タイトル:上海的回憶日記マスター:有天

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/30 13:46

●オープニング本文


 青く澄み切った空に一筋の煙が高く上がっていく──。
 それをベンチに座ってぼんやりと見つめるユリア。

(「キースがいなくなってしまったのに‥‥不思議‥‥」)
 キースが死んでしまったらきっと自分も生きていけないと思ったのにこうして生きている──そして‥‥悲しいという気持ちはあるのに不思議と涙が出なかった。

 きっとその顔がとても穏やかで、優しく眠るようだったからだとユリアは思っていた。




 AIを外す為にラスト・ホープに向かう前に、回復することなく死んでしまったキース。
 その青い瞳がユリアを見つめる事無く逝ってしまった──


(「あの時‥‥ユリアの手をずっと握ってもらっていなければ‥‥きっと‥‥」)


 公園でキースに殺されてもよかった──
 ユリアは、そう思っていた。

 ユリアにとってキースが全てだったから──
 キースがユリアが死ぬ事を望んでいれば叶えてあげたかったと思っていた。


 でも、今は‥‥‥こうして生きていてよかったと思う。





 ちゃんとキースを見送る事ができたのだから──


 ***


 火葬のトレイに残ったのは、能力者の証だったAIだけだった。

 薬に侵され骨も燃え尽き、灰も残らなかった──でも逆にキースらしい。

 ただ白い煙になって 今度こそ誰に縛られることもなく──


(「やっと‥自由になれたんだよね?」)



 係りの男が焼け焦げたエミタを指差して「どうする?」と尋ねる。
「捨てて‥‥ください‥‥‥‥」

「ユリアは‥キース‥‥ずっと一緒‥‥ですから‥」
 切った長い髪を一緒にお棺に納めてもらっていた。
 ユリアはキースと煙になってずっと一緒にいる──。

 それにもし苦しくなったり悲しくなったとしてもキースは、ここにいる。
 そういって耳を触るユリア。

 キースが別れる時にくれたピアスである──。

 ***

「この後、どうするアル?」
 ずっと付き添ってくれていた呉運輸の呉 大人が言う。
「ユリアは‥キースが‥‥何故‥舞踏王に‥‥選ばれたか‥知りたいです」
 だからインドに行くという。
「呉社長‥‥には‥色々‥お世話になり‥ました‥‥」
 借りていた部屋の処分を頼むユリア。

 ぺこりと頭を下げるユリアにこう言葉を贈る大人。
「私も大事な末妹が死んだ時、とても、とても悲しかったけど涙が出なかったアルよ」
 ただあんまり悲しかったから天職だったと思った仕事を辞めて、弔い代わり兄弟たちで今の仕事を始めたのだという。
「大人の前の仕事?」
「言わなかったアルか? 軍警察にいて親バグアを取り締まってたアルよ」
 親バグア、反バグアに係わらず鬼と恐れられていたが、ある時獄中で死なせた男の家族に妹を殺されたのだ。
 20年も前の話アル。と大人が苦笑する。
「だからユリアさんがインドに行っても無茶をしないといいと思っているアルよ」
 クシャクシャと頭を撫でる大人。

「ところで友達にサヨナラは言ったアルか?」
「それは‥」
「まあ、ユリアさんは能力者アル。お友達の傭兵とは仕事で会う機会もあるだろうが、今までのように遊べなくなるアルよ?」

 外灘近くの遊園地のチケットをユリアに手渡す大人。
「こういう思い出が、一番力になるアルよ」

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF

●リプレイ本文


「そうか‥‥キース、死んだ、か」
 そういうとアンドレアス・ラーセン(ga6523)が、紫煙を空へと吐き出す。
「うん‥‥」

(「キースは『むこう』で上手くやってるかな? 彼と会えたら、きっと良い友達になれる。なんてね‥‥」)
 黒いステアーに体当たりをして死んだ大事な親友を空閑 ハバキ(ga5172)は思い出し、胸が痛くなった。

 キースと交わした最後の言葉を思い出す。
(「キースの頼みは何だったのかな?」)
 ユリア・ブライアント(gz0180)の事なら、頼まれるまでもなく当然で。
 何か他にキースがしたかった事が、あるのだろうか?

「俺は何か言える程、彼らには関われなかったけど‥‥キースとユリアの『音』だけは耳に残ってるぜ」
 アンドレアスにはハバキが親友が酷く傷ついているのは判っていた。
 それでもユリアに会いに行くというがハバキが痛々しかった。
「どいつもこいつも死に急ぎやがって‥‥ああ、ひでー空だ‥‥晴れてやがる」

 俺もついていってやろうか?
 アンドレアスの思わぬ言葉に振り返るハバキ。
 その気持ちが嬉しく、心地よかった──。



「ユリア。キースの事、聞いたです」
 シーヴ・王(ga5638)が残念な面持ちで言う。
「‥‥キースは目覚めねぇままだったですか。一言でも‥‥ユリアと話せると良かったですが‥‥少なくとも、悪夢からは目覚めたはず、ですよね?」
「助けたつもりで死んでいるであろう結果は考えもしなかったよ」と麻宮 光(ga9696)が言う。
 首を横に振るユリア。
「皆のせい‥じゃないです‥‥」

 キースの死が、皆の心に黒い影を落とした。
 世界規模の戦争である以上、ユリアだけではなく、
 誰もが容易く愛しい人を失う時代、だからこそ今の思い出が必要だと──

「少し気分転換はしないとな」と微笑む光。
「ユリアも進む道決めたみてぇですし、上海お別れ記念です。ユリアと一緒に思いきり遊ぶですよ」
 気持ちを切り替えたシーヴが、ぐっと握りこぶしを握る。
「ちゃんとお弁当も、皆の分も持ってきました」
「皆の分?」
「そうです。大地も荷物持ちで一緒です」
 シーヴの示すほうに、大きなバスケットを抱えた天原大地(gb5927)がいた。
「ま、力仕事なら男の役目だからな」
 折角だからその勇姿を撮っておくです。とパチリとシャッターを切る。
 そんなやり取りにユリアがクスリと笑う。
「ま、ユリアに楽しんでもらうこと。それが大前提だよな」
 ポリポリと頬を掻く大地。

 次々にやってくる参加者がユリアに声を掛ける。
「今日は誘ってくれてありがとう♪ いっぱい楽しみましょうね♪」
 手の怪我を謝罪し、何時ものようにユリアをハグする冴城 アスカ(gb4188)。
「偶にはこういうのも良い物ですね」と鳴神 伊織(ga0421)が微笑む。
「よーお、久しぶり♪ ちったぁ丈夫になったか?」
「アンドレアスさん‥‥お久しぶりです‥」
 ペコリと頭を下げるユリア。
「‥今日は‥‥‥目一杯‥楽しみましょう」


「一緒に後で写真とりましょうね」
 そう言う星月 歩(gb9056)と光は、暫く別行動である。
 二人で手を繋ぎ園内に入っていった。



「まずは何から乗る?」
「ねぇねぇ、あのジェットコースター乗ってみない?」
「やっぱりジェットコースターからでしょう?」
「うん、とりあえずコースター押さえんのは基本だよな」
 皆の誘いに頷くユリア。

 時間つぶしにおしゃべりをしていれば待つ時間もアッという間である。
「‥‥実は乗るの2回目です」というシーヴ。
「‥コースター‥‥怖いですか?」
「怖くはねぇですが、顔固まってるかも‥‥ユリアがこういうの平気だとは、意外です」
「‥よく‥‥言われます」
 苦笑するユリア。
「俺は久しぶりだな」とアンドレアス。
 伊織が袂からヒモを取り出し袖を纏める。
「伊織さん、本気モードですか?」
「ふ‥‥」
 きらーんと瞳を光らせる伊織。

「急降下は隣の人と手を繋いで万歳ですよ?」
「全員万歳‥‥♪」
「なにそれ、全員万歳って」
「正しい乗り方です‥」
 そんな事を言っている間にコースターが頂点に達する。
 ゴォオオオオという轟音とともにコースターが急行下を始める。
「‥‥てか怖ぇ!」


 乗り終わった早々、もう一回乗りに行くユリア達。
「元気だな‥‥」
 アンドレアスがジェットコースターを見つめる。
 上の空のハバキに気がつき、小突く。
「ほら、しっかりしろ。ユリア達が手を振っているぞ」
「ああ‥‥」
 そんなハバキを見てアンドレアスが、ヤレヤレと溜息を一つ吐く。


 次の遊具に乗る前にソフトクリームを買うアスカに、水筒の冷たいお茶を配るシーヴ。
 楽しいからって休憩無しはご法度である。



 一方別行動の光と歩。
「何をする?」
「さて‥‥何をして遊びましょうか?」
 特に乗りたい遊具とか私はないですが──と歩に言われて焦る光。
「ない? 本当に?」
「はい、お兄ちゃんと一緒ならそれで幸せですから‥‥」
 さらっと歩に言われて赤くなる光。

「でも、暑くなってきたのでアイスとかジュースとかでも飲んだり食べたりしながら園内を回ってみるのもいいかもしれないです。どこか景観の良い場所があればそこで写真撮ってもらったりお話しするものいいですね」
「いいのか、そんなので?」
 光の問いに歩が答える。
「だって‥‥今こそこうして一緒に何かをしたりするのが当たり前のようになっていますが‥‥」
 時には急がないで、こうしてゆっくり過ごすのも1つの大事な思い出になると思いますし。と歩が笑う。
「確かにそうだな」

(「もし私がまた記憶をなくしてしまった時に、こうゆう自分の姿や大事な人達との思い出の品があれば思い出すきっかけになるかもしれないですね‥‥」)
 そんな言葉を飲み込む歩。

「じゃあ、今日はブラブラと食べ歩きでもしてみるか」
「ハイ♪」
 光の腕に腕を絡ませる歩。

(「私が目を覚ました時には何もなかったです。そしてまだ‥‥何もまだ思い出す事はできないけれど‥‥」)

 歩の胸元で光が贈ったペンダントが輝く。

(「今の私にはお兄ちゃんがくれた大事なペンダントが私の記憶を繋ぐ糸‥‥」)

「でも食べ過ぎて太った〜ってのは、なしだぞ」
「お兄ちゃん、ひど〜い!」

(「今日まで過ごして来た9ヶ月の想い出は、それを忘れさせてくれるほど‥‥」)


  楽しくて‥‥
   一緒にいることが嬉しくて‥‥充実している。

「ゴメン、ゴメン!」
「じゃあ、罰として何を奢ってもらおうかな♪」
 楽しそうに笑う歩であった。



「トリックアート? 何それ」と大地が尋ねる。
「騙し絵の事です」
「ええ‥‥他のと比べると些か地味ですが、楽しめるのではないかなと‥‥」と伊織が誘う。
「偶にはこういうもんで素直に騙されてみるもんだぜ?」とハバキの背中を押すアンドレアス。

 本物そっくりのパンや、
 今にも水が零れそうな花瓶‥‥

「すげぇよな。これ全部錯覚で見せてんだよなあ」
「こっちを見てください‥‥はい、笑って」
 ユリアとシーヴの写真をパチリと伊織が撮る。
 色々な騙し絵が彼等の眼を楽しませる。
「こういうのを見ると世界の何がホントかなんて解んねぇよな‥‥」
「何がホント、か‥‥」
 ぽつりと言うハバキ。

 ふと気がつけば通路にいるのはユリアと伊織だけだった。
「キースさんは逝かれたみたいですね‥‥」
 伊織がポツリと言う。
「大事な人がいなくなれば悲しみもありますが、悲しみ以上に楽しかった事、嬉しかった事や他にも思い出が残るのではないかな‥‥と、少なくとも私はそう思います」
 暫く伊織の顔を見つめた後、小さくユリアは「ええ‥‥」と言った。
「私も両親は小さい頃に既にいなくなりましたが、悲しい事ばかりではありませんでしたし」
「そうですね‥‥‥でも‥ゴメンなさい。伊織さん‥」
 話したくない話をさせてしまったのではないかと、伊織に謝るユリア。
「いいえ‥‥私が話したいと思ったから話したのですから」と微笑む伊織。

 トリックアートから出た所で、
「じゃあ、私はこれから先は一人で回りますね」
 一緒にお弁当を食べようと言うユリアに、
「ユリアさんと積もる話がある方もいると思うので」
 野暮はしたくない。と伊織が微笑む。
 残念そうな表情をするユリアに、
「でも、記念撮影や皆で何かすると時は参加しますからね」
 呼んでください。と伊織は言うと、人ごみに紛れていった。



「しっかり運んだ分は食うぜ?」
「勿論です。腕によりをかけたです」
 お弁当を並べていくシーヴが、サムズアップする。

 メニューは、
  韮が少なめの餃子
  ミートオムレツ
  ボイルキャベツのサラダ、他
  おにぎり各種
  キャロットゼリー

「ユリアが嫌いなモノも、食べられるように頑張ってみたですが‥‥?」
 野菜は極力小さく刻み、卵には確り火を通し、ふわふわ感を大切に仕上げたという。
「人参もゼリーなら食えるんじゃねぇかと、どうですかね‥‥?」
 ドキドキしながらシーヴが見つめる中、ユリアがゼリーを口にする。
「‥‥‥‥‥美味しいです」
「んじゃ、俺も」と言って大地が餃子に箸をつける。
 うん、美味いよ。
 二人の言葉にほっとするシーヴ。
「結婚して‥‥お料理、上手に‥なりました‥ね‥」
「私もお昼に混ぜてもらっていい?」とアスカがやってきた。
「勿論です」
「皆で食べた方が美味いぜ♪」



「アレ乗ろう!」
 回転木馬を指差し、ハバキがユリアを誘う。
「シーヴも乗るです♪」
「回転木馬だけは勘弁してくれ」という大地と、
「あ、俺も流石にメルヘンワールド過ぎるからパス」
 代わりにカメラマンするから。とアンドレアスが柵の外に行く。

 ユリアをお姫様抱っこで抱きかかえ、そのまま「ひょい!」と乗せるハバキ。
「しっかり捕まっててね」
 ジリジリと始動のベルが鳴ると優しいメロディに併せてゆっくりと回転木馬が動き出した。
「見てごらんよ。さっきまでと、ここからだと、だいぶ風景が違って見えるね」
 そう言いながら馬上から外の人達に手を振るハバキ。
「きっと、俺の認識している景色、ユリアの景色、キースの景色。みんな違ってた‥‥」
「?」
「‥‥俺も、キースが見てたものを見てみたい」
「それは‥‥」
 ユリアが、ハバキの真意を測りかねたように困った顔をする。
「答えは急がないから‥‥」


 クルクルと回る回転木馬を見ながらキースを思い出す大地。
「結局俺、アイツとは一度もまともに話しちゃいねぇんだよな。全く‥‥文句くれぇ言ってやりたかったのによ」
(「仲間だって居たのに一人で無茶して‥‥勝手に逝きやがってさ‥‥。アイツぁバカだよ。大バカ野郎だ。
 ──けどアイツの守ろうとしたもんは俺らで支える」)
「あの世で見てな、キース!」


「あれ? アンドレアスさんは?」
「お待ちどう。みんなの分、アイスを買ってきたよ♪」
「気が効く」
「ご馳走様♪」
「あ、男からは後で徴収するぞ!」
「えー?!」
「ケチ!」
「ケチだとコラ! 文句があるんだったら返せ!」
「だめー。もう食べちゃったよ〜ん」
 ワハハと笑いが起こる。



 休憩を交えながらゆっくりと回る為、そうそう数に乗れないが、それでも外せないのが観覧車だと拳を握るシーヴ。
「やっぱり、遊園地っていったらコレです!」
「俺はちょっと買い物に行って来る」
 シーヴと二人、たっぷり話しとけよ。と大地。

 沈む陽をじっと見つめるユリアにシーヴが言う。
「泣かないコトと強くなるコトは違ぇですから、もし涙が出てきても、それは我慢しねぇでいいです」
 無理をして笑うのも大事だが、無理しすぎはいけない。と言う。
「今まで通り、これからも何かあったら必ず‥‥なくても呼んでくれです」
 ゴンドラを降りたユリアをギュウっと抱きしめるシーヴ。
「うん‥ありがとう‥‥‥‥シーヴ」
「‥‥シーヴの大事な親友」



「記念に集合写真を撮るです」
「集合写真‥‥?」
「光の提案だよ」
「まぁレトロと言えばレトロかもしれないが。だが今後少しでも何かの力になればいいかな‥‥と俺達なりのプレゼント?」と光。
「はーい。これは俺からのお土産でーす♪」
 ジャラジャラとキーホルダーを全員に配る大地。
「う‥‥いや、いや本当は仲間の証とかそんな感じなんだけどさ。ちとクセぇかな?」
「‥‥ベタ」
「ベタって言うな〜!」
「いいじゃない褒めているんだから」とアスカに小突かれる大地。
「1個多くない?」
「いーんだよ。これはキースの分だから」

 通りかかった通行人に全員のカメラを渡すシーヴ。
「あと、ユリア。携帯電話出すです」
「携帯?」
 ゴソゴソとポシェットから携帯電話を取り出すユリアから携帯電話を受け取ると、通行人にこれでも撮って欲しい。と言う。
 嫌な顔もせず写真を撮ってくれた通行人に礼を言い、今度はユリアと並んでツーショットを撮るシーヴ。
「これで、何時でも一緒です」
「ユリアちゃん、私ともツーショット撮って!」
 結局、全員でツーショットを撮る羽目になる。



 閉演を告げる音楽が寂しく園内に流れている──
「今日は楽しかったです」
「良かったです‥‥」

 別れの挨拶を交わす中、アスカが思い切って尋ねる。
「‥‥ユリアちゃん、これからどうするの?」
「それは‥‥」

「インドに行くんだって?」
「‥‥皆さん、耳が早いですね‥‥」
「まだ闘い続けるのか‥‥今はその方がいいのかもな」
(「泣ける日が来るまで」)
 そう口の中で呟くアンドレアス。
「でも、弾き続けるんだろ?」
「‥‥‥‥」
 首を横に振るユリア。
「ユリアが‥音楽を‥‥始めたのは‥キースや‥‥仲間達がいたから‥です‥」
「俺らは弾くのをやめるなんてできやしないよ。だからまた、いつか聞かせてくれよ」
 クシャクシャとユリアの頭を撫でるアンドレアス。

「実はさ‥‥もうちょっと沈んでっかと思ったから、安心した」
 前はすんげぇ泣いてたのにな‥‥。と大地が言う。
「そんなに‥‥泣いていましたか‥?」
「うん、すんげぇ泣いていた。自立し始めたんだな」
 大地に言われて苦笑するユリア。

「まぁ‥‥さ。色々あったけど、俺達はもう仲間だ。何かあったら呼びな、どこに居たって助けに行ってやる!」
「ユリアちゃんが決めたことならとことん着いて行く。それが友達だからね」
「さようならは言いません。ユリアさんとは、遠からずまた会える気がします。何となくそんな感じがするので」と伊織。
「困った時はいつでも呼ぶんだぜ。仲間の仲間は俺にとっても仲間であるからな」と光。
「ユリアちゃんもこれからきっと大変だと思いますが、私達にできる限りは協力してあげたいと思います」
 そう歩が言った。
「‥‥‥‥ありがとう、皆」

 ユリアが一人一人の手を握る。
 その温もりを忘れないように──