タイトル:南瓜の古城マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/14 23:21

●オープニング本文


「いいものが手に入りましたよ」
 その男はふわりと誘う。
「いいもの、ですか?」
 カノンは、不思議そうに首を傾げるも、興味が溢れ。
 導かれていったのは表ではなく、裏の道。

「わぁ、これはいいランタンになりそうですね」
 目の前にあるのは、通常の物よりはるかに大きなかぼちゃで。人が一人、余裕で入れるものである。
 こつこつと触っても、頑丈なようで。
「丁度町に出ましたなら、ころころ転がっておりましてねぇ」
 男は、にやりとしながら答えた。表情は、覆っているフードの為か、見えない。
「え、町に‥‥です?」
 確か‥‥と、軽く目算する。街からここまでは、それなりの距離がある。この巨大なものを運ぶのに、たいそう時間がかかったことだろう。
「はい、町に」
 頷く男。とたんに、不可思議な感覚が身を襲う。
 ゴクリと、喉が鳴る。
「だ、大丈夫ですよね?」
 恐る恐る近づくも、何か得体の知れない恐怖と同居している好奇心は抑えられず。
 フードの男の手に持つのは、一つの農具。鎌。
 そっと頭上まで振り上げ、きっ、にやりと微笑んだ。

『Trick or Treet?』

 くるりと回った瞬間に、不可思議な声が。

 次の瞬間、あたりは全てカボチャ色になっていた。
 さらに大きさが際立つかぼちゃの瞳は空洞で。

「も、もしかして‥‥」

『Trick or Treet?』

 にやりと笑う男。
 そして次の瞬間、ぼふりと音を立てて消えていた。


     『Trick or Treet?』

 果たして、元の姿に戻れるのか!?

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

「ホントここ、何屋敷なんだよ‥‥」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)は思わず頭を抱えていた。
 先日に引き続き、だ。
「アンちゃん、大丈夫?」
 心配気にラウル・カミーユ(ga7242)が覗き込む。先程ロジー・ビィ(ga1031)も連絡を受け、取り乱していたと空閑 ハバキ(ga5172)がいっていた。
「あぁ、何であれ手を貸すだけだから」
 そう、約束したのだ。あの、青年にと。


 フランスの少し外れにあるこの古城はカノン・ダンピールの持ち物である。
 既に何度か訪れている者たちには見慣れたものではあるが、初めてのシクル・ハーツ(gc1986)にとっては少し驚きだった。
「わっ、大きなお城だね」
 こんなに大きかったら、自分のお城で迷子もあるのかな? と。その発想にラウルは少し頷きそうだった。
――カノたーんならやるかも知れないっ。
 そんな気にさせる青年なのだ。
「そんで、状況どうなんだ?」
 城に入る前に捕まえた、ここの使用人・今回の依頼主にアンドレアスは話を聞く。
 既に何回か顔を合わせている事もあり、明らかにほっとした様子に苦笑してしまう。
 状況がイマイチ理解できていない、そこからだ。
「ええ、若様が消えて――」
 話し始めたのは、昨日のことからだった。
 突如現れた訪問者にカノンに対応してもらおうとしたが、姿が見えず、また、出かけるとの話も聞いていなかったこと。
 そして彼を探していて気付いたら館に訪問者が居座りだしたこと。
 主姉よりもしもの時は依頼として出す旨を申しつかっていた為今回依頼を出したこと。
 麓の町まで出かけたものの彼が見つからなかったこと。
「つまり――この城は今、その訪問者? の手にあると見ていいんだな」
「はい‥‥数名の使用人がまだ城内に残っているとは思います。が、助け出そうとしていたんですが、どうもでかい南瓜が――」
「でかい南瓜‥‥」
「カロチンやビタミンAが豊富で身体にいい。これを食べて、風邪知らずにならんと、ね」
 ぼそりと呟いたのはUNKNOWN(ga4276)だ。一体いつから居たのやら、気付いたら姿が消えている。
「‥‥ま、とりあえず城内の構造を教えてくれないか? 近郊にいなかって言うんならここが怪しいわけだろ。訪問者とか」
「あ、はい」

「そ、そうですわよね‥‥落ち着かなきゃ」
 ハバキに励まされつつ、次第に自分を取り戻し始めたロジーは、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。
「ね? お姫様を助けに行かなきゃ」
 ふわりと笑うハバキにロジーは力強く頷く。
「ふふ、カノンがお姫様でいらして? それなら‥‥私たちが王子様かしら」
 既にいつものロジーだ。その様子にハバキは安心する。そう、自分たちは王子様だと。
「そそ、カノンはお姫様。そして俺たちはお姫様を攫われた王子様」
 物語の王子様は姫を助けに参上する。迷わず敵に立ち向かっていく。だけどそれは――
「さーて、そのお姫様探しに行くぞー」
 アンドレアスが城内の構造と称し、描いた地図で役割を決めだす。
 王子様は、心が強くなきゃ出来ない。その心の強さが、物語を進めるのに重要だってこと。幼い時には気付けなかった、大切なこと。
「――王子様は、大変なんだ」
「あん? なんかいったか?」
 小さな呟きに反応したアンドレアスに、イイヤといいつつ後ろからかぶりつく。
 よろめきながらも仕方ねぇなって顔で――だから頼れる、この背中に。
「んじゃ、シクるんとボクはこのルートで行くカナ?」
「おう、くれぐれも気をつけろよ。すぐに見つかってくれっといいんだけどな」
「え、えっと。れ、連絡入れます」
「ん、頼んだ。俺らのほうも見つけたら連絡すっから」
 ぽむっと頭に手を置きつつ、アンドレアスははにかんだ。
「‥‥あれ? いない――」
「‥‥ま、何とかなるさ」
 僅かに出た溜息は何なのか。それは長い経験から来たものだったに違いない。


「とと、まずコレっと」
 探索は2手に分かれた。ラウルとシクル。それにアンドレアス、ハバキ、ロジーだ。
 ハバキはもそっとポケットから大量のお菓子をアンドレアスとロジーに渡した。
「あん? カノンの捜索が優先だろ、後々」
「違うっ! 悪戯お化けが出たら、渡してあげてね」
 にこりと笑う。
――あぁそうか、ハロウィンかよ。
 すっかり血が上っていて忘れていたが今宵はハロウィンだ。つまりは何が起きても不思議でない夜。
「――まだ昼間だっつーの。よし、探すぞ」
 こくりと頷くロジー。捜索が、始まった。

「ふおおぉぉぉぉぉっ! カボチャおおおーーきーーーーーい!!」
 南瓜を見つけたハバキは今にも飛びかかりそうな勢いで。
「ん? カノンの捜索が優先だ、構ってる暇は‥‥おい、ハバキ!」
 止めにかかるアンドレアス。振り向いたのは、南瓜。そして――
 PAKKUNCHO☆
「ええ!? アスぅーーー!?」
「アンドレアスっ!」
 悲鳴が上がる。
『な、なんだこりゃっ! うげ‥‥っと、一応動けるか‥‥』
 南瓜が満足そうに目を細めている。どうやらそれ以上、動く気はないようだ。
「あ、アンドレアス。聞こえまして?」
 恐る恐る、花鳥風月を構えつつロジーは目の前の南瓜に問いかける。
『おう、聞こえっぞ』
 その声に二人はほっと胸をなでおろした。
 こつんこつんと、内側から南瓜を叩く音が聞こえる。どうやら空洞になっているらしく、そこに入った状態だ。
『ん、消化液とかは出てねぇみたいだ。――ロジー、スライスしてくれっか?』
「わかりましたわ」
 すっと目を細める。一歩下がり踏み込むラインを見定め、ロジーは上部へと狙いを定めた。南瓜に動く意思はないようだ。いや、それは歌い始めたハバキの呪歌か。対象は、動かない。なら。
 素早い動きで切りかかる。何十回と繰り出される剣技。そしてカットされていく南瓜。
「アースーッ! ガンバレッ」
 周囲を警戒しつつも、ハバキは内側へと呼びかける。
 南瓜が、突如口を開けた。
「うがっ」
 吐き出されるアンドレアス。すんでで受身を取り、転がり落ちた。
「アス!?」
 駆け寄るハバキ。出た隙を狙い、ロジーが止めをさす。
「へへっ‥‥中からお見舞いしてやったぜ」
 助け起こされたアンドレアスが挙げた手の中には、エネルギーガンがあった。


「カノたーん! ドコー?」
 ラウルは大きな声で呼びかけながら進んでいた。横にいるシクルは、先程とはうって変わり至極落ち着いた様子を見せている。
「どうやらお出ましになったようだ」
 不意に、ラウルを庇うように動いた。
「‥‥ホントだね。やだなぁ、この城はカノたんのなのに。何を間違って居座ってるンだか」
 ラウルの視線が冷たく走る。
 ごろごろと転がってきたのは大きな南瓜。捜索を重視したいところだが、こう道を塞がれてはどうにも出来ない。
「――なるほど。なぜ自分の城で行方不明になったのかと思えばキメラか。どこかに逃げ 隠れているか、拐われたか、食べられ‥‥と言ったところだろうか?」
 ぐぱぁと開けた口は闇、光る赤い目。いやいや、南瓜なんだが、すでにジャック・オ・ランタンになっている。
「こっちは取り込み中ナノ。後にシテくんない?」
 そういいつつラウルは周囲を見回す。どうやらこの一匹だけのようだ。
 足を開き構えるシクルを見ながら、素早くエネガンを装着した。
「――迂闊に攻撃したくなかったが、そういうわけにもいかないらしい」
 既にターゲットとして認識されている。ここは判断を誤ってはいけない部分だ。
 そこへ無線連絡が入った。
「はいはーい、見つかった?」
『いや、まだだ。それより、南瓜に気をつけろ。食うぞ』
 苦々しく伝えるアンドレアスの言葉にラウルはふと捉えられらたのは誰だろうと想像する。
「‥‥へぇ、食べるんだ、このコ」
「‥‥見た感じだと大人一人くらいは入れそうだ。捕食されていたとしたら、これ以上入るスペースもないし、そのキメラは捕食はしてこないはずだ。‥‥消化さえされてなければな」
 目の前に警戒しつつ、シクルは的確に分析していた。
「消化、する?」
『いいや、消化液は出してなかった。下手したら、中にいるかもしれん』
 返って来た言葉にラウルは思わず笑みが零れそうになるのを押さえ、想像が間違っていなかったことを確信した。
「了解っ☆ ありがとう、アンちゃん」
 切る瞬間、戸惑いのような感じがあったが、まぁいい。どうせバレタ事に気づいたのだろう。
「消化してないって」
 遠慮しないでいいよ、そう言外に告げながら。
「――なら、口を開けてくるやつは攻撃するまでだっ!」
 シクルは雷上動で素早く射抜く。放たれた矢は大きな口へと吸い込まれていく。


 怪しい南瓜がうろついていた。
 黒いコートに身を包んだ南瓜頭。UNKNOWNだ。
 人の行動、我知らず。タダ己が道を突き進む御仁は無断で人の城のキッチンへと入り、無断で器具と材料を使い、なにやら下ごしらえをしている。
「‥‥とりっくおあとりーっく」
 キッチンの片隅で震えている逃げそびれた使用人を無視して。
 メットの隙間から漏れ出る紫煙がより怖さを際立てていた。
「狩りの時間、だ」
 ゆらり揺れるコート。音が聞こえなく進む黒いコート。その姿は――恐怖しか生み出さなかった。


 探し回る城内。だけど彼の姿は見えなく。
 次第に狭まる捜索範囲の中、アンドレアスたちは一つの部屋にたどり着いた。
 そこには――。
『Trick or Treat?』
 にやりと笑う男が一人。いや、本当に男なのだろうか。
「あからさまに怪しいじゃねぇかよ、ああ?」
 視線で射抜きつつ、アンドレアスは一歩、また一歩と踏み出した。
「‥‥誰、ですの。ここはカノンの城。もしかしてカノンの居場所を知りませんこと?」
 ロジーの問いにも答えず、男は持っていた鎌をゆるりと回す。
「――怪しいですわ、ね。力ずくでもこちらは構いませんくてよ!」
 その一言を放ち、ロジーはエネルギーガンを撃ち放った。敵がひるむ間に懐に潜り込んで素早く刀を抜き放つ。
「おいロジー、聞きたいことあっからよ」
「ええ、わかってましてよ」
 背後から駆け寄ってくるアンドレアスにくすりと笑みながら応える。
 聞きたいことは山ほどある。まずは――
 捕らえるまでだ。


「カノたんも食べられてるカモ」
 城内を練り歩き、襲ってくる南瓜キメラは倒しながらラウルは呟いた。
「そうだな‥‥」
 シクルも周囲を警戒しつつ考える。
――管理されている城に突然のキメラ。そして、捕獲用のキメラ。何かがありそうだな。
「と、お出ましさんダヨ」
 目の前にはごろっと転がる南瓜がいる。ここは、カノンの部屋。
 先程も見たが、その時はいなかった。
 南瓜の配置具合からして、巡回しているとしか取れない。こっそり後をつけたときも、一定のルートを通っていた。それは――
「統率が、出来すぎてるんだヨネ」
 気味が悪い。先程アンドレアスたちからの連絡で一人捕まえたとの報告もあった。それにより南瓜たちが動きを止めたとなると。
「カノたーん!」
『‥‥え、ラウルん?』
 叫んだラウルの声に、カノンが応えた。
 ここだ、目の前の南瓜の中だ。ごろりと南瓜が動き出す。
「おい、見つかったか!?」
 アンドレアスたちも最後にと再び訪れた。ロジーは、先程の鎌男をロープで捕まえ、引き摺っている。
「目の前の、だ。誰か、動きを止めてくれないか」
「もっちろん」
 ハバキは歌う。呪いの唄を。その旋律が捕らえたのか、転がる南瓜は動きを止めた。
 傍に駆け寄り、口をこじ開ける。硬いが、下手に攻撃するよりも安全だ。
 ハバキの唄に力が篭る。
 そして――
「ふわっ」
 覗いたのは、潤んだ赤い瞳。
「や、元気してたー?」
 引っ張り出したラウルの言葉に、ポロポロと零しながら抱きついていた。


「――で、目的はなんだ」
 カノンが無事に発見され、城の中に再び平和が戻った時。
 アンドレアスは謎の訪問者・鎌男に尋問していた。構え持つエネルギーガンは常にこめかみに押し当てている。
『――』
 語ろうとはしない、だが。フードに隠されていた顔には、見覚えがあった。
「‥‥貴様、確か前に」
『Trick or Treat?』
 にやりと笑む。縛られていた手が、そのとき解けた。
「くそっ!」
 撃ちこむと、弾ける頭。
 倒れた男の手も、また鎌になっていて――。
「何なんだよ、マジで」
 掻き揚げた髪の中から、悔しげな顔が見えた。


「おまたせ☆」
 カノンの許可を受けたラウルは先程倒したキメラを材料に様々な料理を作っていた。
 キッチンに入ったとき、怯えた使用人がいたことは既に伝えている。
 どうやらもう一人の男のせいだったようだが、彼が作り続けていた料理と共にどうやら城を追い出されたようだ。
「‥‥残念ながら、いくら知人であってもそこまでは許せませんので」
 にこりと語るカノンを見つつ、流石に逆鱗に触れたらしいことを察する。目が笑ってないのだ。
 勝って知ったる台所‥‥という訳にはいかないようだ。なお、きっちり使った食材に関しては請求書も突きつけたとの事。一城の主となると抜かりはない。
「おおっ。美味しそう!」
 ラウルが用意したのはパイやシチュー。
「せっかくのハロウィンだし、楽しくネ?」
「ふふ、そうですわよね」
 微笑むロジーは最初とは打って変わり、嬉しそうだ。

「アス、アスっ!」
 駆け寄ってくるハバキにアンドレアスは苦笑する。
「はいはいトリートトリート、コレでも食っとけ」
 口に突っ込むのは先程ハバキがくれたお菓子だ。驚いた顔をするも、嬉しそうに微笑んで。次のターゲットへと駆け出す。
 ロジーには頭に乗せられたアフロと愛のピコハンを頂いたようだ。
「Trick or Treat?」
 ふわりと微笑みながら皆を見守るカノンへと話しかける。
「ふふっ」
 差し出された天秤の絵のチョコを受け取り、ハバキは思う。
――王子様は、大変なのです。



 夜が駆ける。
 不思議な夜が。
 お姫様が救われた後の王子様。
 救ったら幸せになるのだろうか。
 ――そして、再び、物語は動き出す。