タイトル:【SL】Loversマスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/22 22:08

●オープニング本文


(神様って居ないのかなぁ‥‥ハァ)
 待機所の大机の上に書類を広げ突っ伏しているのはチェラル・ウィリン(gz0027)である。
 先日提出した報告書にミスがあったと再提出を食らって書き直しである。
 能力者としてベテランの域に入り、数々の依頼をこなしているチェラルであったが、このレポート提出と言うのは何度経験しても得意じゃなかった。
 チームメイトたちはパソコンでレポートを提出すれば誤字脱字が少なくなるので使ってみたらどうだ? と勧めるが、チェラルはパソコンで打った文章はどうも人の温もりが少ないようで余り好きじゃなかった。

後回しにしてもしょうがないのだが、この状況からの脱出を願ってしまうチェラル。
(こう、ドキドキする推理とかサスペンスとかいらないから、ガーンと一発キメラを殴り倒すような‥‥)

 ビー! ビー!

 エマージェンシーコールが鳴り、待機所の赤い点滅等が激しく回転する。
 街中にキメラが多数現れたというのだ。

「やった、出動だ!」

 机から跳ね起きると愛用の武器を掴み、高速艇の待つ場所へと走っていった──。



「‥‥敵は、あれなの?」
「そうです、ウィリン軍曹」
 一番最初にキメラと遭遇した警察官がチェラルに敬礼をしながら答える。
 デート中のカップルや買い物中の家族を襲い、その被害は12名だ、と言う。

 バリケードの向こう側に居るのは、

 糸杉のように細くて背の異常に高い、真っ赤なロリータ服に、揃いの赤いパラソルを持った、どう見ても70代後半のシミと皺だらけの老婆。左手にはアニメの美青年キャラがデカデカと書かれた紙袋を持つ。
 そしてもう一人、警官隊のバリケードを気にした様子も無くバリバリと音を立てて何かを食べる非常に背が低く、ずんぐりむっくりとした。どちらかと言えば歩くより転がった方が早いだろうという体型をした20代前後の、脂ぎった顔をして大きなフライドキチンのパーティボックスを持った男である。


 なんとなく生理的パスしたい二人であるが、男が持つ箱からはみ出ている人の腕や足を見て、チェラルの鼻に皺が寄る。
「人食い鬼(オーガ)‥‥」

 バレンタインデーが近い為、週末の町は賑わっていたはずである。
「許せないよ、あいつら。僕がきっちり退治してやる」
 激しく拳を打ち鳴らすチェラル。

 その音に人食い鬼の雄と雌が気がついたようである。
 チェラルを見つめながら、
『あいじているよ、はにー』
『わたしもよ、だーりん』


 ぶちゅぅるちゅううう〜〜


 と、あてつけるように熱いキスをした。
「──なっ!」
 にや〜と笑う人食い鬼にキレたチェラル。

「僕だって、ちゃんと彼氏がいるぞ! でも、忙しいから一緒に居られないだけだよ!」
 昨年は色々あって恋人と殆ど会う事ができなかったチェラルであるが、それでも女の子である。
 バレンタインでーには、あんなこともこんなこともしてあげたいが、目の前にいるのは彼氏ではなくキメラである。
「僕のリア充の為に、片付けてやる!」
 報告書は何処へやら。

 覚醒するチェラルの足に翼のような紋章が浮かぶ。
「ウィリン軍曹!!」
「何?」
 警官の指差す方向を見れば、ゾロゾロと人食い鬼のカップルが、手を繋いで大量にやってくるのが見えた。
 誰かが叫んだ。
「本部に増援の要請を!!」

●参加者一覧

勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
九条・陸(ga8254
13歳・♀・AA
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
真白(gb1648
16歳・♀・SN
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
泉(gc4069
10歳・♀・FC
安原 小鳥(gc4826
21歳・♀・ER

●リプレイ本文

 警官隊の応援にやってきた傭兵は8人。
「バレンタイン‥‥みんな、楽しゅう、してよん‥‥じゃま、した‥‥あかん‥で‥っ!」
 むぅ、とした表情で言うのは、背に白い猿のぬいぐるみを背負った泉(gc4069)。
「しかし、バレンタインかぁ。バレンタインって言うと皆、チョコって言うけど俺はチョコよりおでんがいいな。おでん ない?」と言う絶斗(ga9337)。
「ショッピングセンター街にオーガなんて‥‥っ」
 閉じ込められているショッピングセンターの中にいた人達に被害は無いのでしょうか? と心配するのは、真白(gb1648)である。
「それは大丈夫みたいだね」
 パラパラとミーティングルームで配られた資料を見直す九条・陸(ga8254)。

 それによれば、街中に現れたオーガの内、凡そ半数を仕留めた警官隊とチェラル・ウィリン(gz00027)は、オーガの生き残り達をこのショッピングセーンターに閉じ込めた、となっている。
「そうですか、一安心です」
 新たなる被害者がいないと知り、ほっと息を吐く真白。
「それにしても、また悪趣味なのが出てきましたね」と言うのは沖田 護(gc0208)である。
「全く、オーガのバカップルとは‥‥どの層を狙ったのか良く解らないキメラを投入してきましたね」
 何となく肉体に比べて脳が脆弱な気する、と言う陸。
「どんなキメラだろう構わないさ。小遣い稼ぎぐらいにはなるからな」と言う絶斗。
「そうですね。どんなキメラでも凶悪なキメラには違いありません。
 これ以上の被害を出すわけにはいきません! 急いで退治しましょうっ」
「‥‥‥‥サクッと、終わらせましょう‥‥ええ‥‥」
 真白の言葉に、安原 小鳥(gc4826)を始めとした全員が頷く。
「今日の大鎌はひと味違っちゃうかもしれないよ」と勇姫 凛(ga5063)。
 違うフロアとはいえ、同じ仕事に恋人のチェラルが参加している。
 実に、凛がチェラルと会うのは年越しぶりなので気合も一入である。


 掃討作戦は全フロア同時に行われるが、
 8人は4階を担当し、チェラルと警官隊は他のフロアを担当する。
「前衛を3つ‥‥支援と遊撃班を1とし、キメラ3体の撃破に当たります‥‥。‥‥私は、絶斗様と‥‥前衛で対応です‥‥」
 確認の為、作戦を簡単に説明する小鳥。

 班分けは、

<前衛>
  凛と陸
  絶斗と小鳥
  愁矢と泉

<遊撃>
 真白と護

「にゃ‥‥秋月さん‥‥よろしゅうに‥‥な‥‥?」
 泉が秋月 愁矢(gc1971)に挨拶をするが、当の愁矢といえば、彼にとって重要な、別な事に気を取られていた。
(キメラでさえも‥‥リア充だと!? チョコとか何とか、まったく関係無い非リアの俺へのあてつけか!? オーガェ‥‥)
 妙なオーラを発する愁矢は、既にヤる気ムンムンである。
「リア充キメラヲブチコロス、ギギギギ‥‥」
 だが、はたっと泉の視線に気がつき、取り繕う愁矢。
「ゴホン、それにして許せないオーガだよな‥‥ははっ」


 エレベータの前でチェラルらと合流する傭兵達。
「はじめまして、沖田護です」
「今日はよろしくね」
「チェラル、手伝いに来たよ‥‥」とにっこりと微笑む凛。
「凛。仕事、大丈夫なの?」
 チェラルの思い違いでなければ今日、凛はTV仕事のはずである。
「べっ、別にキメラ退治にかこつけて、色々仕事をキャンセルしてきたとかそんなんじゃ、無いんだからなっ‥‥」
 思わず本音が漏れる凛。
「嬉しいよ、凛」
「‥‥凛だってチェラルと一緒に過ごしたかったから」
 真っ赤になって答える凛にニコニコと嬉しそうなチェラル。
「もっ、もちろん、人に危害を加えるキメラが許せないのもあるんだぞっ」
 周りの「こいつらもリア充カップルかよ」という白い目線にしどろもどろに答える。

 だが、バレンタインデーは恋人たちには重要な日である。
 小さな声でキメラを退治した後のスケジュールをチェラルに尋ねる凛。
「‥‥凛、丁度暇があるから」
「残念なんだけど‥‥」
 オーガ分の報告書は後回しにしたとしても、再提出を命じられた報告書の締め切りは今日である。
 テンションが下がるチェラルに、
「えっ、レポート? じゃあ、凛も手伝ってあげる」
「本当?! 僕、頑張るよ!」
 ブンブンと凛の手を握って振るチェラルであった。



「さぁて、稼ぎますか」
【オープンコンバット!】
 絶斗の【OR】BRAVEからメッセージが流れ、
【Psychic Girl,setup】
 アスタロトの装着を完了させた護。
「陣の内に、竜鱗の守りを」
 護の言葉に全員が頷く。
 守護神の加護が受けられるように、それぞれの前衛担当者らは、護を中心に動く予定である。

 ──チン!
 警官隊、チェラルを下ろしたエレベーターが4Fに到着する。

 春の装いに飾られていたはずのフロアは、ハンガーラックや衣類が散乱し、不似合いな血の臭いが充満していた。閃光手榴弾の効果を狙って灯の切られた薄暗い狭いフロアにウロウロと蠢くオーガの姿が蠢く。
 その中でムシャムシャと犠牲者の遺体を食い散らかすオーガ。
「被害者の手足‥‥。うわぁ‥‥悪趣味です」
 嫌悪感を隠せない真白。
 雄の右手には、ボロ雑巾のように引きずられた被害者がいる。
(生きているの‥‥?)
 真白の問いに「死人だろう」と首を振る凛。
「‥‥人を食材にするとは、いい度胸だ。デパートに来ればもっと美味い物があると思ったか?
 残念ながらここがお前たちの終点だ」
 愁矢が鴉羽を抜刀し、
「さて、では始めましょうか」
 黒いオーラを纏った陸の瞳に【残酷の黒】が浮かぶ。


「タルとゴリラか‥‥お似合いだな」
 一番手前にいたオーガの雄が能力者達の姿に気がつく。
『あいじてるよ、はにー』
『わたしもよ、だーりん』
 お互い向かって濃厚な投げキッスをする番。
 話に聞いていたとはいえ、リア充が不足していた真白が思わず精神的ダメージを受ける。

「キ、キメラのくせにー! うわぁあああんっ。リア充が何だって言うのー!
 あんな見た目のキメラのくせに見せ付けてー!
 あいつより私の方が可愛いもん!」
「‥‥真白さん、落ち着いてください」と宥める護。
 だが、多少なりとも知能があるらしいオーガはリア充が足りていないメンバーの神経を逆なでしていく。

『あいじてるよ、はにー』
『わたしもよ、だーりん』
 一組の番が手に手を取って、
 4人の方にタンゴのステップのような激しさで、ズドドドっと突進してくる。
 ヘスペリデスとプロテクトシールドを構えた護が真白を背に庇い前に出る。
「だーりん? はにー? ‥‥あいつらもリア充‥‥だと!?」
 ギラギラと闘争心を剥き出しの愁矢。
(キメラは敵だ‥‥リア充となれば尚更だ。否、むしろリア充は今のところ敵だ)
 だが、
「にゃっ‥‥もーっと、ラブラブなん‥‥知っとぉもんっ‥‥! まだまだ、やなー‥‥っ♪」
「‥‥もっと、ラブラブな奴を知っているのか?」
「にゃっ、もっとラブラブな知り合い‥‥おるんよ」
 一瞬、集中がオーガから外れ、泉に向かったのを見逃さなかったオーガの体当たりに弾き飛ばされる愁矢。
「ぐごっ、がっ!」
 プロテクトシールドがなかったら危ないところであった。

 楽しそうに体を揺する番が、濃厚なキスをする。
「‥‥答えは、これだよ」
 くだらないと護のヘスペリデスからエネルギーが発射され、
「はじ、らい、とかっ‥‥つつ、しみ‥‥? を、もち、なさーい‥‥っ!」
 泉が松風水月を振るう。

 ガキーン!

 雌が振り回す傘をすれ違いざまに叩き折ろうとした泉の松風水月に固い金属質の感触が伝わる。
「にゃっ‥‥ただのパラソルと‥‥ちゃうっ?」
 頭の上を通り過ぎる傘を避けながら、流すようにもう一刀を加える。
 流れた刃先が紙袋の美青年の顔を引き裂いたが、その下から金属が見えた。
「この外見は、あくまで『外見』で。傘は棍棒。紙袋は盾って訳か、面白い」

 背より横幅が大きい雄は足を負傷させれば立てないはずと考えた護が真白に言う。
「真白さん、大きい方のヒザを狙って」
「了解ですっ」
 小銃を構えるヒザを狙い撃つ真白。
 だが、雄は撃たれた膝をモノともせず。
 遺体を放り出すと太った体を丸め、ゴロゴロと転がりながら突進してきた。
「鬼なんかに、竜は負けない!」
 竜の咆哮を発動させ、雄を弾き飛ばす。
「泉さん! 秋月さん! そんな奴、容赦なくやっちゃってください!」
 素早く弾層を抜きかえると、ガンガンと撃ちまくる真白。
 真白と泉の連携で雌の傘が壊れた。


「真っ向勝負というと流石に力で押し切られそうですね」
 陸が愁矢を弾き飛ばしたオーガのパワーを冷静に判断し、言う。
『あいじてるよ、はにー』
『わたしもよ、だーりん』
 番のオーガが手と手を取り、全身でハートマークを作ってみせる。
「そんな見せつけられたって、凛、羨ましくなんか無いんだからなっ! ‥‥この後は凛だって」
 鎌を構える凛に対し、
「よく仕込まれていますね」
 そういうとM92Fを雌に向ける陸。
 反応する雌をそのままスルーし、陸はそのままポイントをずらすと雄に一発撃ち込む。
 フォローをしようと突っ込んでくる雌の脇をすり抜け、
 すれ違いざまに雌のヒザ裏目掛けて、一発放つ。
「この程度のフェントに引っかかるとは、やはり脳が脆弱ですね」
「クールだね」
「路辺の石にも劣る塵芥なぞ払い除けるのに何の感慨を抱くというのでしょうか?」
 しれっという陸。

 怒り狂って突撃してくるオーガ達に向かって真音獣斬を放つ凛。
 一瞬動きが鈍るのを見逃さなかった凛が、瞬速縮地を発動させるとローラーブレードを軋ませ、一気に2匹の間に割り込んだ。そのまま獣突の一撃を雄のみぞおち目掛けて叩き込む。
 凛のスピードに乗った一撃が雄の巨体を大きく弾き飛ばした。
「凛はあの太いのをやるから、もう片方宜しく」
「了解です」
 転げまわる雄の前に紫苑を構えて立つ凛。
「ほんとに愛し合う者同士なら、ああ言うことは見せつけるものじゃ、無いんだからなっ!」


「‥‥‥‥‥‥ハァ」
 繰り返される挑発行為に見るに堪えないと思わず目を逸らす小鳥。
 キメラに鴛鴦のような愛情という感情があるかどうかは別として、連携する2体を同時対応するのは面倒である。
「悪く‥‥思わないでくださいね‥‥っ!」
 迅雷で一気に間合いを詰めると、そのまま円閃を放って2匹を引き離す。

「ナイス、安原!」
 振り下ろされる傘をガントリーアームで受ける絶斗。
「放すかよ!」
 そのままガッシリとアームを引き寄せ、体勢の崩れた雌の脇にドリルアームを突き立てる。
『わたしもよ、だーりん』
「ふん、こんな時でも同じかよ」

「絶斗様!」
 後ろから襲い掛かる雄にエアスマッシュをぶつける小鳥。
 見事、雄の手から遺体を奪還する。
 再び遺体を掴もうとするオーガの前に素早く回り込み、
「あなたの相手は私です。‥‥雌が片付くまで‥‥邪魔は、させません‥‥!」
 マンティスを構える小鳥。
 形勢不利と連携隊形を捕ろうとする番を絶斗が【OR】ホイールレッグを唸らせ、割り込んでいく。
 スコルの激しい蹴りを雄に加えて弾き飛ばす。
「そう簡単にやらせねえよ」
【ガントリーアーム! ドリルアーム! フェイタルモーション!】
 ドリルアームが最終形態に変形したのを絶斗のBRAVEが無機質に告げる。
「アンカードリルクラッシュ‥‥!」
 激しい気合と同時にドリルアームを突き立てる絶斗。
「せいやああああああああああああああああ!」
『わたしもぉーーーーーーっ!』
 凄まじい叫びを上げて雌が倒れる。

『あいじてるよ、はにー!!』
 怒ったように鳴き声をあげる雄。
「気が抜けるんだよ、それ」
 絶斗と小鳥が目で合図をする。
「次は、お前だ」と絶斗が首を鳴らす。
 第2ラウンド開始の合図は、小鳥の円閃であった──。


 愁矢が仁王咆哮を使い、オーガを引き付ける。
 泉の苦無の攻撃で注意が逸れた所を鴉羽を雌の体に突き立てる。

 それに怒った雄が振り回すのは、被害者である。
 既に死亡し、遺体となり、オーガに引きずり回されボロ布のようになっても
 被害者は被害者であると、
「むーっ‥‥死んだ、人に‥‥そないな、こと‥‥した、あかん‥‥っ!!」
 遺体を傷つけないように避けながら、滑るように小鳥の松風水月が動き、オーガの腕を斬る。
 泉に腕を切られた雄の怒りは頂点である。
「ぴっか、ぴか‥‥行っく、でぇー‥‥っ♪」
 泉の言葉に全員が目を庇う。

 閃光手榴弾の激しい閃光がフロアを満たした。

 目を光に焼かれたオーガ達が咆哮をあげて、立ちすくむ。
「にゃっ、にゃっ♪ すっき、だーら、けー‥‥っ♪」
 プロテクトシールドで腕を払い、
「リア充は死ねぇええええええええ!!」
 鴉羽が、愁矢の怒りの一突きが、雄の喉を突き通した。


 被害者の遺体に布を掛けていく傍ら、
「全部倒したか?」
 1つ、2つ、と倒したオーガの数を数えていく。
「ああ、6匹いる」

 オーガの血で汚れたフロアは、惨状であった。
「ん〜‥‥お掃除、私がすると‥‥逆に汚れそうですが‥‥」
 イメージを大事にするショッピングセンターは恐らく封鎖されるだろう。
 恐らく着る主を迎えられないまま処分されるだろう華やかな服達も哀れと、血の臭いが染み付くのをふき取りたいと思った小鳥が、手近にある布で引っ張った。

 ドンガラガッシャン。

 布に絡まったハンガーラックの束が倒れて、血に汚れた服を増やしていく小鳥。
「‥‥触らない方が‥いいですね」
 思わず溜息を吐いた。


 全てのフロアで戦闘が終結し、犠牲者の遺体が担架に乗せられ搬出されていく。
「コレ位しか出来ないが‥‥犠牲者に対して祈ろう。敵は取ってやった‥‥安らかに眠れ」
「食べられた、人は‥‥お空の、上で、楽しゅう、でけとる‥‥やろかに‥‥?」
 愁矢が頭を垂れ、泉がぬいぐるみを抱きしめ空を仰ぎ、祈りを捧げた。





 そして──

「じゃあ、出してくるからちょっと待っていてね」
 凛に手伝ってもらい完成した報告書を受付に持って行くチェラル。
 処理が終るまでロビーに座る二人だが、一緒にいられる時間は短い。
 軍属であるチェラルの次の任務は、既に決まっているのだ。
「また、暫く一緒にいられないね」

 思い出したようにポケットを探るチェラル。
 ──セーフだよね? と言って、凛に小さなチョコを渡すのであった。