タイトル:【RAL】鳥葬マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/06 22:58

●オープニング本文


 寒い‥‥寒い、寒い、寒い、寒い‥‥。
 どうして、こんなに寒いのだろう。
 既に遅い時間なのか、周りの景色は確認できない。
 居るのは、暖かい地域のはずなのに。
 寒いだなんて‥‥。
 でも、暗かったら寒くなるよね。
 膝元に、生暖かい感触が広がっている。
 液体だ。
 粘り気のある、生暖かい感触‥‥。
 そして臭う、金臭さ‥‥。
 あぁ、何故だろう。苦しい。
 
 どうしよう、頬を濡らす暖かさだけが、感じる。



「先日、一小隊が消えた」
 会議室とは名ばかりの、小さな部屋にはぎっしりと人が集まっていた。
 集まっている顔はどれも険しい。
「襲われたのは補給部隊の一つだ」
 暗い室内なのに、サングラスをかけた男は壁にかかっていた地図をなぞる。
「輸送ルートはここ、地中海に渡るまでのエリアを通り‥‥」
「それでは、アフリカ本土の方ではなく‥‥」
 声を上げたのは、狭い室内に2つしかない椅子の一つに座っていた男だった。
「いや、大陸に渡ってからの出来事だ。奇妙な点はいくつかあるが、この小隊の特徴を考えると別の視点も挙がってきた」
「‥‥と、いいますと」
 難しげに、入り口近くに寄りかかっていた女が口を開く。
「青年部隊だ。それも、まだ年端もいかない‥‥」
 そういいながら、サングラスをかけた男は口に煙草を咥えた。
「‥‥ここはアルジェリアですね。‥‥気になりますね」

「と、言うわけだ。わかったな?」
 一服を吸い終わると同時に、差し出された灰皿へと押し付ける。
「へいへい、ボス。これは例の件と同じ扱いでいいのか?」
 椅子に座っていた男が、両手を挙げながら尋ねてくる。
「まぁ、な。直々の指令と取ってくれて構わん」
「へぇ、あっちの探偵の方ではなく、あくまでもこちらで‥‥ねぇ」
 軽く口笛を鳴らすと、肩を竦めた。
「‥‥軍が関わってるんだ、向こうでは扱いきれないだろう」
「オッケー、ボス」

 それで会議は終わりだ、との合図だったのだろう。
 それまで眺めているだけだった者達も、軽くいなしていた男も素早く敬礼をする。
 ただ一人、始終地図を睨みつけたまま無言で座っていた女を残して。

「‥‥Phantom、出動だ」

――Phantom。
 懐かしい響き。そう、この組織内で呼ばれる、彼女の名前。
 エスティラードは、長い黒髪を跳ね上げると、胸元に下げていたミラーシェードをかけ、部屋を出て行った。

++++++++++++++

 現在アフリカ大陸への侵攻作戦に伴い、多くの物資が各国からの支援により搬入されている。この部隊も、その補給部隊の一つだった。
「発見されたのは、ここから50マイルほど入った山間部ですね」
 彼らがいるのは、その侵攻作戦の拠点のひとつ、アルジェリアの西部にある。既に激しい前線地域からは脱したものの、今も尚、安寧の日々は遠い地域である。
「山間部? 物資輸送にそんなルートを通るのか?」
 地図を広げて見ると、確かに高地地帯が見受けられる。だが、主な配給先は海岸地帯からそれほど離れてはいない。まして、発見されたのは、やや南下した地域。輸送ルートとは違う場所であった。
「いや、奴さんがた、どうやら運ばれたらしい‥‥」
 現場に直接行って確かめた一人が呟く。取り出したのは、一枚の写真。
 無残な光景が映し出されたその一枚は、彼らの悲惨な一幕を物語っていた。
「となると‥‥やはり単純な話ではないらしいな」
 発見は出来た。だが‥‥。
「でも、もし戦闘になると、俺ら意味なくね?」
「あぁ、諜報機関でしかないもの。無理無理」
 どうやら、その付近には怪しい影の徘徊を見受けたとのこと。
 彼らは諜報活動がメインらしく、戦闘については自信がないのだ。
「‥‥情けない」
 溜息をつきながら女は立ち上がった。
 エスティラードだ。
「諜報部隊だからって何。私達、そんな生温い発言許されてたかしら」
 鋭い視線を受け、彼らは身を竦めた。
「だからあんた達は使えないのよ‥‥。よっぽど彼らの方が使えるわ」
「彼らって、誰かいんのかよ」

「‥‥傭兵達よ」

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 人は、死にどう向き合っているのだろうか。
 葬り方一つ、接し方が変わるだけで、見方というものは大きく変わってくる。
 人は‥‥



 深い溜息しか出てこなかった。
 仮に、である。
 もしこれが彼女自身の依頼であったならば、こういう輩は最初に剣の鞘になるだろうことは間違いないだろう。
 それは後ろに纏わりついて離れない、軽薄な口の持ち主へ向けた、冷たい視線のものであった。
「いあいあ、で、この件片付いたらさぁ、どう?」
「‥‥どうって、何がかしら」
「いあいあ、わかるっしょ。ここには女はお姉さんだけ。ね? 俺と熱い一晩を――」
「――はぁ」

 日差しが暑かった。
 赤道直下に差し掛かる炎天下は嘗めてはいけないものである。
「それにしても、貴方達は何故輸送車を依頼しなかったの?」
 溜息交じりで彼らが持ち運んだ車を見ながらエスティは聞いた。
「え? だって却下されたじゃないか。省けないって」
「――はぁ」
 確かに却下された。それは、同じ型の車両の輸送車。違うものであれば、手配は出来たものの彼らの勘違いだ。間違いすら指摘する気にも起きず、エスティは愛用の剣の柄を撫でた。
「しかし、久しぶりだねぇ。」
「‥‥慈海」
「くっくっく、私も居るがね」
「長郎も‥‥」
「で、どうなんだい? 情報は」
「渡した通りよ」
「いやいや、こんな素人同然な資料ではないのじゃないかね? 君の組織は」
「――ごめんなさい、今回は頭に来て最初の情報しかとってきてないわ」
「え? エスティちゃん?」
「――ムカついちゃったのよ」
「――君の前線での行動を期待していたのだが‥‥。無理そうかね?」
「――叩きつけるだけなら、って言うところかしら」
 肩を竦めるエスティ。どうやら謙遜ではないようだ。
「まぁ何、大丈夫。すぐに平和解決して俺との時間を――」
 バシンッ
「お姉さん固いなぁ〜。もっと気楽に行かないとさ! 今後の関係についても、ね?」
 頬を赤く腫らしながらも、懲りた様子は見せない。
 筋金入りか‥‥無言でムーグに頭を掴まれながら、ズルズルと引き摺られる様に車両へと放り込まれていた。


 班は二手に分かれた。
 一同は輸送班のルートを辿った、B班大泰司 慈海(ga0173)、ムーグ・リード(gc0402)の二人が持ち込んだジーザリオにエスティ、石田 陽兵(gb5628)が乗り込む形となった。最後まで抵抗を見せていた黒木 敬介(gc5024)も、渋々とA班クラーク・エアハルト(ga4961)、秋月 愁矢(gc1971)、不破 炬烏介(gc4206)、錦織・長郎(ga8268)達と共に乗り込んだ形に落ち着いた。
 A班を先行に、B班はやや空けて追う形の走行だ。

 紅一点を気にしているのは、黒木だけだった。むしろ、石田に到っては、その紅一点を恐々とした様子で眺めていたのだから。
「なんか怖そうな人だなー‥‥お近づきになりにくいか」
 野菜ジュースを片手に、石田はぼそりと話す。
「ん? エスティちゃんのことかい?」
 のほほんと、だが眼だけは真剣に、慈海は隣に乗った石田に尋ねた。
「あ、はい‥‥。なんか、ピーンと張っていると言うか」
「はは。良い娘だよ、相変わらずだったけど」
「‥‥相変わらず、ですか?」
「うん‥‥。毒っぷりといい、身体の線といい‥‥いあいあ、まぁ、まだ引き摺っているところと言い、かな」
「‥‥良く、知っているみたいですね」
「彼女、と言うより。あの姉弟のことを、ね」


「‥‥貴方、大きいわね」
 ムーグの横で、エスティは運転をしながら見上げた。
 少しだけ笑みを浮かべる。どうやら照れくさそうだ。
「‥‥私、ノ、出身‥‥大キイ、多イ‥デス」
「そう‥‥日差し、気をつけなさいよ。油断すると倒れるわ――」
 開け放たれた幌は日差しを避けるのではなく、より浴びさせる。
 くすりと声が零れた。見上げるように様子を伺うと、ムーグは青い空全体を尊ぶよう、見渡してから、
「‥‥輸送、路、ハ‥‥アフリカ、デ、暮ラス、者ノ、生命線、DEATH」
 膝元に落ち着いていた拳が、ぎゅっと握り締められた。
「‥‥調査、ノ、為、ダト、シテモ‥‥嬉シイ、デス」
――故郷の大地を踏めて。
「――取り返さなきゃ、ね」
 嘗てエスティもそうだったように。この男もまた――。


「道が、狭いですね‥‥」
「これ、道って言えんの? 荒野じゃん。砂漠じゃん、アフリカじゃんっ」
 黒木は荒れる地面をそれでも慎重に運転していた。
「はは、確かに。でも、そう考えるとますますもって――」
「既にここは輸送ルートから外れているようだね。最初の平坦だった道はやはり人の手が入っているのかマシだったが‥‥」
 警戒を解かず、錦織はざっとあたりの感想を述べた。
「――平和じゃなきゃ、誰も通らないからねぇ。こんなトコ」
 ぶすっと膨れる。
「しっかしさ、なんで俺んとこムッサイの? 何でよりによって、一番ムッサイ率高いの?」
――自業自得である。
「でも、襲われたような形跡が、ないですよね」
 秋月の言葉に、二人は無言の同意を示した。


「ム‥‥影‥‥ある。が‥‥様子。おかしい‥‥」
 不破が、双眼鏡を持つ手に力を入れた。
「――きましたか」
 クラークは各車へと無線機で告げる。敵、発見と。


 先陣を切ったのは、車から飛び降りるでもなく放たれた錦織の一撃だった。
 丁度谷へとなっている所を襲撃してきたのは一体。予想ではまだ居る。
 周囲への警戒は解かず、的を見据える。
 鳥だ、でかかった。
 長さにしたら悠に乗車している車分はあるだろう羽を広げる姿に、鋭い鍵爪が目に入る。
「伊達や酔狂で装甲服を着てるわけじゃない!」
 がしりとした重みが、地面へと吸収された。クラークの腕を爪が掠めた。
「目的地直前‥‥これは待ち伏せ、ですかっ」
 咆哮を上げながら秋月は青い焔に身を包まれた。
 鳥の意識がそちらへと向かう。
「よしっ」
 その隙を逃す黒木ではなく、吸い込まれるように羽へと弾が吸収されていった。
 不意をつくように後ろから現れたもう一体に、
「‥‥ソラノコエ、言う。『戦局ヲ見ヨ。耐エニ耐エ‥‥極罰ヲ』」
 不破の銃弾が、乱射された。


「こっちにも、きましたか」
 空のパックを放り出し、石田は身構えた。
「予想よりデカいな‥‥外さなくていいけどさ」
 漏らした苦笑と共に、彼の色は変わっていった。

 ガキッ
 刃の峰に爪が当たった。靡く黒髪の後ろから、羽を目掛けて銃弾が放たれる。
 出来た隙に石田もまた弾を打ち込んだ。
 形勢は明らかだった。
 ガタイはデカイが、今回はそれが仇となっていると言える。的が、広いのだ。
 前衛になったもの達が引き付ける、その隙に後方からの射撃による攻撃。
 班分けも的確だったと言えよう。各自の持ち味が、早々のキメラ殲滅へと相成ったのだ。
「これで、終わり‥‥か?」
 羽の弱った所で地面に落ちた鳥は、避ける手段なく銃弾の餌食となった。
 秋月がブラッディーローズを下げる。
 周囲を汚したのは、三体の、鳥の遺体だった。


 襲撃現場からそれほど経たず、写真へと収められた現場へと到着した。
 その間、何事もなく。気になったとすれば、ちらりと見かけた獣の足跡。
 内蔵を中心に狙われていることから、先程倒したキメラ達が襲ったと見られた。
 そして‥‥
 現場は、まさに壮絶‥‥そうとしか言いようがなかった。
 乾いた地面を赤く染め上げ、腐臭が新たな食物連鎖の慣れの果てを及ぼしていた。
 そういえば、先日資料を渡した同僚は負傷していたのを今更ながら思い出す。
 散り散りになった肉塊は、キメラだけではなく、近くを徘徊している獣・虫達により貪られていたのだ。
 内腑を食い破るのは先程も見た獣と同様で。倒した鳥の嘴もまた、紅く染まっていたことを思い出す。
「――っ」
 日数はそれほど経っていないのだろう、血の色が鮮明だ。
 地面に浸み込んでもまだ、さらにこってりと大地に浮き上がっているのだ。
 しかし腐臭が酷かった。ここら一帯は常に炎天下の元だ。腐敗の進行が著しかったのだろう。
「‥‥ん? これ、変じゃねぇか?」
 黒木は遺体ではない部分を見て首をかしげた。
「‥‥‥タシ、カ‥‥に‥‥‥」
 ムーグが拾ったのは既に白骨化したもの。それは、今無残に晒されている肉隗とは違う。
「何より、人数がもっと多いみたいだぜ‥‥仏さん」
 形跡からいって、焼いたことによる白骨化。無駄なものが削げ落ちたのだ。
 地面を改めてみると、数箇所に火の後が見られる。人工的なもので、どうやら野営を行なっていたようだ。
「――違う」
 エスティは無言で彼らの行動を見ていた。
 微かに握り締めた拳を、慈海だけが見ていた。

「居たのは、先程の奴だけかなぁ」
 石田が、心配そうに周囲を見回す。
「あれ以降、気配はないねぇ」
 錦織の言葉に、盛大に息を吐いたのだった。



「――ソル」
 短く、何かを呼ぶ。
『何だ、エスティ」
 イヤリングから聞こえる声、常に彼女の傍に居る男だ。
「ソル――。状況を教えて」
『――――敵は今ので全滅だ。どうやらハグレだったみたいだからな。他に救援を呼びかける素振もなかった』
 淡々と告げられる事実に、苦笑を漏らす。
「――ボスにやられたわね」
『――馬鹿正直にキレルからだ』
 解っていただろうと。
「ふふ‥‥あの組織のやり方、忘れてたみたい」
『――戻るぞ』
「ええ」
 何処へ、とは言わない。今は、それで十分だった。



 車両を点検中、黒木はふと手を止めた。
 中は荒らされてはいなかった、人の手では。
 それこそ獣達が徘徊した山荘を髣髴させるような、そんな荒れ方。
 狙われているのは、主に食料。書きかけの手紙や、書類など、人の手だと触れるものは整然としているのだ。
「解せないな‥‥」
「ええ、本当に」
 ぎょっとする。いつの間にか後ろに来ていた男、錦織だった。
「工作員の仕事とは思えない資料、現場、そしてなにより――あぁ、スミマセンね。そういうところに属してたもんで」
「いえいえ、勉強になりますよ。センパイ」
 すっと仮面を挿げ替え、笑みを見せる。錦織も眼鏡の奥で瞳を凝らしたが、特にナニモ告げずににやりとした。

「――本当、彼女らしくない。期待するものではなかったのか? ‥‥」
 ただのキメラ退治‥‥そうとしか見えない現場に、首をかしげる。
 そして一枚、紙が見つかった。

「‥‥‥迎えに来た。家に帰ろう」
 一体一体、丁寧に遺体を回収していたクラークは、依頼対象の人物の死体がないことに気付いた。
 護送と見られる屈強な者達の姿は、無残な形ながらも10体。聞いた話では対象者を含め15人の部隊だったはずだ。
「こっちにもいましたっ!!」
 石田が声を上げる。
 どうやら黒木と錦織が調べていた車両ではない方にも遺体があったらしい。
――いや、少しおかしくないだろうか。
 首を傾げつつも、回収袋を持ってその現場へと向かう。
「‥‥」
 中には不破と秋月が気まずそうな顔をして一点を見つめていた。
 そこには――。
「――なんだ、これは」

 そこにあったのは、武器の貯蔵箱内に置かれた、一つの塊――いや、一人の人物だった。
 膝から下はなく、手は立て掛けストックに使われる金具から釣り下がっている。瞳のあったはずの部分は窪み、口は、縫い付けられている。
 足元はプラスティックの器が置いてあり、そこは、既に固まった赤い液体が入っていた。
 まだ、青年になりかけの、幼さが残る、黒髪の‥‥。

「いたかしら」
 背後からの声に、思わずびくりとした。

「‥‥エスティ、さん‥‥」
 表情は伺えない。髪とミラーシェイドで隠されているから。
「――慣れているでしょ、他にも居るはずよ」
 そういうと、少年の頬に手を触れる。
「――待たせたわね。帰りましょ、お家に」
 首から下がっているドッグタグを確認し、横に立っていた不破に回収するように頼む。
「‥‥祈って、いた‥‥。彼ら‥‥ソラへ‥‥還れる、だろう‥‥か?」
「――ええ、きっと」
 去り際に泣くに泣けぬ、心が出来た人形のような、不破の頭を撫でて。

「内部の犯行か?」
「ええ、どうやら護送の警護がやったようね。人の手によるものだわ」
「キメラの件と、この件は」
「違う、と言えるでしょうね」
 付近を見渡す。谷になってはいるが、それなりに開けた場所だ。それに、ここには野営のあとも残っていた。
 本部に確認すれば出てくるはずだ。何故、回収が依頼されたのか。
 きっと、そこには。
「――こんなものがあったよ」
 錦織が一枚の紙を出した。そこに書いてあったのは、数個の単語。
「誘拐、虐待、そして――」
「もともとこの護送連中、本当に評価あったのか?」
「――その界隈では、と言ったけど」
「血の臭いにでも誘われてきた、そういうことですか」
 秋月は大きな羽を火にくべた。
 チリチリと上がっていく火の粉、そして、落ちた、黒い塊。



「かの者達に、祝福を――」
 ささやかな祈りの声がする。
 散り散りになった遺体達は、回収袋へと全て収められた。ドッグタグを握り締める。
 戦場に行った者たちは、タグを墓標とする。この者たちは、幸運だった。
 それが、どのような結果でも。
「シメくせぇ‥‥」
 わしゃっと髪を掻き揚げる黒木。言葉とは裏腹に、瞳は暗く沈んでいた。
 ムーグはその姿を見るも、声はかけず‥‥ただ、空を仰いだ。
「‥‥死は、全てに‥‥平等‥‥。ならば‥‥報われ、る‥‥死。でなけれ‥‥ば‥‥」
 答えのない問い。不破の心は、あるのか、ないのか。



「今回は‥‥違ったのかな?」
 他の皆が離れた後、慈海は酒瓶を持って近づいてきた。
 日本酒だ。彼の趣向にエスティは少し表情を崩す。
「‥‥やはり、気付いていたの?」
 口調も先程までとは違い、少し砕けたものとなり慈海の顔も綻ぶ。
 常に距離をもつ彼女、それが縮まって来たのだろうか。
「君達姉弟とはこれでも付き合いが長いつもりだよ?」
「そうね‥‥」
 陽が海をも暁色へと染める。その色よりも濃い紅で見つめる海は深く戸惑いを見せていた。
「‥‥まぁ、おかしいとも思ったのよ。彼なら‥‥彼に関してなら、ボスは依頼してこないから‥‥」
「ボス‥‥か」
 会った時は、組織から逃げていた時。それから彼女は、元の位置へと戻った。
 宝物を、取り戻したからと。
「‥‥潜んでいるのは事実よ。でも、ボスが動くことはまずない‥‥」
 回収した遺体たちも、それは軍部関係者が背景に居たからに過ぎない。
 彼女のボスが動くのは、どうやら軍関係者の、それこそ個人的事情のみ。それこそが、彼女達の組織の存在の由縁なのかもしれない。
「それでも‥‥あの子には、この地位は役に立つもの」
 たとえ、それが仮初であっても。
 かけられた嫌疑を壊したのは何か。表舞台に立たないものとの引き換えは。