●リプレイ本文
●巨大猪はマンモス味?
「しかし、また別のキメラが蔓延る事になろうとはな」
榊兵衛(
ga0388)は、先に行われた壱岐空港でのスライム掃討作戦に参加した一人である。
「‥‥つくづく壱岐も大変ですね」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)が、頷く。
「今回キメラは、かなりデカイみたいだねぇ」
にやりと笑うのは、元女子プロレスラーのエクセレント秋那(
ga0027)である。
「昔は国定公園だったんだよな?」
んな綺麗な場所だったら、大自然をバイクで駆け回りたいよなぁ。
須佐 武流(
ga1461)が、高速艇の窓から見える島々を見ながら言う。
「島の近くではイルカが見えたらしいぞ」
事前に妹から色々壱岐について聞いて来た建宮 潤信(
ga0981)が言う。
「はぁあ‥‥ラスト・ホープで出る残飯位、高速艇に乗せてくれてもいいと思うのに‥‥」
残飯をキメラ用の囮餌にしようと思ったセラ・インフィールド(
ga1889)。
衛生面を鑑みたキャプテンから積載拒否を受けたのだ。
***
能力者たちが壱岐空港に到着した時には、住民らによってが巨大落とし穴が掘られていた最中であった。当初、住民らの制止を試みた兵士達だったが、それで気が済むのならと穴を掘らしているようだった。
「実際見ていただければ、ヤツラの大きさが『マイクロバス』サイズなのはお分かりになると思いますが、誰かが『ご先祖様は氷河時代「マンモス」だって狩っていたんだ』と言い出しまして‥‥」
苦笑するのは、警護隊の隊長である。
「もはや猪というより象か恐竜ですね‥‥」
「んな、自然界ではあり得ない巨体なヤツ、フツーの人間には狩れないっつーの」
武流が呆れたように言う。
「8mの猪と空腹からキメラを襲いそうな島民、どちらもシャレにならん」
月影・透夜(
ga1806)も同意する。
「腹が減っては戦が出来んと言うが、腹が減り過ぎ戦なパターンもあるのだな」
リュイン・カミーユ(
ga3871)が言う。
「食わずに死ぬより食ってから死ぬって精神状態は恐いっすね」と伊達青雷(
ga5019)。
「‥‥猪キメラって食べられるのかしら?」
「俺も興味がありますね」
首を傾げて言う麓みゆり(
ga2049)に同意する青雷。
「大猪の肉が島民の食料になってもらえば幸いですが‥‥ちょっと恐いですよね」と霞澄。
「キメラだから食べれないなんて、そりゃ飢えを知らない人の言葉だよねぇ〜」
鍋にしたらきっと美味しいよ〜。とケイン・ノリト(
ga4461)が言う。
「牡丹鍋か‥‥そういえば、ガキの頃修行で山籠もりしていた時に親爺と良く作って喰ったな」
寒い冬にはぴったりだ。と兵衛が懐かしむように言う。
「空腹は最高の調味料、喰って見せます牡丹鍋!」
ケインの後ろに玄界灘の荒波(本日は穏やかな海が広がっている)の幻覚を一瞬見る一同。
「でも無謀で無意味な事になる前に何とかするか‥‥後が面倒くさい」とリュイン。
●穴だらけの滑走路は何を夢見るのか
壱岐空港は、南北に伸びる直線滑走路(長さ1320m×幅30m)が1本。
大猪の侵入路は、いつも同じ滑走路北側だと言う。
滑走路の東側には、かっては海水浴場であった砂浜が広がる。
離発着が行われていた南側もまたすぐに海である。
滑走に沿った西側は道路であり、ほぼ中央位置に民間航空機のカウンター等があったターミナルビルと官制棟(2階建て)があるのだ。
調査の為、空港周辺の捜索を申し出た武流と蒼羅 玲(
ga1092)からの報告は「周辺には大猪は影も形もない」というものだった。
「出現時間が決まっているのか?」
「炊き出しが始まって1時間程経過してからですね。時間帯を色々変えても何時も同じです」
「それであれば待ち伏せは簡単だな」と透夜。
こうしてキメラを誘き寄せる為に炊き出しが行われる事になった。
***
管制室から双眼鏡で周囲を警戒するセラと潤信。
「もうそろそろ出る頃だな」
潤信が時計を見ながら言う。
『滑走路の方は、何か見えますか?』
「まだ、何も見えないよ」
滑走路に空いた大穴に身を潜める井筒 珠美(
ga0090)。
──その頃。
「今日の配給は、別の場所だよ。兵士の指示に従って移動してくれ」
「今、空港で行っている炊き出しは、猪の囮用です」
御山・アキラ(
ga0532)やレールズ(
ga5293)らに教えられた方向にゾロゾロと移動していく中、腕に覚えがそれなりにあるものが、傭兵達と共に戦うとごねている。
「二択だ。美味い(かもしれない)鍋を食う、自分が挽肉になる‥‥どちらか選べ。鍋はあっち(避難)、挽肉はこっち(戦闘)だ」
「なんだと、こら?!」
艶やか笑顔を浮かべたリュインの一言にカチンとくる血気盛んな住民。
「我らが来ていつまでも食われっぱなしと思うな。二段構えで準備済み‥‥汝らは、鍋の準備をして待っていろ」
「でかい口を叩いてキメラを殺せなかったら、責任とって貰うぞ!」
「倒した後は、とりあえずバラすか‥‥島民も食ってみたいようだし、持っていけば鬱憤も晴らせるだろ。食った者がどうなるかは関知しないがな」
透夜が苦笑し乍ら言う。
人間達の思惑等何も知らず、いつものように地響きを立て空港に現れた2匹の大猪。
「想像以上のでかさだな。あんなものに突進されたらシャレにならん」と透夜が呻く。
隊長がマイクロバスと言ったのが良く判る。
「だが、ちょうど2匹か‥待つ手間が省けるな」
みゆりとリュインも穴から大猪を確認する。
「時間を取られれば、体力的にこっちが不利になるか‥‥一瞬で決めるつもりでいこうぜ」
「まず攻撃と逃亡を封じる為にも機動を封じるのが先だな」
「ならば目標は足だな」
アサルトライフルを構える珠美。
『ああ‥‥大きい相手を倒すには、まず足から崩していくのがセオリーさね』
トランシーバーから秋那の声が聞こえる。
「では、まず前足の関節を狙いましょう。それから後ろ足と攻撃すれば動けなくなりますね」と霞澄。
猪は、前足で大地を掴み、後ろ足で蹴ることによって前に進む。
前足を先に攻撃する事により、前に進めなくなるのだ。
先にスナイパーを中心に各々の固体を攻撃して動けなくした後、1匹ずつ攻撃する。
だが1匹目に時間と体力、練力を割きすぎれば2匹目のは手こずるだろうとそれぞれの選任者と友軍者を簡単な班分けをする。
『識別の為に手前の大猪をアルファ、後ろをブラボーでいいか?』
無線から珠美の声が流れる。
「私はアルファを‥‥倒してから2匹目を手伝う方向で」と霞澄。
『ならば私はブラボーだな、了解。初弾のタイミングを合わせよう』
「俺は遊軍ね。フルスロットルで勝負だ!」とバイクに跨がる武流。
「今回も頑張りましょうね」
そう弓に話し掛け、弾頭矢を番える霞澄。
「遠距離攻撃できるものが足を重点的に狙い動きを鈍らせる。その後、側面から近接攻撃で同じく足を重点的に狙い動けなくし、皆で一斉にボコる」と透夜。
「結局、数に任せて力でねじ伏せるってか。いいねぇ、そういうの」
拳を鳴らす秋那。
「足の膝に当たる所を狙って攻撃して転ばせる、もしくは動けなくさせるのを優先ですね」と玲が確認するように言う。
「人々の命を繋ぐ食料をタップリ食べた分、今度はその身を食料にしていただきましょうか‥‥」
レールズが、静かに覚醒した。
***
風を切って霞澄の放った矢と珠美の弾が、間髪置かずにそれぞれの大猪の足にヒットする。
続けざまに霞澄と珠美が連射する。
大きな爆発音とキメラの叫びが戦闘開始の合図である。
セラがスコーピオンを連射するが、大猪も黙ってやられている訳ではない。
暴れて後ろ足で落ちているコンクリートやアスファルトの塊をまき散らす。
回り込んで後ろから回り込もうとしていた玲は、容易に近付けない。
「散れ! 当たったら即、戦闘不能だ」
透夜が注意を流す。
「さぁ、かかってきやがれ!」
武流は大猪の周りをバイクで走り回り、注意を逸らす。
「足だ、足に集中しろ!」
みゆりはジェラルミンシールドに身を隠し乍ら、ハンドガンを放つ。
「倒れなさい!」
瞬天速で突っ込むアキラのファングが、その傷を広げる。
名前に違わず青い竜姿の青雷も瞬速縮地で近付き、ファングを振う。
──ついにガクリと膝を折るアルファ。
「突進さえできなければ、ただでかいだけだ。一気に叩くぞ」と透夜。
「いいんだね、やっちゃって!」
お預けを食らっていたと言わんばかりに秋那がメタルナックルを叩き込む。
霞澄の弾頭矢が大猪の目に刺さり爆発する。
悲鳴を揚げる倒れるアルファに止めを刺す能力者達。
「食った分、体で払え牡丹鍋! ‥‥一句」
瞬天速で一気に間を詰め、懐に入ったリュインがブラボーにゼロを振う。
潤信は足の傷を広げるべく、能力を駆使してファングを振う。
スコーピオンで牽制していたセラは、武器をレイピアに切り替え、攻撃に移る。
車体を滑らせ、腹を武流のアーミーナイフが斬り裂いていく。
「槍の兵衛の槍裁き、黄泉路への土産にとくと味わうがいい!」
紅い炎を纏った兵衛のイグニートがブラボーの腹を突く。
ブラボーも前足の膝を折る。
ケインがバスターソードを降り下ろしている時、アルファを倒した能力者も駆けつけた。
アキラがファングを振う脇で、秋那が後ろ足を満身の力を込めて締め上げる。
「いい加減、落ちろ。こらぁあ!」
もう一方の後ろ足に、玲が蛍火で斬り付ける。
珠美はマガジンを交換すると目を狙って弾を連射し、それに応じるように霞澄の矢が炸裂する。
兵衛のイグーニートがブラボーの咽を突き抜け、ついにブラボーは倒れた。
●ザ・鍋
「ケイン・ノリト。巨大猪の解体をしま〜すぅ」
三角巾に割烹着姿のケインが、バスターソードを構える。
くわっと開眼し、ソードが力強く振り下ろされる。
おーっと見物人をしている住民から歓声が上がる。
「猪特有の独特の臭みは血抜きと内臓を傷つけぬよう綺麗に取れば大分抑えられるんですよ〜」
喜々として見物人に説明をするケイン。
鍋の準備ができるのを待切れない住民らには、匿名の差し入れのカップ麺を啜っている。
「猪って鍋が有名だけど、豚足みたいに煮込みにしてもいけるのかな?」
アキラがポツリと言う。
「猪肉は、肉の性質としては煮込めば煮込むほど柔らかくなるんですよ〜」
ソードから包丁に持ち替え、毛皮を剥いでいたケインが遠くから突っ込む。
「そうか、じゃあ鍋を借りて作るか‥‥」
「あと、白菜など、地上に生える野菜より牛蒡や大根など、土の中の野菜と相性がいいようですねぇ」
「ついでにモツの煮込みも作るかな。得意なんだ」
味噌にするか塩にするか‥‥それとも醤油にするかと悩むアキラ。
「あと、保存食とかいけるんじゃねぇ?」と武流。
脇で糧食班を手伝い、肉を運び安い大きさに切り分けている兵衛。珠美とレールズは、肉を炊き出し所に運んでいる。みゆりと透夜が肉を細かく切り分けている先で、玲が追加の野菜を切っている。秋那は大鍋の底が焦げないように大きな杓でかき混ぜている。
「手慣れてるな」
「デカイ鍋で大人数の料理作るのは新人時代にさんざんやったから得意だよ」
ニヤリと笑う秋那。
「私、お料理が趣味だけれど‥‥キメラのお鍋なんて作るのは初めて‥‥どんな味なんでしょう?」
不安そうに言うみゆり。
「肉は一度茹で零して臭みを抜いて、味噌で煮込めばなんとかなるだろう」と潤信。
「まあ、汁は完璧だな」と灰汁を丁寧に取っている秋那。
「なんだよ、その顔は。料理が得意そうに見えないってか? 人を見かけで判断すんじゃねーよ!」と笑う秋那。
わいわいと楽しそうにしている能力者達に、始め遠巻きに見ていた住民らが手伝いを申し出る。
美味しそうな味噌の香りが、辺りに漂う。
それに釣られてゾロゾロと住民らが集まって来る。中には赤ん坊を連れた女性もいる。
「こんなに人がいたんですね‥‥この間は島の人は出てきてくれなかったので、ちょっと嬉しいです」
熱いから気つけて下さい。と霞澄は言い乍ら、プラスチックの容器を住民らに配る。
皆、おっかなびっくり汁を啜る。
だが流石にキメラと言う事もあり、中々肉に手をつけるものはいない。
「ま、あれだ。胃薬もあるという事で」
覚悟を決めたように透夜が肉を口にする。
視線が透夜に集中する。
「もぐもぐもぐ、ごっくん‥‥‥‥‥‥‥‥上手い!」
その言葉に一斉に鍋を食べ出す住民達。
「本当に上手いのか? 腹は痛くならないのか?」
詰め寄るリュイン。
「豚とは違うが、上手いと思う。ほら」
指差す先には、お代りに並ぶ住民がすでにいる。
何時の間にかケインが容器を持って並んでいる。
「ええい、我も食べるぞ。容器をよこせ!」
レールズもおっかなびっくり食べている。
「キメラは初めてですが、意外とおいしいですね」
秋那が割込みをする住民を怒り乍ら、お代りをついでいく。
「後は、自分らがやりますから皆さんも住民達と一緒に食事をして下さい」
糧食班の兵士が、まだ食事をしていないみゆり達に代わって給仕を申し出た。
滑走路には、何時の間にか焚かれた焚き火に人の輪ができていた。
仲間や友人、家族らで楽しげに鍋に舌鼓を打っている。
「おねえちゃん、お鍋、食べないの?」
小さな女の子が、ビスケットを食べていた霞澄にプラスチック容器を差し出す。
(「えと‥‥どうしましょう」)
困ってしまう霞澄。
助け舟を出すレールズ。
「霞澄さんの覚醒した姿って、まるで天使のように綺麗でした。俺、感動です」
「天使?」
女の子がきょとんとする。
「そう、光の羽根が、ばーっとね。天使の羽根みたいなんだよ」
「あー。こういう時は、アレがほしいねぇ」
「ああ‥‥でも軍の奴らは、ねぇっていいやがるしなぁ」
ブツブツと言い乍ら鍋を食べている親父達。
「こういう時は、やっぱ、鍋に酒だろ?」
にやりと兵衛が一升瓶を差し出す。
「お、にいちゃん。気が効くねぇ」
酒が回って、肩を組んで歌が始まる。
中心にいるのは珠美である。
「隊長‥‥」
警護兵の1人が危惧を進言に来た。
「あれは『水』だ。汁が煮詰まって濃くなった。だから『水』を飲んでいる。以上だ」
隊長が顎で示す。
「住民達のあの楽しそうな姿を見ろ。ずっと、キメラの恐怖に怯えていたんだ。今日1日ぐらい、羽目を外すのもよかろう。それにかれらは、自分達のように軍人ではないのだからな」
彼等が彼等の仕事をしたように、自分達は自分達の仕事をすれば良い。
そういうと隊長は、兵を元の配置に戻す。
キメラを島から完全駆逐する迄、まだまだ厳しい状況が続く壱岐島。
住民達と傭兵やUPC軍が、ほんの一歩近付いた。
そんな牡丹鍋であった──。