タイトル:【AAid】奪われた報酬マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/15 15:01

●オープニング本文


(良い天気ですね‥‥)
 ぼんやりと窓の外を見れば雲海にくっきりと輸送機と護衛に付いたKVの影が映っている。
「中尉、疲れませんかね?」
「大丈夫ですが‥‥僕はもう軍人でないので」
 ああ、そうだった。と笑うパイロットに苦笑するのは、2月末日にUPC軍を辞めたアジド・アヌバ(gz0030)である。

 大規模作戦【PL】とその後の中国国内でのバグア軍の動きを分析したアジドは、240頁に渡る中央アジアと西アジアへの進軍についての上申書を書き上げた。
「年金も出ますし、僕のここでの仕事は終りました」とアジドは、辞表を提出したのである。

 他の文官とは異なった目線でGDABの建設の必要性を訴えたり、時には非情をもって、公然と親バグア派閥とはいえ民間人の暗殺を提案してくるアジドは、特異な存在であった。
 一人でも人が必要とされる時期での退官の申し出に上役は渋い顔をしたが、インドではそれなりに名の知れた軍人家系出身である。
 本国に帰る=インド軍への参入だろうと考えたのか、強く引き止めなかった。

「今の僕は、ULTの新米傭兵ですから」
 今後の事を考え、名目上、MSIに入るかそれともULTに入るのか悩んだが、「もしも」の事があった場合、周り迷惑がかかるだろうとULTを選んだアジド。
 引越し荷物をLHにあるS・シャルベーシャ(gz0003)名義の部屋に放り込んだ後、友人らと作ったお菓子を避難所の子供達へ配る為に中国行きの高速艇に乗り込むはずが、手違いから菓子といっしょに輸送機に乗り込む事になったのであった。
「ですが、もうちょっと早く輸送機の補助席に座るべきでした」
 シートの改善を開発部に申し出ている、と言って笑った。

 雲の切れ目から中国大陸が見える──あと30分で空港が見えるとパイロットが言う言葉が終らないうちに、赤い閃光が輸送機団を襲った。
 輸送機の前を守っていたKVが爆発し、左を守っていたKVが右翼を失って墜落していくのが見えた。
「メーデー、メーデー! こちら、CH707‥‥!」
 目の前を航行する輸送機が被弾して失速していった。
 副パイロットが振り返り、アジドに安全ベルトを確認するように言う。
「危ないっ!」
 護衛機の破片が操縦席を襲った。

 気絶していたのは、一瞬だろう。
 風がゴウゴウとコクピットに流れ込んでいる。
 通信士は健全のようであるが、パイロットらからは返事がなかった。
 滴り落ち、目に入る血を拭い。安全ベルトを外すとソロソロと操縦席に進む。
 直撃を受けたパイロットはスティックを握ったまま絶命し、副パイロットは一目で判る重傷を負っていた。
 破片を取り除き、副パイロットの様子を見る。
(この状態での治療は危険かもしれません)

 通信によれば襲ってきたHWは通常タイプのHW4機である。
 残った護衛KVがHWを引き付けてくれているおかげで今のところ、機体は水平飛行を保っていた。
 副パイロットに止血だけを施し、操縦席を探す。
(この型は記憶がありませんね‥‥)
 MSI製は見た事があったが、これはドローム製である。

 だが、マニュアル常備は軍の規定でも有ったはずである。
 ゴソゴソと座席を探してマニュアルを見つけ出したアジドは15cmはありそうな分厚いマニュアルのインデックスを物凄いスピードで読み始め、オートパイロットの項目を探し出すと死んだパイロットの手から操縦桿を外す。

 操縦桿は重く、がくんと機体は大きく高度を下げたが、素早くオートパイロットのスイッチをいれた為に再び安定飛行に戻った。

 間もなく本土から応援のKVは来るはずである。
 恐らく程なくHWは撃退されるであろう。
「さて、どうしますかね?」
 アジドは、大きく溜息を吐いた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
Innocence(ga8305
20歳・♀・ER
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
十六夜・朔夜(gb4474
20歳・♀・ST
夜月・時雨(gb9515
20歳・♀・HG
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD

●リプレイ本文

●人能做到
 輸送機団からの救援信号に近隣の空軍基地からKVが緊急発進をする。
 救援だけならば比較的よくある依頼である。
 だが、今回の緊急発進は少々勝手が違かった。

 HWを撃墜する事に軍の上層部も総意であったが、
 攻撃を受けている輸送機が問題であった。
 正パイロット死亡、副パイロット重症。
 オートパイロットで飛ぶ輸送機は30分飛行を続ければ空港上空に到着する。
 対策を取らず飛行をすれば輸送機が市街地へ突っ込む為に意見が割れていた。

 実際、HWの数は小型HW4機と少ない。
 HWを撃墜すればオートパイロットとビーコンで空港の側までは輸送機は来れる。
 だが、降ろすとなれば別である。
 操作ミスが惨事を招く可能性が高かった。

 何しろコクピットにいるのは重傷を負い意識不明の副パイロット、通信士、そしてアジド・アヌバ(gz0030)の3人である。
 大型トレーラーの運転手が急病で倒れてしまった為にたまたま乗り合わせた者が運転する位やっかいな話である。

 軍としては、HWが撃墜するまでの間に副パイロットの意識が戻らなければ、輸送機撃墜も市民の安全を守る為に仕方がないと考えているようだが、作戦に参加した傭兵達の気持ちは少し違ったようである。
 タイムリミットは30分──
 撃墜は最終手段と言いながらも全員が、破損した輸送機を空港に着陸させることしか考えていなかった。


「不時着は次善の策。撃墜など問題外だ」と言うのは、ウーフー2の篠崎 公司(ga2413)。
「アジドに万が一の事でもあれば、泣く娘がいるからな。ここはなんとしても無事に空港まで送り届けてやらなくてはなるまい。
 全力で事に当たる事としよう」というのは、HW攻撃の要を勤める雷電改2【忠勝】を駆る榊 兵衛(ga0388)。
「『空港着陸』が最優先です! 何しろ『規定』ですから、ね★」
「もちろんだ。空港に降ろす、これしか考えないよ。その為にあたしらは行くんだ」
 岩龍改とロジーナのコクピットで古河 甚五郎(ga6412)と翡焔・東雲(gb2615)が強く頷いた。

 きちんとした計画を立て、実行すれば輸送機撃墜は避けられるはずである。
 甚五郎はコクピットの3人に救命胴衣とパラシュート等の着用を求め、
 そして、ワイズマンの十六夜・朔夜(gb4474)と、
「本当は重大な決断に迫られるような重い依頼はあまり受けない主義だったのですがー。
 気が付いたら身体が勝手に動いてましたー」という功刀 元(gc2818)が輸送機を誘導するべく空港に向かっていた。



 一足先に空港に到着したワイズマンが着陸許可を求める。
「うちは十六夜・朔夜、傭兵や。航空管制で通信が繋がらんのは致命的やからね、うちに任せて」
『101−34554、十六夜、着陸を許可します』
「宜しゅう頼みます」
 朔夜が空港にやってきた理由を話す。
 空港側としては事故機が滑走路を塞げば業務に支障が出るが、彼等にとって輸送機は友人のようなものである。撃墜ではなく空港に着陸して欲しいのが心情である。
 だが、最悪のケース、2本の滑走路を塞げば空港は完全に活動が麻痺する。
 計算では2日間、他の輸送機が下りることが出来ない。
 ジレンマに苦しむ空港側としても緊急着陸のリスクを減らす傭兵らの申し出はありがたかった。
『我々には輸送機を掬う翼も、HWを退治する翼もない。地上に張り付いて見守る事しか出来ないが、君らが降ろすというならば降ろす事に全力での協力したい』と管制官達も協力を申し出た。

「あう‥‥。アジドお兄様‥‥」
 どん! ──廊下を急ぐ元とふらふらと歩くInnocence(ga8305)がぶつかった。どこか場違いな、大きなウサギの人形を抱えたままぺたんと尻餅をついたInnocenceがポロポロと涙を流すのを見て元が焦る。
「ごめん、怪我しなかった?」
「わたくしは大丈夫ですの‥‥。本部の依頼で‥アジドお兄様が危ない事をされていると聞きまして‥‥お兄様が心配で心配でどきどきしまして、足元がふらふらしますの‥‥」
  アジドの声が聞きたいと、輸送機と通信が出来る場所を探していたのだと言いながら、ぎゅーと人形を抱きしめるInnocence。
「アジドって、輸送機に乗っている人だよね。知り合いなのー?」
 元の言葉に人形に顔を埋めたまま頷くInnocence。
「じゃあ、一緒においでよー」
 元がInnocenceの手を取り立ちあがせる。
「わ、わたくしもないとふぉーげるを運転できますの‥‥」
「輸送機を無事空港へ着陸させる為、ボクも全力を尽くしますー。
 だって、幸せになるべく人を見す見す不幸にする事は許せませんからー」
 丁度、Innocence向きの仕事がある、とInnocenceを元気付けるようににっこりと笑う元だった。


 引きずり出されたケーブルがワイズマンと管制システムを繋ぐ。
「十六夜さん接続完了ですー! さあバグアの妨害吹き飛ばしましょうー!」
 同期させてジャミング効果を上げて、戦闘を担当するKVと輸送機にデータ送信を確保する算段である。
 口で言うのは簡単であるが、システムを一度ダウンさせて数秒以内に復帰させる。
 その間、管制区域を飛ぶ飛行機は全て影響を受ける。
 空には境がなく、飛ぶもの全て、仲間である。仲間は助けたい──
 管制区域を飛ぶ航空機全てが輸送機着陸に協力をしているという事であった。
「是で良し‥‥」
『電源を入れます』
「繋げますよ」



●我騎的翅膀毎
「今回は時間がない。速攻で決めよう」
「了解」
「異論なし」
「御容赦致しません、仲間は私が護ります」
 彼等の立てた作戦は、元々護衛についていた生き残りKVはそのまま輸送機の護衛ついて貰ってそのまま空港へ向かい、地上からのサポートを受けた傭兵のKVが連携してHWを素早く撃墜させる計画である。
 KVの時計合わせをする一同。

 円滑な作戦実行の為、兵衛がイビルアイズ(護衛機)にロックオンキャンセラー使用協力を求めると「諾」との返答が帰ってくる。
 護衛機だけは力及ばず。かえって手間をかけてしまって申し訳ない、というパイロットに「困ったときはお互い様だ」という兵衛。
「皆の無事に神の御加護を」
『戦場の修道女』リンクスを駆る夜月・時雨(gb9515)が祈りを捧げた。
 傭兵らの祈りが届き、神が微笑むかどうかは、彼等の働きに掛かっていた。

「此方フェンリル01。CH707、これより其方の支援を開始します」
『此方CH707、助かります』
 先程とは異なりノイズが軽減していた。
 どうやら輸送機はジャミング中和装置の範囲に入ったようである。
(これで少しは地上からの支援も受けやすくなるはずですね)

 雷電を中心に配した編成で、一斉射撃の初撃で半数を堕とす計画である。
「強気ですね。ですが、そういうのは嫌いじゃありません」
「ターゲットが射程内に入った」
「こちらもです」
「各機の照準を確認。カウント3、2、1──」
 空での管制を担当するウーフーがジャミング収束装置をONにする。
「──発射」
 雷電のK−02小型ホーミングミサイルが4機のHWに向かって一斉に飛んでいく。
 ウーフーのスナイパーライフルD−02とリンクスのスナイパーライフルLPM−1が空を貫き、
 ストームブリンガーでHWと輸送機・護衛機の間に割り込むロジーナ。
 動きの取れなくなったHWに岩龍のUK−10AAMがヒットする。
 そこに再びK−02の、今度は確実に2機を落とす為に、目標を絞ったホーミングミサイルが襲い掛かった。

「残り2機、叩き堕とすぞ」
 回避行動を開始したHWに対し、編隊をロッテに変えて襲い掛かる。
「ターゲット02を其方に追い込みます。止め宜しくお願いします」
 ウーフーが、UK−11AAMとショルダー・レーザーキャノンでHWを追い立て、3機の前に引きずり出した。
「此処は通しません、私の背中には護るべきモノが在る」
 リンクスの試作型G放電装置がHWを阻み、
「行かせるかよ」
 ロジーナのファンランクス・ソウルと岩龍の突撃仕様ガドリング砲が吼えた。

 大型火力機は雷電だけであったが、ウーフーの連携の隙がない指示で激しく追い立てられ逃げ場を失ったHWをリンクスのプラズマリボルバーが捉えた。
「私達の折り重なった力が貴方達に負ける事はありません」

 一方、ブーストに追い立てられたHWも必死に逃げ回るが、死角、死角へと回りこんでくる雷電についに捕まり、スラスターライフルの一撃で沈む。



●被奪回了的報酬
 HWを早々に撃墜したKVらも輸送機の護衛に加わり、空港へとやってきた。

 輸送機の外回りを確認した甚五郎が言う。
「外側綺麗なものです」

「いいですか、万が一、撃墜という事になったら燃料と積荷を投下。皆さんが脱出した後、精密射撃で撃墜です」
 既に空港周辺の船舶は退避し、救助ヘリも待機している。3分以内に救出しますから、手順を間違ったり、早まったことはなしです、と念を押す。
『信用なりません?』
「信用ならないです。年末にはその気配も見せなかった癖にしっかりInnoceceさんを彼女にした人は信用なりません」
 しっかり規定遵守してもらいます、と言う。

「此方航空管制塔、CH707、アジド君聞こえる?」
 ワイズマンから管制塔に移動した朔夜の通信にアジドから『感度良好』と返事が帰ってくる。
「是から着陸のレクチャーを受けて貰うけど、其の前に‥‥」
 朔夜がInnocenceにヘッドセットを渡す。
「お兄様とこれで‥‥お話しできますの‥?」
 緊張が漂う管制室に入ったInnocenceが落ち着かなげに辺りを見回す。

「あのね、お兄様。Innocenceですの‥‥あの、聞こえますかしら‥?」
『‥Innocenceさん?』
「あう‥お、お元気ですかしら‥」
 アジドの声を聞き、気持ちが一杯になってしまったInnoceceは、何を話したら良いのかよく判らなくなってしまった。
 普通に話しかけ、アジドをリラックスさせ、元気つけて欲しい、と言う朔夜に促されて、再びポツポツと話し出す。
「このあいだ‥‥可愛いわんわんさんとお友達になりましたの‥」

「美味しいポトフ作れましたわ‥あの、一緒に‥‥ランチ‥」
 明るく話そうとしても涙が出てきてしまい、上手く言葉が出ない。

「‥ランチ‥い、一緒に‥
  ‥‥お願い‥‥アジドお兄様‥‥‥

 無事に帰ってきて‥‥‥」

 ポタポタと涙を流しながら、消え入りそうな声で言うInnocence。
「‥と言う訳でアジド君には必ず生きて帰って貰うから、死んでは駄目だけど死ぬ気で頑張ってね」
 アジドと共に空港にある同型機にInnocenceが乗りこみ、元が探してきた同型機の熟練パイロットがレクチャーを行うが、それをInnocenceが『情報伝達』で伝えると言う朔夜。
 了解しました。頑張ります、と答えたアジドの声は落ち着いているように聞こえた。


「ヘリや消防車は着てますかー? 救護班準備完了してますかー? 人でが足りなかったら手伝います!」
 火災に備え、消化剤が滑走路の周囲に撒かれていく脇をパイドロスを着用した元が、駆け抜けていく。
「じゃあ、このホースを滑走路の先まで延ばしてくれ!」
「了解!」
 消防隊員にジョイントの繋ぎ方を教わると大きなホースを担ぎ上げる元。
「さあ! 時間がありませんよーキリキリ運んじゃいますよ〜!」



 不要な燃料を放出し、格納されていた脚を伸ばして着陸態勢に入る輸送機。
 滑走路の端に立つ元の頭をすり抜けていく。
「あと少し! いっけーーーーー!!」
「不味い、スピードが速いか?」
 侵入スピードが速すぎた輸送機が、オーバーランに侵入した。
 オーバーランの10m先には道路が8車線走っている。
 それを越えれば民家が近い。

 管制官の制御を無視して、滑走路の反対側に強制着陸した東雲。
「駄目だって言われて『はい、そうですか』って諦めるほど思いっきりがよくないんだよね」
『馬鹿野郎、死にたいのか!』
「冗談。輸送機を無事に到着させる。その先に、たくさんの笑顔があるんだろう?
 だったらやるしかないよね」
 と不適に笑う東雲。

 通常より速いスピードで侵入している輸送機のスピードは時速280km前後である。そして、荷物を積載した輸送機の重量は約40t。ロジーナに衝突した場合、パイロットの、東雲の命も危険になる。
『無謀だ』
「違うね、信じているのさ。人の力を」
『レーシィ、翡焔!! 逃げろ!』
『駄目だ、間に合わない』
(押しとどめる! ‥‥押しとどめたい!)
 人型に変形したロジーナが大きく手を広げた──






 全員の祈りが通じたのだろうか?

 ──ロジーナの数cm先で完全に停止した輸送機。

 管制室に、わぁ! っと歓声が上がる。
「ヒヤヒヤさせる‥‥」
 管制チーフが額を拭う。

「最後の配達ですー♪ さあ! Innocenceさん、行きましょうー!」
 パイドロスの後部にInnocenceを乗せ、滑走路を走っていく元。
 その脇を副パイロットを乗せた救急車がすれ違っていった。
「アジドお兄様っ!」
 通信士と挨拶をし滑走路を歩いてくるアジドを見つけたInnocenceが転げるようにバイクを飛び降りると走っていく。
 転びそうだと心配する元の目の前で、
「あっ!」
 思いっきり転ぶInnocence。
 だが、すぐに立ち上がってアジドへと走っていく。
 慌てて駆けよるアジドの胸に泣きながら飛びついた。

「お兄様、お兄様っ」
「すりむきませんでしたか? 前をよくみないで走ると危ないですよ」
 細い腕で力一杯、ぎゅっとアジドを抱きしめるInnocence。
「もう離れないですの! お兄様、大好きですわ‥‥♪ 」
 スタッフ達が小さな恋人に抱きしめられているアジドを労い、冷やかしていく。
「皆さん、お疲れ様でした。こっちに抹茶と美味しい京菓子を用意しましたよー」
 元と朔夜がワゴンを押してやってくる。
 はい、と朔夜が2人分のお菓子をInnocenceに渡すとウィンクをする。
「まだまだこっちに沢山有りますよ」
 そう言いながらお菓子に群がる人々を引き連れて行った。
「最近、貴女を泣かせてばかりですね‥‥」
 静かにInnocenceを抱きしめるアジドであった。







 この傭兵らの活躍は、暗い事件がいまだ多い北京近郊の、翌朝の新聞一面を飾った。
 救える可能性が1%でもあるのならば最後まであきらめず救おうとする彼等の姿は、多くの市民らの共感を呼んだのと同時に一部の市民には「結果オーライだが、一時的とはいえ市民を危険に晒してまでするべきだったのか?」と反発するものもいた。
 何れにしろ彼等の勇気ある行為により「ULTやUPCはバグアを追い払う事には熱心だったが、所詮それだけで何もしてくれない」という悪い雰囲気を一部払拭するのに役立ったようである──。