タイトル:黒馬訓練飛行隊01マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/05 04:20

●オープニング本文


 宮崎県新日原基地──。
 現在九州地方のUPC東アジア軍空軍本部が設置されているこの基地は、元々飛行訓練学校と言う前身を持っている為に現在も基地内に飛行教育航空隊を抱えている。

「新田原を卒業すると『戦闘機乗り』って言われたもんだが‥‥‥」
 バグア侵攻前迄はFナンバー(戦闘機)を飛行教育過程で使用するのは、新田原ともう一ケ所しかなかった。初期操縦過程と基本操縦過程、Tナンバーの基本操縦過程を過ぎればウィングマークが付与されるのだが、戦闘機は更に100時間の飛行訓練をこなさなければならないのであるのだが、どの戦闘機に乗るかにより訓練基地が専門特化されていた──が、それも過去の話である。

 今ではF−15やF−4、T−3らの隣にナイトフォーゲルが並んでいる。
 格納庫を眺め、溜息を吐く男、国枝中佐。

「なんだ、国枝。溜息なんぞ吐いて、暗いぞー」
 PXで買ったアイスクリームを食べ乍ら作業着姿の吉田整備兵が国枝に声を掛ける。
 上官に対しての規則違反甚だしい言葉遣いだが、下級兵の吉田を咎めるモノはいない。
 吉田は元は整備班長であったが一度定年退職していた爺様である。バグア侵攻を受け再雇用された凄腕である。破損した戦闘機から使える機材を見つけだす目と屑鉄から必要応じてボルトを削り出す高い加工技術を持つ職人でもあった。
 頼んだ以上の事をこなし、一度口に出したら必ずやり遂げるそんな頑固な職人技の整備兵だった。

「‥‥‥」
「ナイトフォーゲルのパイロットの事が心配か?」
 新しく配属されたという能力者達は、老若男女である。
 ナイトフォーゲルは各能力者に併せてカスガマイズされた特殊な兵器である。
 昔気質の国枝や吉田にとって、戦闘機のサイズに併せて戦闘機乗りは選ばれていた所がある。
 身長、体型、視力、聴力、判断力、病歴、様々に篩い分けられた選ばれた人間の中から、更に過酷な訓練に絶えられた者だけが戦闘機乗りにしかなれなかったものである。
「まあ、時代が変わったって事だろうがな」
 食うか? と食べかけのアイスクリームを差し出す吉田。

「自分が心配しているのは、操作よりも本人達の体力ですよ。敵レーダーを誤魔化す為の『距離0(ゼロ)編隊飛行』等はセンサーとAIがサポートしてくれるでしょうが、敵を振り切る為の急上昇や急降下、ロールをした時に素人に『身体が持つか?』というのが心配なんですよ」
 能力者として覚醒すれば筋力、聴力、視力、心肺力等は強化されるだろう。
 だが──。
「三半器官や胃腸が強化されたなんて聞きませんからね」
 実際、国枝が過去見て来た基本操縦過程を卒業したヒヨっ子共は、挨拶代わりに一見単純そうに見える360度大ループを体験させられる。その時入学したばかりの生徒の内数名かは途中で気を失ったり、吐いてしまう過酷なものである。

 国枝は非能力者だった。
 UPC軍東アジア軍の殆どは、自衛隊や各国の軍人で構成されるが、その全てがエミタ適合者とは限らないのだ。そして戦力も全てが、ナイトフォーゲルという訳ではないのだ。
 従来機のFナンバーやTナンバーの飛行機が今も現役で空を飛んでいるのである。
 それ故に国枝達教官らはプライドを持て、教育課程に配属されて来る新兵士を、例え非能力者であっても、能力者達に引けをとらない様、きっちり仕込んでいる自信があった。
「でも、あいつらはスター選手じゃないですか。幾ら外野や他が良くってもスター選手はスター選手らしくホームランを打つべきです。三振(撃墜や墜落)じゃあ周りが、がっかりします」
 国枝は自分の好きな野球に例えてみた。
「新日原から飛び立った奴が‥‥‥敵機と戦って帰れないのならば、まだ諦めがつきますよ。でも、もし自分らが手を貸す事によってイージーなトラブルから回避出来るのなら‥‥そう思うんですよ」
「じゃあ、どうすんだ?」
「上部に能力者の希望者が自分達の『飛行訓練に自主参加する許可を貰えるか?』と言うのを進言しようと思っています」
 国枝は吉田にこう言った。

●参加者一覧

井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
フィオ・フィリアネス(ga0124
15歳・♀・GP
メディウス・ボレアリス(ga0564
28歳・♀・ER
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN

●リプレイ本文

「うお、オレ以外皆女性っすか?」
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)が高速移動艇の中を見回し、嬉しそうに言う。
 出る所が激しく出っ張っている女性が多い為か自然と鼻の下が伸びる。
 皆が挨拶を交している中、己の膝にマジックで顔を書いている三島玲奈(ga3848)。
「なに、それ?」
「膝が笑ってるよ」とボケる玲奈。
「ミオは何を抱えているのだ?」
 可愛い熊さんアップリケのついたピンクの座布団を抱いているミオ・リトマイネン(ga4310)。
「身長対策だ。私はこれを見せ、国枝中佐に答えるのだ。『大丈夫。そう思って座布団を持ってきた』と」
 ふ‥‥と笑うミオ。
 窓の外を飛ぶ戦闘機に手を振る戌亥 ユキ(ga3014)。
「あ、気がついてくれました〜♪」
 手を振り返すユキ。

 滑走路に並んだ参加者達が国枝を見る。
「元陸自の意地を見せにやって来ました。よろしくお願いします!」
「名高い空自の訓練を受けさせて頂けるとは、光栄であります。Sir!」
 井筒 珠美(ga0090)とフェブ・ル・アール(ga0655)が国枝に敬礼する。
「我は自分の限界に挑戦する為に、限界がどの程度かを知る為に、限界を迎えてどの程度耐えられるかを実感する為に徹底的にやって貰いに来た。よろしく頼む!」
 敬礼をするメディウス・ボレアリス(ga0564)。
「自分を知ると言うのは大事な事だ、頑張りたまえ」
 3人に敬礼を返す国枝。
 滑走路に準備されているF−4EJを見て落胆するフィオ・フィリアネス(ga0124)。
「‥げ‥乗機ってF−4『ファントム』なのぉ?」
「正確には『F−4EJ改』だ」
 フィオの言葉を訂正する国枝。
「ぶー、どっちでも変わらない。だって、この子って祖父ちゃん世代がベトナムの空で使ってた子じゃないの。KVとは言わないけど『いーぐる』か『とむきゃっと』に乗せてよぉ〜」と駄々を捏ねるフィオ。
「ガァガァ文句を言うならレーダー無し、計器計算だけで飛ばさせるぞ」
 不機嫌に言う国枝。

 飛行服に身を包み、滑走路に一列に並ぶ能力者達。
「最初に誰が乗るかだが‥‥」
「1番手はジュエル君でーっす♪」
 女性陣が一斉にジュエルを指差す。
「え? オレっすか?」
「止めるのか?」
「いやいや、やらせてもらいますとも」
 女性の手前、引けないジュエル、それにどうせ何時かは飛ばねばならないのだ。
「2番手、立候補♪」とフェブが手を上げる。
 飛ぶ順番は、1番ジュエル、2番フェブ、3番珠美、4番フィオ、5番メディウス、6番ユキ、7番玲奈、8番ミオとなる。

「んじゃ、お先にっ!」
 勢い良く風防に頭をぶつけるジュエル。
「狭いんですケド‥‥」
「狭いのならヒーターやレーダー、必要無いものを吉田の親父さんに言って外してもらう」
「頑張ります‥‥しかし、これだと教官が前を見えなくなる恐れがありますが‥‥」
 座席ぎゅうぎゅうに詰まったジュエルが言う。
「前の景色が見えん位たいした事じゃない」
 あっけらかんと言う国枝。
「さて、君のUPCから貰っているデーターでは問題なく課題はこなせるはずだが‥‥」
「え、じゃあもちっと難易度の高い奴試してみていいっすか? できれば実戦で使えるようなやつ」
 ジュエルが喜々としていう。
「計器計算飛行か?」
「いや、インメルマンとか」
「取り敢えず課題を1回飛んでみろ、その間に考えてやる」
 だが、結局の所ループが綺麗な輪になっていなかったと360度ループばかり5回続けてさせられる事になるジュエル。
「っあ‥‥機体がミシミシいってんぞ。空中分解しないか、これ?」
「丈夫だけが取り柄のF−4EJ改だ。定点に戻ったらお楽しみのインメルマンだな」
 出来る奴はそれなりに、要求レベルが違う国枝特製個別カリキュラムである。
「綺麗な飛び方〜♪ 私もあんな風に飛べるようになりたい♪」
 呑気にジュエルのロールを眺めているユキ。
「‥‥これが戦闘機乗りってか」
 にこやかにステップを降りるジュエルだったが、良く見れば頬が引きつっている。
(「ひょっとして‥‥滅茶苦茶、大変なんでしょうか?」)
 青くなるユキ。

「中佐殿! 自分、激しいのが好みであります。噂に聞くマニューバで振り回して下さい。Sir!」
 戦闘機を前にキリリと言うフェブ。
「うむ‥‥」
 若干、微妙なコメントを聞いた気がするが聞かなかった事にする国枝。
「‥‥すごい‥‥こんなの初めて‥‥」
 課題を終え、帰投するF−4EJ改。
 風防が上がり、国枝がチェックした項目をフェブに伝える。
「特に技量に関しては問題ないだろう。もう少しスムーズな回避ができれば‥‥どうした?」
「中、中佐殿‥‥続きは、後で‥‥か、滑走路にブチ撒ける訳には‥‥うぷっ!」
 ステップも使わず、飛び下りたフェブはトイレ目掛けて一直線に走っていく。
 ゲンゲロゲーっ!
 洗っても微妙に酸っぱい匂いのするヘルメットと姑く付き合う羽目になるフェブであった。

 課題の後、マニューバにチャレンジすると言っていた珠美であったが、現在360度ループ2回目のチャレンジである。
「スピードあげんと、上まで辿り着けんぞ」
「ん‥‥ぎ、ぎ、ぎ‥‥」
 珠美が、歯御食いしばる。
 旧式のF−4EJ改はループで掛かる操縦桿の重さはKVより遥かに重い。
 力一杯、操縦を垂直に引いたつもりが、少しずれていたのだろう。ぐりん! と機体が90度ロールする。
「ん、なろっ!」
 焦った珠美は、更に操縦桿を倒してしまう。
「おー、気合いが入っているなぁ」
 地上で順番待ちをしているメンバーがグルグルとロールする機体を見て、感嘆を上げる。
「うぶ、ぶ、ぶ‥‥‥」
 目を白黒させ、咽まで上がって来る物を無理矢理飲み下す珠美。
 ブラックアウトで目の前が真っ暗になって行く。
 真っ白な空が見えた、と思った瞬間、ふっと意識が遠くなる。
(「あれー‥‥皆‥‥何? 来るのは早いって‥‥」)
「はっ?!」
 一瞬、何処かの川を見てしまった珠美であった。

「さて‥あたしの飛ぶ番ね‥じゃぁ、気合入れて行きますっ!」
 両手で顔をパシンと叩くフィオ。
「うわっ‥‥思ったより狭いかも」
 そう言い乍らシートベルトをフィオは締め‥‥締め‥‥。
「締まらない! く、苦しい。この安全帯、お胸と相性が悪い〜」
「‥‥脇に調節する所がある」
「あ、本当だ♪」
 自動車教習所の教官というのは、こんな気分なのかも知れない。
 そう思う国枝。
 そんな国枝の思い等知らず、フィオは管制室の指示に従って滑走路へとF−4EJ改を移動させる。
「どうする? いきなり自分でチャレンジしてみるか?」
「えー? うーん‥‥幾らあたしだって自分の力量を過信する程経験は積んでないし‥‥」
 国枝に模擬運動をまずして貰う事にしたフィオ。
(「あ、結構順調かも。これなら遊園地のコースターと変わりは‥ない‥は‥ず‥‥」)
 機体は背面のまま周の頂点に達している。そこから更に加速し乍ら、一気に降下して行く。
 目に前が真っ赤に染まって行くレッドアウトである。
 360度ループからバナーを吹かせ、急速上昇で3万フィートまで一気に上りつめる。
「おい?」
 静かになってしまったフィオに声を駆ける国枝。
 残念乍ら、フィオはKOされてしまったようであった。

『体力に自身無し!』
 そう宣言して訓練に望んだメディウスだが、何事も無かったのようにステップを下りる。
「ふ‥‥」
 怪しい笑いを赤い唇に浮かべて、そのままバタリとひっくり返るメディウス。
 360度ループに耐えた。まだ、余裕がありそうだとそのまま、本人希望のインメルマンターンを実施した。つまり540度のループ飛行から機体を正位置に戻す180度のロール運動を実施したのだ。
「じゃあ今度はこのまま、スプリットSを」
 再び180度ロールで背面飛行から下方向に180度ループ、機体を正位置に戻す。
 そこから一気に急速上昇でし、急降下に挑んだが、ぐるぐると元気よくシャッフルされたようであった。

「いいい、戌亥ユキ17歳、蟹座のO型テンパって‥‥いえ! 頑張ってます! じゃない! 頑張りますっ!」
「‥‥‥っ!」
 景気よく頭を下げたユキだったが、ヘルメットのバンドが止まっていなかったらしくビョーンと国枝の脛に命中する。
「ああああ、ごめんなさい!」
 慌てたユキは何も無い所でつんのめる。
 ユキの頭突きが国枝の鳩尾に決まる。
「ぐえっ」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
 ペコペコと謝るユキ。
 気力で持ち直し、チャートに従って、ユキをランディングに導く。
 その間もお経の様に繰り返されるユキの声が国枝のヘルメットの中に響く。
「吐いちゃダメだ! 吐いちゃダメだ! 吐いちゃダメだ! ‥‥‥っぷ」
 花も恥らう乙女としては、吐くのだけは絶対に避けたいと自己暗示のつもりで唱えているが、余計意識してしまいプレッシャーから気分が悪くなってくるユキ。
 頭の上からユキに吐からそうな妄想に取り憑かれる国枝。
 だが、360度ループがイザ始まるとそれ所じゃ無くなってしまう。
「嫌ァァァ! やめてとめてやめッ! おかあさぁーーん!」
 頂点から背面でそのまま下がって行く間も絶えまなく叫び続けている。
「キャアアア!! ‥‥‥うぉっぷ」
 ケンケロケーン。
 ステップをよろけるようにおりるユキ、目の焦点が何処かに行ってしまっている。
「うふふ‥‥‥終わった。なにもかも‥‥。穢れなき少女の私よ、サヨウナラ。天国のお父さんお母さん、ユキは汚れてしまいました」
 滝のような涙が溢れるユキだった。

「巻くぞ鳴門の渦潮ー! グルグル目玉の酔い止めのまじないやー」
 目の前で指をぐるぐる回し渦を書く玲奈。
 360度ループと上下運動の間にロールを入れる玲奈。
「私を中心に世界が回ってるう、ヒヒ‥‥」
(「戌亥と逆を行く五月蝿さだな‥‥」)
「うひひ、皆でまわしちゃる。きゃー恥ずかしー」
 ロールを繰り返せば、空気抵抗が多くなる分燃料消費量は多くなる。
「なんや、ちり紙かい。一等がでるまで回すでー」
(「『当り』より先にレッドランプ(燃料切れ)がつきそうだな」)
 ロールに飽きたのか水平飛行で一人漫才を始める玲奈。
「‥‥三島。ぼちぼち止めんと鮫の餌にするぞ?」
 副座の特権。双方に操縦者を強制射出するレバーがあるのだった。

 テイクオフは国枝の心配を余所にスムーズに行ったミオ。
 吉田が急遽作ったラダーペダル用高下駄を履いてのトレーニングである。
 そんな環境で綺麗に飛べた自分を誉めたやりたいミオ。少しだけ欲が、出たようである。
「バレルロールやロリーングシーザスを体験したいのだが」と言うミオ。
 どちらの技も見ている分にはダンスをしているようで優雅であるが、滅茶苦茶目が回る運動である。
「‥‥自分で操縦をするのか?」
 そう質問する国枝。
「いや、まず中佐にデモを行って貰ってから、次に自分でチャレンジしてみようと思う」
「それが良いだろう。さて、誰かに上がってもらう訳だが‥‥」
 地上戦では間違い無く他の能力者に引けを取らないミオだったが、F−15相手にシーザスを行った国枝の模範演技で目を回す事になる。
「まあ、曲芸をするにはもう少し訓練が必要だろう」
 キタローを握り乍らもお世話にならなかったミオ。
 顔面蒼白になり乍ら「ああ‥‥」とだけ答えたのだった。


●内緒だぞ!
 腕立て伏せをしている参加者達。
「外人〜♪ 外人〜♪」
 体操着にブルマー姿で歌い乍ら腕立てをする玲奈。
「はあ‥‥私、ハンディが欲しい〜」
 国枝がいない事に良い事に駄々を捏ねるフィオ。
「だったら、俺が代りに何回か持ってやろうか?」
 女の子限定笑顔向けるジュエル。
「皆、ジュエルが全部1人でやるって♪」
「違う、5割‥‥って1人50回で‥‥450回‥‥?」
(「これは、覚醒しないとヤバいか?」)
「ズルをするな、ズルを」
 何時の間にかジュエルの後ろに立っている国枝。
「ランニングしてからも1からやり直しだ!」

「いちばーん、気合い入れろ!」
「「おー!」」
「もっと、大きな声でいってみよか!」
 音頭を取って走っているのは、フェブと珠美である。
 軍のランニングと言えば怪しい唱歌がつくのが伝統である。
「F4ファントム乗ーるぞー♪」
 フェブの台詞を後ろを走るメンバーが繰り返す。
「コイツはどえらいシミュレーショーン♪」
「「バレルロール! インメルマン!」」
「声が、小さーい!」
 最後尾を走る珠美が声を駆ける。
「「「おー!」」」
「かーちゃんたちにゃーナイショだぞー♪」
「もっと、腹の底から!」
「Bullshit! I cant hear you!!」
「‥ゴニョゴニョ」と誤魔化すジュエル。
『タ「アー」マ「アー」ぁ「アー」落と「何にもキコエ」し〜』「ナーイ!」
 フェブの声を遮るように、耳を塞ぎ大きな声で叫ぶユキ。
「この場には2つしか無いのか。ともかく! 大声出せー!」
 意味が判ったフィオが赤面し、玲奈がにやりと笑う。
 ミオが不思議そうな顔をし乍ら走る。
「にばーん! バグアの〜♪」
 更に嬉しそうに歌うフェブ。
「‥‥歌はもう良いだろう」
 やはり赤面をし乍ら、ジュエルがフェブを止めた。


●鍋パーティ
「鍋を肴に芋焼酎を頂きたい所だが、基地内では無理か?」とメディウス。
 にやりと国枝と吉田が顔を見合わせて笑う。
 ブルーシートと鍋、食材、ヤカンを抱えて滑走路のはしっこ迄やって来る。
「寒ーいっ!」
 携帯コンロに鍋をかけ、地鶏のブツや魚、野菜達が放り込まれる。
「肉が少ない」
「五月蝿い。俺のポケットマネーから出ているんだ。文句を言う奴は食わんでいい」
「‥ハイ。ぜーたくは敵ですか‥了解です」
 元気なく言うフィオ。
 鍋の出汁が熱くなって来たところでつみれが投入される。
「しかし、酒なしか‥‥」
 メディウスが、がっかりと言う。
「まあ、そう言うな。代りに命の水をやろう」
 吉田が成人組に湯呑みを回し、ヤカンに入った水を注ぐ。
「こいつは‥‥」
「仮にも他の連中は、勤務中だ。堂々とは呑めんのでな」
 ドスンと焼酎の入ったヤカンが、シートの上に置かれる。
「おお♪」
「未成年者は、お茶とジュースだな」
 吉田が、缶ジュースをペットボトルのお茶を配る。

「あー‥‥始める前に一言言いたい事がある」
 国枝がシートの上に立つ。
「諸君らが滑走路に降り立った時、きちんと訓練が終了出来るか心配であった。だが5日間を過ぎ、諸君らは自分の予測よりも遥かに成長した。今回の訓練が諸君らに良い体験だったと自分は思いたい」
「スター選手として、ホームランをかまして見せますよ」
 フェブが国枝に向かって湯呑みを上げる。
「諸君らの健闘を祈る! 乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
 宴会をしている能力者達の上をF−4EJ改とKVが仲良く編隊で飛んで行った──。