●リプレイ本文
そろそろ殺虫剤の煙も落ち着いただろうという時間を見計らってキメラ駆除スタートである。
ヒュン──
風を切ってエリク=ユスト=エンク(
ga1072)の放った矢がゴンドラの奥にいたキメラを貫く。
「先ずは1匹目だ」
「幸先が良いですね。この調子で全部掃討しましょう」
「結構活発に活動していると言う訳だな‥‥面倒だが虱潰しに進めるしかないか」と御影・朔夜(
ga0240)が煙草の灰を落とす。
「フフ‥‥チマチマと潰していきましょうか‥‥」と冷たい笑い浮かべたJ.D(
gb1533)が楽しそうに言う。
だが、通路を進むにつれ蜘蛛やらムカデ、ゴキブリの死骸がポツポツと目につく。
「‥‥あー、ついでに蟲の死骸の掃除もやっちまいましょう。ちと目に毒だ」と苦笑いをする稲葉 徹二(
ga0163)。
「‥‥‥掃除も兼ねて一石二鳥なのは、少尉の策謀ですか?」
防火設備の制御盤がある保安室にアジド・アヌバ(gz0030)と一緒にいた古河 甚五郎(
ga6412)が言う。一瞬キョトンとした表情を浮かべたアジドは「その手がありましたね!」とぽんと手を打った。
引き出しをソロソロを開け中を覗き込む赤霧・連(
ga0668)。
さっき入った部屋では書類の間に煙草の箱が紛れ込んでいた。
ぐにゅ──
気を着けていたにも関わらず、図らずもキメラを握ってしまった連が、悲鳴と共にソレを投げ放す。
「いや〜っ!!」
キメラとは言え別の意味で直接触りたくないタンゴ虫である。
「手は洗えばいいのです、汚いを気にしたらダメです‥‥これはお掃除なのです」
「落ち着け、赤霧。キメラだ」
「はうぅ‥‥そうでした」
ひっくり返ったキメラはダンゴ虫らしいスピードで逃げて行く。
「ほむ、このお部屋は掃除終了ですッ!」
3回深呼吸をした連は、涙目のままキメラにクロネリアを放つのであった。
●ダクト
(「さてさて、何が出てくるかな?」)
狭いエアダクトの中を匍匐前進で進むのは、マスクをした霧島 亜夜(
ga3511)。
GDABは新しく今年度設立された基地である。
(「油でベトベトとかしないからいいけど‥‥虫の駆除って大変なんだなー」)
落ちている虫の死骸を避け乍ら図面を片手に先に進む。
(「暑いし、埃まみれだし、終わったら一風呂浴びたいな〜」)
仕事の後の楽しみを胸にダクトを進む。
ゴソ‥‥前方で何か動いた気配がした。キメラである。
強い刺激を与えて攻撃をされたら逃げ場もないが、エアダクトが破損したら生き埋めである。
鍋のふたを片手にジリジリと近付けば、相手もジリジリと逃げる。
配管図を片手に場所を確認し、無線をONにするとキメラを刺激しないように小さな声で話す亜夜。
「‥‥こちら、霧島。今‥‥」
連絡を受けたJ.Dがエアダクトの前で蛇剋を構え待つ。
クスクス‥‥冷たい笑みが唇に浮かぶ。
「‥‥虫は‥虫らしく踏み潰してやれば‥‥ああ、でもそうだ。忌々しい爆弾が混じっていたんだっけ‥‥‥」
ブツブツと独り言を呟くJ.Dの目の前に、ダクトからポトリとキメラが落ちる。
間髪を入れず、ざくりと蛇剋をキメラに突き立てるJ.D。
「ちょっとは抵抗して見なさいよ、マヌケ‥‥こちらJ.D、霧島さんが追い立てたキメラ1匹始末完了しました」
●花
緋室 神音(
ga3576)がキメラを発見したのは女子更衣室であった。
私物が全部出された後というが部屋の中には女の子らしい柔らかいパフュームの残り香が漂う。
ロッカーの扉に「キメラ退治、頑張って下さいね♪」と書かれた可愛らしいメモが残っていた。
だが一緒に添えられただろう小さな花が何かに食われた後を見つけて一気に緊張する神音。
「Aether‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
月詠を深く握り直す。キメラがロッカーの足下にいた。
「こちら緋室‥‥B2F一番奥階段際の突き当った女子更衣室、50番の部屋です。キメラ1匹を発見‥‥応援を願います」
『こちら保安室の古河です。緋室さんは部屋の外で待機しておいて貰えますか?』
「外で待機は‥‥ちょっと厳しいかもしれないわ。もう1匹を発見。ドアノブにいるの」
甚五郎が、みづほ(
ga6115)の位置を確認する。
『こちら、みづほ‥‥そうね。今エレベータシャフトの近くよ』
みづほが、海雲を見て手を振る。
『予想以上に入り組んでいてちょっと手間取っているわ。でも緋室さんの所は比較的近いわ』
「みづほが近いならこのまま中で待つわ‥‥」
2匹のキメラを横目に見乍ら話す神音。
2種類のキメラは表面上、見分けがつかない。
もし2匹とも爆発系だった場合は、みづほ共々逃げ場がない。
「みづほ、聞こえる?」
『ええ‥‥』
「この部屋に直接来るのじゃなく隣の部屋から‥来てくれる?」
『‥‥‥ええ』
「ドアを開けるタイミングに併せて、ノブの所にいるキメラを攻撃するわ。私はそのまま飛び出すから‥‥」
『判りました、緋室さんが飛び出たら私がドアをそのまま閉めるんですね』
それなら爆発しても最小限に押さえられるだろう。
『今、部屋の前に出ました。カウント3でいいですか?』
「ええ‥‥」
『3』
ふぅ。と神音が息を吐く。
「夢幻の如く 『2』 血桜と散れ――」『1』
「剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】!」『0』
神音はキメラを月詠で弾き飛ばすとそのまま開いたドアから飛び出す。
間髪を入れずにドアを閉めるみづほ、厚いドアから鈍い振動が2つ響く。
どうやら2匹とも爆発タイプだったらしい。
「良い感していますね」
みづほが感心したように床に座る神音を見る。
「‥‥‥まあ、ね。でも、この部屋の子達はついていないわね」
「こちら、みづほ。緋室さんと合流しました。キメラは2匹とも爆発、更衣室の消火をよろしく御願いします」
●階段
階段は1棟の東西対角の位置に設置されていた。
「これなら2人一緒じゃなく、1人1人別々な階段を担当した方がいいね?」
誠と共にイ棟の階段を担当する南雲 莞爾(
ga4272)が言った。
「ああ、そうだね。1人だとちょっと面倒だけどしょうがないさ」
「なんでだ?」
「下で殺虫剤を巻いた時に上に逃げて来る虫やキメラがいるって事ですよ。少尉が見せてくれたサンプル‥‥‥あれだけ体が小さいく薄いキメラです‥‥かなり注意して探さないといけませんね」と周防 誠(
ga7131)がいう。
「なるほど、気をつけるよ。知らずに爆弾掴まされた、という事にならなければいいな」
気合いを入れて階段を守備した莞爾と誠であったが、イ棟で階段に逃げ込んで来たキメラはいなかった。
●エレベータシャフト
非常用電灯が点灯している為に真っ暗ではないが、暗い口をエレベータシャフトが開けている。
(「ここを降りるのか‥‥」)
金 海雲(
ga8535)は懐中電灯の光が届かぬ底を眺めて、思わず唾を呑む。
(「落ちたらやばいな‥‥でもエリクさんは、もっと深いとこにいる‥‥頑張ろう」)
暗いシャフトで白いキメラは発見しやすいが、シャフトの中にはゴンドラを吊すワイヤーが何本も下がっていたり、むき出しのコンクリートがあちらこちらに出っ張っていて小動物なら動き回れる程度の幅がある。
時々覚醒し特殊能力を使って周りを見回し、下へと降りて行く海雲。
(「あ、ダクトとかもあるんだ‥‥」)
「わ!」
ダクトからいづみに手を振られて吃驚する海雲。
変わった事と言えばそれ位で、キメラの姿形もない。
この分なら先に点検を済ませて、他の場所を手伝えそうだと思った途端、キメラと遭遇する。
「金です。エレベータシャフトでキメラを1匹発見」
『アジドです。金さん、一撃で倒せそうですか?』
「うーん‥‥ちょっと距離があるかなぁ。銃を使えばなんとか」
『どうやら爆発タイプは1発で中心部を貫けば爆発しないみたいなので攻撃する場合は一撃必中で御願いします』
「ええ‥‥凄いプレッシャーなんですけど」
『大丈夫です、金さんならできますよ』
「胃が痛くなって来たんですけど」
『お腹が空きましたか? ああ、もうお昼過ぎていますね。上手く仕留めて帰って来たらカバーブ作って差し上げますから頑張って下さい』
「金さん、キメラ1匹‥‥っと」
図面のイ棟エレベータが綺麗に赤く塗られ、脇に倒したキメラの数が書き込まれて行く。
「あ‥‥」
アジドが何かを思い出したように監視モニタを切り替えはじめる。
「どうしたんです?」
「いや‥‥エリクさんが、どうしているかなぁと‥‥」
エリクの武器が洋弓なのを思い出したアジド。
(「シャフトの中にはハシゴがあるし、降りる気になればゴンドラのロープを伝えば降りるのは出来るけど、どうやって攻撃するんだろう?」)
エリクは特に体を支える為のカビラやロープを持って入った記憶がアジドにはなかった。
‥‥‥カ、ツーン。コ、コ、コココ‥‥──
エリクが弓を番えている間にキメラはシャフトの一番下まで落ちたようである。
普段ポーカーフェイスのエリクだが、流石にムっとしたのか口が端が歪む。
黙々とハシゴを降りるエリク。
だが──シャフトの最下部(B7F相当)ではゴンドラが落下した際の惨事を避ける為に設置された巨大な機関部に遮られて手こずる羽目になった。
『シャフト内で1匹駆除だ‥‥』
ややうんざり疲れ気味の声が保安室に届く。
●イ棟地下3階
「‥‥ふう、長時間やるとなるときついな、もう1棟残っているのを考えたら錬力の無駄使いは避けないと」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)とペアを組む龍深城・我斬(
ga8283)が汗を拭う。
「異常なし‥‥次に行くぞ」
目貼りをして部屋の外に「済」シールを張る。
保安室にホアキンが確認した所、現在の駆除数はイ棟は8匹目だという返答が帰って来た。
イ棟は地下3階でお終いである。確認すべきは、部屋は後1部屋である。
「ほい、ばりばりっと。‥‥戦闘力そのものは低いんだろうが、厄介さはより上だよな、こういう奴らって」
我斬が試作型超機械で9匹目のキメラをフライにする。
「ああ‥‥実際、小さいからこそ悩みが深いと言える。スプリンクラーと防火扉が御動作したりしたら砂漠の真ん中で溺死する可能性もあるだろう」
GDABの水源は公開情報によれば黄河である。
「思ったより今回のダンゴ虫キメラ退治は重要な訳だな」
「そういうことだな」
最後の1部屋に「済」シールを張るホアキン。
イ棟の調査担当者がエレベーターの前に集まっている。
「こちらホアキン、イ棟のチェックは終了した。エレベータを復旧させてくれ」
●ア棟地下5階
アーミーナイフを振り、キメラを床に落とす朔夜とそれを素早く箒とちり取りで片付ける連。
灰の長くなった煙草を差し出せば、バケツが出て来る、絶妙なコンビである。
「‥このフロアに入って2匹目‥‥確か確認されているのは30だったか‥これで何匹目だ?」と朔夜。
「ほむ、今の所ア棟は13匹ですネ。イ棟で9匹って言っていましたから残り11匹です」
東側階段を1つ1つ丁寧に手摺、ステップの後ろ、非常灯の上等を確認して歩く徹二。
先にイ棟をチェックした仲間達は、残りのウ棟に移動し始めている頃だろう。
「害虫駆除はしっかり遣らないと後に響きますので、同じ場所でも何度もチェックして頑張りましょう」と西側の階段をチェックする優(
ga8480)が言った言葉を思い出す徹二。
(「念には念を、だ‥‥」)
ブルーシートに仕掛けた無線機がガサガサというノイズを拾う。
──突然ふわっと徹二の足下が浮いたような気がした。
(「なんだ?!」)
貧血を起こしたような激しい目眩と吐き気、冷や汗がボトボトと落ちてくる。
思わず倒れ込みそうになり手摺に縋る徹二の目にキメラの小さな影が写る。
エネルギーガンのトリガーを引くが反応がない。
(「これが、噂の不調って奴か!」)
更に凄まじい耳鳴りと目眩が徹二を襲う。
「虫の癖に人間を舐めるな!」
目の前が真っ暗になり乍らも蛍火をキメラに突き立てる徹二。
「‥‥大丈夫ですか?」
戻って来ない、無線に出ない徹二を心配して西側の階段を担当していた優がやって来る。
「‥‥こうしていると床が冷たくって気持ち良いであります」
「やられたんですか? 怪我は?」
「ないです。噂に聞く体調不良の原因って奴をやられたようであります。‥‥油断していた訳ではないですが、出合い頭の一発って奴であります」
優に支えられて立ち上がる徹二。
「でもおかげで良い事が判りましたであります。奴らの、このくそったれな攻撃は1回に1、2度しか攻撃できないであります‥‥」
「喋らない方が良いですよ」
「‥‥優さんの方はどうありましたか?」
「こっちの方も1匹出ました。勿論、月詠で両断にしてやりました‥‥皆、戻って来ています。この棟のキメラ駆除は完了しましたから安心していいですよ」
苦痛に顔を歪ませる徹二の額に手を当てる優。
(「汗を掻いているけど‥‥酷く冷たい」)
医者ではないが、初期訓練で受けた講習の中にあったショック状態に近いと判る。
他の仲間らと合流し、復旧したエレベータで地上に大急ぎで戻ると無線を受けた甚五郎とアジドが来ていた。アジドが練成治療を行い、甚五郎が鎮痛剤を飲ませる。
「軍医の検診を受けてOKが出たらこのまま作戦に参加してもいいですが、それより先は駄目ですよ」
●ウ棟
イ棟ではキメラがちっとも出て来ず欲求不満気味だった誠と莞爾。
ウ棟の階段でキメラと出くわし攻撃する。
至近なので得意の弓の代りに誠がナイフを投げ、
「逃がしませんよ!」
キメラの動きが止まった所を莞爾の月詠で両断する。
「くらえ、これが猟犬の爪牙だ!」
「まいったね‥‥いててて‥‥」
「気持ち悪いよー」
そして二人仲良く、キメラに攻撃を受けて、アジドの練成治療を受ける羽目になる。
最終的にア棟14匹、イ棟9匹、ウ棟7匹のキメラ発見され、全てのキメラは駆除された。
徹二の故障したエネルギーガンと無線機に関しては、後日軍から同等の代替え品が配給となった。
尚、一部から希望が出たシャワーと食事については、アジドが職権を乱用し、LHへの最終便の前に入浴、砂漠に沈む夕日を見乍らディナーへと発展したが、これについての公式記録は何処にも載っていない。