タイトル:消失すべき鎖〜VH〜マスター:雨龍一

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/02 02:02

●オープニング本文


「まさか‥‥君が、だったとはね」
 カプロイアは、目の前にいる人物を見つめ溜息をついた。
「伯爵‥‥」
「いやいや、何も語る必要は無い。うん、君にはそうとは気付かずに色々と助けられていたのも、また事実であるし、ね」
「お気遣いいただき、誠にありがとうございます」
「それで‥‥直接来たというのは、なんなのだろうか?」

 カプロイアの元に残されたのは、一通の通知書であった。
 そこには、先月別荘を提供した、まだ若い友人の名前が載っている。
「‥‥これは、私が動いた方が‥‥しかし‥‥」
 いくら総帥の地位に着いているとしても、今回ばかりは勝手に行くものではないことはわかっている。なにしろ、彼が重要参考人であるのは、紛れもない事実であり、軍自体がそれを取り調べようとするのもまた、至極当然なのだから。
「あの‥‥あの男の血縁という立場が‥‥」
 先日知ったのは、スペイン・グラナダで向かい合ったあの敵、クリス・カッシング卿。かれ、カノン・ダンピールは遠いながらもその御仁と血縁関係にあるということだ。
 それを考えると‥‥我が友人と思っていた男も‥‥
「彼もまた‥‥どうやらあの男の‥‥」
 どうも、彼を救い出すには、そこを調べ上げなければいけないようだった。
「仕方ないな‥‥レディの依頼だ。そして、我が年若い友人のため、でもあるしな」
 そういうと、彼はクラシカルな電話を手に取り、連絡を取った。

「カプロイアだ。例の件、調べられるように手配をしてくれたまえ。なに、我が友人のためだ。助力は惜しまないさ」

 そう、これからの歩みのためには、まず鎖を切らなければいけないのだ。
 友人のためには助力を惜しまない。その精神を、見せてあげようと誓ったのだから。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
Cerberus(ga8178
29歳・♂・AA
魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN

●リプレイ本文

「ようやく、攻めに出られるのか‥‥」
 Cerberus(ga8178)はそんなことを思っていた。カノンとかかわり始めてもう半年の月日が経とうとしている。あの、青年を通して自らも変わっていったことを思うと、自由に解き放ちたいとも思うのだが‥‥
「ジュダース・ヴェント‥‥」
 クリス・カッシング(gz0112)卿よりも寧ろこの人物こそが、カノンを縛っている鎖である。どうやってそれを解き放てばいいのか‥‥機会をくれたカプロイア伯爵(gz0101)にそっと頭を下げる思いであった。

『資料を作成してくれ』
 その言葉通り、集まったもの達は3日間の期間内に各地へと飛ぶこととなった。最終日、3日目に取り集めた資料を纏めることを考えると、2日間しかない。手分けして探ることとなる。
 開始の前日、一同は集まって分担を執り行う。そして、最初から関ってきたシェスチ(ga7729)、Cerberusは今までに出てきた疑問点を挙げ始めていった。
 そして、それぞれの目的を持って、彼らは調査へと旅立っていったのだった。



 大泰司 慈海(ga0173)が注目したのはカッシング・トレア・ヴェントの関係だった。何故この3家が繋がりがあるのか‥‥そこがポイントだと踏んだのだ。
 足を踏み込んだのはフランス。役所へと登記のいくつかを問い合わせることから始める。土地の所有権、住民票などを取り寄せてみるものの、収穫祭の際に利用したシャトー以外のことは、どうやら情報の開示を禁止処理されているらしく調べることは不可能であった。シャトーについては、所有者はカノンの名義になっており、事実上あれが彼の持ち物であることがわかる。前所有者は、どうやら彼の父の名前となっている事から、代々受け継がれているものなのだろう。16歳を節目に転記されたらしい。
「それまで、彼の父は生きていたのか?」
 疑問に思いつつ、得られる情報を大事に、次へと動いてみることとした。

 ルーマニアへと赴いたとき、慈海はフランスでと同じように役所への問い合わせを行った。しかし‥‥どうも入手しようとした情報は、悉く手に入れることが不可能であった。どこからか、情報操作が入っているのか‥‥それとも。もともと傭兵には手に入れられる情報などではないのかもしれないことが頭によぎる。そう、一介の傭兵の身では軍とは違い調べられる事に限界があることを、改めて感じることとなった。
 どうにか調べられた事は、現トレア家についてのことであった。
 現トレア家は今まで集めた情報を元にするとカノンの父の弟一家にあたる。しかし‥‥トレア家の評判を確かめていると、不思議な事実がわかった。
「‥‥現当主も、前当主も『ダンピール』がついていない?」
 そう、どの当主の名にも『ダンピール』という名はついていないのだ。それは、どういうことを示しているのだろうか。謎が再び、浮き上がってきた。



 シェスチはそっと祈りを捧げていた。彼に渡した、あの呼び笛が彼を守ってくれるように。今は鎖か箍か知らないけど、それから解き放つ。そのためなら‥‥昔の野良犬に戻っても構わないと思いながら。
 彼が重点に置いたのはヴェントの屋敷自体だった。シェスチは本部の依頼発信記録より屋敷の場所を調べると調査へとあたる。そこは、うっそうとした森の中にあり、何よりも物の出入りがあったかどうか怪しくさえ思うぐらいである。
「‥‥こんなところに?」
 疑問が尽きない。屋敷についても、その疑問は拭いきれなかった。人の、気配がしないのだ。
「‥‥」
 シェスチは意を決めると屋敷の内部へと乗り込んでいったのだった。

 屋敷の中は、無人だった。忍び込んだものの、薄らと積もった埃を見るとどうやら最低ここ1ヶ月は誰も使用していないことが窺える。おそらく、それはカッシングがグラナダでの行動を行った時以降使われていないのだろう。カノンが、あちらへと渡された時以来‥‥
 シェスチは屋敷をくまなく探していた。驚いたことに、ここには多くの書物と、なにやら儀式めいた部屋が多く感じられる。壁に掲げられているタペストリーには、なにやら意味不明の記号が羅列され、それが、不思議と怖さを醸し出していた。
 地下室があるかと、くまなく探しているとそれは何箇所も存在した。何よりも驚いたのは、当主の部屋らしきところにあった、地下への扉だった。消えた暖炉から、奥へとそっと続いてる道が見つかる。そこへ降りていくと、冷たい石に囲まれた部屋があり、柔らかなクレムゾン色のソファーに細工が施された卓が有る部屋と、ふかふかの絨毯の上に置かれた、黒い棺が納まった部屋があった。どちらも、室内は燭台が残るだけで、電気は存在しない。黒い棺の中は何も存在しておらず、柔らかな敷物だけが、違和感を醸していた。
 そもそも、この屋敷自体が電灯というものが存在していなかった。
 一昔も前に戻ったような、そんな屋敷。カノンは、ここで小さいころから育ったというのだろう。それが何故か、心に痛んだ。



「トレア家という名前を聞くのも久しぶりだな‥‥」
 Cerberusはそういってジーザリオから降り立った。見上げるのはトレア家が管理している領土。ここに‥‥カノンの秘密が眠っているのは確かだから、である。
 ルーマニアに存在する屋敷は、簡素な造りをしており、何よりもその造りがフランスに有ったシャトーにそっくりであった。
「これは‥‥」
 何よりも調査だ‥‥そう思い、Cerberusは図書館や現地の人への聞き込みにと足を向けていた。

 トレア家についての評判は中々のものだった。この地元でも、彼ら一族の芸術性の高さは評価されいてるらしい。そして、10年近く前に現れた、1人の幼き歌姫の名は、図書館にも記述されていた。
 エティリシア・ダンピール・トレア。どうやらこの人物がカノンの姉らしい。幼き日の写真は、カノンとよく似ておりそして、傍らにはいつも銀髪の男が立っている姿が見える。ジュダース・ヴェント。その後ろに、似た容貌の年上男性がいることから、おそらく家族付き合いが合ったのだろう。歌姫と呼ばれるだけあり、小さきながらも数々のコンクールにてその歌声は評価を得ていたらしい。そして‥‥
「‥‥ここに来て、このような話が載っているとはな」
 数々の記事の中に一つ、どうも見逃せないものが存在した。トレア家当主の失踪。
 トルコの方へと娘の遠征に赴いた一家は、そこで消息を絶ったと書いているのだ。つまり‥‥一家全員が、トルコへと赴いた時、ヴェント家へと移るきっかけになったらしい。その後、時期をおかずに弟が当主を名乗り、トルコで保護されたカノンとエティリシアはフランスへと移る。歌姫が去った事を嘆く記事が、そこに有った。



 魔神・瑛(ga8407)はカノンとの関わりはないものの、この度の調査を買って出ていた。先に今までの 経緯について聞くと、己は魔方陣を調べようと言ったのだが‥‥
 生憎のところ、彼の質問に対し、答えられるべきものはいなかったようであった。
 六亡星に三重円、中に書かれているのは現代の文字ではなく、古代文字。その魔方陣に心あるものは、なにも見つけ出すことが出来なかったらしい。



 クリス・フレイシア(gb2547)はかつて訪れたカッシングの村を訪れようとしていた。かつて通った道を思い出しつつ、自分のジーザリオで乗り込もうとしたものの、行けども行けども、通ったはずの道が見つからなかった。
「変だな‥‥ここら辺のはずなのだが」
 そういって心当たりの場所を丁寧に探してみても、地図で照らし合わせても‥‥何故か見つからなかった。
 仕方がないので引き返し、近辺の村にて聞き込み調査を行うことにしたのだった。

 いつものように、彼女の行動は女性をハンティングすることによって情報を得ようとしていた。この度も、である。取り敢えずは、あの入れない村について‥‥、そしてカッシングについて知らないかをディナーで心を揺さぶりながらクリスは探りいれようとしていたのだった。



 ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)は何故かコソボ自治州へと赴いていた。なにやら『ダンピールの伝承』があるとの話で乗り込んだものの、どうも見当違いだったらしく、取り留めのない伝承話しか得ることが出来なかった。それでも何かの足しにはなるはずだと、数々の情報を集めていくと、今までの依頼と少し通じる部分が見つかっていく。それは、ダンピールと呼ばれたもの達と、吸血鬼と呼ばれたもの達が『血』というものと密接な結びつきがあること。そして、今までの依頼との類似性が、やけに引っかかった。
 家畜から消え、そして村人が消え、新月時に起き、魅惑の香により誘い出された。どれもが、近し伝承がここにはあった。
 その後以前に依頼の現場となった場所への立ち入りを挑んだのだが、どうも現在は立ち入りが難しかったらしく、再びコソボでの探索を行っていた。
「中々、手がかりが見つかりませんね」
 そういいつつ、手には双眼鏡を持ちながら。


 各自が調べる中、時間は過ぎ去っていった。
 残り一日となった最終日、再び彼らは調べた結果を持って集まっていた。それは、伯爵へと提出するべき資料へと纏め上げるために。

 情報が足りなかったのか、それとも‥‥調べるべき点が不明確だったのだろうか。
 何か、肝心なところを見落としている感が否めない中、持ち帰った記録を各自差し出していた。



 出来上がった物、それは‥‥
 ジュダース・ヴェントについてというよりも、カノン・ダンピールの生まれについてといった方が良い、そのようなものとなっていた。彼については、まだ不透明なことしか垣間見えなかったのである。



 ダンピール。
 それは吸血鬼と人間との混血を示す言葉。ジプシーの伝承により生まれたこの言葉は、時に吸血鬼として、時にそれを滅ぼすものとして。それを名に持つ彼は、一体何者なのだろうか。
 笛を吹く儀式、そして‥‥今までの依頼が何よりも血を欲していた事。
 キメラによって、血が収集されていたのだ。
 ノートに書かれた表紙の文字。『永遠の命』。
 カッシングの研究していた、遺伝子研究による不老不死について。
 ヴェント家に隠されていた、血族の存在。
 これらが意味しているのは、一体なんなのだろうか。
 その疑問点について、得られたピースを一つずつ当て嵌めていく。それが、鎖から解き放つ鍵となろうことを願いながら。それぞれが集めてきた情報を、一つの形へと埋めていったのだった。


 最初の村で消えた女は、一体何をしていたのだろうか。そして、集められた血液の行方は。
 疑問が付き纏う。
 トルコでの笛の音も、女性が奏でたものだった。そして、落ちていたカノンの姉の十字架。
 かつて調べた結果わかった忘れられていた事実は、カノンの父の死亡原因。
 それは、トルコにおいての悲しい事件。
 血族の反乱。そして起きた、ジュダースの血族の長への就任。
 捧げられたのは、カノンの姉。そして、幼きカノン自身。
 血族の掟が、彼らを縛り狂わす。
 何よりも、ダンピールの名を持つ二人の姉弟を‥‥
 銀の剣は、かつてのハンターが用いたと伝承された剣であった。それが隠されたのは、深き深き森の中。
 悲しい運命の血が、今再び回りだしているように。

 フランスの、ヴェント家にて得られた書物には、実に様々な事実が記されていた。
 ダンピール。それは‥‥トレア家において、クリスマスに生まれた子だけに付けられる総称。忌み嫌われ、長への捧げ物へとなるための供物。
 それを知ったとき、彼はどんな思いをするのだろうか。
 姉もまた、同じ日に生まれた‥‥忌み子であった事実を。
 エティリシア・ダンピール・トレア。今は存在すら無き、彼の姉が‥‥何処かで生き続けているのは、もはや確証に近かった。


 カッシングが、何故彼を求めるのかはわからない。そして、遠い親戚という名目も。ただわかったのは、トレア家においてカッシングの家との繋がりはあまりにも遠いことだという事実だった。それは、彼らの何代も前に遡り、ルーマニアの地に落ち着いたときを示していた。親戚といえど、3代以上前の話であれば、それはきっと不確かな繋がりとすることが出来るかもしれないと感じていた。



「資料集め、ご苦労だった」
 カプロイアは、そういうと静かに資料を捲り内容を確かめていく。
 ジュダース・ヴェント。調べれば調べるほど、曰く有り気な一族だとわかる。何故彼がカノンたち姉弟を執拗に求めるのか‥‥
 それが見え隠れしていたあの昔からの絆。
「これで、彼女との約束がやっと果たせるな」
 資料を一通り読み終えると、カプロイアは一通の書状を書き出した。押し付けられる捺印。そして、それをシェスチの手に渡した。
「これにより、カノン・ダンピールを解放できることになるだろう。軍の手により、ね。 その後、そこに書いたとおり、私は宣言しよう」
 渡された書状をそっと広げると、皆が覗き込んだ。
 そこに書いてあったのは‥‥

―― これより、カプロイアの名の下にカノン・ダンピールを保護下に置く ――

 それは、カプロイアが出した結論であった。
 古より続いた鎖を、ダンピールの一族から取り外すために‥‥
 その名により、繋がれ続けた幼き子供達を解き放つために出来る、彼なりの友情の印だった。

 Cerberusはそっと帽子を被りなおした。あの儚き契約者との契約が、今暫し続きそうな事をそっと感じ取りながら。



 クリスはそっと、Cerberusから得られた男の名を胸に刻んだ。
 かつて、カノンにバトラーと呼ばれし、撃ち損ねた男について。
「セバスチャン‥‥なんてありふれた名前なんだ‥‥」
 だが、次に会った時は‥‥
 そっとライフルを胸に抱く。彼女にとって、それはまるで誓いの儀式のようであった。