タイトル:死者の書マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/13 20:01

●オープニング本文


 レーダーの緑色の光が浮かび上がる暗く灯の乏しい管制室の一角を透明なアクリルで区切った部屋。
 部屋の中央に置かれた巨大な作戦卓にUPCの士官服を着用した3人の男とMSIのS・シャルベーシャ(gz0003)が向き合って座る。

 卓に張られたインド全土を示す地図がライトに照らされている。
 よく見れば、地図には薄く色が塗られている。
 地球人類とバグア勢力、現在のパワーバランスである。
 ──インドの首都デリー。
 バグアの競合地域は迫っていた。

「先日の君の隊がヒマラヤでの全滅に近い状況に陥ったのは、こちらとしても非常に遺憾だったよ。やはりあれかね? 君が直接指揮をしていないからだったからかね?」
「自分がいてもいなくても状況は変わらなかったでしょう。指揮レベルで行けば、自分より留守を預けた副長達の方が高いですね。自分は現場からの成り上がりでスタッフサージェント(軍曹)止まりですが、奴らはセカンドルナティンやルナティンまで務めた男達です」
「君はよく上官と問題を起こしていたらと聞くが、よく軍曹まで上がれたものだ」
 壮年の軍人の嫌み等を関係ないと受け流すサルヴァ。

「外国人である君は、インド国内でシヴァの名がどれだけ影響を与えるか理解しているのかね?」
 サルヴァのチームエンブレム、有翼の獅子(Sharbhesha)は単にサルヴァやシヴァ神を示すものではない。アケメネスの獅子を模してあることは十分サルヴァ自身にも判っている。
「破壊と再生‥‥再生は自分の預かり知らぬ所ですが、すくなくとも悪神Saurva(サルワ)の名に恥じぬ様、『無秩序』ではいるつもりですが?」
「なっ‥‥!」
「貴官も他の者から席が丸見えなのをお忘れなく‥‥サルヴァも茶化すな」
 サルヴァより同年代に見える別の士官が壮年の男を宥める。
「Yes,Sir」
「実際の所、有翼の獅子いて全滅の憂き目等‥‥国民に与える不安は図り知れなかったかもしれませんわね」
(「全くだらだらと‥‥)
 実のない会話を続ける高官たちを覚めた眼で見るサルヴァ。
 世界に危機が迫っていようが高官と言うのは変わらないのかも知れない。
 近い将来、北京同様に敵に囲まれる可能性に危機はないのだろうか?

 中東軍の撤退と併せて版図を広げるバグア勢力。
 ヒマラヤのいづれかにあると言われているバグア基地の調査協力を軍から求められたMSIは、マハ−・カーラをヒマラヤ調査に派遣した。
 デリーより1号線を北上しシムラ経由でレコング・ペロに入るトラックを含めた重歩兵36名とKV3機で構成されているA班陸重騎兵部隊。
 KV8機(岩龍を含む)と従来戦闘機Su−29やF/A−18E、F-16、殲撃11等16機からなるB班陽動隊。
 陸路を進むA班は、際立った戦闘もなく途中キメラやゴーレム等を想定範疇の被害状況をキープし乍ら、ヒマラヤへと向かって行った。
 サムドゥから中国に入り、A班がパルに到着したのを確認し、陽動を担当するB班がデリーから発進した。
 ウッタランチャル州を抜け、合流地点を目指したB班はナンダデヴィ山で敵攻撃を受ける。
 山中に潜む敵の高射砲が、まず岩龍の無防備な腹を貫いた。
 続けざまに放たれる敵の砲撃に泡を食い乍らも隊を立て直すB班だったが、岩龍という目を奪われた状態では保護色に隠れた敵への反撃も効果が薄かった。
 飛んで来る砲撃の方向を見て攻撃する為にどうしても無駄弾を撃つ事になる。
 挙げ句、ヒマラヤに建設された敵基地から飛来したと思われるHWの良い鴨にされ、8割の損害を出す形となった。
 また、A班もほぼ同じ時刻、敵の猛攻にあっていた。
 ナンダデヴィに比べれば低いとは言えヒマラヤの一部、高地での戦闘である。
 薄い空気に阻まれSES武器が思うように力を発揮出来なかったのである。

「ツァンダに逃げ込んだA班の生存者からはゴーレム2体とキメラがいた事は確認出来ていますが、問題はB班を襲った敵の正体が不明だということです。残念な事にマハー・カーラの再編成は、現在あまり進んでいません。勿論、売り込みに来る根性のある奴もいますが‥‥」
「調査に兵を出せというのか?」
「まあ、本来はそれが一番早いでしょうが、先の作戦の全容を知るものはインド支部の中でも少数だったという事を考えれば、内通者がいると考えるべきでしょう」
 サルヴァの言葉に士官達が色めく。
「だが、そんな事は現在のデリーの状況を考えれば充分考えられる事ですが、B班を襲った『犯人が何か?』『どこから来たのか』が問題でしょう」
「確かにそれは我々も十分に気になる所だな。それ故にマハー・カーラに調査を依頼したのだが‥‥」
「済んでしまった事は、しょうがありませんわ。マハー・カーラ隊の副長機のブラックボックス也、現地に兵を派兵する也して、敵の正体を突き止める必要はあります。何時までも目の前のたんこぶよろしく聖なるヒマラヤにバグアがのさばっているのは、非常に堪え難き状況に違いありませんもの」
「だが、我が軍も未だ再編成が終わっていない状況だ」
 どうする? と顔合せる士官達。
「傭兵達に依頼するのがよろしいでしょう。もっとも標高7817mのナンダデヴィが相手です。目一杯、報酬を弾んでやって下さい」
 そういうとサルヴァは席から立ち上がった。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
ランドルフ・カーター(ga3888
57歳・♂・JG
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
鞠絵・エイデル(ga8236
18歳・♀・DF
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

●Flight plan
 ──デリーから北東に約300km、祝福された女神という名を持つナンダ・デヴィ山。
「報酬はささやかですが、この美しきレインボーローズを‥‥」
「それは俺の様な無骨者より女が似合うだろう」
 ヒマラヤへ登るレクチャーへの礼だとランドルフ・カーター(ga3888)が差し出す薔薇を丁重に断るS・シャルベーシャ(gz0003)。
「標高4000m以上の山登るの初めてなんですよね」と周防 誠(ga7131)が笑い乍ら言う。
「本当に。しかも7000m級ですか‥‥キメラよりも地形の方が性質が悪いですね‥以前も雪山を登った事がありますが‥比較になりませんね」
 昨日の最高気温が−15度と聞いた鳴神 伊織(ga0421)は目眩を感じる。
「自然の力に合わせてバクアの力が合わさると本当に厄介ね‥‥」
 雪崩やらKVやワームの流れ弾が飛んで来る可能性を考え、うんざりする緋室 神音(ga3576)。

 芸能関係のプロモーターという一面を持つサルヴァが気になってしょうがない鯨井起太(ga0984)は、ついつい話し掛ける。
「おにぎりって持って行って大丈夫かな?」
「そういう時は腹の中に入れておくんだな。体温で凍らんぞ」
「ところで筆記用具って貸してくれないの?」
「PXで買って来い」

「これでカメラがあればTVの埋蔵経の発掘みたいですね〜」
 古河 甚五郎(ga6412)がせっせと荷物のリストの最終確認をし乍ら言う。
「双眼鏡は必需品ですよねー。高射砲の探索もそうですが、出来ることなら岩龍のBlackBoxも持ち帰りたいですしねー」
 平坂 桃香(ga1831)がレンズを拭き乍ら言う。
「でもレンズが光を反射してしまって危険ですかねー?」
「BlackBoxを回収し帰還できれば最低限の目的は達成できるのでしょうからある程度のリスクはしょうがないでしょう」
 伊織としては本当の所、位置の判らぬバグア基地を破壊しない事には根本的な解決にならないと考えているようである。
 一同は副長機と岩龍のBlackBoxの周波数を登録してある受信機を借り受けていた。

(「うぅ‥‥やっぱり知らない人が一杯‥‥でも‥これをこなせば報酬が出て‥‥貧乏からもおさらばです!」)
 人見知りの激しい鞠絵・エイデル(ga8236)はなるべく声を掛けられないように、またこの場で地形を全て頭に入れてしまおうと必死に地図と睨めっこしていた。
 そしてこちらは人見知りとは別だが、新条 拓那(ga1294)もまた足場の高低差を考えば高射砲の設置位置がおのずと予測されると考え、地図とにらめっこをしていた。
「待たせたな。これが当日のフライトプランだ」
 サルヴァが、みづほ(ga6115)と風羽・シン(ga8190)らに分厚いファイルを渡す。
「ありがとうございます。これで捜索範囲と精度が上がるはずです」
「あと頼んでおいた通信記録は? まぁ、現地に行った際、撃墜されたKVの残骸が纏まって落ちていたら、大体その付近が該当地域なんでしょうが‥‥」
 管制塔がモニターしていた通信記録と進路を示すタイムフライトレコード。
 さらにみづほは、入院中の生き残りから事情聴取も行っていた。
「彼等を空から襲った敵はHWと判明しましたが、残念なのは岩龍を撃墜した敵の正体が判らないという事です。彼は前方にいて、後方の岩龍が攻撃された瞬間を見ていないそうです。ですが、証言から攻撃を受けた地点は、はっきりしました」
 これらによりかなり具体的に機体が散乱している方向を予測する事ができるはずである。
 脇ではウェスト研究所の国谷 真彼(ga2331)が地図に上下山・撤退ルート、分析した落下予測地点を書き込んでいた。

 真彼は、先程サルヴァにストレートな質問をぶつけていた。
「今回は、何を企んでいるんです? 僕らを餌にして、内通者の炙り出しは行わないのですか?」
「そうそう、第3者にBlackBoxの破壊・回収されている可能性だってあるわけだし」
 KVが墜落してから丸4ヵ月も経っているのだ。
 本来であればマハー・カーラや軍で回収作業を完了していても可笑しくないだけの時間が充分にあった。
「BlackBoxは現地にあるぞ。まあ、回収が後回しにされたのには色々理由があるが、俺達だって酔狂で4ヵ月も指を銜えていた訳じゃないのさ」
 つまりある程度バグア側スパイの粛清は済んでいるのだと言う。
 いるのは二重スパイの類いか監視されているスパイなのだ。
「いいんですか、そんな内情を教えて?」
 この位は常識だろう。とサルヴァが薄く笑う。


●Bosom of the Devi
「しかし見事にディアブロが集まりましたね。マハーカーラ(シヴァ)を助けて女神の元へ赴く。さしずめ僕らは、スカンダでしょうか」
「スカンダか、いいですね」
 今回、【イーグル7】斑鳩・八雲(ga8672)の言葉に共に【イーグル4】みづほの岩龍の護衛を勤める【イーグル1】水上・未早(ga0049)が答える。
「こっちにも機体の残骸が散ってる。酷いもんだ‥‥。明日は我が身と思って気を引き締めていかないとな」
 拓那が斜面に残る機体を見つめる。
「この美しい景色を汚すバグアは‥‥許せません!!」
 覚醒の為に饒舌になっている鞠絵が吐き出すように言う。
 岩龍が攻撃を受けた地点から離れているが、どれだけの敵がマハー・カーラ隊を襲ったのか伺いしれない。
「‥‥ま、いつも通り気負わず行きますか。何せこれから盛大に連中を釣らなきゃならんからな」
 KV初戦のシンが気持ちをリラックスさせようと敢えて言う。
 KV班はマハー・カーラ隊が撃墜されたと思われる予測地点まで全機地表スレスレを低空で飛んでいる。
「こんな所じゃ高射砲なんて置く場所も限られるはずだけど‥‥それにしても雪が多いな」
『今年は少ない』と聞いていたが、眼下には2mを越す残雪を抱く峰が広がる。
「地上の高射砲、上空のHW、ってか! 先遣隊の二の轍踏んでバグアの笑われるのは勘弁だね」
 明るく言う拓那が山に待つ敵の正体に悪態をつくのは、この数分後だった。

「なんでこんな所にタートルワームがいるんだよ!」
 KV班は、いてもゴーレム。という意見がほとんどだったので、タートルワームの存在は完全に範疇外であった。
「確かにタートルワームなら岩龍の腹を一撃で貫けるでしょうね」
 唯一、タートルワームの可能性を危惧していた未早が言う。
「だぁ、もう! ゴーレムだったらリスク承知で格闘戦に持ち込むつもりだったが、反則だぞ!!」
 白いタートルワームを睨み拓那が言う。
 散開し乍ら急上昇するKVの脇を大口径のプロトン砲が掠めて行く。
「でも‥‥あれで生きているの?」
 タートルワームは太い鉄柱のような、まるで針で止められた蝶の標本のように雪の残る急な斜面に縫い止められている。
「まあ生きているんだろうな。攻撃をして来るのだから‥‥しかし、これではイザと言う時、敢えて雪崩を起して敵を埋めると言う手が使えないな」
【イーグル2】御影・朔夜(ga0240)が苦笑する。
「どうする当初通り2班に別れて攻撃するか? 協力して叩くか?」
 当初、拓那【イーグル3】シン【イーグル5】鞠絵【イーグル6】はHW専任、【イーグル1】【イーグル7】が高射砲、 【イーグル2】 は戦況に併せて2班を【イーグル4】は高射砲班フォローする予定であった。
「予定通りで良いと思う。あのタートルワームは見た通り、防御や回避が取れない。第一、寒さの為か顔色も悪そうじゃないか‥‥【イーグル4】を加えれば4機。倒せない訳ではないと思う。それよりは今の砲撃で敵の応援が来るとも考えられる。下に構っていて上から狙い撃ちされたら話にならないだろう?」
 実際に少し離れた位置に退避しているみづほの岩龍からHWが確認されている。
「徒歩組は何処だ?」
「ここから20km離れた東側です」
「なら予定通り、上は俺らが行く。代わりに下は任せたよ? ブレイク!」
 拓那の声にHW班のディアブロが散開していく。
「アラートが出て5分も掛からないで到着か‥‥どこにあるかは知らないが、さすが基地が近いだけある。だが、本命はあくまでBlackBox回収だ。そっちが成功するまで‥暫く俺と踊っててもらうぜ!」
「あっという間に片付けて‥‥そちらの手伝いをしますね」
「こっちもさっさと片付けて、HW排除を手伝うつもりでいくよ」
 拓那、シンと鞠絵のKVが青い空に溶け込むように急上昇して行く。

 山の南斜面でKVがタートルワームやHWと戦っている頃、尾根を越え、登山ルートを外れた東側斜面ではBlackBox捜索班がランドルフが振る舞うキリマンジャロ・コーヒーを啜っていた。
 雷鳴に似た轟きと空が光るのは拓那やシン、鞠絵が放ったG放電やレーザーの名残りだが、それすら遠い景色である。
「相手が悪すぎですよねー」
「そうですね、ゴーレムぐらいなら生身でもなんとかワイヤーを足に引っ掛けて転ばせ、転落させるとかできるでしょうけど‥‥タートルワームじゃあ歯が立ちませんよ」
「そうそう、HWだってバズーカとかなきゃ弾が届かないし」
 谷間に反射して聞こえるKVの排気音と砲撃の音に歯痒さを感じるが、レベルが違い過ぎるのだ。
 戦闘の邪魔にならない場所で自分達のできる事するのが一番である。
「あ、何か光った!」
 BlackBox以外にも何か有意義な情報を一つでも多く得ようと休憩時間も双眼鏡を覗いていた 起太が短く叫ぶ。見つけたのは、突風に煽られ尾根に叩き付けられたパイロットの遺体であった。
 遺体の簡易埋葬を申し出るランドルフに対してサルヴァの言葉は短かった。
『捨てておけ』
 世界の尾根と呼ばれる山々では、昔から勝手に石一つ動かす事が出来ないのが山に登るもののルールである。登頂前のランドルフに請われて行った簡単なレクチャーの席でそうサルヴァは言った。
『山で石を動かせるのは、信者かバグアか不心得者だ』
 敬礼をするランドルフの脇でサルヴァがパラシュートの布を荷物でも包むかのように巻き付け印をつけていく。地図に遺体を発見した場所を書き込む真彼がこっそりと盗み見る。
(「この人の奥にも揺れる感情は、あるのだろうか?」)
 濃いサングラスに遮られサルヴァの表情は判らなかった。

「流石に丈夫ね」
 動けないタートルワームの砲撃にはどうしても死角ができる。
 それを縫って八雲、未早、朔夜が攻撃を仕掛けるが、もともと頑丈なタートルワームである。
 目に見える攻撃の効果は薄い。
「時間をかければ、更にHWの増援も来るだろう」
 拓那、シン、鞠絵は2機目のHWを片付けた所である。
「鉄柱にピンポイントでレーザー攻撃を仕掛けるか?」
「少なくとも熱が伝わって内側にダメージを与えられるんじゃない?」
「そうね。タートルワームを地面に止めている鉄柱が壊れれば勝手に斜面を転がり落ちてくれそうよね」
「落ちなかったら【イーグル4】の84と127(ランチャー)で足場を崩すか‥‥シャルベーシャが五月蝿そうだが、女神の体にいつまでも我がもの顔で悪魔が張りついているのでは洒落にならんだろう。どうだ【イーグル4】?」
「元よりそのつもりよ」
「では、話は決まったな。冬山に場違いな亀には退場願おう」
 至近から発射されるレーザーの高熱が鉄柱を焼く、腸を焼かれたタートルワームが苦痛の咆哮を上げ、大暴れする。その度に足下の岩が崩れ、ガラガラと落ちる。
 ズズッ──。
 大きなタートルワームの体が大きく傾く。
「今よ!」
 みづほが放ったランチャーの束がタートルワームを支える足場を、地盤を大きく破壊する。
 絶叫にも似た激しい咆哮を伴い、白いタートルワームは崖下へと消えて行った。

(「これは‥‥?」)
 戦闘後に感じる既知感。
 常の事であるとは言え、頭の中にテープレコーダーが仕込まれているのかのように明確な情報をして朔夜の頭を過る記憶と記録。
(「下らない。先に思い出さなければ何の足しにもならないと言うのに‥‥」)
 何時かこんな事も些細な事だと気になら無くなるのだろうか?
 ぶるっ──。
 戦闘の余韻を振払うかのように朔夜が頭を振う。

 水平線からは白い月が上がり掛けている。
 峰に立つ小さなパーティが手を振るのが見えた──。


●Maha・Dava
「‥‥‥地上班は副長と岩龍2個のBlackBoxと7遺体を確認したか‥。KV班は不明の敵に対して手堅く且つ大胆に敵に対峙し、捜索にも協力、よくやったという訳だな‥‥思ったよりUTLの傭兵は有能な人材が多いんだな」
 男は読み終えたばかりの報告書を机の上に投げ出す。
「まあな。事前調査がしっかりしていたのもあったが、ARDF電波誘導法やら2点計測法を知っていた男がいたので、BlackBoxは予想以上の早さで見つかった」
 まあ捜索班は高地での戦闘能力を見たい所だったが、今回、それは欲張りすぎだろうがな。
 サルヴァが伊織から貰った煙草の紫煙を楽しそうに吐き出す。
「なる程‥貴兄が我々マハー・カーラの欠員を埋めるに相応しいと思う人はいた訳か‥‥」
「ああ2人程な‥‥UTL班ではなく出来れば俺の旗下、サルワ班に入れたいくらいのユニークなやつだ」
「ほぅ‥興味深いな」
 尤も今回が必然なのか偶然なのか見極める必要があるがな。
 そう笑うサルヴァ。
「しかし‥折角マークしてくれたが、遺体の回収は難しいだろうな」
 男も3本目の煙草に火をつける。
 ナンダ・デヴィの山頂付近では有機物を分解する微生物はいない為、遺体は誰かが連れて帰る迄は永遠にその姿を山に晒すのだが、遺体を連れて戻るかどうかはパーティの力によるのだ。
「遺体なんぞ、バグアがいなくなれば何時でも持帰られる。待つ家族がいる、いないに関わらずな。それに奴らは戦闘機乗りだ。地上よりも少しでも空に近い場所がいいのかもしれん」
 サルヴァ自身が覚えている一番古い戦闘機乗りは「戦場の空で死にたい」と言っていた。
 実際、その男の遺体は家族の元には戻らなかった。
 空の棺に母や親族は涙したが、少年だった彼は男は満足して死んだと思ったものである。
「こんな世の中だ。納得して死ねるやつは少ないがな」
 サルヴァに言われ男が声なく笑った。
「‥‥とりあえず貴兄同様、俺もインドがお留守になっていたのもあるが‥‥上層部で掌握していたよりはるかに敵の勢力が広い様なのが気になるな。俺だけではなくラジャ(王)からもUPCとUTLに詳しい調査隊の編成をするよう働きかけおこう」
「頼む。俺はUPCの『受け』が悪いからな」
 煙草を消し、男達は席を立った。