●リプレイ本文
●調査にGO!
「この辺は空気が美味しいですね〜♪」
うーん、と伸びを佐伽羅 黎紀(
ga8601)。
熊本市を出て車で1時間、阿蘇に着いた一行。
「こうして見ると、なるほど自然の豊かさを感じさせる場所だ。花も中々美しい。出来ればこれからも、このままの姿であって欲しい所だ」と白鐘剣一郎(
ga0184)が阿蘇五岳を眺め、感嘆を漏らす。
午後からのフリータイムとバーベキューに思いを馳せ、全員に配られた使い捨てカメラと観光案内地図を片手に調査開始である。
──中岳周辺を九条院つばめ(
ga6530)、ヒューイ・焔(
ga8434)、斑鳩・八雲(
ga8672)が担当する。
「人が多くて、中岳が見える所がいいですよね?」
観客席があった烏帽子岳を中心に火山博物館等でアンケートを実施する。
(「そういえば大曽根さんが来たがっていたな‥‥」)
草千里ケ浜でのんびりと草をはんでいる馬を見つめてそんな事を思い出す。
アンケートの評価は大旨良好である。
だが、農作物への影響も調査したい3人の周りに畑が一切ない。
売店の店員に訪ねると「周辺に火山噴火があった時に移動もしくはそのまま廃棄撤退しても問題ない物しかない」のだと言う。
がっかりし乍ら予定より足を伸ばして県道を上がっていくと、途中たまたま牛を見に来ていた酪農家の男と出会い、キメラが退治されてから牛の乳が出るようになったと聞き安堵するのであった。
男はつばめがキメラ退治に参加した能力者だと知ると、こんなお礼しか出来ないけれど、と絞り立ての牛乳を3人に振る舞ってくれた。
(「いいんでしょうか?‥‥私も含めて、皆さん随分派手に立ち回ってましたけど‥‥‥」)
ちょっと申し訳ないつばめであった。
──中岳山頂、ロープウェイの火山口駅に到着した大曽根櫻(
ga0005)、剣一郎、榊 刑部(
ga7524)、森里・氷雨(
ga8490)をゴツゴツとした岩肌が出迎える。
「こういう機会が与えられたことはかえって有り難いでですね」とやる気を見せる刑部。
平日午前早い時間とは言え、ロープウェイの駅には観光客の数が少ない気がして剣一郎が呟く。
「他と比べ人は少なさそうだが、一通り確認は必要か」
展望台にへ向かう1本道を上に登って行きながら途中で会う観光客にアンケート始めるが──
現在の結果は18人中16人が「やりすぎ」、2名が「ある程度はしょうがない」と答える。
「派手にやったことを考えればこの程度のクレームで済んでいるのは幸いという所でしょうか?」
氷雨が心配そうに言う。
「KVに乗っていては実際の被害などなかなか把握できませんから、こうした事後調査を行うことは自らの戒めともなって良いことですね‥‥」
階段を上がっていた刑部がぴたりと歩みを止める。
見つめる先──
通行止めの黄色い規制線のテープの先にぽっかりと攻撃で出来た大穴が幾つも穿っている。
「火口が見れなかったら『やりすぎ』は当然の評価か‥‥」
しょうがないと答えた2名は、事前にニュース知っていたのだろう。
「碑や銅像とか壊れてないですか?」
寸断された道の修復作業をしていた作業員に尋ねる氷雨、これでは薬莢拾い所ではない。
だが、壊れた箇所の多くは修復予定の道と火口の『縁』だけだと知り安堵する。
──阿蘇市内を担当するのはUNKNOWN(
ga4276)、金 海雲(
ga8535)、黎紀の3人。
「ゴルフ場や牧場が多いですね〜‥‥これじゃあ人通りの多い中心街でアンケートを取らないと午前中に終わらなくなっちゃいますね〜」
黎紀が、タクシーの中から外を眺めて言う。
3人は阿蘇市の中心地に向かっていた。
「俺は、公園などの人が集まる場所で市民の皆さんに丁寧にお願いしよう」
「それで駄目だったら観光スポットよね〜」
駅前は、のどかの一言である。
「では諸君。取り掛かろう。いなければ捕まえ聞き出せばいいだけだ」とUNKNOWNの掛け声で散開する。
──だが、いつもの何処か敗退的な夜の雰囲気を漂わせるUNKNOWNは、声を掛けようと手を挙げただけで蜘蛛の子を散らすように人が逃げて行く。
「この街の者は皆シャイなのか‥‥意外と難しいものだな」
アンケートを終え、ホテルに戻った参加者達に「疲れた時はビタミンCを補給した方がいいんだよ」と出迎えた山崎 進がみかんを配る。
アンケートの調査結果は、山頂以外大旨能力者やUTLに好意的だった。
「確かに100人分。俺はこいつを提出して、明日迎えに来るから‥‥」と立ちかけたが思い出したようにポケットから紙を取り出し、注意事項だ。と傭兵らを見回す。
●注意事項
「1、温泉内での飲酒と食事はご遠慮下さい。
2、敷地内での覚醒はご遠慮下さい。
紙を読み上げる進に質問をする剣一郎。
「覚醒は判るが、なんで飲酒は駄目なんだ?」
露天風呂での一杯を楽しみにしていた剣一郎とUNKNOWN。
温泉内での飲酒禁止は、かなり厳しい。
「それは『健康に関するあらゆる分野の専門家』‥‥つまり『医者』がプロデュースしたホテルだからだよ」と進。
宿泊するホテルは東洋医学と西洋医学を融合させ、泊まり客に総合的な健康を提案するホテルである。
西洋医学の面で言えば、入浴直前及び入浴中の飲酒は心臓へ多大な負担を掛ける悪い行為だとされている。なので健康第一主義ホテルは、入浴中の飲食お断りなのである。
「特に今回貸切りじゃないからね」
それに‥‥と進が続ける。
「ここの露天風呂はスーパースパによくあるのと同じ、殆どがプール形式なんだ。だから『混浴で水着着用』なんだけど‥‥あの雰囲気で『一杯』は、ね‥」と苦笑いする。
ホテルの近所には何もない状態なので、日中は家族連れがプール代わりに溢れ、夜間はカップルが溢れているのだと言う。
「‥‥たしかに断念した方がよさそうだな」
癒しの酒はゆっくり静かに楽しみたいものである。
「だから静かに入りたい人は『大浴場』を使うといいよ♪」と意味ありげに笑う。
3、館外施設を利用する場合は、フロントに申し出て下さい。
「温泉プールみたいな感じなんですね。‥‥水着はどうしましょうか‥‥スク水くらいしかないですけど‥‥大丈夫でしょうかねえ?」と櫻。
「スク水、透けるんですか?」と氷雨。
「邪道だ」と独自のスク水論を速攻で返す進。
実際に白いスク水が売られていようが進にとってスク水は、紺色でなくてはいけないのだ。
そして「女の子が女の子を写すのはセクハラじゃないから♪」と使い捨てカメラ専用防水ケースを櫻に渡す。
4、熊本市内散策は本日ではなく明日に変更願います。チェックアウト後荷物を預け、その足で現地に向かって下さい。北熊本で荷物を渡します。
ホテルから水前寺公園までは電車でもタクシーでも約1時間だから。と進に言われ、午後のフリータイムを利用して熊本城等を見て回るつもりだった海雲は思わず唸る。
「夕食を皆と一緒に取る事を考えると往復だけで時間が潰れてしまうのか‥‥」
「北熊本本部と熊本城って近いんですか?」と櫻。
「電車と歩き入れて15分位だね」
進の言葉に悩んでしまう海雲。
「明日はお土産を見て回るつもりだったが‥‥」
「見て回るついでに買うのも手だよ。それに阿蘇も一杯見所があるから♪」
5、追加ビールやジュース類、外線電話、ネットや有料チャンネルの使用は、チェクアウト時に精算になります。利用した場合は、速やかにフロント申し出て下さい。
「そんな、夜のお楽しみが──」と言う氷雨に視線が集まる。
「ち、違います。両替えですよ、両替え」
6、軍から支給されるお土産は、温泉まんじゅうです。
──以上、お終い」
海雲は入っている饅頭の個数を聞き、今日の内にもう一箱買う事を決める。
そんなこんなで各々が次の行動を開始する。
●リフレッシュ
──フロントにやって来たのは6人。
櫻、つばめはトレーニングAを、
「温泉も勿論楽しみですが‥‥瞑想やヨガといったプログラムも楽しみです‥‥」
メタボを気にしている訳じゃないが‥‥と前置きをして剣一郎、刑部はトレーニングBを選択する。
「こちらの方が中々遣り甲斐のあるプログラムのようだしな」
「普段と違った運動で汗を流すのもいいものですからね」
「私はどうしようかなぁ〜? う〜ん‥‥」
黎紀は、暫く悩んだあと岩盤浴を希望する。
「なんだ、ゴルフは僕だけですか‥‥」と八雲。
それぞれ申込用紙に記入をしてパスを貰うとそれぞれの場所に散って行く。
海雲は、UNKNOWN、氷雨の両名が名ばかりの観光を行うと知ったヒューイに誘われ、観光に出かける事に決める。
「山とか町とか見たいし‥‥調査しなかった南阿蘇村の方にも色々あるみたいなんだ」
「俺は、なんか美味しい地元名物とか食べてみたいな」と海雲。
「馬刺しとか?」
「馬刺しはちょっと‥‥ラーメンとか?」
「熊本ラーメンって、阿蘇でもあるんですかね?」とヒューイ。
タクシーの運転手に聞けば地元の美味しい店を教えてくれるだろうと男2人で出掛けていく。
早めにトレーニングが終わった櫻は、露天風呂と言う名の温泉プールに現れた。
「‥‥本当にウォータースライダーとかもあるんですね」
確かにこれでは「風呂」には程遠く、家族連れやカップルが多いのも頷ける。
一方、つばめは食事前に建物の外にある温泉を中心に巡る事にした。
「サウナは高温のドライで、ドーム型浴温浴は低温のウェットの差なんですね‥‥」
次に洞窟をくり抜いたようなゴツゴツした岩に囲まれた岩風呂へと向かう。
薄暗い岩風呂の中は、ランプの幻想的な光が揺れている。
「不思議‥‥お湯が青いんですね‥‥でも、手に掬うと透明です‥‥」
「あら、つばめさん」
つばめの姿を見つけて手を振る黎紀。
「岩盤浴は終了ですか?」
「ずーっと1人で入っていたから飽きちゃたんですよ〜」と笑う。
う‥‥。つばめの視線が一瞬黎紀の白い生地で包まれた膨らみに釘付けになる。
そして慌てて自分の胸を隠そうとするつばめ。
「うふふっ‥‥隠さなくてもいいですよ〜。女の子の胸は、素敵な恋と美味しいご飯、そしてマッサージと体操で大きくなりますから〜」
「そうなんですか?」
目をキラキラさせて黎紀を見るつばめ。
「そうですよ〜。特に恋とマッサージは大事です〜」
(「マッサージは、ちょっとセクハラ入っちゃていますから‥‥いきなり教えちゃうと引かれちゃいますね〜」)
良かったら今度教えますね〜。と笑う黎紀であった。
そして夕食ギリギリにUNKNOWNはダンディと掛け離れた蛹型メンコをポケットに詰め、氷雨は麻袋をジャラジャラいわせて帰って来たのであった。
──夕飯は、オープンテラスでバーベキューである。
ホテルと言うのもあり、野菜は肉はカット済。
あとは好きな物を串に刺して、火を起こして焼くだけになっている。
夕焼けに照らされた五岳が空に浮かび上がる。
オープンテラスにジュージューと肉汁の焦げる良い香りが漂う。
「景色を眺めつつ気兼ねなくやれる、というのが良い‥‥」
冷酒を片手に剣一郎が空を見上げると空は朱から紫、濃紺へと姿を変えていく最中であった。
白い月がうっすらと見える。
櫻とヒューイは、ガラPONで当ったというMy浴衣姿である。
「うーん、これだけなの? 酒はさっき買った焼酎を出せばいいが、バーベキューはこれだけか‥‥‥ラーメン3杯食べておいて良かった。美味しいからって調子に乗って食いすぎないようにしないと‥‥皆の分がなくなってしまう」と海雲。
「折角の御馳走です。私もまだまだ育ち盛りですし、しっかりといただくことにしましょう」と刑部。
大テーブルに並べられた肉や野菜はかなりの量であるが、それでも足らないと言う2人。
二人の言葉に、肉を巡ってバトル勃発なのか? とドキドキするヒューイ。
「そういう時は『最低これだけは』という量を個別確保しておくといい」
焼酎を片手に串をひっくり返していたUNKNOWNが言う。
「あんのんさんが、まともな事を言っている」とびっくりする氷雨。
「普通だったら絶対、足らない肉の代りだって怪しいBが追加されるのに」
「怪しいBが欲しいのなら(ピーッ)を氷雨にはやろう」
「それだけは勘弁を〜!!」
UNKNOWNを良く知らない進がいたら激しく誤解したに違いない。
「お酒は、私も提供〜♪」
呑むのも嫌いじゃないけど、潰すのが好きと言う微妙な酒癖を持つ黎紀。
「お酒ですか‥‥久々に嗜みましょうか。焼酎の一升や二升なら、大して影響も無いでしょう」と言う八雲。童顔故に未成年に見られがちだが、立派に成人している。
「俺は、パス。呑んだら3秒で寝る」というヒューイ。
「大丈夫ですよ〜、ちゃんと部屋迄運んであげますから〜」と言う黎紀、にこ〜っと笑う。
櫻とつばめは、地元フルーツやデザートが食べ放題と聞き嬉しそうである。
わいわいと楽しい雰囲気の夕飯である。
そして就寝迄の余った時間を思い思いに自由時間を楽しむ。
「さすがにLHでは温泉は楽しめませんからね。しっかりと堪能させていただきましょう」
刑部ら男性陣が進が薦めた大浴場へと向かう。
他の部分の風呂が充実しているだけにシンプルな大浴場は、貸切り状態であった。
そして──小さい露天風呂がついていた。
「なるほどね」と苦笑する。
呑み足りない男達は狭い露天風呂に浸かり乍ら阿蘇に登る月を眺め、阿蘇の水で作られた酒を酌み交わす。
「‥‥良い味ですね。流石です」
部屋戻ってくつろいでいれば男部屋に黎紀が乱入し、枕投げ合戦に発展する。
独り集中砲火を浴びて枕の山に撃沈する氷雨、途中で燃え尽き爆寝する海雲にフルメイクとセーラー服を施しピースポーズで記念写真を撮ったり、早朝突撃写真撮影等好きなだけ遊んで朝を迎える。
──熊本観光グループは朝食後すぐにチェックアウトをして駅に向かい、土産を探す物はショッピングモールへと向かう。
(「実家はこれでいいとして‥‥友だち用のお土産はどうしましょうか。何かおいしそうな銘菓があればいいのですけど‥‥」)
流石に氷雨を真似て蛹サブレを買うのは恐い気がするつばめ。
散々悩んだつばめは温泉まんじゅうを配る事にし、別に小さなキーホルダーを購入する事にした。
UNKNOWNは子供の薦めで木刀の代りに扇子を買い、刑部は店員にあれこれ質問して球磨焼酎を、ヒューイはキャベツを箱買いしていた。
黎紀と八雲はハーブガーデンの美しい庭を散策した後、黎紀はハーブの後味がすっきりとするハムを、珍しいハーブがなかった八雲はリラックス効果の香りがするキーホルダーを土産として購入した。
1泊2日駆け足だったがリフレッシュをした能力者達は、斯くして次なる依頼へと向かったのであった──。