タイトル:HW☆バンドマンマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/07 12:00

●オープニング本文


『ラスト・ホープ』
 人の手で作られたこの都市でも、昔と変わらぬ人々暮らしが日々営まれている。
 その為か、いつもどこかしらで人々の心を和ませる色々なイベントが行われている。

 今日も街角の小さな窓を飾るオレンジ色のカボチャ。
 壁に蝙蝠やファンシーなお化けが描かれたポスターが貼り出されている。
 そこに書かれた「Trick or Treat!」の文字。
 ──『ハロウィン』である。

「ゴロゴロ‥‥‥なんか楽しいイベントはにゃいかにゃ? バグアもキメラもいなくて、美味しいおやつが一杯食べれる。そんなのがハロウィンだし、行きたいのにゃ♪」
 受付に飾られたオレンジ色のカボチャを楽しそうに転がす能力者。
「依頼はイベントとは違いますが、こんな依頼はどうですか?」
 オペレーターの示したのは、非戦闘地域にある孤児院の慰問である。
「境界エリアからの避難して来た人達の子供らが集められている孤児院です」

 孤児院で行われるハロウィンパーティを盛り上げてくれる人を探しているのだと言う。
 人形劇や紙芝居を子供達に見せる他、近所の人も招いて毎年生バンドでダンスパーティもハロウィンパーティで行っていたのだが、頼んでいたバンドが戦闘に巻き込まれて立ち往生しているというのだ。

「にゅにゅにゅ? バンドの人を助けに行くお仕事じゃないのにゃ?」
「バンドマンに怪我人がいるそうです。UPCの移送機なら早いので頼みたいと言う事ですね」
 能力者にバグアやキメラと戦う他、一般人の心をケアに準じるような行為も斡旋しているのだ。

「孤児院にはピアノがあるそうですから、後の足らない楽器は個人で持っている者を持って行くしかないですね」
「貸してくれにゃいのにゃ?」
「UPCの倉庫にもカセットデッキやCDプレーヤー位なら探せば出て来るでしょうが、さすがに楽器はないですから‥‥‥ショッピングセンターに楽器とかのレンタルショップはあるんじゃないかしら?」
 まあ、どうしてもなかったらボディパーカッションとか、いろいろ出来るんじゃないんですか?
 オペレーターは呑気に言った。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
五十嵐 薙(ga0322
20歳・♀・FT
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
篠原 悠(ga1826
20歳・♀・EP
神楽克己(ga2113
15歳・♂・FT
黄 鈴月(ga2402
12歳・♀・GP
ネイス・フレアレト(ga3203
26歳・♂・GP
サンク・タルロ(ga3384
18歳・♂・SN

●リプレイ本文

 ステージは一番大きな食堂の椅子と机を片付け、箱を敷いた急拵えの粗末なものであった。
 それでも遠い所からやって来てくれるバンドマン(子供達には戦闘を思い起こさせる能力者であることは内緒であった)の為に子供達は、色紙を繋げて作った輪のモールや自分達で書いたカボチャや魔女、お化けの絵を飾って一生懸命、歓迎する。

「‥‥‥大歓迎だな。あいつがいなくなってから、もう人前で弾くことはないと思っていたんだけど‥‥」
 出演者控え室代りの自習室の中も子供達が飾り付けたハロウィン一色である。
 知人のピンチヒッターで依頼を受けたサンク・タルロ(ga3384)が言う。
「僕らが演奏を見せるこの時だけでも戦いを忘れさせてやりたいものだ」

「こうも早く自分の芸を披露できる機会に巡り合えるなんてな‥‥。傭兵より、こっちのが向いてんじゃねえか? 俺」
 鏡と睨めっこしていた神楽克己(ga2113)は、オレンジ色のカボチャの被り物に黒いマントというジャック・オ・ランタンの衣装を纏う。
 子供達が能力者達を一生懸命、窓から覗き込んでいる。
 お客さんは只でさえ珍しいのに、楽しい音楽やゲームを見せてくれると知って子供達は待ちきれないようである。背の小さい子供は、背の大きな子供にだっこを強請っているのが見える。

 アンプやら何やら、色々調整が必要だと思っていた藤田あやこ(ga0204)が、がっくりと肩を落す。
 小さな孤児院では、運動会の時だけ使うと言う古いカラオケセットのようなマイクとアンプしかなかったのである。
「マイクを複数使いますからハウらないようにするのと調律くらいしかないですが、頑張ります」
 そう言うとあやこは、アンプの調節に向かう。

「皆さんと、一緒‥‥で、良かった‥‥です。頑張りましょう、ね」
 新条 拓那(ga1294)、篠原 悠(ga1826)、黄 鈴月(ga2402)を見つけた五十嵐 薙(ga0322)は、ほっと胸を撫で下ろす。
「うむ、こんな遠くでおぬしと出会うのも、また縁やろな」と進行票を片手に茶を啜っていた鈴月が答える。
 鈴月は司会進行と演劇を担当するのだった。

 ***

 白猫が食堂の前の廊下に並んでいる子供達に夜光塗料ペンで書かれた小さな歌詞カードを1人づつに配る。
「お姉さん達と、一緒に‥‥楽しもうね」
 頂戴、頂戴! と子供達の輪が白猫の周りに出来る。
「大丈夫‥‥ちゃんと皆の分、あるからね?」

 そして開場である。
 猫は背の小さい子供を前の席に、背の大きい子は後ろの席に順番よく座らせて行く。
「今から‥‥始まるよ。みんな‥‥幕が上がったら、大きく‥‥手を叩こうね」

 小さなキョンシーがステージに飛び出して来る。
「こんにちはー!」
「「「「「こんにちはー!!!」」」」」
 客席の子供達から元気な声が帰って来る。
「今日はお化けたちの演奏や〜! 楽しんでってや〜!」
 パチパチと拍手が起こる。

「まず始めに幽霊のお姉はんの歌やで〜」と言って袖に合図を送るキョンシー。

 ベベーーーン。
 何処か物悲しい三味線の音。
 ステージの上には、1本の柳と髪をだらりと垂らした白和装束の女。
「ハロウィンは亡くなった人の魂が年に一度、里帰りします。日本はとっても不思議な国です、ハロウィンがなんと年に2回もあるですよ。お盆といって真夏にハロウィンがあります。今日は日本のお化けを紹介しちゃいます〜」
 無気味な幽霊女が豹変し、歌のお姉さんと変わる。
「ヘイYO、いかしたダーク(闇)、月のない夜に現れるモンスター。君は幾つ、その名を知っていRU」
 マイクを片手にノリノリでラップを披露する。
 キュッキュキュ♪ エアでディスク捌きを見せる幽霊女。

 その後「ぽん!」とセットの柳にしがみついた。
「これは何かNAー?」
「セミー!」
「ブ、ブッ! 残念、子泣き爺でした♪ HOH!」
「‥‥‥子泣き爺って、たしか人の背中で泣くとその度に重くなる妖怪でしたよね?」
 ジャパメーションで育った職員が子供らに聞こえないようにボソリという。
「じゃあ、じゃあ、これは何KAなーぁ?」
 袂を広げ(中にはスパッツを着用)、バタバタとステージを駆け巡る幽霊女。
「モモンガー!」
「蝙蝠!」
「残念、ぬーりーかべだーYO♪」
 笑いと拍手が観客席から起こる。

「日本の幽霊さんにかわいく歌ってもらった次は、お化けかぼちゃと狼男のミニかぼちゃジャグラー」
 キョシンシーが紹介する。

「さ〜ぁ、お集まりの皆様方! 上手く行ったら拍手喝采。失敗したら笑って流して♪ 器用なミイラ男とカボッチャッマンの登場だよ〜っとぉ!」
 拓那の掛け声で登場したのは、小さいカボチャを持ったミイラ男とカボチャ男である。
 クラリネットが奏でる軽快なジャズのリズムに乗り、小さいステージをポンポンとお手玉のようにカボチャが舞う。
 カボチャ頭の上に小さいカボチャを繋げて並べ器用にバランスを取る。
 ポン、ポン、ポン。
 ミイラ男の投げたカボチャが、カボチャ頭にあたって落ちる。
 子供達の笑い声が上がる。
 ジェスチャーで「もう1回」と御願いするカボチャ男。
「しょうがないなぁ」と腰に手を当てていたミイラ男が、またポンポンとカボチャを投げ渡す。
 カボチャ男がキャッチしてすぐに投げ返す。1つ2つとカボチャの数が増えていき、眼にも止まらぬジャグリングに子供達は大はしゃぎであった。
 退場の際、カボチャ男はミイラ男にマントを踏まれてコケる念の入れようであった。

 袖口に帰って来た克己は、エミタを埋め込んだ右手を握り締める。
「この力以外でも人の役に立てるっていうのは、嬉しいもんだな」
 拓那がポンと克己の頭を叩く。
「そうだな」
 袖口から振り返る二人。
 子供達のキラキラとした笑顔が嬉しかった。

「皆、楽しめた? じゃあ次、黒猫のアカペラ。必見やで」
 ステージ上でまだまだパフォーマンスは続く。
 黒猫に扮したネイス・フレアレト(ga3203)が、椅子を片手に黒猫のリオンと共に登場する。
 客席に向かって優雅に一礼をするとバラード調のゆったりとした曲を歌い上げる。
 ネイスの歌に合の手を入れるようにネイスの膝上でリオンが「ミャー」と鳴く。
 白猫が必死に大人しくするように言うがネイスの歌を聞くより子供達はリオンが気になるようでステージそっちのけでモゾモゾ動いたり、「ニャンコさん」叫んでみたり、幽霊から貰ったお菓子を食べ始めたりとザワザワしてしまった。

「次はしっとりと魔女と黒猫のバラード。わしも出るんよ」

「今から演奏する曲は『星に願いを』という曲です。少し切なくて、とても力強い歌です。段上二人の無言劇と合わせて楽しんでくださいね」
 魔女の衣装を纏った篠原 悠(ga1826)が、客席ににっこりと微笑み乍ら語る。


【星に願いを】 ○Vo(主):黒猫、●Vo(裏)&G:魔女、P:ドラキュラ ◎ハモリ
♪♪♪〜
(魔女がさり気なくドラキュラにアイコンタクトを送り、トマトジュースを飲んでいたドラキュラはグラスをグランドピアノの上に置く。静かにピアノの前奏が始まる)

●星の降る夜の空 安らかな寝顔のあなた
 やさしく抱きしめて
(ギターの演奏がスタートし、メロディに彩りを加える)
<曲間に繰り広げられる静かな恋愛劇>

●今歩き出す道と 進むべき理由(わけ)が
 胸に刻まれる
(ドラキュラとアイコンタクトする魔女)

○『悲しいね』呟く君の頬に
一筋の綺麗な流れ星
<鈴月の涙を克己が指で優しく拭い取る>
(黒猫と魔女は顔を見合わせて、タイミングを測る。そしてメロディはサビへと向かう)

◎星に願いを 悲しみがこれ以上増えないように
 僕に出来ることが一つ増えた

○いつかきっと訪れる みんなで笑い合える日々を
 目指して‥‥

◎星に願いを 君とならこの世界が敵になっても
 僕はきっと歩いてゆける‥‥
<鈴月の肩を抱く克己>

◎星に願いを‥‥
(静かなギターソロの終奏が流れ、曲は静かに終了した)
〜♪♪♪

 一生懸命頑張って見ている子もいたが、中には飽きて眠ってしまったり、もらった歌詞カードを折ったり、トイレに行きたいとむずる子までも出る始末。
 一緒に見ていた大人の職員やボランティア達にバラードは好評であったが、2曲続けてのバラードは子供達にとっては退屈だったようである。

 ***

 セット替えを兼ねた休憩を挟んで後半は寸劇である。
 白猫が子供達にお願いをする。
「音のする‥‥もの、何でもいいよ? 何か、持って来て‥‥欲しいな」
 子供達が会場に隠された鈴やカスタネット、バケツに玩具の太鼓等を見つけて持って来る。
 狼男が怪しいクラリネットのメロディを吹きながら、仲間のお化けとステージに戻ってくた。

 ──ここまでは良かった。

「自分達は悪いお化けである。一つ残らずお菓子を頂くぞ」
「さっさと一つ残らず頂くで〜」
「お菓子は、いただいてしまいましたよぉ」
 黒猫が脇に抱えた黒猫リオンがミヤァオと鳴く。
「お菓子はもらった」
「トリックアンドトリート」と幽霊女が菓子を子供らに強請る。
 少女が怯えた表情を浮かべ、ポケットからキャンディを取り出し、差し出す。
「おっと、日本のお化けは辛いものが好きなんだ」と幽霊女が他のお菓子を強請る。
 別の子が白猫が歌詞カードと一緒に配っていた菓子の袋を差し出す。
「ぐぁっはっは〜、今夜はこ〜んなにお菓子を巻き上げてやったぜ〜。よ〜し、ここでも思いっきりイタズラしてやるぞ〜!」
「ふぇ‥‥うぇえっ‥‥うぇーん」
 狼男の言葉に1人の子供がついに泣き出してしまった。

(「「「「うっ!」」」」)

 予想外である。
 火が着いた様に一斉に他の子供も泣き出す。
「きゃあああああーーーーッ」
「うぁああああーん!」
「ママー、ママー!」
「怖いよー!」
 パニックを起こす子供達。

 親兄弟を戦火に焼かれ、奪われ追われ孤児院に集められた子供達である。
 傷ついた心は、ガラス細工の蝶の羽根より脆く傷つきやすいのである。
 友達だと思っていたお化けが、意地悪な悪者だった。
 バグアの憑依され、親の顔をした敵に殺されそうになった子供もいるのだ。
 忘れかけていた心の軋みが、悲鳴を上げる。
 能力者達によって戦火の恐怖を思い出してしまったのである。

「や、やっつけようと思うなら決められたフレーズを奏でてみろ」
 必死になって拓那が台詞を言う。
「みんな、あたしと‥‥一緒にやっつけ、よう!」
「みんなの演奏でやっつけて〜」
 薙が鈴を振り、鈴月も子供達を促すがそんな事を子供らに聞いている余裕はない。
 ボランティアや職員達が必死になって子供らを守るように両手を大きく広げ、抱きかかえ優しい言葉をかけている。
「怖くない、怖くない‥‥先生達が守ってあげる」
「大丈夫、大丈夫。ここにはバグアもキメラも居ないから‥‥大丈夫、大丈夫‥‥」
 会場内に啜り泣きが響く。

 暫くの中断の後、劇は続けられた。
 内容としては、楽器を全員で鳴らし、悪いお化けをこらしめる。お化けからお菓子を取りかえし、負けを認めた悪いお化け達からお詫びにもっと多くのお菓子を子供らは受取ると言うものだったが、お化け達に怯えた子供らは能力者からお菓子を受取る事はなかった。

 一同、顔を見合わせてから鈴月のメンバー紹介に併せて1人1人が客席に礼をする。
 全員揃って客席に頭を下げる。
「「「「ありがとうございました!」」」」
 だが、会場は白けたムードが漂ってしまっていた。

 ***

 依頼主である施設の院長だけが、能力者達を門迄見送りに来た。
「あの子達は‥‥大丈夫ですか?」
「もう、落ち着いていますよ」
 一度言葉を切った院長が言葉を継ぐ。
「‥‥他人が思う程、PTSDというのは簡単ではないんですよ。あなた方が平気と思う行為が、人を傷つける場合がある事を覚えて置いてください」
「僕らが、彼らにしてあげられる事はないんですか?」
 暫く考えた後、院長はこう言った。
「バグアを退治する事でしょう。私達は、彼らの心がこれ以上傷つく事がないように見守ることしか出来ません。だが、あなた達は能力者です。彼らの心に落ちたバグアや戦争という闇を取り除く事が出来るでしょう」
 UPCに帰った能力者に半分成功半分失敗として報酬の一部は支払われたが、苦い結果であった。