タイトル:【銀狼】彷徨える捜し人マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/15 00:44

●オープニング本文


「それではお姉様、このことは内密に‥‥」
「はい、ノーラ。くれぐれもよろしくお願いしましてよ?」
 オレアルティア・グレイ(gz0104)の言葉に真剣に頷き返すノーラ・シャムシエル。
 そこには、見えないものと格闘する二人の姿があった。



 オレアルティアに呼ばれたのは、真っ赤な夕暮れが、薄紫へと変化する、そんな時間だった。
 入った室内には、電気の灯りではなく、銀の燭台に立った、蝋燭の灯火だけ。
 ゆらりと揺れる中、長椅子へと腰掛けて居るもの憂げなティアが、印象的で。
 以前、ここに来たのはいったいいつの事だっただろうと、記憶を振り返ってみた。

 連絡があったのは、事務所が閉まる直前の事。今日は仕事が少ないからと、帳簿をつけ終わり、まさに出ようとしていたときだった。
 鳴り響く電話の音に、誰かしらと思いつつ取る。
『ノーラ、お久しぶりですわね』
 受話器から流れ出てきたのは、懐かしい声。そう、女学院時代にも慣れ親しんだ、オレアルティアの声だった。
 ノーラは女学院を出て早3年が経過している。彼女よりも3つほど上のティアは、カレッジにはすすまなかったのでもう10年にもなるだろうか。その後、父とも取引のある銀食器の会社を継いだと聞いたのだが、ノーラにとっては疎遠になりつつあったのは事実である。
 見初められ、結婚をし、子供を生み‥‥旦那に先立たれ。
 波乱万丈の彼女ではあるが、今は一児の母、まして社長を務める身である。
 ノーラにとって、少なからず憧れの存在であるのは間違いなかった。
 そんな彼女が電話をしてくるなど、まして事務所に‥‥不思議に思いつつ要件を問うと、『個人的な要件で逢いたい』そう言ってきた。

「ごめんなさいね。忙しい中」
 ノーラの姿に気付いたのか、ティアは長椅子から立ち上がり、こちらに微笑んで見せてきた。しかし、その笑みはすぐに消え、再びもの憂げな表情へと舞い戻る。
「ご無沙汰しております。ティアお姉様」
 慣れ親しんだ呼び方をすると、くすぐったそうに表情をゆがめ、席を促された。
 腰を落ち着けると、暫し空間を見つめ、そして深く息を吐いた後表情が引き締まる。
「あのね、あなたにお願いしたいことがあるの‥‥」
 これから聞くことはただ事ではなさそうだ。喉を鳴らし、緊張を示す身体に、強く拳を握って落ち着かせる。
「はい、何をですか?」
 そこに表れたのは、昔ティアに懐いてきたノーラの顔ではなく、既に一探偵として仕事を任される、そんな彼女の姿だった。

「あなたにお願いしたいことはね‥‥」
 そう言って一枚の写真をティアは取り出した。
 そこに写っているのは、とても優しそうな、一人の男性で。
「この人を、探してもらいたいの」
 それを指し示すティアの表情は、今にも泣き出しそうで。ノーラは頷くことしかできなかった。
「これはね、個人的なお願い。ですから、他の人‥‥特にここの社員には内密にお願いしますわね」
「‥‥はい」
 ゆっくりとその写真を拝見すると、何処か見覚えのあるような気がして‥‥
「それと、これを渡しておくわ」
 すっと、長椅子のクッションの下から一丁の銀色に光り輝く銃器が取り出された。
「お、お姉様!?」
「‥‥あなたにもしものことが有ったら、大変ですもの。護身用よ、持ってて」
 手で包まれるように持たされたその銃は、ひんやりとしており、それを上から包んだティアの手も、また冷たく‥‥これから起きることを告げるようで。
「‥‥わかりました。」
 ノーラは、丁寧に受け取るとしっかりとした重さに身を引き締めていた。



 後日、ノーラは写真の男性について調査を開始した。
 彼について、少しばかり思いつくことはあったものの、その点は少しだけ見ない振りをして。
 いくつかの目撃情報を手に、探り出せたのは、現在フランス南部の、小さな農村にいるらしきこと。しかし‥‥
「‥‥どうして、そんなところに居るのかしら‥‥」
 思わず溜息を漏らすノーラであるが、その原因は‥‥最近キメラによって襲われた、そんな情報が入っていた村だったからだろうか。

●参加者一覧

周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
ユーリ・クルック(gb0255
22歳・♂・SN
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
トリシア・トールズソン(gb4346
14歳・♀・PN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
今給黎 伽織(gb5215
32歳・♂・JG

●リプレイ本文

 南フランスは、長閑な風景と共に、少しきな臭い空気が流れていた。
 数日前にあったばかりというキメラの襲撃。
 それによって半壊滅状態へとなった村。そんな村が目的の場所であった。

「よぉ、ノーラ。初めましてだな‥‥俺はヤナギ。今回は宜しく頼むゼ?」
 赤い髪の男、ヤナギ・エリューナク(gb5107)が咥え煙草のまま手を差し伸べ来た。綺麗な顔立ち、そして優雅な手つき。しかし、口元の笑みだけが何かを隠しているように見える。
 そんなヤナギに、仕事用の笑みを返しながらノーラは集まってくれた者達を見やる。
 知っているのは周防 誠(ga7131)。以前依頼で何度か言葉を交わしたことがあっただろうか。
 他にも、フラフラしている折に顔を見た者達もいたが、ほぼ初めての顔同士であった。
「皆さん、今回はよろしくお願いしますね」
 背筋を伸ばし、畏まった感じで言葉を発する。
 そして、すぐさま今回の詳細へと入っていった。

 依頼内容はとある男の捜索。その旨を告げた後対象人物の写真をみなへと渡す。その写真をみて今給黎 伽織(gb5215)はより詳しい情報がないかと訊ねてきた。
「この人物の名前や経歴は不明なのかな?」
 その言葉に首を静かに振り。
「‥‥しかし、この目撃情報はどこから仕入れてきたんだい? まぁ、僕は探偵業は詳しくないから、よくわからないんだけど」
 爽やかな笑顔で微笑みながら、目が笑っていなかった。
「それは秘密です」
 ノーラもまた、綺麗な微笑を返していた。これ以上、情報を開示できないと言外に告げながら。
 それはまた、開示することによって依頼人への影響を及ぼすと告げているのだった。

 高速移動艇を降りて、大神 直人(gb1865)と依神 隼瀬(gb2747)はAU−KVを形態変化してバイクとして使用、その他はユーリ・クルック(gb0255)と周防が用意してくれたジーザリオに分乗して走る事約2時間。
 目の前に見えてきた景色は、あまりにも悲しいものであった。
 キメラによる襲撃があったと聞いたものの、どのような規模かというのは把握しておらず、そのまま乗り込んできた。荒れ果てた田畑、崩れかけた家屋、倒れた木々。
 そんな光景に、少し息を呑みつつ少し離れた場所で一回止まる。
「先に見てくる」
 ヘルメットを外しながら大神が告げる。
「それだったら、僕達もいきます」
 ノーラが乗り込む前に状況を見るからとユーリ、周防、ルノア・アラバスター(gb5133)を護衛に残し他の面々もユーリのジーザリオを借りて彼らと共に村を捜索に当たることとした。
 危ないから。
 その言葉に思わず服の下に忍ばせてある冷たい物に、ノーラは手をやる。
 大丈夫、御守を使用することは‥‥そんな事を思いつつ。
 そんな様子を見て、ユーリはそっと励ますかのように肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ、すぐにみなで捜索に当たれますから」
 対象となる人物の写真は出発時に皆へと渡してある。聞き込みをしようにも、まだあたりにキメラが居たら‥‥そう考えての行動とはわかっていても、自分の力のなさに思わず歯噛みをしてしまう。


「ぐぬぬ‥‥」
 運転席へと向ったトリシア・トールズソン(gb4346)は、凄く難しい顔をして踏ん張っていた。その様子を見かねた今給黎は苦笑しつつ席を譲るように優しく言う。
 しょぼくれた様子で席を渡すと、トリシアはぐっと拳を作って俯いていた。
 どうやら身長が小さいため、運転席では足が届かなかったらしい。そんな彼女を見かねて、ヤナギはそっと後部座席へと誘導する。
 そんな車のメンバーの様子を見ながら、バイクの二人は顔を見合わせ村へと向う合図を送ってきた。

 移動中依神はそっと前を走る大神の背中を見つめていた。
 名前が、自分の知人と似ている彼を。
―― なおと、だよな。なおひとじゃないし。
 理解していてはいるものの、頭に浮かんだものはそう消えるものではなく。複雑な思いを抱えたまま走行へと意識を集中させていた。

 村へと着くと大神はヘルメットを脱ぐことをためらった。目の前に広げられている光景。入る手前から感じていはいたものの、やはり傷跡を見ると心が痛む。ジーザリオから降り立ったヤナギは戦闘の痕跡と見られる木へ近づいていた。明らかに幹へと付けられたであろう傷をそっと撫でると、大きな獣型の存在が脳裏に映像として現れる。爪の痕跡だった。踏み固められた地面の状況からまだそんなに時間が経っていないことを感じとっていた。
「まだ、いるな」
 その言葉に続いて降りてきたトリシアと今給黎も警戒を強める。

「左へ‥‥俺達はそのまま右側の丘を目指してみます」
 体制を低くして呟くと、エンジンを噴かせる。出来れば、途中で形態を変えたいところではあるが。今は回り込んだほうが良いだろうとそのまま走る事としたのだ。
 身構えつつ、背を木の方へと向ける。降りたばかりの二人もまた、車を背に取り警戒を強めていた。

 息を潜め、神経を尖らせる。
 不意に耳に鈍い土を押す音が聞こえた。同時に2個。
 恐らく動物であろう。
 段々と迫り来る音。そして、増えていく音。
 丘の方では既にエンジン音が途切れている。形態を変えたのだろう。
 そして、ヤナギはそっと銃のシリンダーを落としたのだった。


 宙へと舞い上がったのはペイント弾。ゆっくりとした軌跡を描きながら目標へと近付いていく。否、ゆっくりとしたわけではないのだろうが、そのように感じられた。
 先制攻撃。
 それと同時に走り出すトリシア。小さな体を余計小さくさせて走り出す。
 目標も既に荒い息を吐きながらこちらへと向ってくる。
 それは鮮やかなまでに紅い大きな犬で。金色の目、野生的な躍動が狼である事を告げていた。
 丘の上から鋭い音が聞こえてくる。
 恐らくそちらの方でも対峙があったのだろう。
 ヤナギの放ったペイント弾はそのままトリシアに一番近い狼の額へと命中し、そこへすかさずチンクエディアを沈めさせる。その衝撃で引いた際に、素早く蛇剋を追撃として入れていった。
 光らせていた視線を少しだけ外し、今給黎もまた次から来る狼へと向いて居る。
 狙うは足元。真デヴァステイターが唸った。
 一体何匹居るのだろうか、そんな事を考えつつも襲い来る狼への追撃も忘れずに。


 いったいどのくらいたったのだろうか。
 探査の眼を光らせても気配を感じなくなったのは、始まりから数時間たったときであった。来る時は2匹や3匹、また合間に長い時間も置く事もあり。
 その様子からいって、人的に操っているのだろうと予測せざる得ないタイミングで。
 あらかた倒した後、丘の方で戦っていた2人が周囲の見回りを実行。そして、改めて安全を確認すると無線で待機中の護衛班へと連絡を取る。
 そして、捜査が始まった。



「なぁ、もしかして依頼人はS&Jの社長さんか?」
 大神が何気なく質問をかけてきた。先ほど、村に入るときに警戒態勢にと銃を取り出したのを見られていたのだろうか。しかし、彼女の会社が銃を作っていることは一般的には知られていない。一瞬の間をおいてノーラは「どうしてかしら?」と言葉を発していた。
 すこしだけ顔をしかめたものの、にこやかに否定の言葉を告げたノーラを見てユーリはこの捜索にオレアルティアの存在を確信に変えていた。
 見た銃は、やはり自分も持っているこの銃と同じなのだと。そっとその銀の塊をなであげる。

「‥‥情報を、まとめなきゃ‥‥」
 一通り村を探索した後ジーザリオの元に戻ってきた。村の壊滅状態を見て困惑を隠しきれないノーラは少しばかり顔色を変えて。そんな様子をルノアは見つめて。
 大神や依神は村の細部にわたり、ヤナギ、周防は倒したキメラを中心に調べていた。

 近隣の村へと逃げた村人からの情報やキメラたちの痕跡を取りまとめた結果、中々興味深い事態が発覚する。ここ最近、この近辺にて襲われた村の共通点だった。
 はじめに聞こえる咆哮。そして紅い狼。
 群れで居るのかわからないが、襲うときの統制は取れており、一定の被害を与えると引き上げる。それは、まるで操られているかのように正確という事。
 そして‥‥
 『旅人がどの村も訪れていた』という事実。
 誰というわけでもなし、声をかけたわけでもない。ただ、襲われた数日前には必ず誰か村人でないものが入っているのだと。
「これは、村人を狙ってなの? それとも‥‥」
 憶測はどちらへと向けるべきなのだろうか。
 生憎探していた人物を見かけたという情報はなかった。
 ただ、ここらへんに居たという事実は間違いではないだろうとノーラは確信していた。
 銀色の唄が鳴り響いているのだと。

 村の去り際に、一枚の写真を見つける。
 それは、キメラの痕跡を調べていた時に見つけたもので。
 一枚の写真には、小さな赤ん坊の写真。そして、それを抱く捜し求める人物が写りこんでいた。大神ははっと息を呑む。しかし、口には何も出さない。
 周防はそっとそれを拾い上げると、埃を落としノーラへと渡す。
 表情を少しだけ歪め、そしてありがとうと微笑み返し。
 照らし合わせた写真は、同じ人物かどうかを疑問に思うくらいの笑顔と真顔。首にかけられた銀の鎖が同じ人物であるという証になるだけであった。



 遠くの丘の上に、人影が見える。
 ルノアはすかさず双眼鏡を覗いてみた。
「‥‥‥あの、人‥‥‥」
 呟きが漏れ出る。
 サラサラとした茶色の髪が、風に靡かれた。
 少し長めの様子は写真とは違った感じで。
 少し汚れくたびれた服が、長いこと着替えていない事を告げているようであった。
 微笑みは一切無く、鋭い視線で双眼鏡をレンズ越しから見つめられてるようで、体に思わず震えが走る。
 殺気。
 そんな言葉が合いそうな視線。
 動かないルノアにトリシアがそっと肩に手をかけると、思わず双眼鏡を取り落としてしまった。
「ご、ごめんっ」
「だ、大丈夫、です」
 再び取り上げて丘の上を見やると、そこには既に誰も居なかった。


「どうやら、英国へと向ったようですね」
 帰りの高速移動艇に乗り込んだとき、周防は真剣な表情で席へとついた。
 写真の人物を、万が一とばかりに乗務員に聞いたのだ。彼が言うには一般の方々の中でも、背丈があり髪の色が特徴的だったので覚えているとのこと。
 そして、並んでいた列の先には英国行きの便が用意されていたということ。
 どうやら、次に探さなければいけないのは英国らしい。
 その手掛かりが最後の入手したものであった。