タイトル:ゴビ砂漠資材運搬警護マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/23 12:28

●オープニング本文


『呉運送会社』のオーナー呉大人は、UPCの高官から手に入れた最新バグア版図を見つめて溜息を吐く。
 先日、内蒙古を仕切っている兄(蒼空)がUPCに協力し、新しい輸送路を確保した旨、連絡が来ている。
 その際に報酬として版図(地図)を入手出来たのだ。
 ついでにやり手の蒼空は、ちゃっかり臨時基地設営の機材運搬も請け負っていた。

『中国大陸全土ならば何処でも安心、安全、安価でお届け』をモットーとする呉運送会社は、呉一族達で運営されている。
 内蒙古を始めとする黄河より北部は兄 蒼空が、新彌や西蔵・青海を中心とした西部を弟 翠雲が、黄河と長江の間の地域を妹 華霞が、そして長江より南を呉大人(本名:黄山)が直接仕切っていた。

 蒼空からの情報によれば包頭までは、UPCの高速輸送艇が機材を運搬するのだと言う。
 だが、それ以上の距離はバグアの制空権である。
 遮蔽物ない平地は成層圏から丸見えなのだ。
 航空艇を発見すれば、嵐のような数のヘルメットワームが襲って来るだろう。
 地味だがトラックを並べて進むのだと言う。
「包頭からアスファルトを敷き乍ら進むアルか‥‥まあ、それが確実アルね」

 基地設営工事を敵に知られる可能性はあるだろうが、UPC軍は地元民の雇用を予定している。
 貨幣価値は下がっているが、生活用品を買うには金がいる。
 キメラやバグアを恐れて、仕事が出来ないで飢えている者も多い。
 そんな飢えた者達をを巧みに取り込み、親バグア派は数を増やしているのだ。
 例え、本心はバグアを嫌っていようが、生きる為の選択の一つなのだ。
 だが、その事態はUPCとしても困るのである。
 それならば、どうせ掛かる人手である。
 地元民を雇ってしまえ。という事なのだ。
 そして地元民も賃金を支払ってくれるだけは無く、工事の最中は、食事が配給され、健康も管理してくれる基地の設営に携わった方が良い。と多くは考えたようである。

「基地の設置が終わったら、必要なものを残して、元来た道をアスファルトを剥がして戻れば、足跡はゴビの砂が消してくれるアルか‥‥」

 呉大人が、遠い包頭へ思いを馳せている頃、ラスト・ホープでは能力者達の募集が掛かっていた。
「包頭から北にラクダで2日間程モンゴルに入った所に臨時KVを配備する基地を作る予定になっています。そちらの周辺警護を御願いしたいのです」
 能力者に死霊を手渡すオペレーター。
「基地ね、できるのか? あの辺は砂ばかりだろう?」
「砂だからいいのです。砂鉄板を敷いてその上にアスファルトを敷けば、滑走路が出来ます。施設内の防砂をどうするか? という課題は今後出て来ると思いますが、それは設営部隊の考える事です」
「ゴビ砂漠か‥‥KVは持ち込めるのか?」
「現状難しいですね。KVの機器に砂が入ってもメンテ出来る人がいませんから。今の所、スライムタイプのキメラが何体か確認されている様ですが、ヘルメットワームはまだ確認されていませんので、KVは持ち込まれなくてもよろしいと思いますよ?」

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
武田大地(ga2276
23歳・♂・ST
戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
夏 炎西(ga4178
30歳・♂・EL
水無月 座視(ga4374
16歳・♂・SN
冬織・カミーユ・ダリエ(ga4757
22歳・♀・BM
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN

●リプレイ本文

●1日目
「ここに来るのは2度目だけど‥‥やっぱり寒〜い」
「ほんと‥う〜、相変わらずさーむーいー」
 ゴビの吹きっさらしに髪を揺らせ乍ら、ユキと座視がプルプルと震えている。
 脇ではトラックが、道路建設の資材が積み込まれていく。
 その側では、臨時雇用の申込に殺到した住民達の抽選が行われている。
「食事は配給と聞きましたが、管理はどうなっているんですか?」
 炎西が言う。
「さっき、現場監督が思ったより人数が集まったアルから多めに雇う事にしたみたいアル。20人調理で雇っていたアルネ。半分調理して、仕上げ現場ネ。熱々スープに饅頭ネ。それらの人も一緒にトラックで輸送アル」
 UPCが雇用した作業員の運搬を請け負う呉運送の蒼空が、口髭を捻り乍ら言う。
「私が調理の手伝いをしても構わないですかね」
 食事の安全が気になる炎西。
「いいんじゃないアル? でも、あんまり出過ぎない方がいいアルよ」
 仕事を奪われたと思って恨みを買う事もあるのだと蒼空が炎西に釘を刺す。
「同邦人として忠告するアル。この辺に住民達の心は、嘆かわしい事に、まさに砂漠のように荒れているアル。私、聞いている所によると今回の工事、単なる基地建設だけじゃないアルネ。人の心、なるべく人に近いようにするのがUPCの目的でもアルネ」
 雇用されなかった者が雇用された者を妬み危害を与えるケースがあるのだと言う。
「だからなるべく雇用すると聞いたアル」
「大変なんだな‥‥雇用者の配置は、毎日確認させてもらいたいんだが、大丈夫か?」
 清見が言う。
「私、聞いているのは、道がずれないように印をつける人が4人1組、16人。トラックから材料下ろす人24人、アスファルトの養生シートを敷く人20人、養生シートを過熱する人10人ネ。シートの粘着材溶けたら一斉にタール、砂利流し込んで杵で力づくで叩く。その上ローラー2台で更に均す。運転手はうちのドライバー8人に雇用者8名がサポートにつくアル。ジープにトラック、うちの会社の品物アル」
「ってことは、120人が道路の作業か‥‥トラックやジープの点検は、運転手がやるのか?」
「ここで雇うアルよ。元々包頭は、鉄鋼業の盛んな街アル。黄河での輸送もあるアルが、陸路。つまりトラック輸送も多かったアル。腕の良い整備士は多いアル」
 包頭は、かつて世界的にみて有数の鉱山を有し、鉄鋼業の盛んな都市であった。
「だが、今は廃虚に近い街アル。全てバグアのせいアル」
 蒼空が苦々しく笑う。

 今回、能力者達は大きく4班に別れ、日替わりで作業を交代する事になった。

 A1:真田 一(ga0039)、冬織・カミーユ・ダリエ(ga4757
 A2:諫早 清見(ga4915)、水無月 座視(ga4374
 B1:武田大地(ga2276)、夏 炎西(ga4178
 B2:智久 百合歌(ga4980)、 戌亥 ユキ(ga3014

 簡単に言えば、1、3、5日目は、A班が現場、B班がトラック。
 2、4、6日目は、A班がトラック、B班が現場と交代するのだ。

 輸送を行うトラックは、トラック担当の2班が各々4台づつ警備にあたる。
 現場担当者は夜間も工事現場に残りローラー等の機材の警備にあたるのだという。

「ピストン輸送と言う話だったが、4台づつ纏まって移動して欲しい。俺達は護衛するために雇われたんだ。雇われた側の意見も少しは融通してくれ。お願いだ」と一が言う。
「別に構わないアルよ」
 反対を受けるかと思ったが、拍子抜けする程あっさりとトラックの件は蒼空から承諾を受ける。
「ピストン輸送、皆、何か勘違いしているアルネ。ピストン、休憩なしで、ひっきりなしネ。でも工事のスピード、ラクダの歩くスピードと同じ、人の歩くスピードと対して変わらないネ。道路の進捗、1時間に最大4km。45分作業したら、体冷え冷え、15分休憩ネ」
「つまり‥‥」
「そう道路、全部出来上がっても片道4、50kmネ。包頭でトラックにアスファルト積む作業が多分一番時間掛かるアル。移動自体は道路できれば『あっ』と言う間アル」
 意外と短い距離に早く言ってよ。という気持ちになる能力者達。
「‥‥まあ、うん。トラックの積卸しの時警戒するのは変わらないか」
「そうだな。周辺の警戒をするのも変わらないし‥‥」
「現場‥‥滑走路建設地に合わせて巡回距離が変わるよな」
 気を取り直す能力者達に追い討ちをかける蒼空。
「よく私も知らないアルが、長さだけは聞いているアルよ。1km2本ネ」
 敵は、ゴビの寒さとまだ見ぬ工事責任者ではないかと思う能力者達であった。

「トラックのチームは、作業員の人達と一緒に包頭に戻って作業員の人と同じ宿に泊まって、宿の警戒に当たろうと思っています。まあ‥‥宿が攻撃される事はないと思うけど」
  座視が肩を竦めて言う。
「作業員はこの辺の人達アルから本当は砂漠で宿泊でも良いアルが、皆の方が持たないアルから一緒に戻れるのなら戻った方が言いアルネ」
 蜘蛛退治の時を思い出して言う蒼空。
「UPCがどうして包頭まで作業員を戻しているか知っているアルか? 皆がキメラに食われない為ネ」
 寝ている所を襲われる可能性があるのだと言う。
「キメラは、人を食べるのか?」
「キメラは、大体が人を食べるアル。キメラ同士でも食べ物がないと食い合うアル。この辺は食べ物が少ないからかも知れないアルが」
「確認されてるのはスライムタイプのキメラだそうだけど、先入観にとらわれず広い視野で警戒した方がいいな」
 清見にとっては、なんでもかんでも目新しい事実である。
「私、今回の基地工事の責任者にあったアルが、向こうはナイフプチャットに危うく食われる所あったらしいアルね。本人笑っていたアルが‥‥能力者じゃない寝ている200人。能力者8人では守り切れないアルよ」
 蒼空がシビアに言う。
「だから私も夜は包頭ネ。現場の皆、頑張るが宜し!」
「ありがたい言葉だね。ありがとうよ!」

 道路工事を指導する現場監督から能力者達が作業員に紹介される。
「皆さんの安全、我々が守ります」
 にっこりと炎西が整列した作業員達に挨拶をする。
「皆さんが安心してお仕事出来るよう、警護頑張りますね。見かけは頼りないなぁとか心で思っても、口に出しちゃダメですよ〜?」
 にっこり笑って百合歌が言う。
 優しい容姿の割には毒舌の百合歌、本人曰くジョークのつもりらしい。
 ピリピリした緊張は、作業員達に悪い影響を与えるだろうとリラックスさせたかったようである。
「うーん、楽器でもあればBGMでも演奏しちゃうのに!」
 かなり本気である。
 ビーストマンの芸能好きが多いとは聞いていたが‥‥と脇で苦笑する蒼空。
「戌亥 ユキです。よろしくおねがいします。皆さんが作業に集中出来るよう、面倒な機材置き場の見回りなどは、私達がビシっとやらせて頂きますね♪」
「此度、ぬしらの警護を務める冬織と申す。よしなにのう‥‥わしらがおるから安心せい」
 ユキと冬織は、作業員の中に潜む不穏な動き(機材や資材の盗難等)に対しての牽制を込めているので、ニコニコと笑い乍らも目の奥が笑っていなかったりする。
「聞いておると思うが、キメラが出ても慌てず騒がずやで。自分達が守ったる。落ち着いて避難やで。万が一怪我しても自分が直したるさかい、安心しぃや」
 どーんと任せておいてや〜。と大地が言う。
 蒼空にはバレなかったが、実は清見は初仕事である。その緊張をそのポーカーフェイスで隠していた。
(「芝居の稽古がこんな事に役立つこともあるか‥‥」)
 そう心の中で苦笑する。
 作業員達にキメラが現れた時の呼笛のサインを教えるユキと炎西。
「笛がなったら、私達の誘導で安全地帯迄移動してくださいね」

 ***

 トラック隊列の最後尾、大地にジープの運転を任せ、周囲の警戒をする為に双眼鏡を覗く炎西。
「KVには搭乗しても、車の免許が無いというのはおかしいですね」
「まあそれもアリなんじゃないんか? 運転出来んのが気になるんやったら、砂漠なら障害物がないから、休憩時間、車の練習してええんとちゃう?」
 のんびりと答える大地。
「武田さん、ちょっと止まって下さい!」
「なん? スライムか」
 炎西の指差す方に赤い小さなスライム。レッドプチスライムがいた。

「くっ、やはり、手応えがっ‥‥!」
 ファングを降り下ろす炎西だが、スライムの柔らかい体に衝撃が吸収される。
「なん、こいつ。ドロドロの癖に寒さで凍らへんのか?」
「感心していないで、協力して下さい」
 高い攻撃力と裏腹に扱い難いと有名なスパークマシンΩに武器を取り替える炎西。
(「使いこなせるか‥‥だが、やらねば!」)
「ああ、悪い。自分の仕事は、女の子と一般人の避難、機材を防衛が主任務やと思っておったから」
 のんびりと超機械γを構える大地。
「ほな、いくで。伊達と酔狂で研究所で強化してもろうたとちゃう所の見せたる」
 強力な電磁場が砂漠を包んだ。


●2日目
 積まれた鉄板とタールの詰まったドラム缶の間をアーチェリーボウを構えて警戒するユキ。
「こんなところに居たらイヤだなぁ‥‥居ないよね?」
 ひょいと狭い隙間を覗き込むユキ。

「できれば一日中、見回りたいですが‥‥長丁場ですしね」
 休憩所で温かいお茶を片手に双眼鏡を覗く炎西。
『ピー! ピー! ピー!』
 呼笛の音が空に響く。
「こっちの班は、大当たりやな」
 溜息をつき乍らテントを出る大地。
「皆さ〜ん! こっちです! バラバラになると危険です」
 ユキが作業員達を誘導し、大地が手伝う。
「いない人いますか?」
「そう言われてもな‥‥」
 顔を見合わせる作業員達。
 大半がこの工事現場で顔を初めて会わせた者である。
 上手く同じ部族から来ていれば判るが、遊牧民の部族は2家族だけの部族と言うものがある程、数が多い。
「こうなったら点呼です! はい、あなた、1! 次、2!」
 点呼を指示するユキ、脇で大地が作業員の数を数えていく。

 イエロープチスライムを前に覚醒する百合歌。
「色は綺麗なのにね‥‥もっと可愛い姿なら躊躇う事も出来たでしょうに‥‥残念ね」
 冷たい微笑がうっすらと浮かぶ。
 レクイエムを口ずさむ百合香の背中に一対の純白の翼が出現する。
「‥‥ad te omnis caro veniet‥‥」
 イリアスを構えた百合歌に炎西が叫ぶ。
「気を着けて下さい。スライムは物理攻撃が効き難いです!」


●3日目、滑走路建設
「ようこそ、UPCゴビ基地に。UPCのアジド・アヌバ(gz0030)です」
 にっこりとエキゾチックな美女と間違われるような容姿をした工事責任者が能力者達を出迎える。
「砂漠に基地か‥‥砂を最小限に留める気密性‥‥地下基地か。砂にカモフラージュさせた管制塔は地上として。と、難しい注文だな」
「ボクの知る限りそう事例がない訳ではありませんよ? 地上に露出した部分が多いと嵐や隙間から入り込んだ水分が凍り付き、建物の被害が大きくなりますし、バグアの攻撃も土がある程度吸収してくれますから、埋められる物は埋めてしまった方が楽ですよ」
 にっこりと笑うアジド。
「‥‥ふむ、やはり顔が綺麗でも男は男、女性は目福だな」
 何時の間にかアジドの後ろに立っていたS・シャルベーシャ(gz0003)が珈琲を片手に休憩中の作業員に話し掛けている冬織の姿を楽しそうに目で追っている。
「‥‥この人は気にしないで下さい。そういう病気ですから」
「どうせ、こちらの仕事は終わって暇なんだ‥‥こちらは民間人が多いのと作業スピードが遅い分、キメラに会う確立が高い。ほら、そこにいるぞ」
 飲みかけのカップを大蒸籠を抱えた調理師の足下に投げ付けるサルヴァ。
 びっくりして避ける調理師の足下にグリーンプチスライムがいた。
 さっと珈琲を避けるグリーンプチスライム。
 悲鳴をあげて逃げる調理師達。
「安心しろ、そなたらは安全な場所へ。此処は任せるが良い」
 冬織が覚醒する。
「こいつはそこそこ逃げ足が早いから気をつけろよ」
 楽しげに言うサルヴァ。
「シャルベーシャ!」
「今の俺は、お前の護衛だ。滑走路と道路の建設に関わる者の警護は、奴らの仕事だ。奴らにやらせろ」
「言われなくても! 皆、こっちだ!」
 一が調理師達の誘導を始める。
 騒ぎを聞き付けた座視、清見もやって来る。
「気をつけて、キメラは酸を飛ばすらしいよ!」
「水無月さんは、真田さんを手伝って皆の誘導を」
「判った!」
 清見が調理師達を誘導する一、座視を背に庇いつつ、グリーンプチスライムの間に立つ。
 教を唱える冬織。
「是無上呪 是無等等呪 能除一切苦‥‥蛍火が塵となれ」

「‥‥まあ、今回は武器の性能に助けられたな」
 肩で息をしている清見と冬織を冷ややかに見るサルヴァ。
「なら、助けろよ!」
「何故その必要がある? お前らは2人で1組、1人は誘導で1人は戦闘。つまりは1人でもスライム倒せると踏んでチームを分けた。傭兵には初心者もベテランもない。できると思ったから、仕事を受け、臨機応変に対応出来るように打ち合わせる。だが今回は、受け身の作戦を考えたおかげで苦労をしたと言う事だ。まあ、良かったじゃないか、若いうちの苦労は糧になる。残り3日も苦労しろ」

 楽しげに言うサルヴァの言う通り、結局スライムの襲撃のない日がなく。全日誰かしら戦って過ごす能力者達であった。
「‥‥‥苦労した分、良い基地になってよね」
 任務最終日、ボロボロに疲れ果てた能力者達はそう思うのであった。