タイトル:Haunted House−Nマスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/07 02:53

●オープニング本文


「あら、いい所に来たわね」
 両手を子供に繋いで入ってきたノーラにナターシャは微笑む。
 訝しげに見つめるノーラから二人の子供を引き離すと、彼女は静かに上を指した。
「ウィリアムが呼んでるわ」


 ウィリアム事、ナットー・ウィリアムはこの英国に本社を構える探偵事務所の所長だ。
 ノーラ・シャムシエルはここの従業員であり、既に7年目になろうとしている。
 ロンドンにある本社は、一階にナターシャが運営するパブを置き2階に存在した。
 元軍の関係者だったらしくもっぱら客はその関係者である。
 そんな探偵事務所ではあるが、ある名物事務員が居た。それが、ノーラだった。
 普通の事務員であり、探偵ではない。実のところ。しかし、周りは彼女自身も探偵だと思っている。
 主に、迷探偵として。
「だーかーら、なんで帰省して仕事しなきゃなんないんですか!」
 音を立てながら机を叩くノーラをナットーは気にするわけでもなく優雅に、この英国では不似合いなコーヒーを飲んでいる。
「実家には顔見せんのだろ、いいじゃないか」
「父様は今会議で留守よ!」
「‥‥相変わらずそういう所だけ調べてるのか」
「う、うるさいっ! 所長には関係ないわっ」
「まぁまぁ、いいじゃないか。頼みたいことがあるんだ」
 机の中から引っ張り出した書類をとんとんと机の上に見せる。
 ムスッとしたまま横目で見るも、次の瞬間ノーラの瞳が輝いた。
「そ、それは! 限定ショコラで有名な!!」
「ベルギーの店のオリジナルだ。今度開かれるパーティへの招待券でもある」
 にやりと見つめながら、ナットーは続ける。
「いやぁ、なに。パーティ予定の会場で不審な出来事があってね‥‥」
「不審な?」
「ああ、捜査の依頼が来てるんだ」
 だが、現在のところ手が離せるのが居ないと。そこにタイミングよく帰ってきたのが‥‥。
「うう、でも、子供の事もあるし」
 久々に訪れた英国だ。それに今回は子供も連れているのだ。
「任せろ、子供は俺が面倒見てやる」
――所長、あなただから不安なんです。
 自分の子供時代を思い出しつつ、鋭いまでに細めた視線を投げるが、本人は至って笑顔だった。


「ええっと‥‥ここ?」
 押し切られる形で到着したのはロンドンから程よく離れた郊外だった。
 鬱蒼とした木々に囲まれるように建っているのは、物々しく聳え立つ屋敷である。
 人が住まなくなってかなりの年月がたっているのだろう。怪しさ倍増だ。
「‥‥何であたしがこんなことしなきゃいけないのよ」
 呟く声に震えが混じる。
 手元に視線を落とすと、先ほど渡された依頼の詳細が見て取れた。
「‥‥これ、ちょっと危険じゃないの?」
 内容は、どう見てもオカルトの類だろう。
 が、それだけでは片付けられない部分が存在していて――少しだけ、馴染み深いものが見える。
 屋敷と、調査書。視線が交互に移っていく。
「オ、オバケなんて、いないんだからねっ」
 言葉とは裏腹に遠退こうとする足。顔は真っ青に変わっていた。


「――あー、応援たのもっか‥‥」
 半分死んだ瞳のまま、ノーラはUPC本部へと応援要請を出したのだった。

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
天(ga9852
25歳・♂・AA
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
知世(gb9614
15歳・♀・FC
エレシア・ハートネス(gc3040
14歳・♀・GD
桜夜(gc4344
13歳・♀・SN
月隠 朔夜(gc7397
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

「ふ〜ん‥‥俺が捨てた、街ね」
 鋭い視線で見つめるも、その瞳には憐憫の色が見えた。
 場所はロンドン。彼が捨てた街。いや、彼『を』捨てた、街。
 まだ肌寒いあの土地には、いつもと変わりなく霧が立ち込めていそうだと。



「なんてゆーか‥‥屋敷でけー」
 桜夜(gc4344)はぽかーんと見上げた。郊外にある一軒家。
 そこは元々貴族のマナーハウスだったのだろう。荒れ果てた庭ではあるが趣がある。
 ロンドンから小一時間、目的地に辿り着いて見上げた感想は、暗い、だった。
 確かに普通の人だと足を踏み入れたくなくなるのが解る。
 何故そんな場所が選ばれたのか、きっと主催者がこの土地の由来者なのかもしれない。
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)はノーラから鍵を預かると、慣れた様子でかちりと扉を開けた。
「幽霊屋敷ですか〜‥‥アトラクションみたいで楽しそうですね」
 楽しそうな月隠 朔夜(gc7397)の声にノーラはびくりと肩を強張らせた。

 中から零れ出た空気は、意外にも澄んだものだった。
「‥‥本当に、なんか居るのか?」
 強風に注意とばかりに、付近のものに捕まりながら慎重に歩く。
 一歩中に入ると薄明かりしかない。どうやら窓が閉まりきっているようである。
 百地・悠季(ga8270)はカンテラに灯りを入れると、そっと上へと照らす。
 入り口に聳えるのは堂々とした2階への階段、そして大きな扉だ。
 どうやら、ここからスペースが別れているようである。
 着込んだAU−KVにプディングシールドを持ち、ヨグ=ニグラス(gb1949)は辺りを見回した。
 どうやら2階側の窓を開ければ、少しでも灯りが取り込める仕組みのようだ。
「まぁ、まずは奥から攻めるか」
 予め、屋敷の中の捜索担当は分けてあった。まだ注意書きにあった風は来ていない。 
 一足先にとばかりに、ヤナギが駆け出した。
 きっと宙を睨みながら、赤いクロスが浮き出た腕を顔の前に交差する。他の者も、とっさに防御姿勢に入った。
 風だ。
 交差した腕と頬を掠め、血が滲んだ。
 風が通った後に羽が落ちる。
 前方をキツク見つめても、あるのは闇ばかり。
 一回瞼を閉じると、ヤナギは素早く奥の部屋を目指した。
「‥‥先、行っちったね」
 遅れる形で2階に上がったのはエレシア・ハートネス(gc3040)、ヨグ、悠季だった。
 3人はノーラを守る形で進んでいく。
 特にエレシアは言葉少なながらも、いつもより神経を尖らせていた。
 繋いだ手が緊張しているのを感じる。
「シャムシエル?」
 力強く握られた手をそっともう片方の手で包むと、少しだけ力が緩んだ。
「‥‥大丈夫?」
 エレシアが首を傾けつつ訊ねると、引き攣りながらも笑顔を返す。
 きっと、子供に対してもこう笑顔を返しているのだろう。苦手なことを押し隠そうとして。
「べ、別になんともないわっ」
 瞳が、暖かくなるのを感じた。
「ふぇ? な、何の音!?」
 ひた、ひたと、裸足で近寄る音がする。この音は聞き覚えがあると悠季は耳を疑う。
 子供が忍び来るときの音だ。しかし、この家には既に住人が居なくなって時が大分経つと聞いているのだが‥‥。
 悠季が持っていたカンテラを背後へ突きつける。
 しかし、明りはぼんやりと闇を遠ざけるだけで変化はない。
 暫し辺りを見回していたが、異変が無いと判断し向き直ると、
「‥‥なんか馬鹿らしいじゃない」
 首を竦めつつ悠季はエレシアにしがみ付くノーラを見ていた。
 今までと変わらずに頼み事を出してくる友人。そしてそれを見守る人物。
 ふと階下に居る天(ga9852)を思い出した。
 傭兵に復帰した彼は何を思って妻へ微笑んでいたのだろう。
 きっとそれは、悠季自身も夫から受けているものかもしれない。
「あたしもまだまだ未熟なのね‥‥」
 子供を産んだとはいえ、人としてまだまだ成長過程にあるのは確かで。
 人は、人によって成長させられるものなのかとふと感じていた。

「ふぅ、さて‥‥俺たちも行くか」
 気心の知れた相手もいるしと、少しだけ息を抜くと、天は感覚を研ぎ澄ます。
 白銀の髪は、見る見る間に黒く変貌し、瞳には感情が見えない。
 久々の感覚だった。先日よりも、身体が馴染んでいるのが解る。
「なんか‥‥いかにも、って感じですね‥‥嫌な予感がします‥‥」
 朔夜の後ろに隠れながらも知世(gb9614)は怖々と前を見た。
「あらあら〜怯えなくても大丈夫ですよ〜」
 正直、彼女にとっては苦手の部類だ。が、今日は大好きな人たちが居る。
 その少しの分だけ、勇気が溢れてくるから不思議だ。
「そういえば資料にあった青白い光って何でしょうね〜?」
 薄暗い中、足元を照らすとそこには薄らと積もった埃の中小さな跡があった。
「そーいえば誰か言ってたなー、こういう時に後ろ見たらいけないってさー。もし振り返っちゃうとー‥‥」
 そういいつつも振り返ってしまうのが人間である。
 カサ、カサカサカサ‥‥、
 嫌な音だ。幽霊ではない、が、嫌いな人は徹底して嫌いなモノだ。
 それだけでなく、青白い光を発している。
「‥‥これが、正体ですか。なら、攻撃してもいいんですよね‥‥?」
 スッと薙刀を構えた知世の表情が変わった。この部屋はスペースは十分ある、このままいけると前へと踏み出した。
 にこりと朔夜が構えを変える。
 複眼が青く光る。それと同時に、ぽわっと空中に光が飛び出た。
 朔夜が槍を構えに回そうとしたところ、天が血桜で叩き落す。
「ボクのとっておきを見せてやるー!」
 間を縫って桜夜の弓矢が飛来した。
 砕ける音が響いた。
 それと同時に、周りから複数の気配が動いた。どうやら呼び寄せたらしい。
 知世が一歩踏み出す。ふわり、空気が動いた瞬間、一線が走る。
 あちこちから来る気配が、その度に切り裂かれる。
 姿勢を落として狩る姿は、まさに舞、そのものだった。


「ちっ! 風の正体はコイツかっ!」
 ヤナギは目の前に落ちてくる黒い羽を振り切りながら、強風の源へと弓を引いた。
 どうやら風はヤナギを中心に吹きつけられており、他への影響は無いようだ。
 ターゲットが絞られたのだ。
 風に煽られつつも、一転集中の気合の篭った矢は、突き進む。
 暗闇の中に、青い光が発し、弾け飛ぶ。
 一瞬、風が止む。
 次の瞬間、まるで巻き過ぎたおもちゃの様にキュルキュルと風が逆に吸い込まれていく。
 切り裂くような悲鳴の後、黒い塊はぽてりと落ち、ぽぉっと消えた。

 程無くしてキメラは全滅した、といっていいだろう。
 残されたのは、一つの硬質な塊だけだった。それ以外は青白い光を放って消えた。
 その塊は、白く‥‥そして、小さな人間の足を模っていた――



「ショコラパーティに?」
 これから片付けを、すっかり明るさを取り戻した屋敷でヨグはノーラに財布を見せていた。
「ボク、これだけもってますデス。足りなかったら借金してきますから」
「ねーねー、これだけ頑張ったしチケットおごってよー‥‥?」
 うるうると半泣きで見つめてくる桜夜もいる。少し驚きつつ、ふわりと微笑んで二人の頭を撫でた。
「これは、しまっておいていいわよ」
「え、でも! ノーラさんは高いわよ言ってましたっ!」
 ゆっくりと周りを見る。どうやら、ヨグたちと同じように参加したいものは居るようだ。
「ふふ、ご褒美だからね」
 戦闘があったにもかかわらず、屋敷内の損傷は少なかった。これは彼らが気を使ってくれた証である。
 おかげで修繕費が浮いたのは大きい。その予算をちょっと回そう、そうノーラは考えていた。

「さ〜掃除しますよ〜」
 朔夜の声がフロアに響く。見ると桜夜が真面目に掃除する知世にちょっかいをかけ遊ぼうとし、首根っこを捕まれたところだった。
「遊んじゃダメですよ〜」
 にっこりと、しかし微妙に縦筋入ってるのが見える。
 背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、ノーラはそっと扉から離れた、が。
「ん‥‥掃除といったらこの服だよね‥‥」
 少し大きめの包みを抱えながら、エレシアはノーラを見上げる。
 キラキラと見つめる視線が、痛い。
 思わず顔を逸らしそうになると、そこには見覚えのある顔が‥‥悲しいかな、逃げられないのを悟ってしまった。


 屋敷内の掃除のほか、やはり庭周りも整えなければならない。
 メイド服へと着替えたノーラは業者を手配したが、それまでに屋敷内の大掃除が進められている。
 階段を掃除する悠季の姿に気付く。
「ももちー?」
 様子がおかしいのは、逢ってすぐに気付いていた。が、これから戦いという時に声をかけるのは躊躇っていた。
「‥‥なんでもない」
 言いたげな、だけど煮え切らない態度に首を傾げつつも「――来てくれて、ありがとう」と微笑む。
 ただそれだけなのに。悠季の中で、何かがどくんと動いた。
 気まずそうな視線、だけど向けられるのは、ただただ眩しい笑顔。
「‥‥ほんと、敵わないわ」
 つられて出てしまった笑みが、少しだけ、輝いて見えた。


「うーん。ここ買うとしたらいくら必要なのかなー」
「さぁな」
 窓を磨くヨグの隣でハタキをかけながらヤナギはぼやいた。
「くそ面白くねぇのに‥‥」
 とか言ってるのが聞こえる。
 ぴたりと止まったハタキの先を見ると、 蜘蛛の巣が張っていた。
「‥‥なんもしなくてもホラーハウスじゃねぇか」
 苦笑しながら零れた言葉にヨグは楽しそうに頷いていた。



 ショコラパーティは企業が開く新作発表会だった。
 主だった人物は招待客、そして報道者で占める。ノーラに用意されていたのは報道者枠である。が、おねだりされて使ったのは別口で。それであれば、多少の不信行動もお咎めが少ない、といったところだろう。
「‥‥なんでいるのよ」
 壁に寄りかかっている天の傍にノーラはそっと立つ。小さく呟いた言葉はちゃんと届いていた。
「ん――なんか懐かしくってな」
 眉を顰めつつ、漏らしたため息はどこか諦めの色を含んでいた。
「‥‥ケーキ、禁止じゃなかったのか?」
 びくりと震える。どうやら先日の行動が知れていたらしい。相変わらず狭い世の中だ。
「‥‥ショコラは、ケーキじゃないもん」
 変わらない返答に思わず笑みが零れる。


「ショコラプリンはないのです?」
 新作のショコラを発表するパーティに潜り込んだヨグはちろちろと試食用のテーブルを口にしていた。余すことなく、だ。しかし、そこに存在する中には無く‥‥しょんぼりとしてしまう。
「お客様、いかがいたしましたか?」
 テーブルの横に控えていた黒服の男が、そっと尋ねてくる。
「プリンが‥‥」
 悲しそうな顔のまま呟くヨグに黒服は暫し考えると、そっと後ろにいるもう一人の男に話しかけた。
「――」
 すぅと場を離れ、暫くすると手に銀の盆を持って現れる。ヨグの前に膝を突いて差し出すと、黒い塊が現れた。
「おおっ! こ、これは!!」
「内緒ですぞ?」
 茶目っ気たっぷりにしたウィンクで下がっていく。
「ごいすー。うんめー。めちゃうまっ!!」
 期待したものに対し、可愛い顔にちと不釣合いな訛りが出たのはご愛嬌というものであろう。

 悠季はノーラの横にさりげなく周りと、爽やかに微笑んだ。
「で、双子の事、詳しく教えなさいよ」
 思わず食べているものを詰まらせ咳き込む。
 慌てて悠季は介抱するものの、寧ろ激しくなるばかりだ。
「大丈夫か?」
 壁際に居たはずの天が異変に気付いた。
 促すように隅へ行くと、一緒についてきた悠季が気まずそうに視線を逸らす。
「けほっ‥‥ごめんなさーい」
 ペロッと舌を出して謝る様子に苦笑をするも、少し背中を撫で続けた。
「で。どうかしたのかい?」
 ふふーんと知らぬ顔をするノーラをちらりと見つつ、天は悠季に訊ねる。
「‥‥双子の事聞こうとしただけよ」
 肩を竦めつつ出た言葉に、なるほどと笑顔を返した。
「俺も聞きたいな、そちらの様子」
 満面の笑みだった。



 満足したとばかりのノーラを連れ、天は探偵事務所に顔を出していた。
 子供に会うためだ。
「「ダッディ!!」」
 駆け寄ってくる子供達ををひょいと抱えあげると、嬉しそうに頬ずりをする。
「あぁ、情報助かったよ」
 扉に寄りかかりながら、ナットーはにやりとした。どうやら子供たちについて注意事項を連絡したらしい。
「いえ、なんとなく気になったもので」
 服のすそを掴んでいたノーラの唇は少し突き出た。少し困った顔で見つめると、とたんに顔を逸らす。薄らと朱掛かっていたのは照れ隠し、なのかもしれない。