タイトル:【鍋】恐怖南瓜の逆襲!マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/09 10:18

●オープニング本文


 冬の寒い時期、皆で囲めば会話が弾み体も心も温まる鍋。
 1人で囲んでも心に侘びしさを感じる時もあるが、体を温める鍋。
 万年常夏の地方では、香辛料たっぷりのアツアツを囲み、額に汗を掻き乍ら食べる鍋。
 犬やら猫が入って人を和ませたり、思わぬ物が入っていて恐怖を与える鍋。
 鍋の蓋をあければ。そこには、色々な物語が詰まっている。

 ──今、一つの鍋があなたの目の前にある。
 この鍋は、あなたにどんな物語を齎してくれるだろう?

 ***

 そう、本来ならば家族や友人、時には恋人と囲むと幸せほこほこ気分にさせる鍋。
 だが彼、山崎 進(24)は非常に憂鬱だった。

 何故かと言えば、彼、山崎 進は事もあろうかクリスマスのその日、彼女にふられたばかりであった。
 理由は簡単、進は新人能力者であった。
 うっかり参加したミッションで大怪我をして入院していたのであった。

 ──彼女は一般人であった。
 任務内容は機密情報の収集に関わることで言うことも出来ずにいた。
 進の任務でのポジションは新婚夫婦の夫役であった。
 見ている周りが恥ずかしくなるほどのアツアツ馬鹿っぷるを相手女性と演じる必要があったのだ。
 進本人も相手役女性が非常に好みであった事もあり、つい調子に乗りすぎたのもある。
 進の怪我も妻役の女性をかばってのことである。
 責任を感じた女性は、甲斐甲斐しく入院中の進の世話を妻のようにしたのである。

 その甲斐もあり進はなんとかクリスマス・イブに何とか退院し、彼女には出張から帰ってきた事を彼女に電話したのであった。そして彼女とのデートをクリスマスに取り付けたのだった。
 ここで進は思い出したのである。
 出張と言いながらもお土産を買ってくるのを忘れたのである。

 女性が喜ぶプレゼントが思いつかなかった進は、妻役の女性に連絡をしてプレゼント選びを手伝って貰うことにしたのだ。これが不味かった──。
 うっかり、先日までのノリで腕を組んであるいている所を偶然、彼女に見られたのだった。


「この浮気者!!」

 進に顔面に正拳を食らわせて、彼女は去っていった。
 進もあえて彼女を追わなかった。
 妻役の女性に気持ちが向いていた部分があったのである。
 鼻血を拭いてくれる女性にその気持ちを話すと、女性は困った苦笑を浮かべてこう言った。

「私、人妻なの♪ ちょっと進君が旦那様の若い頃に似ていたから私もその気になっちゃったけど‥‥もし、それで勘違いしたらごめんなさい」

 そう、進はクリスマスに二重にふられたのである。

「ちくしょー!」

 負け犬の遠吠えが、クリスマスの夜に響いた。
 夜通し飲んで、気がついた時は公演のベンチで上であった。
 しっかりと風邪を引き、寝込む進だったが──。

「‥‥腹へった」

 薬を飲む都合もあり、腹に何かを入れようと冷蔵庫を開けると賞味期限ギリギリのカット野菜(豚汁セット)とカボチャとうどんが目に付いた。
 幼い頃同居していた祖母がよくほうとう鍋を作ってくれていたのをふと思い出す。
「正確には『ほうとう』じゃないけど、野菜もたっぷり取れるしな‥‥」
 母親も面倒臭がって、ほうとう麺を作らずにうどんで代用していたのを思い出す。
「ほうとう鍋モドキなら簡単か‥‥」

 おぼつかない手でカボチャに包丁を入れている最中、視線を感じてふと視線をキッチンの前にある窓に目をやる。
「うわぁあああああーーーーっ!」
 窓一面に殺気をはらんだオレンジ色のカボチャが並んでいた。

 ガッシャーーン!

 景気よく窓が割れ、ワラワラと室内に入ってくるオレンジなカボチャ。
 否、良く見れば人間の手足がついている。
 ハロウィン時期に異常発生したキメラ、オレンジ・ジャックである。

「お、おちつけ‥‥俺が何をしたって言うんだ」
 進を仲間殺しと思ったのか、オレンジ・ジャックは一斉に進に飛び掛っていった。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
コー(ga2931
22歳・♂・SN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
雪村・さつき(ga5400
16歳・♀・GP

●リプレイ本文

●パジャマと南瓜
「どいた、どいた、どいたぁーーーーーっ!」
 パジャマに半纏、裸足にシューズ。右手に包丁、左手に携帯電話を持って走る異様な男(山崎 進)を見て、通行人が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 ただでさえ関わりたくないような姿であるが、後ろから進を追い掛けて来る一団を見て、更に青くなる。
 体長60cmの南瓜人間、オレンジ・ジャックが追っかけて来るのである。
「能力者です! 皆さん、安全なば、ひょに、ひっ‥‥うぇっ、ぐしゅん! 他の能力者も来て、すぐに‥‥へぇえ‥‥ぐしゅん!」
 鼻水を垂らし乍らパジャマで走っていく姿は、例え能力者であってもとても頼り無い。

 時間は少し戻る──。

●緋室 神音(ga3576)の場合
『オレンジ・ジャックを連れて、公園に向かう』
「パンプキンヘッドかぁ‥‥季節外れよね。大人しく消えて貰うのが一番だけど、周辺の人達の避難って大丈夫なのかしら?」
 進のメッセージを聞いた神音が一番最初に思った事である。
 思い違いでなければ進のアパートは、商店街から程近い市街地である。
 そこに5体もオレンジ・ジャックが出たというのだ。
「UPC本部か警察に連絡して一般人が入らないように公園の周りを封鎖して貰いましょう」
 進も風邪ひきだが、能力者の端くれである。
 自分達が辿り着く迄、きっと頑張るはずである。
「全部片付いたら進には、特製卵酒を作ってあげよっと♪」

●幡多野 克(ga0444)の場合
 ピピピッ──進の携帯電話が鳴る。
『はい、山崎。只今取込み中につき女の子の電話以外受け付けません』
「幡多野だけど‥‥余裕だね。山崎さん‥‥これなら応援いらないね‥‥」
 進のSOSメッセージを聞いた克が電話を掛けて来たのだった。
『きゃー、すぐりん。見捨てないで!!』
「‥‥留守電は聞いたけど‥‥その状況に‥‥至るまでの過程が‥‥不明だね‥‥。どうすれば‥‥パジャマで‥‥南瓜に追いかけられる‥‥ハメに‥‥?』
『俺だってよくわかんねぇ‥‥ふぇ‥くしょん!!』
 携帯越しに唾が飛んできそうな大きなくしゃみが克の耳を突く。
「緊急事態なのは‥‥了解‥‥。救援に向かうよ‥‥山崎さん‥‥」
『やっぱり、持つべきは友達だぁぇ‥‥えっくしょん!』

●遠石 一千風(ga3970)の場合
「この寒空、パジャマで逃げ回っている? 進の奴は何を考えているんだ?」
 進のメッセージを聞いた一千風は不機嫌そうに眉を潜める。
 代々続く医師の家系に産まれた一千風も能力者になる前は医師を目指していた。
 そんな一千風から見れば進の行為は、風邪を悪化させるの馬鹿者にしか見えないでいたが、オレンジ・ジャックに追い掛け回されていると聞き、溜息を吐く。
「まったく世話が焼ける‥‥」
 ファングを両手に装着する一千風であった。

●雪村・さつき(ga5400)の場合
「オレンジ・ジャックに追い掛けられているのは余り心配ないけど、パジャマで逃げている方が心配かな?」
 さつきは福引で当たった男性用コートが何処かにあったはずと押し入れを引っ掻き回す。
「カビてないよね?」
 つい匂いを嗅いでしまうさつきであった。

●アグレアーブル(ga0095)の場合
 進からの電話を受け取ったアグレアーブルのつい出た一言。
「‥‥ばか」
『きゃー、アグちん。ひど〜ぉ‥‥へっくしょん!』
「二股をかけ、振られた挙げ句、酒を飲んで酔っぱらって公園で寝て風邪を引いた等、自業自得以外の何者でもありません」
『う‥‥それを何処から‥‥相変わらず、手厳しいねぇ。それがアグちんの良い所なんだけど、お兄さんは傷付いてしばぃ‥‥ぐしゅん!』
「で、新年早々なんのご用です?」
 だが、オレンジ・ジャックに追い掛けられていると聞いたら別である。
「しょうがないですね」
 進からの電話を切った後、愛用のナイフ2本とアーミーナイフを保管ケースから取り出すアグレアーブル。
「包丁じゃ、オレンジ・ジャックに勝てないでしょうし‥‥」

●コー(ga2931)の場合
(「ざまあみやがれ!」)
 独り寂しく年始を迎えていたコーが進のSOSを受け取って思った事である。
 ルックスでは絶対に進より勝っているはずなのが、1人寂しいクリスマスを過ごしたコー。
 彼女がいたのもうらやましい事であるが、彼女がいながら他の女性にうつつを抜かした挙げ句振られ、風邪を引き、キメラに追い掛けられているのは、神様が進に罰を当てたのだと思うコー。
 だが、オレンジ・ジャックが5体も進を追い掛けて町中を走り回っている状況は芳しくない。
「まあ、1人で正月いてもしょうがないからな」
 病人をライフルで撃つ事は出来ないが、オレンジ・ジャックであれば好きなだけ蜂の巣にしても文句は出ないであろう
 気晴らしを兼ねて進を助ける事にしたコーであった。

●煉条トヲイ(ga0236)の場合
「寝込んでいたとは聞いていたが、二股か‥‥心中察するが、同情の余地は無し‥‥だな」
 進からメッセージを受け取った感想である。
(「しかし、能力者としてハードな任務に就いてい乍ら、恋人を作り、尚且つ二股を掛ける事が事が出来る進の精神的な余裕は一体何処から来るんだ?」)
 俺にはとても無理だ。とある意味で関心するトヲイであった。
「‥‥まぁ、二股男でも友人は友人だ。見捨てる訳にも行かんので、助けに行ってやるか‥‥」

●蓮沼千影(ga4090)の場合
 日本人らしく初詣に行くか? と外出の準備をしていた千影の携帯電話が鳴る。
(「進か‥‥」)
「はい」
『おお、いたいた。ラッキー♪ 千影っち、あけおめ! こど‥‥ぐしょん!』
「あけましておめでとう。正しい日本語を使え。そう言えば二股をかけて振られて風邪を引いたんだってな。『二兎追う者は一兎も得ず』のいい見本見せてもらったぜ。まぁ自業自得だな、それ(風邪)はっ」
『相変わらず地獄耳だな。んー、でも二股と違うぞ。同じ日に振られたが、一応別々だ‥‥は‥ぶしゅ!』
 二股男進の言い分である。
『美人で優しい、料理が上手いナイスバティに気持ちが動くのはしょうがないだろう?「遠い親戚より近くの他人」に親近感を持つのは正しいと思うぜ。それに‥‥』
 元彼女は、進から高いブランド品や高級ディナー等の金品は巻き上げるが、3ヶ月経ってもキス1つさせて貰えなかったと言う進。
「‥‥とりあえず耳元でくしゃみを連発するな。移りそうだ。で、風邪を押して『能力者』の山崎君が電話して来た理由は?」
 何故か自宅にオレンジ・ジャックが大量発生した事を話す進。
「勿論助けてやるぜ、進。悪い運全部使い切って、いい年にしようぜ!」

●オレンジ南瓜はホウトウ鍋に入れられるか?
 連絡を受けた8人は、携帯電話でそれぞれの現在位置を確認する。
「じゃあ、直接公園に向かうよ」
「俺はアパートからオレンジ・ジャックの全部、進を追ったか確認し乍ら追い掛ける」
 進が向かっている公園に直接向かうトヲイと一千風、克と神音班。
 アパートからオレンジ・ジャックを追い立てるアグレアーブルとさつき、千影とコー班に別れる。
「パジャマの男とかぼちゃどっちに行ったか判りませんかっ?」

 ***

「おー、来た来た」
 マラソンランナーよろしく、必死の形相で公園に駆け込んで来る進。
 後ろから5体のオレンジ・ジャックが漏れずついて来る。
 包丁は持っておらず、パジャマはドロドロ。
 オレンジ・ジャックの体当りを躱し切れずに転んだようである。
「あ!」
 助けに来てくれた友人らを姿を見て気が弛んだのか、力尽きたのか。ギャグマンガのように後ろからオレンジ・ジャックの体当りを食らって派手に転ぶ進。
 オレンジ・ジャックも進を追い立てるのに飽きたのか、一斉に飛びかかって来る。
「そこだ‥‥‥!」
 アパートから進の後を追って来た追跡班もようやく追い付いた。
 進に馬乗りになったオレンジ・ジャックの頭をコーのライフルが貫く。
「ったくヒヤヒヤさせる‥‥さて、季節外れの南瓜狩りといくか」
 一千風が、ほっと安堵の息を吐く。
「全くだ‥‥今は正月。季節外れにも程があるぞ‥‥!?」
 トヲイも同感である。
 いよいよ戦闘開始である。

 転んだ進を庇うように克と神音が前に出る。
 克が刀を構える。
「鍋の具にでも‥‥してやろうか‥‥?」
「すぐりん、それはとてつもなく気色悪くて不味そうだ、どぅ‥くしょん!」
「‥‥やる気を削ぐ事を言うと‥‥山崎さんこそ‥‥具だよ‥‥」
 克に睨まれ、大人しくなる進。
「Aether‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 馬鹿なやり取りを尻目に神音が静かに覚醒する。
「抜く前に斬ると知れ――剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】 !」
 神音の一凪がオレンジ・ジャックを斬り裂く。

「これ着とけ」
「これ男物だし、あたしには大きいから‥‥」
 さつきと千影が二人同時にコートを進に差し出す。
 髪と髭が茫茫で鼻を垂らし泥だらけの進だが、今できる最高に爽やかな笑顔でさつきからコートを受け取る進。
「おい」
「やっぱりここは女の子からのプレゼントでしょう。嬉しいなぁ♪」
 代りに着ていた半纏をさつきに掛ける進。
「あ、泥だらけだけど。おふくろが今年送って来た新品だから臭くないよ。それにアパートには『彼女用』にって送ってくれた女の子サイズもあるから、後でアパートにおいでよ♪」
 さつきの両手を握り、ニコニコと言う進。
 ナンパ師進の姿を見たような気がするコーと千影。
「えっと‥‥あたしもアグレアーブルさんと一緒にキメラと戦わないと‥‥」
「えー、さつきちゃんも俺と一緒で武器無しじゃん。皆の活躍を一緒に二人で観戦しようよ♪」
「武器なら貸してあげるわよ」
 アグレアーブルが進の護身用に持って来たアーミーナイフを押し付ける。
「ナンパする元気があるのなら戦いなさい。因にアーミーナイフは『貸す』だけですからね」
「へーい‥‥」
「まあ、病人は大人しくしているのが一番だな。護りは『俺に任せろ!』ってな」
 苦笑し乍ら、オレンジ・ジャックに斬り掛かっていく千影。

 実際、熟練者が集まった事もあり、オレンジ・ジャック退治は予想以上簡単に終了した。
「‥‥なんか俺って、ばか?」
「充分、ばかだと思うわよ」

●鍋、鍋、鍋!
「うわっ、狭っ!」
「汚い〜っ!」
「しょうがないだろう。年内はずっと寝込んでいたんだから」
 散らかった洗濯物とティッシュの山を片付ける進。
「しかし、どーして皆来るのかな?」
「ホウトウ鍋に興味があってな」
「俺も‥‥ホウトウ鍋って‥‥初めてだし」
「二人っきりだと襲いかねない」
「病人だしな。食事ぐらい作ってやろうとな」
「一応、傷の手当てをしなと‥」
 それそれの言い分があるようだ。

 割れた窓に新聞紙を張り付けたり、進から鍋の材料の在り処を聞いたりとテキパキと動いていく。
「せめて薄力粉と強力粉があれば、ほうとう麺を作れるんだが‥‥仕方が無い。うどんで妥協しておいてやる」
「なんだ、トヲイ。麺が打てるのか? すごいな。俺なんか面倒だから作ってもスイトンだぜ?」
 感心したように進が感心したように言う。
 だがスイトンの時点でホウトウ鍋では無くなっている事に気がつかない進。
 ホウトウ鍋は、ホウトウ麺を入れて成立する野菜鍋である。
「しかし実家から送って来た白菜や人参なんかがあるのに、カット野菜を使う? 野菜は切った途端、どんどんビタミンが減るんだぞ。風邪を引いた時こそ、切り立ての野菜を食べるべきだ」
  一千風が注意する。さすが、医師を目指していただけある。
「えー、切るの面倒だし‥‥それに買っちゃったから、使わないと勿体無いし。あ、みかんや餅も良かったら皆、持って帰ってくれていいよ。腐ったり痛んだりすると勿体無いし」
「白菜は腐ってもいいのか?」
「えー‥‥不味いです」
「大体、良い歳をした男が。それも能力者が年末風邪を引く等、腑甲斐無い」
「えー‥‥ご尤もで‥‥」
「何か理由があるのか?」
「えー‥‥‥」
 言葉に詰まる進。
「進は二股掛けて、両方に振られてヤケ酒して公園で寝たからです」
「なんだと?」
「凄く山崎さんらしいエピソードですね」
 妙に納得するさつき。
「‥‥‥山崎は鍋抜だ。しっかり反省するように」
「きゃー、それだけは勘弁して下さい。お代官様ぁ」
「なんというか、御愁傷様です」
 にやりと笑うコー。

 味噌仕立ての汁に好きな野菜を放り込む。
「肉はないのか? 肉は?」
「油揚げならあるぞ」
 うどんは煮すぎないように最後に鍋に放り込む。
「鍋‥‥美味しそう‥‥。俺‥‥お腹空いた‥‥よ‥‥」
 ぐぐーっと克の腹が鳴る。
 部屋には味噌の良い香りが立っている。
「野菜が煮える迄、我慢だ」
「ついでに餅もいれちゃえ」
「それだとホウトウにならないんじゃないのか?」
「元々モドキだからいいんじゃないか?」

 なんやかんやと言って良るうちに野菜が煮える。
「んでは、俺の無事生還とオレンジ・ジャック退治の成功。新年会を始めます」
「新年会もセットかよ」
 湯呑みやコップでお茶が回る。
「今年もよろしく! 頂きます!」
「「「「「いっただきまーす!」」」」」
 ハフハフと鼻に汗を掻き乍ら鍋をつっつく。
「俺、初めて食うんだよなー‥‥」
「うん、美味ぇ!」
「やっぱ鍋はみんなで食うに限るな!」
「俺の分迄、うどんを取るなよ!」
 狭いアパートに笑い声が絶えない。

(「こうやって皆で騒いでいれば、進の失恋の痛みも少しは和らぐだろう‥‥」)
 苦笑するトヲイだった。