●リプレイ本文
「また‥‥猫ちゃんがらみ、で‥会いました‥‥ね」
五十嵐 薙(
ga0322)が過去に猫絡みで仕事したことがあるアグレアーブル(
ga0095)ににっこり笑い会釈をする。
「そうね。縁がありますね。まあ、いなくなるからには、猫にも猫なりの事情はあるでしょうが‥‥知らない場所での猫探しは、宝物探しのように少しわくわくしませんか?」
そう笑い返すアグレアーブル。
「‥‥猫さん」
呉大人の家族に写る巨大猫を見ていたクロード(
ga0179)がぽつりと言う。
「‥‥家族だから‥‥いなくなると‥‥心配だよね‥‥」
「クロードさんは‥猫‥好きなんですか?」
クールに見えるクロードだが、実は可愛いものが大好きである。
「いや‥その‥」
「あたしも‥猫ちゃんは‥‥大好きです。長い間‥‥居なくなっちゃうのは‥心配、です‥‥必ず‥見つけてあげましょう」
にっこりと笑う薙。
「大抵のでぶにゃんは散歩が好きじゃないのに、マオさんは活動派ですね! 捜索頑張りますね♪」と御坂 美緒(
ga0466)。
「だっこは‥‥難しいかもですが‥‥見つけたら触っても‥‥大丈夫でしょうかぁ‥‥?」
幸臼・小鳥(
ga0067)が少しオドオドしながら呉大人に尋ねる。
「私も猫さん‥‥上手く捕まえたら撫でたいです」と大曽根櫻(
ga0005)も言う。
「皆、猫好きアルカ? ウチのマオ、女性が大好きネ。構わないアルヨ」
「肉球やお腹ぷにもしていいですか♪」と美緒。
それを冷ややかな目で見る鷺沢アンリ(
ga2876)。
(「ただの猫の遠出に、何を大げさな。どうせ、アンリたちが見つけなくても数日後には帰ってくるわよ」)
そう思ってしまう。
ふと、にっこり笑う千光寺 巴(
ga1247)。
心の中を見すかれされたような気がして焦るアンリはこう言った。
「がんばって見つけてあげようね、お姉ちゃん!」
「ところで呉さん、普段猫にあげている餌を分けてもらえますか?」
「いいアルヨ」
美緒にポンと1缶日本円にして250円はする高級猫缶を渡す呉大人。
「1日3食、ウチの猫はこれにカツオのブツを乗せるネ。日本から取り寄せたオカカとニボシを乗せていたアル」
「あれ? ニボシもオカカも嫌いじゃないんですか?」
「中国産はNGネ。日本製しか食べないネ。そこいら辺のペットショップのは駄目アルヨ」
オカカは100g500円の品だという。
なんとなく太るのが判ったような気がする美緒であった。
事務服を着た女性を手で呼び寄せる呉大人。
「彼女が普段、猫の世話を一番してくれている人ネ。猫の話し聞くといいアル」
アグレアーブルが仕事の邪魔をしてはいけないだろうと事前に纏めておいた質問をする。
「マオの縄張りと街中でマオを見かけた場所、最後にマオを目撃した場所と、その時の様子を教えて下さい」
「そうね‥‥」
事務員が話によると猫の行動範囲は一般的な猫と同じ半径500m程度だと言う。
普段近所で見かける場所を丁寧に地図に印をつけて行くアグレアーブル。
「最後に見かけた時もいつもと変らず『開けて欲しい』ってブラインドを前足でカシャカシャしたのよ」
雨の日以外は毎日出かけるのだと言う。
「好きなおもちゃとかはあるんですか?」と美緒が尋ねる。
「特にないわねぇ‥‥あの子もう6歳だから」
人間で言えば40代のおっさんである。
「子猫のように人間と遊ぶのは、まれだ」と笑う事務員だった。
薙は事務所の清掃員に声をかける。
「マオちゃんが好きな場所かい? お散歩コースは何通りかあるみたいだけど、朝はお向かいの屋根の上で少し寝ていたりするけどねぇ?」
「他には‥‥ないですか?」
「後は3時になるとオヤツを強請りに来るぐらいかねぇ?」
清掃員は普段、休憩時に裏にある部屋に待機しているのだという。
「そう言えば、2、3日見かけないねぇ?」
アンリと巴は、呉夫人と娘に会いに行った。
「今回の事、呉大人からは単に猫探しって伺っていますが、本当にソレだけなんですか?」
「ええ‥‥他に何かあるんですか?」
そう答える呉夫人。
得た情報は他のメンバー達とそう変らない。
「収穫無しですか‥‥」
「お姉ちゃん達、待って」
事務所の戻ろうとした巴とアンリに声を掛けたのは、呉の娘だった。
「お姉ちゃん達が、猫ちゃんを探してくれるの?」
「そうよ」
「きっと、猫にゃん見つけてくるからねっ♪」
そう娘に笑うアンリ。
「‥‥あのね、ママやパパに内緒にしてくれる?」
「600万のダイヤのブレスレット?」
巴とアンリからの情報に目を丸くする能力者達。
「娘さんの話だと、呉大人が奥さんに結婚20周年記念に贈ったダイヤのブレスレットらしいです」
「お母さんの宝石箱から綺麗だったので‥‥猫に着けたらきっと可愛いだろうと」
娘は猫を相手に、よく帽子やリボン、服やらを着せて、おままごとのお父さん役やら赤ちゃん役をさせていたのだという。
「‥‥それが嫌で逃げ出した?」
「猫ちゃんは‥自由奔放が、一番‥です」と溜息を吐く薙。
「可能性はありますね。もしかしたら単な猫探しで終わらないかもしれないですね」
「しかしこの辺りは電波状態が悪いですね」
UPCから借りた携帯電話と睨めっこするアグレアーブル。
気をつけないとすぐに『圏外』なってしまう。
「この辺はアンテナが少ないアルネ。携帯電話より固定電話。駄目なら無線機ネ」
「と、なると追い込むよりは囮や罠が有効ですね」
宝石の件は無用なトラブルを招く原因だろうと、周囲の聞き込みの際に能力者である事と同様、秘密にする事にした能力者達。
極力、普通の猫探しをすることにした。
「問題はどんな罠を仕掛けるか‥‥ですね。罠を仕掛けるにしても怪我をさせたりするような物は駄目でしょうし‥‥まずは、普通に焼き魚か何かでおびき寄せて上から網を落とすというのが無難でしょうね」と櫻が言う。
「重さか何かで反応するか、魚を持ち上げた瞬間に落ちてくるようにすれば大丈夫でしょうが‥‥問題は、私が作れないと言う事です。そこで‥土鍋を数個床に転がしておいて‥‥その中に猫さんが寝たら捕獲‥‥というのはどうでしょうかねえ?」
しゅた。と土鍋を取り出す櫻。
「‥‥うちの猫を食うアルか?」
タラリと汗を掻く呉大人。
近年少なくなったとはいえ、中国の一部であるが、古来より犬や猫を食する文化がある。
「食べません。‥‥この中に猫さんたちが寝たら捕獲‥‥というのはどうでしょうかねえ? 猫というのは、くぼみや狭いところが大好きらしいですから‥‥」
「使い捨てのカイロで鍋底にカイロをつけておけば、ほっこり鍋の出来上がりなのです♪ 普通の土鍋だと、マオちんは特盛りか吹き零れるかもですから、念の為に特別サイズのも買っておきますね♪」と美緒が言う。
どうやら何パーセントかは本気らしい。と知り、一瞬遠い目をする呉大人。
「もちろん、これで上手くいく可能性は低いでしょうから‥‥他の罠の方もちゃんと仕掛けておくことにします」と櫻。
小鳥は竹を網籠状にして、その中に餌を入れ、餌に猫が触れると扉が閉じるようにすると言う。
「えっと‥‥これなら‥‥猫さんが暴れても‥‥きっと大丈夫ですぅー。暴れて‥‥怪我してしまっては大変ですしねぇ」
「大丈夫アルか?」
呉大人に突っ込まれて、ビクっとする小鳥。
「えっと‥‥あの‥餌を‥餌をつけるので‥‥餌はイカの刺身やマグロを焼いたもの‥好きなものを入れておいたほうが‥‥掴まえやすい‥‥ですよねぇ? 後は‥‥匂いが強いもの‥‥とかぁ」
「そうアルネ」
実際、気まぐれな猫を見つけるのは一苦労だった。
「‥‥猫さん‥‥猫さん‥‥何処?」
「ねこー、ねこー、出っておいでー」
町のあちらこちらを探しまくる。
何しろ行動半径は平面だけでなく立体である。
仕掛けた鍋やら罠に入っているのは他の猫だったり。
「あ、にゃんこが‥‥って、違う‥‥子ですぅ‥‥。君は違うの‥‥ごめんねぇ‥‥?」
残念そうに小鳥が言い乍ら罠からキジ猫を外す。
「ハズレですが、写真に撮りたいですね」
櫻がずっぽりぎゅうぎゅう、陽だまりの鍋に詰まった毛玉たちを見て言う。
「お鍋に‥‥入っているんですかぁー?」
櫻の言葉に小鳥がよってくる。
「はうぅ‥‥猫鍋‥‥可愛い‥‥ですぅー。私、カメラ‥持っていますぅ♪」
パシャパシャとシャッターを切る小鳥。
肝心の猫は、いざ見つけてもうっかり物音を立てれば逃げていく。
屋根の上やら塀の上、植え込みの下、猫道をするすると行き来する。
そして‥‥。
「猫を見た?」
「見たよ。デブ猫、男の人が連れて行ったよ」
「猫、バックにギュウギュウって、ねぇー」
アグレアーブルが猫を見失った近くで、小学生の兄妹からそう告げられる。
「どんな男か‥‥おねえちゃん達に‥教えてくれ‥ますか?」
子供らから教えてもらった男の風貌は、チンピラ風という事だった。
チンピラにだって猫好きは居る。
だが、猫は現在高すぎる首輪を着けている。
トラブルに巻き込まれた可能性は捨てきれない。
男が歩いていった方向に急ぎながら、携帯電話で仲間に連絡を取る。
男を発見する薙と美緒。
「すみません、鞄を見せてください」
「なんだ、いきなり?」
そう言う美緒をジロりと見る男。
「私達が探している猫をあなたが保護をしたっていう子が居るんです」
「太った猫ちゃん‥‥です」
猫の事を考えれば無用なトラブルは避けたい。
あくまでも下手に出る薙と美緒。
「知るか、これは俺の猫だ」
「その鞄を見せてくれば、貴方の猫か私達が探している猫か判ります」
男と問答をしている薙と美緒にアグレアーブル、クロードが追いつく。
年端も行かぬ女性ばかりと知り、男は一向に取り合わない。
痺れを切らしたクロードが覚醒し、能力者である事を明かす。
「こちらは仕事だ、便利屋紛いの事だが正式なルートで通された依頼だ。邪魔をするのならそちらにも謝って貰う」
「能力者が『民間人』に力を振るっていいのかよ?」
薙の髪が赤く染まる。
「あたし達も事を荒立てるのは好きじゃない。だが、猫ちゃんを怪我させたら、許さないよ!」
鞄を握った男の手をねじ上げる薙。
こうして、猫は呉大人の手に無事に戻ることになる。
「助かったアルヨ。これで奥さんから文句を言われないで済むアル」
ニコニコと笑い乍ら、猫を取り戻してくれた能力者達に自慢の茶を勧める呉大人。
「猫ちゃん‥‥かわいい、です」
お茶の合間に猫との写真を撮ったり、撮った写真を楽しげに見せ合う薙達の脇で。
「今度は、ママの宝石箱から勝手に持って行っちゃ駄目だよっ」
アンリが呉の娘にこっそりブレスレットを渡して、一件は落着した。