タイトル:済南夜曲 難民移送マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/30 18:59

●オープニング本文


 ──済南市郊外の王舎人駅前ビル地下駐車場。
「急げ、こっちだ!」
 軍の用意した25台のトラックに3000人の難民が慌てて乗り込んで行く。
「なるべく家族は同じトラックに乗るんだ!」
 ミッションに参加した傭兵は少数であったが、敵の襲撃を受ける中、傭兵らの急ぎ作った重機と瓦礫の壁を持つ通路と身を呈してHWとゴーレムの攻撃を耐えた故に3000人の民間人に欠けはない。

 だが、これからが正念場である。
 鉄道に沿った道を東に350km進み国外もしくは比較的戦火の及ばない台湾や香港に向かう為に青島までバスで移動である。
 全行程の約80%が競合地域である。

 王舎人の状況を聞いてバグアの援軍がやって来るのは必死であろう。
 トラックに平走して走る軍用車に同乗している憲兵隊の江班長から傭兵らに無線が入る。
『本部からの連絡で今北京方面からこちらに向かうHW5機を確認した。との連絡が入った』
「‥‥‥ゆっくり補給に帰らせてくれる気はないってか?」
『そのようだな』
 傭兵らはKVに残った弾の残数と燃料の残量を確認する。
『大丈夫か?』
「こっちは任せておけって! あんたらは前を見て、無事青島に着く事だけ考えておけば良いんだよ!」

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
ヴィス・Y・エーン(ga0087
20歳・♀・SN
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

 ──時間は少し遡る。
「あと少しで安全な地域に到着できるんだ‥‥そこまでなんとしても送り届けなければ‥‥」
「3000人の民間人の命が掛かった任務か‥‥‥これはしくじる訳にはいくまい。全身全霊で事に当たらなくてはな」
「ああ‥‥ここまで来れたんだ。なんとしても全員無事に届けよう」
「折角欠けなく拾えた3000もの命‥‥1つたりとも落とせはしない。私達はそれが可能な力を持っているのだから‥‥」
「そうだね。それが最優先事項。護るべき人々がいて、越えるべき障害がある。なら、自分の武器と鋼鉄の鎧で押し通るのみ、例えそれがヘルメットワームであっても人であっても‥‥‥ね」
  鹿嶋 悠(gb1333)と榊兵衛(ga0388)、カルマ・シュタット(ga6302)、ロッテ・ヴァステル(ga0066)、そしてクリア・サーレク(ga4864)が25台の大型トラックに乗り込んで行く難民達を見ている。

「あの状況から何とか助け出したはいいが、まだまだ一苦労が必要か‥‥まっ、関わった以上は最後までやり遂げてみせるさ。8246小隊各員、ヘマだけはするなよ!」
 リディス(ga0022)の号令に元気の良い声がかえって来る。
 8246小隊から小隊長のリディス、副小隊長の 水上・未早(ga0049)、クリア、ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)の4名が参加していた。

 今回の350kmという距離、難民の体力が心配であるが、休憩中に襲われた時の事を考え最低限のみ。と江班長から提示された最短行程時間は5時間。
 迂回路を使った場合、最長8時間になると傭兵達が説明を受ける。
「出来れば小さい子供やお年寄りもいます。ドライバーの集中力を考えれば1時間に1度休憩を入れた方がいいのではないでしょうか?」
「単純計算でも1台120名だ。簡単に乗り降りで出来ない事を考えるとリスクがな‥‥」
 休憩を時間を巡ってやり取りがなされる。

(「どちらにしても今回の依頼は長期戦になりそう‥‥集中力を切らさないようにしなきゃ。ヘルヴォルの名に懸けて‥‥彼らを無事に青島まで送り届けてみせる!」)
 レイアーティ(ga7618)と共にグリフィンから参加している御崎緋音(ga8646)や月狼から参加のユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)も固い決意で望んでいる。
「3000人分のクッキーなんて、流石に事前に焼ける訳ないわよね」と言い乍らもヴェロニクは小さい子供を見つけて菓子を配ったり、年寄りを見つけ声を掛けて歩いていた。
「最後迄‥必ず護り切る‥‥だから、安心して‥‥」
 終夜・無月(ga3084)が母親に抱かれた小さな子供の頭を撫でる。

「正直、補給無しってのは辛いねー。何とか切り詰めてかなくちゃねー」とヴィス・Y・エーン(ga0087)が苦笑いをする。
 巡航飛行(走行)するだけであれば練力や燃料が先に尽きると言う事はどのKVでもない。
 だが空対空戦を繰り返した場合、練力よりも先に燃料が消費され飛行時間はかなり短くなる。地上戦の場合、燃料消費は空対空に比べればやや長くなるが、たかが知れている。
 KVが機動停止状態になった場合、能力者達はバグアに鹵獲されることを防ぐため機体の破壊を考えていた。
「戦友を手にかけるようでいい気はしませんが‥‥」
 そう話すレイアーティを気づかうように緋音は腕にそっと手をのせる。
「おっとり刀と言う言葉は大嫌いなんでね、相応の重武装で来たわ」
 敵をさっさと片付ければ問題無しと熊谷真帆(ga3826)が言った。


●TallyHo!
 全行程の約半分を過ぎ、2つ目の難所が迫って来る──。
「【Holger】より【ALL】、何か異常はありますか?」
『400m前方に橋を確認‥‥バリケートが設置されている模様です』
 河を渡り切った橋桁を塞ぐ形で横一列に敵のバリケードが作られていた。
「常に肉眼の警戒を怠るな、ですね‥‥。Mk1アイボールセンサーとはよく言ったものです」
 橋を渡っている最中に襲われれば逃げ場がない。
 未早が隊列前方を走るヴィスに確認を頼む。
「【SilverStar】より【Holger】、バリケードを確認しました。排除します」
 ガトリングでバリケードを粉砕するヴィス。
 それが始まりのゴングでもあるかのように接近して来るHW5機に気がついたのは、上空で警戒をしていた兵衛と無月だった。
 朔夜の指示に従い、空対空各機が散って行く。
「ルヴェ・ル・リドー(開幕よ)」

 ***

 細く息を吐き、儀式のように「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」と言う無月。
「‥‥漸くお出ましか――行くぞ、無月。まずは一つ墜とす‥‥!」
 無月との連携攻撃『鏡月』を駆使し、御影・朔夜(ga0240)がHWにブレードウィングで斬り込んで行く。それを援護するミカガミがKA−01試作型エネルギー集積砲を放つ。
「――ハッ、私と無月‥‥『双月の狼』を侮るなよ‥‥!」
 前衛と後衛を入れ替え複雑に攻撃を繰り返す。
 狼の牙に引き裂かれ、あっという間にHW1機を撃墜する。
 だが、予期せぬアンラッキーというのは存在する。脇から別のHWの1撃を受ける朔夜。
「ふむ、流石に無傷でとは――‥‥いや、そうだったな。この攻撃は以前にも受けていた。‥‥全く、度し難い話だ」
 己の既知感に、第三者的諦観と落胆を込めて嘆息を吐いた。

「さすがに1撃ではFFを吹き飛ばす迄に至らないか」
 それでも試作型G放電装置の手応えを感じた兵衛がUK−10AAMを放ち乍らHWに接近する。
 仲間の手を煩わせず出来ればこのまま1人で倒したい所である。
「俺の【忠勝】を並の鈍重な雷電と一緒にされては困るぞ。しばらくは俺と下手のダンスに興じて貰おうか」
 蜻蛉切以外も伊達に鍛えていないのだとにやりと笑う。

 先制で放った127mm2連装ロケット弾ランチャーが外れたのを見てユーリが短く舌打ちをする。
「なら、これならどうだ?」
 スナイパーライフルkk−1でHWを追い立てていく。
 だが敵も嫌らしく射軸上に常に隊列が来るように逃げ回る。
 何しろHWはM6から空中静止や現行KVとは異なり、その場で全方向に360度回転ができるのだ。
 ちらり、とユーリがトラック位置を確認した所に1撃を食らう。
 つかさず反撃をするユーリ。
「全く、いい加減に墜ちろ!」

 3.2cm高分子レーザー砲と20mmバルカンを組み合わせ攻撃を仕掛ける緋音。
 下方ではトラックを直接守る傭兵達が「守り」である為に苦戦しているのが見える。
「こんなところで手こずってる暇はないのっ!」
 長い隊列は良い的である。
 少しでも隙を見せればHWはKVではなくトラックへと向かおうとする。
「トラックには近づけさせないわよっ」
 進路を邪魔をし、再びバルカンを食らわせる。
「トドメよっ!」
 8式螺旋弾頭ミサイルを撃つ緋音。

「緋音君に負けていられませんね。Alvitr、私達も頑張りましょう」
 純白のディアブロを駆り、3.2cm高分子レーザー砲とR−P1マシンガンでHWを追い込んで行くレイアーティ。強化されたソードウィングはグリフィンの鋭い爪である。
 HWのFFごと装甲を引き裂いていく。
「耐えましたか、ではもう一撃です」
 機体を捻り、再びHWにソードウィングを浴びせるレイアーティ。
 HWは反撃の余地を与えられずに爆発した。

 ***

 リディスが大型バスで作られた2つ目のバリケードを多目的誘導弾で撃破する。
 未早に先導され、トラックがゴーストタウンへと逃げ込んで行く。
「皆、気を着けて。敵が隠れている可能せ─」
 周囲を警戒するヴィスの声が終わらない内に 物陰から攻撃を受ける。
 バグアの歩兵隊200名である。

 街道を中心に建物内部、平行する形で展開している敵に向かってカルマの20mm高性能バルカンが唸る。
「如何やら出番のようね、全員覚悟は良いかしら?」とロッテがほそ笑む。
 ロッテは憲兵が運転するジープに乗ってアサルトライフルを放ち、ヴェロニクもリンドヴルムを駆り、敵を翻弄する。
「難民の人たちには手出しさせませんよ‥‥!」
 悠がセミーサキュアラーを振り回し、真帆がヘビーガトリングを敵が隠れている建物に向かって放つ。
(「結構当らないですね。慌てず一つずつ確実に対応するしないですね」)
 KVは元々対人兵器ではない。
 雷電が人型になった時の全高はおよそ7m。
 小さい敵を倒すのにセミーサキュアラー等の武器はあまり向かない。
 死角を突かれ、足元で手榴弾が爆発する。
「戦車で歩兵を駆逐するようで気持ちが良くないですが‥‥」
 背に腹は変えられない。
 予定を変更してヘビーガトリング砲に切り替える悠。
「この弾幕を抜けようなんていい度胸ね」と真帆。
 瓦礫を散らし、埃が派手に舞い上がる。

 塞がれた視野の中、何かが隊列に向かって飛んで来た。
 トラックの側を走る憲兵のジープを吹き飛ばし、ジープを避け切れなかったトラックが追突する。
 敵装備に軽MATや小銃てき弾が混じっているのだ。
「リロードの隙を突かれるな。少しずつずらすんだ!」
「判った!」
 お互いにフォローしあい弾幕が途切れないように工夫する。

 止まったトラックを後続がどんどん追い抜いて行く。
 トラックに走りよるヴェロニクとロッテが荷台の難民に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「危ないから外に出ないで!」
 攻撃の振動で車体が大きく揺れる度に悲鳴を上げ、恐怖から外に飛び出そうとする難民を叱咤する。
「必ず青島迄あなた達を無事に届けるから。私達能力者は、傭兵はその為に此処にいるのだから」
 飛んで来る弾をリディスはディフェンダー、カルマはライト・ディフェンダーで受ける。
 お返しだとばかりにスナイパーライフルD−03で建物ごと敵を吹き飛ばして行く。
 真帆もまた、リディスと連動してガトリングを叩き込んで行く。
「モンスター、吼えなさい!」
「車両に流れ弾1つ中てさせないでっ!」
 軽MATやてき弾自体は、KVに大きなダメージを与える武器ではないがトラックに取っては大敵である。
 無論、能力者であっても目が追えきれず一撃で撃ち落し、避けきれるものではない。
 ジープを盾にアサルトライフルで射撃手を狙うロッテ。
 援護するようにカルマのガトリング砲が敵兵の隠れる窓に吸い込まれて行く。

 ヴェロニクはスピードをあげ、先行するトラックについて行く。
 建物に仕掛けられた爆弾が次々と爆発し、上から瓦礫が襲う。
 幌が破け、出発前にクッキーを上げた子供とヴェロニクの目が合った。
「大丈夫、お姉さん達すっごく強いんだから。任せときなさい」
 ヴィスがガトリング砲、未早がヘビーガトリング砲の弾を派手にバラ撒き敵の軽MATを撃ち落とす。
 だが、全部が全部落とせる訳ではない。軽MATなら兎も角、てき弾とガトリングの弾のサイズはどっこいである。モーションも小さくはっきり言えば当てるのが難しい。
 ならばとH−01煙幕銃を放ち、敵が混乱している所にビームコーティングアクスを振り回し、敵を妨害するべく壁を粉砕する。
 敵を近付かせない戦法である。

 敵の退路に向かってG−44グレネードランチャーを叩き込むクリアが違和感を感じた。
「どうかしたの?」
「良く判らないけど‥‥何か変?」
 敵は終わりがないのかというように新しい敵が次々と現れる。
「なんでこんなに攻撃が続くの? 敵は200人でしょう?」
 その問いに答えるように空から連絡が入る。
 トラックが進む道と平行して走る細い道があるのだと言う。
 どうやらトラックが通り過ぎるとそこにいた敵小隊は戦闘を切り上げ、足の早いバイクやジープを使い先回りと同時に隊列を編成し直して攻撃を繰り返しているらしい。
 安全の為にトラックが出せる速度には限界があり、傭兵達が深追いをせず隊列を守る事を優先するだろうと言う予測の上での行動であろう。
 実際足の止まったトラックがいた時は集中的に砲火が浴びせられたが、再び走り出した時には食らいつくような追加攻撃がなかった。
「何処かに指揮官が入るって事よね?」

「損傷軽微、錬力残量まだ余裕あります。いきます」
 敵を誘き出す囮になるというヴェロニク。
 だが敵の目的があくまで難民だった場合、軍人である彼等がヴェロニク攻撃に向かう確立は少ない。
「なら敵のやる気がなくなる程派手に叩き潰すのはどう?」
  怪獣の如く大仰に振舞い心理的に威圧すればいいと真帆が3.2cm高分子レーザー砲を敵兵の頭上目掛けて一閃する。
「機械の猛獣使い熊谷真帆。敵に銃口を向ける迷いは無い。三千の命が私に撃鉄を引かせる‥‥‥号砲一発! いけー!!」
 弾丸を撒き散らし歩兵を肉片に、車輌を鉄屑に変える行為は対人KV戦において比較的よくある光景であった為に特に敵兵の心理に影響をおよぼさず攻撃に影響しなかった。

 長期化しかけた対人戦だったが対空班の応援により局面が変化した事を受け、敵歩兵部隊は撤退した。
「――まぁ、こんなものか」
 己の既知を嘲る朔夜だった。

●地平線の彼方
 緩やかに下る坂道の下に、海が見える。
 負傷者の手当てと車体のチェックの為に臨時休憩である。
 同邦人という事で少し仲良くなったロッテとヴェロニクの二人が配った温かい茶を難民らが啜っている。
 憲兵隊員死傷者6名、運転手軽傷1名、難民に死者9名重軽傷者56名。
 江班長から被害状況を傭兵達に伝えられる。
「長い隊列を15人で守るんだ。君達が協力してくれなければ誰1人生きてこの場にいなかっただろう」
 気にするな。と江班長はいうと周辺の警戒指揮に戻って行く。
「これが実戦‥‥予測の範囲内ね。シェイドに比べれば物の数にもならないわ」
 強がりで言ってみても落胆は隠せない。
「これ以上は誰1人死なせたくないね‥‥」
 燃料に余裕があるKVが再び空へと上がって行く。

 レーダーに新たなる敵影を感知するが、同時に黄海に展開している空母から応援発進したとの無線が入る。だからと言って楽観も出来ず、慌ててトラックに乗り込んで行く難民達。
「さぁ、最後まで一気に抜けるぞ!」
「こういうとき、中国ではこう言うんだっけ。『三十六計逃げるにしかず』‥‥さあ、頑張って逃げるとしようよ。皆でね」
 人類の領域、安全地帯は目の前である──。

 ***

 青島湾の桟橋から出て行く船に手を振る能力者達。
「避難先で少しでも安心して暮らせることを祈ります‥‥」
 手を振る難民達に敬礼を返す悠。
「ボン・ヴォヤージュ(良い旅を)」
「あの人たちが一日でも早く故郷に帰るよう頑張りましょう‥‥」
 小さくなって行く船を見てヴィスが伸びをする。
「青島って言ったらビールが有名だよねー? KVだけじゃなくて、私達も一杯飲って補給したいもんだねー♪」
 こうして難民移送任務は完了したのであった。