タイトル:列車の上の蝗男マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/29 15:29

●オープニング本文


『列車男と蝗男』
 インドにあるダルダ財団が抱える子会社の一つ、映画館へのフィルムを卸している小さな制作会社にS・シャルベーシャ(gz0003)が持ち込んで怪しい映画である。
 表面的には、MSI全面協力によるボリウッド映画である。
 たとえ裏があったとしても、ボリウッド映画なのは変わらないはずだった。

「バッタ男のスーツが、夜中に1人でに動いた?」
 美術担当の女性が泣きそうな顔をして頷く。
「昨日の夜、忘れ物があって会社に戻って来たんです。その時確かに動いたんです」
「ネズミが体当りをしたとかじゃなくて?」
 以前、体長20cmの、一瞬キメララットと見間違えそうなくらい大きなネズミが複数出て、撮影所内がパニックに陥った事があったのである。

「間違いありません。あの緑色の頭‥‥誰か撮影前にイタズラしているんだと思って追い掛けたら‥‥」
 一本道の角を曲がったはずなのにいなかったというのだ。
「見違いかなぁって思っていたんですが、スーツは何時も保管している所になかったんです」
 だが翌朝見た時、スーツは何事もなかったかのように保管場所にあったのだと言う。
「うーん‥‥‥この事は誰かに話した?」
「まだです。またこの前の鼠みたいにUPCの人に来て貰ったのにキメラじゃなかったなんて恥ずかしいですもの」
 彼女のボーイフレンドは能力者で、以前撮影所の鼠騒動の時、UPCから派遣された能力者達のメンバーにいたのである。彼にしてみれば愛しい彼女が危険だと駆け付けたのだが、捕まえてみればただの大きい鼠であったのだ。
 あれ以来、なんとなく気まずいのだと言う。
「ふーん‥‥判った。この件俺に任せてよ。知合いに聞いてみるからさ」
 そういって美術担当の女の子を返すパナ。

 ***

「一体、どう言う事なんです?」
「どうといわれてもな。俺が聞きたいぜ?」
 パナに呼び出されたサルヴァ。
「あのキメラのスーツ、本物なんですか?」
「本物と言えば、本物だが‥‥‥」
 以前、サルヴァが退治したキメラを復元したのだという。
「もっともオリジナルの死体は、他のキメラ同様UPCの研究施設に渡している。アレは俺が覚えているキメラを社内のディープな特撮愛好者に作って貰っただけの代物だ」
 いくら俺でも本物のキメラは手に入れられないさ。とサルヴァが言う。
「別にハズレでもUPCは怒らんさ。ビーストマンとキメラを見間違えて通報するケースも増えているしな。能力者を頼んでみれば良いのさ」
 つまらなそうに言うサルヴァ。
「一応、あなたも現場には来てくれるんですよね」
「‥‥‥‥まあ、お前にはいつも世話になっているからしょうがないな」

●参加者一覧

愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
樹エル(ga4839
18歳・♀・BM
アルフレド(ga5095
20歳・♂・EL

●リプレイ本文

●ミッション・イン・ザ・スタジオ
 ──撮影所に集合した能力者は4人。
「ふ‥‥撮影所のミステリーを解明するためにやって来たぜ。犯人は以前、ここに足を運んだ美術担当の女の子の彼氏か? 作品への執着に狂うマニアか。はたまた、着ぐるみを雌と間違えたマヌケなキメラか」
 口を閉じていればクールな二枚目で通る沢村 五郎(ga1749)が言う。
「私は元々歌手の卵だったのもありまして、映画という娯楽作品を作るサポートをしたいので参加しました」と挨拶するのは、樹エル(ga4839)。
「わたくしは、バッタ男だと聞いて、昔見た特撮映画を思い出して懐かしくてな‥‥」
 照れたように笑うアルフレド(ga5095)はジャージ姿。
 国土の殆どが熱帯であるインドでは、ジャージ文化が薄いのでかなり目立つ。
 そして最年少の愛紗・ブランネル(ga1001)。
 パナと何かを話し乍ら、通りかかるサルヴァを見つけるとパンダのはっちーを抱え、たーっと走って行く。
「サルヴァのおじちゃん、バッタが好きなの? バッタ男になりたいの?」
 愛紗の一言に思わず、よろめくサルヴァ。
「‥‥‥別にバッタもバッタ男(キメラ)も、好きじゃない。むしろ嫌いな方だ」
 何も無かったように取り繕い、よろけたはずみに落ちた小道具を拾い集めるサルヴァの姿を見て、にやにやとするパナ。
「なんだ?」
「なんでもないですよ」
「笑ってろ。俺は物凄く、油断していただけだ」
 肩を震わせ笑うパナを横目に悪態を吐くサルヴァ。

「とりあえず不審者が出入りしていなかったか確認して来ますね」
 そう言って警備室に向かうエル。
 入退室記録を見たが、そこにはヒンディ語と英語と判読不能の文字が並んでいる。
 入室時間は書いてあるが、退出時間が書いていなかったりと結構アバウトである。
 そしてその量が半端ではない。
 エルは知らなかった。
 撮影されているスタジオは単独スタジオではなく、複数のスタジオを抱える大きな撮影所であった。
 守衛の片言英語によると現在撮影所では複数の撮影班が動き、各々が同時進行で複数の映画が撮影されているとの事である。簡単に言えば主演を含めた俳優も全く同じで、内容だけが違うと言う類い、低予算の制作会社の王道である。
 実際、パナの会社も『列車男と蝗男』も他に『恐怖の蝗男』というモンスター映画と『列車と男と花』という恋愛映画が同時に撮られていた。
 低予算映画には珍しい大人数でスタッフはカメラ、照明、音声、衣装兼メイク、美術等を併せて45人、役者は10人(能力者を8名を除く)、エキストラの数が250人近くになると言う。
 エキストラの中にはスタジオ見学に来た観光客が飛び入りしているのだと言う。
「いいんですか?」
 大体そんなものだ。と質問されたパナが答える。
「今回はスタッフの数も多いし、高い車輌を借りて来たしね。内装も只じゃ無いし、上手く撮れば電車の中か屋敷の中か食堂車は判らないよ。それに観光客がビデオを買ってくれるしね」
 インドの各家庭にかなりTVも普及したが、山間部に行けばまだまだTVがなく娯楽といえば映画(ビデオ)である。電気のケーブルが通っていても足場の関係で電波塔が建てられず、TVを受信出来ない地域があったりするのだ。
「不思議なもので例え自分が映った時間が1、2秒の映画でも例えTVやビデオ再生機がなくてもビデオを買って親戚に配ったりするんだよ」
 それに撮影所の見学はスタッフの親戚だったりする時もあるが、守衛が観光客を勝手に入れたりするので正体が知れないと言う。
「それだと不審者の特定は厳しいですね」
 エキストラを追うのは無理だと判断し、スーツを作成したディープ愛好家にも会いに行こうとしたエルだが、研究室はムンバイから離れた場所にあるのだとサルヴァから聞かされ、こちらも空振りに終わった。
「とりあえず電話をして話を聞きましたが、なんでも有名な監督の作品が中止になって‥‥というのであれば、幻の逸品で価値があるらしいんですが、ボリウッドのムービーだったら撮影に使用したスーツの方が価値があるらしいんですよね」
 つまり騒ぎで撮影が中断するのは、愛好家の望む所では無いという事である。
「愛好家の人って良く判りません‥‥」
 エルがぽつりと言う。

  パナから撮影所の見取り図を貰った愛紗はスタッフ達を回り、目撃者達から目撃場所や見失った場所を聞き、丁寧に調査して歩いていた。
 怪人スーツとスーツが保管されている場所も丁寧に調査したが、特に変わった所も無かった。
「そうなるとキメラか怪奇現象なのかなぁ? でも残念、ディープ愛好者だったらスーツに角をつけても貰うのにな」
 あと、ウィンクしてのツーショットを撮るのにな。と怪しげな腰振りをし乍ら楽しそうに言う五郎。
「どこだかで映画に幽霊が映ると売れるって言うのを聞いた気がします」
 インドでもそうなんでしょうか? とエルがパナに訪ねる。
「あんまり歓迎されないよ。信心深い人が多いから」とパナに肩を竦める。
「でも正体がキメラだとしたら目撃者のお姉ちゃんが無事でいられるのは不自然だよね。鼠ならスーツが無傷でいられないと思うし‥‥だからやっぱり人間かなぁ? でもなんだか見落としている気がするんだよね」
 首を捻る愛紗。
 だが汗臭い以外、スーツにはコレといった傷は無かった。
「でも誰が着ぐるみを無断使用しているんですかね?」
「愛紗ね、お姉ちゃんのボーイフレンドって人が怪しいと思うんだよね‥‥」
「どうして?」
「お姉ちゃんと仲直りしたいから」
「それを言ったら美術担当の彼女もだろう?」
 とりあえず関係者で怪しいのは、目撃者である美術担当とそのボーイフレンドの2人である。
「まっ、捕まえっちまえば判ることだ」
 斯くして五郎の言葉を受け、待ち伏せをする事にした能力者達。

 スーツは、いつもの保管場所から広い車輌が置かれたスタジオの中に移動している。
 偏にパナが、美術倉庫には他の撮影チームが利用している小道具が置かれているので、壊したら弁償と言われているからである。
「なんだかケチ臭いな。ダルダだろう?」
「違うな。確かにウチはダルダの出資を受けてるけど、基本は独立採算なんだ」
 五郎にスーツを着せ乍らパナが言う。
「うひ〜っ、冷たい。汗臭いィ」
「これでも臭くは無い方だと思うぞ」
 ムンバイは常夏である。
 スーツを着れば、汗が途端に吹き出し、スーツの中は一気にサウナ状態である。
 一度着て立ち回りをすれば5kgは痩せると言う代物である。
「まあ、だからあんまりインドではスーツを着た特撮は撮影されないんだが‥‥」
 スーツを着込んだ五郎を残し、他の者は息を殺して待つ。

 ──そして、スタジオの灯が消え3時間程経った頃だろう。
 カタン、キィイ‥‥‥。
 鉄のドアが開かれた小さな音がし、小さな懐中電灯が灯る。
「目標、確認──あれは‥‥」
 暗視スコープを装着した愛紗の目に映る人影。
 エルが仕掛けた鳴子代りの空き缶をひっくり返す。
 悪態を吐き乍ら謎の人影が手を伸ばしスーツに手を触れた途端。

 だきゅ♪
「愛してるぜ」
「きゃあああああぁ!!」
 背を向けていたスーツにいきなり抱き着かれて、驚いた女の金切り声がスタジオ内に響く。
 スタジオに灯が灯ると五郎に確保されていたのは、第一目撃者の美術担当の女性であった。

「何故こんな事をしたのかな?」
 始めは悪戯を認めなかったが、問いつめられ諦めたよう白状する女性。
「だけど、一番最初は本当だったんです。でも自分が見たのがキメラだって自信が無かったし‥‥騒ぎが起これば能力者が来てくれるでしょう?」
 本物のキメラだったらボーイフレンドも見直してくれると考えたらしい。
「私が見たのは、本当にこのスーツにそっくりで‥‥でも背中に銀色の羽根が‥‥」
 ポン! と手を叩く愛紗。
「あ、そっか。目撃証言で『バッタが飛んでいた』というのあったよ。お話してくれたおじちゃんもお酒を一杯飲んでいたから見間違えだろうって言ってたけど、でも勿論その場所は調べたよ」
 その場所は美術担当者がバッタを見たという場所ととても近かった。

 パナによるとその場所は大道具、つまり建物等のセットを保管しておく場所で普段から人の出入りが少ないと言う。
「暗くて無気味で‥‥たまに犬の死体とかが落ちているから皆余り立ち寄らないしね。電灯は何処だったかな?」
 灯をつけても薄暗い大きな倉庫。
 無造作に積まれた大きなビルや城の描割りに見上げる程の大きなコンテナが並ぶ。
「結構広いな」
「保管するものがものだけに野球場1つ分のスペースはあるからね」
「愛紗が探した時に梁の上とかに移動していたら判らんだろうな」
 軽く4階建てのビル程もある高い天井を見上げてサルヴァが言う。
「虫って殆どが昼行性だったよね? 暗いからジッとしているのかな?」
「可能性はあるだろうな」
 バッタならば光に誘き出させるだろうという話になる。
「ついでに背景を黄色にすればいい、黄色は光を反射した時の波長が太陽と似るんだとさ」
「また、待ち伏せか‥‥って、俺がまた着るの?」
 1度も2度も変わらないだろうと五郎の苦情は皆に軽く無視された。

 撮影したいと言うパナ達を閉め出し、ライトアップされた黄色の背屏風を前にキメラスーツ(五郎)が座る。それに引かれたのか暫くすると羽音を立て、ソレは飛来した。
「本当にそっくりですね」
「やっぱり雄なのかな?」
「シッ! 静かに」
 人とバッタの中間の姿をしたキメラは、自分の姿に似たスーツに興味を示したのか近付いて来る。
 2m、1mと──近付く。
 急に動きだしたスーツに釣られるようにノロノロとキメラが追い掛ける。
「バ〜カ♪」
 唐突に五郎の突き出したアーミーナイフがキメラの胸に突き刺さる。
 だが、無理な角度からの攻撃に致命傷には成らない。
 隠れていた場所から愛紗が飛び出し一気に間合いを詰め、そのまま足払いをする。
 そこにエルとアルフレドが刀で斬り付ける。
 それをハンディカムで撮影しているのは、サルヴァである。
「ちょっとは手伝えよ!」
「人手は足りていそうだからな。戦闘は若人に任せて、俺はパナの代りに撮影だ」
 上手く行けば出演料代りに追加で『心付け』が出るかも知れないというサルヴァ。
「何々? ボーナス、出るの?」
「上手く映っていたらな。ほら、気をつけないとバッタが飛ぶぞ」
 こうして俄然やる気になった能力者達は、バッタキメラに止めを刺したのであった。

 尚、サルヴァの言った通り戦闘シーンは一部『恐怖の蝗男』に使用され、その分の寸志が報酬に加えられたが、微々たるもの(添付した明細書には『キメラスーツ修理代差引き』の文字が大きく書かれていた)であった為に本当に支給されたか不安に思う能力者達であった。
 実際、パナから送ってもらったビデオを見たが──。
「たぶん、これ‥‥ですよねぇ???」
 何度見直してもどれが自分達か良く判らない能力者達であった。