●リプレイ本文
「鹵獲FRの輸送に失敗したのは、二年前の今頃でしたか。今でも時折頭を過ぎる苦い思い出です」
東アジアの某基地にて、新居・やすかず(
ga1891)はそう語った。
「あの時は為すすべもなく早々に撃墜されましたが、僕もS‐01Hもあの時と同じではありません。あの時と積荷は違いますが、成長の証を示しあの敗戦を乗り越える良い機会です」
青年はそう言って巨大な輸送艦を見上げる。輸送機ガリーニンだ。
「ガリーニンかぁ。結局、戦局を支えるのは補給隊の様な地味だけど堅実な仕事をこなす人たちなんだよね」
そう述べるたのはソーニャ(
gb5824)だ。決意と共に女は言う。
「尊敬と敬意を込め、守りきってみせるよ」
かくて、傭兵達は愛機に乗り込み、そしてガリーニンと共に蒼空へと舞った。
●
青い青い洋上。轟音をあげ黒金の巨大な艦が十五機のKVに守られながれ飛行している。
『フェニックスライダー、希崎 十夜。護衛の任に就きます』
護衛機のうち一機、F‐201Aに搭乗する希崎 十夜(
gb9800)が輸送機の兵と交信している。どうやら直衛につくらしい。
「しかし、あのデカブツを浮かべようとは、思い切った事を考えるものだな」
XF‐08D改2を駆る榊 兵衛(
ga0388)が言った。
「まあ、それで戦術の幅が広がるというのなら、俺たちにとっても歓迎すべき事なんだろうが‥‥」
「UK3番艦、「轟竜號」の水陸艦用の部品ですか‥‥UK2が大破状態の今、UK3が水陸艦になってくれれば心強いですね」
というのはアクセル・ランパード(
gc0052)だ。乗機は希崎と同じくF‐201A。
「水陸両用艦は浪漫ですね。サイエンティストの矜持として人類の夢を潰させる訳にはいきません」
頷いて藤田あやこ(
ga0204)。こちらはPM‐J8だ。
「そうだな。アクセル君、こういう仕事で一緒になるのは初めてか。よろしく頼む」
とラナ・ヴェクサー(
gc1748)。乗機は鈍青のMX‐0。
「なんだかここが当りのような気がしますね‥‥絶対に守りましょう」
紅桜舞(
gb8836)もまた言う。こちらもF‐201Aだ。
「はい。皆さん、なんとしても運びきりましょう!」
とアクセル。この任務にかける傭兵達の士気は高いようである。
大西洋を飛ぶことしばし、不意に無線にノイズが走り、哨戒機からES‐008‐2に搭乗している篠崎 公司(
ga2413)の元に報が届けられた。
「――こちらフェンリル01、哨戒隊より敵機接近の報が入りました。敵の編成は本星小型HW一機にタロス一機、そして小型HW二機との事です」
篠崎の言葉に傭兵達の間に緊張が走る。
しかし、
「四機‥‥ちょっと、手強いかもって思ってたけど集まったこの戦力見る限り問題なさそう」
笑って神城 姫奈(
gb4662)が言った。確かに、こちらはKVが十五機もいる。熟練者も多い。正面からぶつかって戦うだけなら九割九分負けない編成だ。
(「周りは熟練の能力者ばっかりだけど、私も負けてられないね!」)
バージョンアップしたばかりのシュテルン・G『ハイペリオン』の力を見せたい所である。単純なスペック的には厳しそうだが、シュテルンは良い機体だ。使いこなせればいけるか。
「ボクも、いつまでも同じじゃ居られないんだ‥‥もう一人じゃ無い‥‥くそっなのになんだこの為体は」
ZGF‐R1のコクピット内、呼吸を浅く繰り返しながら瑞姫・イェーガー(
ga9347)は呟いた。身体が上手く言う事を聞いてくれない。彼女は重傷を負っていた。しかし、やらなければならない。
ガリーニンは死守しなければならない。これに本物のパーツが積まれているかもしれないのだ。どれに本物があるのか、傭兵達は知らない。知っているのは三機のうち何処かに本物があるという事だけだ。
「瑞姫ちゃん、怪我人なんだから、無理しちゃダメだよー?」
神城が言った。
「有難う。解ってる」
頷いて瑞姫。
(「本星やタロスとはやれないのは悔しいけど‥‥接近が無理なら狙撃で行くしかない‥‥無茶できないなら頭を使えばいい猟兵(イェーガー)なんだ‥‥それにオウガ乗りなら機体を使える戦いが出来て当然だ」)
傭兵達は手早く迎撃のプランを練り上げる。その際にFG‐106改を駆るアルヴァイム(
ga5051)は本星仕様は強化FF併用、タロスはブースト併用の突破を最警戒した。
やがて各機のレーダーにジャミングが走り、
「招かれざる客の到来です。各機状況を開始して下さい」
篠崎が即座に言った。間合いが勝負だ。すぐにレーダーの西端に四つの光点が点滅し始める。本星型HWを先頭に、後続にタロス、小型HW二機と続く形だ。四機共にブーストを展開しマッハ6の極超音速で突っ込んで来ている。敵機、要はガリーニンに一撃を入れて叩き落とせればそれで事は済む。KVを相手にする必要はない。強FFを持つ本星を先頭に立てて突っ込ませ、強引に突破を図る腹積もりのようだ。
篠崎からの指示を受けてKV達が戦闘機動に入り西へと加速する。
「各機、突破に注意を」
アルヴァイムの警戒ポイントはドンピシャだ。ここまでの予測は完璧。しかし、どう止める? 空で通せんぼは通用しない。突撃の阻止は陸でのそれより要求される難度は高い。ゆけるか否か。
「小型HWと言えど、接敵されれば、ガリーニンには脅威。初手で小型HWを処理できるかが重要なポイントだよ。気を引き締めていこう」
ソーニャが言った。
「私がタロス相手にどこまでいけるか‥‥楽しみではあるな」
ラナは十字を切るとその翼をタロスへと向ける。
(「UK3か‥‥」)
FG‐106改搭乗の雑賀 幸輔(
ga6073)、この戦いの末が、新たな戦いを生み出さないための抑止力となることを切に願っている。
(「‥‥迷うな。今はただ、目標を完遂するだけだ」)
男は目を細めると無線に呟いた。
「作戦を開始する」
●
「突破する気ならやってみろ。五体満足には通させん」
雑賀機、ブーストを発動、ガリーニンとタロスを直線状で結んだ線へと踊り出てタロスへとプレッシャーをかけんとする。
両陣の距離が詰まってゆく。
「兵装2、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Bモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
ソード(
ga6675)機、PRMSを命中・回避に入れ各ミサイル兵装のロックを本星型へと重ねる。
「ロックオン、全て完了!」
CD‐016Gが翔け、HWが赤輝を纏って加速する。ガリーニンへの進路上。ヘッドオン。距離が詰まる。相対六百、入った。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
火と煙とそして鋼が解き放たれた。其れは蒼空を埋め尽くす嵐だった。総計二一〇〇発もの凄まじい数の誘導弾が一斉に本星型を目指して飛ぶ。ありえないミサイル数。本星型は突進しながら横滑りしてかわさんとするがレギオンバスターの精度は高い。二千を超える膨大な量の誘導弾が本星HWをへと次々に直撃し火の華を咲かせ、さらにそこに誘導弾が入って超巨大な爆熱の塊へと変えてゆく。
焔を突き破って本星型が飛び出した。装甲が削られ損傷が見えた。強FFは吹っ飛んでいる。圧倒的な手数だ。
アルヴァイム、ソード機と共にコースを塞ぐように飛んでいる。電子加速砲を撃ち放ちピアッシングキャノンを猛射。新居機もまたAファングを織り交ぜながら十六式螺旋誘導弾を連射する。本星型へと砲弾の嵐と次々に直撃し、また次の瞬間、誘導弾が次々に炸裂して大爆発を巻き起こしてゆく。
榊機、ブースト、アクチュエータを発動、爆炎の中の本星型へと距離を詰めると螺旋誘導弾を撃ち放ちスラスターライフルを猛射する。次の瞬間、本星型が爆裂と共に蜂の巣になり、電流を洩らし焔を膨れ上がらせて爆散した。撃破。無改造じゃこの四機を相手に突破するのは無理だ。
藤田機、小型HWへと距離を詰めるとガンサイトに納めSRD‐02を発砲。錐揉む弾丸が空を切り裂いてHWへと伸びてゆく。HWがスライドし、弾丸がその端へと突き刺さって装甲を穿つ。
「まずは、挨拶代わりにこれでも喰らえです」
紅桜舞、小型HW二機をロックするとK‐02誘導弾を猛射。七百五十発の誘導弾を次々に命中させ爆裂の嵐を巻き起こす。
しかしまだ落ちない焔を裂いて二機が飛び出し、ソーニャ機がその前方へと詰めた。
「いけー、エルシアン!」
マイクロブースターを発動させつつ上空より急降下。螺旋を描き迫る。
爆雷を解き放ち、誘導弾を直撃させて爆裂を巻き起こしすれ違いざまに蒼光を連射して叩き込む。HWは光に穿たれると次の瞬間、大爆発を巻き起こして四散した。撃破。
(「落ちろ、落ちろ今日はむしゃくしゃしてるんだよークソ虫が!」)
瑞姫機、ブースト及びツインブーストを発動、誘導弾を四連射。鋭く飛んだミサイルがHWを捉え威力が増幅された大爆発を次々に巻き起こし、装甲の大半をふっ飛ばしてゆく。
「いきなりだけど、これで終わりっ!」
神城機、ドッグファイトを仕掛けんとしていたが、損傷具合から見て咄嗟にPRMSを発動、G‐01誘導弾でロックし猛射。四発の誘導弾が次々にHWに突き刺さって爆裂を巻き起こし粉砕した。砕け散ったHWが蒼空を落下してゆく。撃破。
他方、タロス、ブーストを発動させ真っ直ぐにガリーニン目がけ突っ込んでいる。止まる気は無いらしい。
「タロスが突破しそうだ! 頭を抑えてくれ、俺も追う!」
雑賀、愛機を旋回させるとタロスの後方へと捻り込まんとする。
「了解、止める!」
ラナ、雑賀に答えつつ短距離高速型AAMを三連射。誘導弾が次々に直撃して爆炎を巻き起こし、焔を切り裂いてタロスが飛び出す。止まらない。直角にスライドしラナ機のサイドを抜きさらんとする。雑賀機がその背後に捻り込んでいる。ブースト機動でマッハ5.2、タロスはマッハ8、相手の方が速い。剣翼は届かない。ショルダーキャノン、アテナイを猛射。砲弾がタロスの背に爆裂し銃弾がその装甲を抉ってゆく。だが落ちない。そのままラナ機のサイドへ回り抜き去ってゆく。
「タロス、突破を図ってます。直衛、備えてください!」
アクセル、タロスの進路先を読みつつガンサイトを回しスラスターライフルで猛射。猛烈な弾丸の嵐がタロスへと襲いかかる。しかし、タロス回避行動を取らない。防御を固め真っ直ぐに突き進み弾丸を其の身に受けてゆく。反撃はしない。ガリーニンへ一撃さえ飛ばせればそれでバグア側は勝ちなのだ。
タロスが十二機のKVのラインを突き抜けマッハ8でガリーニンへと飛来する。KV十二機各機回頭し、あるいはブーストを点火するが、マッハ8には誰も追いつけない。距離は離れてゆくのみだ。
「一つ、抜けて来たのを狙撃します。一気に潰しますので協力して下さい」
篠崎が言った。直衛の三機が動いた。アフターバーナーを点火し迫り来るタロスへと向かう。
「タロスね、了解」
フルゲンス(
gc0417)が言った。中央を篠崎機が飛び、希崎機がその左翼から前進しフルゲンス機が右翼から前進する。
直衛三機VSタロス。最後の勝負。
相対六〇〇、篠崎機、タロスをガンサイトに納めSRD‐02をリロードしつつ連射。フルゲンス機もまたSRD‐02でタロスを狙うとリロードしつつライフル弾を猛射する。四発のライフル弾が唸りをあげてタロスへと襲いかかり次々に命中してその装甲をぶち抜いてゆく。だが、止まらない。
(「全てを、護れるだなんて思っては居ない」)
希崎、唸る風の音を風防越しに聞きながら思う。
だが、それでも今回の戦争、失うモノは大きく、残ってしまった。
(「お前達の好きにはさせない‥‥! この力の及ぶ限り、全力全開で護り抜くッ!」)
ブースト、オーバードブーストを発動、焔迅、焔舞、終演、併発、赤色の力場を発生させその機体を人型のそれへと変化させる。
『これ以上、いや。此の戦域からは、何もお前達には奪わせないッ!!』
ミサイルをタロスへと撃ち放って爆裂を巻き起こし、やはりそれも突き破ってタロスが突進してくる。直角に曲がる機動、マッハ8対マッハ6.71、脇を抜けんとするタロスへと希崎は愛機の腕を手を伸ばさせる――届く! 腕がタロスの胴を掴んだ。極超音速同士の激突。壮絶な衝撃が巻き起こって希崎機の肩から先が吹き飛び、その機体もまた吹っ飛んで、爆裂を巻き起こしながらF201が落下してゆく。大破。
一方のタロス、赤い障壁を展開している。FF、非SESのあらゆる攻撃を減衰させ、あるいは弾き飛ばす防御フィールド。しかし、衝撃は通る。希崎機のインターセプトを喰らったタロスは横の方向へと大きく弾き飛ばされ、そして次の瞬間、慣性を制御しあっさりと立て直してガリーニンへと向かう。しかし、次の瞬間、銃弾と砲弾とミサイルの嵐が次々にタロスの背へと炸裂して大爆発を巻き起こした。マッハの戦闘だ。機首を回した十二機が追いついて来ている。
「間に合いなさいよ、いい子だからっ!」
ラナ機が誘導弾を猛射し、雑賀機が剣翼で吹っ飛んだタロスへと追撃を入れ、さらに空中変形したアクセル機がランスチャージを仕掛けてタロスの頭部をぶち抜いた。
アクセル機がランスが引き抜くと、爆裂が巻き起こり、タロスは瞳から光を消して落下していった。傭兵各機はさらにタロスへと追撃を入れ、二度と再生出来ないように粉々に消し飛ばしたのだった。
「楽勝‥‥とはいかなかったね‥‥」
フルゲンスの声がぽつりと響き渡ったのだった。
かくて一行は襲撃を仕掛けて来たバグア編隊を粉砕し、ガリーニンは無事にUK3の元へと届けられた。
大西洋を漂っていた希崎及びRei−Crusader−も回収され一命を取り留めた。空戦で敵機に掴みかかるというのはかなり無茶な行動だったが、まぁ、あそこはぶつけてでも止めなくてはならない場面だったろう。むしろ良く止めたというべきか。
「他の担当の方々は大丈夫かな」
紅桜舞は他のルートの友軍を心配していたが、彼女等の到着より少し後、続々とガリーニンが着艦した。各隊ともに傭兵達の奮闘のおかげで積荷は無事だったようである。近い将来陸上に上がる巨艦を見る事は可能になりそうだ。
永遠に進化を続ける艦、それが轟竜號であるという。良くも悪くもこの艦はまだ未完だ。
今は、その未来に夢を巡らせ、傭兵達の今日の健闘を讃えよう。
了
(代筆 : 望月誠司)