●リプレイ本文
大きな荷物を持って待ち合わせ場所に急ぐのは漆黒のウィッチ帽子、ローブマントにお揃いのブーツを履いた小さな魔女姿の赤霧・連(
ga0668)。
(「これで黒にゃんこがいれば完璧なのですが」)
大きな窓ガラスに写った自分の姿を見て、苦笑する。
料理担当の思いつく限りのカボチャ料理を作って来た。
待ち合わせの公園入り口には、他のメンバー達がもう集まっているようである。
(「ほむ、本当にモンスターみたいな人たちがいます!」)
UNKNOWN(
ga4276)を見つけて、横断歩道の向うでブンブンと手を振る連。
「アンノーンさん、ブラブラーですッ」
「UNKNWONさん、気合いだね」
「誰の事だね? 今宵の私は、闇の狭間に生きる異国の吸血鬼。夜は私の為にある‥‥」
ファントムマスクを着けたUNKNOWN。インバネスコートにロイヤルブラックのダブルウェストコート、立襟のダブルカフスシャツに白いチーフと蝶ネクタイ、唾広のシルクハットという傾国の貴族風の幻想的な吸血鬼姿でバイオリンケース、カセットデッキ、バスケットにトランクである。
ゾンビマスクを被った進は、唐草模様の大荷物を担いでいた。
「人の事言えないけど、大荷物だね」
「そうだな。今日だけの、スペシャルデーだよ。‥‥ハロウィン、だからね?」
「連さんの魔女、可愛いすぎー♪」
横断歩道を渡って来た連に抱き着く風花 澪(
gb1573)。
「風花さんも可愛い死神さんですネー」
連に言われてにっこりと笑う。
ハロウィンを本格的にやるの初めてだと言う澪は、黒のゴシックドレスに黒い大きな布、愛鎌のリィセスを持った死神少女である。
「実は、パーティーってあんまりやったことないから楽しみだったんだよねー♪」
皆で後で記念写真だね。と約束をする。
「でも死神の鎌は本物っぽいですよね?」
「本物だもの。あと袖とガーターのナイフは本物だよ」と言って腕を振ると手品のように澪の両手にナイフが握られている。
「凄いですね♪ これならオレンジ・ジャックが混じっても山崎さんも安心ね☆」と笑うのは、黄色い呪符と帽子に張り付けたセクシーなレディキョンシー姿の竜王 まり絵(
ga5231)。
いつもより『ヲトメの秘密☆』を盛っているようである。
「‥‥山崎さん‥‥そんなに遭遇するんですか?」
一応、月詠は持って来ましたが‥‥。と黒い鞘に収められた刀を見せるのは、黒地に赤く月と彼岸花が染めあげられた着流し、白銀の化け猫姿の終夜・無月(
ga3084)。
「ええ、終夜さん。山崎さんの遭遇率は半端じゃないですわ!」
そう言うと「ムムッ!」と両顳かみに人さし指を当てたまり絵が「今、電波を受信しましたわ!」と言う。
「『サタンの瓜』、瓜が東南西北までと限らない‥‥白撥中もでっちあげるのがバクアですわ!」
「サンタの瓜?」
「サンタではなく、サタンですわ。サンタ姿の瓜も可愛いかも知れませんけど」
赤いサンタ服を纏った緑色の瓜キメラが担いだ袋を開くと中からうじゃうじゃとオレンジ・ジャックが出て来る図を考えてしまった進が「うへぇ」と言う。
──夜と言うには、ちょっと早め。
それでも空には猫の爪にも似た細い月が上がっている。
夕闇迫る人気が少なくなって来た公園のお弁当広場に楽しげに歌が聞こえる。
遅れるように大荷物とレジャーシートを抱えたモンスターの一団にカップルや親子連れが吃驚している。
秘密の合い言葉は「Trick or Treat!」
大きなシンボルツリーの下に化け猫とキョンシーがシートを敷く。
吸血鬼が机を広げ、その上に死神と魔女がジュースにワイン、お菓子や食べ物が乗った皿を並べて行く。
メニューは、
カボチャパイと梨のタルトとマロンケーキ
カボチャスープ
カボチャの煮物
サンドウィッチ
ナッツ類
ディップクラッカー
フルーツポンチ
ローストビーフ
スコーン
パーキン
フルーツケーキ
ポテトチップ
イチゴ
色とりどりのキャンディーとチョコレート
UNKNOWNと連の力作が綺麗に盛り付けられていく。
「ハイな、完成です♪」
満足そうに連が言う。
「カボチャの煮物?」
1品だけ純和風である。
「ほむ、お母さん直伝です」
煮崩れないで上手い出来ました。と連が言う。
「料理の腕は無月さんには負けちゃうけれど愛情だけは負けません!」
ぐっと拳を握る連、キラーンという星の幻影がバックに見える。
「無月さんって料理が上手いの?」
「ハイな」と連が言う。
今日は作って来なかったよ‥‥。と苦笑する無月。
袂からちらりと白い包帯が見える。
「無月さん、そのお怪我は?!」
しーっと口に指を当てる無月。
着物で隠していたが、無月は先に参加した依頼で負傷していた。
が、パーティにはヤボである。
「無理と無茶はしないしね‥‥さぁ‥今日は沢山‥楽しみましょう‥‥」とにっこりと微笑む。
「ほむ、たまには戦士にも休息は必要ですよネ!」
ゾンビがカボチャのランタンに火が入れ、カセットデッキから音楽が流れればハロウィンパーティの始まりである。
「よかったら一緒にどうぞ♪」
「皆さん、いっぱい遊びましょうッ」
6人だけでは寂しいと通りすがりのカップルや家族連れを巻き込んで行く。
「今宵‥‥と言うには明るいが。洒落てみないかね?」とUNKNOWNがサラリーマンにワインのグラスを押し付ける。
「みなさーん! せっかくのハロウィンだし芸とかやるから集まってくれるとうれしいなっ!」
折角だからナイフ投げを披露すると言う澪。
赤いリンゴを進に手渡す。
「ナイフ投げは得意だから安心してねっ♪」
「ちょっ‥‥俺、的?」
カセットデッキから小刻みの良いドラミングが聞こえる。
「聞いていないよ」と騒ぐ進の頭と広げた両手にそれぞれリンゴが乗せられる。
さっとマントを脱いだ澪の手にはナイフが2本。
観客が息を飲む間も与えず投げ付ければ見事にリンゴに突き刺さる。
素早い動きで手が振られる度に何処からか現れたナイフがリンゴに突き刺さる。
「おお〜っ!」と歓声が上がるのを満足そうに見た澪はニコニコし乍ら観客達に切ったリンゴを配って歩く。
「次は、わたくしね♪」
UNKNOWNの伴奏に合わせて1曲中国歌を披露したまり絵。
さらにロープを手に前に進み出る。
ロープを首にかけ端を指にひっかけると手を交差させてからグルリと一巻き。
動きに合わせて首をグルグルと廻るのを見て、子供達が笑う。
観客から2人選び、ギュッっと両端を同時に引っ張ってもらう。
「アイヤー!」
まり絵の叫び声に合わせて、ハラリと紐が解ける。
不思議がっている子供達にタネ明かしをしてみせるまり絵。
子供達は真似をして「ああでもないこうでもない」とやっている。
その隙にまり絵はパッと覚醒すると腰に挿していたハリセンをサッと振う。
紙吹雪が舞い、紅白饅頭をどこからか取り出してみるまり絵。
「山崎さんに進呈です。わたくし覚醒で『ひんぬー』になるんですの☆」
ポカンと見ていた進に人肌に温まった紅白饅頭を手渡す。
暫く紅白饅頭とまり絵を見比べていた進が思い切ったように口を開く。
「ええっと‥‥女の子の価値は胸の大きさじゃないし、あー‥‥戦う時は小さい方が邪魔じゃないかもね」
その言葉に大笑いするまり絵。
「大嘘ですわ☆ しっかり食べないと脳に血が回りませんわよ♪」
ビンゴ大会の景品が食べ物だったら進に進呈すると言うまり絵。
「瓜でも譲りますわ。‥‥当然!」
他の手品も見たいと言う子供達にUNKNOWNがカードマジックを披露している。
「‥‥一緒に歌いませんか? ‥‥澪の歌い易いコードで‥‥2人で歌えるような曲‥‥」
子供の頃、聖歌隊にいたのだと言う無月の誘いに吃驚し乍らも大きく頷く澪。
「終夜さん、できるだけがんばりますっ」
芸を迫られた進がスリングショットで空き缶の的当てを子供達に披露している。
「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞぉ☆」
連が子供達と楽しそうに追いかけっこをしていると再びUNKNOWNのヴァイオリンが響く。
「今から‥歌を歌わせて頂きますので‥どうぞお聴き下さい‥‥」
無月と澪が声を合わせ歌っている。
子供達の知っているような楽しいリズムの歌から聖歌のように人の心に響く綺麗な歌、オリジナルの曲を交えて様々な歌を二人で披露する。
♪♪♪〜
Happy tonight.(楽しい今夜)
Happy tonight.(楽しい今夜)
Why are you black?(何故君は黒いの?)
Why are you white?(何故君は白いの?)
It splash it is Halloween today.(それはね、今日はハロウィンだからさ)
Halloween pleasant today♪(今日は楽しいハロウィン♪)
OK I will dance together.(さぁ、一緒に踊ろう)
Eat a cake.(お菓子を食べて)
I will laugh together.(一緒に笑おう)
Because it is Halloween today♪(なぜなら、今日はハロウィン♪)
〜♪♪♪
アップテンポのリズムに乗り、楽しそうに歌う二人。
即興のダンスが披露される。
一緒に吊られて踊る人々。
UNKNOWNがヴァイオリンを置き、カセットのテープを交換すれば軽快なワルツが流れる。
「Shall We Dance?」
UNKNOWNが側で見ていた散歩中の女性を誘い、ダンスが始まる。
途中女性のゴム牙で首筋に歯を立ててみたりおどけ見せる。
「――Trick or ‥‥Trick。さあ、今宵の獲物は誰かな?」
ダンスの合間に女性に口説かれたのか、
「今宵、貴女に導かれるならまた現れる、かもな」と微笑み乍ら伊達男ぶりを発揮する。
「連ちゃんはダンスに加わらないの?」
観客に混じり楽しそうに手拍子をしていた連の手がふと止まる。
少し悩んだ後、
「‥‥ほむ、実は悲しいことがあったのです‥‥助けると誓ったのに救えない命がありました」
最後の方は小さい声で呟くように言う連。
「あー‥‥誘って不味かった?」
プルプルと頭を振る連。
「ハロウィンってさ。元々は収穫祭で死んだ人の霊が家族の元に帰る日本で言う所のお盆みたいなお祭りなんだってさ」
きっとその人も魂だけは家族の元に帰れているよ。と進が言う。
「はむ、きっとそうですよね。死者への追悼のために一曲歌いたいです!」
すくっと立ち上がった連が言う。
連が歌うのはモーツァルトのレクイエムの一節である。
高らかに清らかに伸びる声は満天の星空に届けと天使のラッパのように気高く響く。
「──ふぅっ」
歌い切った連が息を吐くと割れんばかりの拍手が起る。
ウィッチ帽子を脱ぎ、丁寧に御辞儀をする連。
──夜が深け、野次馬と言う名の観客達も帰って行く。
月も空の高い位置に移動している。
「ジャーン! お待ちかね、ビンゴ大会っ!」
「ほむ、何があたるかはお楽しみです。きっとびっくりドキドキなものが当たるかも‥‥それはジャック・オー・ランタンのプレゼントかもですネ?」
「食べ物以外だったら小躍りして差し上げてよ」
進がビンゴの機械を回し、数字を読み上げる度にカードに穴が空いて行く。
「お? どうだね?」
「あと1個。ここが空いたらビンゴなんだけどな。僕、こういうの一度も当った事がないからなー」
澪が「当りたいなー!」と期待を込めてカードを見る。
「『ビンゴ』というのは、後1つで列が揃う時に掛ける言葉だな」
UNKNOWNに言われて慌てて、手を上げる澪。
「はい、はーい! 僕、ビンゴ!」
「ほむ?! まだ私は何処も空いていないです」
がっくりする連。
「え、本当? 他の人でビンゴの人、いる?」
手を上げる無月。
「2人か‥‥じゃあ、次ぎで決まりかな?」
カラカラとビンゴの機械を回す進。
「はぁ〜‥‥残念」
がっくりしている澪。
「ありがとう‥光栄ですよ‥‥」
進から賞品を受け取る無月が嬉しそうに微笑む。
プレゼントボックスを開けると十字架の腕輪が首輪代わりに着けられたこねこのぬいぐるみが入っていた。
UNKNOWNにワイン提供の礼だとスリングショットが、まり絵には人肌紅白饅頭の礼だとイチゴが手渡された。
ゴミを片付け、いよいよ解散となった時、今日の記念だと1人1人にお化けとジャック・オ・ランタンの絵が描かれたキャンディボックスが手渡される。
そして、それぞれが来た時と同じように解散して行く。
「今日は‥イベントの立案‥ありがとう‥‥」
「たまにはこういうのもいいだろう?」
進と握手をする無月。
「次はクリスマスかしら?」
まり絵に言われて、サンタ姿の瓜キメラが出なければね。と進は笑った──。