●リプレイ本文
(「‥‥これだけか」)
一瞬、ミーティングルームに集まったメンバーを顔を見渡す江班長。
駅周辺に現れたHWとゴーレム2体を担当する傭兵はリディス(
ga0022)、新条 拓那(
ga1294)、漸 王零(
ga2930)、神無月 るな(
ga9580)、神薙ルナ(
gb2173)の5名、駅から移動車輌の待つビルへ移動する民間人の護衛を担当する傭兵は4名。
(「いや、良く集まったものだというべきだな‥‥」)
通称「アジア大戦」と呼ばれる中央アジアを中心とした戦いは熾烈を極め、重体者が続出している。
わずか距離500m。歩けば若者であれば10分も掛からぬその距離を幼い子供や乳飲み子を抱えた母親、年寄りたち3000人を守るのはかなり難しい。
その中でリスクの高い難民の脱出に協力を申し出てくれただけ御の字だろう。
「まだ未熟な私ですが、皆さんの役に立ちたい‥‥」
そう思ってやって来たと言うルナはぺこりと頭を下げる。
大規模作戦以外で初めてKVで戦うルナ。
直接の警備に当る3名がKVに乗り駅前に遺棄されたドーザー等の重機類や瓦礫でバリケートを作り、その中を移動させるのだと言う。
「こちらもHWやゴーレムがそちらを狙わないように協力をする」
キメラ班とワーム班で移動中の民間人に注意や流れ弾がいかないように細かくタイミングの打ち合せをする。
***
先発隊である護衛と作戦に参加する江班長ら憲兵隊が部屋を出て行くと、後はワームを相手にする傭兵達と傭兵を出撃準備を手伝う連絡官だけが残った。
机の上に並べられた資料用に取られた写真を1つ取り上げて見るリディス。
若い母親が栄養失調で痩せたわが子を抱え、怯えた目を向けている。
「全く、デリーの戦場も大概地獄だったがこちらも変わらないな‥‥バグアどもが、少しは自重してくれれば楽になるのにね」
家を焼かれ、焼け焦げた街を逃げ惑う人々──
愛するものを、
家族を奪われ、
嘆き悲しみ。
心に恐怖と憎しみの種を植える──
るなの記憶は、ぽつんとひとり、壊れた名古屋の街から始まる。
煤で汚れ、ぼろぼろになった服。
‥‥たったひとりでいる不安。
親と逸れ、兵士に抱かれて泣く幼子の写真が、キリキリと胸に痛む。
(「指一本触れさせない! ‥‥絶対に!!」)
静かに小さな唇を噛む。
一時の安住の地を求めて彷徨う難民達──
だが、バグアとの戦争が終わらない限り、何処に行っても変わらない。
繰り返される日常──
江班長の部下でもある連絡官の口からおそらく『UPC軍の足止め目的だけ』に襲われるのだろうと説明される。
「凶悪卑劣なやり方が赦せません!」とルナが小さく叫ぶ。
「無抵抗な人々を‥‥絶対にさせません!」
るなが自分に言い聞かせるように呟く。
そんな中、王零が静かに顔をしかめる。
「大丈夫か?」
「ああ‥‥」
大規模作戦で受けた傷が酷く痛む。
LHでの治療と持ち前の体力と気力で動いているが、身体の四肢が思うように動かない。
(「‥‥‥く、体はきついが、四の五の言ってはいられない。できることを全力でやるしかない‥‥」)
己が動く事で救える命があるのであれば王零は動かずにいられなかった。
「しかし、この人数、この状況では上空からくるのが小型だったとしても十分に厄介だな」
「何、やることにそう変わりはないよ。護って、叩く、それだけ。どーんと構えてれば、きっと気のいい勝利の女神様は微笑んでくれるさ」
リディスの不安を打ち消すように拓那が言う。
「ふ‥‥‥たしかに。‥‥これ以上の被害を出すわけにもいかないしさっさと消えてもらうのが一番だ」
「雷電は他のKVより装甲が厚い。常に避難民とゴーレムとの間に入って盾代わりになろう」と王零。
ゴーレムの弾が避難をしている者達の側を通ればそれだけで大怪我である。
普段の彼ならば並のゴーレムならば1対1でもあっという間に片付けてしまうだろうが、痛みと痺れが残るこの身体で万が一誤射をしたら笑い事ではない。
それに己を過信して積極な攻撃に出て、足手纏いになった場合に味方に負担を掛けるのもそうであるが、彼の帰りを待つものがある以上、無理は禁物である。
「今回は、上から攻撃されるのが一番恐いかな?」
ゴーレムは大口径の対空砲が装備されていない。
「そうね。先にHWを片付けて、ゴーレムを片付けましょう」
「待て、ゴーレムには自爆するやつが混じっているケースがあるぞ?」
気を着けないと爆発に一般人や警護の仲間が巻き込まれるケースがある。
「後、応援もよ。一気に片付けると応援を呼ばれるケースがあるわ」
二班に分かれ、片方がHWを片付けている間、もう片方がゴーレムを牽制する事になった。
民間人らが車が待つビルに入ったの確認後、一気に方を着けようと言う事になった。
──そして班分けは次のようになった。
・ゴーレム班 拓那、王零、るな
・HW班 リディス、ルナ
「了解、私の相手は‥‥ゴーレムですね?」とるなが確認する。
「うん、いーんじゃないか? パワーのあるディアブロとディスタンでHWを料理して、ほか3人がゴーレムで」
「さっさと敵を片付けて皆で安全な土地に逃げましょう」
***
「写真で見る以上に酷いな」
眼下に広がる戦場跡を眺めるリディス。
遮蔽物が少ない事がどちらに味方するかは先に陣地を取ったもの次第である。
幸いにもキメラを含めた民兵もワーム達もまだ駅の周辺には出没していない。
足元ではゴーレム担当者が警戒を務める中、護衛班のKVがバリケートを作っている。
ドーザーを動かせる者が協力を申し出てバリケートを作っているようだ。
それを見たリディスとるなは、KVのレンジ幅を最大迄上げる。
空を守る自分達が哨戒機の目の役割を担う。
レーダーに反応があった。
「前方にターゲット確認しました‥‥」
小型HWの機体に陽が反射してキラリと光る。
「時間通り‥‥律儀なバグアもいるもんだな」
「うふふ♪ ‥‥キューブワームも連れずに来るなんて‥‥覚悟はできているのね?」
るなが楽しそうに笑う。
HW出現の報をメンバーに伝えるとリディスが駅に向かって進むトラックやジープに分乗したバグア民兵とキメラ、ゴーレム2体を確認する。
駅から遠い空域で戦う為にリディスのディスタンとるなのディアブロが一気に加速し、HWに迫って行く。
「さぁ、この辺でいいかしら? ここが貴方の墓場になる場所なのよっ!」
るながUK−10AAMと短距離高速型AAMを時間差で放つ。
回避行動をするHWだが、回避し切れずFFが弾ける。
「全部纏めて食らうがいい!」
その腹に8式螺旋弾頭ミサイルを全弾惜し気もなく叩き込むリディス。
「あはは♪ ダンスのお相手は私だけではなくってよ?」
白煙を上げて墜落して行くHWに止めに3.2cm高分子レーザー砲の一撃を食らわせるるな。
激しく爆発し粉々になり乍ら墜ちて行くHW。
──一方、リディスからの報を受けた対ゴーレム班がKVを展開させる。
基本はHW班同様、バリケードから遠いロータリーの入り口で敵を迎え撃つ。
「はは、ゴーレムとのサシ勝負なんて、エースの仕事だと思ってたけど、まさか自分がやる時が来るとはね」
今迄に色々な敵と戦った事があるが、ゴーレムと1対1で対応するのは、初めてである。
強がってみせた拓那だったが、内心は不安である。
できれば誰かに変わってもらいたい所だが、今動けるのは自分とルナだけである。
ふと、思い出したようにごそごそとポケットを漁り、御守を取り出す拓那。
(「勇気をくれよ、相棒!」)
ぎゅっと御守を握りしめ、精神を集中する拓那。
「えーい! くそ、上等だってのよ! ここが俺の踏ん張り所だってーの! いくぞ、ルナ!」
「はい、負けると、守るべき者も失ってしまいますね‥‥いきます!」
「援護は任せろ!」
王零が2人に力強い声をかける。
ゴーレム2体はKVもまた2体だと判ると左右に分かれ、バルカン砲で攻撃を始める。
必死にディフェンダーで弾を受け流すルナだが、防ぎ切れず鈍い着弾の振動がコックピットに響く。
「こんな私でも‥‥守れるものが在る限りっ!」
メトロニウムシールドで弾を受ける拓那。
動きの止まってKVの脇をバグア兵の乗ったトラックやジープがすり抜けて行く。
「バリケートはどうなっている! 完成しているのか?!」
「向うは、向うの連中を信じろ!」
王零のヘビーガトリングで敵の攻撃が途切れた隙にルナが3.2cm高分子レーザー砲を放つ。
「時間さえ稼げれば‥‥お前達になんか‥‥負けないのです!」
王零は二人の援護に徹底し、着かず離れず、時にはフェイントの体当りでゴーレムを撹乱する。
「バルカン砲さえ何とか出来れば‥‥!」
拓那のディアブロがタイヤを軋ませ、ゴーレムに肉迫する。
シールドで防ごうとするゴーレムにディフェンダーを叩き込む拓那。
FFの火花が激しく散る。
「今俺達を支えるのは3千の命。ここで折れたら何のための能力者だ! 絶対に護る、護り通す!」
2度、3度と繰り返し振り下ろす度にFFを突き破りシールドの表面に傷が着いて行く。
「新条、一度離れろ!」
王零の援護を受け、一度距離を取る拓那。
シールドで弾を防ぐゴーレムの脇に回り込みバルカン砲にディフェンダーを叩き込む。
壊されたバルカン砲を投げ捨てるとゴーレムはトマホークを握り、拓那機に迫る。
「悪いがお前の相手は、HW対応班が戻って来る迄お預けだよ」
牽制と回避を繰り返す拓那。
王零の援護に助けられ、ジワジワとゴーレムを押すルナ。
敵の弾切れを待つ。
「お待たせ、お姉さんが居なくて寂しくなかったかしら?」
「遅くなって済まなかったな、ダンスはまだ続いているな?」
HWを撃墜したるなとリディスが戻って来た。
「あらあら、貴方にはもったいないおもちゃですわね。だから‥‥壊しちゃいましょう♪」
そういうとルナと対峙しているゴーレムの無防備な側面からバルカン砲に向かって3.2cm高分子レーザー砲を放つるな。徹底したバルカン砲への攻撃についにバルカン砲が破壊される。
るなの攻撃をシールドで防ぐゴーレムに迫り、アグレッシヴ・ファングに乗せディフェンダーをその腕に振り下ろすルナ。
「まだまだ、油断はしませんよっ!」
「パートナーチェンジだ。次はこちらの相手もしてもらおうか!」
拓那と戦うゴーレムにハイ・ディフェンダーで斬り掛かるリディス。
どちらも民間人の移動が完了する迄時間稼ぎである。
るなとルナは、ゴーレムの手足を破壊する。
ゴロリと転がるゴーレムの胴体。
「うふふ♪ 転がってるゴーレムってかわいいかも?」
「えーっと‥‥なんだか不気味な置物って感じじゃないですか?」
自爆をされると困るので、ここで攻撃は一旦中止である。
「後でかわいがってあげるから待っててね♪」
リディスと拓那もKVの車輪を使い、着かず離れずゴーレムを翻弄して行く。
『警護班より各員、民間人の移動完了。待たせたな! 思いっきり戦っていいぞ!』
待ちに待った連絡である。
「もう、遠慮する必要もないな」
「待っていたぜ! これ以上は我慢の限界だぜ!」
リディス機が体当りをしてゴーレムとの距離を大きく取るとスナイパーライフルD−03を放ち、拓那のディフェンダーが胴を凪ぐ。
細かい打合いの繰り返しで装甲に限界が来ていたゴーレムの胴が切断される。
「うふふ、心の広いお姉さんは神薙さんに止めを譲ってあげる♪ おもいっきり遊んであげて☆」
「‥‥では」
コホン、と咳払いをするルナ。
「私はあなた達のやり方が赦せません! 覚悟なさい!!」
ルナのディフェンダーがゴーレムの胴の中心を突き抜ける。
機動を停止する2体のゴーレム。
通常の任務であればこれでお終いである。
だが彼等の最終目的は青島からの脱出ある。
***
地下駐車場に停車していた25台のトラックが、一斉にエンジンをかける。
幌があるとはいえ、荷台は避難民がぎゅうぎゅうに乗っている。
江班長を含めた憲兵隊17人は8台の軍用車に分譲し、350km離れた青島を目指す。
この先、安全な道は殆どない。
こうして命がけの難民移送が始まったのであった──。