タイトル:【ODNK】汚された翼マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/31 12:17

●オープニング本文


「お前達は、本気でやってるのっ?!」
 格納庫の中で金切り声が響く。
 ドクターコートに身を包んだ女性が手に持ったフォルダーで隊長機の脚をバシバシと叩く。
「8人がかりでKV10機しか落とせないなんて」
 女の目の前に並ぶ8つのディスプレイに反論が表示される。
「改造KVがいた? 当たり前じゃない。ULTの傭兵が出てくる可能性があること位、簡単に想像がつくじゃないの」
 女が馬鹿にしたように戦闘機を見回した。

「本来であればお前達なんてHWで十分なのよ。
 ウォン様の優しいお言葉があったからこそ、この私が貴重な時間を割いてタロスを改造してやったのに。
 それなのにこの程度なんて‥‥非能力者のチームながらもエース・チームであったというのは、とんだ眉唾ね」
 鼻で嘲る女の姿に、パイロットの体内に起こったアドレナリンの急激な変化を示すシグナルがチカチカと激しく点滅する。
「あら、怒ったの? お前達は負け犬。お前達はカプセルの中でしか生きられない醜い生き物じゃない」
 機に取り付けられた砲が女に向かって一斉に向けられる。
「ふん、私を殺したいの?」
 女は素早く一番近い機に近付くと、荒々しく繋がれた電源を引き抜いた。

 だが、抜かれたパイロットは溜まったものではない。
 目と耳に相当する外部センサーのみならずカプセル内に空気を送る装置もダウンした。
 電源を引き抜かれたパイロットの、チカチカと激しく感情を示すグラフが危険領域に達している。
 操縦者の、生命の危険を知らせるアラートが耳障りに響く。
 パニックを起したパイロットは機を固定する鎖を引きちぎり暴れる姿を女が冷ややかに見つめていた。

「このまま放置すれば10分も経たずに死ぬわ」
 他の機が一斉に電源を接続するように女に命じた。
「私に命令? 笑わせないでよ。私に慈悲を請い、お願いするのが筋でしょう?」
 チカチカと怒りに混乱するメッセージが、懇願へと変わる。
 女はそれを満足そうに見回すと、
「そうよ。誰がご主人様か良く覚えておきなさい」
 女はパネルを操作し、暴れる機の機能を一部切断し、動きを止めると静かに電源を接続した。

「よしよし、良い子ね。もう‥‥怖くないでしょう?」
 女は幼子に話し掛ける様に優しく言うと再びパネルを操作し、カプセル内に精神安定剤を投入する。
「もう大丈夫よ。お前が私を裏切らない限り、私はお前の味方よ。私を信用して‥」
 もう一方の手でパニックを起していた機を優しくなで上げる。
「ふふ‥‥良い子ね」
 グラフが安定し、怒りではない。快感を示す波形が現れる。

「気持ち良い? そうでしょうね。お前の神経は全て今、機体と一体化しているから私の指が触っている事を感じるでしょう?」
 機の感じている快感を他の7機と同調させる為に女はパネルを操作する。
 女は止めてい髪を解き、長い豊かな黒髪流れる。
 恋人に接するかのように優しくセンサーに囁き、赤いセクシーな唇が優しくカプセルが納まったコクピットの上にキスし、舌が怪しく這っていく。
「良い子にしていればもっと良い事をしてあげるわよ。ふふ‥‥」

 ──コンコン。
 格納の壁を叩く男がいた。
「相変わらず無駄にエロい女(ヒト)だなぁ。そんなにフェロモン余ってるならキメラの研究に使うから分けてくださいよぉ〜」
「フン! 私は可愛いペットちゃん達にしか萌えないのよ」
 それよりも何をしにきたんだと男を睨みつける。
「頼まれていたシナプス活性剤と細胞強化剤のお届けですよぉ〜」
「それを待っていたのよ」
 男の手から箱を取り上げると女はアンプルの数を確認する。
「反射を高めるのも良いけどあんまり投与しすぎると細胞異常を起したりするからから気をつけてねぇ」
「言われるまでも無いわよ。こっちだってプロなんだから‥‥うふふっ、これでペットちゃん達がもっと戦えるわ♪」
「病んでますねぇ。貴女が死にそうになったら是非とも細胞のサンプルくださいねぇ。病デレ女キメラ、作ったら楽しいかもしれませんからぁ〜」

 ***

 春日基地の完全なる孤立化を勧める為、宮若市進軍を実施していたUPC軍の前に現れたタロス小隊に、パイロット達は手を焼いていた。
 軍パイロット達の、攻撃パターンの隙を突いて的確に攻撃してくるタロス達。
 今までも連携が取れていた敵は多くいたが──
「畜生、あいつら‥‥あのエンブレムには覚えがある」
 一人のパイロットが激しく壁を叩いた。
 ヨリシロもしくは強化人間、洗脳された嘗ての同僚に攻撃される事など、既に日常化しいている彼等であったが、今回の敵は少々違っていた。
「ああ、アグレッサー隊‥‥国枝小隊の奴らだ」
 パイロットの中でもとりわけ優秀な者だけがなれる飛行教導隊(アグレッサー隊)。
 元々並みのKV乗りでは勝てない腕前の持ち主達である。
「小隊長は【リトル】だったよな。俺はあいつに勝てた事がないぜ?」
 飛行教導隊の1つ。国枝小隊が九州軍の戦力不足を補う為、前戦に送られたのは1月下旬の事だった。
 だが、とある戦闘で全員が死亡したと思われていた──

「もし本物の国枝隊だとしても今の奴らは敵だ」
「そうだ。俺達は奴らを撃墜すれば良いだけの話」
「言うのは簡単だが、奴らは俺達の手の内を熟知しているんだぜ」
 早いうちに落とさなければ被害が増える可能性に彼らはぞっとした──

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
イリアス・ニーベルング(ga6358
17歳・♀・PN
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
ノエル・クエミレート(gc3573
15歳・♀・SF
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
リマ(gc6312
22歳・♀・FC

●リプレイ本文

国枝小隊は、一目見て傭兵たちの戦術を看破した。
敵の反応は15機。その内8機が突出している。傭兵たちはまず正面対応の8機に、敵と当たらせ、その隙に迂回班を回り込ませる戦術の為、自然正面対応の8機を前面に出さざるを得ない。最初から15機が集団で突っ込む訳にはいかないからだ。
この傭兵たちの陣形から、国枝隊は早期に敵の包囲戦術を予測し、対応した。

 数の上では2対1だが、機体の性能ならこの数値は逆転する。国枝隊は全機で正面対応の8機に先制攻撃を仕掛けた。
 破曉『夜天[Ast‐Annihilator]』に乗る御影・朔夜(ga0240)は、戦闘が当初想定していた以上に厳しくなることを理解して、信頼する同胞達へ通信を行った。
「無理はするな、生還を優先しろ――良いな?」
サイファー『ヴァルキュリア』に乗るイリアス・ニーベルング(ga6358)が言い返す。
「強敵ですね‥‥。でも、生還するのを優先するのは隊長も‥‥ですからね?」
イビルアイズ『バロール』に乗る乾 幸香(ga8460)が、殺意全開で一丸となって突っ込んでくるタロスに、狼狽しなかったと言えば嘘になるし、国枝隊の狙いに気付いていたかと言えばそんな余裕は無かった。それでも乾、怯まず敵に立ち向かい、吠えた。
「こっちの裏を掻くなんて‥‥これが‥‥かつての教導隊のパイロット‥‥正直わたしには強敵過ぎますね。でも、わたしもそれなりに場数を踏んでますから、皆さんの足は引っ張らないつもりですよ」
乾は、続いて対バグアロックオンキャンセラーを発動させて、叫んだ。
「腕の差で負けているのはおそらくこちら。ならば、機体がバグア製である事を突かせて貰います!」
 乾の咄嗟の判断は、緒戦において味方を壊滅の危機から救った。
 ドクター・ウェスト(ga0241)も自機である雷電の重装甲を生かして、ラナ・ヴェクサー(gc1748)のワイズマン『トリフィカス』の盾になる。
「後手に回りすぎだね〜。だが、G砲の命中率、伊達ではないぞ〜!」
 ウェストは叫んでG放電装置をタロスに放つ。
 ラナも、ウェストに庇われつつレーザーカノンで応戦した。
「確か‥‥新人の頃、お世話になりましたか‥‥一年経ったけど…まだ、力の高みは‥‥遠いの、ですね‥‥」
 タロスの攻撃に耐えるウェストの機体を見てラナは呟いた。

 だが、国枝隊は、正面対応班への攻撃には時間をかけなかった。国枝隊の真の狙いは、正面班の背後にいる迂回班7機だ。タロスは傭兵の攻撃を寄せ付けないよう周囲に弾幕を張りつつ、まず迂回班とすれ違う。
 直後、慣性制御を持つバグア機は、その場で停止して、即回頭するという動作で、傭兵たちの背後をとり、傭兵たちの陣形を撹乱した上で乱戦に持ち込んだ。
これにより傭兵たちは、包囲戦法を破綻させられ、各自が想定していたようにロッテを組んで戦う事も困難となった。
 混乱の中、秋月 愁矢(gc1971) のスカイセイバー『テスタロッサ』は、Aダンサーによって変形すると機体を無理やり回頭させ、盾で相手の攻撃を防ぎつつ周囲の味方を援護しようとミサイルを発射する。
「迷いなど無い‥‥俺達の中から犠牲を出さない為にも全力でやるしかない」
 彼の発射したミサイルがタロスに向かう。
「非能力者の教導部隊か‥‥使うマニューバーは戦闘機のソレが多いだろう、機体を乗り換えても癖はそう簡単には消えない筈だ」
 だが敵の機動を予測して放たれた愁矢のミサイルは、バグア機特有の機動で悉く回避される。敵は既にタロスと一体化している。機体への適応度は愁矢の予測を大きく上回っていたのだろう。
 そして、タロスの反撃が愁矢の機体に集中する。
 だが、危ない所で、終夜・無月(ga3084)のミカガミ『白皇 月牙極式』がレーザーを乱射しながら乱入して来た。無月が敵の攻撃を引き受けて回避してくれたおかげで、何とか二機は戦い続けることが出来た。

 背後をとられた傭兵たちは苦戦を強いられていた。
リマ(gc6312)は自機ガンスリンガーで、レーザーとミサイルによる弾幕を張り、敵に後ろに付かれるのだけは、免れた。追われた場合を想定していた彼女の判断が生きたのだ。
そして、偶々リマの近くを飛んでいた澄野・絣(gb3855)は敵の奇襲でロッテが崩されたために、何とかしてリマと組み直そうと試みていた。
 だが、敵もそれを許さない。二機のタロスが彼女のディアマントシュタオプ『冰輪媛 ‐hirin bime‐』を狙って射撃を繰り返す。
「出し惜しむ余裕はない‥‥! 全力で行くわよ‥‥」
 絣はEBシステムを乗せたミサイルで敵を攻撃する。だが、さすがに国枝隊は手強く、動きを僅かに阻害することができただけで、大した被害は与えられない。
リマも絣も、即撃墜を免れたとはいえ、このように各機が孤立し、しかも背後を取られた状態では、このまま各個撃破されていくのも時間の問題と思われた。
しかし、二人が苦戦しつつも持ち堪えているところに、正面班だったエリアノーラ・カーゾン(ga9802)(愛称ネル)がシュテルン・G『空飛ぶ剣山号』のバルカンとスラスターライフルで弾幕を張りつつ応援に駆け付けた。
「私が攻撃を引き付ける! 二人は攻撃に専念して!」
 ネルはそう言うとデコイとして、ひたすら敵の攻撃にPRMディフェンスコンボで耐えつつ、反撃する。
 ネルのおかげで持ち直したリマと澄野が、再び攻撃を開始した。
「元アグレッサー‥‥ねぇ。また人、ひと、ヒト‥‥か。そんなに共食いが見たいのかしら? 趣味悪いったらありゃしない‥‥とは言え、‥‥良いわよ? 楽になれる、手伝いくらいならして上げるわ」
 リマはそう言いながら、ネルの攻撃に合わせてバルカンとミサイルで弾幕を形成し、敵の進行方向を絞り込んだ。この二つの弾幕による仕込が功を奏し、機動の制限された敵を澄野がプラズマライフルで狙う。
「そう簡単に逃がさないわよ!」
 放たれた光が敵を貫いた。しかし、致命傷を受けながらタロスは、せめて相手を道連れにしようと言うのか、三機の方に突進して来た。咄嗟に剣翼でネルがカウンターをかける。
だが、タロスも至近距離からフェザー砲を発射。最初の攻勢で、大きな損傷を受け、リマと澄野の盾になり続けたネルの機体も遂に撃墜された。それでも、ネルは無事脱出して重症は免れた。

ロシャーデ・ルーク(gc1391)のサイファーとリック・オルコット(gc4548)のグロームは辛うじてロッテを維持したまま、持ち堪えていた。
ロシャーデがラージフレアを使い、二機はギリギリで攻撃を避け続ける。そして、リックは、ロシャーデを狙う敵に、短距離高速型AAMを使用して牽制、注意を引き付けた。
 そのタロスが、目標をリックに切り換えた隙を狙ってロシャーデがML3を撃ちつつ航過し、反転する。
「自分からバグアに従っているのか、従わされているのか。‥‥そんなことはどうでも良いわ。彼らに殺された味方がいる。その事実は消えはしない。これ以上の犠牲を出さないため、戦うわ」
そのタロスを今度はリックが、ガトリングで攻撃する。このようにして二人は連携して相手を翻弄した。
「悪いが、こっちも忘れるな。コゼットの言う通り、敵には違いないからな。報酬の為に死んでくれ」
 しかし、先手を取られたのはやはり痛く、まずミサイルが空になった。そして、ロシャーデのFコーティングによる防御も限界となり、彼女を庇って前衛に出たリックの機体もダメージが蓄積していた。
 それでも、一度は奥の手である斜め四十五度・改で持ち直したが、なおも少しずつ消耗して行った。
だが、この二人は結果として食いついて来たタロス一機を戦闘終了まで、翻弄しつづける事には成功した。
● 
 ウェストは、ラナを守りつつ応戦していた。だが、幾ら重装甲の雷電とはいえ、ラナの分まで攻撃を受け続けた為、その装甲は限界であった。
「ラナ君〜、まだ敵の指揮官は特定できないのかね〜!?」
「‥‥管制機は‥‥指令機は‥‥早く‥‥早く‥‥」
 ラナも焦っていた。しかし、劣勢の中、遂にラナは敵の小隊長の機体を特定したのであった。
 だが、同時にウェストの雷電が耐え切れず遂に、致命的な一撃を貰った。しかし、ウエストもただでは落ちない。
「ここまでか‥‥だが、敵に回った以上は一体でも多く殲滅してやらねばね〜! 受け取り給え〜!」
 最後の力でウェストは、ラナが特定した隊長機と、その周囲のタロスにGP7ミサイルを発射して、脱出装置を起動させた。
 一旦後退するタロス。この時点でようやく傭兵たちは体勢を立て直していた。
 だが、傭兵隊の損耗は国枝隊を上回っていた。二機が撃墜され、更にネルと協力していた二機は、ミサイルを使い果たし、機体のダメージも甚大で戦闘続行は不可能であった。
 リックとロシャーデはタロスとの追いかけっこの最中だ。
 乾機も消耗しており、ラナは支援機の為、この段階での正面衝突には耐えられないだろう。
 つまり、国枝隊と傭兵は実質6対8。そして、個々のタロスの能力や消耗率を考えれば、傭兵側の劣勢は明らかであった。
 この事実は、付近で戦闘を見物していた黒いタロスの女王様にも良く理解出来た。自らの愛しい下僕の優勢に、女王は身悶えた。
「ああ‥‥っ、皆良い子ね‥‥帰って来たらご褒美を上げなくちゃ‥‥」

 このまま任務失敗かと意気消沈する仲間に、希望を取り戻させるような出来事が突然起きた。
鷹代 由稀(ga1601)が予め調べておいた国枝隊の戦術データを全員に送信したのだ。
 愁矢が翻弄されたように、一機一機の機動は、既に彼らが人間であった時の者とは別ものであった。しかし、今日の戦闘で国枝隊が見せた全体の連携は、かつて彼らが得意としていたものを応用したものであった。
この情報を本に敵の連携を破り、こちらの精鋭を繰り出して隊長機をピンポイントで叩く。これが傭兵隊に残された最後の手段であった。
 躊躇する余裕は無かった。まず、ラナがタクティカル・プレディクションBを、続いて乾がキャンセラーを使う。
「敵に情けを掛けられる程余裕なんかありませんからね。どんな事情があろうと、せめて指揮官にはここで墜ちて貰います!」
 乾が叫ぶ。
 隊長機に向かうのは、無月と御影である。そして、超限界機動を使用する御影の援護は御影自身の頼みで由希とイルが担った。
 ただ、堺・清四郎(gb3564)とノエル・クエミレート(gc3573)は、既にラナが補足していた黒いタロスの奇襲に対応するべく、後方で待機した。
「隊長から援護してくれって言うのは珍しいかも? 援護しますよ、出来る限り! ‥‥だって、何時もして貰っていますから。こう言う時ぐらい、頑張ってみせますよ」
 イリアスが言う。

 再度、両軍は激突した。由希の情報が功を奏し、まず無月のミカガミが隊長機を射程に捕えた。
「せめて貴方達の弄ばれし誇りを護ろう‥‥」
 ミカガミの荷電粒子砲が、相手にダメージを与え、動きを鈍らせる。この機会を生かそうと、超限界機動を使用した御影が突撃して来た。副兵装を連射し、隙を作ろうとする朔夜だったが、傭兵の狙いに気付いた国枝隊が御影に攻撃を集中させる。
 だが、危ない所でイリアスが御影を庇った。咄嗟に、アクセル・コーティングを施した機体で、御影機の盾になるイリアス。紅の閃光が幾筋も機体を貫通し、機体が大破する。
「私は大丈夫です‥‥由稀さんと隊長と私。そして、皆で無事、帰りましょうっ‥‥」
 機体スキルのおかげか、重傷を免れたイリアスは脱出装置の中からそう呼びかけた。
「よくもイルを‥‥! ‥‥乱れ撃つわよおおおおっ!!」
 無事だったとはいえ、恋人の機体を落された由希は怒り、GP7を発射する。隊長機を守ろうとした国枝隊の足が止まった。
「御影くーん! 邪魔くさいのを抑え込むから、後は頼んだわよ! イル、あんたの働き無駄にはしないわ!」
 御影は、イリアスと由希が身を挺して作ったチャンスを無駄にはしなかった。プラズマライフルを連射しながら隊長機に肉薄した御影は、至近距離から止めのアハトアハトを撃ち込む。
 レーザーに機体を貫通された隊長機は、激しく火を噴くと空中で爆散した。隊長を撃墜された事で、抜群の連携を誇っていた国枝隊の連携は一気に瓦解する。傭兵たちの攻勢に押された国枝隊は遂に撤退を開始した。
『よくも私のオモチャにっ!』
 それまで高みの見物を決め込んでいた黒いタロスがこの時ようやく駆け付けた。
「落とせたのは、隊長機とはいえ一機だけ‥‥もし意識があるとするならば、速やかに纏めて葬りさることが最良の供養であったが‥‥こういう悪趣味な事をするクソはやはり、狙い澄まして出てくるんだな!」
 待機していた清四郎のミカガミ『剣虎』が迎撃に向かう。
『許さない! お前らを奴隷にしてあげるわ!』
「なるほど、改めて言っておく。お前はイカレてる」
 激昂するタロスのパイロットを一蹴して彼はK02で黒いタロスを攻撃した。
「きみのタロス、良い連携だったね‥‥。こっちも3機やられた。‥‥でも、彼女は一人で5機を落とした。それに比べたら、ぜんぜん成ってない」
 続いてノエルのロングボウII『verzweifelt Schmerz』がミサイルを一斉発射する。
「避けれるなら、避けてね。Der Sturm des Alptraumes!」
 ミサイルの嵐が爆発する。ペットが逆転されたことで動揺していた黒いタロス、そして指揮官を失い後退に入っていた国枝隊に、もはや戦闘を継続する意思は皆無であった。彼らは離脱の速度を速める。
「うおらああああ!」
 黒いタロスを逃がすまいと清四郎の機体が急降下攻撃をしかける。すれ違い様に、スラスターライフルとアハトアハトを叩きつける清四郎。
 しかし、国枝隊の一機が黒いタロスの盾になり、更に別の一機が攻撃後の隙をついて清四郎に襲いかかる。
そこに、空中変形した愁矢の機体が割って入った。盾でプロトン砲を防御しつつタロスに機関砲を放つ。
しかし、7機のタロスは瞬く間に射程の外へ飛び去った。

 作戦終了後、正規軍の証言から、撃墜された一機が間違いなく隊長機であったことを知り、清四郎は撃墜した場所へ花束と酒を置いた。
「さらばだ、戦友‥‥」
 静かに呟く。
 それを見て覚醒の解けたノエルが呟いた。
「にゃー‥‥?むー‥‥お酒‥‥足らない‥‥。買って帰る‥‥」
 ラナは周囲を哨戒しながら呟いた。
「‥‥なぜでしょう‥‥? 魂が漂う、この場には居たくない‥‥機械の‥‥私が、こんな感情を、抱く‥‥なんて‥‥?」

(代筆 : 稲田和夫)