タイトル:虫王??!ぷちマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/24 20:16

●オープニング本文


 宮崎県えびの市えびの高原。
 阿蘇山近くのこの静かな高原でトラブルは発生していた。
 先月発生した巨大キメラ騒ぎを対岸の火事としてドキドキしながら見ていた同市民達は、巨大キメラの脅威が去った事に安堵し、市の大事な収入源である硫黄を今も吹き出す賽の河原や緑と美しい池が点在する白鳥山や甑岳を始めとするハイキングコースを点検していた。
 市の職員は、近隣阿蘇(熊本県)の芋虫(蛹)キメラの一件を思い出し、針葉樹林に向かって行った。
(「去年、あそこのアカマツはマツクイムシ(マツカレハの幼虫)が酷かったけど‥‥今年はどうなんだろう?」)
 この時期多数の毛虫が発生するのは仕方がない事だが、モミにツガ、アカマツが生える甑岳の針葉樹林は国の天然記念物なのである。


 巨大キメラの為に閉鎖されていたハイキングコースは、草で被われていた。
 その草をかき分け、ガサガサと進む市の職員。
 ──ボトリ。
 その肩に何かが落ちた。
「うわわわっ!」
 慌てて振り落とすとそれは丸まると太った10cm弱のマツクイムシであった。
 職員は悪態を吐きながら、毛虫を登山靴の底で踏みつぶす。
「おい、見ろ! 大変だ!」
 同行していた別の職員が指差す方向に枯れたアカマツが立ち並ぶ。
 良く見れば足下にはマツクイムシが多数落ちている。
「酷いな‥‥」
「至急林務係に連絡をして農薬を散布して貰わないといけないな」


「──で、農薬散布に能力者を使用したいと?」
 受付のオペレーターが市の職員を見る。
「まあ、簡単に言うとそうなんですよ」
 農薬自体を山全体に散布する訳に行かないので人が1本ずつアカマツに農薬を散布するのだが、普通のマツクイムシに混じってキメラがいるのだという。
 キメラは人に襲い掛かり、酸を吐くのだ。
 おかげですっかり業者が怯えてしまって、にっちもさっちも行かないのだという。
「あの辺りは温泉やキャンプ場なんかもあって、これから夏休み掛けてが大事な観光シーズンなんですよ」
「農薬散布自体は、能力者が行うんですか?」
「出来ればそうして頂きたい所ですが、農薬を扱った事がない方だと均一に農薬を撒く事が出来ずに他の植物を枯らしてしまいますし、高い木の枝には撒こうとすると自分が農薬だらけになりますので、できれば業者を同行させたいと思っています」
「‥‥となると、キメラ駆除と護衛ですね」
 オペレーターは依頼内容を聞き乍ら、データを打込んで行く。
「あとですね。申し上げなくても大丈夫と思いますが、参加される方の服装ですが‥‥」
「なんです?」
「白鳥山や甑岳は、子供から中高年の方が気軽にハイキングができるコースですが、ハイヒールや革靴、ワンピースと言った服装だとちょっと‥‥」
「ああ、足場が悪いので動きやすい服装で来てくれという事ですね。まあ山ですから着物や手足が出る服装はキメラが相手でなくても怪我をしたり虫に刺されそうですね」
「アブや蜂、蚊等は虫よけスプレーである程度避けられますが、毛虫は‥‥」
「ああ、判ります。落ちて来たら避けようがないですからね」
 庭で干していた洗濯物や布団によく毛虫が吐いていた事を思い出して苦笑するオペレーター。
 斯くして能力者にキメラ駆除と護衛の依頼が発注されるのであった。

●参加者一覧

鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
女堂万梨(gb0287
28歳・♀・ST
巽 拓朗(gb1143
22歳・♂・FT

●リプレイ本文

 夏の陽射しが暑い中、えっちらおっちらハイキング道を上がる能力者達。
 行く先に待ち受けるのが、マツカレハの幼虫と酸を吐くキメラなので長袖の者が多い。
 そう言っても風は涼しく中々のハイキング日和である。
「うわーっ、綺麗な池ですね」
 陽射しを受けコバルトブルーに輝く池を眺める女堂万梨(gb0287)。
 普段、機械の修理等インドアな事が多いので山の景色が珍しいらしい。
「この先には滝とかあって、ハイキングコースとしては人気なんですよ」
 市の職員が、そう説明する。
 キメラ駆除に協力を申し出てくれた5人の能力者のうち2人が中々の美人とあって、グダグダと言っていた農薬散布業者の足取りも軽い。
「現場は後、1km程山を上がった所ですけど大丈夫ですか?」
 後ろを歩くみづほ(ga6115)を振り返る。
 市職員の目から見ると普通のOLのように見えるみづほ、素人目にも重装備である。
「ふ、ふ、ふ‥‥‥大丈夫です」
 結構、汗だくである。
 休憩地点である滝から先は能力者であるみづほ達が危険防止の為に市職員や業者の前を歩く事になっているが、山歩きに慣れている彼らはスタスタと平地を歩くかのように進んでいくのを装備が重い能力者達がついていっている形になっていた。
「これで九州での仕事も三回目ですね。何か縁があるのでしょうか?」と言うのは榊 刑部(ga7524)である。
「対馬を皆さんが解放してから春日自身は大人しいですけど、まだ結構な数のキメラをが残っていますからねぇ‥‥」
「巨大な蛹キメラも困りますが、毛虫サイズのキメラというのも厄介ですね」
「ええ、今回のマツカレハみたいなのはウチの市でも初めてですが‥‥」
「安心して下さい。万が一取りこぼして、皆さんに迷惑を掛けるようなような事はしませんし、丁寧迅速に事に当ります」と刑部が笑い、市職員を安心させる。
「俺の実家も緑が多いから毎年毛虫に悩まされていたなぁ」
 うっかり毛虫が団子で巣くっているのを思い出して身震いをする巽 拓朗(gb1143)。
「巽さんは何処の出身なんだ?」
 普段は露出の多い服装が多い鳥飼夕貴(ga4123)も今日はジャージ姿である。
「東北の田舎っす」
「あんまり訛っていないね」
「焦ると出るっす」
「おお、イントネーションが違う」

 わいわいと楽しく登ればあっという間に滝である。

「あー‥‥涼しいぃ♪」
「マイナスイオン補充♪」
「このまま出来れば毛虫を見ないで帰りたい」
 想像するに毛虫が大量発生している現場は気色悪いだろう。
「でもバーベキューと温泉が待っているからガンバンなきゃ」
 気持ちを奮い立たたせて、いざ甑岳へ。

「うわ‥‥ひでぇ」
 アカマツが立ち枯れして幹の根元に毛虫が散乱している。
「う、この状況、やっぱりサブイボでるっす」
 風が軽く吹いただけでもボタボタと落ちてくる光景は気色悪い。
「あー‥‥どうする? 全部が全部キメラじゃないんだろう? 普通のマツカレハなら踏みつぶせるが‥‥」
「キメラなら踏もうとしたらフォースフィールドを張って、酸を掛けて来るでしょうね」
 ん〜? と皆で頭を悩ませる。

「あの‥‥あたしが超機械αで攻撃してキメラを弱らせてから農薬を散布して頂くのはどうでしょう。超機械はマツカレハには効かないかと思われますが、キメラには効果あると思いますので‥‥その後の農薬散布のときの酸攻撃の被害が軽減されるのではと」
 万梨が、ちょっとおどおどし乍ら言う。
 実際、専門家がいないので、超機械がマツカレハに効果がないかはやってみないと判らないが、少なくともキメラには効果があるのは確かである。
「じゃあ、農薬散布をしてもらって、その後枝に残っているのマツカレハは木から叩き落として踏んで行くって事で」
「道具類は後できちんと手入れしないと大変だな‥‥」
 夕貴がブルっと身を震わす。
「木はハンマーで叩いていいですか?」
 アカマツは一部枯れていると言えども天然記念物である。
 だが生えている本数を考えれば、1本1本揺すっていたら面倒である。
「ええっと‥‥それってSESってやつが載っているんですよね?」
 能力者と交流がない市職員であってもSES搭載武器が強力なパワーを持つ武器である事ぐらいは知っている。
 多少尾ひれがついているだろうと思っているが、この辺で聞く能力者の噂は一蹴で身の丈程の岩を割る。
(全くの根も葉もない噂であるが田舎に流れる噂の類いと言うのは、こんなモノである)
「そぉっと叩きますから」
 いづみに言われるが、それがどのくらいの力か判らず、助けを求めて左右を見るが見られた業者もそんな事は判らない。
「うう‥‥か、軽くですよ。くれぐれも折らないで下さいね」

 万梨が超機械αを起動させるとボタボタとマツカレハが落ちてくる。
「あらら‥‥本物にも効果があるんですね」
 電磁波が届かなかった(当らなかった?)木に残っているマツカレハに向かって業者が農薬を散布する。
「フォースフィールド、見えました?」
「小さくて判らないですね」
 こういう時バードウォッチングが趣味だったら良かったのかも知れませんね。と双眼鏡で枝を見ていた刑部が言う。
 かなりの数のマツカレハが落ちたが、ハンマーやら槍で枝を突っ突いて落として行く。
 1、2本の松であれば簡単に済む作業だが、相手は針葉樹林。林である。
 いづみがハンマーを押し付け、反応を見乍ら毛虫を潰して行く。
「ああ、じれったい‥‥早く終わらせてバーベキュー‥‥」と言い乍ら拓朗は毛虫を踏んで行く。
「巽さん、足で踏むと危なくないですか?」
 槍の穂先で毛虫を刺していた刑部が声をかける。
「こっちの方が早いっす」
「網で掬って纏めて潰すっていう手もあるぜ」
 そんなやり取りを聞いて市職員が声をかける。
「あの‥‥手伝いましょうか?」
「キメラは危険ですから。それに毎年毎年丹念に消毒を繰り返していく皆さんのご苦労を思えば、今回きりの我々の苦労など大したことではありませんよ」
 にっこりと刑部が笑う。

「‥‥こういう時って、マツカレハが大量発生した時は市ではどうしているんですか?」
 ふと思った万梨が質問する。
「普段はそのまま土に返すようにしていますが‥‥まあ、これだけ多い時は燃します。枯れ枝が雑菌の温床になったり幼虫や卵が木の中に残っていると困るので」
 見れば生きている木に業者がドリルで穴を開けて薬剤をセッティングしている。
「枯れるのも自然‥‥本来はこんな事をしないんですが、あまりにも被害が酷いですからね」
「天然記念物を守るのも大変ですね」

「‥‥‥っ!」
 ぐんっ──ハンマーを押し返す手応えを感じていづみが後ろに飛び下がる。
 前髪を掠めてキメラの酸が飛んできた。
「髪は、女の命なのよ!」
 ざっくりとキメラをレイピアで串刺しにするいづみ。
「大丈夫か?」
 夕貴が声をかける。
「ええ‥‥このキメラ、防御力は相当低いようですね」
 突かれた腹からにじみ出る己の酸でキメラ自身が溶けて行く。
「つまりフォースフィールドと酸だけ気をつければいいと言う事か」
「多分そういう事になります」

 大量の毛虫の死骸の山を築いていく中で当り(キメラ)の数はあまり多くなかった。
 当り(キメラ)も強いレベルのモノではないらしく酸を1、2度吐くと逃げ必死に逃げて行く。と、言っても体長10cm程度なので大きく腕を伸ばせば充分追付くスピードである。フォースフィールドを破る力を持つSES武器の有り難さを実感し乍らキメラの討ち漏らしがないよう丁寧に能力者達は作業を進める。
 刑部が1匹キメラを仕留めた所でお昼にしましょうと市職員から声が掛かる。

 毛虫を眺め乍ら昼食も気持ち悪いだろうと甑岳山頂へと移動する。
 心ばかりのオニギリのお弁当と漬け物、お茶が振る舞われて一服する。
「くぅ‥‥綺麗な景色を見乍らだと飯が旨ぁーーい! エネルギー充填って感じだぜ」
「はぁ‥まったりです♪」
 耳を済ませば山鳥の声が聞こえる。
 知らず毛虫との接触で腫れた傷等を手当てして午後の作業に取りかかる。

「そっちはどうだ?」
「一通り済んだっす」
 拓朗がフェルスピアについたキメラを振り落とす。
「ぼちぼち、終了かな?」
「じゃないっすかね? さっき、あと2本だって職員さんが言っていたっすから」
「うわっ! 巽さん、脚大丈夫ですか?」
 拓朗がシューズを見れば色が激しく変色している。
「わわっ! 知らない内に酸が掛かっていたのかな?」
 慌ててシューズを脱げば、靴下が食い込む程脚がむくんでいる。
「いやこれは‥‥」
 シューズを振ると潰れたマツカレハが1匹転がり出て来る。
「いたた‥‥刺されたと思ったら途端に痛くなったっす」
 うっかりものの拓朗は万梨が練成治療を行い、刑部の救急キットのおかげで多少足の腫れが回復したが、足が着けない(単独での下山が困難)ので業者の親父らに笑われ乍ら背負われ下山する事なる。
 コテージに常駐する医者が処置をして「刺された足を湯に漬けなければなんとかなるだろうが‥‥できれば今晩はシャワーだな」と言われてしまった拓朗。

 丸太を組んだ半露天風呂にゆっくりと浸かり、雄大な山を眺めると今日の疲れが取れて行く。
 男湯からは「マツカレハの馬鹿やろーーーっ!」と吠える拓朗の声が聞こえて来る。
「背中を流してやるから我慢しろ」
「はぁ〜‥‥たまにはこういう余録があっても良いですね」
「くすくす‥‥男湯は賑やかですねぇ」
「本当」
 柔らかい温泉の湯が肌に馴染む。

 新緑の山が夕日を受けて金色へと変わって行く。
 青い空がオレンジに、さらに金、紫へと変わり、深い藍の空が降りて来る。
 白い月がポッカリ浮かび、深い紺へと様相を変えて行く。
「夕焼けが好きなんですか?」
 じっと変わり行く空を見つめていたみづほに万梨が声をかける。
「‥‥‥夕日は嫌いよ」
 少し寂しそうに笑うみづほ。
 ぺちんと自分の頬を気合いを入れるように叩くと困った顔をしている万梨ににっこりと笑う。
「さぁ、早く上がって行かないと男達にバーベキューを全部食べられちゃうわ」

「女性陣、遅いぞー」
 既にバーベキューの火が熾され野菜や肉、魚が網に載せられている。
「飲み物はこっちですよ」
 刑部がコップを万梨とみづほに渡す。
「ビールにジュース、烏龍茶に地酒とか色々ありますよ」
 料理が得意な夕貴が器用に素材を切って並べて行く。
 余分な油が炭に落ち、ジュージューと肉や魚が焼ける香ばしい香りが上がる。
「手伝いますね」
「俺が一生懸命切ってもなんだか全部、巽さんに食べられて行く気がする」
 差し入れの酒を片手に焼けた肉を頬張っていた拓朗。
「ええ、俺? 俺、ダイエット中ですからそんなに一杯肉、食べないですよ。ほら、ちゃんと野菜も食べているっす」
 取り皿を見せ、無実だと言う。
「あ、そういえばイイモノもってきたっすよー」
 実家で穫った米です。と米を差し出す拓朗。
「白いご飯なら、いくら食べても太りにくいっす」
「米かァいいねぇ」
 そう言うと米を研いで飯盒に分量を測った米と水を入れる。
 ふつふつと米の炊ける甘い香りが漂って行く。
「飯盒炊いた飯ってなんか美味しくって食べ過ぎる。塩だけでお代りきくって言うか」
「それはありますよ。バーベキューも、なんて言うか‥自然をおかずにしているっていうか」
「今日はハードでしたからお腹が余計空く感じもします‥‥」
「そうね。怪我とか病気とかも一杯食べた方が早く直る気がするもの」
「ああ! 俺は誘惑に負けて一杯食べそうっす」

 皆が報酬も少なく。ちょっと気持ち悪い仕事だったが終わってみれば、結構楽しい一日だったと綺麗な星空を見上げて思った。
「──あ、流れ星!」
「え?! どこどこ!」

 わいわいと宵は深けて行った──。