●リプレイ本文
「廃ビルの掃除か‥‥」
依頼により集合したのは中々の戦闘経験も持った者達だった。
「このご時世、廃墟は放って置くとキメラの巣窟になりかねんからな。不安要素は取り除いておくに限る」
「何が出るかわからない、か。屋内戦闘を学ぶには丁度良いな」
「援護技術を向上させるにはもってこいか‥‥」
など参加理由はさまざまではあったが、依頼を買って出てくれた者たちはその依頼主が待つ支部へと赴いていった。
支部に着くと依頼主の建設現場担当者がいた。
「いやいや、すみません。我々も解体現場周辺で出たって聞いたもんだから怖くって。何せ対抗手段が中々‥‥」
はにかむように彼らを迎えた。
「確かにキメラが出るかも知れないんじゃ不安ね。きっちり『掃除』をする事にしましょう」
小鳥遊神楽(
ga3319)の言葉に担当者は食いついてきた。
「そう、そうなんですよ! いやいや、話がわかる人は助かる! 宜しく頼みますよ! 」
「早速で悪いんだが、現場の見取り図はないだろうか」
切り出したのは白鐘剣一郎(
ga0184)だった。
すぐさま担当者はごそごそとカバンから一枚の青写真を取り出す。
「いやね、あそこの建設自体私どもの会社が施行していて。まぁ何もないよりマシだろうからって持ってきたんですけど‥‥」
「情報があるとないとじゃ、雲泥の差だから‥‥。内部構造を知っていれば、予めどう動けばいいのか行動の計画も立てやすいし」
「いやぁ、でも建設してからすでに20年以上たってるんですよ。改築なんかも行われた可能性もあるし‥‥。ですからこの見取り図を鵜呑みにしないでくださいね」
そういって広げた見取り図によれば、現場は地上4階建てのワンフロア5部屋にトイレ、給湯室付のちょっと広めといった感じのビルのようだった。5部屋中1部屋は給湯室の横にありどうも他の部屋より小さい。物置的なスペースだろう。4階中3フロアまではそのようなつくりだったが、1階に関してだけはオープンスペースになっており、あるのはトイレと小さな小部屋が2個だけだった。
「地下室はないのか」
そう質問したのは寿 源次(
ga3427)だった。
「普通の雑居ビルであるなら大概付いていると思うが」
「あ、はい。後日作成されたそうなんですけど、いや、工事の段階ではすでにあったんですがね、物置的スペースしか取れないのでいらないとのことがあったりしましたのでこの見取り図には‥‥」
「ということは、あるんですね?」
「はい、あるにはあるんですが‥‥すみません」
「それでしたら、近辺に出るキメラの情報はあるのでしょうか」
蒼羅 玲(
ga1092)が続いての質問をした。
「あぁ、それでしたら目撃証言もありますので。いえね、この証言がありましたからみなさんにお願いする事になったんですが‥‥」
担当者の話によるとそれは複数件の目撃情報をまとめたものだった。
どうやらその目撃されたキメラは形が定まっておらず、しかも音もせずにニュルニュルと動き、大変気味が悪いという話だ。昼間の目撃はなかったのだが、薄暗い中で目撃した証言に、何かの気配を感じて持っていたライトをその方向に向けると半透明の中に物体があり、とても気持ち悪く逃げてきたとの話があった。
「どうやらスライムキメラのようですね」
如月 煉(
ga2574)は話を聞いて分析をしていた。
「しかもお話からいってやはり数体潜んでいるようです。目撃の色がばらばらですし‥‥」
スライムキメラはその個体個体によって特徴が色などで分別できるようになっていた。赤や黄色、緑に黒など。一見半透明で統一されているようであるが、その性質は様々である。
「えと‥‥どっちみちわからない場所があるみたいだしぃ、なんとかなるよ! ダンジョン攻略ぅ? みたいでちょっとワクワクするしぃ♪」
「我は殲滅するだけ‥‥」
琴乃音 いちか(
ga1911)と陽気な復讐者(
ga1406)はそれぞれマイペースのように話を閉じた。
「通信機借りてくる」
伊河 凛(
ga3175)は淡々と本部で申請しておいた機器を受け取りに支部受付に向かっていった。
現場への移動中それぞれが見取り図を見て状況を把握しあい2部隊に分かれる事になった。残念ながら人数分申請しておいた無線機は支部の状況により2つしか借りられなかったため各部隊に1個という事になった。他に申請していたものの中にライトがあったがそれも提供個数は各部隊に2個。
「すみません、あいにく壊れているものが多くて‥‥」
本部で支部にあるものを使えといわれていたため致し方ないところだろう。幸い借りた無線機は通信を確認できた。
現場に到着するとそこはあちこちに破壊された建物の瓦礫が山を築いていた。撤去作業までは行わないらしい。
「それにしても寂しい光景だな。こうして目の当たりにすると尚更そう感じる」
白鐘はその現場を見て感じていた。
「それじゃ手筈通り行こう。慌てず確実、速やかにな」
そうし切り直すと一同うなづいていた。
「改めて‥‥白鐘だ」
「陽気な復習者だ。呼び名は好きな風で構わない」
「琴乃音ですぅ。怪我した時は言ってねぇ〜♪」
「如月です。それでは皆様、改めて宜しくお願い致します」
ここでひとつのチーム・Aチームが顔をそろえた。
一方もう片方でもチームが顔をそろえていた。
体を解すかのようにストレッチをしていた伊河は、深呼吸をするとともに髪が白色へと変化していた。
「伊河だ。‥‥俺は準備完了だ」
「あたしは小鳥遊。宜しく頼みます」
「寿だ。宜しく頼む」
「私は蒼羅です。よろしく頼みます」
「別件では世話になった。今回も活躍を期待させて貰う」
「私もお世話になりました。寿さん」
寿と蒼羅は互いに握手を交わした。Bチームの誕生だった。
ビル内に入ったのは両部隊とも同時だった。
地下室に関してある事はわかったものの、上まで行った後下まで降りてくる‥‥その事も踏まえ、通路は見つけても後ほど探索する事となった。
1階は広々としたオープンスペースで置かれているものも少なかった。途中に据え付けられた階段を挟み2部屋が、そしてその奥にトイレである場所が潜入時でもとってわかった。
如月が左髪を掻き揚げ凝視すると、伊河も同時に前方を警戒していた。
「確かに、何かがいる。数まではわからないがな‥‥」
陽気な復習者はそっと愛剣にキスをすると、その表情は高揚し不気味な笑みを浮かべていた。
●チームA
Aチームは主に右側を担当する事となっていた。左右対称ではないビル内ではあったが、部屋の数はだいたい同じ‥‥単純に右と左に分かれて行動することとなったのだ。
陽気な復習者を先頭に如月、琴乃音、白鐘の順で探索を行っていた。
結果、1階ではたくさんのダンボールに占拠された部屋にあたり、緊迫した探索作業にもかかわらずキメラはいなかった。かわりに地下室への通路を見つけ、報告へと当たる。後ほど探索とのことでBチームの代わりにその他トイレの探索を行っていた。
●Bチーム
Bチームは左側を担当。蒼羅を先頭に小鳥遊、寿、伊河の順に探索に当たっていた。
結果、1階で探索した部屋にそれはいた。
「気をつけて‥‥何かがいる」
扉を開けた直後、小鳥遊が注意を促す。瞳は金色に変わっていた。部屋は少し狭くはあるものの物は少なく、戦闘には困らないように見受けられる。蒼羅の目が緋色へとかわり、刀を抜いた。寿の目も光を放つ。
戦闘は比較的簡単に終わった。
蒼羅の刀がスライムキメラの核へと見事的中したのだ。
敵は一匹。小鳥遊がAチームに報告をするとそのまま合流し、2階へと移動した。
2階からはAチーム、Bチーム共に対称となるように探索を展開していった。無線機で部屋を一つ一つ探索すると連絡をする、そんな状態が続いた。各チームとも部屋数は10以上になっていた。その中スライムキメラがいた数は約半数。2部屋に1体といったペースで出現していた。
「くっくっく‥‥」
部屋内にスライムキメラの分泌物が飛び散る中、陽気な復習者は愛剣のヴィアを片手に酔いしれていた。浮かべる表情はまさに妖気。ひらひらと舞いながら斬る様などはまさしく舞姫、それであった。今回舞台が狭いと思っていたが、主に生息していたところは部屋。そのためいくらか厳しいことはあっても舞い踊る程度には可能であった。
「あぅ〜‥‥キメラってやっぱり気持ち悪いぃ〜‥‥」
後ろ側で待機をしながら回復やら強化などに当たっている琴乃音は思わず顔をそらしたくなる。そんな琴乃音をカバーするように如月はスライムキメラに対し援護射撃を行っていた。白鐘は後部からの急襲に対処するべく警戒しつつ、華麗な剣舞から逃れてきたスライムキメラに対し攻撃を忘れない。
戦況は難しくはなかった。ただ、数々の物陰から突如と現れるスライムキメラに対する対応への緊張状態は部屋数の多さにともない時間の経過が激しかった。部屋自体も何も存在しない部屋があったり雑然とダンボールやら物が並べられている部屋があったりと様々であった。
「所詮はキメラか‥‥気配を消す事はできないようだな」
物陰に潜んでいるものを見つけつつ、チーム内に合図をする。それにより急襲に備え、こちら側の被害は最小限にとどめる。そんな戦闘展開が繰り広げられていた。
「きっちり『掃除』させて貰うわ。この世界のどこにもあんた達の居場所は無いんだからね」
時にはこちらから無防備となっているキメラに急襲をかける事もあった。
4階の部屋を全部屋探索した後、両チームは再び1階のとある部屋に集合していた。そこは始めに地下への通路を発見していた部屋であった。
「こんな所にも巣食うか、バグアめ。だがそろそろ立ち退きの時間だ‥‥行くぞ!」
白鐘の合図に伴い両チームとも地下への階段を警戒態勢で降りていく。
そこは何もないただの広い空間だった。少しじめっとした感触が空気から肌へと伝わってくる。外からの光もなく電灯すら存在しない、そんな空間だった。
「いますね」
いち早くその存在に気づいたのは蒼羅だった。
ライトを指摘された箇所へと集中させる。そこには半透明の膜に覆われた小さな物体が空へと浮かぶ、そんな光景が現れていた。それは大きなスライムキメラだった。
「でかいな‥‥」
寿がつぶやく。
「舞おうか、ヴィア」
素早く剣を構えなおすと陽気な復習者が立ち向かう。それに伴うように蒼羅も続く。
白鐘と伊河は周囲の警戒をしつつ包囲へと向かっていた。うごめくキメラに小鳥遊が、如月が次々と威嚇射撃を当て対象をちらつかせる。
琴乃音は隙を見て武器強化に当たっていた。寿は超機械を用いて電磁波を喰らわせる。
戦況は有利だった。キメラの反応が遅れたのだ。舞うように振り払われた陽気な復習者の剣をもろに受け、そのタイミングで蒼羅の剣が体を貫く。反撃をしようとしたところに後方からの射撃が入り対象がずれ‥‥そういった展開により特に大きなダメージを食らわないまま、こちらの一方的な攻撃が繰り広げられた。
最後の一撃は蒼羅の手によるものだった。
剣を斬りかえしのまま入れると核がつぶれキメラは解けるかのように崩れていった。
「これで最後のようだな。他にもう異常はないか?」
すかさず白鐘は確認を行う。どうもこの1体が最後だったようだ。
「くっくっく…欣快の至りとはこういうものか、ゾクゾクするぞ」
陽気な復習者が恍惚の表情を浮かべていた。
「皆様、お疲れ様でした。流石、の一言しかありません」
如月の爽やかな笑顔により作戦は終了した。
「いやいや、助かったよ」
ビルから出ると早速担当者の指示によって解体作業へと取り掛かっていた。すでに用意してあった爆薬を各所にセットしていく。
距離をとって物陰に隠れるようにと指示を仰ぎ、一同はその解体作業を見物していた。
合図が上がった。
すさまじい爆撃音と振動の中ビルが崩れ行く。
「すごぉ〜いっ! ビルが粉々に壊れてくよぉ〜♪」
「‥‥あれだけ時間を掛けて『掃除』したのに、壊す時はあっという間ね」
はしゃぐ琴乃音の横で小鳥遊が寂しそうにつぶやく。
「次は立派な建物になれよ。二度と俺達が来なくてもいいようにな」
伊河は思い出に浸るようにビルを見つめていた。
「こんな物件も増えて行くのだろうな」
そうつぶやく寿の肩に白鐘は手をかけていた。
「‥‥いつか、元の街並みを取り戻そう。俺たちの手で」
すでに夕暮れになった現場を、取り壊されていたビルを見つめながら。
取り戻す街並みを夢見て‥‥
END