タイトル:【収穫祭】カノンと休日マスター:雨龍一

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 18 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/10 00:53

●オープニング本文


「さて‥‥ここでいいでしょうかね」
 カノンは再びフランス西部にある自分のシャトーへと来ていた。
 遠くからは何やら搬入のトラックが入ってきているのだが‥‥
「あ、それはそこにおいて‥‥これはそちらに運んでおいてくれますか?」
 搬入してくれた人方が、指示に従い物を設置していく。
 箱が7つ。それぞれに収穫先と担当官の名前が書かれた手紙と目録がついていた。
「‥‥伯爵も、本当に突然よこすんですから‥‥」
 カプロイア伯爵。今回各地の人に迷惑をかけた張本人である。
「なにも‥‥僕のところまで収穫物を届けてこなくてもよいような気がするんですが‥‥」
 コンテナに入った物達がシャトーの倉庫を占領した。ここの所ワインを貯蔵しているわけでもないし、この間作ったのは全て伯爵に上げたのだからなにもなかったはずなのだが‥‥
「そして‥‥このシャトーワインが立派になって返ってきてますね‥‥」
 一つのボトルを持ち上げると、樽で持っていったはずののワインが綺麗にビン詰められ、家紋までラベルにはいっていた。
「でも‥‥こんなにあっても僕じゃ処理しきれない‥‥」
 ふいに、上から薔薇の香りが漂ってきた。
「あっ」
 急いで駆け上っていくと、そこには綺麗に咲きほこった薔薇が目に付く。
「そうか‥‥皆さんを呼んで食べて貰えばいいんですね!」
 思いついたことに、キラキラと目を輝かせながら家の内部へと戻っていった。
「ガーデンパーティの開催っと」
 目の前に広がる庭が、たくさんの客に見せれるチャンスなのだ。
 普段とは違った、厳かな空気の元、カノンはこれから起きるであろう不思議な日を思い描いていた。


  ―――――――――
    *目録*
  ―――――――――

〜フランス産〜
 ワイン(赤・白・ロゼ)
 シードル
 ブランデー
 ベリー酒
 各種ジュース
 サングリア
 各紅茶
 葡萄のパウンドケーキ
 アップルパイ
 各ジャム
 タルト
 ベリーパイ
 葡萄羹
 特殊レアチーズケーキ
 クッキー(プレーン、レーズン、林檎紅茶、激辛、激苦)
 林檎のコンポート
 葡萄パン

〜スペイン産〜
 生ハム
 腸詰
 ベーコン
 豚部位色々

〜太平洋沖〜
 冷凍マグロ

〜京都産〜
 九条葱 
 千筋京みず菜  
 壬生菜 
 賀茂茄子  
 柊野ささ 
 伏見唐辛子  
 万願寺唐辛子  
 鷹ヶ峰唐辛子  
 田中唐辛子 
 山科唐辛子  
 能力者製一味唐辛子  
 海老芋
 丹波やまのいも 
 丹波くり 
 紫ずきん 
 野菜キメラの手足

〜ドイツ産〜
 アイス
 ヨーグルト
 チーズ
 バター
 クリーム類
 ミルク

〜兵庫産〜
 明石のタコキメラ

〜イタリア産〜
 栗

〜タイ産〜
 香り米

●参加者一覧

/ 大泰司 慈海(ga0173) / 柚井 ソラ(ga0187) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / ロジー・ビィ(ga1031) / UNKNOWN(ga4276) / 神森 静(ga5165) / 空閑 ハバキ(ga5172) / シエラ・フルフレンド(ga5622) / 鐘依 透(ga6282) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / クラウディア・マリウス(ga6559) / 草壁 賢之(ga7033) / 不知火真琴(ga7201) / ラウル・カミーユ(ga7242) / Cerberus(ga8178) / ラピス・ヴェーラ(ga8928) / 翡焔・東雲(gb2615) / ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522

●リプレイ本文

 Trick or Treat
 不思議な言葉
 全てのものを魔法に掛け
 幻想を織り成す世界へと誘う
 その言葉‥‥誰へとかけるの?


<Hide thought>

「こんにちは」
 それは、まだ日が高い時刻であった。何気無しに送った紹介状が依頼の掲示板へと貼り出されたのは数日前。
 彼――カノン――と別れてから何度悩んだのだろう。深淵の中を彷徨っていたロジー・ビィ(ga1031)は友人のケイ・リヒャルト(ga0598)によって訪れる心を決めてきた。果たして自分は彼に対してどんな顔をすればいいのだろうかと‥‥そんな悩みを胸に秘めながら。
 その後ろにいるのはアンドレアス・ラーセン(ga6523)。彼もまたどうやら精神状態が不安定のようである。伸ばした手を撥ねられ、そして尚且つ胸に収めた感触だけが今も残る。何度も眠れぬ夜を経験した、彼には珍しく音すらも耳に入れたくなかった。果たしてこれほどまで胸が痞える痛みはあったのだろうか。あの、白猫を掴む夢が消え失せた時よりも、なぜか心が重く感じていた。
 その様子を心配そうに見つめる不知火真琴(ga7201)は、かく言うアンドレアスを夏に悩ませた白猫本人だったりもする。今では普通に話せる友人として、何か方法は無いかと模索していたところの話、飛びついてきたのだった。
 あの時自暴酒に走れたもののと、そんな親友を見つめている空閑 ハバキ(ga5172)も、実は心痛であった。先の依頼にて何かが、欠けていたのだ。あの手を‥‥俺は取りたかったのに‥‥。でかかった言葉が、なぜか出なかった。不思議だ、一人で居たいのに居れない、それを満たすため‥‥そういう気持ちもあったのかもしれない。とにかく、一人ではいたくない思いが強く、ここに導かれたのだった。
 誰もが、心に咎を持つ中、その思いはなんとも儚く、壮大なのかもしれない。
 そんな彼らとは違い、再びここを訪れた事を喜んでいる者達もいた。
 自ら喫茶店から色々と持ち込んできたシエラ・フルフレンド(ga5622)はいつものようにニコニコ笑顔を振り撒いている。それが、自分の勤めであるように。そして、ひっそり寄り添うようラピス・ヴェーラ(ga8928)と草壁 賢之(ga7033)。複雑な思いを抱えつつも、彼らもまた彼の顔を見にやって来たようだった。
 ラウル・カミーユ(ga7242)はそんな彼らと一つ違っていたりした。後悔は嫌い――何事にもポジティブらしい彼の考え。そして、他にも‥‥ ほんわかムードを漂わせる2匹の子犬――いやいや、2人がいる。クラウディア・マリウス(ga6559)と柚井 ソラ(ga0187)だ。純粋に招待状によって導かれた彼らは、どうもこの空気を疑問に思いつつも、これから繰り広げようとする御茶会に夢を馳せていた。
 その様子を、Cerberus(ga8178)は一人、後ろから窺っていた。


<Preparations>

「皆さん、そしたら‥‥本当にいいんですね?」
 内部に入るとカノンが迎えた。紅い瞳が揺らぎの色を示しながらも、歓迎の笑みをもたらした。準備は大丈夫と、気合の入った御仁たちが仕切る中、渋々と引き下がっていく。用意ができたら、呼んで下さいねと少し哀しみの笑みを浮かべながら。

 準備はとてもスムーズだった。何しろ張り切っているもの達は最初から準備が早いのだ。
 母から教わってきたレシピを片手に作るドリアとリゾットは、クラウディア自慢の一品である。それをここの所食べ過ぎてましたからとソラが手伝っていく。もう1年になろうとする自炊の腕も、満更ではないようだ。
「ソラ君、スープ入れて弱火で煮詰めて貰っていいかな?」
「あ、はい。マリウスさん」
 ニコニコと互いにフォローし合う二人は傍から見てもとても愛らしい。くるくる回る様子を真琴はこれまたにこにこと眺めていた。
 一人ジョセフィーヌと戦うシエラは、別のパーティで彼女の性癖を知っているためか、扱いが慎重である。何しろ極度の男性好き、しかも女性にも吸い付く危険性を持つ。それを叩きつけていくのだから、中々のサディストなのかもしれない。てきぱきと切られたジョセフィーヌは見事にカルパッチョへと姿を変えていった。その後すぐに他の作業へと移る。同じくマグロを解体し刺身へと姿を変えた。チーズにパン、ガーリックと高級豚肉をもちいて作られるブルスケッタ、美味しそうである。炊飯器から湯気が出てきたのを確認すれば中からは見事な栗が詰まった蒸しご飯が顔を見せていた。
 フラフラと何かに導かれるようにたどり着いたハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)もまた、自らの腕を振るっていた。作るのは和風ピラフ。的確に伯爵がよこした材料を用いて、てきぱきと作っていく。見事な手腕は、やはり経験が豊富‥‥なのだろうか。まだまだ謎の人物であるようだ。
 自らも蕎麦屋を経営している草壁もまた、和食メインに準備をしていく。栗を中心に数点の御茶菓子だ。作った栗餡を恋人であるラピスが作る水饅頭の生地で包み込み、見事二人の愛の作品が出来上がっていく。
 ケイはスコーンを焼きつつ、ロジーにハムをチーズに巻くのをやらせていた。時折変な行動に出ようとする彼女を止めるのも、お手の物であったりする。さすが腐れ縁なのだろう。
 大泰司 慈海(ga0173)も次々と料理を披露していく。さすが、伊達に年は取っていない。見事な腕であった。万願寺唐辛子と賀茂茄子とベーコンの炒めものや九条葱と豚肉のパスタなど、和風物が目に付いた。
 ラウルは全て一口サイズをテーマに盛り付けていく。フランスパンや葡萄パンを土台にチーズやハム、野菜、魚介類を乗せ色とりどりのカナッペを作製していた。食の細い友人を少しでも食べさせようという考えもある。あっさりと作られた生ハムと京野菜のサラダと、タコとマグロのカルパッチョ。どれも食欲をそそる物である。極めつけとばかりにチーズとワイン、ミルクを小鍋で煮込む。大体4人に一個当たるぐらいだろうか。その鍋に添えて一口サイズに切った野菜やパンたち。チーズフォンデュの用意だった。


 そんな調理をする人たちを余所に、外ではセッティングを行っていた。軽めに配線を準備するアンドレアスにCerberusが無言で付き合う。本格的ではないが軽く演奏を披露してくれるというのだ。薔薇の庭に合わせ、埋め込まれるスピーカー。幻想的な世界を崩さないように、そっと控えめに。後ろではワインの噂に誘われた翡焔・東雲(gb2615)がそそくさとテーブルセッティングを行っていた。丸いテーブルの上に、白いレースをあしらったテーブルクロス。先ほどから出来上がってくる料理が並べられていく。そのどれもが美味しそうで、また、ワインに合いそうだと微笑を浮かべていた。


 横ではランタン作りに最近手に入れた奇怪な秋刀【魚】で挑もうとしていたが、切れないためナイフに持ち替えた鐘依 透(ga6282)は、素晴らしい手際で次々とランタンを完成させていく。
 そのランタンへと姿を変えたかぼちゃの運び入れを手伝ったハバキは、薔薇に包まれた庭を少し眩しそうに眺めていた。
「本当に、御伽の国みたいだな」
 と、誰かを思い出すかのように呟いて。
 先程までケイの手伝いをしていたはずのロジーもまた、なんとも芸術的なランタンの作成に参戦をはじめた。どうやら、もうお暇らしい。時折手が止まるものの、思い切ったように作業へと戻る、それを繰り返しながら。その様子を鐘依は不安げに見つめている。優しい彼女が、壊れないように‥‥その思いだけを視線に宿らせて。
 料理が出来上がるにしたがい、それぞれが思いをのせランタン作りへと移って行った。 草壁が作り出す奇怪なランタンにラピスが微笑みで返す。少し嗜めながら、それでもにこやかに作られる。
 ソラがカノンを連れ出し一緒にランタンを作製しだす。明るい少年の笑顔に釣られ、カノンもふんわりと微笑み返す。その様子を見て、少しだけロジーとアンドレアス、草壁はつっかえていたものが落ちたような気がした。太陽のような少年の笑みが、暗い影に捕らわれる青年をも照らしたのかもしれない。そっと目を移すとオレンジ色の薔薇が目に付いた。ソラは、そっとそこに歩み寄ると、嬉しそうに目を細める。クラウディアがその様子に気付き尋ねると、
「俺の、誕生花なんです。『信頼と絆』それが意味なんです」
 そう語って聞かせてくれた。その言葉に、アンドレアスとハバキは少しだけ思いを馳せる。
 出来上がったものに対し、鐘依が微調整をして綺麗に蝋燭の灯りが見えるようにしていく。次々と出来上がるランタンは、火を灯し、あちこちへと飾られていく。丁度、日が傾いてきた頃合だった。ランタンによって浮かび上がる薔薇が、より一層幻想の世界へと誘っていた。


<A party>

 緋色が広まった頃、それは始まった。
 各々描いてきた服装へと姿を変え、それはまるで本当の御伽の世界。ランタンの灯りによって薔薇たちと、シャトーの壁が静かに浮かび上がる。
 静かな音が、流れ始める。
 アンドレアスのギターだ。すっきりと燕尾服に身を包んでいた。ちょっと垂れた兎さ耳が、どうも彼の心境らしい。アコースティックの響き渡る渋めの音。それにのって、次々と現れるうさぎ達。
――幻想世界へようこそ
 まるでそう告げるように、くるくると輪を描き、テーブルへとついていく。
 そんな中、見知った顔を見つけ、一人の軍服姿が現れる。神森 静(ga5165)だった。おっとりした面持ちで、きりっとした男装の麗人は、颯爽と現れ、自らの位置を見つける。くるくる回る兔の中、彼女は一人ダンディに。

 真琴はその様子を見て半年ほど前のことを思い出していた。そう、それは彼女がここにいる友人たちと出会った頃のお話。その時もまた、このように思い思いの格好をしていた。
 自分はちょっと紳士な白猫さん。美人な黒猫はケイが。アンドレアスは紳士なウサギさんで、ハバキは兎の着ぐるみを‥‥かわいいウサ耳のソラにクラウディア。ソラは少し可愛らしい燕尾服に、クラウディアは愛らしい蒼いエプロンドレスでの登場だ。怪しい匂いがしそうな帽子屋の慈海に、魔女っ子姿のシエラ、何故か伯爵へと姿を扮した鐘依もいる。黒いカクテルドレスに身を包んだ白猫ラピスに、そっと介添る狼な草壁。何故か大きなロッタへと扮する東雲に不思議な雰囲気のままのハイン。
 半年前とは違う、だけど懐かしい。あの時出会った友人が、今も縁あることに感謝しつつ、少し落ち込んでることに心痛める。ただ、この夜が切っ掛けになることを、少しだけ祈っていた。


「――」
 透通る、ケイの声が響く中、宴が始まった。
 ケイの声にあわせてアンドレアスのギターとCerberusのハーモニカが奏でられる。いつもは無口なCerberusも、今日は髪の色さえ落とし地毛の銀へと戻している。そっと被った仮面が、頬に目掛けてついた傷を覆う。スーツに身を包んだ姿は、いつも以上に彼を引き立たせていた。時折カノンと目が合うと、静かに微笑み返す。普段とは違う顔、それは隠されていたCerberusの本来の顔なのかもしれない。

 最初はと、奏でられたのはアンドレアスとケイによるバンド[Titania]によるオリジナルナンバーだった。可愛らしい響が胸を弾ませる。


You may hear slight sounds and music
They’re the fairies’ feast


What a sweet night it is!


Hey little lady
Watch out watch out
or caught in the endless dreams


Hey lonely traveler
Take care take care
or allured by maidens of the night


 時には愛らしく、時には囁く様に、ケイの声が胸に響き渡る。
 その演奏に酔いしれるよう、慈海はワインを傾ける。ゆっくりと染み込む声を目を閉じ聞き入る。ハバキもまた、聞き入っていた。この音に隠される親友の心情を読み取りながら、じっくりと音を堪能する。
「‥‥あぁ、もう。かっこいいな」
 悩める音をそのまま乗せる親友に、悩む事を止めようとしない親友を誇りに思いながら‥‥

 音楽が止まると改めてとばかりにカノンがお辞儀をする。
「ようこそいらっしゃいました。今日は、楽しい時間を過ごしてくださいね」
 いつもとはちょっと違ってぴっしりと燕尾服に身を包み、トレードマークの半ズボンはお預け。髪が後ろへと流され、いつもより大人びた感じだった。

「ラウラって呼んでね」
 そういって片目を瞑ってきた友人に驚きつつ、カノンは笑顔で迎えいれる。手にはラウルが作ったカナッペたちを持っており、どうやらカノンへと食べさせるために来た様だ。
 銀色猫は今日はチャイナドレスに身を包み、しなやかに降り立った。薄く引いたルージュが余計艶やかに映り、カノンはそっと視線をそらしてしまう。そんな彼をくすくすと笑いながら、料理を勧め、獲得に参加したジョセフィーヌのことを語りだす。見えない壁を取り払うように、面白おかしく。その話を聞きながらカノンの笑顔も段々と明るさを見せてくる。そして、ちょっぴりだけ食べる姿をラウルは満足に見つめていた。

 真琴はケイと一緒にクラウディアとソラが作った料理に舌鼓を打っていた。可愛らしい二人の兎が作った料理は、暖かく、心に染み渡った。傍にいたハバキへとよそい取ってやると、明るい笑顔でお礼を言われる。ふと油断すると思いつめた顔を見せる彼を心配しながらも、自分では何も出来ないとわかっている。今はそっと、楽しい時間を一緒に過ごすだけなのだと。ケイもまた、隣でゆっくりと食事するロジーを見かねていた。笑うものの、少し力が無い笑顔にそっと囁く。
――いってらっしゃい
 その言葉に驚くものの、まだ動き出さない友人の背中を少し押す。椅子から落ちそうになると、わざと席をのっとり、後を見せなかった。そんな友人の行動に気まずい顔を浮かべつつ、思いを決め、しっかりとした足取りでロジーは歩き出した。彼女の心を惑わす存在の元へ‥‥


誰よりも
雄弁なもので
心で語るから
俺を受け止めて
差し出した手が
空を掴むなら
更に先へと伸ばし
俺は捕まえる
もう
この手から離したりなどはしない
頼むから
俺を避けないでくれ

 アンドレアスのギターが語る。それは、言葉ではなかった。だが、雄弁に物語っていた。彼にとってギターは口よりも語るのかもしれない。情熱的な音が、心へと打ち付けてくる。皆が食事へと移り行く中、アンドレアスはそっと視界の片隅にカノンをいれながら弾き続ける。

音楽は、鳴り止まない
銀の髪が吹く金色の音が
よりいっそう 心に響く

 Cerberusもまた、音楽にのせていた。初めて落とした髪の色もまた、彼の心情を語っているのかもしれない。カノンと会って変わったこと、そして集った仲間たちに及ぼした影響を。契約‥‥そんな言葉を持ち出して付いた関係が、何か変わりを見せようとしていた。それは‥‥成長をする者を見守る立場へと、なのかも知れなかったが。


何をもってして
何に変えて
何を念じて
それさえも 変えて

 決意をしたロジーがそっとカノンの横へとやってきた。
「カノン――」
 静かに微笑む彼女は、ちょっとばかし嘘をついている。それが自分のためなのを、彼もまた気付いていた。彼女にこんな顔をさせたくないのに、何故‥‥矛盾に苛まれるまま、そっと手を取られ、「かまわないかしら」と聞かれる。控えめな彼女の様子が、心を鈍くいためる。『特別』それが鍵なのはしっている。だが、その先に何があるのか、彼はまだ、知らない。
 ゆったりと話す二人を見つめ、ケイは、歌声を張り上げる。あの友人が、心悩ますなんて――繊細だけど、強い彼女。どうか、少しでも思いが遂げられますように――と。
 程よい雰囲気に酔いしれた頃、シエラが踊り始めた。可憐ではないが、可愛らしいステップで。そのリズムに合わせ、音楽が変わっていく。少し落とした、アップテンポのバラードへ。クラウディアが微笑み、ソラを添い出す。にっこり笑顔が広まり、それぞれの思いを流れる音楽が運んでいく。
「カノンちゃん」
 そう話し出したラピスに、何でしょうかと、カノンは微笑む。踊りませんでしょうか、告げる彼女にカノンは快く答えた。心配でたまらない、その気持ちを押し隠しながら、ラピスは踊る。心に占める割合が大きくなるにつれ、人はその相手への思いが強まるのかもしれない。弟のような、この青年への思いが。
 ラピスはそっと抱きしめると、笑顔で御礼を告げて離れた。
 そのラピスの帰りを待って草壁は紳士な態度で踊りへと誘った。いつもとは違う、特別な言葉で。
「お嬢さん、僕と踊ってはいただけませんか」
 普段の着物姿とは違い、少しセクシーになったドレス姿のラピスもその手に手を乗せた。執事な狼に、銀の白猫。どちらが誘惑したのやら、ちょっと危険な組み合わせ。
 そんな踊り始める様子に、ハバキは思いを馳せる。
――ここにつれてきたかったな、と。
 友人達の、影を隠した笑顔が、自らも浮かべているだろうと思うと、横から真琴が微笑を与える。彼女は語らない。だが、見守ってくれる。そんな友人がいることを、アンドレアスの音に乗せ、感謝する。
 そっとカノンがロジーの手を取り、踊りの輪へと添い出す。ふわり広がる民族衣装が、薔薇を舞台に可憐に舞う。そっと胸に指した薔薇を、彼女の髪へ挿し、手の甲へと口付けを落とす。
 何も語ることは、ない‥‥でも、緩やかに育つ『特別』。
 その様子を、Cerberusはそっとアンドレアスの視線から遠ざけた。
 宴は終わりを告げない。
 刻々と闇のカーテンが引かれる中も、終わりを告げない。
 踊り遊ぶうさぎ達を前にして、それは、終わりたくないと語っていたのだ。


「カノン――」
 悲痛が渦巻く中、アンドレアスは声を掛けた。ケイとCerberusが演奏を続けている。
 何故あの時――その思いだけが心に残っていた。
 じっと見上げてくる紅い瞳が、曇りないことだけが救いなのかも知れない。
 そっと、その頭に手を載せると僅かながら驚いたものの、すんなりと受け入れてくれた。そのことに思わず笑みが漏れる。
「‥‥ごめんな」
 その言葉に、小さく横に振る彼の肩を掴み、視線の丈を合わせた。
「俺が伝えたいのは――」
 そう言って続けた言葉に、驚きながらも、なぜか瞳を濡らす。
 告げることができて良かった――その思いとは別に、次第にもう一つの溢れる感情が生み出されていく。
「――今度こそ。この血に誓って」
「――アスさん」
 何か手段はあるはずだ、掴み損ねた手に、今度は届いた気がした。
 もう、離さないように。今度は、先を見つめながら、共にと――




<The curtain>

 酔いも回り、興奮も覚めやらぬ中、皆各自に与えられた場へと引き下がっていく。そう、こんな夜の終わりまでも遊んだのだ、変えれるはずは無いと用意された客室に案内される。
 柚井とクラウディアはすでに夢の中、2人をにこやかに見つめる慈海が優しく抱える。アンドレアスもクラウディアの保護者的立ち位置として運ぶのを手伝った。
 もう少しこのままで‥‥そう言ったロジーもケイに連れられ真琴と共に友情を語らう。突如として現れていた神森は、いつのまにか去っていた。あの麗人、まさに宴のために現れたとしかいいようが無いだろう。中々の者である。
 ワインに釣られてきた東雲は、そのままワインの蔵へと直行、なにやらまだ飲みつづけるつもりらしい。幾ばくかの料理をツマミにと、心弾ませ1人楽しむために。
 鐘依も少しだけ、夜風に当るよう、与えられた部屋の窓辺から、下に広がる薔薇の庭を眺めていた。宴の最中に口にした危険とまで言われたロジーが作ったケーキは、彼を一時の意識消失へと導いたものの、今ではすっかり回復している。
 客に片付けまではさせれませんといわれたものの、昔の血が騒ぐのだろうか、ハインは手伝いへと明け暮れる。それもまた、豪く優秀な動きを見せ、驚きを生み出していた。
 ラウルもまた、思いを馳せ揺れる蝋燭を眺めていた。今はまだ、そう思いつつも明日からはまた変わってくるのだからと。次第に小さくなるこの、蝋燭のように。
 囁き合うように去っていく草壁とラピスをそっと見守りながら、シエラは休息用のお茶を入れていた。皆が安らかに眠れるように、そっと心付けのハーブティーを。
 カノンが動きを止めるまでCerberusは見ていた。無理はしないように、そっと支えつづける。けっして手は出さない、それがCerberusが決めたカノンへの態度であった。
 ハバキはワインボトルを片手にアンドレアスの戻りを待っていた。一人では居たくない、それを如実に語っている。クラウディアを送り届けたアンドレアスは、その友人を見つけ‥‥、そっと肩を抱いて部屋へと連れて行く。きっと今晩は寝れないだろう。打ち明けたい思いが出るかはわからない、ただ、互いに互いのことをわかっている。それだけで、この男達には十分だった。

 皆が部屋に入る様子を眺めつつ、カノンは小さく溜め息を漏らす。見守るCerberusの視線を気にせず、ただただ思いを馳せて。

「カノン。自分を変えたいのなら、まずは今までの自分とは違うことをしてみろ。やれることでもできなかったことはあるはずだ」
 思いつめる様子を懸念し、Cerberusは諭すように言った。視線が合わさる。少し潤んだ瞳に、そっと指を這わせる。そして、励ますように、肩を叩いてやった。



<A midnight dream>

 一人、寝室の中へと帰ったカノンに不思議な訪問があった。
 UNKNOWN(ga4276)、闇に紛れた紳士。
「すこし‥‥話さないだろうか」
 突如の訪問も、あの幻想世界の後、どこか延長のようで嬉しかった。
「ええ、構いませんよ」
 柔和な笑みを浮かべる。
 そっと、カノンの手を取り、階下へと降りていく。目指すは、宴の跡の庭。
 まだ、その続きがあるのではないかという様子を、ゆっくりと二人は歩いた。

 彼は問い掛ける。
 何を感じたのかと。

 楽しかった余韻を心に刻み付けるように、ゆっくりと、巡る世界を作り出す。

――思い出は大事だ どんな時も どんな事でも

 まるで教えを説く友人のように、彼は囁く
 甘い重低音、耳に残る声で
 ゆっくりとした誘導は、いつしか白い一脚のベンチへと導く。
 まるで魔術師のように突如と取り出したグラスに、用意してあったのだろう、蜂蜜を垂らしたホットワインを注ぐ。

――ゆっくりお飲み

 囁くように、自らも横に腰をかけ、ゆったりとワインを口にした。
 夜風が頬撫でる中、ふと感じた肩の重みに、彼が寝付いたのを感じた。
 そっと、グラスを取り、テーブルへと置く。
 柔らかな黒髪を撫で、そっと労るように持ち上げると、先の寝室へと戻っていく。

 Trick or Trick

 全てを夢の世界へと変える様、僅かに施した、謎の罠を‥‥


<Later>

 一通の手紙が各手元に届いたのはそれから数日後だった。差出人はカノン・ダンピール。そこには訪れてくれたことの感謝と共に、一枚の写真が入っていた。

 一人隠れるように参加したUNKNOWNの姿も、そこにはきちんと納まっていた。

――Avec remerciements et prie´re

そんな言葉を添えて