タイトル:【JB】Rescue dramaマスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/22 02:17

●オープニング本文


 6月は、幸せな恋人達にとって特別な意味を持つ月である。それは、恋人達が地球を守る能力者であっても変わる事はない。しかし。
「‥‥つまり、6月の結婚式は禁止、と言う訳かな?」
 UPC管理局からの通達を、カプロイア伯爵は読み返した。正確には、LHからの呼び出しに3時間以内で応えられる場所で行うべし、との事だ。たかが式典、されど式典。島内での実働が2000人以下の状況で、結婚式1組で50人の能力者が動くと考えればバカにならない。
「縁起物ですから。良い日取りに集中して行われると、LHの即応能力はが大きく落ちると思われます」
「仕方が無いのは理解した。しかし、LHに式場などあっただろうか?」
 ホールの類は無くは無い。しかし、足りるはずも無いと秘書は言う。
「LHから3時間以内、か‥‥ふむ」
 今一度、文面を読み直す伯爵。LHの予定停泊位置から程近い無人島が差し押さえられたのは、暫く後の事だった。
「何も無い場所だがね。建物は急いで手配したまえ。交渉が上手くいけば、移築も視野に入れるように。利用者の意見も聞いて、だね」
「‥‥それ以前に、安全を確認すべきかと」
 何かの間違いでキメラがいないとも限らない。これから忙しくなりそうだ、と言いながらも伯爵は常より楽しそうだった。

◆◇◆


「うわぁ‥‥気持ちいい‥‥」
 海からの風に髪をなびかせ、ノーラは島の南に位置する高台から海を見つめていた。
 遠くまで、緑色がキラキラと光り輝いている。
 普段住んでいるイギリスの海とは違い、とても温かくて。
 どこまでも、どこまでも透き通るその色に、少しだけ心ときめかせながら。

「ノーラさーん、こちらは準備できました〜!」
 この度出された依頼は何処かのお金持ちが用意した無人島を捜索することで、ノーラは数人伴って現地調査へときていた。
 なにやら、依頼人からの多大な報酬金が出る依頼だったため、張り切った事務所が気前よく派遣してくれたのだったが。

「よぉし、それじゃぁ行って見ましょうか♪」
 不意に、後ろを振り向いた瞬間であった。

「あ、危ない!!」

 突如発生した強風。
 これが、全てを変えるきっかけで‥‥


「はうぅぅ!!?」

 その風に押されるように、バランスを崩したノーラは‥‥

「ノ、ノーラさーーーーん!!」
 慌てて駆けつけた者達の手を、触れることなく高台の、ほんの少し下にあった穴へと吸い込まれて‥‥

「き、緊急事態だ!!」

 まさかのハプニングによって、至急近くまで来ているUPC本部へと救助の要請が入ったのだった。

●参加者一覧

アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
風見斗真(gb0908
20歳・♂・AA
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
ソフィリア・エクセル(gb4220
19歳・♀・SF
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN

●リプレイ本文

「‥‥不注意とはいえ、ノーラさんは一般人なんですよ‥‥。もしキメラなんかと出会ったら‥‥とにかく、助けに行かないと!」
 緊急の文字が書かれた依頼を発見した時、思わず知り合いの人物の名前を発見したファイナ(gb1342)は流石にいい心地がしないでいた。
 しかも、その人物は能力者ではない。そして、まだ探索が終っていない、非安全地帯でのこと。これは急がないと、と、そう考えた末、取り敢えずは必要なものをとケーキを持つことだけは忘れずに‥‥。



「誰かは何かやらかすと思ってたんだよなぁ‥‥」
 落ちたという穴の現場についたとき、御守 剣清(gb6210)は思わず呟いていた。少し上のほうに、見晴らしのいい丘は有るのだが、足元が不安定な岩である。きっと、そこからバランスを崩したときに、この穴へと滑り落ちた‥‥そんな展開である事は容易に想像がつく。
「橘川さんのAUKV、通れますかね‥?」
「うーん、これだったらギリギリでしょうか」
 ファイナの言葉にAUKVを装備した橘川 海(gb4179)は、穴の広さを見て自分が充分に通れるかどうかを目測する。
 ちょうど、体格のいい大人だったら2人は無理かもしれない、そんな縦穴である。両手を広げてはまず無理であろう。
 一人の人物を抱えたまま、上に上がってくるのはまず無理そうであることを考えると、流石に発見時は別の出口を探した方が良いのかもしれない。
「まぁ、どっかに通じてるんじゃないかな〜」
 近隣の島に住んでいる漁師が、子供の頃に探検したといったこの島の簡易地図が手に入っていたため、それを拝見すると、なにやらこの島には地下へと繋がる洞窟があるようで。
「とりあえず、先に行きましょう」
 憶測ばかりでは先に進まないとばかりに、真剣な表情を浮かべたファイナは、近くにあった木にロープの先をしっかりと繋ぎ、縄梯子を降りていった。




 縦穴を降りていくと、少しだけロープの先が足りなく地面へとつかない。足元を照らしてみると、地面までの距離がそんなにないこともあり、そこから飛び降りる事を決断した。着地した場所は古くからの落ち葉が舞い落ちてきていたのだろう。ジメっとした感触と共に、吸収される衝撃。どうやら、この様子だとクッション材の役割を果たし、大きな怪我はしないですんでいると見受けられる。
「一先ずは、安心かな‥‥」
 どうやら一人で動けるようで、落ちたと見られる場所には姿が見受けられなかった。
 しかし、どうせならその場に居て欲しいとおもうのは救出側の勝手だろうか。
「まぁ、落ちたと連絡受けてから時間経ってるじゃん? 仕方ねーんじゃねーの?」
 かったるそうに頭部に腕を組みながら、風見トウマ(gb0908)は足元の落ち葉をけり散らかす。
「まぁ、早く発見しないとな。何せ、“迷”探偵だし」
「そうなんですよね。“迷”探偵なんですよね」
 カララク(gb1394)の言葉に、ファイナは思わず溜息を吐いてしまう。
 出口に、一人でたどり着いてくれるならまだしも‥‥彼女は曰く付きの方向音痴だということを思うと、思わず頭を悩ませてしまうのだ。




「それでは、これを‥‥」
 少し進むと、辺りは暗くじめじめとしていて、ライトを照らしながら進んでいくのは細長い道で。もう少し進むと1本道だったところが枝分かれしていくようで。
 地図を見つつ進むも、どうやらこの先はいくつかに細かく分かれているようだった。
 アズメリア・カンス(ga8233)は分かれ道のたびに海岸で拾って置いた綺麗な白い石を目印代わりにおいていく。一緒にタッグを組んだ風見はぐるっと辺りを見回すと。
「洞窟の探索なんてRPGとか映画の世界だけだと思ってたんだけどな。いざやることになるとは思わなかったぜ」
 などと、けらけら笑いながら周囲に目を光らせていた。

「しゃむしえるー、いるかー!? シャムシエル、って言いづれぇな。 ‥‥しゃむー、いるかー!?」
 別の道を歩き始めた武藤 煉(gb1042)は大きな声で呼びかけをしつつ分かれ道に差し掛かると壁を殴りつけていた。一緒のカララクはそんな煉の様子を見ながら先ほどから印とばかりにつけている壁の傷を見て。
「‥‥勢い余って壁を砕くなよ、煉」
 そんな言葉を呟いていた。




「ここは‥‥」
 橘川と共に歩いていたファイナは目の前に広がる青い世界に少し驚いていた。
 最初から有る程度予測ついてたのだろう橘川は、足もとの水に注意しつつ、ライトに反射する鍾乳石を見やりながら慎重に足を進めていく。
 水が、流れていた。
 ある程度足を進めると、そこには小さな池が出来ていて、何処かに通じているのだろう空気が漏れているのが水面下の気泡でわかる。どうやら、この池を越えないと向こう岸には行けない、そんな状況下で橘川は暫し考え込むと。
「ちょっと調べてきて見ますねっ!」
 素早く命綱を手の回る鍾乳石へと括りつけ、担いできたエアタンクを取り出し、セットし始める。
 ぶくっと潜り始めると、そこには意外なほど広い空間が出来ており、透き通った水が、どこからか漏れている光をかき集め、反射した幻想的な世界を作っていた。
――綺麗‥‥
 そんな感想を持ちつつ進み行くと、ちょうど上から光が射して来る部分を見つけ、浮上する。ざばーっと出てくると、そこにはちょうどワニキメラを美味しそうに見つめ黒い笑みを漏らすソフィリア・エクセル(gb4220)と、彼女とタッグを組んでいた御守がいて‥‥
 今、まさに目の前でワニへのとどめを刺した所であった。
「あ‥‥橘川さん」
「あはは、こっちにつながってんたんだね」
 さてと、仕留めたワニを担ぐ御守に対し、少し驚愕した表情を出したソフィリアは橘川の出現に思わず10秒しか持たない笑顔を繰り出して見せる。
「あ、あたしはファイナさんを呼んで来るよっ。向こう、行き止まりだったしっ」
 そんな彼女の心中を知ってか知らずか、橘川は慌てた様子で再び水の中へと潜っていった。
「‥‥行ってしまわれましたわね」
 ボソッと漏らした言葉に御守は苦笑するしかなかった。
 足元には、じわりじわりとわざと血を抜くように痛めつけて倒したちょっぴり大きめなワニが転がっていたのだった。




 どこかで道は繋がっている、それはある程度予測がついていた。しかし、それと同時にノーラがどこまで進んでしまっているのかは予測できなく、気付いたら分かれ道をずいぶんと進んでいた。
 途中橘川・ファイナ組はソフィリア・御守組と一緒になり、煉・カララク組は小さな分かれ道を幾度も進んでは戻り、進んでは戻りを繰り返させられ、そんな中で何度かスライムや蝙蝠など、小さなキメラに遭っていた。
 アズメリア・風見組は順調に進んでいたものの、どうやら大きく迂回をしている、そんなルートを辿っていたらしく、距離だけはやたらとあった。
 進んでいけば進んでいくほど、暗かった道は徐々に明るさを増し、いたるところに鍾乳石が立ち並び始めていた。その分足元は滑りやすくなっていたのだが、明るさだけはライトに反射され吸い込まれるような碧がかった乳白色の柱が暗さを払拭していた。

「あいつ、どこまで進んだんだ?」
 進んだ距離を考えると、相当なものであろう。いずれにしても、自分達が進んできたルートを歩いてきたことは間違いない。それは、分岐点が最初3つ、その後に2つに別れ、それ以外は進んでいくうちに打ち消されてきたので証明済みである。
「ここまで来たら、流石に迷子になったは無さそうですけど‥‥」
 ワニを手に入れて、さもご機嫌状態のソフィリアでも少々いぶがしげに首を傾げる。
 すでに全員合流したことを考えると、もう、この先にいると考えるしかないところではあるが‥‥
「‥‥それにしても、一箇所に留まってるってことは出来ないのでしょうかね〜」
 救出を待つという言葉は、彼女に存在していないのだろうかと御守はポツリと呟く。
 ノーラを知っている者達は暫し考えつつ、
「「出来ないだろう‥‥」」
 そんな言葉を揃って漏らしてしまった。




 やや広くなってきた道を、進むこと暫し。突如として、拓けた空間へと出てきた。
 そこは、目の前に何かを掲げたような祭壇らしきものがあり、明らかに人工的に作られた空間で。その祭壇の前に丸まっている固まりが見える。
「ノーラさんっ、大丈夫ですかっ?!」
 大きな声で橘川が呼びかける。その声にびくっと反応を示し、顔を上げた様子を見て、一同ほっと一安心。
 ようやく、目的の人物を見つけたのだ。
 それにしても、よくこれだけ奥に進んだものだと溜息を吐かざるを得ないだろう。
 ヤレヤレと思いつつ、傍に駆け寄ってくるのを、彼女は身動きもせずに待っていた。

「ノーラ、久しぶりだな。怪我はないか?」
 そんなカララクの声に、うるっと涙目になりつつこくりと頷く。
「ほら、怪我はしていませんか?」
 心配そうに、座り込んでいるノーラと目線を合わせながらファイナは怪我の有無を確認していっていた。幸いにも、小さなかすり傷と、ここを滑ったときに捻ったのだろう、足の軽度の捻挫だけのようでほっと一息漏らす。
「‥‥これだけ、着ておいてくださいね?」
 そっと差し出されたピーコートを羽織ると、どれどれとカララクは背中を差し出した。
「ほえ?」
「ん? 歩き辛いだろ?」
 当然背中に乗れといわんばかりの態度に、少々戸惑いつつも無言で頷いてそっと身体を預ける。良しとばかりに頷き返し、カララクは煉を先頭に常に地図と場所を照合していたという橘川の案内に従い、地上へと出る道を進み始めた。

 もうすぐ、そういわんばかりの光が、柱となって室内を照らす。
 既に、ライトは必要ない。各自、何も言わずとも消す照明に負けんとばかりに溢れてくる明らかに自然界の光が、暖かな導きを示していた。
 この一角の不思議な空間、柔らかい光に輝く鍾乳石が、新たな祈りを待つように。
 そんな事を感じながら、早々に洞窟と判断できる場を後にするのであった。




 前に進むのが眩しいほどの明るさに照り付けられながら、滑る足元が、段々と乾いた岩場へと変化しつつ、一同は洞窟を抜け出ていた。
 目の前に広がっていたのは、眩しい日差しの中で、キラキラと輝く白い砂浜とどこまでも青いソラ、透き通るエメラルドグリーンの海。
 それは、ちょうど湾になったような、そんな海側から見つけるには難しそうなプライベートビーチのような場所で。
 振り返ると遙か上に聳える切り立った崖などが見受けられる。
 地図と照らし合わせると、ちょうど出発した地点から島の反対側になる位置まで来ていた。

 そんな日差しを浴び、先ほど倒したワニを担ぎつつ、御守は額の汗を拭う。
 ソフィリアが、このワニを食べると言っていたのだ。捌いてやらねば、そんな事が脳裏に浮かんでいた。


 サンサンと光がさす中、踏み出した足には白い砂がじゃれ付いてくる。
 それを、迷わず駆け出してしまったのは、風見であった。

「青い海! 白い雲! 俺にぴったりじゃないか!」
 風見は手を大きく広げ、日差しを全身に浴びつつ叫ぶ。
 そんな様子を見つつ、ソフィリアは静かに荷物の中から取り出したパレオ付きの水着をどこで着替えようかと、辺りを見回していた。温かい風が、頬を緩やかになでて。
 所々に有る岩に、座り心地のよい場所を探し当て、カララクはそっとノーラを降ろす。あの、暗いジメっとした洞窟から出たばかりだ、戻る前に少しは気分を変えてもよいかもしれない。アズメリアは無事救出した旨、無線機で本部へと報告を終え、一息ついた。
 橘川は、洞窟内の物事について記憶の限り地図に書き示していく。
 ファイナから借りたピーコートをそっと返し、ノーラは治療の施された足を、そっと撫であげる。
「大丈夫か?」
 声をかけられ見上げてみると、煉が頭を掻きつつ視線を逸らして立っていた。
 傍若無人の癖に‥‥その態度に思わず零れる笑みを隠し切れず、ノーラはうんと頷いて。
「ん、なら。少し話さないか? 久しぶりに‥‥」
「うん、いいよ?」
 散歩しながらも、いいだろうと。足の感覚を確かめつつ、これなら平気そうと先に歩き出した煉へとついていく。
「‥‥全く、迷探偵にもほどがありますよ〜。次助ける時はケーキ禁止令及び特製青汁ですよ?」
 洞窟を出た途端、いつもの元気を取り戻したノーラに向けて、ファイナは声を上げた。
 仕方ないですね、そんな言葉を呟きながら。
「ワニ‥‥捌きましたけど、ホントに食う気ですか‥‥? せめてカバンにするとかで止めといた方が‥‥」
 無駄だろうと思いつつも水着に着替えて遊ぶ気満々のソフィリアに御守はそっと尋ねる。
「いいえ、もちろん食べますわよ?」
 当たり前でしょ? そんな言葉を含みながら飄々と答える彼女に、御守はわかってましたけどね、一応言ってみましたとばかりに溜息を吐いていた。

 きっと、この後に繰り広げられるワニキメラのBBQも、ノーラなら気付かずに食べるであろう。そして、最後のデザートといって持ってきたチョコレートケーキを迷わず食べるだろう。
 そんな様子を容易に想像できてしまって。ファイナはやはり青汁も飲ませるべきかと、思いを廻らせていた。

「‥‥また同じような事故が起きないと良いんだが 」
 そんな、束の間の休息を楽しむ者達を眺めつつカララクがぼそりと呟いた言葉、後日どのように対応されるのか、まだ決まっていない。