タイトル:ユリアの初めて物語1マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/22 13:48

●オープニング本文


「気が済む迄いるといい」
 そうS・シャルベーシャ(gz0003)に言われ、セーフハウスの1つが与えられたユリア・ブライアント(gz0180)。
「獅子と‥ユリアで‥‥お買い物‥‥ですか?」
「そうだ」
 目の前に立つシャルベーシャを一瞬見つめるが、落ち着かなげにキョトキョトと視線を漂わせる。
「気にする事は無いですよ。この人は見た目が恐いし、バグアを相手にしている時は目が三角ですけど、ね。普段は何処にでもいる普通のオジサンですから」
 それに戦争屋ってのは、大体変な人が多いから気にしていると胃に穴が空きますよ。
 そういうのは、ダルダの系列の映像会社のディレクターでシャルベーシャの友人でもあるパナ・パストゥージャ(gz0072)。
 サルヴァ・シャルベーシャという男の全てを知っている訳では無いが、少なくともムンバイにいる時はシャルベーシャは何処にでもいる何処か怪しげなプロモーターのように行動しているのを十分知っていた。
 実際、その内音楽プロモートも面白いかもしれないと言っていた矢先にミュージシャンであるユリアを連れて来たので、傭兵らを使ってバンドを作るか、本格的音楽ミュージカル映画でも作るのだろうと思っている程度であるのもたしかなのだが。

「必要な設備はあるが、流石に女物の服や下着とか無いのでな」
 シャルベーシャも野戦で困らない程度の料理技術はあるが、平和な時は美味いものを食うと決めている為に外食派である。が、まれにガールフレンド等が食事を作りに来る事もあるのでフライパンや包丁等は一応ある。
「服や下着‥‥」
 言われて見れば着の身着のまま飛び出して、今着ている服は南京で運送会社の社長から貰った服一式である。
 つまり上海を飛び出た時に着ていた服と今着ている服だけである。
 洗濯物が直ぐ乾くムンバイでも雨が続く日もあるのだ。
「若い女の子ならグルガオンのショッピングモールが無事なら良かったんだろうけどね」
 デリーから車で30分程の郊外グルガオンには長さ1kmに及ぶ巨大ショッピングモールがあったが、デリーでの戦闘のあおりで焼け落ちている。
 映画産業の街ムンバイも小さいけれど近代的なショッピングモールやクラブ、映画館や美術館があるのだ。
「俺と2人では息が詰まるだろうし、俺に女の服なんぞ判らん。誰かと行って来い、金は出してやる」
「つまりシャルベーシャさんがスポンサーになってくれるのでお友達と服を買って来いって事ですよ」
 友達と言われて悩むユリア。
 言ってはなんだが日本で普通の生活をしていた時も体が弱く友達が少なかった。
 ミュージシャン仲間もユリアが大怪我をした時に多くを失った。
 従兄のキースと共に上海にやって来た時も、そしていた時も友達らしい友達はいなかった。
 そしてインドに来てまだ1週間も経っていないので、当然友達もいない。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ユリアは‥‥友達が‥いません」
 思いつめたように言うユリアを見て、親父2人は顔を見合わす。
「まあショッピングモールの中は、英語が通じるから1人でも買い物はできると思うが‥‥」
「そうですね。子供じゃ無いんだし、1人でも買い物位できますよね?」
「‥ユリア‥‥ジュースなら‥‥買った事が‥ありますが‥‥‥‥」
 かなり不安そうに言うユリア。
 列車の乗車券すら買った事が無いと言う。
「どうやって1人で上海から南京まで来たんだ?」
「‥‥キースが‥拾った‥‥タクシーの‥人‥に‥‥話したら‥‥窓口で‥‥買って‥くれました‥‥」
 外見が小さくて可愛い外国人の足の悪い少女というのが、プラスに働いていたのかもしれない。
 見知らぬ相手に財布を渡せば丸ごと帰って来ないか、一部を抜かれる事もあるこんな御時世にプロのプライドを持ったタクシードライバーや、正義感溢れる能力者達にサポートされて無傷でインド迄辿り着けたのは運が良いとしか言えない。
「‥‥‥‥こうなったらあれだな。最後迄運に頼るか」
「UTLの窓口で受付けてくれるんですか、こういうの?」
「そんな事、俺が知るか。ガタガタ言うようだったら『新人傭兵に傭兵としての心得を教える』とでもなんとでも適当な理由をつけてしまえばいい」
 エラい物を拾ってしまったのかもしれない。
 若干、そう思うシャルベーシャだった。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
忌咲(ga3867
14歳・♀・ER
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
結城玖沙久(ga9646
14歳・♀・EP
憐(gb0172
12歳・♀・DF
榎城・ひにゃ(gb3676
11歳・♀・ST

●リプレイ本文

「うーん、いい天気♪ 今日も世界は晴天だー」
 お買い物日和だと麦わら帽子を被った結城玖沙久(ga9646)が伸びをする。
 ユリアの初体験(買い物)に同行する能力者は8人。
「忌咲(ga3867)だよ。よろしくね〜」
「はじめましてだねユリアちゃん、私の名前は結城玖沙久よろしく」
「‥‥はじめまして‥憐です‥‥よろしく‥‥お願い‥‥します‥‥‥‥」
 深々と御辞儀をする憐(gb0172)。
「ひにゃも初めてなので‥どきどきです。ユリアさんと一緒に『初めての物語』をつくるですっ」
 ドキドキし乍ら言うのは榎城・ひにゃ(gb3676)である。
「ユリアと買い物、嬉しいでありやがる、です」と言うシーヴ・フェルセン(ga5638)。
 だが自力で服買い物歴浅いので、あんまし手伝いにならないかもしれないと、恐縮している。
「こちらこそ‥‥よろしく‥御願いします」
 ぺこりと頭を下げるユリア・ブライアント(gz0180)。
「よ。覚えてるか? 上海以来、だな」とアンドレアス・ラーセン(ga6523)。
 頷くユリア。
 集まった面子をぐるりと見回したホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)。
「この顔ぶれじゃ‥‥俺は荷物持ちだな」
「シーヴは体力がありやがるです」
 荷物を持つと言うシーヴに、
「駄目駄目。女の子の荷物を持つのは、男の人の義務だよ?」
 最年長女子の有り難いお言葉である。
「男は荷物持ち確定‥‥って俺非力なんだけど、手伝うのは構わねぇけど」
「俺も持つから〜。でも‥」
 アンドレアスと空閑 ハバキ(ga5172)「メインはホアキン」と言う言葉に溜息を吐くホアキン。
「今日は荷物を持ってくれる人も居るし、色々買っちゃおうかな♪」
「下着に洋服、靴でしょう? アクセサリーにバックもいるよね?」
「雑貨屋さんも必須でしょ♪」
「是非楽器店には行きたく! っていうか俺が行きたいって説も」
「移動は効率的に。軽い物から順番に」とハバキが、モールのハンディMAPを広げ乍ら言う。
「目的の物を買うだけじゃなく眺めて歩くのも楽しいしぞ」
「たまには息抜きしないとね〜」

 ひにゃとユリアは手を繋いで歩いて行く前をハバキとアンドレアスが並んでゆっくり歩く。
 だが可愛いバレッタやアクセサリーを売るショップを見つけては、
「これとかカワイイなー」
「こっちも可愛いですね♪」
 と女の子達は寄り道である。
「ほらほら。これとかユリアちゃんに似合うんじゃなないかな〜」
 青いフラワービーズが着いたネックレスを指差す玖沙久。
「おーい、最初からその調子だと1日で終わらなくなるよ」

「ユリアさんの好みを知らないから、こっちで選んじゃっても良いのかな?」
 ブリティッシュロック系やゴス系は好きだと答えるユリア。
「でも‥‥プリントTシャツに‥吊りのついた‥ショートのプリーツスカートとかも‥好きです‥‥」
「キルトスカートとかもユリアに似合いそうでやがるです」
 ブリティッシュテイストな服が持って来られる。
「おー、似合う似合う」
「ふわふわも可愛いです」
 ふんわりとした優しいシルエットのAラインワンピースやオールドイングリッシュスタイルと言われるシックなワンピースを持って来るひにゃ。
「‥‥郷に入らば‥郷に従えとも‥言います‥こんなのは‥どうでしようか‥‥」
 憐が選ぶのはサリーを纏う、赤を基調とした本格的なインドの民族衣装である。
「‥可愛いです‥」
 振袖やチャイナドレス、アオザイ‥‥アジア圏の民族衣装が次から次ぎへと登場する。

「背中が開いてやがれば、服破れねぇでいいんじゃねぇかと」
「そういうデザインにケープやポンチョを羽織るのも手かもしれないよ」
 白ホルターネックブラウス、赤タータンチェックのビスチェワンピ+ボレロカーディガンをコーディネイトして持って来るシーヴ。
 覚醒した際にユリアは背中に大きな羽が生えるのだ。
「開いた背中はカーディガンで隠れやがるです」
 ロングカーデガンは今年の流行りである。
「‥‥ユリアに似合いそうなの、頑張って探すです」
 かわるがわる色々な物を持って来てくるシーヴ。
「これは‥ユリアより‥シーヴ‥の‥方が‥‥似合いそう‥です」
 胸元にコサージュについた淡いピンクの姫袖のロングカーデガンとワンピースをシーヴに当てるユリア。
「‥‥シーヴは今日は買う気がなかったですが、折角ユリアが選んでくれやがったですし‥‥」
 どうするか? とワンピースを見て悩むシーヴ。

「女の子って、洋服や化粧ひとつでコロコロ雰囲気が変わるよね」
 女の子達がユリアに色々試着させるついでに自分の服も選んでいたりするのを楽しそうに見るハバキ。
 女の子に振り回されるのは、幸せなことだよ。と笑う。
「まあ、女の子が綺麗にしてるのはいいもんだ、うん」
「俺も便乗してLHに居る恋人へのプレゼント購入しちゃおう♪」
 シンプルで温かそうな物があるか? と店員に尋ねるハバキ。
 カシミアかパシュミナのストールを薦められるハバキ。
 色々悩んだ挙げ句、一番色々な服とあわせ易いキャメルカラーのストールを選ぶハバキ。
「ハバキも女の子に混ざってないで手伝えよ!」
 両手に袋を抱えたアンドレアスが言う。

「む〜、これ可愛いけど、サイズが無いね」
 小さいサイズが無いか店員に尋ねる忌咲。
「私のは本当に、既製品は子供服でもないとサイズ合わないけど、ユリアさん小柄だけど、探せば合うサイズがあるよね」
「ユリア‥子供服‥でも‥いけます‥‥」
 自分は胸が小さいからと言うユリア。
「ユリアはサイズ分かりやがるですか?」とシーヴ。
「サイズ‥‥ですか‥?」
 胸に大きな差がある2人。
「下着は、ちゃんと専門の店員さんにサイズ測ってもらって合わせないと」と言う忌咲。
 どうやら下着購入迄キースがしていたようである。
「それなら余計採寸してもらわないと駄目だよ。合わないのを無理に着けるのは良くないからね」
「ニーハイソックスや、タイツも買った方が良いでありやがるですね」
「‥パジャマも、です‥」
「ひにゃはランジェリー‥とやらは良く分からないのですが、ひにゃは皆さんについていこうかなって思うです」
 次の店はランジェリーショップに決ったようである。

「男性陣はお留守番ですよー。一緒に選ぶとか我侭などは傭兵さんは言っちゃダメですからねっ」
「大丈夫、外で待っているから」
 男性陣は女の子達がランジェリーショップにいる間は休憩である。
「私も可愛いのがあったら買っちゃおうかな?」
 ハーフカップに3分の2カップ、ベビードールに高級レースの下着から超セクシーなもの迄ずらりと並ぶ。
「あ、これ可愛い♪ ブラとショーツがセットになっているよ」
「刺繍も凝っているからこれがいーんじゃない?」
 レースを使ったものや白やパステルカラーの可愛い感じのブラやショーツ、キャミソール等がレジの前に山積みされて行く。
「‥後は‥‥獅子に襲われないように‥気をつけてください‥」
「‥‥多分‥それは‥ないと‥‥‥その辺は‥紳士‥なので‥‥」
 パジャマを選んでくれていた燐がすっぽり着込むタイプのフードつき『うしさんぱじゃま』を持って来る。
「‥‥‥可愛い‥でしょうか‥?」
「‥可愛いです‥」
 サムズアップする憐。

「あのパワーは凄いな」
「同感だ」
 数カ所を見て回っただけで両手に抱え切れない袋の山がすでに出来ている。
 言ってもまず聞かないだろうと半ば諦めつつ、女の子達に忠告するホアキン。
「あまり沢山買い込みすぎるなよ‥‥」
「「「「は〜〜〜い♪」」」」
 余り当てにならない明るい返事か帰って来る。
「しょうがないよ。財布の上限が無いからね」
「‥‥だな」
 これは早々に【豪力発現】を使わないといけなくなるかもしれない。と呻くホアキン。
「だが、その前に‥‥一休みだな」
「荷物が多くなるしオープンカフェの方がいいか?」
 女の子達がランジェリーショップにいる間にハバキとアンドレアスでカフェの席を予約すると言う。
「オープンカフェがある店でも良いができれば入り口が良く見える壁際の席の方がいいだろう」
 キッチンの側の席3席をキープするのがベストだと言う。

 合流した女の子達を一番奥の席に座らせ、隣の席にアンドレアスとハバキを座らせるホアキン。そして一番店中央に近い位置に荷物を置くと自分は端の席に斜に座り、チャイを注文するホアキン。
「ひにゃは甘いあいすくりーむとか食べたいかもです。ユリアさんが何か注文されるならひにゃが頼んであげるですっ」
「‥じゃあ‥ユリアも‥アイスクリームを‥」
「えーっと‥‥ショートケーキプリーズ‥‥‥」とオーダーをする玖沙久。
「クチュ ビー サジュ メン ナヒーン アーヤー(何を言っているのか判りません)? ピル セ ボーリエー(もう一度言って下さい)」
「だから、しょーとけーきだってば〜」とウェイターに繰り替えす玖沙久。
 話が通じないと諦めるには、ショーウィンドウのケーキは余りにも美味しそうである。
 ウェイターの手を引っ張って行き、コレ。と指差す玖沙久。
「お昼からお酒‥‥って訳にはいかないよね?」
 ビールと地酒であるラムのリストを見乍ら忌咲が言う。
「忌咲さんは‥辛党‥なんですか?」
「甘いものも割と好きだよ。一番好きなのはお酒だけど」
「‥ユリアは‥余り‥‥飲めません‥ね‥」
「ユリアさんって幾つなんですか?」
 21歳だと言うユリア。
 俺の恋人とユリアは同い年だよ。と吃驚するハバキ。
「‥お酒を‥‥飲むなら‥食事を‥しろと‥言われます‥‥」
「ユリアさんって少食なの?」
 頷くユリア。
「私もあんまり食べない方かな。お酒はいっぱい飲むけど」
「ユリアはどんな物が食べられないんでやがるです?」
 野菜や魚、肉が嫌いだと言う。
「パテ‥や‥ソーセージは‥食べれるんですが‥‥」
 立派な偏食である。
「‥‥野菜も少しは食べねぇと、です」
「野菜は‥頑張っています‥よ」
 野菜ジュースを頑張って飲むのだと言う。
 観光情報誌を捲っていた憐が、それは違うと指摘する。

 紅茶やコーヒー、ビール等オーダーした品が机に並ぶ。
 チャイを片手に新聞を広げるホアキンを見て、困ったように言うユリア。
「ユリアは‥VIPじゃ‥ない‥です‥」
「だが、あなたが襲われたらキースさんも悲しむだろう?」
「何2人で物騒な話をしてるんだよ?」
 ホアキンが尾行や襲撃を警戒して席を選んだと言うユリア。
 入り口が良く見える壁際の席は急な襲撃を防ぎ、キッチンから外に出れる店は要人警護の店鋪選びの基本で、荷物はバリゲードになり、足を開いて斜めに座る事で次の行動がし易いのだと付け加える。
(「あなたもまた見かけとは違うということか‥‥」)
 ホアキンはユリアと同じ組織にいた、普通に生きたいと思い乍らもそれが適わなかった花の名前に相応しく無い激しい炎のようなスパイ(女)を知っていた。

「あと、買うのはー‥『割れない食器』ですか‥」
「割れない食器は必須でやがるです」
「食器売り場‥‥‥動くべからず割るべからず」
「そ、それは‥‥」
 皆に指摘されドキドキするユリア。
 日用雑貨を買う序でにクラッシャーなユリアの為に食器を買おうという事になる。
「ユリアさんのドジっ子ぶりは破壊神級という噂があるから、やっぱり、壊れ難いのが良いよね」
「‥‥なるべく‥割れても怪我をしにくい物を選びましょう‥‥割れない物があれば一番良いのですが‥」
「大丈夫。カップとかは、最近はステンでも可愛いのあるし」
「ステンレスなら‥‥割れませんね‥‥」
「あとは、床に厚めのキッチンマットとか敷けば、落しても壊れ難くなるとは思うんだけど」と忌咲。
 ユリアの杖を見て、ちょっと考える。
「逆に危ないかな?」
 上海の家にもキッチンマットがあったと言うユリア。
「じゃあ、何れが良いかな? ほら、これなんて可愛いよ?」
 ポップな花柄を描いてあるカップを示す忌咲。
 ウサギの柄がついた電動歯ブラシにテーブルクロス、家庭用プラネタリウム機。
 買い物籠に色々な物が入っていく。
「何となくだが、あなたには似合いそうだ」
 アンティークのオルゴールをユリアに薦めるホアキン。
 くるくるとネジを巻き、白磁で出来た蓋を開けると何処か懐かしいメロディが流れる。
「綺麗な‥音‥‥でも‥‥アンティークだから‥落としたら‥‥‥」
 そう言って散々迷った挙げ句残念そうに棚に戻すユリア。

「Impeachmentは、一般ウケ狙った感じだったけど本来どういうのが好きなんだ?」
「上手く‥‥言えませんが‥‥」
 CDショップでアンドレアスに問われてユリアは困った顔をする。
 ならば好きなミュージシャンの名前を言ってみればいいと言われてハードロックや往年のメタルバンド名を答えるユリア。
「‥‥おっ、いい趣味」
 ユリアの希望でやって来た楽器コーナー。
 今日初めての笑顔を見せる。
「プレイヤーにとって楽器が無いのは凄く辛い事だからな」
 セーフハウスにもピアノはあるのだが、色々なアレンジ等ができるキーボードの方が自分にあっているのだと言い、キーボードに楽しそうに触れるユリア。
「判るぜ、それ」
 ついついアンプは何処のメーカーが良いか、スピーカーはどこどこだ。と、マニアな話題で盛り上がる。
 脇で玖沙久が展示品のピアノで童謡を弾いている。
「どうせ『獅子』が払うんだろ? (キーボード)買っちまえッ♪」
 荷物はホアキンが運ぶのだから安心だと言うアンドレアス。
「‥‥使わないのなら、物置にでも置いておけば良いです‥‥でも‥‥弾きたい時に無いのは‥‥寂しいですから‥‥」
 憐もキーボードを買う事を薦める。
「いつか、ユリアのキーボードを聞いてみたいです」
 ありがとう。と嬉しそうに言うユリア。
「時に、ユリアは配線や設定は自分でできるんかな?」
 必要なら手伝いもするぜ。と言うアンドレアスを「その位は出来ます」と杖で突っ突くユリア。
 他にも必要そうな楽譜や楽譜台を持って来るひにゃ。

「‥‥トラックで迎えに来れば良かったな」
 ユリアの周りに小山に積まれた荷物を見たシャルベーシャが呆れたように言う。
 トランクや後部座席に荷物を積んで行く間、ユリアは助手席に座る。
「楽しかったか?」
 別れ際にシーヴから渡された連絡先を見るユリア。
『ひにゃが年下ですが‥‥分からないことがあるのは同い年、なのですっ。ユリアとご一緒にお勉強したりしたいのですよー♪ 同じ立場でごーごーしたいですっ』
『俺の所にキースから連絡が入ったら元気だって報告するよ』
『何かあったらいつでも連絡しやがってくれ、です。‥‥友達ですから』
 憐が水族館やプラネタリウムに行こうと誘ってくれた言葉を思い出すユリア。
「ユリアにも‥お友達が‥出来ました」
 高速艇のパイロットに託した内緒の土産は無事皆に届いただろうか?
 ──にっこりと笑うユリアであった。