タイトル:空飛ぶ貯金豚マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/10 02:54

●オープニング本文


「今年も、実りがいいみたいですね」
 天窓から見渡した畑の一角には、ぎしりと重さを持った赤い実がなっている。
 別の一角は白い実だ。
 高かった気温も、今は一枚羽織らなければ寒さを感じるものまで落ちている。
「‥‥どうなるかと、思ってましたけど」
 何が、とは言わない。
 今年もこの城を訪れることが出来て嬉しい。
 素直にそう思う。
 石造りの館は、陽光の当たった部分をほんのりとした暖かさを残し、冷たいざらっとした感触を残している。
 そんな柱へ、寄り掛かり、眼を細める。

「若様!」
 階下からの声に、現実へと引き戻された。
「若様! 大変です。ぶ、葡萄がっ!!」
 よろよろと駆け上ってくるのはこの館を任せる老年の男だ。
「どうしたんです、落ち着いてください。葡萄が、どうかいたしましたか?」
 傍に駆け寄り、肩に手をかけ、老人の息のあがった肩を撫ぜる。
「‥‥豚が‥‥、いや、鳥‥‥」
「へ?」
「鳥が、豚‥‥豚が、鳥‥‥。わ、若様! 葡萄が、――何かに襲われているのです」
「――何に、でしょうか」
「いや、その‥‥何か、にです」
「‥‥そうですか。大変ですね、そろそろ収穫時期ですのに」
 豚なのか、鳥なのか。とりあえず、葡萄が大変らしい。収穫時期、なのに。

「若様‥‥いかがいたしましょう、か?」
「仕方ありません。どこかに、お願いしてみましょう。至急、手配をお願いします」
「はっ」



「――空飛ぶ豚は、何になるのでしょうか」
 窓から覗ける風景は、とても、静かで。
 視界に入り始めたピンクの代物。
 それが収穫を邪魔するものだという事に、頭を痛めるのであった。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
獅堂 梓(gc2346
18歳・♀・PN
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

 ほんじつは、のろわれたしろのじょうしゅのいらいより、ぱーちぃーをくんだ。
 おれはもちろんゆうしゃだ。
 そうりょにあんどれあす。
 せんしにろじー、しどう‥‥かんな、むらさめ。おおかったぁ。
 いいたたかいをしたけっか、おいわいのうたげがひらかれた。
 とってもいいたびだった。



「おぉー、呪われた城‥‥」
「呪われておりませんことよ!」
 ジリオン・L・C(gc1321)の呟いた言葉に、ロジー・ビィ(ga1031)はムキになって否定をした。
 かくりと首を傾げるも、なぜだか理由はわからない。
 そんな二人の様子を見て、アンドレアス・ラーセン(ga6523)は苦笑してしまう。
 ロジーの気持ちはわかる。しかし、呪われた城。カノンの。
 そう思うと否定しきれない気がしてしまうのは、今まで彼を取り巻いていた環境のせいなのだろうか。
「そういや、カノンってどんな子なんだ?」
 城主をよく知っているという二人に、神撫(gb0167)は訊ねる。
 以前他で見かけたことがある。アンドレアスがごにょってた奴だったな、などと過去の記憶を掘り返してみるも、今一不確かであるからだ。
 それに‥‥アンドレアスは先日、隣にいるロジーと大変中睦まじい光景だった事を思い返すと。
――アス、バイ?!
 よぎった考えに、しきりに頭を振る。今は考えない、今は考えるのは‥‥。
「空飛ぶ豚は、豚だっつーのなっ」
 村雨 紫狼(gc7632)がぼやく。そう。豚だ。
 目の前に飛んでいるのは、紛れもない、豚だ。
 たとえ、かわいらしいピンクで、血色がよくとも。
 とても愛らしい瞳で見つめてこようとも。
 天使を彷彿とさせる白くふわふわな翼がついていようとも。
 豚は、豚である。
「はわわわっ、間に合い、ました‥‥」
 どこではぐれていたのだろう、獅堂 梓(gc2346)が道端で立ち止まっている一行に合流する。
 そして、
「‥‥本当に、豚さんなんですね」
 それは、リアルではなく。
 なんか、かわいらしい。
 どちらかというと、ミニ豚? であった。


「皆さん、ようこそおいで下さいました」
 白いブラウスに身を包んだカノンが門前で迎えてくれた。
「俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ!!」
 どーんと眼の前に登場したのは、ジリオン。そしてなにやら、格好をつけながら高笑いをしている。そんな自称勇者の後ろから、苦笑を見せつつも、顔なじみの人物を見つた。
「よぉ、また手伝いに来たぜ」
 アンドレアスが手を挙げて挨拶をした。その姿を見て、カノンは嬉しそうな顔で微笑む。
「本当に良かったですわね‥‥」
 そっと抱きしめてきたロジーの様子に、不思議に思いながらも、カノンもそっと抱き返した。
「ええ、ここの管理に戻ってこれてほっとしています」
 そろそろ僕も独り立ちしなければいけませんしね、と。
「おお、君がカノン君か」
 アンドレアスの横で、しげしげと様子を見ていた神撫はニコニコと見つめてくる。
「あ、はい。カノンと申します。それで、お願いしたいのは‥‥」
「あの、シュールな光景だな?」
 くいっと、親指で指し示されたのは、先程一同が通ってきた葡萄畑だ。
「あぁ、今ちっと見てきたんだけどな‥‥」
 村雨がにっこりとカノンの顔を覗き込み、なにやら確信めいた様子で満面の笑みを見せた。
 少々訝しげに感じつつも、なんでしょうかと尋ねると、
「イヤー、せっかく収穫の前の葡萄だ。ここらへん地図を見せてくれないかなぁとな。ほら、被害有ったら困るっしょ?」
 その言葉に、カノンの後ろに控えていた男が館の方へと入っていった。暫くして戻ると、手には一枚の紙を持っている。
「ありがとう、爺」
 小さく礼を言うと、こちらへと、カノンは一同を門の横にある道を通ってテラスへと案内したのだ。

「おぉ‥‥おぉ‥‥」
 館へとついてから、ジリオンは仕切りに辺りの観察と短い感嘆しか出てこない。
「へぇ‥‥ここなら、既に収穫が終えていて、且つあのピンクの‥‥豚が墜ちても平気なのね?」
 討伐してからお茶会☆と思っていたのに、既にお茶が出てきたりするのだが。獅堂が地図を見ながら、許可の出た場所を確認する。
「ええ、ここから少し離れてはいますが‥‥それでも人里に出るまでには距離がありますし。それに、やや広いスペースがありますので適しているのではないかと」
「ほぉ‥‥ここに、そんなスペースもあったのか」
「はい、収穫物を集める為のスペースでもあるのですけれども‥‥なによりアレをどうにかしないと」
「ぁー、まぁ、ジリオン期待してるぜ」
 神撫の言葉に、今まできゅっきゅっきゅっきゅと鎧を磨き上げていたとしていたジリオンが、急に目覚めた。

「お、おう! 俺に、任せろっ!」



 目の前で、(自称)勇者様が戦っている。
 きらきらと、輝く勇者の鎧を身に着け、果敢にも自ら囮を買って出たとのことだ。
 その勇気は、まさに勇者そのものである。
「勇者って‥‥本当にいるんですね」
 カノンは物語の中だけに存在していると思っていた勇者を目の当たりにし、少し、感動を覚えていた。
 まさか、その勇者ががくがくぶるぶると震えているとは知らずに。

「‥‥本当に、どうかしてるよ」
 カノンの様子を見て、明らかに誤解を生じていることは長年の付き合いからか一発でわかった。
 しかしその誤解、解くべきなのだろうか。
 アンドレアスの中で戸惑いが生じる。
「呪われた城と勇者とか、どういう組み合わせだ‥‥」
 まさしく、である。どこぞの三流小説よろしくの展開だ。
 戦いに身を投じているロジーも、いつもであれば研ぎ澄まされた感覚のためか、無表情になる。しかし、今回は大変楽な敵だ。
 ピコハンでも、彼女ならば倒せるのではないだろうか。
「飛べない豚は、ただの豚ですわ」
 にっこりと、それでも容赦しないところを見ると、排除すべきものと認めているのだろう。
「さっさと撃ち殺されなぁ! この後はお茶会がまってんだよっ」
 先程のドジッコとは雰囲気を変えた獅堂がルナとライスナーを構え狙いを定めている。
 髪も、黒髪から銀髪へと変わり、なにやら耳のようなものも。
 そんな敵が来るのを今か今かと待ち構えている一同の前で繰り広げられているのが‥‥

「はあーっハッハッハッハッ! そこなぶt‥‥とr‥‥ピンク共ォ! 聞けェ! 俺様h」
 先程磨きをかけた鎧は、何時もに増して光り輝いている。その持ち味である、オーロラの輝きに、先程からピンクのモノどもは、イヤにしみったらしい音を奏でているわけなのだが。
「ほら、勇者様行くぞ? おらおらおらっ!!!」
 隣で、天照と月詠を持った村雨はカチャカチャと鳴らしながら、頭上へと掲げた。
 その言葉に、ジリオンもゴクリと息を呑み、高らかに叫んだ。
「勇者フラーッシュ」
 ただのGoodLuckだったりするのだが。
 その声に驚いたのか、先程まで様子見で見つめてきたピンクのモノどもが、一斉に二人に向かって小さく生えている翼をパタパタと動かし始めた。
「!!!」
 思わず、一歩下がる。
 そんなジリオンとは違い、村雨はにやりと舌なめずりをして刀を構えなおした。
「行くぞ、ジリオン。今こそ、勇者の盾だ」
 後ろで見守っていた神撫は問答無用と、ジリオンの首を掴んだ。

「ぬぉ‥‥?」
 鎧の下に着込んでいる服を掴まれ、些か首をつった状態のジリオンは、無造作に向かってくるピンクのモノへと向かい合わせに。
「ひっ、う、ぬ、‥‥ぬぉぉぉ!!」


「俺様の! 歌を、き、きき、きけえええ!」

 眼を瞑りながら発したのは銀色の光だった。淡い銀色の光に、掴んでいた神撫も、思わずおっと声に出る。
 しかし、タイミングが合わず‥‥。
「☆△□○!?」
 激突したものもいたとかいないとか。

「お二人とも、けがしないでねぇっ! 一応救急セットあるけど〜」
 その言葉、どうやら遅かったようである。


「どうも、ありがとうございました」
 すっかり片付いた畑は、今か今かと待っていた収穫に携わる人が散っていった。
 先程、おわったぁとばかりに気を抜いた獅堂が道の途中で転んだりもしたが、本人が葡萄に突っ込んだだけで大きな被害は無かった。少し酸味の聞いた葡萄が、ちょっぴり泣きたくなったけども。
「収穫の方は、どうだ?」
 ジリオンのおでこを治療しつつ、アンドレアスは聞く。
「ええ、無事に終わると思います。被害もおかげで広まりませんでしたし‥‥」
「よかったですわぁ」
 にこりと微笑むロジー。
 神撫は先程倒したピンクのモノのうち、比較的肉付きのいいものを選んで館内へと運ぶ。

「お、そうだ。キッチン借りていいか?」
 アンドレアスがこれでOKとばかりに、バシッとジリオンを叩きながら振り向いた。
「ええ、構いませんよ? あ、去年のワイン出すので手伝ってくれませんか? 仕込みの方も入りたいので」
「おおっ! ワインっ!」
 任せろとばかりのジリオンに、それではお願いしますねと。カノンは引き連れて館の横の蔵へと向かっていった。



「ほぉ‥‥いい味になってるな」
「ほんと、去年のワイン美味しいですわね‥‥」
 ジリオンを伴って戻ってきたカノンが運んできたワインを前に、アンドレアスが作ったオープンサンド。のっている具は茸と豚をと。そして、神撫と村雨が焼き上げた丸焼き。
 そしてとっておきなのですよと出された自家製チーズだった。
 ささやかではあるが、秋の味覚の祝賀会だ。
「ふーんっ」
 ゆったりと得意げに深めのワイングラスを回すジリオンは満足気な様子で庭を回りながら飲んでいた。
 村雨も満足そうに先程から瓶を抱えている。
「無事に、来年もワインを出せそうです」
 にこりと微笑むカノンを見ると、ロジーもアンドレアスも安堵を感じた。
「様になってるじゃないか、カノン」
 軽くウィンクをされ、照れくさそうに、でも嬉しそうに軟らかく微笑む。
 その様子を見ると、どうやら彼自身も落ち着いている。昔感じた儚さは、影を潜めたようで。
「今日は、ほっとしますわ‥‥」
 口につけたグラスを、ほんの少し傾けてロジーは呟く。
 3人集まったのはどれくらい久しぶりなのだろうか。
 黒と金、そして銀が。軟らかく微笑むロジーの様子を見ると、アンドレアスも不思議と心が揺れる。
「今更だけど、未成年はボクだけ? ぅぅ‥‥葡萄ジュースあるかなぁ?」
 へにょりとした獅堂は、毒見をさせようと考えていたものの、ジリオン自ら口に入れる様子を見て安心だと確信した先程のピンクの成れの果てを口にしながら呟いていた。
 もちろん、ワイン以外も用意している。
 戸惑いの獅堂に気付いたカノンが、特別に葡萄ジュース以外にも林檎ジュースなどを用意し、提供した。

 程よくお酒が回ってきた人たちの様子を見ながら、カノンも彼らの席へとつくと、少しばかり今まで起きたことを話してくれた。
 会わなかった時の事、そして‥‥これからの。
「んじゃ、この城が拠点になるのか?」
「いえ、確かにここは僕の持ち物です。ですが、拠点としては利用しません」
「何故、ですの?」
「‥‥ここだと、難しいことがありますので」
 ほんの少し見えた、昔と重なる影。
 つくんと動く戸惑いに、ロジーは少し顔をしかめた。

「きゃ、キャノンもあんどぃあすも‥‥ろずぃも‥‥いっぱ、‥‥おっ」
 呂律の回らなくなったジリオンがニコニコと機嫌よさそうにアンドレアスへと抱きついてきた。
「うおっ!? どんだけ飲んだんだよっ!」
 避けるも、かわしきれなく。負いかぶさってくるジリオンの様子に、カノンも笑い声を立てて見つめる。
「ジリオン、こっちだ、こっちっ!」
 神撫はアンドレアスからジリオンを引き離すと、カノンに介抱出来る場所を聞こうとするが‥‥

「ほいっ! ここで俺が一つっ!」
 酔いが回ってきた頃に、シュタッと手を挙げる村雨。
 ずずずいーっとカノンの傍に行くと、にこやかに後ろ手で隠していたものを出した。
 メイク道具だ。
「へへへ‥‥余興を一つ」

 何か言い知れぬ気配を感じたのか、ひくりとカノンは顔を強張らせた。
「え、えっと‥‥あの、僕、ちょっと用事がありますので」
 そういうと、神撫の方へと赴き、ジリオンを支えながら奥へと引っ込んだ。
「村雨‥‥何する気だったんだ?」
 訝しげにメイク道具を見つめながら、アンドレアスは尋ねた。
「ん? 俺の得意分野だ。カノン君ならいけると思うんだよねぇ‥‥」
「‥‥得意、分野?」
「おう! 彼、美少女フェイスだからさっ! そしてこれ、これで新世界にっ!」
 ズサッと出されたのはセーラー服。
「――どうやら、俺も酔いが回ったようだわ」
 酔ったのか、少しよろめきながら、アンドレアスは庭へと涼みに出たのだった。



「カノン‥‥」
 ジリオンがアンドレアスに絡んだ直後、ロジーは宴の席を離れていた。
 手に取ったのは、秋咲きの薔薇。少し濃い目の赤が、日の暮れた庭を不思議な雰囲気へと変えていく。
「呼びました、か?」
 びくりと振り返るも、返答したその姿を確認すると心が居心地よく収まる。
 その感覚が、何故なのか。その問いは既に、彼女の中では出尽くしたものだ。
「カノン‥‥」
 近づくも、抱きつくのではなく手をとって。
 俯いたままの彼女に戸惑うも、そこから一歩踏み出せない彼。思わず、くすりと零れる。
――変わらないのだと。
「‥‥特別の意味、わかりまして?」
 幾度か伝えた、その言葉。彼は、その言葉を真に理解しているのだろうか。彼女の思い自信を。
 そっと手を握ったロジーは、そのまま近づいて。
 鼻先を掠めたのは、彼女が作った薔薇のにおい。
 そして、甘い、柔らかな感触。

 気付いたときには、離れた場所で微笑む彼女が居て。
 皆の元へ帰りましょう、といわれたのに‥‥動けなかったカノンが、そこに居た。



「――っ」
 酔いを醒ましに行ったはずのアンドレアスは、柱の影で蹲った。
 どうしたいのだろうか、自分は。
 カノンを。そしてロジーを。
 締め付けるのは、どちらなのだろう。黒なのか、銀なのか、それとも‥‥。
 柱に寄りかかる形で座り込んだアンドレアスは天を仰いだ。
 そして、眼を開いたときに入ってきたのは‥‥神撫。
「――アスさん、どっちが本命なんだ?」
 黒なのか、銀なのか。それとも――。



 月が留守の夜に、ざわめく星達。
 星達は煌びやかに輝く自身を、遠くの星へと伝えながら。
 されど人は、自らを輝かせ伝えることが難しく――そして、闇へと墜ちていく。