●リプレイ本文
●the front main gate in KUMAMOTO castle
「山崎さん、遅いですね」
「本当に何やってんだか‥‥」
進に声を掛けられてお花見大会に参加する事になった大曽根櫻(
ga0005)と雪村・さつき(
ga5400)、そしてアキト=柿崎(
ga7330)の3人。
3人を呼び出した当の進が、待ち合わせ時刻から15分過ぎてもやって来ていない。
「少なくとも『女の子』と一緒の時は、ちゃんと来るんだけどなぁ。それに大曽根さんがお弁当を作ってきてくれるって聞いて昨日電話で話していた時は張り切っていたし」
過去、進むに引き摺られ強制的にナンパを付き合わされた事があるアキトの経験から言えば、野郎だけの時は約束の時間に1時間遅れようがちっとも悪いと思っていない進が、女の子が絡む場合だけはきちんと時間を守り、若しくは約束の時間30分前からスタンバっているのを知っていた。
「先に公園に入っちゃう?」
そんな事を話していると、さつきの携帯電話が鳴る。
発信元は、進である。
「進、遅いよ!」
『ごめ〜ん、中々電話するタイミングがね‥‥』
どこかの商店街を走っているのだろう。街の喧騒と悲鳴が聞こえる。
「何やっているの、進? 今、何処にいるの?」
『今、どこだろう?』
「あなたね‥‥」
『総合体育館、って看板があるな。とりあえずオレンジ・ジャックの野郎を追い掛けている』
進によればオレンジ・ジャックに遭遇にケーキと酒を奪われたとの事。
「‥‥相変わらずね。兎に角、助けに行くから無事でいなさいよ‥‥!」
「さつきちゃん、サンキュー♪ ああ、この野郎! 箱を振るんじゃない!』
(「自分の体とケーキとどっちが大切だと持っているんだろ」)
進から大まかな場所を聞くと学校に行くように指示をするさつき。
『了解、春休み中だから人がいないだろうしね』
時間を見乍ら、学校に追い込む。と、進は言って携帯を切った。
「なんですか?」
「オレンジ・ジャックと追いかけっこしているみたい。全く、学習能力無しなんだから」
さつきの言葉に同意するアキト。
「やれやれ‥‥また、オレンジ・ジャックにやられたんですか。災難というか不運というか‥‥ここまで来ると、むしろ才能ですよ」
「何で、あの南瓜のお化けさんがいるんですか? それも、こんな町中で‥‥でも、どうしましょう? ‥‥私、お花見のつもりで来たので刀とか持って来ていないんですが?」と櫻。
櫻は午前中に剣道の稽古に出掛け、その足で熊本城に来ている。
手元にはSESが搭載していない『竹刀』とお守り代わりの『砂錐の爪』だけしかない。
剣士である櫻にとって、足技はあまり得意な体術ではない。
上手く退治できるか心配である。
「あたしも似たり寄ったりよ」
さつきの持ち物もお花見グッズの方が『刹那の爪』や『砂錐の爪』より量ばっている。
「私もアーミーナイフぐらいですよ」
あとあるのは、照明銃ぐらいです。とアキト。
進から花見の席に武器は不粋だからと言われて『もしもの時』用の小さな武器しか持って来ていない。
実際、熊本城周辺はキメラの襲撃がほとんどない市の中心地で、商業施設や公共施設の合間に住んでいる住民達も一般人が殆どなのである。
どうしようか? と悩んでいる3人に声を掛けたのは石動 小夜子(
ga0121)である。
「あの‥‥オレンジ・ジャックって、キメラのオレンジ・ジャックですよね? 私もナックルぐらいしかありませんが、良かったら協力させて頂けませんか?」
小夜子は、観光地としても有名な熊本城にお花見に立ち寄った1人である。
お団子が入った袋と小さなバックしか手元にないが、キメラは放って置けなかった。
●shopping district in front of a station
「うに〜、ミハイルさんとお花見〜♪」
お父さんのように慕っているミハイル・チーグルスキ(
ga4629)とのほのぼのデートに菜姫 白雪(
ga4746)は、ルンルンとしていた。
ミハイル自身は、白雪とのぷちデートの後にもう1件。べつの女性との夜桜デートが控えている。
マメ、である。
それはそれ、これはこれ。と楽しむ所が伊達男ならでは、というものなのだろう。
そんな二人の足下を荷物を抱えたオレンジ色の物体が駆け抜けていく。
「‥‥って、あれ? ‥‥キメラー!? どどどうしよう!」
能力者になって久しいが、キメラと遭遇した事がない白雪がパニックに陥る。
「このやろーーーーーーぅ! 待ちやがれ!」
ファイターである進が遅れて後ろから走って来た。
二人を追い越そうとした進の足を引っ掛けるミハイル。
すってーんと景気よく転ぶ進。
「おっさん、何しやがんだ! 喧嘩売ってんのか?!」
「場違いなハロウィンかね? 何故、あんな季節外れのキメラがいるのか、説明してくれないか?」
冷静なミハイルに対して怒りモードの進。
だがミハイルの後ろに涙目で立つ白雪を見つけると一転。
「お嬢さんを僕に下さい」
ミハイルの両手を掴み、真面目な顔をする進。
「って、遊んでいる場合じゃない! 見た通り、あの野郎、人のケーキと酒を奪って逃走中!」
「白雪も手伝うよ。ケーキとお酒奪うなんて許せなぁい! 手伝うもん!」
ぐっと握りこぶしを作る白雪。
「そっかぁ、白雪ちゃんって言うんだ。お父さんとのデート中、悪いねぇ。君みたいな可愛い子が協力してくれるなんて、とってもラッキーだよ」
いつの間にかちゃっかり白雪の手を握り、にっこりと笑う進。
「ミハイルさんは、パパじゃないですよ〜。パパみたいに仲良しさんですけど〜」
「ええ! ってことは、別な意味でパ‥‥」
パチン! とミハイルが指を鳴らすと、はらりと進の前髪が一房落ちる。
にょっきり銀灰色の耳がミハイルの頭に生えていた。
●Two jack o’lanterns in school ground
校庭の中央に場違いな迄に優雅な白いテーブルクロスが掛かったテーブルが置かれている。
辺りに漂う紅茶と甘いケーキの匂い。
黒いシルクハットにスーツとコートに着替えたミハイルがスタンバっている。
「‥‥‥しかし、白雪ちゃんのお父さん(ミハイル)って何時もああなの?」
「え〜? だからパパじゃないです〜☆」
皆と協力してオレンジ・ジャックを追い立てていた進が白雪に尋ねる。
この騒動は直径3km未満と言う狭い範疇で起こっている。
覚醒すれば子供でも一流アスリート並み以上の身体能力を持つ能力者である。
15分も掛からずにキメラを学校に追い込めるものをミハイルのスタンバイ時間を待つ為に30分以上の時間を掛けていた。
(「‥‥実は、遊んでいるのかな?」)
能力者と言う存在は、安全地帯でもオープンな存在である。
市民を避難させず、場所をわきまえない戦闘行為は避難されるであろうが、きちんと住民を避難させた状況であれば、覚醒しても問題ないのである。
実際、キメラが出た時点で進は、北熊本に連絡を入れている。
女の子大好き軟派男でも能力者なのだ。
あわよくば女の子と夜デートをしたい進は、事前に熊本城の周辺をチェックしていた。
周りに学校やスーパー、裁判所等があれば、自分のケーキも大事だが、市民の安全を考え、さつきから学校を指示された際は、追加情報として学校周辺の住民避難を依頼していた。
速やかな排除行為を考えた場合コスプレは不要だろうと進は思うのだが、単にミハイルはコスプレが好きなのかもしれない。
(「ま、いっか。セーラー服とかナース服じゃないし」)
酒瓶を抱えていたオレンジ・ジャックが、ミハイルの用意したダミーのケーキに気がついた。
そのままでは食べられない瓶よりも(どうやら瓶を開けるという行為は思いつかなかったらしい)瓶を放り出すとミハイル(ケーキ)に飛びかかっていく。
オレンジ・ジャックの後ろに回り込んでいた小夜子が、酒瓶が地面とキスをする前にキャッチする。
「山崎さん、パスです!」
「サンキュ〜!」
オレンジ・ジャック1体の攻撃をケーキでフェントし乍ら躱すミハイル。
「おっと、失礼するよ」
援護をするように白雪がゼロを振う。
さつきがケーキの箱を抱えるオレンジ・ジャック追い込み、アキトが顔に向かって照明銃を放つ。
「ギャッ!」
閃光に目が眩んだオレンジ・ジャックの動きが止まる。
「小手!」
櫻が竹刀を打下ろし、ケーキの箱がオレンジ・ジャックの手から落ちる。
「ケーキ、奪還完了!」
「ふ、ふ、ふっ‥‥これで遠慮なく攻撃できるってもんだ」
にやりと怪しい笑いを浮かべる進。
アキトがアーミーナイフを構える。
「皆の者、掛れ〜!!」
軍配代わりに進が一升瓶を片手に号令を掛ける。
「当ったれー!!」
こうして2体のオレンジ・ジャックは、無事退治された。
●Enjoying seeing cherryblossom rally held under KUMAMOTO castle
どうせ花見なら大人数の方が楽しいだろうと小夜子、ミハイル、白雪も同席する事になった。
「酒は後で兵舎の方にでも送っておくか‥‥‥」
オレンジ・ジャック退治に協力してくれた女の子達が全員未成年と言う事と昼間っからアルコールというのが気がやや引けるのもあって、アキトが軍からの配給品の弁当を貰って来る間を利用して、進が売店でリンゴジュースや牛乳、飴等を買っている。
シートの上に櫻のお花見弁当のお重が広げられ、脇でさつきがポットセットでお湯を沸かしている。
そんなさつきに牛乳を渡す進。
「なんであたしだけ牛乳なの?」
「さつきちゃん、珈琲飲めないジャン」
たしか牛乳と砂糖たっぷりの珈琲牛乳だったら飲めただろう? と進。
「キリマンジャロなんて今は、超貴重品なんだぞ。最高に上手く入れてやるから飲んだ方がいいぜ」
こう見えてもコーヒーショップでバイトしてたんだからな。と進が言う。
「コーヒーだったら別のお菓子が良かったかしら?」
桜餅も持ってきた櫻。
「それを言ったら私はお団子ですから」と苦笑する小夜子。
「それを言ったら、あたしも菓子折りだし」と笑うさつき。
「それを言ったら白雪は、何も持って来なかったです〜」
てへっと笑う白雪。
寂しいシートの上が一気に華やかさを増す。
「美味しそう〜♪」
ふりかけやでんぶで彩られた一口サイズに握られた俵型のお握り。野菜煮物や厚焼き卵、唐揚げやら焼き魚、ポテトサラダにスパゲッティー、カットオレンジに苺‥‥‥色々なモノが彩りよく詰められている。
「櫻さんが作ったの? すごいね〜」
「お料理は得意なんです。でもどんなものが皆さんが好きか判りませんでしたから、適当に好きそうな物を沢山詰めて持ってきました〜☆」と櫻。
「でも、櫻ちゃんにこんなところで会えるとは思わなかったよ、えへへ嬉しー♪」
「本当に偶然ですよね〜」
青空と桜に映える熊本城を眺め乍ら、弁当に舌鼓を打つ。
ミハイルが白雪に緑茶を勧め、自ら持ってきた甘酒を白雪にお酌をして貰い乍らミハイルが言う。
「そういえば‥‥シラユキ、初戦闘がんばったね」
「白雪は初戦闘頑張りましたの! でも‥‥こ‥怖かったですの〜」
ほっとしたのか、白雪の目から大粒の涙が流れる。
白雪の頭を優しく撫でるミハイル。
「本当によくがんばったよ‥‥」
ぽふんっ! と頬を染める白雪。
「あー‥‥‥しかし、咽が乾いた。なんかアキト、持っている?」
「山崎さん、自分の分のジュース買わなかったんですか?」
「えー、だってお湯がもっと早く湧くと思っていたし」
そんな進に小夜子がジュースを差し出す。
「宜しければ、私の持っているジュースをどうぞ」
「さすが、小夜子ちゃん気が効くねぇ」
「何、あたしが気が効かない。成長していないっていうの?」
小夜子とさつき、同じ16歳である。ちょっと同じ歳の女の子と比べられると気になるお年頃である。
「何、怒ってンだよ? さつきちゃんも、ちゃんと成長しているよ〜」
「え、何が? 身長? 胸?」
返答次第じゃ一発殴るつもりだったさつきに進が言う。
「傭兵としてだよ。胸とか身長が成長した方が良いかも知れないけど、さつきちゃん、まだ16じゃん」
それに世の中には小さいのが好きな人もいるから♪
そう言い乍ら、小夜子から貰ったジュースのプルトップを開ける進。
「炭酸ジュースですから気をつけ‥‥」
中から景気よく炭酸ジュースが飛び出し進を直撃する。
「早く言ってよ〜」
笑いが絶えない。
「あ、ということはケーキの命も‥‥」
おっかなびっくりケーキの箱を開けると、そこには原型を留めていない生クリームと苺の謎の物体が散乱していた。
「俺のケーキが‥‥」
「まあ、予想通りと言うか‥‥‥でも、綺麗なお嬢さん方とお知り合いになれましたしね。山崎さん、よかったじゃないですか」とアキトが笑う。
「そうですよ。形はちょっとブサイクになっていますが、味は変わらない筈ですから」と、小夜子がクリームを指で掬い、口へと運ぶ。
「うん、美味しい♪」
「俺にも♪ あーん♪」
口を開ける進に小夜子とさつきのWパンチが飛ぶ。
「「セクハラ!」」
「え〜だってぇ、可愛い女の子に食べさせてもらった方が100倍美味いし‥‥」
「この、軟弱もの!」
「酷い。お揃いの半纏仲間なのに‥‥」
よよ‥‥と泣き崩れる真似をする進。
「まぁまぁ‥‥」
苦笑し乍らさつきを宥めるアキト。
「あ、そうだ。一度、やってみたかったんですよね〜。これ♪」
話題変えも兼ねて余った照明銃をジャケットから取り出すアキト。
「花火代わりに打ち上げてみたかったんですよ〜。こんな所でそんな機会に巡り会うとは思いませんでしたけどね〜」とにっこりと笑う。
「お〜♪ いいじゃん、景気付けに上げようぜ!」
立ち直りの早い進が同意する。
しゅ〜〜〜っと光の弾が空に上がっていく。
「‥‥シラユキ、ほかの皆さん、逃げる準備をした方が良いかもしれませんね」
ぼそりとミハイルが言うと、シートから立ち上がる。
「え?」
「木の多い公園で照明銃を緊急事態でもない限り打ち上げたら、恐らく罰則対象でしょう」
じゃあ、そういうことで。というと、白雪を抱き上げると脱兎のごとく姿を晦ますミハイル。
「‥‥」
「‥‥‥」
「誰だ! 公園内で照明銃を打ち上げたのは!!!」
遠くから公園管理室の人間らしい作業員が飛んで来るのが見える。
「‥‥‥‥うわぁあああ! 逃げろ!」
顔を見合わせると荷物を抱えて逃げ出す一同であった。