タイトル:孤高の老人−N・CAT−マスター:雨龍一

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 38 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/12 01:39

●オープニング本文


「なぁ〜う?」

 その声は、あまりにも可愛らしく‥‥
 僕の胸に届いたのは間違いないであろう。
 しかし‥‥

「だってぇ〜。やってみたかったんだもん!」
 この一言において、僕の心は打ち砕かれた。
 何故だ‥‥何故なんだ。
 何故彼女が‥‥

◆◇◆

「えー、本日は2月22日でございまして‥‥」
 聞こえてきたラジヲの声に、ミハイル・セバラブルはふと顔を上げた。
「ふぉっふぉっふぉ。これはこれは忘れておったではないか。まさしく今日は素晴らしい日であるのぉ」
 ミハイルはそういうと、慌てて今までのデータを引っ掻き回した。
「おぉ‥‥あった。これじゃ‥‥」
 それは、なんとも不思議だった一日。そう、ちょっと前に調べたとある実験のデータであった。
「これを活かせば‥‥この原理は可能なはずじゃ」
 カチャカチャと響き渡る実験道具の音に、ふとミハイルの様子が気になったクロリアは降りてきたのだが‥‥
「マスター‥‥今度は、一体何をなさるおつもりで?」
 前回の実験薬の惨状を思い出し、こっそり息を吐く。
 それはそうだ‥‥前回このミハイルは、実験最中に縛られるというなんとも今までに無い経験を‥‥
 そんな記憶がまだ鮮明に残る中、このご老人は性懲りも無く何かを企んでいるのだ。
「なぁに。今回はわしの取ったデータの間違いが無いということを証明するためにのぉ‥‥」
 そう言って、にんまりと白い歯を煌めかせる。
 うむ。年の割りに綺麗な歯をしていらっしゃる。
 そんな感想を抱きながら、クロリアはそのデータに目を通した。
「‥‥で、どんな内容で募集するのですか?」

 その言葉に、ミハイルはもう一枚の紙を差し出したのだった。

●参加者一覧

/ 篠森 あすか(ga0126) / 柚井 ソラ(ga0187) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 篠原 悠(ga1826) / 西島 百白(ga2123) / 国谷 真彼(ga2331) / 叢雲(ga2494) / エマ・フリーデン(ga3078) / 愛輝(ga3159) / 藤村 瑠亥(ga3862) / UNKNOWN(ga4276) / Dr.Q(ga4475) / オリガ(ga4562) / 梶原 暁彦(ga5332) / シャレム・グラン(ga6298) / ティーダ(ga7172) / 不知火真琴(ga7201) / 百地・悠季(ga8270) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 天(ga9852) / イスル・イェーガー(gb0925) / ドッグ・ラブラード(gb2486) / 美環 響(gb2863) / 風雪 時雨(gb3678) / アレックス(gb3735) / 織部 ジェット(gb3834) / エミル・アティット(gb3948) / 水無月 春奈(gb4000) / ソフィリア・エクセル(gb4220) / サンディ(gb4343) / トリシア・トールズソン(gb4346) / 箱守睦(gb4462) / シルヴァ・E・ルイス(gb4503) / 猫屋敷 猫(gb4526) / フローネ・バルクホルン(gb4744) / 萩野  樹(gb4907) / ルノア・アラバスター(gb5133) / シャーミィ・マクシミリ(gb5241

●リプレイ本文

「マスター。この度の参加者リストはこのようになっておりますわ」
 シャレム・グラン(ga6298)はきちっとしたスーツに身を包み込んでミハイルの元へと参加者リストを渡した。総勢38名。今まで以上のデータが取れそうである。
「まぁ、今回は全員が飲むわけじゃ無かろうにのぉ」
 そう、今回はこれからの参考のためにと見学者も同時に募っていた。見学といっても、目の前で変化を遂げた仲間に対しての反応をデータに取ろうという魂胆がミハイルにはあるわけなのだが。
「マスター。私は先に飲んでみても宜しいでしょうか?」
 ミハイルは、その言葉に承諾をしたのだった。

◆◇◆

「誕生日にこの依頼ですか‥‥。これは何かの運命でしょうか」
 風雪 時雨(gb3678)は緊急と表示がなされた募集を見て思わず微笑んでいた。2月22日。本日は彼の誕生日である。そして、隅を見ると見覚えのある名前が書かれていた。どうやら、また不思議な世界へと連れて行ってくれるのだろうと微笑み、受付へとサインをしに行ったのだった。
 一方、どうやら実験について勘違いしている人間も存在した。まぁ、内容を理解する人間がそんなに居ないことは先刻承知ではあるのだが‥‥
「能力者の隠された潜在能力を引き出す薬との事。是非とも御協力しましょう」
 そう言って見つめているのはティーダ(ga7172)である。その横に居た藤村 瑠亥(ga3862)もまたこくりと頷き返す。先に見つけたのは彼のほうであったのだが‥‥
「よかった。それでは俺は評価官として参加をしよう」
 勘違いしたまま爺ちゃんの世界へと巻き込まれることが決定した者は、この2人だけではあるまい‥‥


◆◇◆

「皆様、お待ちしておりました」
 そう言って会場で出迎えたのは白衣に身を包んだシャレムである。髪から覗いた大きな角が、なにやら山羊をモチーフにしているようなのだが、眼鏡の奥に潜んだ瞳は、怪しく微笑んでいた。
「それでは、説明が有るまでごゆるりとお待ち下さい」
 そう言って開かれたドアは、広々とした空間と、数脚置かれたテーブル、座布団しかなかった。
「暇潰し位には‥‥なるだろ‥‥たぶん」
 西島 百白(ga2123)は、チラッとシャレムの様子を見てそんな事を呟きながら中へと入っていったのだった。

「うわぁ、お爺ちゃん。また変な薬作ってるの?」
 あいやーとばかりに会場の中に入ってきた篠原 悠(ga1826)はミハイルに逢うとすぐさま口を開いた。そういえば、彼女は被研依頼を頼んだ最初の時に来ただろうか。あの、魔の4時間を体験したものである。ふふんとばかりに会場を見つめると、きらっと光り輝いた表情を浮かべる。その視線の先にいたのは、前回依頼であったノーラだった。

「今回は貴方に渡したものがあるの‥‥受け取ってくれる?」
 そう言ってナレイン・フェルド(ga0506)がミハイルに差し出したのは、一輪の白い薔薇。その花言葉は『尊敬』。ナレインは、そっと渡すと微笑んでみなのもとへと駆け出す。ミハイルは驚きつつも、目を細めその華を優しく見つめた。

「ふふふ。実験というのは大変楽しみなのです」
 不知火真琴(ga7201)はそういうと、巻き込ん‥‥連れ立ってきた叢雲(ga2494)の片腕を取るように会場へと入ってきた。浮き足立つ真琴を叢雲は困った人ですねとばかりに見つめている。まぁ、そういう叢雲も今回は乗り気だったりするのだが。

「‥‥ミハイルじいちゃん‥‥また凄い依頼出したね‥‥いろんな意味で‥‥」
 イスル・イェーガー(gb0925)はそう呟くと、知り合いが居ないかを探していた。そうするとにこやかに会場でお菓子を並べているソフィリア・エクセル(gb4220)と共に美環 響(gb2863)が飲み物を並べている。知り合いを見つけたことにイスルはようやく肩の力が抜けたようであった。

「なんとも楽しそうな依頼だな」
 フローネ・バルクホルン(gb4744)は重そうなカバンを片手に会場に入ってきていた。その彼女の姿を見つけた水無月 春奈(gb4000)は慌てて駆け寄ってくる。
「‥‥あなたの研究とは毛色が違うような気がしますけど、どうしてここに?」
「うん? ウサ晴らし、暇つぶし、知り合いの痴態を見に来た。どれがお前の好みの答えかな?」
 薄く微笑んで見落とせば、水無月もそれ以上訊けずに知りませんわと立ち去っていく。
「さて‥‥どうするかね‥‥」
 カバンから取り出したものはビデオにカメラ。様々な記憶媒体たちである。部屋を見回し、どこに置こうか‥‥そんな事を考えているようであった。

「おう、アンタが噂のマッドな爺さんか。前に相棒が世話になったみたいだな。今日はヨロシクだっ」
 そう言ってきたのはアレックス(gb3735)であった。ちょこんと彼の腕をつかんでいるトリシア・トールズソン(gb4346)が、少し興味深げに窺っている。
「ふぉっふぉっふぉ。わしゃ有名かどうか知らんが、うむ。楽しんでいくと良いぞ」
 二人の頭をわしゃわしゃとかき乱し、にこやかにミハイルは他の者の所に去って行った。

「何か面白い治験があると聞いてね」
 扉をくぐったのはウェスト研究所所属の国谷 真彼(ga2331)とその後ろを犬の様について歩く柚井 ソラ(ga0187)だった。
「変なものに手を出したらだめだよ」
 キョロキョロといろいろなものに興味を示すソラに国谷は注意を促す。
 生返事をしつつ、柚井の視線はどうもあちこちに行っている様子に仕方ないですねと、笑顔で見つめていた。


「魔力だ‥‥魔力に決まっている」
 部屋の隅で全体を見渡すように佇んでいるのは人形師である天(ga9852)であった。目の前にはたくさんの手作りぬいぐるみを広げている。どれも可愛い動物達であり、一人和やかな空間を作り出していた。
 そんな彼であるが、何をしているのかというと‥‥ブツブツと魔力と呟きながら薬の説明を受ける者達の様子を見守っていた。どうやら、彼は見学に来たようであった。


◆◇◆

 いつもと同じように、そういわれるほどこの実験は和やかな空気を出していた。皆が持ち寄った食べ物を始め、飲み物を取り囲み雑談が既に始まっている。それは、実験前と後を比べるためという話も有るのだが実際のところリラックスした時に試した方が薬の効果が良く見られるというためもあった。この度はソフィリアを始め、サンディ(gb4343)、叢雲、箱守睦(gb4462)、ルノア・アラバスター(gb5133)など、数々のもの達が持ち寄ってきたもので溢れかえり、洋菓子から御節まで、色々な品がそろっていた。初めてのもの同志でもと、美環が繰り広げる奇術の数々や、ナレインなど以前までの参加者の感想など、それは心を解すのに大きく役立っていた。
「ふぉっふぉっふぉ、それじゃ頃合かのぉ」
 皆に紛れ込んで座っていたミハイルは徐に立ち上がる。そして、その横に付き添うのは、既に変化姿のシャレムだった。
「さて、今回の実験についてなのじゃが‥‥」
 その説明に、人一倍関心を寄せて質問に当たっていたのは、風雪のようである。
 他の者はというと‥‥数々の洋菓子やら軽食、飲み物を堪能しつつ、これから起こる動物化についてワクワクと楽しそうに期待を膨らませていたのだった。
「‥‥なして?」
 そんな呟く声も聞こえたが、まぁ気にしない気にしないということで。

 一通り説明を受けた後、いよいよ薬を飲むことになった。それは、飲みやすいようにジュースに混ぜてあり、一人一人に手渡される。もちろん、飲まないと申告していた者にもだ。
 ナレインは既に何度も彼のこの手の実験には参加していた。しかし、何度体験していても慣れないのだろうか。瓶を持つ手が微かに震えている。深く呼吸をすると、手にしていた瓶を一気に口元へと呷った。
「‥‥ふぅ‥‥特に変化なんて‥‥んっ!?」
 喉を通り過ぎ、2〜3分経過した時だった。何も変化のないことに少し油断していたのだろう。突如として気になりだすお尻や頭。むずむずするのがたまらなく気にかかる。
 それは、同時に飲んだ殆どのものがそうだったのだろう。
 予め用意されていたバスタオルで身を隠したり、部屋の隅に行ってその衝動を抑えるものが居た。もちろんナレインもその一人である。
 ぶるっと微かに震えると、そっと自分の身体に起きた変化を覗き込んでみた。
「うわぁ〜しっぽがふわふわぁ〜あったかい♪」
 外れるバスタオルから現れたのは、綺麗に整った九本の銀色の尻尾と、髪の間から突き出た狐の耳であった。嬉しそうにそっとその尻尾に顔を寄せる。
 また、中には完全に変形していたものも居たようだったが。
「‥‥動物‥‥僕がなると何なんだろう‥‥」
 変わりゆく様子にイスルはドキドキしながら薬を見つめる。
「んじゃ早速、だぜ!」
 隣では、楽しそうに飲み干したエミル・アティット(gb3948)がおり、美環もまた優雅に飲み干していた。その様子に彼もまた、勇気を得たように飲み干したのだった。


◆◇◆

 百地・悠季(ga8270)はそっと猫に変化したノーラに近付くと、ちらちらっと猫じゃらしを振ってじゃれ付かせていた。その表情は、なんとも愉快そうで‥‥時折見せる黒い表情がまた彼女の性格を良く現していた。
「かわいいよー? はい、目線こっちにー。OK最高、いいよー」
 同じくノーラを目的に来たのだろう篠原はポラロイドカメラでその姿を激写していく。すらっと伸びた足に手をかければ、ふにゃっと不思議な表情を返し、喉元を撫で上げれば、うっとりと上向きに反らすその仕草を収めながら。
「本当に可愛いというか、同年代なのが本当よね」
 そんな事を呟く百地は16歳、ノーラは25歳である‥‥うーん、どうしてそのように見えるのだろうか、これはもはや性格としか言いようがないであろう。
 下向き加減からの上目遣いなど、中々なポジションを容赦なくカメラに収める篠原は、
「ふふふふふ‥‥いつもエロエロ言われてる仕返しを今こそ‥‥」
 等と呟いているのだが‥‥。そのようなポジション撮りをしていたら言われても仕方のないことであろう。
 二人で構い続けた結果、たっぷりの写真を手にした篠原は、数枚ノーラの胸元に差し入れる。自分の様子を見てショックを受けるノーラを想像して、嬉しそうにしながら。

「やれやれ‥‥記録を残すのは駄目ですよ‥‥」
 叢雲はそういうと、そっとノーラから写真を抜き取っていた。こういうものは、記憶するだけでいいんですと、先程からミハイルに相談を持ちかけ仕掛けてあるビデオやカメラなどを撤退させているのだ。
 もちろん、ミハイルの方も記録として残さない事が条件だと思っている。そのため、今までの依頼に関しても参加者には一切の記録媒体を許してこなかったのだ。
 懐っこく見上げてくるノーラをそっと撫で上げると、嬉しそうに目を細める。そこに猫と化した真琴が足元にまとわり付くので座ると、ごろっと膝に頭を乗せ丸くなってしまった。おやおやといった表情で撫で上げるも、気持ちよさそうにすやすやと。叢雲の目には、既に動物へと変貌した者達は人間に見えていなかった。この和やかな動物達の空間に、暫しゆったりと楽しみましょうと考えたのだった。

 元々研究自体に興味があったのだろうか。国谷は周りが薬を試し始めている中、ミハイルの元に赴き今回の実験について尋ねてきた。ミハイルもそういう相手が少ないこともあり、気兼ね無く説明を始める。
 そんな中、ソラはあちこち見ている最中に喉が渇き飲み物を飲んだのだが‥‥
「あわわわっ?」
 どうやら見事に薬の瓶を飲んでしまったらしく、むくむくとかわいい耳とふわふわの尻尾を持った男の子が誕生したのだった。
「ゆ、柚井君!? どうしたの!」
 異変を感じ取り急いでソラの元へと駆け寄った国谷を見上げると、ソラはかわいい声で返事をしたのだった。
「わんっ!」

 暖かな日差しが浴びれるところに陣取り、西島は優雅に身体を横たわらせていた。その身に現れているのは、丸く縞模様の耳と、太く立派な尻尾、どうやら虎のようである。
「‥‥」
 大きく口を開くと、小さな者はまるで飲み込まれそうであるが、どうやらあくびだった様子で再び丸まってぽかぽか陽気に身を晒しているのだった。

 部屋の隅で朧 幸乃(ga3078)は黒く大きな耳を垂れて寄りかかっていた。どうやら黒兎になったらしい。
 時折誰かが構いに来るものの、ヒョイっと避ける為中々触ることが出来ないでいた。それでも知り合いが来ると、すこーし様子を窺っているようで‥‥少し潤んだ瞳で見上げるのが、また兎らしい愛らしさを醸し出していた。
 丁度近くに居た天がそっと、頭を撫でるとじっと動かずに撫で上げられており、止めると不思議とばかりに首をかしげる。
 そんな兎さんな朧と同じように、もう一匹大人しい兎が存在していた。
 イスルである。彼も同様に黒兎であるようだが‥‥
 常にナレインかエミルの傍に寄り添い、ぴたっと身体をくっつけていた。
 時折様子を観察に現れるミハイルが来ると、彼の足元にもぴたっと寄り添う。
 その姿は、まるで『寂しくなると、兎は死んじゃうんだよ?』といっているようで、潤んだ瞳が訴えていた。優しく撫でてやると安心して、どうやら気を落ち着けたようであった。


「これは目の毒‥‥いや気の毒に。いい歳した‥‥」
 国谷が見たのは、ソラがじゃれ付いている猫容姿の人、ノーラだった。波打つ金色の髪に生えた猫耳と、普段より身体にフィットした服装で、若干短めのスカートから見え隠れする尻尾に少しドギマギしつつ。
 最初は遠くから見ているだけだったので平気と思ったのだが、いざ彼女が近くに居るのを見るとどうも視線が胸元と足元に注がれるのは気のせいでないようである。
 先程、躓いた時に付いたゴミ箱の中身がマタタビだったのを悔やんでいた。
 その匂いが、どうも服から離れないのだろう。しきりに国谷の服へとキラキラ目を輝かせて‥‥
「く‥‥あ‥‥そ、そうだ服を脱げば‥‥!」
 そう言って袖を抜こうとする隙から、ヒラヒラ舞うのだろう、じゃれ付くノーラ。国谷は平静を保とうとしても、どうしても視線の先には‥‥それに、
「ちょ、そこはだめ‥‥あっ」
 それは、あまりにもびっくりするぐらい柔らかく甘い香りで、思わず眩暈が‥‥
「くぅ〜ん」
 その鳴き声で済んでのところで正気を取り戻し、密かにソラに感謝をしていたのだった。

「まて‥‥爪、立てるな‥‥あぶ‥‥ない!」
 藤村の言葉は、完全に猫化してしまったティーダには届かない。様子を観察するつもりで捕獲しようとした藤村をティーダは攻撃対象として判別。今、まさに藤村はピンチの状態であった。押し倒され、胸元に乗っかられた状態で‥‥煌めく瞳は獲物を狙っているようで、だけど目は離せない。大きく肌蹴た胸元と、屈められた事により、より露にされた太ももすら目に入る。いつまでも互いに動けず、まさに互いに魅入られているような‥‥
「にゃぁにゃぁ、なぁう?」
 そんな沈黙を破ったのは、あちこちで愛想良く猫よろしくをして回っているエミルであった。そんな彼女に闘気を削がれたのか、ティーダは身軽に藤村の上から飛びのくと、部屋の隅のほうに移動し毛づくろいを始めた。


「あ、愛輝君‥‥」
 篠森 あすか(ga0126)は今、目の前にいる恋人の怪しい瞳に酔っていた。薬をどちらが飲むか悩んだ挙句、口に含んだのは愛輝(ga3159)であり、そして今目の前で猫耳に尻尾を生やしているのだ。
 ごくりと喉を鳴らすと、恐る恐る恋人の頭をなでてみる。すっと伸び上がった白い喉下を、撫でてくれとばかりに潤んだ瞳が‥‥篠森の理性を刺激していた。
 ゆっくりと伸びる指先が、しなやかになぞる。途端に嬉しそうに、喉を鳴らしつつ。
 そっと触れた肉球は、可愛いピンク色をしており、しっとりとした、しかし弾力のあるものであった。
「か、可愛い‥‥」

 真っ赤なダチョウと化し、長い首を持った織部 ジェット(gb3834)のボールを狙うように、髪の毛と同じ色の耳と尻尾が生え、すっかり犬化した箱守は追いかけていた。
「ぶつかったら交通事故じゃ済まなくなるぞ!!!」
 もちろんジェットの方もそう簡単には渡そうとするはずはなく、広々とした会場を二人は速いスピードで駆け回る。そしてそこに参戦するかのように後を追うドッグ・ラブラード(gb2486)は、まさしく名前の通り黒い犬となっていた。垂れた耳が現れ、そして顔つきまでもが犬を思わせる。尻尾をブンブンと振りながら、傍に来た時には少し追いかけ、そして離れの繰り返しだったりする。
 その様子をティアーズマークを綺麗に出したオリガ(ga4562)は、鋭い視線で部屋の片隅から追っていた。途中で、ミハイルの後ろをヨチヨチとペンギンさん状態になったシャーミィ・マクシミリ(gb5241)が付き歩いていたのだが、横をすり抜ける二人の風圧に押され、生憎転んでしまっていた。その様子に気付いた天が、優しく起してあげると、そんな天を発見したとばかりにソフィリアがピョコピョコと寄って来る。その手には、いや‥‥耳で支え持つのは自ら作ったブッシュ・ド・ノエル(白桃クリームと苺のクリームのデコレーションと、かなりの気合が入っている)である。そのケーキをじーっと見つめているのは猫耳、尻尾が生えた水無月であり、どうにかお持ち帰りしたいように見つめていた。水無月が様子を窺いつつ席を移動しようとした時、同じく猫へと‥‥いや、こちらは三毛猫であるようだが、猫屋敷 猫(gb4526)が陽だまりのいい場所を見つけたと思い傍に忍び寄る。途端、ケーキへと意識が集中していたはずの水無月が突如として猫屋敷へと襲いかかろうとした。
 そこに‥‥低く響き渡る声が。
「わう」
 きらーんと鋭く光る視線を感じ、済んでのところでお互い飛びのく。
 恐る恐る視線をたどると、開始早々一歩も動こうとしない、梶原 暁彦(ga5332)がサングラス越しで威圧の光を放っていたのだ。しかし何故だろう‥‥立っていたはずの彼はしゃがみ込んでおり、目の前には犬剣ビッグボーンが、そして何より‥‥違和感を感じるくらいな耳と尻尾は、チワワを思わせるものであった。

「お茶が旨いのぉ〜。ばあさんや、食事はまだかのぉ〜」
 何故だか一人場違い‥‥いや、薬を飲んでも変貌しないものが居た。Dr.Q(ga4475)、齢100歳になるご老人だ。ミハイルより年上だ!
 彼は何故か、最初から部屋の一角で座布団を敷きお茶を飲んでいた。温かく、この惨状を見守るようにそっと。


 UNKNOWN(ga4276)は静かに微笑むと近付いてきた金色の猫の頭を優しく撫でていた。
 普段だったら身を固まらせて抵抗するものの、今日はどうもすんなりと懐いてくる。その様子に小さく笑いつつ顎の下を擽ってやると、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
 そっと取り出したリボンにベル。首に付いていたチョーカーにベルを取り付けつつ、鼻歌を歌いながら髪を優しく梳きリボンでまとめる。
 うなぁ? っとした様子に、身体を優しく撫でてやると少し身を捩じらせながらも傍によってくる。
 そっと周りを窺い、カーテンを引き‥‥

「ほれ、アレックスがおるぞ。彼女と一緒に戯れておるわ」
 いつの間にか隣に来ていたヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)にフローネは飲み物を差し出しつつ、部屋の一角で戯れている知人を指していた。その様子ににこやかに見守るヴァレスを見ると、この男、何故ここに来たのかがいまいち不明であると感じつつ。

 彼らが見守る一角で、アレックスとトリシアは友人のサンディにじゃれ付いていた。といっても、傍から見たら凄く派手に絡んでいるのだが。
「ガウッ!」
「わん‥‥わんわんっ!」
 嬉しそうに赤い尻尾を揺らしながら、すっかり狼へと変貌を遂げたアレックスは可愛らしい黒い耳や尻尾を生やしたトリシアに甘噛みをしたりされたり。その様子を嬉しそうに見つめるサンディ。
「二人とも、こんなに可愛くなっちゃって」
 そんなサンディに今度は二人ともじゃれ付きに行き始めた。
「おっとっと。それじゃ、私は退散するね」
 一気に来られて体勢が狂いそうになり、暫し身を避けようとしたのだが‥‥
「わんわん!! わん!」
 足元にじゃれ付くトリシアにやはりバランスを崩し、後ろへと倒れこんでしまった。そこに2匹はなおジャレつきを強める。
「あはは。くすぐったいじゃないか」
 サンディは、困ったような、嬉しそうな声をあげていた。

「シルヴァはどこにおるのかのぉ?」
 次の知り合いを探そうと、フローネはヴァレスに尋ね訊いた。ヴァレスは立ち上がり、きょとんとした表情で見回した。
 するとどうだろう、きれいな白いふさふさの耳と尻尾を優雅にたらしながら、窓から外を見下ろすシルヴァ・E・ルイス(gb4503)の姿が眼に止まった。時折誰にでも甘えに来るエミルなどに尻尾をゆっくりと揺らしながら相手をしてやっている。
 そんな状況を見つつ、ヴァレスはほんわかな気持ちのまま入れた紅茶をフローネへと差し出した。
「すまぬ。さすがに喉が渇く」
 そう言って一気に飲み干す姿を見て、にっこり微笑み嬉々としていた。


 ルノアは、キョロキョロと探したもののノーラが見当たらないので暫し残念に思っていた。そこに現れたのは、三毛猫と化した猫屋敷。
「猫、ちゃん、猫じゃらし、です、よー」
 用意していたおもちゃを取り出しじゃれ付かせてみると、
「にゃ〜♪」
 と、可愛い声を出して懐いてくる。その様子で嬉しそうに手を伸ばしてみると、すり付くように身体を擦り寄らせてきて‥‥
 いつしか猫屋敷は、ルノアの膝へと頭を乗せるように寝ていたのだった。


「えっ? 愛輝、君?」
 篠森はいま自分がどのような状況なのかわからずに居た。折角のエンジェルウィングは既に外され、折れないように横によけられている。対する愛輝にはデビルウィングが‥‥
「ニャー‥‥」
 押さえ付けられたのは、両腕。そして、見つめる視線が鋭く‥‥獲物を追っているようで‥‥
 愛輝の舌が、篠森の首筋を舐め上げる。猫化していたそれは、ザラっとしており、それでいて痛くはなく‥‥変な感覚が呼び起こされる。少し潤んだ瞳で見上げると、嬉しそうに目を窄め、愛輝は心の野性を介抱していた。

「ふふ、可愛いものですね」
 叢雲はそう言って目の前でじゃれ付いているソラと真琴を見ていた。後ろで国谷は、疲れたように身を壁に預けていた。真琴は白い猫耳と尻尾を生やしており、まぁ、普段とあまり変わらないように見えるのは気のせいだということにしておこう。こっそり持ち込んでいた遊び道具を渡したのだが、ほやほやしている様子で、こっちから猫じゃらしで構った方が動いてくれるのを確認しつつ。
 ぽてっと様子を窺っている萩野  樹(gb4907)はゆらゆらと尻尾が揺れている。ふさふさの耳と尻尾が、そして伸び上がった髪の毛が小さな狼を彷彿とさせる。


◆◇◆

 そろそろ薬が切れ始めるころだった。
 ミハイルはみなの様子を見つつ、戻った時の衝撃を抑えるための睡眠作用のある香を準備始める。そう、薬の時間が夢であると思わせるように。また、飲んでないものにも分け隔て無いようにと。
 準備していると、カーテンの奥から出てくるものが居た。
 UNKNOWNだ。普段のきっちりとした出で立ちとは違い、ワイシャツが乱れ、緩んだネクタイと少し慌ててる様子が見受けられる。
 乱れた襟元から覘いた首筋には、小さく赤い痕跡が。薄らと顔に描かれた3本の筋も中々興味を引くものであった。
 時計を確認しているところ、どうやら薬の時間を見計らっていたのだろう。
 抱えたコートとは反対の手で、腰を軽く叩きながら、眼の合ったミハイルに軽く会釈をし、
「お邪魔したな」
 そう告げていく。こっそりと耳打ちをしつつ。
 ミハイルはその内容に少し驚きつつも、にやりと笑って背中を叩いた。
 いそいそと去っていく後姿に、まったくと呟きつつ。


「ぉーー」
「ガァーッ」
 薬が切れる時間、どうやら再び薬を飲んだものが居たようであった。天と篠原である。ヌボーっとした表情に、白い小さな耳、前で構えている手を見るとどうやらハムスターになりたかったようなのだが‥‥人の視線を感じると、トテトテと部屋の隅に移動し、様子を見守るように、胸に天ぐるみを抱え。
 一方綺麗な猫耳と尻尾を生やした篠原は声を上げると、濁音しか聞こえず、喉を潰したその声は、まさにドラ猫かはたまたどこぞかのアヒルかと懸念するものであった。あぁ、版権はいけないよ? 版権は。

◆◇◆

 始まりがあれば終わりも必ずあるもの。
 薬の効力が切れてから約2時間後、一部を残して実験は終了を遂げた。その一部も数分後中和剤を飲み無事に元に戻ったのだが‥‥
「あぁ! 伯父様どうなされたのですか!」
 何故かボロボロになっている天を見つけたソフィリアは慌てて駆け寄る。しかし‥‥
 まさかのヘッドバット攻撃を食らわせることとなり、互いに頭を抱えるほどの痛みを受けてしまっていた。
「ご、ごめんなさい伯父様! って‥‥起きて下さいませ! しっかりしてくださいませっ!」
 ソフィリアの激しく揺さぶる衝撃に耐えきれず、なおも気を飛ばす天。そんな様子を朧は苦笑しながら止めに入った。
「あれ、お部屋がまわってますわぁぁ」
 止まった途端、ソフィリアは自らの頭も激しく振っていたのだろう、凄まじい衝撃の為もあってか目を回して倒れこんでしまった。
 仕方ないとばかりに、ヴァレスが天を、シルヴァがソフィリアを抱え出て行くことになったのはなんとも言いがたい光景である。

「でも何で、俺だけ鳥だったんだ?」
 妙に疲労感を感じる身体を引きずるように、ジェットは首を傾げていた。確か‥‥来る前に見ていた本に載っていたのがダチョウだったかなぁと思いつつ。
「ダチョウの卵は、鶏の卵の30個分はあるらしいぜ」
 隣で、同じく疲れ果てた顔をしている箱守に話しかける。すると‥‥
「一応、ペンギンも鳥なのです‥‥」
 横をシャーミィーが呟きながら通り抜けていった。

「ふむ、まぁ、みなストレスでも溜まっていたのだろうな。でなければここまでの騒ぎにはならんと思うよ」
 フローネは会場を後にしながらそんな感想を持っていた。折角持っていった記憶媒体は何故だか悉く内容が消去されており、どうやら思い通りにはことが運ばなかったようであるのが少々悔しく思う。
「‥‥何か、頭がボーっとする。トリシアは大丈夫か?」
 頭を押さえつつ、隣にしがみ付くように寄り添うトリシアにアレックスは声をかけた。
「‥‥あんまり普段と変わらなかったかな?」
 そしてにっこりと微笑んで、アレックスの腕にそっと顔を寄せる。少し考えるように窺ったものの、後ろで微笑むサンディの様子が見えたのでトリシアの言葉はきっと間違いないだろうとアレックスはそっと頭を撫でた。
「私も飲めばよかったかな」
 残念そうに呟くサンディには気付かずに。

「叢雲君! いつまでにやついてるの!」
 真琴は隣で思い出しては笑う叢雲の様子にとうとう痺れを切らせていた。どうやら彼は薬を飲まずに居たらしく、この実験中の記憶を保持しているらしい。
「くくっ。いえいえ、お気になさらずに。大丈夫ですよ? 証拠も隠滅しましたから」
 そう言って叢雲は手にしていたテープやらメモリーカード、フィルムなどを目の前でぐしゃっと握りつぶした。
「うん、こういうのはその場限りだから面白いのです」
 コクコクと頷く真琴に、叢雲もその通りですねとにこやかに頷き返していた。

「はれ? 何があったんでしょうか?」
 まだ頭がしっかり起きていないらしく、袖下でごしごしと目元をこすりながらソラは国谷の後をついて歩いていた。
「はは、何も‥‥なかったよ。何も、ね」
 そういう国谷の顔は何処か疲れていて、ソラはすごく不安に駆られる。まして、視線をそらされてしまえば‥‥
――俺、何かしちゃったんでしょうか?
 背中を見つめる視線が、何故か熱く、ぼやけてきたのを感じた。

「‥‥? ‥‥寝過ごしたか」
 皆がもう会場にいなくなった頃、西島はようやく目を覚ました。実は、実験が終った段階でミハイルや、他の者達も起そうとがんばったのだが‥‥中々起きることはなく、そのままそっと寝かせておくことにしたのだ。
 のっそりと立ち上がると、大きくあくびをしながら伸び上がる。
 どうやら、彼にとってはいい睡眠時間となったようである。

「この間はありがとう‥‥私からも贈らせてもらえるかしら?」
 帰り際、ナレインは美環を呼び止めていた。先日のお礼とばかりに、黄色い薔薇を手に握らせる。
「ナレインさん」
 黄色い薔薇、それは友情の証。そっと微笑んだ二人に、変わらない友情を誓って。


 みんなが帰った後、ノーラはまだ1人寝ぼけていた。
 どうやら能力者と違い、効力が少しばかり強かったらしい。
 ふにゅっと起き上がって辺りを見渡すと、周囲は既に変わっており、クッションの中で毛布をかけられて寝かせられていた。なにやら涼しく感じて自分を見ると、いつの間にやらバニー服が着せられている。
「はわわっ!?」
 慌てて周りを見ると、しっかり折り畳まれた自分の服と、誰かがかけてくれたバスタオルを纏いて。それに不思議に感じつつ、何が起きたかわからず‥‥
 思考の迷路へと一人歩いていた。


◆◇◆

 全ての実験が終った後、ミハイルは嬉しそうにこの度のデータを整理していた。もちろん彼の元には、今日の実験が一部始終記録されている。しかし、参加者には手渡さない。
 それだけが、彼の決めたルールであった。