカ。
「船上で1ヵ月以上禁欲生活に耐えている兵らには、いい娯楽だろう」
聖華の人権を完璧に無視した言葉を平然と言ってのけるサルヴァに呆れるトリプランタカ。
真帆がセーラー服を甲板で脱いでみせた時はトリプランタカの目を気にして遠巻きにしていた兵士らも突然振って湧いた艶事に見とれ、中には鼻血を垂らしている者もいる。
「この、セクハラ親父!」
そう叫ぶと大きな口を開け、ガブリとタコの触手に噛み付きそのまま食いちぎる聖華。
驚いたタコが動きを止めた瞬間、セレスタのアーミーナイフが煌めき、触手を断ち斬る。
「この、無礼者っ!」
蛟を振り回し、タコに突き立てる聖華。
「九頭龍さん、離れて下さい!」
フルオートでアサルトライフルを撃つセレスタ。
10秒も掛からずタコは肉片と化した。
「お怪我は‥‥?」
「お怪我は無いが‥‥非常に最悪な気分じゃ」
タコの残骸を散々踏んだ後、ジロリと甲板にいる男達を見回す聖華だった。
──そして陸戻って来た一同。
水揚げされたタコキメラと改めて御対面である。
「美味しいかな?」
ドキドキし乍らフックに掛かったタコを見て言う流真。
「タコの焚きあわせにタコ飯‥‥はぁ〜っ‥久しく食べていません‥‥」
「衣に青ノリを混ぜて‥‥天麩羅にしても美味ですよね」
「タコ焼きもいいなぁ‥‥でも折角だから薄造りの刺身とかも捨て難い」
「ふ‥‥任せて下さい。醤油とワサビ持参です(サムズアップ)」
おおっ! と、歓声が思わず上がる。
世界中のタコの総漁獲高の内7割を食べると言われる日本人が6人も集まったのだ。
バグアが来る前迄高い水揚げを誇っていた国の殆どはバグア占領下である。
ここは食べるしか無いのかもしれない。
タコを食べる習慣が無いトリプランタカや傍観者を決め込むセレスタは、いそいそと乾燥ワカメを戻している神音らタコ食メンバーを遠巻きにして見ている。
タコづくしの料理が並び、炊きたての白飯が回る。
「じっくり‥‥味わう‥」
元気の良い『いただきます!』の声が上がり、箸が皿へと伸びる。
「‥‥この食感、久しぶり‥‥」
「あまーい、うまーい♪♪」
刺身に舌鼓を打つ。
「どうせならマグロやエビのキメラも出れば豪華3点盛りだったのに」
一仕事終わった開放感からか食欲には上限が無いようである。
港の端に機雷運搬船の護衛に着く傭兵らを乗せた大型高速艇が着陸し、カーゴ部分からビーストソウルやテンタクルスといった機体が搬出される。
真帆は、作戦に参加する母親の機体を目敏く見つけ、焼きタコを片手に手を振っていた。
「結構、大所帯みたいですね?」
まぁな。と答えるサルヴァ。
確認されている機雷は全部で2000個、その内の10個ばかりがこの海峡に集まっているのだと言う。
「『アジア大戦の残り火』という奴もいるようだが‥単なる偶然かしれんがな」
そう鼻でせせら笑うサルヴァ。
「これにて任務完了です‥‥」
──色々あったが、タコキメラはセレスタが蜂の巣にした分を除いて全てが能力者たちの胃袋へと消えたのだった。