タイトル:イースターパニックAマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/02 19:42

●オープニング本文


 ──この日、4月24日。
 アフマダバードから東に凡そ200km、インドール補給基地より北西に100kmに位置するバグア軍占領都市ラトラムに進軍をしていたインド軍は、勝利した。
「残党狩りのほうは、どうだ?」
「は、順調に進んでいます」
 報告に満足そうに頷く司令官だったが、ふと、進軍に協力していたMaha・Kara(以下、MK)隊の姿が見えないことに気がついた。
「奴らは如何した?」
「は、彼らは捕獲したバグア人『EggMan』を尋問するとの事で郊外の移動しております」
「バグア人の尋問だと? 誰が許可した。わしは許可していないぞ」
 大体そのような重要な事をインド軍ではない部外者であるMKが行うのだと怒る指揮官に、
「いえ、その‥‥EggManは非常に我らインド国民には攻撃し難い容姿をしておりますと」
「ああ、あのガーネシャ神似た姿の、アレか‥‥」
 まさかインド軍もヨリシロをガーネシャと呼ぶわけにもいかず、白くせり出た腹が卵のようだとEggManと呼ぶようにした事を思い出す指揮官。
「たしかにアレは我らがインド軍が攻撃するのには少々外見が不味いとMKに退治せよと命じたな」
「はい。それのEggManが、バグア人が限界突破を行ったモンスター化した状況でしたので‥‥」
「郊外に連行したというのか」
「はい。一応、隊長のS・シャルベーシャ(gz0003)からは、何か判別したら報告するとの事でした」
「ふん、有翼の獅子か。戦争屋の話などあまりアテにならんが、仕方ない」



 ──ラトラム郊外の廃屋。
「さて、お前の体が崩壊するまで後1時間を切った訳だが、何か良い残したい事があるだろう」
 大量に緑の血を流し、ぐったりとしたEggManをぐるりと取り囲みMKの隊員達。
 それを一段高い瓦礫の上から冷ややかにサルヴァが見下ろす。
「‥‥何モ、話ス事、なド‥‥ナい‥」
 EggManが体を動かす度にジャラジャラと体を縛った鎖が耳障りな音を立てる。
「いいや、あるだろう。軍の連中は気がつかなかったようだが、俺達の目は誤魔化せない」
 尋問を行う副長のシンの言葉にEggManが目を細める。
「何ノ、事だ」
「‥‥ここにいた兵は、囮だろう」
 囁くような声で言うシンに目を見張るEggMan。
「何ノ、事だ」
「しらばっくれてもムダだ。軍の連中の計算はどうだか知らないが、俺達が概算した予測兵力の7割しかここに配置されていなかった。
 圧倒的不利な状況で、お前達バグア軍はジャオラに撤退するのでもなくここに踏みとどまった」
 ラトラムの歴史は古く、王侯国領地であり、多くの古代寺院を抱える一方、インド最古の商業都市だった。
 農業のほか、インド有数の化学工場を抱え、インドールを攻めるのに適した大きな幅広い道は通っていたが、化学工場は軍転用に向かないものばかりであった。
「俺達はバグア軍が、お前が、ここを必死に守る理由がわからないでいた。別に大きな基地やプラントがある訳でもないのにな」
 限界突破したバグア人は2時間前後で体が崩壊する事は有名である。
 戦わず一度撤退した後、バグア人の体が崩壊するのを待って再び進軍する方法もあった。
「だが、お前達は俺達が、軍が撤退できないようにここに引き止めた」
 何故か?
「俺達はお前達バグアが時限式の何かを仕掛けたと思っているのさ」
 シンの言葉にゲラゲラと笑い出すEggMan。
「何ト、モ、目敏イ、奴ラだ。噂通リ、人間ニ、シテおクノ、ガ、勿体無イ」
 EggManがニヤリと笑う。
「ソウ、オ前達ハ、正シい。コノ場所ニ、時限式ノ、仕掛ケヲ、しタ」
「では、きっちりと聞かせてもらおうか?」
「‥‥言ウト、思ウか?」
「いいや、だがお前は『話させてください』とお願いするようになるのさ」


 ──炎上する廃屋を振り返る事無く後にするMKのメンバー達。
「弱りましたね。100個とは‥‥」
 予想以上に数が多い。と言うシンに「そうか?」と答えるサルヴァ。
 ラトラム市街地の総面積は1331平方キロメートル。
 そこに冬眠状況のキメラやタートルワーム、ゴーレムが入った卵を探し出せというのだ。
 探す広さを考えれば防護カプセル入りキメラは2m前後、ワームが入ったカプセルは10mと小さいが、人の眼から見落とし難い大きさである。
「それに奴も無闇に隠したとは思えんぞ」
「そうですね」
「考えようによったら民間人がいない分、全部孵化させて退治するのも手だぜ」
「ですね。カプセルの強度が判らない以上、無闇に弾薬を減らしたくないですね」
「何れにしろ、軍とMKで全部を探し出すのはムリだ。戦闘に協力した傭兵どもにも協力させろ」
「了解しました──しかし、とんだイースターになりましたね」
 シンの言葉に、フンと鼻で笑うサルヴァだった。

●参加者一覧

ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
竜王 まり絵(ga5231
21歳・♀・EL
Innocence(ga8305
20歳・♀・ER
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
住吉(gc6879
15歳・♀・ER
緋蜂(gc7107
23歳・♀・FT
ミティシア(gc7179
11歳・♀・HD

●リプレイ本文

廃墟となったラトラムの市街地にある廃屋の中でトゥリム(gc6022)は、怪しい壁を装備した爪で削っていた。
「怪しい‥‥ちょっとゴリゴリっと‥‥」
 案の定、それは偽装された壁であり、コンクリートが削れた穴の向こうには、小さな部屋があった。もちろん中には問題のカプセルが鎮座している。
「時限爆弾ではないだけマシ‥‥かな? 厄介な事に変わりは無いですけど」
 同行していた沖田 護(gc0208)が、早速卵に練成弱体をかけ、その位置にペイント弾を撃ち込んだ。
「あの部分を同時に攻撃しましょう。練成強化をかけた二人分の攻撃を集中させればおそらく破壊できるでしょう」
「了解です 一気に破壊します」
トゥリムは指示に従い、貫通弾を装填して、急所突きでカプセルを攻撃する。沖田も超機械による電磁波でこれを援護。
 カプセルに弾丸が風穴を空け、そこから卵は砕け散った。
「次、行きます。バイクに乗ってください」
 沖田はAUKVをバイクに変形させて、トゥリムを乗せると走り出した。

大神 直人(gb1865)は、事前に入手した地図を使って決めた、効率の良い探索ルートに沿って、物陰を確認し、障害物を排除しつつ丁寧に探索を進めていた。
 だが、丁寧な探索にもかかわらず、担当区域の15番の地区を過ぎても、卵は見つからなかった。
 やがて、彼は薄暗い袋小路へと侵入した。
「卵探しか‥‥。まるでどこかのお祭りみたいだな。まぁ、卵の中身の景品はキメラだから誰もやりたがらないだろうけどな」
 思わずそんな事を呟いた彼の耳に、突然物音が聞こえた。警戒していた彼は咄嗟にその場を飛びのき、エネルギーガンを抜いた。
 キメラは既に孵化してしまったのか?
 だが、それは普通のネズミが物陰を走る音であった。ほっと胸をなでおろす大神。何気なく近くの瓦礫を見ると、そこには迷彩が施されたカプセルの殻が見えていた。ようやく探索が報われた大神はエネルギーガンで卵を撃って破壊した。

自分の担当区域をほとんど終えた大神の元に、AUKVに乗ったトゥリムと沖田が追いついて来た。彼らは二人がかりだったので、一足先に探索を終えたらしい。改めて手分けして周囲を探す三人。今回も卵を見つけたのはトゥリムだった。
 剣や銃で攻撃するが、この卵の装甲は固く、先程の様にサポートが無いと歯が立たないようだ。そこでトゥリムは超機械を卵に押し当て、電磁波を照射してみた。
「ゆでたまごに‥‥なるといいなぁ」
 しかし、茹で卵は出来ず、カプセルが砕け、怒り狂った狼型キメラが飛び出してきた。咄嗟に間合いを取ったトゥリムに飛び掛かろうとするキメラ。しかしそのキメラに駆けつけた沖田の放ったペイント弾が命中した。
 視界を塞がれ、動きの止まったキメラに大神のエネルギーガンの閃光が突き刺さる。最後は、トゥリムが拳銃でキメラの眉間を撃ち抜いた。
「永遠に、おやすみなさい」

「ふむ〜、ちょっと私は遅れ気味ね。みんながんばってるし、私もがんばってペース上げよっと」
ミティシア(gc7179)は中々卵を発見できないでいた。しかし、ようやく一つ発見する。
「いっけい、一撃必殺どっせい」
 ミティシアは早速貫通弾で、孵化する前に卵を破壊した。

住吉(gc6879)は、卵を発見すると、嬉しそうに言った。
「今夜の夜食は卵料理で決定ですね〜♪」
 まず至近距離からバラキエルを同じ場所に全弾を撃ち込む住吉。だが、殻は非常に堅牢で、攻撃がほとんど効かない。それどころか攻撃を弾いてしまうのだ。
 そこに、ソウマ(gc0505)がSE−445Rで駆け付けた。
「バグアも随分と面倒な事をしてくれましたね‥‥結局は無駄になるというのに、ね」
ソウマは住吉に笑いかけると、彼女を援護する為に両断剣で、卵に切りつけた。
「面倒事は早く片付けるに限りますからね」
肩を竦めて見せるソウマ。ようやく堅牢な卵にひびが入る。
「やはり、このくらいしなければ駄目だったみたいですね」
 住吉がビスクヴィートを振りかぶって、卵に叩きつける。殻が盛大に砕け、キメラの体液らしき液体が流れ出したところで、ソウマが再び両断剣を使用し、ようやく卵は処理された。

 バイク形態のAUKVに乗ったミティシアが、ソウマ、住吉と合流した時には、既に狼キメラの死体が二人の足元に転がっていた。堅牢なカプセルから孵化したばかりに、住吉のバラキエルに引き裂かれたのだ。
「さっきは卵で、今度はキメラ‥‥これ即ち親子丼って所でしょうか?」
 住吉が言った時、無線で、逐次情報を報告していたミティシアがハミル・ジャウザール(gb4773)から救援要請を受けた。
「ちょちやばいみたいです。支援に行きます」

シクル・ハーツ(gc1986)も、自分に割り当てられた所を注意深く調査していた。
「キメラ入り卵を探せ‥‥か。まるで、当たりの無い宝探しだな。街中で暴れられるわけにもいかないし、早めに退治したいものだが‥‥」
 そして彼女は卵を発見した。早速、シクルは弾頭矢を取り出すと、カプセルを狙う。
「動かない相手なら好都合だ。一つに1本ずつ、確実に当てられる」
 弓の射程ギリギリから、矢を放つシクル。卵は吹き飛ばされたものの、ひびが入っただけで、割れる様子は無い。
「倒しきれなかったか‥‥?」
 用心深く卵の様子を伺うシクル。瞬く間にひびが広がり、そこから粘液のようなものがこぼれ落ちた。
「倒したか‥‥いや!」
 シクルが身構える。しかし、割れた卵の中から出て着てごろりと地面に転がったのは鳥キメラの死体であった。

八尾師 命(gb9785)は、自分の担当区画で中々カプセルを発見できないでいた。これは後で解った事だが、彼女の担当した場所に卵は配置されていなかったのである。
「あれ〜? 思ったより見つかりませんね〜。あまり時間をかけてられないですね〜。ちょっと急ぎますよ〜」
 だが、彼女がそれを知る筈も無く、彼女はとにかく、捜索を続けるのだった。

 シクルは、先行していた竜王 まり絵(ga5231)と合流して最後に残った少し大きめの廃屋に踏み込んでいた。
 まり絵は、GoodLuckを発動した上でミラーも併用して、メモまで取りながら慎重に捜索していた。
 二人が天井にパイプの入り組んだ狭い通路に入った時、ミラーで通路の先を確認し、一旦は大丈夫と合図したまり絵が、先に進もうとするシクルを制した。
 訝しんだシクルにまり絵が言う。
「罠‥‥ですわ。ほら、あの破片、間違いなくカプセルの外殻ですわ‥‥既に厭ンな場所にスライムが待ち構えていそうですわよ?」
 その破片の模様は、先程シクルが発見した殻とは違い、一見すると只の瓦礫のようにも見えた。まり絵は事前に、MKとSSに頼んで、複数の殻の実物を確認しており、このような殻にも見覚えがあったので見分けることが出来たのだ。
まり絵のおかげで、シクルは天井に潜んでいたスライムを先に見つけて先制攻撃を仕掛けた。
「スライムか‥‥なら‥‥!」
 シクルは素早く弾頭矢を放ち命中させる。スライムは、二人に気付かぬまま爆発した。

ベーオウルフ(ga3640)は、自分の担当地点を探索し終えたが、カプセルを発見出来なかった。
彼の担当区域にもカプセルは一つ配置されていた。だが、屋内探索は時間の浪費につながると彼自身が判断したため、62の区画の廃屋の中に置かれたカプセルは孵化するまで発見されなかったのだ。
70の区画にいた彼は、背後から鳥キメラの鳴き声を聞き振り向いた。見れば、孵化した鳥が、空中から猛然と襲って来る。
「時間が惜しい」
 彼は無愛想に言うと屠竜刀を構え、キメラが襲って来るところを待ち、大刀で相手を叩き切った。

「目標はそれなりに大きい。見落とすほどのものではないと、思っていたが‥‥いきなり見つかるとはな」
 眼前の廃屋の中に、無造作に置かれたカプセルを見てキリル・シューキン(gb2765)は、呟いた。彼は孵化を待たず、ガトリングガンに強弾撃と急所突きを加えてカプセルごと中身を粉砕するのが目的だ。
「ミンチ‥‥いや、スクランブルエッグだッ!」
 弾丸が次々にカプセルを貫通する。
 やがて、卵が砕け、その破片と粘液の中に、冷凍状態のまま死体と化した狼が横たわった。
「‥‥お前哺乳類だろ。確かに正確には卵じゃないんだが」
 突込みを入れて、捜索を続けるキリル。だが、彼が次に発見したのは割れた卵の破片であった。上空から鋭い叫び声が上がる。朽ちた建物の間から鳥型のキメラが、急降下して来た。
「ふん、卵から出てきた時から大人か。フライドチキンにするまで育てる手間が省けたな」
キリルに同行していた緋蜂(gc7107)が言った。
「面倒な物を残していったものです。さっさと終わらせて美味しいコーヒーを飲みたいですね」
 そう言うと、彼女はキリルの盾になるべく、前に立ち、鳥キメラに向けてソニックブームを放った。
 キリルは、吹き飛んだ鳥を、影撃ちを併用したガトリングでバラバラにした。羽毛と肉片が、周囲に飛び散るのであった。

探索が始まる前に辰巳 空(ga4698)は、GooDLuckを使用し、現場ではバイブレーションセンサーも使用して作業の効率化を図っていた。常に現在位置を無線で入れ、携帯用端末で、味方の位置を確認しつつ行動するのも忘れない。
 やがて、87の地区に来た時、センサーがキメラが動いている反応を捕えた。飛び道具を持たない彼は、慎重を期して隠れながらキメラへと接近する。
 それが功を奏し、彼は苦手とする鳥キメラに対して、攻撃が当たる距離まで気付かれずに接近することが出来た。
 しかし、仲間に連絡する暇はなさそうだった。彼は、一撃に賭け、攻撃を繰り出す。奇襲は成功し、敵は一刀の下に倒された。

「全部で15個‥‥ですか‥‥この区域全体で‥‥? それは‥‥結構大変ですね‥‥」
ハミルは、そんな事を言いながら、探査の目を併用して探索を続け早速、卵を発見した。
 剣とエナジーガンとで卵を攻撃するハミル。だがカプセルの装甲を破壊できない。そこでハミルは、紅蓮衝撃で切りつける。今度は卵も耐え切れず砕け散り、中の狼も切り裂かれた。

Innocence(ga8305)は、廃墟を捜索していたが、やがて98の地点で卵を発見した。
「ありましたわ‥‥♪」
 早速、イノセンスは連絡を行う。だが、その後彼女は思い掛けない行動に出た。卵の前にちょこんと座ると、じーっと、卵を観察し始めたのだ。更に、水筒に入れてきたらしいオレンジジュースをコップに入れて、明らかに気長に待つつもりだ。
「生まれたばかりのキメラさんでしたら、わたくしのことをママと間違えたりしますのかしら? どうやって育てましたらいいのかしら? ‥‥きゃあ〜♪」
彼女は、何やら妄想に耽ると、顔を赤らめたり、隠したりする。
 そうこうしている内に、卵から鳥が現れた。しかし、このキメラは別に生まれたてではない。カプセルで一時的に眠っていたに過ぎない。つまり寝起きに過ぎない。
いや仮に本当に生まれたてのキメラでも、いわゆる『刷り込み』で人間を親と思い込むことは有り得ないのだが。

 ハミルは襲ってきた狼キメラを切り倒した。
区域内をざっと見て回るに止め、建物の中には注意していなかった彼は、彼の担当エリアに隠されていた二個目のカプセルの孵化を許してしまっていたが、キメラの襲撃には警戒していた為に問題なく撃退することが出来たのだ。
 全体とまめに連絡をとっていたハミルは、この時点で既に14個のカプセルが全て処理されていることを確認していた。
「残りは一個ですね‥‥そう言えば、Innocenceさんは、どちらに‥‥?」
 彼がそう言った時、物陰で何かが動いた。咄嗟に構えるハミルの前に、瓦礫の中からスライムが這い出てきた。
 どうやらこれが最後の一匹らしい。ハミルは剣で切り掛かろうとした。しかし、何故か彼は嫌な予感を覚え、咄嗟に盾に手を伸ばす。
 ハミルは間一髪、横から飛んで来たスライムの酸を盾で防ぐことができた。しかし、改めて周囲を見回したハミルは愕然とした。周囲の廃墟の至る所から、スライムが這い出してきたのだ。その数は、6匹。
「これは‥‥!? 緊急連絡! キメラの群れが、目を覚ましてしまいました! スライムタイプが多数です! 何故こんなに‥‥? もう卵はほとんど残っていない筈なのに‥‥!」
 ミティシアが受けたのはこの通信だった。

 何故このような事態が起きたのか、時間は少し戻って、相変わらず卵の孵化を待つInnocenceの眼前でようやく卵が割れ、スライムが這い出てきた。
だが、刷り込みを期待している彼女はすぐには攻撃をしない。また彼女が連絡した仲間もこの時点ではそれぞれ手が離せず、援護に来ることが出来なかった。
 一方のスライムはというと、眼前の敵を認識したのはいいが、本能的に一対一では不利だと判断したのか、Innocenceが攻撃しないのをいいことに素早く逃げ出したのだ。
 そして、スライムらしく周囲の鼠などの小動物を食って分裂したのだ。といっても栄養になる生き物も少なく、またさして強力なキメラでもないため、9匹に増えるので精いっぱいであり、複製の方は分裂能力すら失われていたが。
 とはいえ、何とか手数を増やしたスライムは、まず付近にいたInnocenceとハミルに襲い掛かったのであった。

苦戦するハミルの元に真っ先に駆けつけたのは、ソウマの運転する車両に乗った住吉とミティシアである。
「支援に来たよ〜」
ミティシアが叫ぶ。
「ハミルさんは‥‥大丈夫そうですね。 このまま殲滅しますよ!」
そう言ったソウマは冷静な表情ではあったが、かなりハミルを心配していた様子だ。彼は車両を止めると、そのままほしくずの唄を発動した。
 ハミルを攻撃していたスライムたちは、混乱し攻撃の手を止めた。
「うわなんか一杯いるけど、いっけいけ〜、きゃははどっせい」
 彼女はまず竜の爪と貫通弾を併用して、スライムを吹き飛ばす。そして次はイリアスでスライムを薙ぎ払い始めた。
「リロードの時間も惜しいよ〜」
 更に、ミティシアは余った貫通弾をバラキエルで応戦する住吉にも譲渡する。
「ほいよっと」
 受け取った貫通弾を込めた住吉の銃によって一体のスライムが飛び散った。そして、ハミルも反撃に転じ、元々大して強くも無いスライムは、混乱させられたこともあり、あっという間に全滅した。
「‥‥もう安心のようですね」
 ソウマは、酸によって傷ついたハミルに錬成治療を行うと、仲間を見ながら天使の様に微笑して一人呟いた。
「厄介な作戦でしたが何度だって阻止して見せますよ
なんてたって‥‥」


 一方、Innocenceも3体のスライムに襲われていた。
「きゃあきゃあっ!?」
 大慌てになりながらも。ぺしぺしっ頑張って抵抗するが徐々に追い詰められる。しかし、危ない所でベーオウルフと八尾師が支援に駆けつけた。
「むむ〜、これは、ちょっと不利とまではいえないかもしれないけど、万全を期しますね〜」
八尾師が錬成弱体を使用した所に、ベーオウルフが雷遁で2体を倒す。八尾師も、エネルギーガンで最後の一体を倒した。
「何とか倒せましたね〜。お怪我はありませんか〜? 治療しますよ〜」
 八尾師が、Innocenceの治療を終えた時、敵全滅の報が、傭兵のKV班と、正規軍からそれぞれ入って来た。


(代筆 :  稲田和夫)