タイトル:お宝自慢展覧会【OR】マスター:雨龍一

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/31 01:06

●オープニング本文


「副理事!」
「んあ?」
 ジョンはその呼びかけに眠たそうな目を向けて間抜けな返答をしていた。
 ジョン・ブレスト、言わずと知れた未来科学研究所副理事にして科学者として有名である。
 現在研究所では昼夜問わずに傭兵達が自らの武器やらアイテムを強化、作製に訪れており大変な賑わいを見せていた。
 研究所員たちも、その手助けに日々奮闘しているのである。
「副理事、彼らの頭の中って凄いですね!」
 目をキラキラと輝かせて話しかけてくるのは今月になって赴任してきた新人所員だった。
「はぁ‥‥何が凄いって、言うんだい?」
「いやいや、彼らがオーダーしてくる武器とか、アイテムの類ですよ!! 独創性が溢れているのとか、使い勝手がよさそうなのとか!」
「ふむ‥‥君は、彼らのアイテムがそんなに気になるのかい?」
「そりゃそうですよ! 是非とも紹介したいくらいです!」
「ほぉ‥‥紹介、ね‥‥」
 すると、ジョンは後ろを通りかかった主任を呼び寄せた。
「あぁ、悪いが一つ催し物を開いてくれないか?」
「はぁ‥‥構いませんが‥‥」

「題して、『お宝自慢』。内容は、自分が生み出したアイテムのお披露目会だ」
「‥‥副理事、ネーミングセンス悪くないですか?」
「‥‥悪いが、今は他の事で頭が一杯だ。仕方ないだろう」

●参加者一覧

/ 黒川丈一朗(ga0776) / 鳥飼夕貴(ga4123) / UNKNOWN(ga4276) / 古河 甚五郎(ga6412) / アンジェリナ・ルヴァン(ga6940) / 錦織・長郎(ga8268) / レティ・クリムゾン(ga8679) / 仮染 勇輝(gb1239) / ヨグ=ニグラス(gb1949) / ルノア・アラバスター(gb5133

●リプレイ本文

●オリジナルアイテム

 現在ラストホープに在住する傭兵達によって編み出されたオリジナルアイテムは約1100個に及んでいた。それを日々目にしている未来科学研究所の職員達は編み出されても鉄くずになって消えていく悲しみさえも見つめていた。
 日々無常。
 思い出か、それとも浪漫を求めてなのか。
 それらは時には人に見せられ、時にはひっそりと作られし者の手元に収められ、時には大切な友へと贈られるものへと変わっていった。
 それは、どんな系であれ、願いを込められ作られた物。
 一人の研究員が、そんな思いに胸を打たれ進言した結果、何故か開かれることになった展覧会。
 この展覧会、一体何が潜むのかはわかっていない。


●2人の男

「よぉ、俺一人かと思ったぞ」
 少々冷や汗を書きながら、黒川丈一朗(ga0776)は相談に訪れたもの達に向って声をかけていた。
 そう、実はこの企画が上がった当初参加者は黒川一人だったのである。
 それを知ったジョン・ブレストは、何を考えたのだろうか‥‥
「俺たち2人の熱い物語を、語るのも悪くないな」
 そんな言葉を、肩に手を置きながら囁いたりしたものだから黒川の心中は冷や汗レベルではなかったはずである。
 まぁ、そんなからかう余裕があるのなら、少しは胃薬が減っていてもいいのかもしれないが。もしかしたら、たまの息抜きのカラカイに使われた可能性は、否定出来ないだろう。
 その様子を、傍から見守っていたもの達もまた少なくはないであろう。
 もしかしたら‥‥熱い男達の語りの場になっていたかもしれないこの会場に、暖かな希望を見出してくれた人方に、感謝の気持ちでいっぱいだったのは、果たしてどちらであったのだろうか。そんな現場をひっそりと楽しみにしていたものがいたのもまた、事実であった。


●裏舞台奮闘記

 会場設営に当たって、実に優秀な人がいた。
 古河 甚五郎(ga6412)である。
 彼は元々舞台の裏方としての実績があるらしく、自慢の腕を巧みに使いながら、展示品の見せ方を考えていた。どうやらコンセプトは『鑑定番組風』そんなこだわりを持ち、会場を作っていく。
 会場設営を同じく手伝おうとするのは仮染 勇輝(gb1239)とルノア・アラバスター(gb5133)である。
 彼らはライバルと言うほど、依頼の数などを競い合っているらしいのだが‥‥
 どうやら、今回は先駆者達の作品を参考にしてみようと思い、参加したようであった。
「私は、OR、は、持って、ないの、ですが、皆さん、の、物を、見せて、頂いて、勉強、させて、頂き、ます」
 たどたどしいが、ほんのりと微笑みながら言うルノアは、真っ直ぐ前を見すえた意志の強い瞳が見え隠れしていた。
 古河の指示に従い、動く2人。
 プレゼンテーションを聞けるように座席を配置したり、様々な機材を運んだりなど様々な事柄に及んでいた。
 そんな彼らと同じく、アンジェリナ(ga6940)もまた、会場設営を手伝っていたのだった。

●忍び込んだ偽者

「ふふ‥‥まさか僕が出るとは思ってないだろうね」
 そう言って錦織・長郎(ga8268)はくすりと笑い眼鏡を正した。
 彼の姿は、遠くから見たらジョン・ブレストに他ならない。つまり、仮装しているようなのだ。実はこの錦織、最初っからジョン博士に扮していたりする。
 最初に話を持ちかけ、なんとも見事に交渉に成功したのだ。
 もちろん、本人の名誉を傷つけないと約束もしている。
 影武者というのか、それともドッキリといえば良いのか。
 本人はいたってノリノリ、準備の現場でも何食わぬ顔で本人のように振舞っているものの、未だ気付かれない様子で暫しご機嫌であった。
 そんな彼に難題が突きつけられたのは、司会進行役を誰に頼むかといった時だっただろう。
「折角だから博士にお願いしたらどうであろうか」
 レティ・クリムゾン(ga8679)の進言に、皆も暫し頷く。
「俺は今回遠慮するよ」
 何気ないそぶりで断るも、実際は内心冷や汗が止まらなかったようである。
「そうか、仕方ない‥‥。では、私が勤めさせていただこうか」
 レティはそんな錦織の様子を知ってか知らずか、いや、鋭い彼女のことだから気付いてはいたであろう。ルノアが作ってくれたタイムスケジュールを見つつどのように行えばいいのか計画を練っていた。

●The SHOW Time

 ジョンに扮した錦織の言葉により、展覧会は開始された。
 別の部屋から仕事を片付けつつ、ジョンはその様子をモニター中継で見ている。
 会場に展示されたのは数々のオリジナルアイテムであり、そしてパネルに展示されているのは、これからの思索してみたい商品についてだった。
 各アイテムにつきそれぞれの解説、及びアンケートが伴った紙がおいてあり、訪れた人たちは、それによって詳細を知る工夫がこなされていた。これは錦織の提案事項でもあった。
 鳥飼夕貴(ga4123)はそこで実演を兼ねてとばかりに、【OR】白粉を展示していた。興味を持つものには塗ってみるかい? と、尋ねつつ、自らの肌を白く塗りたてて。

 特設会場のほうでは、時間を決めて数回の実践紹介を執り行う事となっている。
 それは、各々自慢のアイテムであり、そして実践することで威力が発揮される物もあった。シミュレート方式による、擬似戦闘を行い、モニターに写された様子を紹介するものもある。配線の所々に古河お得意のガムテが見られるのはさすがといったところか。歩くのに邪魔にならないように手配がきちんと行き届いていた。座席の方を見ると、そちらの方にも印がついてるのが見受けられる。小さく、だがずれてもすぐ間隔が戻せるようにつけられたそれは、心遣いを感じる。そんな古河はというと‥‥こっそりとコロコロと何かを動かしながら会場の入りを見ていた。
 もちろん、そのころころと転がしているのも‥‥拘りであった。

「それでは、これから特別会場にて――」
 館内放送が入る。レティが特設ステージに立つと、既に集まって着席していたもの達から視線が集中した。
「僭越ながら司会を務めさせていただくレティ・クレムゾンだ。よろしく」
 そう言って始まったのを皮切りに、次々と集まったもの達のアイテム紹介が行われていった。真っ先に出てきたのは黒川であった。
「俺が紹介したいのは――KV用ミサイル『プログラマブルミサイル』だ」

 ステージへと台車にのせてガラガラとKV用のミサイルが運ばれてくる。
「ほとんどショップで売ってる、普通のホーミングミサイと変わらないよ」
 ぽんぽんと手でなでつつ、黒川は話し出した。
「敵を見る“目”の代わりに、設定した弾道を記憶する装置を入れてあるんだ。発射前に飛行コースを設定して撃つっていう感じだな」
 そういうと後ろ手のスクリーンに着弾時想定図と、ナイトフォーゲルに積み込んだときの状態が映し出された。
「まぁ敵を追うわけじゃないからな。避けるのは簡単だろう。施設とか、動かない物を攻撃するためのミサイルだよ。威力が低いから、火薬庫のような弱点を狙わないとな」
 爽やかに、だが強い視線はこれを使い、無事に作戦を終了させようという目的で作られたものだということを物語っていた。


「俺が作った物じゃないんだが‥‥もらい物なんだが、いいのかな?」
 続いてとばかりに取り出したのは、テーブルの上へと運ばれてきた超機械『試作機械拳「烈空」』であった。
「電撃で攻撃する超機械の一種なんだが、手にはめて使うんでな。俺には使いやすい」
 説明しつつ、自らの手にはめると、黒川は徐に拳を合わせて大きな声で叫んだ。
 突如として少量の電気が発生する。
「‥‥恥ずかしいんだよ、これ」
 そう言って照れ笑いでお茶を濁しつつ、黒川は嬉しそうに贈ってくれた主の顔を思い浮かべた。
「攻撃の種類が電撃だからな。人間相手なら、手加減すれば気絶させるだけで済みそうだ」
 手加減できるのは素直に嬉しい‥‥そんな気持ちが篭りつつ。


「そこまで凄いものではないので簡単に紹介します。学生服〈十六夜衣〉‥‥読みは衣も含め〈イザヨイ〉です」
 続いてステージに登場したのは仮染である。
 テーブルの上へと運ばれてきた学生服を、手で広げながら説明を始めた。
「ケブラー繊維を使った防刃学生服があったのを思い出して、母が作成依頼した物です。 金属強化する事も考えケブラー繊維ではなく、何かの金属糸が織り込まれています」
 それは、母親からの愛情が篭った一品といえる。遠くで身を挺して戦う、我が子の安全を思いながら頼んだ姿は、きっと切ないものであっただろう。


「んと、僕が紹介するものは『【OR】どこでもプリン』ですよ」
 ニコニコと微笑みながら現れたヨグ=ニグラス(gb1949)は、大きな出前用の箱を掲げて現れた。蓋を開けると、そこにはプリンが収納されているのが見受けられる。
 彼は、既にプリン好きの傭兵の一人としてもそれなりに知れ渡っているのだろうか、少なくとも担当しているものにはすべてプリンを持って登場している気がするのだが‥‥。
「材料さえあればプリンをどこでも作れるです。餌付けするために予備のプリンも収納してるですよ? ま、ま。見た目はラーメンが入ってそうな出前箱ですけども。これさえあれば胃薬の味に飽きてもダイジョブ!!」
 力説しつつ、ついついスプーンとプリンを見比べて。
 はっと気付いた顔をすると、挨拶そこそこでステージを駆け下りていった。
 手には、既にスプーンとプリンが添えられていて‥‥恐らく会場内を見学しながら食べているだろうことは容易に想像できることであった。

「それでは、この度は実演を兼ねてみていただきたい」
 アンジェリナはそういうと、ステージの脇に置いてあったシミュレーターへと乗り込んだ。ステージに用意されていたスクリーンには、次の文字が浮かび上がる。

――【OR】ADVENT SYSTEM β−test

「私の今までの全戦闘データを元にして開発させた独自のマシンOS。自身の癖や得意とする戦闘スタイルを元に、より自らの手足のようにKVをオペレートする為に製作を依頼した」
 インカムを使い淡々と告げられる説明、切り替わる画面映像。
 画面は模擬戦闘の画面を映し出していた。
 数匹のキメラへと近づくナイトフォーゲルはアンジェリナが操縦する銀のフレームに漆黒の装甲を纏った機体、【リレイズ】を模したものだった。黒味を帯びた刀剣が、キメラ目掛けて切りつけて行く。上へと、下へと‥‥伸び上がる機体と共に横へと薙ぎ払い、キメラを目掛けて刀剣は綺麗に吸い込まれていた。十数メートル先にある標的に向け、一気に加速すると、無理ない動きのまま駆け巡る姿。そして‥‥最後の標的にとどめが刺されたとこで画面に文字が現れる。

―― END 〜ALL CLEAR〜

「――システム・オールクリア。リレイズ‥‥『アドベント』」
 小さな声が、マイクによって拾われ告げられた。
「‥‥研究員達に多くの手間と時間と労力を掛けさせた。‥‥‥その点は‥‥‥感謝している」
 シミュレーターから降り立ったアンジェリナは静かに微笑むと、小さく礼をした。長い髪を後ろへと流し、毅然とした様子でステージから去っていく。


 司会をしていたレティは、最後に自分のアイテムを紹介しようとそっとテーブルの上に一つのアイテムを出した。それは、ちょっとくたびれた感じの、だけど大事にしているのが充分すぎるほど伝わる一品。
「【OR】アメリカンキャップ。子供の頃の思い出だ。戦場、と言っていいのかな。周りに何もなくて、生きる事も出来そうに無かった子供時代。その時に1人の傭兵がくれたアメリカンキャップ。ぶかぶかでサイズも合わなかったが、心の支えにはなった。その後しばらくその人に世話になったのだが、今では顔も思い出せない」
 そこまで言うと、ふと表情を緩め、思い出深い、だが愛しげに見つめながら大事そうにその帽子をなでる。
「そんな訳で今でも愛用している‥‥筈だったのだが。実戦でも使えるようにと研究所で強化してもらったら鉄くずに。あの時ばかりは本気で研究所を破壊しようかと思ったが、その後もう一度その鉄くずを修正したら元に戻ってくれたようなので二代目と名づけた。研究員が慌てていたのが印象深いな」
 にやりと、その時担当していた研究所員へと悪戯な瞳を向けながら。
 レティは、特別会場での展示が全て終了した旨を次げ、お礼と共に舞台を後にしたのだった。


●思い出と共に

「それでは、ORになる品は基本的に思い出が強まったが故に‥‥そんなものが多いんですね?」
 展覧会を見つつ、新人君こと、今回開くきっかけとなった研究所員はそんなことを口にしていた。
「みたいだね。どうやら、大切にしていたものを、身につけて戦いたい。そういう思いが一番強いのかもしれないから」
 実際この手で手がけてきたアイテムの殆どは、過去の思い出が詰まったものばかり。それを、少しだけ手を入れて持ちやすく、強化していく傭兵達を見ていると、少しだけその思い出を共感できた気がするというのだ。
「先輩‥‥」
「ほら、今日展示をしてくれたもの達のだって、利便性だけでなかっただろ? そう、思い出と共にあるのが多いんだよ。オリジナルに頼まれるものの殆どが」
「なるほど‥‥」
 そういえば特設会場では、司会者をしていたレティが最後にそっと取り出した帽子が印象的だった。
 一度はこちらの状況により鉄くずと変化してしまった帽子。
 だが、その思いが強く蘇った帽子‥‥。
「なんですかね、思いって‥‥強くもなれるんですね」
 展覧会に並べられた品は、実物だけではなく研究所員が作製を手伝った際に思い出深かったものも名前だけ紹介されてたりした。
 実物を預けてくれたものは、実に少ない。
 それでも、名前だけ見ても色々と想像させるものがほとんどである。
「それじゃ、これからもその思い出を形に戻す手伝いを頑張っていくか」
 ぽんと叩かれた肩に、新人君は嬉しそうに頷き返した。
 そう、彼らのアイテムは売ってるものでは得られない別のものが詰まっているのだと気付かされながら。大事に、大事にされていくのだと思いながら。
「あ、でもだ。強化に関しては別だぞ? アレは俺たちの手じゃどうにもできん」
 にやりと意地悪そうな瞳を輝かせる先輩所員に新人君は思わず噴出しつつ、これからも思い出たちが鉄くずに変わった悲鳴を上げる声を聞くのかと少しウキウキしていたのは気のせいではない。
 そう、研究所員たちは今か今かと、鉄くずに変わるアイテムを見ながらにやけているのだから。

●THE パパラッチ!?

 今日の展覧会を最初から最後まで見送る影があった。
 黒のフロックコートにスーツ、帽子と【OR】で固めた御仁、UNKNOWN(ga4276)だ。
 なにやら片手には【OR】Detached Observer/双眼鏡を持ち、【OR】携帯無線機をハンズフリーで会話している。
 そう、彼は不思議な場所に身をおいていた。
 研究所を覗き見できる、ビルの側面に身体を潜めていたのだ。
 いや、既に潜めていないのだが‥‥
 その格好は、持ち前の【OR】荒縄と【OR】Tool Kitを工面し微妙に安全を確保した支え場所である。
 一体何を考えているのやら。蟹さんは、本当にわからないものだ。
 手にしている【OR】黒革手帳に何かを書きとめつつ、ショットを狙って望遠レンズ付けた【OR】Reica M3のシャッターを切る。
 流石にビルの屋外で冷えるのだろう。そっと灯したのは愛用の【OR】和蝋燭。ほんのりと上品にともる明かりで暖を取りつつ、咥えた煙草から紫煙が立ち上っていた。


●後日のLH裏NEWS

『先日開かれた研究所主催のお宝自慢展覧会にて‥‥』
 そう書かれた見出しの記事が、とある雑誌に掲載されていた。週間LH、しいて言うならば ゴシップ誌のようなものであるのだが。
 日付を見ると、まだ発売になっていないようだ。
 ジョンは、そんなその雑誌を机の上に上っているのを見ると、深い溜息をついた。
 先程、主催を任せた若手の研究員からも話は聞いていたのだが‥‥
 どうやら、今回のこの展覧会では、一つ問題が起きていたことがわかったのだ。
 それは‥‥
「いやね? 副理事ってそういう趣味がおありなのかと‥‥」
「断じてあるわけない」
 静かに、しかし眉間に皺を寄せつつ答えるジョンは不機嫌そうにカップに注がれたコーヒーを一気に飲み干した。
「そもそも‥‥だ。何故俺がそんな趣味を持っていなきゃいけなんだ!」
 流石に常日頃ストレスが溜まっている事もあり、本日の怒り度はMAX。胃が痛いものの、今日は既に一箱空にしてしまっている。仕方ないとばかりに、煙草の火をつけようとするものの、あまりの怒りで、上手くジッポライターが火を点火してくれなかった。
「いや、ですから出版前「当然だろう! 大体なんでこんなのを撮られてるんだ!」に‥‥」
 バンとたたかれたのは、先程の雑誌。
 しかも、開かれていたところに書いてあったのは‥‥
『スクープ! ジョン・ブレスト副理事を巡る複雑な多角形!?』
 そう記載されたところに、匿名希望者からの投稿記事である。

―― 二人の間にどんな関係があるのかは私にはわからなかった‥‥
しかし、ここに私が目撃した数々のものを ――

 そういう書き出しで始まった文章は、時折写真と共に作者が読唇術で得たと書かれた台詞などがのっていたのだ。

『逢いたかった‥‥』
『人目があるじゃないか‥‥』
 そんな男が二人見つめあう写真に、続いてきてたのは3人目の人物の後姿が写ったもの。続いて、4人、5人と着実に数が増えていた。

 締めくくりにはこうかかれている。

―― なんとも複雑な人間関係をもっている彼であるが、胃痛の持ち主であることも知られている。さて、今回のことは彼にそっとして置き、生暖かい目で今後の展開を見守ろうではないか。気にしちゃいけない、ラストホープの風紀が乱れたものになったとしても、彼の胃は、今もなお痛み続けているのだから ――


「とりあえず、出版差し押さえは各社していますから」
 そう慌てて答える所員をチラッと薄目で確認しつつ、再び大きく吸い込む。
――また胃痛の種が増えるのか‥‥
 そんな事を思いつつ、いつか胃痛に悩まされない普通の日々を送れることを想像して。
 ジョンは大きな溜息を吐きながら所員を部屋から追い出したのだった。

「いくら写ってるのが俺じゃなくても、そっくりなやつで話されるのも勘弁だ‥‥」
 手元には、影武者を務めた錦織から貰った音声データがある。
 彼曰く、全てを録音したのが彼の【OR】ボイスレコーダー。打ち合わせからの全てが収められてるものの、流石に展示することは控えた、そんなびっくりな記念であった。


注) 週間LHの記事はもちろん捏造です。人の手元に届く前にもちろん出版停止済みのものです。