タイトル:HW☆ディーヴァマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/10 15:44

●オープニング本文


『ラスト・ホープ』
 人の手で作られたこの都市でも、昔と変わらぬ人々暮らしが日々営まれている。
 その為か、いつもどこかしらで人々の心を和ませる色々なイベントが行われている。

 今日も街角の小さな窓を飾るオレンジ色のカボチャ。
 壁に蝙蝠やファンシーなお化けが描かれたポスターが貼り出されている。
 そこに書かれた「Trick or Treat!」の文字。
 ──『ハロウィン』である。

 同様に地上にもその楽しいイベントは公平にやって来る。
「パーティイベントで行われるコンサートの護衛?」
「そうです。日本の九州地方で行われるチャリティイベントなのですが、それに反バグアを唱える女性アーティストが参加されるんですが、その女性が狙われていると言う匿名の電話が入ったのです」
「‥‥‥匿名ね」
「調査してみた所、コンサート会場周辺で数体のキメラが目撃されています」
「ガキ共も集まる会場で‥‥‥公開処刑のつもりかよ。気に入らないね。OK、受けるよ」
「ただ‥‥」
 オペレーターが言葉を濁す。
「その、狙われている女性からのリクエストなんですが、子供向けの会場で武装した警護を着くのを嫌っています」
「その位は心得ているよ。客から見えないように偽装すれば良いんだろう?」
「それもあります。今回は球場を1つ使ってのハロウィンパーティイベントなのですが、会場内は仮装した人しか入れないそうです」
「なに?!」

 警護対象の女性と一緒にステージ上がれるのは、ミュージシャンやパフォーマー等のアーティストだけ。
 スタッフも客だけではなく出演者も仮装しているのだと言う。
 そして会場内は模擬店あり、ゲームコーナーあり、そしてステージがあるのだと言う。

「スタッフの数は、我々を除いて100名。来場者数は1万人を予定しています」
「限り無く敵の発見が難しいじゃねぇか‥‥いや、それどころか一般人のいる所で戦闘の可能性があるのか?」
「そういうことになりますね。それに厄介なのは、こちらで確認されているキメラなんですが‥‥」
「ワーウルフとかなのか?」
「いえ、パンプキンヘッドです。60cmオレンジと1m黒が1体づつ」
「‥‥‥子供に紛れたら判らねぇぞ」
「そうですね。上手く誘い出して退治しないと会場がパニックになりますので、注意して下さいね」

 そうそう。とオペレーターが続ける。
「とりあえず仮ですが、2体のキメラは、オレンジを『オレンジ☆ジャック』黒いのを『ブラック★ランタン』と名付けました♪」
「‥‥‥どいつのセンスだよ」

●参加者一覧

アイン・ティグレス(ga0112
25歳・♂・GP
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ゲオルグ・シュナイダー(ga3306
23歳・♂・GP

●リプレイ本文

「ジュエルだ。よろしくな」
 フランケンシュタインに扮したジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)が、能力者達に割り当てられた部屋で他のメンバーに挨拶する。
「化猫にしたんだが‥‥‥どうかな‥‥」
 猫耳と猫尻尾の侍というマニア受けしそうな姿をしているのは女性と間違えられそうな美貌を持つ終夜・無月(ga3084)。
「でも折角のお祭りなのに襲ってくるなんて、風情も何もあったもんじゃないですねー」
 血まみれの侍姿の平坂 桃香(ga1831)が言う。
「本当、みんなが『楽しみ』にしているイベントを狙うなンて、許せないョ! 絶対に邪魔なンかさせない」と幼いサキュバス風の衣装を着た聖・真琴(ga1622)が拳を握る。
「あーあ、でもどうせなら私も遊びたかったなー」
 桃香が大きな溜息を着く。
「本当にそうだよね。任務が終わったら皆でイベントを楽しまない?」とジュエル。
「愛紗も参加したいです♪」
 パンダのぬいぐるみ「はっちー」とお揃いのキョンシー姿の愛紗・ブランネル(ga1001)が言う。
「1万人が来る場所だ。普通にやっていては警戒範囲にも限界がある。襲撃があった場合、あくまでもパフォーマンスと来場者に思わせるようにしなくてはな」
 そう吸血鬼の扮したアイン・ティグレス(ga0112)が言う。
「敵の狙いがシュンロだけなら、やりようは幾らでもあるさ」
 そういう鯨井起太(ga0984)は、アサルトライフルを箒っぽく偽装した魔法使いの姿であった。

「ライブ中が一番危ないので、その対策をした方が良いですよね」と桃香が言う。
「何か、良い手があるかなぁ」
 少し間をうーんと考えた後「私と無月さんの二人で剣劇を行うのはどうでしょう?」
 そう言う桃香が示した内容は『能力者によるパフォーマンス』と言う物だった。
「ステージ上で堂々とキメラを倒んです」と桃香。
「あ、それ! いいかもヨ! それなら私、ギターを弾くヨ!」
「愛紗は鍵盤楽器‥‥ピアノならちょっと弾けるよ。でも、はっちーとのトークにしようかな♪」
 楽しそうな真琴と愛紗。
「どんな粗筋なのだ?」
「一つの饅頭を争い侍と化け猫が刀を振るうという、なかなかシュールなやつです。真琴さんと愛紗さんも演奏とは言わず、お二人も参加して頂くのはどうでしょう? 真琴さん達の仲裁で仲直り。皆で饅頭を分けあって大団円です」と桃香。
「そして劇が終わった後も真琴さんは、そのままステージに残って演奏し乍らシュンロさんを警備するというのはどうですか?」
「ならば俺もベースを弾けるので、そのままステージ残ろう」と無月が言う。

 ステージ班が盛り上がっていた頃、警備班は険悪なムードだった。
「こちらからの要望は1つ。『会場入り口から舞台までに一切の遮蔽物を置かないこと』」
 主催者側の担当者にそう言う起太。
「無理だな」とあっさり言う主催者側の担当者。
「企業ブースはもう設置済だ。今から移動の手配をしたら、イベントが終わってしまう。まあ、地元商店の出店ブースならテントなので、なんとか変更はできると思うがね」
 出入り口は地上1箇所とグラウンドを見下ろせる特設カフェに直結している階段の2箇所だけ。
「このイベント会場内は、お化けの国を再現していて地上出入り口から直線でメインストリートとして幅10mの通路を確保しているが、途中ストリートパフォーマーやキャンディ売り、ベンチにゴミ箱がある。一番奥がステージだが、その前には客席がある。言っては何だが、『人』こそが君の言う『遮蔽物』になるんじゃないかね?」
「じゃあ戦闘の際に子供達が近くに居るってリスクを減らすためにも、模擬店やゲームコーナーはステージから離れた位置に配置してもらいたいんだけど‥‥大丈夫?」
 恐る恐る聞くジュエル。
 大きな溜息を着く主催者側担当者。
「どうしても君らは、特撮のヒーロー宜しくステージで子供達に戦う姿を見せたい訳だ」
 ガリガリと頭を掻き不機嫌そうに言う担当者。
「安全確保と子供がステージ全体を見渡せるように元々ステージと客席の間は1m空いている。ベンチタイプの客席が扇型に100席、立ち見客500人を見越してステージと模擬店の間は10m空いているが、それで足らんかね?」
 どうやら主催者側にはキメラよりも能力者達の方が興行を邪魔をする奴らに見えたらしい。

「護衛を頼まれたゲオルグ・シュナイダーだ」
 熊の被りものを被ったどこかアニメチックば海賊に扮したゲオルグ・シュナイダー(ga3306)が楽屋にやってくる。
 瞑想を止めゲオルグを見る、イ。
「お前さんがいなくなると、弟が泣くんでな‥‥。ステージに出るのは構わんが、すぐに撤収出来るようにしておいてくれ‥‥」
「あなたに私の仕事を兎や角言われる筋合いはないわ。あなたがあなたの仕事をするように、私は私を客席で待ってくれる人がいる限り、歌うだけよ。それに‥‥私が凶弾倒れるなら、それでも良いわ」
「何?」
「私には目標がある。でも、もし志し半ばに倒れなくてはいけないなら、私は、私の死すら反バグアの為に使う。もっとも‥‥」
 ここで一呼吸するイ。
「あなた方は無能呼ばわりされるのかも知れないわね」
 にやりと笑うイ。
「キツイ女だな」
「政治には駆け引き必要なのよ」
 楽屋に流れる嫌な雰囲気を壊そうと愛紗が窓の外から見える町並みを見下ろし乍ら言う。
「お化けの町が出来上がっていますぅ。はぅう、誘惑一杯ですっ」
「見に行ってもいいのよ。別に出番が来る迄、私はこの部屋から出ないから」
「愛紗は、シュンロおばちゃんの『付き人』役です。出番が来る迄は側にいて護衛だよ」
「あなたが死んだら誰がみんなのために唄うんですか‥‥」と無月は言う。
「なら、頑張って守って頂戴」
 そう言って再び瞑想を続けるイ。
(「‥‥こいつは思ったより面倒な事になるかも知れないぞ」)

 ジュエルとアインがステージの周りを巡回する。
「ハロウィンイベントかー。依頼じゃなくて、普通に遊びに来たかったなぁ」
 溜息まじりでジュエルが言う。
「お兄さん、暇そうだね」
 大きな段ボール箱を抱えたおばちゃんが言う。
「人手が足りないんだよ。暇なら手伝っておくれ」
「え、俺?」
 後ろを振り返るといつの間にかアインがいない。
「俺、警戒中なんだけど?」
「それを言ったら今運んでいるのは、お隣さんの分さ。こういうイベントは、皆でチャッチャとしちまった方がサッサと片付くもんさ」
 それに警備なら通路にこんな段ボールがあったら通行の邪魔だろう。
 そう言うおばちゃんの後ろには山と積まれた段ボールを指差す。
「頼んだよ!」
 そう言うとおばちゃんは段ボールを抱えて何処かに行ってしまった。
「しょうがないか‥‥う! お、重い‥‥これは消耗覚悟で豪力発現、使うしかない?」
 ぼやきつつ段ボール箱を運ぶジュエル。
「なんか‥‥良い様に使われているような気がする」

 開演前でごった返す出店ブース──。
「グケケケ‥‥」
 蟇蛙に似た声がしたかと思うと山と積まれた段ボールの1つがゴトゴトと揺れる。
「グケっ!」
 段ボールに穴が開き、そこから子供の腕が出てきた。
 徐々にその手は、穴を大きく開けて行く。
 急遽50cmづつ各テントを後ろに下げるように言われた為に開店準備が遅れた店が多く、その騒ぎで段ボールの異変に気がつく者はいない。
 箱の穴から小さなオレンジ色の南瓜が顔を覗かせる。
 キメラ「オレンジ・ジャック」である。
 キョロキョロと辺を見回し、景気よく外に出る。
 もう少し穴が大きくなった所で、一回り大きな黒い南瓜「ブラック・ランタン」が頭を出す。
 2匹のキメラは、空気の匂いを嗅ぐような仕種をする。
「グゲゲゲゲゲっ♪」
 頭を震わせるブラック・ランタン。
 それに併せるようにオレンジ・ジャックも頭を振るわせると、2体のキメラは会場の中に消えて行った。


 ──開場時間となり、球場内に楽しげな音楽が流れる。
 それに併せてゾロゾロと人が開場に入って来た。
 会場内を甘いお菓子の匂いが漂う。
 暫くして──。
「あれ? 僕のお菓子?」
 魔法使いの少年が手に持っていた綿飴がない。
「私のキャンディーがないよ」
「ちゃんと持っていないから落したんじゃないの?」
 子供達の合間を黒い南瓜とオレンジの南瓜がすり抜ける度にそんな声が上がる。
「グケ、ケッケッ」
「南瓜が僕のお煎餅、食べたぁ」
 騒ぎを聞き付けた警備班が、スタッフ待機場所から飛んで来る。
 人の波を避け乍ら2体のキメラとの距離を縮めようとするが、敵は小さなキメラである。
 キメラは掠め取ったお菓子を抱えたまま、人の間を器用にすり抜けて行く。
 何かを見つけたオレンジ・ジャックが、軽々とテントの上に飛び乗る。
 丁度ステージでは、桃香ら4人が饅頭を仲良く分けている所だった。
 オレンジ・ジャックがスピードを着け、ステージにそのまま突っ込んでいく。
 刀を構える為に、無月が饅頭を投げ捨てる。
 それを掠め取り、口に放り込むオレンジ・ジャック。
「‥‥いじ汚い奴」
 無月が刀で振うがスピードで優るオレンジ・ジャックにはかすりもしない。
 一方、ブラック・ランタンは出店の大机や鍋にテント。物だろうと人間だろうと構わず、手当りしだいに警備班に投げ付けていた。
「イタズラと言うには些か度が過ぎるんじゃないかね、キミ達の場合」
 アイン達のサポートをしようと起太が銃を構えるが人が多くて照準が合わせられない。
「なんの騒ぎ?」
 イがベンチの奥から顔を覗かせた。
「グゲゲゲゲゲェ!」
 イを視認したブラック・ランタンが大きな声をあげ、イに向かって突進する。
 オレンジ・ジャックも菓子を投げ捨て、イへと突っ込んで行った。

「護衛対象から離れるか‥‥」
 特設テラスからステージを見下ろしていた男がぽつりと言う。
「それに一般人を避難誘導させる担当者がいない。あれでは警備班はパンプキンヘッドまで辿り着けんぞ」
 男の言うようにアイン達とブラック・ランタンとの間には逃げ惑う人達がいる。
「誰もが貴方ようにイベントに詳しい訳じゃないわ」
「まあな」
 男は薄く笑った。

 疾風脚を使っているが、人回避し乍らでは思うように距離が縮まらないアインとゲオルグ。
 起太が僅かな射線上に誰もいないのを確認後、イに迫るオレンジ・ジャックを狙う。
 真後からの一撃にオレンジ・ジャックがバタリと倒れる。
「ボクに不可能はないのさ」
 何処からか「すごーい!」という子供の声が聞こえる。
「ふふ。遠慮なく謎のマジシャンと呼ぶがいいさ」
 アインとゲオルグが止めを刺す。

 ブラック・ランタンは鐵のボルトで固定されているベンチを引きちぎり、後ろから迫って来る愛紗達に投げ付ける。
 その隙にイは、選手通路の奥へと逃げて行く。
 それを追い掛けるブラック・ランタン。
「伏せて!」
 瞬天速を使い、ブラック・ランタンとの間を一気に詰める真琴達。
「こンのスカぁ〜! とっとと逝っちまえ!」
「鉄拳パーンチ!」
 真琴がファングを振り下ろし、愛紗がメタルナックルを突き出す。
 桃香が止めの一撃をブラック・ランタンに食らわせた。

「怪我はありませんか?」
「ええ」
 切り裂かれた衣装を押さえ乍らイが立ち上がる。
「グラウンドは、どうなっているの?」
 マネージャーが大きなタオルを持って来てイに掛ける。
「パニック状態です」
「そう」
 キメラの死体の脇を通り抜けるイ。
「何処に行くんです?」
「貴女達が仕事をしたように、私は私の仕事をするのよ」

 マネージャーからアコースティックギターを受け取ると、イは何もなかったようにステージ上がる。
 パイプ椅子に腰掛け、静かに歌い出す。
 場違いな迄の透き通った優しい声。
 パニックを起こし泣叫んでいた子供が歌に気がつき、泣き止む。
 出入り口に殺到していた人々の足が止まり、ステージに注目する。
「皆さん、キメラは能力者達に無事退治されました。私達も、負けてはいられません。例え、能力者のような力がなくても、私達には負けない強い心があります。さあ、このままイベントを続けましょう」
 にっこりと微笑むイ。
「伊達や酔狂でディーヴァと呼ばれている訳じゃないって言う訳だ」
「ああ、もう我慢出来ない! シュンロと一緒のステージなンて、この後ないかも知れないないのに!」
 真琴がギターを掴んでステージ上がる。
「愛紗は、キャンディーを客席にまくの。えへへ★ 『ハッピーハロウィーン』ってね♪」
「彼女を守るだけが、今回の依頼じゃないからな」
 何事もなかったような彼等の姿を見て、災厄が過ぎ去ったと知った入場者達はステージの周り集まって行った。脇では壊れたテントが取り除かれ、清掃が始まっている。
「よっしゃ、依頼はこれで完遂だな?」と嬉しそうなジュエル。

 怪しげな男女はステージから興味を失い、静かに球場を後にする。
「この後どうするんだ?」
「予定通りあの人と合流して博多にいるユダと御対面よ。でもあの子の無事な姿が見れて良かったわ」
 女は反バグア組織のスパイだった。
「貴方は?」
「佐世保に顔を出して新型機が何処に配備されるかの確認だな。研究室の奴らは、俺に産業スパイの真似事しろと言う」
「でも、するんでしょう?」
 男は、にやりと笑った。