●リプレイ本文
●All Away
各小隊の編成が終わるとアジド・アヌバ(ga0030)より上海を始めとする拠点の気象情報が発表され、カーゴの進路予定コース周辺の状況や哨戒機(艇)が最新の敵配備状況を考慮したタイムチャートを説明していく。
(「解放戦が終わった矢先に、今度は中国を飛ぶとはね。中国も、北米に負けじと反抗の準備を進めているのか」)
もしくは、もう既に反抗の為に強く生きているのか‥‥。
陽動部隊E(エコー)小隊長の南雲 莞爾(
ga4272)は、広い大地に思いを馳せる。
(「ちょっとした会戦規模ですね」)
南部 祐希(
ga4390)がこっそり隣に座る同じ陽動部隊B(ブラボー)小隊の三島玲奈(
ga3848)に話し掛ける。
(「うん‥‥」)
元気娘は、本日おちゃらけなしの真剣モードである。
「撤退ルートは、どうなっているんですか?」
C(チャーリー)小隊を率いる篠森 あすか(
ga0126)が、挙手をする。
アジドの説明に南方を予定していた真神 夏葵(
ga7063)が気色ばむ。
「‥‥逃げ道がない?」
「距離的に考えればタイムラグが生じますので、その隙を着いて頂くしかないです」とアジド。
「カーゴのルートを考えると撤退ルートは、台湾を目指して南下するか、朝鮮半島を目指す北東、次に屋久島に向かって真東に飛ぶルートになりますね」
D(デルタ)小隊のアルヴァイム(
ga5051)がホワイトボードに貼られた地図を見乍ら言う。
台湾ルートは沖縄、朝鮮半島ルートは北京または春日、屋久島ルートは沖縄からの敵に遭遇するリスクがある。
「一番近い人間の制圧圏(安全エリア)は清州島になります。こちらが有利なのは、春日がやや大人しいという点です」
それに新日原から給油機が出せると言う。
「敵を振り切れさえすれば、ガス穴で墜落する心配がないというのは有り難いですね」
同じ小隊の古河 甚五郎(
ga6412)がランデブーポイントを確認する。
「でも戦では不測の事態が起きますよ?」
そういうのは、A(アルファ)小隊の赤霧・連(
ga0668)。
「気にしていたら、切りがないよ。ま、お荷物な輸送機が居ない分だけ気楽ってことで」
精々旨そうな餌になり切ってみますかねっと。
にやりと笑い乍ら吾妻 大和(
ga0175)が足を組み直す。
「基本を忘れずに行動すれば、そう問題はないだろう」
D小隊長あり全体の統括を兼ねる緑川 安則(
ga0157)が言う。
「そうですネ。翼(心)はいつも友と共に、空は私達の味方です」
にっこりと連は無邪気に笑った。
アジドからの説明が終わり、そのままその場で各部隊でのミーティングに移行する。
「今回の作戦は友軍輸送機が目標に到着するための時間稼ぎの陽動作戦だ。
それぞれがかく乱牽制、攻撃を担当する」
「ほむ、敵を全滅させる方がずっと簡単ですネ」と連。
「ある程度、現在確認されているHW8機をある程度の時間を掛けて倒し、敵増援を呼ぶ時間を戦闘で稼ぐつもり位でいいでしょうね」
B小隊長を勤める緋室 神音(
ga3576)が言う。
「そうそう、全部を撃ち落とす必要はないからね。敵は1、2機くらい残しといて更に増援を引き出せればベターってなもんだ」
「牽制班も可能ならば撃墜を狙うが、無理をしないという事でいいな?」
アルヴァイムが安則に確認する。
「そうだな。どうやらこちらが考えるより敵の動きは早く、カーゴは遅いようだ。
ミッションに掛けられる時間は限られている。一気に叩くのではなく、1、2機ずつこちらの意図が敵に判明せぬよう最新の注意が必要だろう」
「だが、そう心配する事はないだろう。己が受けた依頼ならば全力を尽くすのみだ」
そうだろう? A小隊長の御影・朔夜(
ga0240)が冷たく笑う。
「二律背反を感じる‥‥何処にでも生きる者の力の衝突、光の裏には影があるのだから」
つまらなさそうに言う崎森 玲於奈(
ga2010)。
「作戦が成功してい得をするのはUPC軍‥‥特にあの『少尉』殿位だろう。精々、作戦が成功して自身の株が上がる事を祈って欲しいものだ」
朔夜の視線を感じたアジドがにっこりと微笑む。
ミーティングが終わり、参加者達がミーティングルームを後にする。
「あすか‥‥今度も、頼りにして、いい?」
「ええ、自分達も無事に戻れるよう、皆で頑張りましょう」
「あ‥‥」
「どうした?」
夏葵がラシ−ド・アル・ラハル(
ga6190)に声をかける。
「ん‥‥以前世話になった人がいたから挨拶をしたかったんだけど‥‥」
陽動隊のKVだけであれば巡航速度で飛行しても1時間掛からずに上海に辿り着くが、足の遅いカーゴは同じ距離でも15分近く時間が掛かる。
故、殆ど同じ時刻に出発である。
「しょうがないさ。また会えるよ」
慰めるように夏葵は友の肩を叩く。
「ふぁ〜あ、良く寝たなぁ‥‥」
花火師ミック(
ga4551)は大欠伸をする。
主兵装をミック愛の試作帯粒子砲から突撃仕様ガドリング砲2砲に急遽変更し、昨夜一晩でマニュアルの暗記したのだった。
「寝ていたのか?」
「半分は聞いていたから大丈夫。それに吾妻や南雲にちゃんとタイミングを併せるから」
極端な話、今回のミッション。敵を一機も撃墜せず(味方機が墜ちず)時間が稼げれば陽動隊の任務は成功である。
「三島がなんかデカいコトやってくれるらしいし、楽しみだなぁ」
だが、ミッションは連が心配したようにそう簡単には行かなかった。
●Join up
「今日も元気に『クサナギ』、がんばろーぜ」
編隊を組み、上海市上空に差し掛かる陽動部隊。
「変ね‥‥レーダーに反応がない?」
上海市は群馬県とほぼ同じ面積に戦闘を嫌い、各地から流れ込む人民を含めた人口2000万人以上の大都市である。
上空を旋回し、長江河口に陽動部隊がさしさかると前方沖合いにHWの機影が見えた。
「敵さんはっけーん! それじゃ派手に行くとするか!!」
「ふぃーっしゅ、釣れた釣れた。ハイこっちですよワームちゃん、ってな」
「熱くなり過ぎるなよ? 俺達の目的は陽動だ」
「予定通り先手必勝。ミサイル発射」
D1【Fenrir】安則指示の元、遠距離ミサイルが一斉に2連射され、HWの出鼻を挫いた。
それの隙に小隊ごとに隊列編成し直し、全体を凹型に展開する。
牽制担当が中央からHWを掻き回し、両翼の攻撃担当が双方から連動して敵隊列の端に位置するHWを攻撃する予定である。
「連携を保ちつつ、牽制と攻撃だ。無理はするな。無茶をしても司令部は修理費を出さないみたいだからな」
「大丈夫です。自分には保守する物が残っています。‥‥勿論、ガムテで」
安則らがいうのは、余りにも軽率な行動をする傭兵に対し、いままでUTLが代行していた修理費の支払いを拒否し、傭兵らの自己負担にする旨公示された事を示す。
●C小隊
「ラシ−ド君と夏葵君、二人とも他の班と自分の位置に注意してね」
「了解、あすか‥‥」
「OK!」
C小隊はHWとの接触後、前衛にラシードと夏葵、後衛に試作型G放電装置を供えたあすかと▽型に隊列を組み直す。
「欲張らずに1機ずつだね。まあ、墜せたらラッキー?」
「そうね、頑張ろう」
夏葵が127mm2連装ロケット弾ランチャーで弾幕を張り、ラシードが突撃仕様ガドリング砲でHWに接近し、あすかの試作型G放電装置が丁寧にHWの防御を削いで行く。
「左から二番目、動きが鈍ってる‥‥いけるよ」
「OK、そのまま墜としちゃおう」
「お前の相手は、こっちだよ‥‥!」
誘うようにラシード機がHWの前に進む。
尻に食らい付いたHWをバレルロールで翻弄する。
「ラシード、右だ! そのまま回れ!!」
夏葵の放つガトリングがHWの装甲に穴を開けて行く。
「夏葵‥‥後ろッ!」
夏葵機の後ろにHWが回り込んでいた。
HWのフェザー砲より早く動いたのはあすかだった。
ガトリングの弾がHWに降り注ぐ隙に体制を立て直す夏葵。
「二人とも、敵の位置にも注意してね」
あすかは二人に注意した。
●D小隊
「HWは強敵だ。S−01の特性を生かし、一撃離脱を厳とせよ」
小隊長の安則がミーティングの時から諄く言った言葉である。
Hit and Away.
地味であるが正攻法の攻撃である。
「さて。しばし我にお付き合い願おうか?」
D2【unsung】アルヴァイムがスナイパーライフルを放ち、HWを牽制している隙をつき、甚五郎と安則の機がHWに迫る。甚五郎のP115mm高初速滑腔砲を撃つ、脇を安則機が突撃仕様ガトリング砲で弾幕を張り乍ら更にHWとの距離を縮めていく。
1機が牽制をする間に他の2機が迫る。その内の1機が牽制に転じ、残り1機ともう1機が加わり、HWとの距離を縮める。近距離から3.2cm高分子レーザー砲やP−115mm高初速滑腔砲
を食らわし、離脱する。
一見直線的な攻撃であるが、死角から着かれた場合の逃げ足の速さは一品である。
「堕とさせるわけにはいかないんだ。ここにいる奴らは私の仲間だからな」
勝率は零を戦術で無限大へと変化させる。それが神盾の騎士たる自らと考える安則。
安則の率いるチーム「戦闘集団零→∞」もそんな安則の考えから名前が着いていた。
●E小隊
「HW1、エンゲージあーんどFOX−1! ってな」
接触一番、アグレッシヴ・ファングを発動し、大和がホーミングミサイルG−01を発射する。
「うっしゃあ、ヒット!」
このままドックファイトに持ち込みそうな勢いの大和である。
「吾妻はノリノリだなぁ」
突撃仕様ガドリング砲を放ち乍らHWを撹乱するミックがいう。
「‥‥‥無理に付き合う事は無い。俺達の仕事は、主に牽制・撹乱だ。攻撃部隊の援護や敵の追い込みを図るのが仕事だ」と莞爾が突撃仕様ガドリング砲を放ち乍ら冷静に言う。
「だいじょーぶっだって、ちゃんと俺は冷静ちゃんよ。ちゃーんとAB小隊が敵さんを墜とせるようにするって」
もっとも俺達も敵さんを墜としていいはずだと思うけどね。
「まあ、吾妻の言う通りかもね。折角のおニューのガトリングだし、ようやく慣れてきたから俺も本領発揮だよ」
「たしかにな」
HWの逃げ道を塞ぐようにガトリングを再び放った後、3.2cm高分子レーザー砲をHWに撃つ莞爾。
「深追いし過ぎるなよ」
「任せておけって。おっと、ソッチに行かせる訳には行かないのよっと」
ホーミングミサイルを大和が放った。
●A小隊
「――まずは私が一番槍だ」
朔夜が僚機に追い立てられてきたHWにK−01小型ホーミングミサイルを発射する。
「―――御影が悪評高き狼を演じるならば、私は渇望の皇を演じ‥‥‥‥黒き空を舞おうじゃないか――Hier bin ich(我、ここにあり)」
タイミングを併せて連が短距離高速型AAMが放ち、玲於奈がハイマニューバを発動し、3.2cm高分子レーザ−砲放ち乍らHWへと突っ込んで行く。
HWのフォースフィールドがバチバチと火花を散らして行く。
「これで墜ちないのか? ならばもう一発!」
朔夜の突撃仕様ガドリング砲と連のスナイパーライフルRと連動し、再び玲於奈が仕掛ける。
「――Lasst lustig die Horner erschallen‥‥」
ウェーバーのオペラの一節を口にする玲於奈。
H12ミサイルポッドを受け、HW1機が洋上へと墜落する。
共に弾を受け白煙を上げ乍ら持ちこたえているもう1機に朔夜のUK−10AAMを発射する。
大破するHWを見て、
「お二人とも流石です。では足手纏いにならぬようボクも最善を尽くします」
連もまたAAMを放った。
●B小隊
「――敵、HW確認。【Iris】エンゲージ!」
A小隊が1度に複数機をターゲットしたのに対し、B小隊は1機づつ確実に墜とす戦法である。
「‥‥シカゴの借り、返させて貰います」
祐希がスナイパーライフルD−02とUK−10AAMでHWを追い立てる。
「こちら玲奈、確実に仕留めるよ。くらえ先制弾!」
迫るHWに玲奈がスナイパーライフルD−02、神音は突撃仕様ガドリング砲を放つ。
「この作戦の為にわざわざ機体を買い替えて改造したんだからね。芸の舞台でも戦闘部隊でも私は常に体を張って真剣勝負なんだ!」
気合い十分の玲奈。
「熱くなり過ぎると危険よ。一対多数や吶喊して囲まれないように注意して」
神音が玲奈に注意を促す。
祐希が追い立て、神音と玲奈がHWの力を削ぎ、HWの止めを臨機応変に3.2cm高分子レーザー砲と試作型リニア砲で刺して行く。
「当たれば大きいリニア砲! 行けえ!!」
●RTB(Return To Base)
各機、燃料の残が20%を割り、被弾し乍らも8機目を撃墜したのは、Aで索敵を担当する連が青島と武漢方面からやって来る新たなる9機HWを発見した時であった。
「A2より各機へ、敵機と約5分で接触します。ご武運を」
「何とか生き延びたな。だが、本番はこれからだ。誰一人取りこぼしなく無事に帰還してはじめて成功だ」
「‥‥潮時、だね」
脱落機がないか、各小隊長が確認する。
「基地に戻ったら‥紅茶が飲みたいな」
「俺は、絶対コーヒーだ」
新たなる敵を目の前に紅茶・珈琲論争が始まる。
「珈琲でも紅茶でもどっちでもいい。全員で祝杯を挙げるぞ。それでは撤退する。全機、残っているミサイルを全弾、一番敵の密度の多いところに発射、その後全速離脱!」
安則から号令が掛かる。
敵機進行方向正面に煙幕弾が張られる中、目くらましを兼ねて全機が残存ミサイルを一斉発射する。
「‥‥‥‥全く、やはりこの程度では満たされるに値しない」
沸き立つような血の高揚感に咽が乾くばかりである。
「これ以上の戦闘は無意味だ。撤退するぞ」
朔夜が玲於奈に指示を出す。
この餓えは何れだけのバグアを倒したら満たされるのだろうか?
そんな思いを胸に玲於奈もまた上海上空を離脱する。
「――さて、これであちらはどうなる事やら‥‥」
「‥‥俺達の仕事はこれで終わりだ。後は自力で生き延びてみせろ」
こうして遠い内陸を行くカーゴの到着を願いつつ、全機遅れる事なく離脱していった。
ふと、玲奈は小さくなって行く上海を、上空から見た不自然な迄に整った町を思い出しゾッとする。
(「上海は戦後大阪の芸能のルーツや、皆が安心して笑える日を取り戻そう‥‥」)
そう誓うのであった。