タイトル:【AA】最後の攻防戦マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/10 23:59

●オープニング本文


 ピエトロ・バリウスの戦死とユニヴァースナイト弐番艦の大破の報せは、勝利に酔いかけた欧州軍本部をその黒い翼で一打ちした。ミカエル1(移動橋梁の中核のタンカー改装艦)に巣食った増殖型キメラは、大規模作戦中にその仔の多くを始末された。しかし、傭兵達も本体を仕留めるには至らず、イソギンチャク風のキメラは、いまだ艦内に醜い姿で鎮座している。
「撤退路としてミカエルを使わざるを得ないな」
 ユニヴァースナイト弐番艦を離れ、指揮所に入ったハインリッヒ・ブラットは端的にそう告げた。戦力の半ばを喪失しつつも、バリウスのアフリカ軍団は壊走せず、状況が許す限り整然と北へ向かっている。彼らのために、移動橋梁ミカエルはまだ必要だった。
「ミカエル1のキメラの処理を傭兵達に依頼しろ。本体を潰せずとも、出てくる奴をもぐら叩き式に始末できればいい」
 無論、根っこを絶てれば言う事は無いのだが。最悪の場合、ブラットは慣性制御装置のみを回収し、ミカエル1は自沈させると言う方法を取るつもりだった。


「ちょっと、どこを触ってるのよっ!」
 艦内へとツタのような自らを這わせるキメラに対し、一人の傭兵が悲鳴を上げた。
 近くにいたのだろう、賢明にも他の仲間が集まるまでと時間稼ぎをしているのだが、どうにもうまくいかないようだ。
 それもそのはず、彼女のすらりと伸びた左足には蛇型のキメラが絡まっている。そして、手に持っていた武器もまだ残っていた犬型のキメラに奪われていたのだ。
「あぁんっ! もうっ! 早く誰かきてってばっ!!」
 その声が聞こえるのが先か、ブラットの命令を伝えに走り回っている兵士の懇願とも取れる要請が先なのか。
 それが、ミカエル1の運命を左右するのは間違いなかった。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
龍鱗(gb5585
24歳・♂・PN
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
兼定 一刀(gb9921
28歳・♂・FC
サクリファイス(gc0015
28歳・♂・HG
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

「よし行くぞうーりん。ロマn‥‥じゃなくて名も知らぬ少女が俺達を待っている」
「あぁそうだn‥‥ってちょっと待て今何言いかけた!?」
 麻宮 光(ga9696)は女の悲鳴にも似た叫び声に反応した。右には力をこめた拳が沿えられている。
 思わず頷いてしまう龍鱗(gb5585)。そう、全ては麻宮が黒幕であることはここで明らかになっていたのだ。



 ハインリッヒの命令により、討伐の号令が艦内に響き渡った。
 近辺にいた傭兵は、即座に対応へと向かっているものの、そのほとんどがまだ日も浅い者達だったのが、結果、捕らわれる者が出た形となってしまっていた。
 号令を聞き、駆けつけてきた百瀬 香澄(ga4089)たちはその一つの現場と遭遇したのだ。
「弾けるふともm、もとい、新人がピンチと聞いて参上!」
 女の子好きを特別隠そうとしない百瀬は思わず本音を口走る。
 その視線は、蛇型のキメラに足を捕らわれた女の子の脚へと注がれていたが、一気に入る軌道修正。拝むのもたまらないが、傭兵としての仕事も忘れてはならない。
「‥‥こいつは強敵だ」
 駆けつけながらも襲撃現場の情報を仕入れていた麻宮は、締め付けられる脚に思わず生唾を飲み込んだ。彼にとって強敵なのは敵ではない様子。
「彼女に失礼だろ、この浮気者〜」
 若い肢体へと食いついた視線の麻宮に桂木穣治(gb5595)は目が笑いながら持っていたカメラで小突く。
 その拍子にカシャッと音がしたのだが、なにやらキメラたちの発する音に消されていった。
「ミカエル共々吹っ飛ばすというのは‥‥無理ですねぇ」
 そんなまずはおみ足拝見の方々と違いサクリファイス(gc0015)は後ろに聳える本体であろうイソギンチャク型キメラと、その前に立ちはだかる数匹の蛇型、犬型キメラを見ながら呟く。
「ミカエル1を放棄等させませんわ‥‥」
 スラリと花鳥風月を抜いたロジー・ビィ(ga1031)が、蒼い闘気に身を包まれ先頭を駆け抜けた。

 艦内の通路は狭い。
 それゆえに陣形はすんなりと決まる。
 ロジーを先頭に百瀬、麻宮と続き、桂木が走った。
 目指すは後ろに聳えるイソギンチャクキメラだ。ロジーの振るう剣により本体への道が切り開かれる。
 走り抜ける彼らを襲おうとするキメラたちに、開けた道を守るかのように左右から壁が立ち塞がった。
「一発で仕留めなくてもいいからな。数が数だ、手数を優先しようぜ。近くに入ってきたのは俺に任せな!」
 ロータスでうねり近づく蛇を牽制しながら叫ぶフーノ・タチバナ(gb8011)を中心とした左側に、
「こうでござるな!?」
 時代錯誤な口調で扇嵐を開く兼定 一刀(gb9921)。
「イソギンチャク型キメラ‥‥なんで私は悪趣味キメラに縁があるのかしら‥‥」
 嘆きながらも的確に一撃一撃をアルファルで遠くから射るラナ・ヴェクサー(gc1748)だ。
 対する右側には、
「‥‥ガン見してねぇで早く助けてやれよ」
 視線がどうも女の子に行きがちな麻宮にため息をつきつつも敵を壱式で薙ぎ払うことを忘れない龍鱗と、
「敵の魂胆はお見通しよ」
 少し上へと直した眼鏡の奥が光る藤田あやこ(ga0204)。
「不法占拠ですよ、ご退場願います、この世から」
 しなやかに構えたアサルトライフルでキメラを打ち抜こうとしているサクリファイスが援護していた。


「邪魔‥‥ですわ‥‥」
 進む中、次から次へと現れ立ちふさがるキメラに、ロジーは無表情な視線を投げかける。先程から振るっている小太刀にはキメラの体液が付着していた。
 視線を向けると、素早く一振るい。体液は飛び散った。
 道をこじ開けながら、先程まで悲鳴を上げていた方を見ると、百瀬が女の子の肢体に取り付いていた蛇をナイフで取り除いていたところだった。
「‥‥あ、ありがとうございます‥‥」
 くっきり付いたロープ状の後を痛そうにさすりながら、息も絶え絶えに礼を言う。
「んー、悶える姿はもうちょっと見て‥‥いや、何でもない」
 思わず本音を零しそうになりつつも、声を飲み込んだ。周りの喧騒により小さく呟いた言葉がかき消されたのが救いだろうか。
 素早く彼女の状態を確認すると、後方より進んできた藤田へ声をかける。
「わかりました」
 その言葉を受け、百瀬はふわりと女の子に笑顔を見せると、再び先鋒に舞い戻っていく。
「‥‥ちっ」
 もう少し見ていたかった、それがまさしく本音であろう麻宮の小さな舌打ちに気付いた龍鱗は鋭い視線を彼に移した。手に持っているのは壱式ではなく何故かマスタースコップ。そして‥‥。
 鈍い衝撃が麻宮の頭に落ちる。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
 不意を打たれたのもあり、声にならない叫びと共に頭を抱えた麻宮は攻撃された方向へと振り返った。しかし、すでに龍鱗の手元は壱式に戻っている。
「うーりん、なんかしただろ!」
「さぁ、それよりもさっさと片付けてください」
 無駄に爽やかな笑みを麻宮へと見せ付ける。納得いかないものの、ショータイムは終了したのだから、残りは本来の目的(麻宮にとってはついでであろうが)を果たすべく先程とは違った真剣な眼差しをイソギンチャク型キメラへと向けた。グローブに嵌められている黒い水晶球が淡く光りだした。
「はっはっは。残念だったな」
 そんな麻宮に肩を並べる桂木はシャッターを切る。桂木のカメラは武器にもなっている。そう、サイエンティストの彼の操る超機械だ。ようやくやる気になった麻宮の顔を写し取ると彼も武器を持ち替える。
「さって‥‥とっとと片付けるが吉だな」
 桂木の声に反応して開かれるダリタリオン。表紙の顔が、微笑んだように見えた。


「たくっ、大丈夫かよっ」
 苛立たしげにぼやくフーノは、目の前へと次から次へと現れる犬型キメラと対峙している。ペルシュロンを取り付けられた靴が、見事に宙を舞う。
 背を任される形で助太刀している兼定の扇が攻撃を受け取ると、生じた隙に落とされるのであった。
「ばりうす殿の無念、如何ほどのものか‥‥! かの御仁の遺されたこの『みかえる』、無駄には出来ぬでござる!!」
 気合の入った兼定は扇の下から愛刀を繰り出す。下から攻め寄ってきていた蛇型キメラへとずぶり。深く刺しいったのだった。


「あぶないっ!」
 ラナがアルファルを引いた。
 そこには藤田から介抱を受けた少女が再びキメラの餌食になろうとしている姿が見えたのだ。
「もう大丈夫よ‥‥お疲れ様。後は私達が終わらせるから‥‥」
 目の前にはたくさんの矢が刺さった犬型キメラが倒れている。動かなくなったのを確認すると、周りへの警戒を解かずして刺さった矢を抜いていった。
「でも! あたしも戦います!」
 震える肩を両腕で抱えつつ、少女は訴えるように言葉した。
 しかし、彼女の武器は既に敵に奪われており、そして破壊されている。
「これでも使いなっ!」
 遠くから百瀬が何かを放り投げてきた。
 クラウドだ。
「あ、ありがとうございます!!」
 大きく声を張り上げる少女に対し、ラナは短くため息をつくとそっと自分の着ていたジャケットを肩にかけてやる。
 襲われたときにだろう、服が千切れていたのだ。
 そのことにようやく気付いたのか、少女は顔を赤くしながら小さく礼を言った。
「いいから‥‥気を抜くんじゃないよ」
 こくりとうなずくと、少女もまた鋭い視線で前方を見る。
 じわりじわりと近づいてきている、犬型に対しラナもまた武器をグロウと機械剣へと替えたのだった。



 ロジーの発したエネガンの一撃が、イソギンチャク型キメラへと沈んでいく。
 脇から伸びてくる触手を百瀬と麻宮が切り落としていった。
 狙い定めて桂木が何事か呟くと、手元の本、ダンタリオンが自動的にページをめくり、一帯に電磁波を流しだす。
 状況は、善戦であるといえた。
 本体へと攻撃をしている先鋒隊により、出現する仔キメラの数は当初より下回っていっている。また、その仔キメラも最初に通路を援護していた他2隊が追撃しているため余裕が生まれてきていた。
 ただ‥‥
 イソギンチャク型キメラは、大変頑丈だったのが予想を超えていたといえるのかもしれない。
 徐々に削られているとはいえ、厳しい状況はまだまだ続くかのように思われたのだった。

 攻守は均衡していた。
 それでも、徐々に減る仔キメラの群れに、対象は本体、イソギンチャク型キメラの方へと流れ変わっていった。
 忍び寄る触手、それをかわしながら攻撃を仕掛けていく。
「おっと、縛られるのはご遠慮願うよ。そういう趣味はないんでね!」
 今にも絡みそうになった触手に百瀬が槍を突き刺す。
 その時だった。
 鈍い衝撃が、艦内へと走る。

「Grrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr」
 声とは言えない、でも、断末魔がイソギンチャク型キメラから上がった。
 艦内へと流れ込んでくる煙に、思わず口元を押さえる。
 視界を煙が覆いつくすと共に、刺さっていた武器から伝わる手応えが消失していった。
 視界が晴れた時、大きめの穴が目の前に現れたと同時に、生命反応の消えたイソギンチャク型キメラが、だらしなく触手を散らしていたのだった。


 無事、とは言い切れないものの本体を駆除することが出来たおかげかミカエルにとっての損傷は少なく片がついた。
 サクリファイスの機転により、ミカエル外側からの攻撃が可能になったからでもある。
 ペイント弾と詳細を書き記した地図によりイソギンチャク型キメラ本体が生息している地点が割り出されたのが大きな勝因といえよう。
 ただ、外側からの攻撃に省ける人員が中々確保できなかったことから内部での攻撃損傷が大きかったのだ。
 それも、現在は船員たちによって補修が施されているのだから覚悟を決めなければいけないほどの大損傷には至らなかったといえるだろう。
 ミカエルを失わずに済んだこと、これは指揮するハインリッヒにとっても、また人類側にとっても大きな成功と言えるものかもしれなかった。


「これで作戦の、全ての始末はついた‥‥いや、囚われの厄介な老将がいるか。‥‥骨が折れそうね‥‥」
 ミカエルの中で安息の時間が齎された。
 一人看板の上に立つラナは遠くの、砲台が聳えているはずだった場所を見て呟いたのだった。

 捕らわれた老将、彼のことを思い出しながら。